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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01B
管理番号 1114462
審判番号 不服2002-25227  
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-12-02 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-12-27 
確定日 2005-04-01 
事件の表示 平成 5年特許願第142694号「高周波用誘電体磁器組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成 6年12月 2日出願公開、特開平 6-333426〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 [1]本願発明
本願は、平成5年5月21日の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成16年10月7日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「一般式:BaO-x{(1-y)TiO2・yZrO2}で表され、かつ、x及びyが
4.330≦x≦4.450
0.015≦y≦0.055
の範囲にある組成物に対して、MnO2及びTa2O5を
0.10≦MnO2 ≦0.50重量%
0.67≦Ta2O5≦1.20重量%
の割合で添加したことを特徴とする高周波用誘電体磁器組成物。」
(以下、上記請求項1に係る発明を、「本願発明」という。)

[2]拒絶理由の概要
当審が平成16年7月20日付け拒絶理由通知で示した理由1は、本願発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1,2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
刊行物1:特公昭56-38007号公報
刊行物2:特開昭63-117957号公報

[3]引用刊行物の記載事項
(1)刊行物1
1-ア.「0.007〜0.7重量%のマンガンおよび0.037〜3.7重量%のジリコニウムを同時に含むことを特徴とする(1-x)BaO・xTiO2[0.7≦x<1.0]を主成分とした酸化物誘電材料。」(特許請求の範囲第1項)

1-イ.「従来の一般的な誘電材料としてはBaO-TiO2系のものが知られているが、誘電率温度係数は負の大きい値を示し、零または正の値は得られない。BaO,Ti02の組成比を適当に選ぶことで零付近の値を得ることは可能であるが、焼結体は還元されやすく、このためtanδが大きくなる欠点がある。」(第2欄第1〜7行)

1-ウ.「本発明はこれらの欠点を除いたものであり、BaO-TiO2系の酸化物誘電材料に微量のマンガンと微量のジルコニウムとを同時に添加することにより、焼結体が還元され易いという前記欠点を除去し、同時にtanδの増大をも阻止することができ、また誘電率の温度係数を零から負に亘る広い範囲で任意にコントロールが可能な、マイクロ波用、コンデンサ用、温度補償用、等々に優れた特性を発揮する高誘電率、低損失の優れた誘電体を提供することができる。」(第2欄第17〜26行)

1-エ.「以下、本発明を、実施の一例に基づき実測データを示しながら詳細に説明する。個々の実施例についてのデータは、「各実施例の組成式でX=0.8148,X=0.792,X=0.875のそれぞれの主成分100重量部に対しMn203,ZrO2各々の添加物を重量%で添加量を変えた各組成になるように」BaCO3,TiO2,Mn203,ZrO2の原料を各組成に応じて秤量し、・・・混合し、・・・仮焼し、・・・圧縮成形後・・・大気中もしくは酸化雰囲気中で焼成を行なって得た試料で測定したものである。誘電率、誘電損失(Q値で示す)および誘電率の温度係数として共振周波数の温度係数(fT.Kと記す)を6GHzで測定した値を例として示す。」(第3欄第1〜17行)

1-オ.「実施例1
(1-x)BaO・xTiO2の組成式でx=0.8148の主成分に、Mn203,ZrO2各々の添加量を変え、・・・Mn203,ZrO2を同時に添加した場合、焼結体は還元されず高いQを保持しながらfT.Kは小さくなる。Mn203の添加量が0.05〜0.1重量%(・・・)、ZrO2の添加量が1.0〜2.0重量%(・・・)の範囲ではfT・Kは特に小さく、+6ppm/℃から±0ppm/℃という値を示す。」(第3欄第21〜35行)

1-カ.「実施例2
(1-x)BaO・TiO2(注:「(1-x)BaO・xTiO2」の誤記と認める)と表記したとき、x=0.792および0.875の組成のものを主成分として、Mn203,ZrO2各々の添加量を変え、・・・特にMn2030.05〜0.2重量%(・・・)、ZrO21.0〜4.0重量%(・・・)を同時に添加した場合はその効果が特に顕著であり、fT・Kは無添加に比し大幅に小くなっている。」(第4欄第7〜22行)

1-キ.第3〜4頁第1,2表には、それぞれ実施例1、実施例2の各試料の誘電率(ε)、誘電損失(Q0)、共振周波数の温度係数(fT.K)が示されている。

(2)刊行物2
2-ア.「1)BaOが15〜25モル%、TiO2が75〜85モル%の配分で構成される基本組成物に、0.3重量%以下のBa(Zn1/3Ta2/3)O3を含有させてなることを特徴とする高周波用誘電体磁器組成物。
2)上記特許請求の範囲第1)項記載のものにおいて、更に1.2重量%以下のTa2O5を添加含有せしめたことを特徴とする高周波用誘電体磁器組成物。」(特許請求の範囲第1,2項)

2-イ.「この磁器組成物に1.2重量%以下のTa2O5を添加含有したもの・・・が優れた高周波用誘電体磁器組成物になることを見出した。」(第2頁左上欄第16〜20行)

2-ウ.第3頁の表には、Ta2O5の含有量以外は同条件である試料3〜6,試料7,8,11,12、試料15〜18の各グループ内で、Ta2O5が0.5重量%や1.0重量%の含有量で、Q値の増加に効果のあることが記載されている。

[4]当審の判断
(1)刊行物1発明
刊行物1には、0.007〜0.7重量%のマンガン及び0.037〜3.7重量%のジルコニウムを同時に含む(1-x)BaO・xTiO2[0.7≦x<1.0]を主成分とする酸化物誘電材料に関し(1-ア)、従来の一般的な誘電材料であるBaO-TiO2系材料では、誘電率温度係数の零又は正値が得られず、また、tanδが大きくなるという欠点があったが(1-イ)、これに微量のマンガンと微量のジルコニウムとを同時に添加することにより、誘電率温度係数を制御可能とし、tanδ増大を阻止することができるマイクロ波用誘電体を得ることができるという知見に基づき(1-ウ)、上記一般式のxがそれぞれ0.8148,0.792,0.875の主成分に対し、Mn203,ZrO2各々を添加量を変えて添加し、酸化雰囲気中で焼成を行なって得た試料について、誘電率、誘電損失(Q値で示す)および誘電率の温度係数として共振周波数の温度係数(fT.Kと記す)を測定し(1-エ)、x=0.8148の組成物を主成分とする場合は、特にMn2030.05〜0.1重量%、ZrO21.0〜2.0重量%の同時添加でfT.K値の制御、Q値の増大(tanδの減少に相当)に効果があり(1-オ、1-キ)、X=0.792の組成物を主成分とする場合は、特にMn2030.05〜0.2重量%、ZrO21.0〜4.0重量%の同時添加で、fT・K値の制御、Q値の増大に効果があった(1-カ、1-キ)ことが記載されている。
上記記載によると、上記一般式のxが0.8148,0.792,0.875である主成分に、ZrO2を1.0〜2.0重量%、Mn2O3を0.05〜0.1重量同時添加し、酸化雰囲気中で焼成して得た酸化物誘電材料は、共通して特にfT.K値の制御、Q値の増大に効果があるといえ、主成分のxが0.792〜0.875の間の任意の値であっても、上記添加量範囲のZrO2とMn2O3との同時添加が同様の効果をもたらすといえることは明らかであるから、刊行物1には、「(1-x)BaO・xTiO2[0.792≦x≦0.875]を主成分とし、ZrO2を1.0〜2.0重量%、Mn2O3を0.05〜0.1重量添加し、酸化雰囲気中で焼成して得たマイクロ波用の誘電材料」であって、fT.K値の制御性やQ値が優れたものが記載されているといえる。
そして、「マイクロ波用」とは、「高周波用」であることに外ならず、上記「酸化雰囲気中で焼成して得た誘電材料」は「磁器組成物」となることが明らかであるとともに、上記誘電材料の実施例1のNo.19(表1),実施例2のNo.2(表2)の試料において、そのBaO,TiO2,ZrO2の組成比を本願請求項1に記載の一般式:BaO-x{(1-y)TiO2・yZrO2}を用いて表記すると、それぞれ「x=4.496、y=0.021」、「x=3.851,y=0.011」となるから、刊行物1には、
「一般式:BaO-x{(1-y)TiO2・yZrO2}で表され、かつ、
3.851≦x≦4.496
0.011≦y≦0.021
である組成物に対して、Mn2O3を0.05〜0.1重量%
添加した高周波用誘電体磁器組成物。」の発明が記載されているといえる(以下、これを「刊行物1発明」という。)。

(2)対比
そこで、本願発明(前者)と、刊行物1発明(後者)とを対比すると、後者の「Mn2O3」と前者の「MnO2」とは、ともにマンガン酸化物であるから、両者は、
「一般式:BaO-x{(1-y)TiO2・yZrO2}で表され、かつ、
4.330≦x≦4.450
0.015≦y≦0.021
である組成物に対して、マンガン酸化物を添加した高周波用誘電体磁器組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:前者は、マンガン酸化物をMnO2の形で0.10 ≦MnO2 ≦0.50重量%添加しているのに対して、後者は、Mn2O3の形で0.05〜0.1重量%添加している点。
相違点2:前者はTa2O5を0.67≦Ta2O5≦1.20重量%の割合で添加しているのに対して、後者はTa2O5を添加していない点。

(3)判断
(i)相違点1について
本願発明のマンガン酸化物については、本願明細書【0011】の記載によると、「MnO2は、必ずしもMnO2の形(化学形態)で添加配合しなければならないものではなく、例えば、MnCO3などのように、焼結することによりMnO2となる物質を、MnO2に換算して上記の割合になるように添加することも可能」なものである。
これに対して、刊行物1発明においては、マンガン酸化物をMn2O3の形で0.05〜0.1重量%添加しているが、Mn2O3は酸化雰囲気中での焼成工程によりさらに酸化されてMnO2となることが周知であるから、本願発明におけるMnO2と同効物であるといえ、しかも刊行物1発明におけるMn2O3の添加量は、MnO2に換算すると0.055〜0.11重量%であるから、換算添加量も本願発明と重複する範囲であるといえる。
したがって、上記相違点1における本願発明の構成は、刊行物1発明における酸化マンガン添加物であるMn2O3を、単に周知の同効物であるMnO2に置き換え、その添加量を刊行物1発明におけるMnO2換算量と同程度としたものにすぎないから、その点に格別の進歩性を有するものではない。

(ii)相違点2について
本願発明において、Ta2O5の添加量を規定しているのは、Ta2O5を含まないと(試料No.20,21)Q値が低くなるが(本願明細書【0021】参照)、0.67重量%では、高いQ値が得られ(【0014】表1参照)、1.2重量%を越えるとQ値が低下する傾向がある(同【0027】参照)ことによると認められる。
これに対して、刊行物2には、チタン酸バリウムを主成分とする誘電体磁器組成物に(2-ア)、Ta2O5を1.2重量%以下添加含有したものは高周波用として優れること(2-イ)、特にTa2O5添加量が0.5重量%や1.0重量%の場合、Q値の向上が見られる(2-ウ)ことが記載されている(以下、この記載事項を「刊行物2記載技術」という。)。
してみると、チタン酸バリウムを主成分とする誘電体磁器組成物であり、Q値の増大が課題である点で、刊行物2記載技術と共通する刊行物1発明においても、さらにQ値を向上させるための技術として、刊行物2記載技術が知られているのであるから、1.0重量%程度のTa2O5の添加を適用し、相違点2における本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことといえる。

なお、審判請求人は、平成16年10月7日付け意見書において、下記の主張をしている。
1)刊行物2にはZrO2の添加が示唆されていないから、ZrO2添加を必須とする刊行物1記載の技術と組み合わせることは容易ではない。
2)刊行物2では、Ta2O5添加量1.0重量%超から1.20重量%の範囲では特性が低下するから、刊行物1と刊行物2の記載を組み合わせたとしても、Ta2O5添加量1.0超〜1.20重量%を許容する本願発明の組成物を容易に得ることはできない。
3)本願発明はQ値が最低でも7800という、刊行物1及び2の誘電体材料からは得ることができない相乗効果を奏するものであるから、単なる組み合わせによって得られるものではない。
しかしながら、
1)刊行物1発明は、主成分であるチタン酸バリウムにQ値の増大を課題としてZrO2を添加するものであり、刊行物2記載技術も主成分であるチタン酸バリウムにQ値の増大を課題としてTa2O5を添加するものであるから、主成分、及び課題が共通する両者を組み合わせて、ZrO2とTa2O5 とを共に含ませようとすることに想到困難性のないことは、前示のとおりである。
2)そして、その添加量を、刊行物2の「1.2重量%以下」(2-イ)、「0.5重量%」、「1.0重量%」(2-ウ)等の記載を参酌して、Q値が増大する「0.65〜1.2重量%」の添加量とすることも、実験的に容易に求められる設計的事項といえる。
3)さらに、ZrO2とTa2O5の両者を添加することにより、それぞれの単独添加の場合よりもQ値が高まることは、当業者が予想し得る範囲の効果であるにすぎない。
したがって、上記請求人の主張は、いずれも当を得たものではない。

[5]むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-12-13 
結審通知日 2005-01-11 
審決日 2005-01-25 
出願番号 特願平5-142694
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 進  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 吉水 純子
酒井 美知子
発明の名称 高周波用誘電体磁器組成物  
代理人 西澤 均  

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