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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H05B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H05B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H05B
管理番号 1114531
異議申立番号 異議2003-71544  
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-04-07 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-06-10 
確定日 2005-01-17 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3357857号「有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3357857号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3357857号の請求項1に係る発明についての出願は、平成11年3月11日(優先権主張 平成10年7月24日)に特許出願され、平成14年10月4日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について、異議申立人・東洋インキ製造株式会社より特許異議の申立てがなされ、平成16年1月7日付けで取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成16年3月22日に訂正請求(後日取下げ)がなされた後、平成16年11月11日付けで再度の取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成16年12月3日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
イ.訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1の記載について、「その質量分析スペクトルにおける該有機化合物の酸化物(質量数が該有機化合物の質量数に対して+16、+32である成分)のピーク強度の和が、該有機化合物のピーク強度の25%以下であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。」を、「その質量分析スペクトルにおける該有機化合物の酸化物(質量数が該有機化合物の質量数に対して+16、+32である成分)のピーク強度の和が、該有機化合物のピーク強度の5%以下であり、かつ上記有機化合物を、10-7torr以上で10-5torr以下の圧力、及び0.1〜40Å/秒の蒸着速度で蒸着してなることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。」と訂正する。
ロ.訂正事項b
明細書の0003段落第16行、0004段落第6行、0014段落第7行、第15行、第29行及び第30行の各々に記載の「ピロレン骨格」を「ピレン骨格」と訂正する。
ハ.訂正事項c
明細書の0014段落第11行、第21行、0040段落第2行、0062段落第9行の各々に記載の「ピロレン誘導体」を「ピレン誘導体」と訂正する。
ニ.訂正事項d
明細書の0018段落第2行、第11行及び第12行、第19行、第24行、0105段落第2行の各々に記載の「ピロレン構造」を「ピレン構造」と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項aは、訂正前の請求項1の、質量分析スペクトルにおける有機化合物の酸化物のピーク強度の和に対する該有機化合物のピーク強度の比を、「25%以下」から、「5%以下」に限定しようとするものであり、これは特許掲載公報の【0012】5〜7行に記載された範囲内であり、’実施例7〜9(【0094】、【0098】及び【0102】)に記載されていたものである。
また、訂正事項aは、訂正前の請求項1において、有機化合物層を特定の蒸着条件で蒸着してなるものに限定しようとするものであり、これは明細書の段落【0037】の4〜10行及び同段落の16,17行に記載されていたものである。
したがって、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
訂正事項b、c及びdは、いずれも、明細書の「発明の詳細な説明」の欄に記載した「ピロレン骨格」、「ピロレン誘導体」、「ピロレン構造」の記載を、それぞれ正しい呼称である「ピレン骨格」、「ピレン誘導体」、「ピレン構造」に訂正しようとするものであり、これらは、訂正前の請求項1の第5行の記載及び段落【0015】の左から3番目の化学式の記載から明らかである。
したがって、これらの訂正は、誤記の訂正を目的とするものに該当する。
また、訂正事項a乃至dはいずれも、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(3)むすび
したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについての判断
(1)本件発明
上記2.で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項に特定される次のとおりのものである。
「少なくとも有機発光層を有する有機化合物層を陽極と陰極とからなる一対の電極で挟持してなる有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記有機化合物層の少なくとも一層が、アントラセン骨格、ナフタセン骨格、ピレン骨格又はペリレン骨格を有する有機化合物からなり、その質量分析スペクトルにおける該有機化合物の酸化物(質量数が該有機化合物の質量数に対して+16、+32である成分)のピーク強度の和が、該有機化合物のピーク強度の5%以下であり、かつ上記有機化合物を、10-7torr以上で10-5torr以下の圧力、及び0.1〜40Å/秒の蒸着速度で蒸着してなることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。」

(2)異議申立人提出の証拠に記載された発明/平成16年1月7日付けの取消理由で引用された刊行物に記載された発明
刊行物1.特開平9-157643号公報(申立人が提出した甲第1号証)
刊行物2.特開平9-176629号公報(同甲第2号証)
刊行物3.特開平10-72579号公報(同甲第3号証)
刊行物4.特開平10-36832号公報(同甲第4号証)
参考資料1.平成15年5月30日付け、東洋インキ製造株式会社 色材統括技術部 技術1部第3課、高田泰行による実験成績証明書

(3)対比・判断
A.本件発明は、参考資料1の実験成績証明書の記載内容を基にそれぞれ刊行物1乃至4に記載された発明のいずれかの発明であるかどうかについて検討する。

上記参考資料1の実験成績証明書の記載内容によれば、アントラセン骨格を持つ化合物(1)、(2)、(6)、ペリレン骨格を持つ化合物(3)、(4)、及びナフタセン骨格を持つ化合物(5)について、その質量分析スペクトルにおける該有機化合物の酸化物(質量数が該有機化合物の質量数に対して+16、+32である成分)のピーク強度の和が、該有機化合物のピーク強度の何%に相当するかについて、実験成績結果を示している。
参考資料1の実験では、「化合物(1)〜(6)は市販のものを購入もしくは合成し、必要なものは昇華精製したものを用いた。」としている。また、「蒸着膜の作成方法」については、「洗浄したガラス基板上に、化合物(1)〜(6)をそれぞれ3.0Å/秒の速度で真空蒸着して、厚さ1000Åの蒸着膜(2.5cm×2.5cm)を作成した。・・。蒸着源はアルミナ坩堝を使用し、坩堝への化合物充填量は40mgとした。真空度は8×10-6torr以下、基板温度は室温の条件で行った。」としている。
上記化合物(1)の構造そのものは、刊行物2の実施例43にて有機EL発光層のドープ剤として使用されている化合物(39)の構造に相当する。
上記化合物(2)の構造そのものは、刊行物1の実施例11にて有機EL発光層の発光材料として使用されている化合物(8)の構造に相当する。
上記化合物(3)の構造そのものは、刊行物4の実施例4にて有機EL発光層のドープ色素として使用されている化合物(21)の構造に相当する。同じく上記化合物(4)の構造そのものは、刊行物4の発明において有機EL発光層のドープ色素として使用されている化合物(26)の構造に相当する(10頁)。同じく上記化合物(5)の構造そのものは、刊行物4の実施例1にて有機EL発光層のドープ色素として使用されている化合物(1)の構造に相当する。
上記化合物(6)の構造そのものは、刊行物3の実施例4にて有機EL発光層の発光材料として使用されている化合物(1)の構造に相当する。

イ.本件発明は、参考資料1の実験成績証明書の記載内容を基に刊行物1に記載された発明であるかどうかについて;
本件発明は参考資料1の実験成績証明書の記載内容を基に刊行物1に記載された発明であるかどうか検討するにあたって、使用する化合物の純度、蒸着膜の蒸着条件、例えば真空度、蒸着速度について、参考資料1の実験成績証明書の化合物(2)についての記載内容と刊行物1の実施例11の化合物(8)についての記載内容とが一致するかどうかについて検討する。
使用する化合物の純度について比較検討すると、刊行物1の実施例11には化合物(8)の純度についての記載は何らない。これに対して、参考資料1には使用する化合物について「化合物(1)〜(6)は市販のものを購入もしくは合成し、必要なものは昇華精製したものを用いた。」としている。このように、刊行物1の実施例11と参考資料1とでは、純度が同じである化合物を使用しているかどうか不明である。
蒸着膜の蒸着条件について比較検討すると、刊行物1の実施例11は「真空度10-6torr」であるのに対して、参考資料1は「真空度8×10-6torr以下」としており、真空度の条件が全く同一であるとはいえない。また、刊行物1の実施例11には蒸着速度についての記載がないのに対して、参考資料1は「蒸着速度3.0Å/秒」としている。
このように、刊行物1の実施例11と参考資料1とでは、真空度、蒸着速度などの蒸着膜の蒸着条件が相違する。
したがって、刊行物1の実施例11とは「使用する化合物の純度、蒸着膜の蒸着条件」が異なる参考資料1の実験成績証明書の記載内容を基にして、本件発明は刊行物1に記載された発明であるとすることはできない。

ロ.本件発明は、参考資料1の実験成績証明書の記載内容を基に刊行物2乃至4に記載された発明のいずれかの発明であるかどうかについて;
使用する化合物の純度及び真空度などの蒸着膜の蒸着条件について、刊行物2の実施例43,刊行物3の実施例4及び刊行物4の実施例1、4の記載内容はいずれも、刊行物1の実施例11の記載内容と全く同じであるか、ほとんど同じである。
さらに刊行物2及び4についていえば、対象となる化合物を有機EL発光層のドープ剤として使用するもので、本件発明のように「少なくとも有機発光層を有する有機化合物層の少なくとも一層が、アントラセン骨格、ナフタセン骨格、ピレン骨格又はペリレン骨格を有する有機化合物からなる」ものではない。
したがって、上記イ.の項で述べた理由と同様の理由により、刊行物2の実施例43,刊行物3の実施例4及び刊行物4の実施例1、4とは「使用する化合物の純度、蒸着膜の蒸着条件」が異なる参考資料1の実験成績証明書の記載内容を基にして、本件発明は刊行物2乃至4に記載された発明のいずれかの発明であるとすることはできない。

B.本件発明は、刊行物1乃至4に記載された発明に基いて当業者が容易になし得た発明であるかどうかについて検討する。
刊行物1乃至4の記載内容そのものには、本件発明の構成要件である「少なくとも有機発光層を有する有機化合物層の少なくとも一層が、アントラセン骨格、ナフタセン骨格、ピレン骨格又はペリレン骨格を有する有機化合物からなり、その質量分析スペクトルにおける該有機化合物の酸化物(質量数が該有機化合物の質量数に対して+16、+32である成分)のピーク強度の和が、該有機化合物のピーク強度の5%以下であり、かつ上記有機化合物を、0.1〜40Å/秒の蒸着速度で蒸着してなる」ことを開示乃至は示唆する記載は、何らない。
したがって、本件発明は、刊行物1乃至4に記載された発明に基いて当業者が容易になし得た発明であるとすることはできない。

なお、本件特許は特許法第36条第4項及び第6項の規定に違反してなされたものであるとする平成16年1月7日付け及び平成16年11月11日付けの取消理由については、上記訂正及び平成16年3月22日付けの特許異議意見書の釈明内容により解消したものと認められる。

(4)むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由、その証拠、平成16年1月7日付け及び平成16年11月11日付けの取消理由、その証拠によっては、本件発明についての特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】少なくとも有機発光層を有する有機化合物層を陽極と陰極とからなる一対の電極で挟持してなる有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記有機化合物層の少なくとも一層が、アントラセン骨格、ナフタセン骨格、ピレン骨格又はペリレン骨格を有する有機化合物からなり、その質量分析スペクトルにおける該有機化合物の酸化物(質量数が該有機化合物の質量数に対して+16、+32である成分)のピーク強度の和が、該有機化合物のピーク強度の5%以下であり、かつ上記有機化合物を、10-7torr以上で10-5torr以下の圧力、及び0.1〜40Å/秒の蒸着速度で蒸着してなることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子(エレクトロルミネッセンスを、以下「EL」と略記する。)に関し、さらに詳しくは、長時間の駆動に対しても発光輝度が減衰することがなく、耐久性に優れた有機EL素子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
電界発光を利用したEL素子は、自己発光のため視認性が高く、かつ完全固体素子であるため、耐衝撃性に優れるなどの特徴を有することから、各種表示装置における発光素子としての利用が注目されている。
このEL素子には、発光材料に無機化合物を用いてなる無機EL素子と有機化合物を用いてなる有機EL素子とがあり、このうち、特に有機EL素子は、印加電圧を大幅に低くしうる上、小型化が容易であって、消費電力が小さく、面発光が可能であり、かつ三原色発光も容易であることから、次世代の発光素子としてその実用化研究が積極的になされている。
この有機EL素子の構成については、陽極/有機発光層/陰極の構成を基本とし、これに正孔注入輸送層や電子注入層を適宜設けたもの、例えば陽極/正孔注入輸送層/有機発光層/陰極や、陽極/正孔注入輸送層/有機発光層/電子注入層/陰極などの構成のものが知られている。
【0003】
このような有機EL素子の実用化研究における最大の課題は、長時間の駆動に伴う有機EL素子の発光輝度の減衰を抑制し、実用的にも耐え得るものとする技術を確立することである。
この点、「月刊ディスプレイ、9月号、15頁(1995)」や、「応用物理、第66巻、第2号、114〜115頁(1997)」によれば、有機EL素子を作成するために用いる各種有機化合物の純度が、発光効率や発光輝度の減衰に強く影響を及ぼすことが知られている。しかしながら、有機EL素子に用いられる各種有機化合物の構造・性質等が有機EL素子の性能に与える影響は未だ明らかでなく、これらを定量的に調べる方法は知られていなかった。
したがって、有機EL素子を長時間使用した場合、この発光輝度が減衰する理由の詳細は、現在のところ不明であるのが実状である。
また、特に近年、アントラセン骨格、ナフタセン骨格、ピレン骨格又はペリレン骨格を正孔輸送・注入材料,発光材料,ドーピング材料に用いる例が多くなっているが、これらの骨格は容易に酸化され易いという特徴を有しており、この酸化物を制御するような技術については未だ開発されていない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような状況下で、長時間の駆動に対しても発光輝度が減衰することがなく、耐久性に優れた実用的な有機EL素子及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
本発明は、そのなかでも特に、アントラセン骨格、ナフタセン骨格、ピレン骨格又はペリレン骨格を有する材料を有機EL素子に用いた場合、長時間の駆動に対しても発光輝度が減衰することなく、耐久性に優れた実用的な有機EL素子及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、耐久性に優れた有機EL素子を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、一対の電極間に設けられた有機化合物層の少なくとも一層が、特定の質量分析スペクトルを有するものであれば、その素子は耐久性に優れていること、そして、該有機化合物層を蒸着法により形成させる際、蒸着条件を厳密に制御することにより、特定の質量分析スペクトルを有する有機化合物層が形成されることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1)少なくとも有機発光層を有する有機化合物層を陽極と陰極とからなる一対の電極で挟持してなる有機EL素子において、前記有機化合物層の少なくとも一層の質量分析スペクトルが、式(I)
【0006】
【数7】

【0007】
(ただし、IMはメインピークの強度、Isnは各サブピークのうち、n番目のピークの強度を示す。)
の関係を満たすことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子、及び
(2)少なくとも有機発光層を有する有機化合物層を陽極と陰極とからなる一対の電極で挟持してなる有機EL素子を製造するに当たり、前記有機化合物層を形成する際の蒸着時の真空度が10-6torrのオーダーであり、前記有機化合物層の少なくとも一層の質量分析スペクトルが、前記式(I)の関係を満たすように、蒸着により有機化合物層を形成させることを特徴とする有機EL素子の製造方法、を提供するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の有機EL素子は、陽極と陰極とからなる一対の電極の間に、少なくとも有機発光層を有する有機化合物層が設けられたものであって、上記有機化合物層は、発光層からなる層であってもよく、また、発光層とともに、正孔注入輸送層,電子注入輸送層などを積層した多層構造のものであってもよい。この有機EL素子の素子構成としては、例えば(1)陰極/発光層/陽極,(2)陰極/発光層/正孔注入輸送層/陽極,(3)陰極/電子注入輸送層/発光層/陽極,(4)陰極/電子注入輸送層/発光層/正孔注入輸送層/陽極などを挙げることができる。
【0009】
この有機EL素子において、発光層は(1)電界印加時に、陽極又は正孔注入輸送層により正孔を注入することができ、かつ陰極又は電子注入輸送層より電子を注入することができる注入機能、(2)注入した電荷(電子と正孔)を電界の力で移動させる輸送機能、(3)電子と正孔の再結合の場を発光層内部に提供し、これを発光につなげる発光機能などを有している。この発光層に用いられる発光材料の種類については特に制限はなく、従来有機EL素子における発光材料として公知のものを用いることができる。また、正孔注入輸送層は、正孔伝達化合物からなる層であって、陽極より注入された正孔を発光層に伝達する機能を有し、この正孔注入輸送層を陽極と発光層との間に介在させることにより、より低い電界で多くの正孔が発光層に注入される。その上、発光層に陰極又は電子注入層により注入された電子は、発光層と正孔注入輸送層の界面に存在する電子の障壁により、この発光層内の界面付近に蓄積されEL素子の発光効率を向上させ、発光性能の優れたEL素子とする。この正孔注入輸送層に用いられる正孔伝達化合物については特に制限はなく、従来有機EL素子における正孔伝達化合物として公知のものを使用することができる。さらに、電子注入輸送層は、陰極より注入される電子を発光層に伝達する機能を有している。この電子注入輸送層に用いられる電子伝達化合物については特に制限はなく、従来有機EL素子における電子伝達化合物として公知のものを使用することができる。
【0010】
また、各有機化合物層には、微量の有機化合物からなる添加物などを混入させることも可能である。ここで用いる微量の添加物はドーパントと呼ばれるが、各層の電荷注入性を向上させたり、あるいはそれ自身が発光種となったりして、有機EL素子の性能を向上させる目的のために用いるものである。
本発明の有機EL素子においては、前記有機化合物層の少なくとも一層が、その質量分析スペクトルにおいて、式(I)
【0011】
【数8】

【0012】
(ただし、IMはメインピークの強度、Isnは各サブピークのうち、n番目のピークの強度を示す。)
の関係を満たすことが必要である。このIR値が25を超えると耐久性に優れた有機EL素子が得られず、本発明の目的が達せられない。耐久性の点から、このIR値の好ましい値は20以下であり、特に10以下が好適である。
また、素子の耐久性の点から、該有機化合物層は、質量分析スペクトルにおいて、式(II)
【0013】
【数9】
Σ|MMW-SMWn|≦ 50・・・(II)
(以下、この Σ|MMW-SMWn| をΔM値とする。)
【0014】
(ただし、MMWはメインピークの質量、SMwnは各サブピークのうち、n番目のピークの質量を示す。)
の関係を満たすことが好ましく、より好ましくは、該ΔM値が48以下であり、特に32以下が好適である。
有機EL素子を構成する有機化合物層の形成に供される有機化合物は、アントラセン骨格、ナフタセン骨格、ピレン骨格又はペリレン骨格含有化合物が好ましい。これらの化合物の酸化物の量は、形成される有機化合物層の量に対して、相対値として25%以下であることが重要である。
アントラセン誘導体、ナフタセン誘導体、ピレン誘導体又はペリレン誘導体は、正孔輸送のバランス、あるいは電子輸送のバランスの良さから近年、正孔輸送材料,正孔注入材料,発光材料,ドーピング材料として広く用いられている。その反面、アントラセン骨格、ナフタセン骨格、ピレン骨格及びペリレン骨格自身は、容易に酸化され易いため、昇華精製や、有機EL素子を作製する場合には、真空減圧度や昇華温度あるいは蒸着温度を非常に綿密に制御する必要があった。真空度が低い場合、あるいは高温で昇華、蒸着した場合には、容易に酸化され、蒸着層にアントラセン誘導体、ナフタセン誘導体、ピレン誘導体又はペリレン誘導体の酸化物(質量分析にて+16、+32の成分にて検出)が混入してしまい、これら酸化成分は、EL素子性能例えば発光効率の低下,発光波長の長波長化を引き起こし、さらにはEL寿命を著しく低下させることが判明している。これらは酸化物体の蛍光性の低下や、正孔あるいは電子トラップとしての作用の為と考えられ、酸化物体の含有量を制御する必要があった。
これらの各誘導体の酸化物のアントラセン骨格、ナフタセン骨格、ピレン骨格及びペリレン骨格は、以下のような構造をとっているものと考えられるが、これらの構造に限られるものではない。
【0015】
【化1】

【0016】
なお、上記質量分析スペクトルは、FD-MS(フィールドディソープションマススペクトル)法により、下記のようにして測定し、そのスペクトルから各ピークの強度及び質量を求めた。
装置は日本電子(株)製のJMS-HX110を用い、エミッター上にサンプルを塗布することにより測定した。
さらに、本発明の有機EL素子においては、前記の性状を有する有機化合物層を形成するには、該有機化合物層を形成するために用いる有機化合物が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)による分析において、全体のピーク面積に対するメインピーク面積の割合が98%以上であるのが好ましく、より好ましくは、99%以上、特に好ましくは99.5%以上である。これにより、前記性状を有する有機化合物層が効果的に形成される。
なお、前記GPC法による分析は、以下に示す方法により行う。
カラム(東ソー(株)製)はHM+G3000H8+G2000H8+G1000H8を用い、溶媒はテトラヒドロフラン(以下THFと略す)を用いた。サンプルをTHFに溶解し、流量1.4ml/minにて展開し、検出はUV(紫外線)あるいはRI(屈折率)を用いて行った。
【0017】
このような純度の高い有機化合物を得る方法としては、特に制限はなく、従来公知の方法、例えば昇華精製法,再結晶法,再沈殿法,ゾーンメルティング法,カラム精製法,吸着法などを用いることができるが、再結晶法及び昇華性を有する有機化合物であれば、昇華精製法を採用するのが有利である。
再結晶法としては特に制限はなく、従来公知の方法を用いることができる。また、昇華性を有する有機化合物としては、昇華可能な化合物であればよく、特に制限されず、例えばキレート錯体化合物,キナクリドン系化合物,フタロシアニン系化合物,芳香族縮合環を有する化合物及びその他様々な化合物を挙げることができる。昇華精製法としては、例えば攪拌方式や振動方式を採用することができる。
有機化合物層の少なくとも一層が、前記性状を有する有機EL素子は、本発明の方法によれば、該有機化合物層を真空蒸着やスパッタリングなどの物理的気相蒸着法(PVD法)により形成させることにより、製造することができる。
【0018】
本発明に供されるアントラセン構造、ナフタセン構造、ピレン構造又はペリレン構造を含有する化合物は、蒸着前の原料粉末状態での質量分析においても、酸化物ピーク〔M(1)+16あるいは+32〕が検出されないことが望ましく、たとえ粉末状態で混入していたとしても、真空蒸着において素子を作製した場合においても、EL素子あるいは該化合物を蒸着した蒸着膜の酸化成分が上記の条件を満たすことが望ましい。
また、昇華精製あるいは蒸着する場合のボート温度については、ボート形状あるいは真空雰囲気により条件が変わるが、アントラセン構造、ナフタセン構造、ピレン構造又はペリレン構造を含有する化合物のTG-DTA測定を行い、重量減少5%までの温度までの条件で加熱することは可能であるが、特に好ましくは、化合物融点温度±30℃が特に望ましい。
蒸着膜の分析方法としてはEL素子を有機溶媒(THF,トルエン等)へ溶解させ、その溶液を質量分析(FD-MS等)により分析し、そのスペクトルより判断することが可能であり、またアントラセン構造、ナフタセン構造、ピレン構造又はペリレン構造を含有する化合物をガラス基板の上に所定量(例えば1000Å以上等)蒸着させ、それを有機溶媒へ溶解させて同じく質量分析により分折すれば容易に判定可能である。
本発明に供されるアントラセン構造、ナフタセン構造、ピレン構造又はペリレン構造を含有する化合物の具体例を以下に示す。但しこれらの構造に制限されるものではない。
【0019】
【化2】

【0020】
【化3】

【0021】
【化4】

【0022】
(式中、R11〜R45は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基又は複素環基を表し、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【0023】
【化5】

【0024】
【化6】

【0025】
【化7】

【0026】
(式中、Xは、ハロゲン原子、シアノ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、置換もしくは未置換のアルコキシ基、置換もしくは未置換のアリールオキシ基、置換もしくは未置換のアルキルチオ基、置換もしくは未置換のアリールチオ基、置換もしくは未置換のシクロアルキル基、置換もしくは未置換の複素環基、置換もしくは未置換のアミノ基又はルブレン誘導体を表す。iは1〜28の整数を表し、それぞれのXは同一でも異なるものであってもよい。)
【0027】
【化8】

【0028】
【化9】

【0029】
(式中、A1〜A4は、それぞれ独立に、炭素数6〜16のアリール基を表す。R1〜R8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基又はアミノ基を表す。)
【0030】
【化10】

【0031】
【化11】

【0032】
(式中、A及びBは、置換基を有してもよい芳香族環を表す。)
【0033】
【化12】

【0034】
(式中、A,B,C及びDは、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換の単環基、置換もしくは未置換の縮合多環基、AとBもしくはCとDが一体となって窒素原子を結合手とする複素環基を表す。)
【0035】
【化13】

【0036】
【化14】

【0037】
有機化合物層を形成する際の蒸着条件は厳密に制御することが肝要である。すなわち、蒸着時の真空度は、素子の耐久性及び経済性を考慮すると10-6torrのオーダーの圧力の範囲にある。この圧力が10-5torrを超えると不純物ガスの存在により、形成された有機化合物層中に、不純物ガスと結合した有機化合物が存在するようになり、前記性状を有する有機化合物層が形成しにくく、所望の耐久性を有する有機EL素子が得られにくくなる。一方、圧力が10-7torr未満では装置コストが増大し、経済的に不利となる。
また、蒸着時における被蒸着基板と蒸着すべき物質との距離は、5〜60cmの範囲にあるのが望ましい。この距離が上記範囲を逸脱すると、前記性状を有する有機化合物層が形成されにくい傾向がある。所望性状の有機化合物層を形成するには、該距離のより好ましい範囲は、20〜40cmである。
さらに、蒸着速度は0.1〜40Å/秒の範囲にあるのが好ましい。この蒸着速度が上記範囲を逸脱すると前記性状を有する有機化合物層が形成されにくい傾向がある。所望性状の有機化合物層を形成するには、蒸着速度のより好ましい範囲は、0.1〜20Å/秒である。
【0038】
本発明の有機EL素子においては、各有機化合物層は、それを構成する有機化合物を用い、真空蒸着やスパッタリングなどの物理的気相蒸着法(PVD法)により、形成させるのが好ましい。
本発明の有機EL素子は、基板に支持されていることが好ましい。ここで該基板については特に制限はなく、従来有機EL素子に慣用されているもの、例えばガラスや透明プラスチックからなるものが用いられる。
この有機EL素子における陽極は、素子中に正孔を注入するための電極であり、この陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属,合金,電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としては、Auなどの金属,CuI,ITO(インジウムチンオキシド),SnO2,ZnO,InZnO(インジウムジンクオキシド)などの導電性透明材料が挙げられる。この陽極は、例えばこれらの電極物質を真空蒸着やスパッタリングなどの方法により、薄膜を形成させることにより作製することができる。この電極より発光を取り出す場合には、発光に対する透過率を10%より大きくすることが望ましく、また、電極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。
【0039】
さらに膜厚は材料にもよるが、通常10nm〜1μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。
一方、陰極は、素子中に電子を注入するための電極であり、この陰極としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属,合金,電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム,ナトリウム-カリウム合金,マグネシウム,リチウム,マグネシウム/銅混合物,マグネシウム/銀合金,アルミニウム-リチウム合金,Al/Al2O3混合物,インジウム,希土類金属などが挙げられる。この陰極は、例えばこれらの電極物質を真空蒸着やスパッタリングなどの方法により、薄膜を形成させることにより、作製することができる。この電極より発光を取り出す場合には、発光に対する透過率を10%より大きくすることが望ましく、また電極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。さらに膜厚は材料にもよるが、通常10nm〜1μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。
【0040】
本発明で使用するアントラセン誘導体、ナフタセン誘導体、ピレン誘導体及びペリレン誘導体の化合物は、EL素子における材料として有効である。これらの化合物を発光層とする場合は、例えば蒸着法,スピンコート法,キャスト法などの公知の方法によって、上記化合物を薄膜化することにより形成することができるが、特に分子堆積膜とすることが好ましい。ここで分子堆積膜とは、該化合物の気相状態から沈着され形成された薄膜や、該化合物の溶液状態又は液相状態から固体化され形成された膜のことであり、例えば蒸着膜などを示すが、通常この分子堆積膜はLB法により形成された薄膜(分子累積膜)とは区別することができる。また、該発光層は、特開昭59-194393号公報などに開示されているように、樹脂などの結着剤と該化合物とを、溶剤に溶かして溶液としたのち、これをスピンコート法などにより薄膜化し、形成することができる。
このようにして形成された発光層の膜厚については特に制限はなく、適宜状況に応じて選ぶことができるが、通常5nm〜5μmの範囲で選定される。
【0041】
この発光層に用いる上記各化合物は、一般にイオン化エネルギーが6.0eV程度より小さいので、適当な陽極金属又は陽極化合物を選べば、比較的正孔を注入しやすい。また電子親和力は2.8eV程度より大きいので、適当な陰極金属又は陰極化合物を選べば、比較的電子を注入しやすい上、電子,正孔の輸送能力も優れている。さらに固体状態の蛍光性が強いため、該化合物やその会合体又は結晶などの電子と正孔の再結晶時に形成された励起状態を光に変換する能力が大きい。
【0042】
本発明の有機EL素子の構成は、前記したように、各種の態様があり、前記(2)又は(3)の構成のEL素子における正孔注入輸送層は、正孔伝達化合物からなる層であって、陽極より注入された正孔を発光層に伝達する機能を有し、この正孔注入輸送層を陽極と発光層との間に介在させることにより、より低い電界で多くの正孔が発光層に注入される。その上、発光層に陰極又は電子注入層より注入された電子は、発光層と正孔注入輸送層の界面に存在する電子の障壁により、この発光層内の界面付近に蓄積されEL素子の発光効率を向上させ、発光性能の優れたEL素子とする。
【0043】
前記正孔注入輸送層に用いられる正孔伝達化合物は、電界を与えられた2個の電極間に配置されて陽極から正孔が注入された場合、該正孔を適切に発光層へ伝達しうる化合物であって、例えば104〜106V/cmの電界印加時に、少なくとも10-6cm2/(V・秒)の正孔移動度をもつものが好適である。このような正孔伝達化合物については、前記の好ましい性質を有するものであれば特に制限はなく、従来、光導電材料において、正孔の電荷輸送材として慣用されているものやEL素子の正孔注入輸送層に使用される公知のものの中から任意のものを選択して用いることができる。
【0044】
該電荷輸送材としては、例えばトリアゾール誘導体(米国特許第3,112,197号明細書などに記載のもの)、オキサジアゾール誘導体(米国特許第3,189,447号明細書などに記載のもの)、イミダゾール誘導体(特公昭37-16096号公報などに記載のもの)、ポリアリールアルカン誘導体(米国特許第3,615,402号明細書,同3,820,989号明細書,同3,542,544号明細書,特公昭45-555号公報,同51-10983号公報,特開昭51-93224号公報,同55-17105号公報,同56-4148号公報,同55-108667号公報,同55-156953号公報,同56-36656号公報などに記載のもの)、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体(米国特許第3,180,729号明細書,同4,278,746号明細書,特開昭55-88064号公報,同55-88065号公報,同49-105537号公報,同55-51086号公報,同56-80051号公報,同56-88141号公報,同57-45545号公報,同54-112637号公報,同55-74546号公報などに記載のもの)、フェニレンジアミン誘導体(米国特許第3,615,404号明細書,特公昭51-10105号公報,同46-3712号公報,同47-25336号公報,特開昭54-53435号公報,同54-110536号公報,同54-119925号公報などに記載のもの)、アリールアミン誘導体(米国特許第3,567,450号明細書,同3,180,703号明細書,同3,240,597号明細書,同3,658,520号明細書,同4,232,103号明細書,同4,175,961号明細書,同4,012,376号明細書,特公昭49-35702号公報,同39-27577号公報,特開昭55-144250号公報,同56-119132号公報,同56-22437号公報,西独特許第1,110,518号明細書などに記載のもの)、アミノ置換カルコン誘導体(米国特許第3,526,501号明細書などに記載のもの)、オキサゾール誘導体(米国特許第3,257,203号明細書などに記載のもの)、スチリルアントラセン誘導体(特開昭56-46234号公報などに記載のもの)、フルオレノン誘導体(特開昭54-110837号公報などに記載のもの)、ヒドラゾン誘導体(米国特許第3,717,462号明細書,特開昭54-59143号公報,同55-52063号公報,同55-52064号公報,同55-46760号公報,同55-85495号公報,同57-11350号公報,同57-148749号公報などに記載されているもの)、スチルベル誘導体(特開昭61-210363号公報,同61-228451号公報,同61-14642号公報,同61-72255号公報,同62-47646号公報,同62-36674号公報,同62-10652号公報,同62-30255号公報,同60-93445号公報,同60-94462号公報,同60-174749号公報,同60-175052号公報などに記載のもの)などを挙げることができる。
【0045】
これらの化合物を正孔伝達化合物として使用することができるが、次に示すポルフィリン化合物(特開昭63-295695号公報などに記載のもの)及び芳香族第三級アミン化合物及びスチリルアミン化合物(米国特許第4,127,412号明細書,特開昭53-27033号公報,同54-58445号公報,同54-149634号公報,同54-64299号公報,同55-79450号公報,同55-144250号公報,同56-119132号公報,同61-295558号公報,同61-98353号公報,同63-295695号公報などに記載のもの)、特に該芳香族第三級アミン化合物を用いることが好ましい。
【0046】
該ポルフィリン化合物の代表例としては、ポルフィリン;5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィリン銅(II);5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィリン亜鉛(II);5,10,15,20-テトラキス(ペンタフルオロフェニル)-21H,23H-ポルフィリン;シリコンフタロシアニンオキシド;アルミニウムフタロシアニンクロリド;フタロシアニン(無金属);ジリチウムフタロシアニン;銅テトラメチルフタロシアニン;銅フタロシアニン;クロムフタロシアニン;亜鉛フタロシアニン;鉛フタロシアニン;チタニウムフタロシアニンオキシド;マグネシウムフタロシアニン;銅オクタメチルフタロシアニンなどが挙げられる。また該芳香族第三級化合物及びスチリルアミン化合物の代表例としては、N,N,N’,N’-テトラフェニル-(1,1’-ビフェニル)-4,4’-ジアミン;N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-N,N’-ジフェニル-〔1,1’-ビフェニル〕-4,4’-ジアミン;2,2-ビス(4-ジ-p-トリルアミノフェニル)プロパン;1,1-ビス(4-ジ-p-トリルアミノフェニル)シクロヘキサン;N,N,N’,N’-テトラ-p-トリル-(1,1’-ビフェニル)-4,4’-ジアミン;1,1-ビス(4-ジ-p-トリルアミノフェニル)-4-フェニルシクロヘキサン;ビス(4-ジメチルアミノ-2-メチルフェニル)フェニルメタン;ビス(4-ジ-p-トリルアミノフェニル)フェニルメタン;N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(4-メトキシフェニル)-(1,1-ビフェニル)-4,4’-ジアミン;N,N,N’,N’-テトラフェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル;4,4’-ビス(ジフェニルアミノ)クオ-ドリフェニル;N,N,N-トリ(p-トリル)アミン;4-(ジ-p-トリルアミン)-4’-〔4(ジ-p-トリルアミン)スチリル〕スチルベン;4-N,N-ジフェニルアミノ-(2-ジフェニルビニル)ベンゼン;3-メトキシ-4’-N,N-ジフェニルアミノスチルベン;N-フェニルカルバゾ-ルなどが挙げられる。
【0047】
上記EL素子における該正孔注入輸送層は、これらの正孔伝達化合物一種又は二種以上からなる一層で構成されてもよいし、あるいは、前記層とは別種の化合物からなる正孔注入輸送層を積層したものであってもよい。
一方、前記(3)の構成のEL素子における電子注入層(電子注入輸送層)は、電子伝達化合物からなるものであって、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有している。このような電子伝達化合物について特に制限はなく、従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができる。該電子伝達化合物の好ましい例としては、
【0048】
【化15】

などのニトロ置換フルオレノン誘導体、
【0049】
【化16】

【0050】
などのチオピランジオキシド誘導体,
【0051】
【化17】

【0052】
などのジフェニルキノン誘導体〔「ポリマ-・プレプリント(Polymer Preprints),ジャパン」第37巻,第3号,第681ペ-ジ(1988年)などに記載のもの〕、あるいは
【0053】
【化18】

【0054】
などの化合物〔「ジャ-ナル・オブ・アプライド・フィジックス(J.Apply.Phys.)」第27巻,第269頁(1988年)などに記載のもの〕や、アントラキノジメタン誘導体(特開昭57-149259号公報,同58-55450号公報,同61-225151号公報,同61-233750号公報,同63-104061号公報などに記載のもの)、フレオレニリデンメタン誘導体(特開昭60-69657号公報,同61-143764号公報,同61-148159号公報などに記載のもの)、アントロン誘導体(特開昭61-225151号公報,同61-233750号公報などに記載のもの)また、次の一般式(A)又は(B)
【0055】
【化19】

【0056】
(式中、Ar1〜Ar3及びAr5はそれぞれ独立に置換又は無置換のアリール基を示し、Ar4は置換又は無置換のアリーレン基を示す。)
で表される電子伝達化合物が挙げられる。ここで、アリール基としてはフェニル基,ナフチル基,ビフェニル基,アントラニル基,ペリレニル基,ピレニル基等が挙げられ、アリーレン基としてはフェニレン基,ナフチレン基,ビフェニレン基,アントラセニレン基,ペリレニレン基,ピレニレン基等が挙げられる。また、置換基としては炭素数1〜10のアルキル基,炭素数1〜10のアルコキシ基又はシアノ基等が挙げられる。この一般式(A)又は(B)で表される化合物は、薄膜形成性のものが好ましい。
一般式(A)又は(B)で表される化合物の具体例としては、
【0057】
【化20】

【0058】
【化21】

【0059】
【化22】

【0060】
等が挙げられる。
【0061】
なお、正孔注入輸送層及び電子注入層は、電荷の注入性,輸送性,障壁性のいずれかを有する層であり、上記した有機材料の他にSi系,SiC系,CdS系などの結晶性ないし非結晶性材料などの無機材料を用いることもできる。
有機材料を用いた正孔注入輸送層及び電子注入層は発光層と同様にして形成することができ、無機材料を用いた正孔注入輸送層及び電子注入層は真空蒸着法やスパッタリングなどにより形成できるが、有機及び無機のいずれの材料を用いた場合でも発光層のときと同様の理由から真空蒸着法により形成することが好ましい。
【0062】
次に、本発明のEL素子を作製する好適な方法の例を、各構成の素子それぞれについて説明する。前記の陽極/発光層/陰極からなるEL素子の作製法について説明すると、まず適当な基板上に、所望の電極物質、例えば陽極用物質からなる薄膜を、1μm以下、好ましくは10〜200nmの範囲の膜厚になるように、蒸着やスパッタリングなどの方法により形成させ、陽極を作製したのち、この上に発光材料であるアントラセン誘導体、ナフタセン誘導体、ピレン誘導体又はペリレン誘導体の中から選ばれる少なくとも一種類の化合物の薄膜を形成させ、発光層を設ける。該発光材料の薄膜化の方法としては、例えばスピンコート法,キャスト法,蒸着法などがあるが、均質な膜が得られやすく、かつピンホールが生成しにくいなどの点から、蒸着法が好ましい。
該発光材料の薄膜化に、この蒸着法を採用する場合、その蒸着条件は、前述したように厳密に制御することが肝要であり、膜厚を5nm〜5μmとすることが好ましい。次にこの発光層の形成後、その上に陰極用物質からなる薄膜を、1μm以下、好ましくは50〜200nmの範囲の膜厚になるように、例えば蒸着やスパッタリングなどの方法により形成させ、陰極を設けることにより、所望のEL素子が得られる。なお、このEL素子の作製においては、作製順序を逆にして、陰極,発光層,陽極の順に作製することも可能である。
【0063】
また、一対の電極間に正孔注入輸送材料,発光材料,電子注入材料を混合させた形で電極間に挟持させ発光層とした、陽極/発光層/陰極からなる素子の場合の作製方法としては、例えば適当な基板の上に、陽極用物質からなる薄膜を形成し、正孔注入輸送材料,発光材料,電子注入材料,ポリビニルカルバゾール等の結着剤等からなる溶液を塗布するか、又はこの溶液から浸漬塗工法により薄膜を形成させ発光層とし、その上に陰極用物質からなる薄膜を形成させるものがある。ここで、作製した発光層上に、さらに発光層の材料となる素子材料を真空蒸着し、その上に陰極用物質からなる薄膜を形成させてもよい。あるいは、正孔注入輸送材料,電子注入材料および発光材料を同時蒸着させ発光層とし、その上に陰極用物質からなる薄膜を形成させてもよい。
【0064】
次に、陽極/正孔注入輸送層/発光層/陰極から成るEL素子の作製法について説明すると、まず、陽極を前記のEL素子の場合と同様にして形成したのち、その上に、正孔伝達化合物から成る薄膜をスピンコート法などにより形成し、正孔注入輸送層を設ける。この際の条件は、前記発光材料の薄膜形成の条件に準じればよい。次に、この正孔注入輸送層の上に、順次発光層及び陰極を、前記EL素子の作製の場合と同様にして設けることにより、所望のEL素子が得られる。なお、このEL素子の作製においても、作製順序を逆にして、陰極,発光層,正孔注入輸送層,陽極の順に作製することも可能である。
さらに、陽極/正孔注入輸送層/発光層/電子注入層/陰極から成るEL素子の作製法について説明すると、まず、前記のEL素子の作製の場合と同様にして、陽極,正孔注入輸送層,発光層を順次設けたのち、この発光層の上に、電子伝達化合物から成る薄膜をスピンコート法などにより形成して、電子注入層を設け、次いでこの上に、陰極を前記EL素子の作製の場合と同様にして設けることにより、所望のEL素子が得られる。
なお、このEL素子の作製においても、作製順序を逆にして、陽極,電子注入層,発光層,正孔注入輸送層,陽極の順に作製してもよい。
【0065】
このようにして得られた本発明の有機EL素子に、直流電圧を印加する場合には、陽極を+,陰極を-の極性として電圧3〜40V程度を印加すると、発光が透明又は半透明の電極側より観測できる。また、逆の極性で印加しても電流は流れずに発光は全く生じない。さらに、交流電圧を印加する場合には、正極が+,負極が-の状態になったときのみ発光する。なお、印加する交流の波形は任意でよい。
【0066】
【実施例】
次に、本発明を実施例により、さらに詳しく説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
製造例1 発光材料の製造
発光材料として、下記の構造を有する4,4”-ビス(2,2-ジフェニルビニル-1-イル)-p-タ-フェニレン(以下、DPVTPと略記する。)を製造した。
【0067】
【化23】

【0068】
アルゴンガス雰囲気下、100ミリリットルの三つ口フラスコにベンゾフェノン1.0g、及び次式で示される構造を有するホスホン酸エステル1.2gをモレキュラーシーブを用いて乾燥させたジメチルスルホキシド30ミリリットルに懸濁させた。
【0069】
【化24】

【0070】
この懸濁液を室温にて、カリウム-t-ブトキシド0.5gを加えて反応させたところ、反応物は直ちに赤茶色の懸濁液となった。その後、反応温度を27℃に保持し約1時間攪拌すると、この反応物は黄色の懸濁液となった。更に、2時間攪拌した後、メタノール40ミリリットルを加えて黄色沈殿を濾取した。
次いで、この黄色沈殿物をトルエン100ミリリットルに懸濁させ、目的物を加熱抽出した後、トルエンを留去することにより0.5gの白色粉末を得た。これをDPVTP-1とした。
この粉末をボート温度320℃、10-5torrの条件で昇華精製することにより、0.38gの精製粉末を得た。これをDPVTP-2とした。
製造例2 正孔注入材料の製造
正孔注入材料として、下記の構造を有する4,4’,4”-トリス-〔N-(m-トリル)-N-フェニルアミノ〕トリフェニルアミン(以下、MTDATAと略記する。)を製造した。
【0071】
【化25】

【0072】
300ミリリットルの三つ口フラスコに4,4’,4”-トリョードトリフェニルアミン1.0g、N-(3-トリル)-N-フェニルアミン(アルドリッチ社製)1.0g、無水炭酸カリウム3g及び銅粉1.0gを加え、200ミリリットルのジメチルスルホキシドに溶解し200℃で8時間攪拌して反応させた。
反応終了後、反応液を濾過し、母液を塩化メチレンで抽出した。そして、ロータリーエバポレーターで溶媒を留去し、残渣をシリカゲル(広島和光純薬社製)を充填したカラムクロマトでトルエンを展開溶媒として精製し、淡黄色粉末0.3gを得た。これをMTDATA-1とした。
これを更に、ボート温度390℃、10-5torrの条件で3回昇華精製することにより、0.24gの淡黄色粉末を得た。これをMTDATA-2とした。
製造例3 正孔輸送材料の製造
正孔輸送材料として、下記の構造を有するN,N’-ジ-(ナフチル-1、イル)-N,N’-ジフェニル-4,4”-ベンジジン(以下、NPDと略記する。)を製造した。
【0073】
【化26】

【0074】
4,4’,4”-トリヨードトリフェニルアミンの代わりに1-ヨードナフタレン(東京化成社製)2.0gを、そして、N-(3-トリル)-N-フェニルアミン(アルドリッチ社製)の代わりにN,N’-ジフェニルベンジジン(広島和光純薬社製)1.0gを用いた以外は、製造例2と同様に反応・精製を行い、0.37gの淡黄色粉末を得た。これを、NPD-1とした。
これを更に、ボート温度320℃、10-5torrの条件で2回昇華精製することにより、0.31gの淡黄色粉末を得た。これをNPD-2とした。
製造例4 ドーパントの製造
ドーパントとして、下記の構造を有する4,4’-ビス-〔2-〔4-(N,N-ジフェニルアミノ)フェニル-1-イル〕-ビニル-1-イル〕-1,1’-ビフェニル(以下、DPAVBiと略記する。)を製造した。
【0075】
【化27】

【0076】
200ミリリットルの三つ口フラスコに製造例1で用いたホスホン酸エステル1.9g、及びN,N-ジフェニル-4-アミノベンズアルデヒド3.0gを加え、モレキュラーシーブで乾燥させたジメチルスルホキシド50ミリリットルに溶解させた。これをアルゴンガス雰囲気下、室温にてマグネチックスタラーで攪拌しながら、カリウム-t-ブトキシド(関東化学社製)1.0gを粉末の状態で少量ずつ加えた。反応液は、直ちに赤黒色を呈し、やがて退色し、緑黄色、後に黄土色の析出物となった。
反応後は、室温のまま更に3時間攪拌した。これを室温にて一晩放置した後、80重量%メタノール水溶液50ミリリットルを徐々に加えた後、生成した黄色沈殿物を濾取し、80重量%メタノール水溶液50ミリリットルにて2回洗浄し、更にメタノール50ミリリットルにて2回洗浄した。これを50℃にて3時間真空乾燥を行ったところ、黄色粉末2.8gが得られた。
次に、シリカゲル(富士デヴィソン化学社製、商品名BW-820MH)140gをトルエンにて充填したカラムクロマトに、前記黄色粉末をトルエンを用いて展開し、最初に展開する画分を集めた。なお、この際の薄層クロマトグラフィー(展開溶媒トルエン:n-ヘキサン=2:1(容量比)、シリカゲル薄層)では、移動率(Rate of flow) Rf=0.8であった。
【0077】
次に、目的物の含まれる画分を集め、溶媒をエバポレーターにて留去して乾固させた。そして、このようにして得られた黄色粉末をトルエン60ミリリットルに熱溶解させ、不溶解物はメンブランフィルター(ADVANTEC社製、1μm、25mm)にて濾過した。
このトルエン溶液を室温にて放置し、得られた析出物を濾取し、50℃で2時間乾燥することにより黄色粉末2.3gを得た。これを、DPAVBi-1とした。
これを更にもう一度、トルエン50ミリリットルに熱溶解させ、3回再結晶を繰り返した。その結果、黄色粉末1.6gを得た。これを、DPAVBi-2とした。
製造例5 電子輸送材料の精製
電子輸送材料として、下記の構造を有する同仁化学社製のアルミニウム-トリス(8-ヒドロキシキノリノール)(以下、Alqと略記する。)を用いた。
【0078】
【化28】

【0079】
同仁化学社製Alq(これをAlq-1とした)1.0gをボート温度300℃、10-5torrの条件で2回昇華精製することにより、0.7gの黄色粉末を得た。これをAlq-2とした。
製造例1〜5で得られた各化合物について、明細書本文に記載した方法に従い、GPC法による分析を行い、全体のピーク面積に対するメインピーク面積の割合を求めた。結果を第1表に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
実施例1
25mm×75mm×1.1mmのガラス基板上に蒸着法により、厚さ100nmのインジウム-錫-酸化物膜(In-Ti-O膜、以下ITO膜と略記する)(陽極に相当)を設け、これを透明支持基板とした。この透明支持基板をイソプロピルアルコールで5分間超音波洗浄し、更に純粋中で5分間超音波洗浄した後、UVイオン洗浄器(サムコインターナショナル社製)を用いて基板温度150℃で20分間洗浄した。
この透明支持基板を乾燥窒素ガスで乾燥して市販の蒸着装置(日本真空技術社製)の基板ホルダーに固定した。また、この市販の蒸着装置には複数のモリブデン製の抵抗加熱ボートが配設され、それぞれ独立した抵抗加熱ボートにMTDATA-1を200mg、NPD-1を200mg、DPVTP-2を200mg、DPAVBi-1を200mg、Alq-1を200mg入れ、これらを蒸着用有機化合物とした。
【0082】
この際、各抵抗加熱ボートと基板との距離はMTDATA-1:20cm、NPD-1:25cm、DPVTP-2:25cm、DPAVBi-1:20cm、Alq-1:25cmであった。
蒸着用有機化合物を抵抗加熱ボートに入れた後、真空槽を4×10-6torr迄減圧し、MTDATA-1の入った前記加熱ボートに通電して360℃迄加熱し、蒸着速度1〜3Å/秒で透明支持基板上に蒸着して60nmのMTDATA-1層を設けた。
そして、NPD-1の入った前記加熱ボートに通電して260℃迄加熱し、蒸着速度1〜3Å/秒で、上記MTDATA-1層の上に、NPD-1を蒸着して膜厚20nmのNPD-1層を設けた。
次いで、DPVTP-2の入った前記加熱ボートとDPAVBi-1の入った前記加熱ボートを同時に通電し、DPVTP-2とDPAVBi-1から成る膜厚40nmの発光層を形成した。この時の蒸着速度は、DPVTP-2が28〜30Å/秒であり、DPAVBi-1が1〜1.3Å/秒であった。
更に、Alq-1の入った加熱ボートに通電して、蒸着速度1〜3Å/秒で上記発光層の上にAlq-1層を蒸着して、膜厚20nmのAlq-1層を設けた。
【0083】
次に、これを真空槽から取り出し、上記電子輸送層の上にステンレススチール製のマスクを配置し、再度基板ホルダー上に固定した。次いで、アルミニウム及びリチウム(Al-Li)から成るリチウム濃度5原子%の合金母材を陰極形成用の蒸着材料として用い、蒸着時の真空度1×10-6torr、蒸着速度5〜10Å/秒の条件で蒸着し、膜厚150nmの陰極を形成した。
以上のようにして得られた有機EL素子に、ITO電極を正、Al-Li合金電極を負にし、6Vの直流電圧を印加したところ、均一な青色発光が得られた。
この有機EL素子の半減寿命(初期輝度300cd/m2が150cd/m2へと減衰する迄の時間)は、窒素気流下、定電流駆動することにより測定した。この有機EL素子の半減寿命を第2表に示した。
一方、別途、前記と同様にして、各透明支持基板上に各有機化合物層(正孔注入層,正孔輸送層,発光層及び電子輸送層)を形成させたのち、各透明支持基板上の各有機化合物層を、たとえばトルエンなどの有機溶媒にて溶解させ、それぞれについて、明細書本文記載の方法に従い、FD-MS法により、質量分析スペクトルを測定し、前記IR値及びΔM値を求めた。結果を第2表に示す。
【0084】
実施例2
実施例1において、DPVTP-2をDPVTP-1に、またMTDATA-1をMTDATA-2に変えた以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
得られた有機EL素子に、ITO電極を正、Al-Li合金電極を負にし、6Vの直流電圧を印加したところ、均一な青色発光が得られた。この有機EL素子の半減寿命を第2表に示した。
また、実施例1と同様にして、各有機化合物層のIR値及びΔM値を求めた。結果を第2表に示す。
実施例3
実施例1において、DPVTP-2をDPVTP-1に、またNPD-1をNPD-2に変えた以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
得られた有機EL素子に、ITO電極を正、Al-Li合金電極を負にし、6Vの直流電圧を印加したところ、均一な青色発光が得られた。この有機EL素子の半減寿命を第2表に示した。
【0085】
また、実施例1と同様にして、各有機化合物層のIR値及びΔM値を求めた。結果を第2表に示す。
実施例4
実施例1において、DPVTP-2をDPVTP-1に、またDPAVBi-1をDPAVBi-2に変えた以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
得られた有機EL素子に、ITO電極を正、Al-Li合金電極を負にし、6Vの直流電圧を印加したところ、均一な青色発光が得られた。この有機EL素子の半減寿命を第2表に示した。
また、実施例1と同様にして、各有機化合物層のIR値及びΔM値を求めた。結果を第2表に示す。
【0086】
実施例5
実施例1において、DPVTP-2をDPVTP-1に、またAlq-1をAlq-2に変えた以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
得られた有機EL素子に、ITO電極を正、Al-Li合金電極を負にし、6Vの直流電圧を印加したところ、均一な青色発光が得られた。この有機EL素子の半減寿命を第2表に示した。
また、実施例1と同様にして、各有機化合物層のIR値及びΔM値を求めた。結果を第2表に示す。
実施例6
実施例1において、MTDATA-1をMTDATA-2に、NPD-1をNPD-2に、DPAVBi-1をDPAVBi-2に、更にAlq-1をAlq-2に変えた以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
得られた有機EL素子に、ITO電極を正、Al-Li合金電極を負にし、6Vの直流電圧を印加したところ、均一な青色発光が得られた。この有機EL素子の半減寿命を第2表に示した。
【0087】
また、実施例1と同様にして、各有機化合物層のIR値及びΔM値を求めた。結果を第2表に示す。
【0088】
比較例1
実施例1において、真空槽を4×10-6torrまで減圧する代わりに、6×10-5torrまで減圧した以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
得られた有機EL素子に、ITO電極を正、Al-Li合金電極を負にし、6Vの直流電圧を印加したところ、均一な青色発光が得られた。この有機EL素子の半減寿命を第2表に示した。
また、実施例1と同様にして、各有機化合物層のIR値及びΔM値を求めた。結果を第2表に示す。
【0089】
【表2】

【0090】
〔注〕


【0091】
【表3】

【0092】
実施例7
25mm×75mm×1.1mmのガラス基板上に蒸着法により、厚さ100nmのITO膜を設け、これを透明支持基板とした。この透明支持基板をイソプロピルアルコールで5分間超音波洗浄し、純粋中で5分間超音波洗浄した後、最後に再びイソプロピルアルコールで5分間超音波洗浄した。次にこの透明支持基板を市販の蒸着装置(日本真空技術社製)の基板ホルダーに固定した。この蒸着装置には複数のモリブデン製の抵抗加熱ボートが配設され、それぞれ独立した抵抗加熱ボートに正孔注入材料としてMTDATAを200mg、正孔輸送材料としてNPDを200mg、発光材料として下記化合物1を200mg、電子輸送材料としてAlqを200mg入れ、これらを蒸着用有機化合物とした。
【0093】
【化29】

【0094】
上記MTDATA、NPD、化合物1、Alqについて、GPC法による分析を行い、全体のピーク面積に対するメインピーク面積の割合を求めたところ、それぞれ99.9%、100%、99.2%、100%であった。
蒸着用有機化合物を抵抗加熱ボートに入れた後、真空槽を1×10-6torr迄減圧し、MTDATAの入った前記加熱ボートに通電して360℃迄加熱し、蒸着速度1〜3Å/秒で透明支持基板上に蒸着して60nmのMTDATA層を設けた。
そして、NPDの入った前記加熱ボートに通電して260℃迄加熱し、蒸着速度1〜3Å/秒で、上記MTDATA層の上に、NPDを蒸着して膜厚20nmのNPD層を設けた。
次いで、上記化合物1の入ったボートに通電し、加熱蒸発して膜厚40nmの発光層を形成した。更に、Alqの入った加熱ボートに通電して、膜厚20nmのAlq層を設けた。
次に、これを真空槽から取り出し、ステンレススチール製のマスクを配置し、再度基板ホルダー上に固定した。次いで、Mg:Agを真空度1×10-6torrで蒸着し、膜厚150nmのMg:Ag膜を形成し有機EL素子を得た。
以上のようにして得られた素子に、ITO膜を陽極、Mg:Ag膜を陰極として、6Vの電圧を印加し、発光テストを行なったところ、青緑色の均一発光が得られた。初期性能は、印加電圧6Vで電流密度10mA/cm2、輝度100cd/m2であった。この素子を初期輝度100cd/m2にて窒素気流中で定電流駆動させると、輝度が50cd/m2になる半減寿命は100時間以上であった。次に発光層を質量分析したところ、酸化された(+32)FD-MSのピーク強度は、酸化されていないピーク強度に対して5%以下であった。
また、実施例1と同様にして、各有機化合物層のIR値及びΔM値を求めた。結果を第3表に示す。
【0095】
比較例2
実施例7において、発光材料(化合物1)の蒸着時の減圧度を1×10-5torrとした以外は同様にして有機EL素子を作製した。また得られた有機EL素子について発光テストをしたところ、初期性能に著しい差は観測されなかったが、半減時間は10時間しかなかった。次に、発光層を質量分析したところ、酸化された(+32)FD-MSのピーク強度は、酸化されていないピーク強度に対して28%であった。このように酸化物混入が多かったため、実施例7の有機EL素子に比べ半減寿命が低下したと考えられる。
また、実施例1と同様にして、各有機化合物層のIR値及びΔM値を求めた。結果を第3表に示す。
【0096】
実施例8
実施例7において、発光材料として下記化合物2を使用した以外は同様にして有機EL素子を作製した。
【0097】
【化30】

【0098】
上記化合物2について、GPC法による分析を行い、全体のピーク面積に対するメインピーク面積の割合を求めたところ98.9%であった。
得られた有機EL素子について発光テストをしたところ、初期性能は、印加電圧5Vで電流密度10mA/cm2、輝度150cd/m2の青色の均一発光が得られた。この素子を初期輝度100cd/m2にて窒素気流中で定電流駆動させると、輝度が50cd/m2になる半減寿命は100時間以上であった。次に発光層を質量分析したところ、酸化された(+32)FD-MSのピーク強度は、酸化されていないピーク強度に対して5%以下であった。
また、実施例1と同様にして、各有機化合物層のIR値及びΔM値を求めた。結果を第3表に示す。
【0099】
比較例3
実施例8において、発光材料の上記化合物2の蒸着温度をその融点よりも50℃高く設定し、蒸着速度を速くした以外は同様にして有機EL素子を作製した。得られた有機EL素子について発光テストをしたところ、初期性能は、印加電圧5Vで電流密度12mA/cm2、輝度70cd/m2の白色発光が得られた。この素子を初期輝度100cd/m2にて窒素気流中で定電流駆動させると、輝度が50cd/m2になる半減寿命は2時間であった。次に発光層を質量分析したところ、酸化された(+32)FD-MSのピーク強度は、酸化されていないピーク強度に対して35%以上であった。このように酸化物混入が多かったため、実施例8の有機EL素子に比べ、発光色が青色から白色へ変化し、発光効率及び半減寿命が低下したと考えられる。
また、実施例1と同様にして、各有機化合物層のIR値及びΔM値を求めた。結果を第3表に示す。
比較例4
実施例8において、発光材料として化合物2に最初から酸化物が40%(FD-MSピーク強度比)混入している化合物を使用した以外は同様にして有機EL素子を作製した。得られた有機EL素子について発光テストをしたところ、比較例3と同様に、白色の発光が観察され、半減寿命も1.5時間と著しく低下した。
また、実施例1と同様にして、各有機化合物層のIR値及びΔM値を求めた。結果を第3表に示す。
【0100】
実施例9
実施例7において、発光材料として下記化合物3を使用した以外は同様にして有機EL素子を作製した。
【0101】
【化31】

【0102】
上記化合物3について、GPC法による分析を行い、全体のピーク面積に対するメインピーク面積の割合を求めたところ99.1%であった。
得られた有機EL素子について発光テストをしたところ、初期性能は、印加電圧5Vで電流密度10mA/cm2、輝度100cd/m2の青色の均一発光が得られた。この素子を初期輝度100cd/m2にて窒素気流中で定電流駆動させると、輝度が50cd/m2になる半減寿命は100時間以上であった。次に発光層を質量分析したところ、酸化された(+32)FD-MSのピーク強度は、酸化されていないピーク強度に対して5%以下であった。
また、実施例1と同様にして、各有機化合物層のIR値及びΔM値を求めた。結果を第3表に示す。
【0103】
比較例5
実施例9において、発光材料の上記化合物3の蒸着温度をその融点よりも50℃高く設定し、蒸着速度を速くした以外は同様にして有機EL素子を作製した。得られた有機EL素子について発光テストをしたところ、比較例3と同様に、白色の発光が観察され、半減寿命も1時間と著しく低下した。次に発光層を質量分析したところ、酸化された(+32)FD-MSのピーク強度は、酸化されていないピーク強度に対して35%以上であった。
また、実施例1と同様にして、各有機化合物層のIR値及びΔM値を求めた。結果を第3表に示す。
【0104】
【表4】

【0105】
以上のように、アントラセン構造、ナフタセン構造、ピレン構造又はペリレン構造を含有する化合物を有機EL素子構成化合物として用いる場合は、粉末状態あるいは蒸着条件(真空度,温度,蒸着速度)により容易に酸化物が混入される可能性があり、これら酸化物含有量を制御することが有機EL素子の性能向上に非常に重要である。
【0106】
【発明の効果】
本発明の有機EL素子は、長時間の駆動に対しても発光輝度が減衰することがなく、耐久性に優れた実用的なものであって、例えば情報機器のディスプレイなどに好適に用いられる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-12-27 
出願番号 特願平11-65090
審決分類 P 1 651・ 536- YA (H05B)
P 1 651・ 113- YA (H05B)
P 1 651・ 121- YA (H05B)
最終処分 維持  
特許庁審判長 末政 清滋
特許庁審判官 辻 徹二
秋月 美紀子
登録日 2002-10-04 
登録番号 特許第3357857号(P3357857)
権利者 出光興産株式会社
発明の名称 有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法  
代理人 東平 正道  
代理人 大谷 保  
代理人 大谷 保  
代理人 東平 正道  

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