ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 無効としない A23L |
---|---|
管理番号 | 1114430 |
審判番号 | 無効2003-35433 |
総通号数 | 65 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1989-07-19 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2003-10-17 |
確定日 | 2005-04-08 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2138015号発明「冷凍麺類の解凍・加熱処理方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許2138015号の請求項1に係る発明は、昭和63年1月14日に特願昭63-6281号として出願され、平成7年8月30日に特公平7-79645号として出願公告後、平成10年8月28日に設定の登録がなされたところ、これに対して、直本工業株式会社より平成15年10月17日に本件無効審判の請求がなされ、平成15年12月24日付で被請求人日清フーズ株式会社より答弁書が提出され、平成16年1月21日付で当審の職権審理による無効理由が通知された後、平成16年3月26日付で、被請求人より意見書が提出されると共に、請求人より回答書が提出され、更に、平成16年4月27日付で、請求人より意見書が提出され、平成16年4月30日付で、被請求人より意見書が提出され、平成16年5月7日付で、請求人より意見書が提出されたものである。 2.本件発明 本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)は、特許明細書の記載からみて、出願公告時の明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。 「【請求項1】冷凍麺類に温度101〜125℃の水蒸気を噴射接触せしめることを特徴とする冷凍麺類の解凍・加熱処理方法。」 3.当事者の主張及び当審による無効理由通知の概要 3.1 請求人の主張 請求人は、「第2138015号の請求項1に係る発明についての登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として以下の甲第1号証乃至甲第15号証を提出し、その理由として、1)本件発明1は、甲第1号証刊行物に記載された発明に、甲第2乃至4号証刊行物に記載された発明を組み合わせて、当業者が容易に発明できたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである、2)本件発明1は、参考資料に記載された発明の装置を冷凍麺の解凍に使用したものにすぎず、参考資料に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである、3)本件発明1は、甲第4号証刊行物に記載された発明に、甲第1乃至3号証刊行物に記載された発明を組み合わせて、当業者が容易に発明できたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである、旨主張している。 甲第1号証の1:米国特許4,617,908号明細書 甲第1号証の2:米国特許4,617,908号明細書の部分訳 甲第2号証の1:米国特許4,011,805号明細書 甲第2号証の2:米国特許4,011,805号明細書の部分訳 甲第3号証:「THE EFFECTS OF THAWING AND HEATING METHODS ON SELECTED PARAMETERS OF PALATABILITY, WHOLESOMENESS, AND NUTRITIVE VALUE OF FROZEN PREPARED FOODS」(1971年発行) 甲第4号証:特開昭60-94066号公報 甲第5号証:審判事件答弁書(無効2003-35197) 甲第6号証:特許異議の決定(写し)(特願昭63-6281号) 甲第7号証:特許異議の決定(写し)(特願昭63-6281号) 甲第8号証:特許異議の決定(写し)(特願昭63-6281号) 甲第9号証:平成16年4月14日付け直本工業株式会社設計部部長大山敏弘の陳述書 甲第10号証:特公平4-59861号公報 甲第11号証:飽和蒸気の流量を、「容積」と「重量」で示した換算表 甲第12号証:「でん粉食品の冷凍・加工技術」(社)日本冷凍空調学会(平成15年6月10日発行)63〜70頁 甲第13号証:日本冷凍麺協会のホームページ(2004年4月27日出力) 甲第14号証:株式会社菊水からのメール文 甲第15号証:平成16年4月30日付け 中垣 眞一作成試験報告書 参考資料:特公昭58-50727号公報 3.2 被請求人の主張 一方、被請求人は、請求人の提出した証拠方法によっては、本件特許を無効にすることができないと主張し、証拠方法として、以下の乙第1号証乃至乙第8号証を提出している。 乙第1号証:甲1号証の全文訳 乙第2号証:甲2号証の全文訳 乙第3号証:甲3号証の全文訳 乙第4号証:平成8年7月15日付け 平澤 太作成実験成績証明書写し 乙第5号証:平成15年12月5日付け 宗利 浩文作成実験成績証明書写し 乙第6号証:「食品工業のスチーム・システム」株式会社光琳 昭和59年8月発行、第37頁 乙第7号証:「食品工業」株式会社光琳 1993年3月30日発行、第74頁 乙第8号証:特開平4-79918号公報 乙第9号証:平成16年3月12日付 宗利浩文作成実験報告書 乙第10号証:「食品とガラス化・結晶技術」株式会社サイエンスフォーラム 2000年7月2日発行、第253〜258頁 乙第11号証:平成16年3月12日付 入江謙太郎作成実験報告書 3.3 当審による無効理由通知の概要 平成16年1月21日付けの当審の職権審理による無効理由通知の概要は、請求人の3)の理由と同趣旨であり、本件発明1は、甲第4号証刊行物に記載された発明に、甲第1乃至3号証刊行物に記載された発明を組み合わせて、当業者が容易に発明できたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきであるとするものである。 4.当審の判断 4.1 甲各号証の記載事項 請求人が提出した甲第1乃至4号証及び参考資料を検討すると、甲第1乃至4号証及び参考資料には、以下の事項が記載されている。 甲第1号証刊行物 (1-1)本発明は、食品などで、たとえば、あらかじめ調理したものまたはやや賞味期限を過ぎたものを蒸気加熱する装置に関する。詳細には、本発明は、給仕前に溶かすか、あるいは柔らかくすることが望ましいトッピングや飾り付け、たとえばナチョのチーズトッピングなどを含む食品に関連して使用する上部放出型スチーマーである。(特許明細書第1欄第6〜13行)(1-2)本発明の目的は、上方の蒸気発生チャンバから下方の蒸気加熱チャンバ内に乾燥蒸気を入れることによって、蒸気加熱チャンバ内にある食品を上方から加熱し、それによって、食品の主要部分を過熱せずに、食品の飾り付け部分に上から蒸気を当てることができる、上部放出型蒸気加熱機器を提供することである。(特許明細書第1欄第51〜57行) (1-3)本発明は、ナチョにかかったチーズを溶かすなど、特定の食品に対して個々のパターンを設けることが好ましい場合には、周囲が高くなった開口の位置を板内の任意の位置に配置することができる。加熱板19まで完全に延長される閉口27を通過した蒸気は、直下の食品に当たる前に、さらに加熱され、すなわち過熱された状態になる。本発明の上部放出型スチーマーは、飾り付けが上にかかった食品を、過熱または「焦す」ことなく、チーズなどのトッピングや飾り付けを有する食品を溶かす、または加熱するのに特に効果的であることが見出されている。(特許明細書第4欄第21〜30行) 甲第2号証刊行物 (2-1)本発明は、蒸気生成器および実質的なドライスチームを処理する食品の周りを回る制御された乱流経路でチャンバ内に放出する散布器装置とともに動作する分配系を備える対流式スチーマー、および実質的に大気圧で比較的低い有効蒸気調理温度での調理、加熱、解凍または復元により食品を処理する方法を提供することを目的とするものである。吸水管装置の形態の差圧生成器手段は、前記チャンバと連通し、負圧によってチャンバから空気および/または未使用の蒸気を連続的に放出して、前記食品の周りで対流・熱伝達が行われるように実質的なドライスチームの制御された乱流を維持し、調理中の食品の周りの領域において約212°という比較的低い有効温度で食品を調理する。(特許明細書第1欄第53行〜第2欄第3行) (2-2)さらに、本発明によれば、従来の方法に比べて、より効果的に、エネルギーをかなり節約して調理を行うことができ、それによって、事実上あらゆる食品、たとえば、野菜、家禽類、魚介類、肉類、シチュー、カレーなどを、経済的なやり方で調理、解凍、再加熱することができる。(特許明細書第3欄第12〜20行) (2-3)本発明では、それぞれの対の管を180°反対方向に傾けて、時計回りの方向に蒸気の乱流を生成し、それによって、類似の結果を得ることができる。たとえば、反時計回りの蒸気流では、注入した蒸気の主成分は、下向きかつ内向きに送られ、反対側の側壁に沿い、上部壁で偏向されてほぼ楕円の乱流経路で流れ、加熱または調理する食品に直接当たることはない。 本発明において、開口42から注入される飽和蒸気は、圧力が10(psig)〜15(psig)の範囲の値をとり、温度が約240°Fから250°Fの範囲の値をとるが、圧力は12(psig)で、温度は約244°Fであることが好ましい。注入において、蒸気は開口全体にわたって膨張して、チャンバ圧であるほぼゼロ(たとえば、14.7p.s.i.a.)に下がり、それによって、232°〜240°Fの範囲の値をとる温度の極度に加熱された蒸気が得られるが、好ましい、圧力である12(p.s.i.a.)に対しては、温度は約236°Fである。(特許明細書第5欄第32〜52行) (2-4)好ましくは、本発明では、キャビティ94内の圧力を、大気圧よりも約0.05p.s.i.〜0.20p.s.i.低くすることによって、チャンバ内の圧力をほぼ大気圧(たとえば、14.7p.s.i.a.)に維持することができることがわかっている。この陰圧差により、チャンバ圧力が所定の低い一定値(たとえば、大気圧)で維持され、飽和蒸気がチャンバ内に入って膨張した後、チャンバ内で極度に加熱された蒸気が連続的に生成され、それとともに極度に加熱された蒸気の乱流が維持されて、調理する食品の周りで対流による熱伝達が最大になる。好ましい圧力である12(p.s.i.g.)および極度に加熱された蒸気温度である236°Fでは、調理する食品の周りのごく近傍における実効調理温度は、約212°Fである。この最適な調理温度が生じるのは、一つには、蒸気と食品上の液体被膜表面の間の乱流対流による熱伝達によって蒸気の過熱量が取り去られるからであると考えられ、それによって、食品が,大気圧すなわち圧力ゼロかつ実質上の最低温度(たとえば、212°F)で効果的に調理される。(特許明細書第6欄第61〜第7欄第16行) 甲第3号証刊行物 (3-1)本研究に用いる食品として、ビーフシチュー、チキンヌードルキャセロールおよびホウレンソウのクリーム煮を選択した。これらにより、2つの一般的なメインとなる料理(赤身の肉および鶏肉料理)および1つの野菜料理を代表させた。これらを、市販の処理装置で、標準規格の12インチ×20インチのアルミニウムカバー付きアルミニウムトレイに4種類の深さ(約1、2、3および4インチ)で詰めた。 これらの実験材料は、ビーフシチューを除き、通常の小売用生産ロットから抜き出した。ビーフシチューは、肉を35%含む特別な開発研究用の食品配合物で調理した。容器を、各指定深さに対応する均一の重量になるように充填した。ホウレンソウのクリーム煮は、Murphy社製(エアブラスト式)フリーザ内で、初期温度27℃から-18℃まで、深さに応じて35分〜1時間50分間冷凍した。チキンヌードルキャセロールは、Amerio社製プレートフリーザで冷凍した。初期温度は27℃〜32℃、フリーザ内で冷凍した時間は、4種類の深さに対してそれぞれ3、4、8および9時間であった。ビーフシチューに関しては、フリーザの情報が得られなかった。各食品をそれぞれの深さで15個のトレイに詰め、5月に出荷した。それらを、5月下旬ないし6月上旬に良好な状態で受け取り、解凍・加熱実験を開始するまで、-29℃で約1カ月間保存した。(第22頁最終行〜下から18行) (3-2)スチーマー内の温度は約110℃、電子レンジ内では約35℃であった。(第23頁第6〜7行) 甲第4号証刊行物 (4-1)食品を収納した容器内を吸引装置で吸引し、該吸引による負圧に伴って蒸気・空気等の加熱媒体を導入せしめ、食品同士の空隙内を強制貫流せしめたことを特徴とする容器入り食品の調理方法。(特許請求の範囲第1項) (4-2)本発明は、バラ状冷凍調理済ピラフ、おこわ、冷凍調理済焼きそば、スパゲティ等比較的空隙の多い容器入り食品の調理方法及びその装置に関するものである(公報1頁右欄2〜5行)。 (4-3)いずれの場合も容器の中央部の加熱は、上記の自然対流又は食品の熱伝導によるもので、昇温時間が長く、調理に長時間を要することとなった。(公報2頁左上欄7〜10行) (4-4)以上のように、熱気、空気等の加熱媒体を吸引により被加熱物の空隙内に強制的に貫流せしめて、熱伝達率をあげることにより、被加熱物の全体を迅速かつ均一に昇温せしめることができる。(公報3頁右上欄1〜4行) (4-5)実験例1 容器600mlのコップ型発泡スチロール容器の底部に直径2mmの小孔を多数嵌設したものに、バラ状に冷凍した調理済みピラフ270gを入れ、2kg/hrの蒸気を発生する蒸気発生装置により、0.45m3/minの流量の蒸気を15〜20秒間ピラフの空隙を貫流させたところ、-20℃のピラフが70〜80℃まで昇温し、そのまま喫食できた。(公報4頁左下欄7〜15行) (4-6)実験例2 実験例1と同様の容器内に、調理済の焼きそば(肉、野菜共)を入れて-20℃まで冷凍した。そして実験例1と同様の蒸気発生装置にて0.45m3/minの流量の蒸気を20〜30秒間焼きそばの空隙を貫流させたところ70〜80℃まで昇温でき、そのまま喫食できた。(公報4頁右下欄1〜7行) (4-7)本発明は、以上のように蒸気発生装置にて発生した蒸気を吸引装置にて吸引して容器内の調理済み食品の空隙内を強制的に貫流させるようにして、食品を加熱、解凍処理したので、冷凍食品が極めて短時間で解凍調理できるようになり、クイックサービスが可能になる。(公報5頁左欄2〜7行) 参考資料 (5-1)水蒸気室を構成する外箱;該水蒸気室底部に設けられた加熱される水蒸気発生板、水を水源から水蒸気室内に導入するために該水蒸気発生板上方の外箱内にほぼ水平にさし込まれておりかつ外箱と熱的に絶縁されている水導入管;該管内において注入された水を一定の水準で残存させるために管の最上部と最下部との間に沿って管壁に配置されている、水を水蒸気発生板上に供給するための複数の孔;および該水蒸気発生板および水導入管上方に取り付けられ、その上に食品を保持しかつ水蒸気室の頂部を構成し、それによって発生した水蒸気が食品支持板を通過し食品を水蒸気加熱する、穴のあいた食品支持板;から成る、食品またはその類似品を加熱するための水蒸気加熱装置。(特許請求の範囲第1項) (5-2)本発明は一度調理したものまたは若干古くなったような食品を水蒸気加熱するための装置に関する。・・・一度調理した食品はその天然の汁気及び水分の多くを失いがちだから、水蒸気加熱では食品の再加熱時に食品に水分を戻すという必然的な利点がある。(公報第1頁第2欄第20〜31行) 4.2 対比判断 本件発明1は、「冷凍麺類に温度101〜125℃の水蒸気を噴射接触せしめること」により、即ち、セイロや対流等による単なる水蒸気接触ではなく、冷凍麺類に温度101〜125℃の水蒸気を噴射接触させることにより、麺の外側の水分が高く、麺の中心部の水分が低い状態の冷凍麺類を当該水分勾配を維持した状態で解凍することができ、冷凍前のα化された弾力性のある食感を有する茹麺を再現することができるものである。 これに対して、甲第1号証刊行物に記載された発明は、食品の主要部分を過熱せずに、食品の飾り付け部分に上から蒸気を当てることにより食品の上のチーズやトッピングを溶解するものである。 そこで、本件発明1と、甲第1号証刊行物に記載された発明とを比較すると、両者は、食品に水蒸気を噴射接触する点で一致するが、前者が冷凍麺類を解凍・加熱処理するもので、水蒸気温度を101〜125℃と特定しているのに対して、後者が、食品の上のチーズやトッピングを溶解するものであり、水蒸気温度が特定されていない点で、両者は明らかに相違する。 甲第1号証刊行物に記載された発明は、冷凍麺はもとより冷凍食品の解凍技術に関するものではなく、冷凍麺に適用して、冷凍前のα化された弾力性のある食感を有する茹麺を再現することを示唆する記載はない。 そして、本件発明1は、冷凍麺類に温度101〜125℃の水蒸気を噴射接触せしめることにより、短時間で解凍・加熱が可能であるだけでなく、冷凍前のα化された弾力性のある食感を有する茹麺を再現できるという格別の効果を奏するものである。 甲第2号証に記載された発明は、240°〜250°Fすなわち、116°〜121°Cの水蒸気を利用して冷凍食品を解凍・加熱処理するものではあるが、「食品の周りで対流・熱伝達が行われるように実質的なドライスチームの制御された乱流を維持し、調理中の食品の周りの領域において約212°Fという比較的低い有効温度で食品を調理する。」と記載されているように、調理温度は100°C(約212°F)であり、水蒸気の対流接触法に基づくものである。 そこで、本件発明1と、甲第2号証刊行物に記載された発明とを比較すると、両者は、食品に116°〜121°Cの水蒸気を利用して冷凍食品を解凍・加熱する点で一致するが、前者が冷凍麺類を対象として水蒸気を噴射接触せしめているのに対して、後者が、食品に水蒸気を対流接触せしめる点で、両者は明らかに相違する。 そして、甲第2号証刊行物には、冷凍麺類を対象として水蒸気を噴射接触して、冷凍前のα化された弾力性のある食感を有する茹麺を再現することを示唆する記載はない。 甲第3号証刊行物に記載された発明は、約110℃の水蒸気で食品を解凍・加熱処理するものであるが、食品をアルミニウム容器に収納し、かつアルミニウムの蓋でパックした状態で加熱処理するものであり、また、甲第3号証刊行物に記載されたチキンヌードルキャセロールは、乙第5号証記載のとおり麺そのものではなく、鶏肉、タマネギ、セロリ、小麦粉、牛乳、スープ、バター、チーズ、調理済みマカロニ、パン粉等を原材料とする焼き鍋料理である。 そこで、本件発明1と、甲第3号証刊行物に記載された発明とを比較すると、両者は、食品に110°Cの水蒸気を利用して冷凍食品を解凍・加熱する点で一致するが、前者が冷凍麺類を対象として水蒸気を噴射接触せしめているのに対して、後者が、食品に水蒸気を直接接触していない点で、両者は明らかに相違する。 そして、甲第3号証刊行物には、冷凍麺類を対象として水蒸気を噴射接触して、冷凍前のα化された弾力性のある食感を有する茹麺を再現することを示唆する記載はない。 甲第4号証刊行物に記載された発明は、水蒸気により、麺類等の冷凍食品を短時間で解凍調理するものであるが、「蒸気発生装置にて発生した蒸気を吸引装置にて吸引して容器内の調理済み食品の空隙内を強制的に貫流させるようにして、食品を加熱、解凍処理したので」との記載から明らかなように、蒸気を一旦発生せしめた後、当該発生した蒸気を吸引することにより、冷凍食品に接触せしめるものである。 ここで、「噴射」とは、「勢いよく吹き出させること」(三省堂「大辞林第二版」)「ふきでること、ふきだすこと」(岩波書店「広辞苑第五版」)であるから、蒸気を「空隙内を強制的に貫流させる」ことが、水蒸気を冷凍食品に噴射接触せしめることとはいえない。 しかも、甲第4号証刊行物には使用する蒸気の温度については何ら触れられるところがないが、第1図に示されるタンク21の構造からみると、蒸気は温度が100℃程度の所謂セイロによる蒸気と同様なものと解される。(これらのことは、乙第9号証によっても、見て取れる。) そこで、本件発明1と、甲第4号証刊行物に記載された発明とを比較すると、両者は、冷凍麺類に水蒸気を接触する点で一致するが、前者が、温度101〜125℃の水蒸気を冷凍麺に噴射接触せしめているのに対して、後者が、吸引による負圧により100℃程度の水蒸気を接触させている点で、両者は明らかに相違する。 甲第4号証刊行物に記載された発明は、吸引による負圧により100℃程度の水蒸気を冷凍麺に接触させて、短時間で解凍・加熱するものであり、温度101〜125℃の水蒸気を噴射接触せしめて、冷凍前のα化された弾力性のある食感を有する茹麺を再現することを示唆する記載はない。 そして、本件発明1は、冷凍麺類に温度101〜125℃の水蒸気を噴射接触せしめることにより、短時間で解凍・加熱が可能であるだけでなく、冷凍前のα化された弾力性のある食感を有する茹麺を再現できるという格別の効果を奏するものである。 参考資料に記載された発明は、甲第1号証刊行物に記載された発明と同様に、食品に水蒸気を噴射接触させるものではあるが、一度調理したものまたは若干古くなったような食品を水蒸気加熱するものである。 そこで、本件発明1と、参考資料に記載された発明とを比較すると、両者は、食品に水蒸気を噴射接触する点で一致するが、前者が冷凍麺類を対象として水蒸気温度を101〜125℃と特定しているのに対して、後者が、一度調理したものまたは若干古くなったような食品を水蒸気加熱するものであり、水蒸気温度が特定されていない点で、両者は明らかに相違する。 参考資料に記載された発明は、食品の再加熱時に食品に水分を戻すものであり、冷凍麺はもとより冷凍食品の解凍技術に関するものではなく、冷凍麺に適用して、冷凍前のα化された弾力性のある食感を有する茹麺を再現することを示唆する記載もない。 そして、本件発明1は、冷凍麺類に温度101〜125℃の水蒸気を噴射接触せしめることにより、短時間で解凍・加熱が可能であるだけでなく、冷凍前のα化された弾力性のある食感を有する茹麺を再現できるという格別の効果を奏するものである。 請求人は、審判請求書において、「甲第1号証には、「食品に水蒸気を噴射接触する」ことが記載され、甲第2乃至3号証に、「水蒸気温度を101〜125℃とする」ことが記載され、甲第3乃至4号証には、「冷凍麺を水蒸気により解凍・加熱処理」することが記載されているから、本件発明は甲第1乃至4号証に記載された発明を寄せ集めることにより、当業者が容易になし得る」旨主張している。 しかしながら、上記したとおり、甲第1号証刊行物に記載された発明は、食品に水蒸気を噴射接触するものではあるが、食品の主要部分を過熱せずに、食品の飾り付け部分に上から蒸気を当てることにより食品の上のチーズやトッピングを溶解するものであり、冷凍麺はもとより冷凍食品の解凍技術に関するものではなく、冷凍麺に適用することを示唆する記載もないから、冷凍麺解凍技術に、甲第1号証刊行物記載の水蒸気噴射接触技術を適用する動機付けがなく、そして、冷凍麺類に温度101〜125℃の水蒸気を噴射接触せしめることにより、短時間で解凍・加熱が可能であるだけでなく、冷凍前のα化された弾力性のある食感を有する茹麺を再現できるという効果は、当業者の予測できないものであるから、請求人の主張は採用できない。 次に、請求人は、「参考資料に記載された装置へ冷凍麺を投入することは当業者が容易に想到し得ることであり、水蒸気温度を101〜125℃と特定することは、単なる温度の最適化にすぎないから、本件発明1は、参考資料に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものである」旨主張している。 しかしながら、上記したとおり、参考資料には、一度調理したものまたは若干古くなったような食品を再加熱して食品に水分を戻す水蒸気加熱するための装置が記載されているだけであり、冷凍麺はもとより冷凍食品の解凍技術に関するものではなく、冷凍麺に適用して、冷凍前のα化された弾力性のある食感を有する茹麺を再現することを示唆する記載もない。 そして、本件発明1は、水蒸気温度を101〜125℃とすることにより、短時間で解凍・加熱が可能であるだけでなく、冷凍前のα化された弾力性のある食感を有する茹麺を再現できるという格別の効果を奏するものであるから、数値範囲の単なる最適化ということはできず、請求人のこの主張も採用できない 最後に、請求人は、平成16年4月27日付意見書及び、平成16年5月7日付意見書において、甲第9乃至15号証を提出し、被請求人の提出した乙第9号証の実験報告書は実験条件が妥当ではなく、本件発明1と甲第4号証刊行物に記載された発明との効果上の差異はないから、甲第9乃至14号証を斟酌すれば、本件発明1は、甲第4号証刊行物に記載された発明に、甲第1乃至3号証刊行物に記載された発明を組み合わせて、当業者が容易に発明できたものである旨主張しているので検討する。 甲第4号証刊行物には使用する蒸気の温度については何ら触れられるところがないが、第1図に示されるタンク21の構造からみると、蒸気は温度が100℃程度の所謂セイロによる蒸気と同様なものと解され、乙第9号証によれば、甲第4号証刊行物に記載された発明は、「発生水蒸気量」を「2kg/hr」とすると、水蒸気温度は95.7℃〜98.5℃であり、360秒間の解凍時間で冷凍うどんを解凍しても一部未解凍になることが見て取れる。 一方、請求人の提出した甲第15号証試験報告書によれば、甲第4号証刊行物に記載された発明は、「水蒸気流量」を「0.45m3/min」とすると、水蒸気温度は97.6℃〜99.4℃となり、20秒間の解凍時間で、冷凍うどんを解凍して喫食に問題がなかったことが見て取れる。 また、請求人は、平成16年5月7日付意見書において、甲第15号証試験報告書によれば、冷凍麺に対して相当強い蒸気流が発生している旨、主張しているが、この蒸気流が直ちに本件発明の「噴射接触」に相当するものと認めることもできない。 すると、本件発明1と、甲第4号証刊行物に記載された発明は、冷凍麺類に水蒸気を接触する点で一致するが、前者が、温度101〜125℃の水蒸気を冷凍麺に噴射接触せしめているのに対して、後者が、吸引による負圧により100℃程度の水蒸気を接触させている点で、両者が相違するという認定に誤りはない。 そして、甲第15号証試験報告書を斟酌したとしても、上記したとおり甲第4号証刊行物に記載された発明は、水蒸気温度は97.6℃〜99.4℃であり、冷凍うどんを解凍して喫食に問題がないことを示すだけであり、冷凍前のα化された弾力性のある食感を有する茹麺を再現できることを示唆するものではないから、甲第4号証刊行物及び甲第1乃至3号証刊行物から、冷凍麺類に温度101〜125℃の水蒸気を噴射接触させることにより、冷凍前のα化された弾力性のある食感を有する茹麺を再現できることは導き出せるとはいえない。 なお、甲第4号証刊行物に記載された発明における、「発生水蒸気量」と「水蒸気流量」について、当事者間で争いがあり、請求人は、甲第4号証刊行物の第4頁左下欄下から5行目の「2kg/hr」との記載と、同頁同欄下から4行目の「0.45m3/min」との記載について、「0.45m3/min」なる記載が正しく、「2kg/hr」なる記載が誤りであると主張しているが、「0.45m3/min」なる記載が正しく、「2kg/hr」なる記載が誤りであることが明白であるとする合理的根拠はないから、請求人の主張は採用できない。 結局、甲第1乃至4号証刊行物及び参考資料には、解凍ムラがなく冷凍前のα化された麺の弾力性を有する食感の再現という技術的課題も、そのために、凍麺類に温度101〜125℃の水蒸気を噴射接触させることは記載されていないし、またそれを示唆する記載もない。 そして、本件発明は、冷凍麺類に温度101〜125℃の水蒸気を噴射接触させることにより、短時間で解凍・加熱が可能であるだけでなく、解凍ムラがなく冷凍前のα化された麺の弾力性を有する食感がそのままに近い状態で再現することができるという、明細書記載の格別の効果を奏するものである。 したがって、本件発明1が、甲第1乃至4号証刊行物及び参考資料に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとすることはできない。 5.むすび 以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件請求項1に係る発明の特許を無効とすることができない。審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2004-05-21 |
結審通知日 | 2004-05-25 |
審決日 | 2004-06-07 |
出願番号 | 特願昭63-6281 |
審決分類 |
P
1
112・
121-
Y
(A23L)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 田中 倫子、鈴木 恵理子 |
特許庁審判長 |
河野 直樹 |
特許庁審判官 |
柿沢 恵子 鵜飼 健 |
登録日 | 1998-08-28 |
登録番号 | 特許第2138015号(P2138015) |
発明の名称 | 冷凍麺類の解凍・加熱処理方法 |
代理人 | 高野 登志雄 |
代理人 | 山本 博人 |
代理人 | 浅野 康隆 |
代理人 | 的場 ひろみ |
代理人 | 特許業務法人アルガ特許事務所 |
代理人 | 中嶋 俊夫 |
代理人 | 村田 正樹 |
代理人 | 有賀 三幸 |
代理人 | 中谷 武嗣 |