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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08F 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08F |
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管理番号 | 1114560 |
異議申立番号 | 異議2002-72038 |
総通号数 | 65 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2005-05-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2002-08-14 |
確定日 | 2005-01-17 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3258328号「グラフト変性ポリオレフィンの製造方法」の請求項1ないし24に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3258328号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続きの経緯 特許第3258328号に係る発明についての出願は、平成6年7月29日に国際出願され(優先日 平成5年7月29日、平成5年8月3日、平成6年3月31日 日本)、その後、佐々木 政春(以下、「特許異議申立人」という。)により請求項1〜24に係る発明の特許について特許異議の申立てがなされ、平成14年11月20日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成15年1月27日に特許異議意見書と訂正請求書が提出され、平成16年12月7日付けで再度取消理由が通知され、その指定期間内である平成16年12月13日に訂正請求書が提出されるとともに、先の訂正請求が取り下げられたものである。 2.訂正の適否 2-1.訂正の内容 訂正事項a 請求項1の 「・・・不飽和カルボン酸無水物原料をあらかじめ50〜250℃で加熱処理した後に前記グラフト反応に供する・・・」を 「・・・該不飽和カルボン酸無水物原料をグラフト反応に供する前にあらかじめ100℃〜210℃で加熱処理することにより、この不飽和カルボン酸無水物原料の中に存在している加水分解物を酸無水物に変換し、水分を蒸発させた後、前記グラフト反応に供する・・・」と訂正する。 訂正事項b 請求項2〜6、8、11〜24を削除する。 訂正事項c 請求項7、9及び10の項番を繰り上げて請求項2、3及び4とする。 訂正事項d 請求項2(訂正前の請求項7)の「・・・請求項6記載の・・・」を「・・・請求項1記載の・・・」と訂正する。 訂正事項e 請求項3(訂正前の請求項9)の「・・・請求項1〜7のいずれか一つの項に記載の・・・」を「・・・請求項1または請求項2記載の・・・」と訂正する。 訂正事項f 請求項4(訂正前の請求項10)の「・・・請求項9記載の・・・」を「・・・請求項3記載の・・・」と訂正する。 訂正事項g 明細書第2頁第23〜25行(特許公報第7欄第8〜11行)の 「・・・ラジカル重合性モノマーが不飽和カルボン酸無水物であり、不飽和カルボン酸無水物原料をあらかじめ50〜250℃で加熱処理した後に前記グラフト反応に供する・・・」を 「・・・前記ラジカル重合性モノマーが不飽和カルボン酸無水物であり、該不飽和カルボン酸無水物原料をグラフト反応に供する前にあらかじめ100℃〜210℃で加熱処理することにより、この不飽和カルボン酸無水物原料中に存在している加水分解物を酸無水物に変換し、水分を蒸発させた後、前記グラフト反応に供する・・・」と訂正する。 訂正事項h 明細書第4頁第12〜15行(特許公報第8欄第24〜27行)の 「・・・あらかじめ50〜250℃で加熱処理した後、グラフト反応に供する。この加熱処理の温度は、100℃〜210℃とすることが好ましく、160℃〜202℃とすることが更に好ましい。」を 「・・・あらかじめ100℃〜210℃で加熱処理した後、グラフト反応に供する。この加熱処理の温度は、160℃〜202℃とすることが好ましい。」と訂正する。 訂正事項i 明細書第6頁第8〜14行(特許公報第10欄第18〜27行)の 「発明の第二の態様は、ポリオレフィンとラジカル重合性モノマーとラジカル重合開始剤とを溶融および混練させることにより、グラフト変性ポリオレフィンを製造する方法であって、前記ラジカル重合性モノマーが、不飽和カルボン酸の酸無水物および不飽和カルボン酸よりなる群から選択される少なくとも1種のラジカル重合性モノマーであり、前記ラジカル重合開始剤として下記式(I)で表わされる有機過酸化物を用いることを特徴とする、グラフト変性ポリオレフィンの製造方法を提供する。」を 「なお、前記ラジカル重合開始剤として下記式(I)で表わされる有機過酸化物を用いることもできる。」と訂正する。 訂正事項j 明細書第6頁下から5行〜第7頁第18行(特許公報第9欄第40行〜第11欄第6行)の「第二の態様によっても・・・そのラジカルの安定性が低い。」を削除する。 訂正事項k 明細書第8頁第4行〜第12頁第14行(特許公報第11欄第26行〜第14欄末行)の「第二の態様において・・・グラフト変性効率を一層向上させることができる。」を削除する。 訂正事項l 明細書第13頁第14行〜第18頁第4行(特許公報第15欄第37行〜第21欄第47行)の「〔実験A〕〜0.1重量%程度増大していた。」を削除する。 訂正事項m 明細書第21頁下から7行(特許公報第25欄第29行)の「実施例D1」を「比較例D1」と訂正する。 訂正事項n 明細書第22頁第12行(特許公報第26欄第28行)の「実施例D3」を「比較例D3」と訂正する。 訂正事項o 明細書第23頁第3行〜第27頁第18行(特許公報第27欄第4行〜第32欄第7行)の「〔実験E〕〜加水分解量比が顕著に減少していた。」を削除する。 訂正事項p 明細書第13頁第5〜8行(特許公報第15欄第26〜30行)の「図面の簡単な説明〜関係を示すグラフである。」を削除する。 訂正事項q 第1図を削除する。 2-2.訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び特許請求に範囲の拡張・変更の存否 訂正事項aは、訂正前の請求項2の「前記不飽和カルボン酸無水物原料を前記グラフト反応に供する前に前記加熱処理することにより、この不飽和カルボン酸無水物原料の中に存在している加水分解物を酸無水物に変換し、水分を蒸発させる、請求項1記載のグラフト変性ポリオレフィンの製造方法」及び訂正前の請求項6の「前記不飽和カルボン酸無水物を100℃〜210℃で加熱処理する、請求項1〜5のいずれか一つの項に記載のグラフト変性ポリオレフィンの製造方法」との記載に基づいて、訂正前の請求項1における「加熱処理」の温度範囲及び作用を限定するものであるから、特許請求の範囲の限縮を目的とするものである。 訂正事項bは、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の限縮を目的とするものである。 訂正事項cは、訂正事項bによる請求項の削除に伴って請求項の項番を整理するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 訂正事項d〜fは、訂正事項b、cに対応して、引用請求項の項番を訂正後のものに改めるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 訂正事項g〜oは、訂正事項a〜cによる特許請求の範囲の訂正に伴って、対応する発明の詳細な説明の記載をこれと整合させるための訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 訂正事項p及びqは、訂正事項a〜cによる特許請求の範囲の訂正、及びこれに伴う訂正事項i〜kによる発明の詳細な説明の訂正(「第二の態様」の削除等。)に整合させるために、「図面の簡単な説明」の記載及び図面を削除する訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 そして、これらの訂正は、いずれも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 2-3.むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.本件発明 上記の結果、訂正後の本件請求項1〜4に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明4」という。)は、訂正された明細書(以下、「訂正明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 ポリオレフィンとラジカル重合性モノマーとラジカル重合開始剤とを溶融および混練させることにより、グラフト変性ポリオレフィンを製造する方法であって、前記ラジカル重合性モノマーが不飽和カルボン酸無水物であり、該不飽和カルボン酸無水物原料をグラフト反応に供する前にあらかじめ100℃〜210℃で加熱処理することにより、この不飽和カルボン酸無水物原料の中に存在している加水分解物を酸無水物に変換し、水分を蒸発させた後、前記グラフト反応に供することを特徴とする、グラフト変性ポリオレフィンの製造方法。 【請求項2】 前記不飽和カルボン酸無水物を160℃〜202℃で加熱処理する、請求項1記載のグラフト変性ポリオレフィンの製造方法。 【請求項3】 ポリオレフィンとラジカル重合性モノマーとラジカル重合開始剤とを溶融および混練させるグラフト変性ポリオレフィンの合成系に対して不活性な液状媒体を、前記不飽和カルボン酸無水物に加えて前記の加熱処理を実施し、この不飽和カルボン酸無水物を含む前記液状媒体を前記ポリオレフィンに対して添加する、請求項1または請求項2記載のグラフト変性ポリオレフィンの製造方法。 【請求項4】 前記液状媒体として、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンおよびトリクロロベンゼンよりなる群から選択される少なくとも1種の芳香族溶媒を使用する、請求項3記載のグラフト変性ポリオレフィンの製造方法。」 4.特許異議の申立についての判断 4-1.特許異議申立人の主張 特許異議申立人は、甲第1〜6号証を提出して、概略、次の理由により本件請求項1〜24に係る特許は取り消されるべきである旨、主張する。 (1)本件請求項1、2に係る発明は甲第1号証に記載された発明であり、本件請求項11〜13及び20、21に係る発明は甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 (2)本件請求項1〜24に係る発明は、甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 4-2.判断 4-2-1.取消理由 当審において、平成14年11月20日付けで通知した取消理由及び引用した刊行物は以下のとおりである。 (1)本件請求項1〜5及び8〜10に係る発明は刊行物3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 (2)本件請求項21〜23に係る発明は刊行物1又は3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 (3)本件請求項1〜5及び8〜10に係る発明は、刊行物2及び3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 (4)本件請求項6〜7に係る発明は、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 (5)本件請求項11及び15〜20に係る発明は、刊行物1及び3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 (6)本件請求項12〜14に係る発明は、刊行物3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 (7)本件請求項24に係る発明は、刊行物4及び5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 (註:上記4-1.及び4-2-1.の「請求項」とは訂正前のものを指す。) <刊行物> 刊行物1; 米国特許第4,987,190号明細書(特許異議申立人が提出した甲第2号証) 刊行物2; 米国特許第5,189,120号明細書(同甲第4号証) 刊行物3; 特表平4-505165号公報(同甲第6号証) 刊行物4; 特開昭63-254118号公報(同甲第1号証) 刊行物5; 特開昭63-178117号公報(同甲第3号証) 4-2-2.刊行物1〜3の記載内容 刊行物1 (1-1) 「本発明は、高密度ポリエチレン上に二酸無水物をグラフト重合させる場合に有益な組成物に関する。」(第1欄第7〜9行) (1-2) 「従来、無水マレイン酸でグラフト変性させた高密度ポリエチレンは、メルト/フロー指数が小さくまた他の物理特性から、回転成形に特に適合すると考えられていた。あいにく、高密度ポリエチレンに無水マレイン酸をグラフトする技術は、スコーチ、即ち、架橋が時期尚早に生じたりし、そして、スコーチを抑制するために開発された種々の方法は高密度ポリエチレンにはほとんど効果がない。また、スコーチ抑制添加物を使用すると、グラフト変性製品のモジュラスを小さくしてしまい、高モジュラスを保持することを必要とする回転成形に反することとなっていた。」(第1欄第22〜33行) (1-3) 「本発明の目的は、マレイン酸無水物あるいは類似の無水物でグラフト変性した高密度ポリエチレンを実質的にスコーチを生ずることなく製造するのに好適に使用される組成物を提供することである。」(第1欄第36〜39行) (1-4) 「本発明によると、上記の目的は次の組成物でかなえられる。 (i)エチレン及び1あるいは2以上の他のα-オレフィンからなるホモポリマーあるいはコポリマーであって、エチレンに基づくコポリマーの部分が、コポリマーの重量の少なくとも約60重量%であり、該ホモポリマーあるいはコポリマーの密度が少なくとも0.940g/cm3 である; (ii)プロピレン及び1あるいは2以上の他のα-オレフィンからなるホモポリマーあるいはコポリマーであって、プロピレンに基づくコポリマーの部分が、コポリマーの重量の少なくとも約60重量%である;及び (iii)不飽和脂肪族二酸無水物。」(第1欄42〜64行) (1-5) 「炭素数4〜20、好ましくは炭素数4〜10の不飽和脂肪族二酸無水物類は、種々のポリオレフィン類に普通にグラフトされる。本発明で好ましく使用される無水物類の例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水ナジック酸などである。特に好ましい無水物は、無水マレイン酸である。グラフト反応の後、過剰の無水物が存在している場合には、200〜250℃の温度範囲での脱揮発によって除去することができる。 グラフト反応は、有機過酸化物、例えば、ジクミルパーオキサイド、・・・・およびα,α’-ビス(ターシャリブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼンなどのラジカル開始剤を使用して、遂行される。上記有機過酸化物は、無水物と共に添加することができる。」(第2欄第31〜49行) (1-6) 「ポリエチレンに無水マレイン酸をグラフトする典型的な方法は、米国特許第4,506,056号(1985年3月19日発行)に記載されている。 グラフト化は、無水物、有機過酸化物触媒及び有機溶剤からなる溶液を粒子形態のポリエチレン及びポリプロピレンの混合物に添加することによっても、達成することができる。」(第3欄第1〜7行) (1-7) 「密度が0.942g/cm3で、メルトインデックスが40g/10分のポリエチレンホモポリマーと、プロピレンと1-ヘキセンとのコモノマーから製造され、密度が0.900g/cm3で、メルトインデックスが9.1g/10分のポリプロピレンを、無水マレイン酸、酸化防止剤と、40グラムヘッドに設定されたブラベンダーで混合した。プロピレンに含ませた1-ヘキセンは、共重合体の重量基準で3%である。混合物は、ジクミルパーオキサイドを添加する前に、160℃で溶融・混合した。次いで、温度を180℃に5分間上昇させた。」(第3欄第59行〜第4欄第3行) 刊行物2 (2-1) 「本発明は、密度が0.930g/cm3未満のエチレン重合体に、エチレン性不飽和カルボン酸、カルボン酸無水物、および/または、これらの誘導体を、過酸化物の不存在下にグラフトさせる方法に関する。」(第1欄第13〜17行) (2-2) 「同じ刊行物によれば、慣用の押出機を用いる場合に、開始剤を用いなければ反応は全く起きない。しかしながら、有機過酸化物等の好適な開始剤を反応混合物に加え、例えば、米国特許第3,862,265号、3,953,655号及び4,001,172号明細書に記載されたような、専用の反応ゾーン中で反応を実施すれば、グラフト変性も可能である。 しかしながら、この方法においては、また、ポリマーが劣化し、ポリエチレンをベースポリマーとする場合には、さらに架橋が進む危険性がある。」(第1欄第34〜45行) (2-3) 「好ましい方法では、グラフトさせる単量体は、液体の状態でエチレンポリマーと混合される。この目的で、グラフトさせる単量体は事前に溶融させてもよい。」(第3欄第35〜38行。) (2-4) 「実施例1:100重量部のLLDPE(エチレン93重量%とブテン7重量%との共重合体;すべての実験において、温度190℃、荷重2.16kgで、ASTM-D-1238-65-Tに準拠して測定して、メルトフローインデックス=4.5g/10分;すべての実験において、DIN 53,479に準拠して測定して、密度=0.920g/cm3)を、W&P社製の二軸押出機ZDSK53で温度140℃で溶融させた。液状の無水マレイン酸0.25重量部を溶融物にポンプで注入して基体ポリマーと混合し、反応は260℃で行った。・・・・無水マレイン酸のグラフト収率は96%であった。グラフト重合体(メルトフローインデックス=4.0g/10分)は、エポキシ樹脂または金属などの極性物質に対し改良された接着性を有しており、さらに完全に無色、無臭であった。」(第4欄第14〜35行) (2-5)「請求項1:フリーラジカル触媒または他のグラフト開始添加剤を加えることなく、慣用の押出機で1〜500バールの下に密度が0.930g/cm3未満のエチレンの飽和ホモポリマーあるいはコポリマー上に炭素原子数が3〜6のエチレン性不飽和カルボン酸及びその無水物からなる群から選択したモノマー性化合物をグラフト重合させる方法であって、140℃以上の温度で予め溶融したエチレン性ポリマーに対してグラフト化させるモノマーをエチレン性ポリマー基準で0.01〜0.20重量%の濃度で混合し、グラフト化反応を210〜300℃の温度で行い、モノマーを実質的に完全にグラフト変性したポリマー製品に転化させるグラフト重合方法。」(第6欄第40〜62行) 刊行物3 (3-1)「12.重合体に無水マレイン酸をグラフトする方法において、 (a)多重スクリュー押し出し器に重合体、無水マレイン酸及び遊離基開始剤を供給する工程、そして (b)押し出し器中での加熱及び剪断することにより重合体を溶融する工程、そして (c)次に無水マレイン酸の少なくとも一部が溶融重合体にグラフトするのに十分な時間押し出し器中において溶融重合体及び無水マレイン酸を混合する工程を含み、工程(a)における無水マレイン酸の添加の前に工程(b)が先行し、さらに加圧されしかも溶融重合体により満たされた多重スクリュー押し出し器の部分中に無水マレイン酸及び遊離基開始剤を注入することを特徴とする方法。 13.無水マレイン酸および遊離基開始剤は、押し出し器中への注入前に溶媒系で混合され、さらに押し出し器は、同時回転、二軸スクリュー押し出し器である請求項12の方法。」(請求項12及び13) (3-2) 「バックボーン重合体は、それらに限定されないが、(i)ポリオレフィン例えばポリプロピレン、ポリ(4-メチルペンテン)、高密度ポリエチレン、・・・及び誘導体を含む。」(第3頁左上欄第25行〜同頁右上欄第7行) (3-3) 「無水マレイン酸は、好ましくは非反応性溶媒例えばケトン、ベンゼン、酢酸アルキル又は塩素化ベンゼン中で混合され、無水マレイン酸供給タンク30に貯蔵される。無水マレイン酸は、その飽和レベルまで溶媒中に溶解できる。その上、遊離基開始剤は、貯蔵中無水マレイン酸と混合されるか、又は別々に押し出し器のバレル2中に注入出来る。無水マレイン酸及び溶媒溶液を、定量ポンプ32により貯蔵タンク30から汲み出し、注入ノズル34を通って第一のゾーン10中に注入する。もし遊離基開始剤が別々に加えられるか、又はもし追加の開始剤が必要ならば、遊離基開始剤は、第二の貯蔵タンク40の溶媒溶液中に貯えられ、第二の注入ノズル44を通って第一のゾーン10中に注入されるために第二の定量ポンプ42により汲み出される。」(第3頁右上欄第27行〜同頁左下欄第7行) 4-2-3.対比・判断 (1)本件発明1 刊行物1には、マレイン酸無水物あるいは類似の無水物でグラフト変性した高密度ポリエチレンを実質的にスコーチを生ずることなく製造することを目的とする、特定の(i)エチレンホモポリマーあるいはコポリマー、(ii)ポリプロピレンホモポリマーあるいはコポリマー及び(iii)不飽和脂肪族二酸無水物からなる組成物が記載されている(摘示記載(1-1)、(1-2)、(1-3)、(1-4))。また、グラフト反応は、有機過酸化物などのラジカル開始剤を用いて行われることが記載されており(摘示記載(1-5)、(1-6)、実施例には、特定のポリエチレンホモポリマーと、プロピレンと1-ヘキセンとのコモノマーから製造されたポリプロピレンと、無水マレイン酸と、酸化防止剤とをブラベンダーミキサー中で160℃で溶融・混合した後、有機過酸化物を添加して、180℃で反応させることが記載されている(摘示記載(1-7))。 そうしてみると、本件発明1と刊行物1に記載された発明とは、ポリオレフィンと不飽和カルボン酸無水物とラジカル開始剤を溶融および混練させることにより、グラフト変性ポリオレフィンを製造する点では一致するものの、刊行物1には、本件発明1の構成要件である、 (あ)「不飽和カルボン酸無水物原料をグラフト反応に供する前にあらかじめ100℃〜210℃で加熱処理することにより、この不飽和カルボン酸無水物原料の中に存在している加水分解物を酸無水物に変換し、水分を蒸発させた後、前記グラフト反応に供する」 点については何ら記載がない。 また、刊行物2には、エチレン重合体にエチレン性不飽和カルボン酸、カルボン酸無水物、および/またはこれらの誘導体を過酸化物の存在下にグラフトさせる際に起こるポリマーの劣化等の不利益を避けるために、過酸化物の不存在下にグラフトさせる方法(摘示記載(2-1)、(2-2))が記載されており、予め140℃以上の温度で溶融されたエチレン性ポリマーに対してグラフトさせるモノマーを混合すること(摘示記載(2-5))およびグラフト反応される単量体は事前に溶融することが好ましいこと(摘示記載(2-3))も記載され、実施例1には140℃で溶融されたLLDPE(エチレン93重量%とブテン7重量%との共重合体)に、液状の無水マレイン酸をポンプで注入して、混合したことが記載されている(摘示記載(2-4))。 そうすると、刊行物2には、ポリオレフィンと不飽和カルボン酸無水物とをラジカル開始剤の不存在下に溶融および混練させることによりグラフト変性ポリオレフィンを製造することが記載されているものの、ポリオレフィンと不飽和カルボン酸無水物とラジカル開始剤とを溶融および混練させることによりグラフト変性ポリオレフィンを製造することは記載されておらず、また、無水マレイン酸を溶融する温度についても、無水マレイン酸(不飽和カルボン酸無水物)原料中に存在している加水分解物及び水分の挙動についても何ら教示するところがないから、本件発明1における上記(あ)の点は記載も示唆もされていない。 更に、刊行物3には、多重押し出し器中でポリオレフィンを溶融し、溶融されたポリオレフィンにより満たされた多重スクリュー押し出し器の部分中に無水マレイン酸および遊離基開始剤を注入し、溶融ポリオレフィンおよび無水マレイン酸を混合する工程を含む、ポリオレフィンに無水マレイン酸をグラフトする方法並びに無水マレイン酸および遊離基開始剤を押し出し器の注入前に溶媒中で混合する前記方法(摘示記載(3-1)、(3-2))が記載され、更に無水マレイン酸は、好ましくは非反応溶媒中で混合され、無水マレイン酸供給タンクで貯蔵される(摘示記載(3-3))ことが記載されているが、無水マレイン酸をポリオレフィンと混合する前に加熱処理することも、無水マレイン酸と溶媒の溶液をポリオレフィンと混合する前に加熱処理することも記載されていない。 そうしてみると、刊行物3に記載された発明は、ポリオレフィンと不飽和カルボン酸無水物とラジカル開始剤を溶融および混練させることにより、グラフト変性ポリオレフィンを製造する点では本件発明1と一致するものの、本件発明1の上記(あ)の点について、刊行物3には記載も示唆もされていない。 そして、本件発明1は(あ)の点により、訂正明細書の実施例及び比較例に示されているように、グラフト変性されたポリオレフィン中に残存する残留酸量及び加水分解物量比を大幅に低減できるという顕著な効果を奏し得たものである。 したがって、本件発明1は、刊行物1〜3に記載された発明であるとも、これらの刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことができない。 (2)本件発明2〜4 本件発明2〜4は、本件発明1を更に技術的に限定したものであり、上記のように本件発明1が刊行物1〜3に記載された発明ではなく、これらの刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、同様の理由により、本件発明2〜4もまた、刊行物1〜3に記載された発明ではなく、これらの刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 4-2-4.特許異議申立人が提出したその他の証拠について 特許異議申立人が提出した甲第1号証(刊行物4)及び甲第3号証(刊行物5)には、無水マレイン酸等のモノマーを用いたグラフトポリマーの製造方法について記載されているものの、本件発明1における上記(あ)の点は記載乃至示唆されておらず、また、甲第5号証には、マレイン酸を加熱して無水マレイン酸が生じることが一般的に記載されているにすぎない。 したがって、本件発明1〜4は、これら甲各号証に記載された発明、更には、それに刊行物1〜3に記載された発明を併せたものに基づいて、当業者が容易になし得たものとすることはできない。 5.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明1〜4についての特許を取り消すことができない。 また、他に本件発明1〜4についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 グラフト変性ポリオレフィンの製造方法 (57)【特許請求の範囲】 1.ポリオレフィンとラジカル重合性モノマーとラジカル重合開始剤とを溶融および混練させることにより、グラフト変性ポリオレフィンを製造する方法であって、前記ラジカル重合性モノマーが不飽和カルボン酸無水物であり、該不飽和カルボン酸無水物原料をグラフト反応に供する前にあらかじめ100℃〜210℃で加熱処理することにより、この不飽和カルボン酸無水物原料の中に存在している加水分解物を酸無水物に変換し、水分を蒸発させた後、前記グラフト反応に供することを特徴とする、グラフト変性ポリオレフィンの製造方法。 2.前記不飽和カルボン酸無水物を160℃〜202℃で加熱処理する、請求項1記載のグラフト変性ポリオレフィンの製造方法。 3.ポリオレフィンとラジカル重合性モノマーとラジカル重合開始剤とを溶融および混練させるグラフト変性ポリオレフィンの合成系に対して不活性な液状媒体を、前記不飽和カルボン酸無水物に加えて前記の加熱処理を実施し、この不飽和カルボン酸無水物を含む前記液状媒体を前記ポリオレフィンに対して添加する、請求項1または請求項2記載のグラフト変性ポリオレフィンの製造方法。 4.前記液状媒体として、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンおよびトリクロロベンゼンよりなる群から選択される少なくとも1種の芳香族溶媒を使用する、請求項3記載のグラフト変性ポリオレフィンの製造方法。 【発明の詳細な説明】 発明の背景 1.技術分野 本発明はナイロン、ポリエステル、ガラス、金属などの極性物質との接着性が良好な、グラフト変性されたポリオレフィンの製造方法に関する。 2.関連技術 一般に、ポリオレフィンは、機械的性質、成形性、衛生性等に優れているため広い分野にわたって使用されている。しかし、ポリオレフィンは非極性であるために、極性物質との接着性が悪いという欠点がある。ポリオレフィンの極性物質との接着性を向上させるため、種々の提案がなされている。重合性の不飽和結合を有するラジカル重合性モノマーを、ポリオレフィンとグラフト反応させることにより、ポリオレフィンの中に導入する方法も、この提案のひとつである。ラジカル重合性モノマーとしては、不飽和カルボン酸またはその誘導体からなるモノマー等が知られている。 グラフト反応の方法としては、溶液状態で反応させる方法(例えば、特公昭44-15422参照)、スラリー状態で反応させる方法(例えば、特公昭43-18144号参照)、溶融状態で反応させる方法(例えば、特公昭43-27421号参照)などがある。 これらの方法のなかで、押出機を使用し、各材料を押出機の溶融ゾーン内で溶融させ、溶融状態で反応させる方法(溶融グラフト法)によれば、必要な製造設備の操作が簡単であるので、溶融グラフト法が、広く工業的に用いられている。溶融状態でグラフト反応を行った後は、未反応のモノマーを除去する目的で、押出機に設置されたベント装置などにより、グラフト反応生成物を減圧処理している。 しかし、溶融状態でグラフト反応を行わせる方法では、一般にグラフト効率が低いという問題がある。 また、溶融グラフト法によって製造したグラフト変性ポリオレフィン中には、未反応のラジカル重合性モノマーや、グラフト反応以外の副反応に起因する未グラフト副生成物が残留している。グラフト反応生成物中において、これらの残留量が多いと、グラフト変性ポリオレフィンの極性物質への接着性が低下する。また、グラフト変性ポリオレフィンを成形して各種部材、シート、フィルムなどを成形する際に、これらの残留物の作用によって、気泡が発生することがある。従って、これらの残留物の量を低減する必要がある。 発明の開示 本発明の目的は、ポリオレフィンとラジカル重合性モノマーとラジカル重合開始剤とを溶融および混練させることにより、グラフト変性ポリオレフィンを製造する方法において、ポリオレフィンの溶融下にラジカル重合性モノマーを効率よくグラフト重合させ得るようにすることである。 また、本発明の目的は、ポリオレフィンとラジカル重合性モノマーとラジカル重合開始剤とを溶融および混練させることにより、グラフト変性ポリオレフィンを製造する方法において、未反応モノマー、未グラフト副生成物等の残留物の量を、著しく低減できるようにすることである。 本発明においては、これらの目的を達成するために、ポリオレフィンのラジカルの発生効率を向上させ、これとラジカル重合性モノマーの反応効率を向上させる方法を提供する。 本発明の第一の態様は、ポリオレフィンとラジカル重合性モノマーとラジカル重合開始剤とを溶融および混練させることにより、グラフト変性ポリオレフィンを製造する方法であって、前記ラジカル重合性モノマーが不飽和カルボン酸無水物であり、該不飽和カルボン酸無水物原料をグラフト反応に供する前にあらかじめ100℃〜210℃で加熱処理することにより、この不飽和カルボン酸無水物原料の中に存在している加水分解物を酸無水物に変換し、水分を蒸発させた後、前記グラフト反応に供することを特徴とする、グラフト変性ポリオレフィンの製造方法を提供する。 本発明者らは、上記溶融グラフト法について、モノマーとして特に不飽和カルボン酸無水物を用いて追試したところ、減圧処理によっても除去することが困難な不純物が、変性ポリオレフィン中に残存していた。そして、この不純物を分析した結果、この不純物のかなりの部分は、不飽和カルボン酸無水物の加水分解によって生成した不飽和カルボン酸や、活性ラジカルによって生成した飽和カルボン酸であることを、発見した。 本発明の第一の態様は、モノマーとして不飽和カルボン酸無水物を用いた場合に、変性されたポリオレフィン中に残存する残留物の量を顕著に減少させるものであり、特に、加水分解によって生成した不飽和カルボン酸や、活性ラジカルによって生成した飽和カルボン酸の量を低減することができる、溶融グラフト法による変性ポリオレフィンの製造方法を提供する。 本発明者らは、変性ポリオレフィン中に存在する不純物は、グラフト反応系へ供給する不飽和カルボン酸無水物原料中に存在している加水分解物に由来することをつきとめた。この加水分解物は、カルボン酸無水物に対応する不飽和カルボン酸である。この不飽和カルボン酸は、不飽和カルボン酸無水物をグラフト反応に供するまでの間に、空気などの雰囲気中に含有される水分と接触することで、生成したものである。そして、この不飽和カルボン酸は、ポリオレフィンとのグラフト反応性が、不飽和カルボン酸無水物に比べて劣るので、変性ポリオレフィン中に不純物として残留する。しかも、こうした未反応の不飽和カルボン酸や活性ラジカルにより生成した飽和カルボン酸は、沸点が高いので、減圧処理によっても反応系から除去することが困難であった。本発明者らはこの知見に基づき、グラフト反応に供する前に、原料の不飽和カルボン酸無水物を加熱し、その中に存在している加水分解物を酸無水物に変換すると共に、水分を蒸発させて除去することを発想して、本発明を完成するに到った。 本態様で用いる不飽和カルボン酸無水物は、ラジカル重合性の炭素-炭素二重結合を有するカルボン酸無水物である。こうした不飽和カルボン酸無水物としては、環状の酸無水物構造を分子内に有しているものが、好ましい。また、具体的な化合物名をもって示せば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸およびシクロペンテンジカルボン酸無水物よりなる群から選択される不飽和カルボン酸無水物が好ましい。無水フマール酸も好ましい。なかでも、無水マレイン酸が、コストが低く、グラフト反応を起こしやすいので、特に好適である。 本態様において、更に、不飽和カルボン酸無水物原料とラジカル重合開始剤とのいずれかの一方をポリオレフィンと共に溶融させて溶融物を得、不飽和カルボン酸無水物原料とラジカル重合開始剤とのうちポリオレフィンに加えなかった方を前記の溶融物に供給して、グラフト反応を行うことが好ましい。これにより、加水分解物や未反応モノマーの量を低減できるのと共に、グラフト変性効率が、一層向上する。 不飽和カルボン酸無水物の使用量は、得られる変性ポリオレフィンの接着性能、他の樹脂とポリマーアロイを形成する場合における相溶化剤としての性能、グラフト反応効率、着色の防止および長期間特性を維持させるなどの観点から、ポリオレフィンに対して、0.001〜20重量%とすることが好ましく、0.05〜5重量%とすることが特に好ましい。 第一の態様では、上記の不飽和カルボン酸無水物原料を、あらかじめ100℃〜210℃で加熱処理した後、グラフト反応に供する。この加熱処理の温度は、160℃〜202℃とすることが好ましい。このような加熱処理により、不飽和カルボン酸無水物原料中に少量含まれているその加水分解物が、酸無水物へ変化し、水分も蒸発する。 例えば無水マレイン酸の場合、その加水分解物であるマレイン酸は、160℃以上で急速に脱水および環化反応をし、無水マレイン酸に変化する。この加熱処理により、グラフト反応性が著しく低く、ベント装置による減圧処理で脱揮されにくいマレイン酸の残存が、顕著に抑制されるし、グラフト反応効率が顕著に向上する。 第一の態様においては、加熱処理によって不飽和カルボン酸無水物を溶融させ、この溶融物をポリオレフィンに対して添加することができる。 また、ポリオレフィンとラジカル重合性モノマーとラジカル重合開始剤とを溶融および混練させるグラフト変性ポリオレフィンの合成系に対して不活性な液状媒体を、不飽和カルボン酸無水物に加えて前記の加熱処理を実施し、この不飽和カルボン酸無水物を含む液状媒体をポリオレフィンに対して添加することが好ましい。この液状媒体としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンおよびトリクロロベンゼンよりなる群から選択される少なくとも1種の芳香族溶媒を使用することが好ましい。 この液状媒体と不飽和カルボン酸無水物とを混合し、加熱処理したときには、不飽和カルボン酸無水物の溶液を生じさせることができ、また、不飽和カルボン酸無水物が分散されたスラリーを生じさせることができる。ただし、溶液の方が一層好ましい。 第一の態様で使用されるポリオレフィンとしては、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂(低密度品から高密度までを含む)、ポリ-1-ブテン樹脂、ポリ-4-メチル-1-ペンテン樹脂、エチレン-プロピレン共重合エラストマー、プロピレン-1-ブテン共重合樹脂またはエラストマー、プロピレン-4-メチル-1-ペンテン共重合樹脂またはエラストマーなどを挙げることができる。なかでも、本方法は、ポリプロピレン樹脂およびポリエチレン樹脂の変性物を製造する場合に好ましく、ポリプロピレン樹脂の変性物を製造する場合に、特に好ましい。 第一の態様では、グラフト反応開始剤として、ラジカル重合開始剤を用いることができる。例えばペンゾイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシラウレート、ジクミルパーオキサイド、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,4-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、2,5-ジ-(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシベンゾエート、n-ブチル-4,4-ビス-(t-ブチルパーオキシ)バレード、オクタノイルパーオキサイド、p-メンタンヒドロパーオキサイド、t-ブチメパーオキシアセテートなどの有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、2,2-アゾビス(2,4,4-トリスメチルバレロニトリル)、2,2-アゾビス(2-シクロプロピルプロピオニトリル)などのアゾビス化合物;過硫酸カリ、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモンなどの無機過酸化物を挙げることができる。これらは単独であるいは併用して用いることができる。 また、本態様において、前記不飽和カルボン酸無水物の加熱処理とポリオレフィンのグラフト反応は、同時に行う方が、生産効率の点で好ましい。具体的には、主フィーダーからポリオレフィンとラジカル重合開始剤とを供給し、溶融ゾーン等に設けた液体注入ラインから、加熱タンク等で加熱処理しながらポンプで液体を送って、反応を行わせる方法などが、好ましい方法である。 グラフト反応開始剤の使用量は、不飽和カルボン酸のグラフト量および変性ポリオレフィンの分子量を適切に維持する観点から、ポリオレフィンに対して、0.001〜10重量%、好ましくは0.05〜2重量%程度である。 なお、前記ラジカル重合開始剤として下記式(I)で表わされる有機過酸化物を用いることもできる。 〔式(I)において、ベンゼン環に直接結合している二つの置換基は互いにオルソ位またはメタ位の関係にあり、R1、R2、R3、R4、R5およびR6は、互いに同一または異なっており、それぞれ水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を示す。〕 更に、式(I)の開始剤において、前記した二つの置換基が互いにメタ位の関係にあるものが、入手し易く、コストが低いことから、特に好ましい。 更に、R1およびR6が3級のアルキル基であるものが、開始剤のラジカルの発生効率が高いので、特に好ましく、R2、R3、R4およびR5が1級のアルキル基であるものが、立体障害の観点から、特に好ましい。 式(I)の開始剤においては、α,α′-ビス-t-ブチルパーオキシ-m-ジイソプロピルベンゼンおよびα,α′-ビス-ハイドロパーオキシ-m-ジイソプロピルベンゼンが特に好ましく、α,α′-ビス-t-ブチルパーオキシ-m-ジイソプロピルベンゼンが一層好ましい。 式(I)のラジカル開始剤は、単独であるいは複数併用して用いることができる。 式(I)の開始剤の使用量は、モノマーのグラフト量およびグラフト変性ポリオレフィンの分子量を適切に維持する観点から、ポリオレフィンに対して通常0.001〜10重量%とし、好ましくは0.05〜2重量%程度とする。 前記してきた本発明の各態様において、グラフト反応を行う混練機は特に制限されない。単軸押出機、二軸押出機、ニーダー型反応機、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、ダブルスクリューミキサー等、適宜用いることができる。また、これらの混練機には、不純物の少ないグラフト変性ポリオレフィンを得る目的で真空ベント装置等の脱揮装置を設置し、未グラフト副生成物や、未反応モノマーの脱揮を行っても良い。 前記してきた本発明の各態様において、溶融混練温度(クラフト反応温度)は、ポリオレフィンの融点および分子量を考慮して、ポリオレフィンが充分に流動する温度を選択する。通常120〜250℃である。ポリエチレン樹脂の場合は、120〜200℃とすることが好ましく、ポリプロピレン樹脂の場合は、150〜250℃の温度とすることが好ましい。あまり高い温度では、ポリオレフィンの熱分解、不飽和カルボン酸の揮発の問題が生じる。 前記してきた本発明の各態様において、溶融グラフト反応時間は、グラフト反応温度、ラジカル重合性モノマーの種類、ラジカル重合開始剤の種類および所望のグラフト量等によって適宜に決めることができる。通常0.1〜10分程度の反応時間である。 また、前記してきた本発明の各態様において、グラフト反応を行うに当って、本発明の利点、効果を損わない範囲で適切な酸化防止剤、加工安定剤、可塑剤等の添加剤を配合してもよい。 実施例 以下、本発明の各態様について、実施例を記載するが、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではなく、これらの実施例のあらゆる変形を含むものであり、本発明の範囲は、後述する請求の範囲によってのみ、決定されるべきものである。 〔実験C〕 本実験においては、各変性ポリプロピレンにおける酸含量、残留酸量、加水分解物と酸無水物との重量比(加水分解物量比)およびメルトフローレートは、以下の方法で測定した。 (1)酸含量 グラフト溶融後の未精製の変性ポリプロピレン製品を、熱プレスによって成形して厚さ約0.1mmのフィルムを製造し、このフィルムの赤外吸収スペクトルを測定した。酸無水物基に起因する吸収(1785cm-1)と、カルボキシル基に起因する吸収(1710cm-1)から、未精製の変性ポリプロピレンに含まれる酸無水物基およびその加水分解基を定量した。これらの値を、無水マレイン酸の量に換算した。 さらに、未精製の変性ポリプロピレンを熱キシレンに溶解した後、アセトン中に再沈澱させ、アセトン液を濾過し、固体を乾燥することにより、未反応の無水マレイン酸、その加水分解物およびその他の副生成物を除去し、変性ポリプロピレンを精製した。この精製後の変性ポリプロピレンについて、上記と同様の方法で酸含量を定量した。 (2)残留酸量 上記(1)の方法で定量した未精製の変性ポリプロピレン中の酸含量から、精製された変性ポリプロピレン中の酸含量を差し引き、この差を残留酸量とした。 (3)加水分解物と酸無水物との重量比(加水分解物量比) 上記(1)の方法で定量した、未精製の変性ポリプロピレン中に含まれる加水分解基対酸無水物基の重量比(但し、無水マレイン酸換算)を計算した。 (4)メルトフローレート(MFR) ASTM D1238 52Tに従い、230℃において2160gの荷重のもとで測定した。 実施例C1 ダブルスクリューミキサーでMFR45のポリプロピレン(住友化学製X101A)100重量部を、180℃で溶融および混練した。無水マレイン酸を180℃で加熱して溶融させ、溶融した無水マレイン酸20重量部を溶融ポリプロピレンに添加し、ラジカル重合開始剤α,α′-ビス-t-ブチルパーオキシ-m-ジイソプロピルベンゼン〔式(I)の開始剤〕1.4重量部を加えた。得られた未精製の変性ポリプロピレンの酸含量、加水分解物量比を、表4に示す。 実施例C2 ダブルスクリューミキサーでMFR45のポリプロピレン(住友化学製X101A)100重量部を180℃で溶融混練した。無水マレイン酸を150℃で加熱して溶融させ、溶融した無水マレイン酸20重量部を添加し、開始剤α,α′-ビス-t-ブチルパーオキシ-m-ジイソプロピルベンゼン1.4重量部を加えた。得られた未精製の変性ポリプロピレンの酸含量、加水分解物量比を、表4に示す。 実施例C3 ダブルスクリューミキサーでMFR45のポリプロピレン(住友化学製X101A)100重量部を180℃で溶融混練し、無水マレイン酸を110℃で加熱して溶融させ、溶融した無水マレイン酸20重量部を添加し、開始剤α,α′-ビス-t-ブチルパーオキシ-m-ジイソプロピルベンゼン1.4重量部を加えた。得られた未精製の変性ポリプロピレンの酸含量、加水分解物量比を、表4に示す。 比較例C1 ダブルスクリューミキサーでMFR12のポリプロピレン(徳山曹達製SH152)100重量部、加熱していない無水マレイン酸の粉末5重量部、開始剤ジクミルパーオキサイド0.5重量部を、180℃にて溶融および混練した。得られた未精製の変性ポリプロピレンの酸含量、加水分解物量比を、表4に示す。 比較例C2 ダブルスクリューミキサーでMFR12のポリプロピレン(徳山曹達製SH152)100重量部、加熱していない無水マレイン酸の粉末5重量部、開始剤ジクミルパーオキサイド0.5重量部を170℃にて溶融および混練した。得られた未精製の変性ポリプロピレンの酸含量、加水分解物量比を、表4に示す。 実施例C4 無水マレイン酸を100℃で加熱して溶融させ、溶融無水マレイン酸を得た。二軸押出機(日本製鋼所製、TEX30HSST型、直径30mmφ、L/D=42)で、MFR45のポリプロピレン(住友化学製X101A)100重量部と、溶融無水マレイン酸2.7重量部と、開始剤α,α′-ビス-t-ブチルパーオキシ-m-ジイソプロピルベンゼン0.15重量部とを混合して、180℃で溶融および混練した。また、二軸押出機において、ベント装置による脱揮をした。得られた未精製の変性ポリプロピレンの酸含量、加水分解物量比を、表5に示す。 実施例C5 無水マレイン酸を100℃で加熱して溶融させ、溶融無水マレイン酸を得た。二軸押出機(日本製鋼所製、TEX30HSST型、直径30mmφ、L/D=42)で、MFR45のポリプロピレン(住友化学製X101A)100重量部と、溶融無水マレイン酸2.7重量部と、開始剤α,α′-ビス-t-ブチルパーオキシ-m-ジイソプロピルベンゼン0.18重量部とを混合して、180℃で溶融および混練した。また、二軸押出機において、ベント装置による脱揮をした。得られた未精製の変性ポリプロピレンの酸含量、加水分解物量比を、表5に示す。 比較例C3 二軸押出機(日本製鋼所製、TEX30HSST型、直径30mmφ、L/D=42)でMFR45のポリプロピレン(住友化学製X101A)100重量部、加熱していない無水マレイン酸2.7重量部、開始剤ジクミルパーオキシサイド0.18重量部を180℃にて溶融および混練した。また、二軸押出機において、ベント装置による脱揮をした。得られた未精製の変性ポリプロピレンの酸含量、加水分解物量比を、表5に示す。 実施例C1、C2、C3、C4、C5においては、無水マレイン酸を予め溶融させると共に、ラジカル重合開始剤として式(I)の前記開始剤を使用したが、酸含有量、特に酸残留量が,大幅に減少しているし、加水分解物の比率が顕著に減少している。 〔実験D〕 比較例D1 ダブルスクリューミキサーでMFR45のポリプロピレン(住友化学製X101A)100重量部を、加熱していない無水マレイン酸の粉末20重量部、開始剤α,α′-ビス-t-ブチルパーオキシ-m-ジイソプロピルベンゼン1.4重量部を、180℃で溶融および混練した。得られた未精製の変性ポリプロピレンの酸含量は1.05重量%であり、、加水分解物量比は1.23重量%であった。 実施例D2 無水マレイン酸を100℃で加熱して溶融させ、溶融無水マレイン酸を得た。二軸押出機(日本製鋼所製、TEX30HSST型、直径30mmφ、L/D=42)で、MFR45のポリプロピレン(住友化学製X101A)100重量部と、溶融無水マレイン酸2.7重量部と、開始剤ジクミルパーオキサイド0.18重量部とを混合して、180℃で溶融および混練した。二軸押出機において、ベント装置による脱揮をした。得られた未精製の変性ポリプロピレンの酸含量は0.88重量%であり、残留酸量は0.29重量%であり、加水分解物量比は0.13重量%であった。このように、無水マレイン酸を予め溶融させることにより、変性ポリプロピレンにおいて、特に、残留酸量および加水分解物量比を大幅に低減することができた。 比較例D3 二軸押出機(日本製鋼所製、TEX30HSST型、直径30mm、L/D=42)で、MFR45のポリプロピレン(住友化学製X101A)100重量部を、加熱していない無水マレイン酸の粉末2.7重量部、開始剤α,α′-ビス-t-ブチルパーオキシ-m-ジイソプロピルベンゼン0.18重量部を、180℃で溶融および混練した。二軸押出機において、ベント装置による脱揮をした。得られた未精製の変性ポリプロピレンの酸含量は0.89重量%であり、残留酸量は0.35重量%であり、加水分解物量比は0.68重量%であった。 実施例D4 無水マレイン酸2.7重量部をキシレン10重量部に加え、110℃に加熱して溶解させ、無水マレイン酸の溶液を得た。二軸押出機(日本製鋼所製、TEX30HSST型、直径30mm、L/D=42)で、MFR45のポリプロピレン(住友化学製X101A)100重量部と、無水マレイン酸の溶液12.7重量部と、開始剤ジクミルパーオキサイド0.18重量部とを混合して、180℃で溶融および混練した。上記の二軸押出機において、ベント装置による脱揮をした。得られた未精製の変性ポリプロピレンの酸含量は0.92重量%であり、残留酸量は0.31重量%であり、加水分解物量比は0.15重量%であった。このように、無水マレイン酸をキシレン溶液中で加熱溶解させた場合であっても、実施例6等とほぼ同程度に、残留酸量や加水分解物量比を大幅に低減することができた。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2005-01-05 |
出願番号 | 特願平7-505743 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YA
(C08F)
P 1 651・ 121- YA (C08F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 原田 隆興 |
特許庁審判長 |
井出 隆一 |
特許庁審判官 |
大熊 幸治 船岡 嘉彦 |
登録日 | 2001-12-07 |
登録番号 | 特許第3258328号(P3258328) |
権利者 | ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ |
発明の名称 | グラフト変性ポリオレフィンの製造方法 |
代理人 | 松本 研一 |
代理人 | 小倉 博 |
代理人 | 伊藤 信和 |
代理人 | 小倉 博 |
代理人 | 黒川 俊久 |
代理人 | 黒川 俊久 |
代理人 | 伊藤 信和 |
代理人 | 松本 研一 |