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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B29B
管理番号 1114573
異議申立番号 異議2003-73199  
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-06-04 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-24 
確定日 2005-01-31 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3428749号「芳香族ポリカーボネート樹脂の再生方法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3428749号の訂正後の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3428749号の請求項1に係る発明についての出願は、平成6年11月25日に特許出願され、平成15年5月16日にその特許の設定登録がなされたところ、押谷泰紀(以下、必要に応じて「申立人A」という)、中島理(以下、必要に応じて「申立人B」という)より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内の平成16年7月26日に訂正請求がなされ、その後、当審より申立人に対し審尋がなされ、申立人Aから回答、申立人Bから「特に意見は申し述べません」という回答がなされ、その後再度、平成16年10月8日付けで取消理由通知がなされ、その指定期間内の平成16年12月20日に、新たに同日付けで訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否
訂正請求については、上記したとおり、平成16年7月26日付けと平成16年12月20日付けの2度にわたり提出されているが、それらの訂正請求の記載内容を相互に照らし合わせてみると、先の訂正請求を取下げたうえで後の訂正請求がなされたものであることは明白なことである。したがって、ここでは、当該平成16年12月20日付け訂正請求についてのみ、審及することにする。
2-1.訂正の内容
本件訂正の内容は、本件特許明細書を平成16年12月20日付け訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正しようとするものである。
(1)訂正事項a
請求項1を、「【請求項1】(A)基板が芳香族ポリカーボネート樹脂でありアルミ膜が付着したコンパクトディスク材1〜99重量%(a成分)、(B)粘度平均分子量が17,000〜60,000の芳香族ポリカーボネート樹脂99〜1重量%(b成分)及びa成分とb成分の合計を100重量部とした時、(C)亜燐酸エステル(c-1成分)及び/又は燐酸エステル(c-2成分)が0.005〜2.0重量部より実質的になる樹脂組成物を溶融混練して再生した樹脂の粘度平均分子量が16,500〜35,000であることを特徴とするメタリック調の外観を有する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の再生方法。」と訂正する。
(2)訂正事項b
請求項2を削除する。
(3)訂正事項c
明細書中の段落【0005】(本件特許掲載公報第2頁第3欄第25〜37行)を、「【課題を解決するための手段】本発明の目的は、(A)基板が芳香族ポリカーボネート樹脂でありアルミ膜が付着したコンパクトディスク材1〜99重量%(a成分)、(B)粘度平均分子量が17,000〜60,000の芳香族ポリカーボネート樹脂99〜1重量%(b成分)及びa成分とb成分の合計を100重量部とした時、(C)亜燐酸エステル(c-1成分)及び/又は燐酸エステル(c-2成分)が0.005〜2.0重量部より実質的になる樹脂組成物を溶融混練して再生した樹脂の粘度平均分子量が16,500〜35,000であることを特徴とするメタリック調の外観を有する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の再生方法によって達成される。この再生利用方法は、従来の方法と比べ手間が掛からず低コストで再生が可能であり、この再生利用方法により再生された芳香族ポリカーボネート樹脂樹脂組成物は、流動性、耐衝撃性、耐熱性に優れている。」と訂正する。
(3)訂正事項d
d-i.明細書中の段落【0018】の「[実施例1〜6及び比較例1、2]」(本件特許掲載公報第4頁第7欄第1行)を、「[実施例1及び比較例1〜7]」と訂正する。
d-ii.明細書中の段落【0021】の表1中の「実施例1」を、「比較例3」と訂正し、「実施例2」を、「比較例4」と訂正し、「実施例3」を「比較例5」と訂正し、「実施例4」を「比較例6」と訂正し、「実施例5」を、「実施例1」と訂正し、「実施例6」を「比較例7」と訂正する。
d-iii.明細書中の段落【0022】の表2中の「実施例1」を、「比較例3」と訂正し、「実施例2」を、「比較例4」と訂正し、「実施例3」を「比較例5」と訂正し、「実施例4」を「比較例6」と訂正し、「実施例5」を、「実施例1」と訂正し、「実施例6」を「比較例7」と訂正する。
1-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張変更の存否
(1)上記訂正事項aについて
上記訂正事項aを、詳細にみると、a-1.「(A)基板が芳香族ポリカーボネート樹脂であるコンパクトディスク材1〜99重量%(a成分)」を、「(A)基板が芳香族ポリカーボネート樹脂でありアルミ膜が付着したコンパクトディスク材1〜99重量%(a成分)」と訂正し、a-2.a、b成分以外に、「及びa成分とb成分の合計を100重量部とした時、(C)亜燐酸エステル(c-1成分)及び/又は燐酸エステル(c-2成分)が0.005〜2.0重量部より実質的になる」と訂正し、a-3.「芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の再生方法。」を、「メタリック調の外観を有する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の再生方法。」と訂正するというものである。
上記訂正事項a-1.は、「コンパクトディスク材」を「アルミ膜が付着したコンパクトディスク材」と限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、明細書の「再生すべきコンパクトディスク材は・・・アルミ膜、インク、UVコート膜が付着していてもかまわない。」(本件特許掲載公報第2頁第3欄第42〜46行)の記載からみて、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
上記訂正事項a-2.は、c成分について限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、訂正前の請求項2の記載からみて、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
上記訂正事項a-3.は、「芳香族ポリカーボネート樹脂組成物」を「メタリック調の外観を有する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物」と限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
そして、上記訂正事項a-3.は、明細書の「再生すべきコンパクトディスクにアルミ膜が付いている場合、アルミ膜が輝いて綺麗なメタリック調の外観になる。」(本件特許掲載公報第3頁第6欄第20〜22行)の記載からみて、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)上記訂正事項bについて
上記訂正事項bは、請求項の削除であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項c、d
上記訂正事項c、dは、上記訂正事項a、bの訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と明細書の記載を整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
1-3.まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正ずる法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.本件訂正発明
特許権者が請求した上記訂正は、上述したとおり、認容することができるから、訂正後の本件請求項1に係る発明は訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される上記2-1.(1)のとおりのものである(以下、必要に応じて「本件訂正発明」という)。

4.特許異議申立てについて
4-1.取消理由通知の概要
当審の上記平成16年10月8日付け取消理由通知の概要は、請求項1、2に係る発明は、刊行物1〜13に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり取り消されるべきものである、というものである。
4-2.刊行物の記載内容
(1)刊行物1:特開平4-253677号公報:申立人Aが回答書で提出した甲第9号証
(a)「光透過性樹脂を主体として金属細片を含有して成る材料によって成形された記録媒体用収納ケース。」(請求項1)
(b)「このトレー5はコンパクトディスク(CD)、光磁気ディスク等の光ディスクの廃棄物となる返品、不良品を利用して成形できるものである。」(第2頁第2欄第24〜26行)
(c)「この廃棄物となる光ディスク(以下廃棄光ディスクと云う)を利用してトレー5を成形する工程を説明する。先ず廃棄光ディスクを破砕機により所要の大きさに破砕する。この破砕片の大きさは3mm〜12mmが好しい。次にこの廃棄光ディスク破砕片の素材に必要に応じて着色剤と樹脂増強剤を添加して溶融混練して樹脂溶融材を製造する。この工程において廃棄光ディスク破砕片に付着する光反射金属膜(アルミニウム膜)は非常に薄く(0.1μm程度)であるため更に細分化されて樹脂材に均等に混入される。そして、この樹脂溶融材をペレタイザにより所要の大きさに造粒してペレットを成形する。このペレットを射出成形機に入れてトレー5を射出成形する。」(第2頁第2欄第27〜39行)
(d)「このトレー5の成形においてその成形主材料の一例としては、コンパクトディスク(ポリカーボネート樹脂層に光反射層としてアルミニウムを蒸着)の破砕片を97重量パーセント、樹脂増強材(商品名パラロイドEXL-2311・呉羽化学工業製)を3重量パーセントを用い、この成形主材料に着色剤を添加し、溶融混練して樹脂溶融材を製造した。以上のようにして成形されるコンパクトディスク収納ケース1のトレー5の表面には微細の金属(アルミニウム)片が現われて優美な銀河模様を呈し、見栄えが良好となる。」(第2頁第2欄第40〜50行)
(e)「以上のように、コンパクトディスク、光磁気ディスク、光ビデオディスク等の返品、不良品の廃棄光ディスクを成形材料として再利用するとこのディスク内に形成されている金属反射膜が微細となって均等に散在されて優美な外観を呈するディスク収納ケース、ディスクトレー等を得ることができる。」(第3頁第3欄第15〜20行)
(2)刊行物2:「Structural Plastics 92 20th Annual Conference Proceedings」(Aprill 5-8,1992)p47〜55:申立人Aの提出した甲第1号証
(a)「物理的、機械的及び流動特性(・・・)を変えるために、新規材料と他のリサイクル材をブレンドして使うことができる。異なるポリマーの相性は最適の特性を得るために重要である。」(第51頁右欄 訳文 以下同じ)
(b)「重合体の特性は、さらに添加剤によりモデファイすることができる。」(第51頁右欄)
(c)「物理的及び熱的特性は、分子量に依存する」(第52頁左欄)
(3)刊行物3:特開昭63-15842号公報:申立人Aの提出した甲第2号証
(a)「ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、ハイドロタルサイト類化合物を0.001〜1重量部、及び亜リン酸エステル、次亜リン酸エステル、及びヒンダードフェノール系酸化防止剤から選ばれる少なくとも1種を0.005〜0.5重量部含有させることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物」(請求項1)
(b)「またポリカーボネート樹脂は透明性及び色調が優れていることにより光学用途例えば光デイスク・・・などに広く使用されるようになってきた。」(第1頁右下欄第5〜8行)
(c)「代表的なものとしては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂があげられる。」(第2頁右上欄第19行〜左下欄第2行)
(d)「また本発明において使用されるポリカーボネート樹脂の分子量は10000〜40000の範囲のもので良く、用途に応じて分子量の設定は異なる。例えば光ディスク用には12000〜18000の高流動性のものが好ましいし、射出圧縮成形法にてルームミラーなどの肉厚成形品を得るには24000〜30000の分子量のものが好ましい。」(第3頁左上欄第16行〜右上欄第3行)
(e)「本発明で用いられる有機亜リン酸又は次亜リン酸エステルは3個のリンを有する一般的なリン系熱安定剤であり、」(第3頁左下欄第3〜5行)
(4)刊行物4:「Society of Plastics Engineers」(ANTEC 94 San Francisco Mayl-5 1994の予稿集)p2865〜2867:申立人Aの提出した甲第3号証
(a)「コンパクトデイスク廃材からなるポリマー混合物」(表題 訳文 以下、同じ)
(b)「ポリカーボネート樹脂とブレンドされた原料は、・・・粉砕した飲用ボトルから得られた高分子量のポリカーボネート樹脂・・・」(第2865頁左欄〜右欄)
(c)「一軸押出機で再粉砕フレークと他成分とを溶融混練した。」(第2865頁右欄)
(d)第2866頁の表1に、コンパクトディスク材のポリカーボネート樹脂50%/ボトル再生ボリカーホネート樹脂50%からなる組成物の特性が記載されされている。さらに、第2867頁のFig.2〜4には、引張り降伏歪み、引張り強度、IZOD衝撃強度が、コンパクトディスク材単体の樹脂に比べて優れていることが記載されている。
(5)刊行物5:特公平1-19422号公報:申立人Aの提出した甲第4号証
(a)「粘度平均分子量50000〜130000の高分子量ポリカーボネート重縮合物エマルジョンと粘度平均分子量17000〜30000の低分子量ポリカーボネート重縮合エマルジョンを混合し、得られた混合物を粉末化することを特徴とするポリカーボネート組成物の製造方法。」(特許請求の範囲第1項)
(b)「本発明の方法によって得られるポリカーボネート組成物は溶融流動性、溶融弾性が改善されているため、押出成形、特にブロー成形が可能であり、その用途の拡張が期待される。」(第3頁第6欄第6〜9行)
(6)刊行物6:特公平6-84429号公報:申立人Aの提出した甲第5号証
(a)「本発明は分岐ポリカーボネート及びその製造方法に関し、さらに詳しくは耐衝撃性にすぐれブロー成形に適したポリカーホネート及びその製造方法に関する。」(第3頁左欄第16〜18行)
(b)「本発明のポリカーボネートは、上記のような特定の分岐該構造を有するとともに、15,000〜40,000、好ましくは21,000〜40,000の粘度平均分子量を有するものである。粘度平均分子量が15,000未満のものでは、耐衝撃性が低下し、一方40,000を超えると、成形性が悪くなる。」(第4頁左欄第3〜7行)
(7)刊行物7:特開平2-283760号公報:申立人Aの提出した甲第6号証
(a)「本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂の優れた特性を保持し且つ寸法安定性に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂・・・を主成分とする熱可塑性樹脂組成物に関する。」(第1頁右下欄第7〜11行)
(b)「本発明で使用する芳香族ポリカーボネート樹脂は、2価フェノールより誘導される粘度平均分子量が10,000〜50,000、好ましくは15,000〜30,000の芳香族ポリカーボネート樹脂であり、通常2価フェノールとカーボネート前駆体との溶液法又は溶融法で製造される。」(第2頁左下欄第1〜6行)
(b)「得られたペレットを熱風循環式乾燥機を用いて120℃で5時間以上乾燥した後、射出成形機(・・・)によりシリンダー温度290℃、金型温度80℃で物性試験片を作成した。」(第4頁左下欄最終行〜右下欄第3行)
(8)刊行物8:特公昭63-56043貝公報:申立人Aの提出した甲第7号証
(a)「一般式・・・で表される亜リン酸エステル0.005〜0.5重量%を含有する、平均分子量が12000〜18000のビス(ヒドロキシフェニル)アルカン系ポリカーボネート樹脂を、樹脂温度330〜400℃、金型温度50〜110℃で射出成形することを特徴とする光学的特性のすぐれた成型物の製造法。」(特許請求の範囲第1項)
(b)「特に、デジタル信号記録デイスク、例えば、デジタルオーデイオデイスク、デジタルビデオデイスクあるいは電子計算機用信号記録デイスク・・・」(第1頁第1欄第24行〜第2欄第3行)
(c)「本発明者らは、透明性がすぐれ、光学的な歪の小さい成形物を製造する方法につき鋭意研究を重ねた結果、亜リン酸エステルを含有する特定の平均分子量のポリカーボネート樹脂が、溶融流動性および熱に対する安定性がすぐれ、この樹脂を用いて特定の条件で射出成形を行うときは、透明性がよく、光学的な歪が小さい成形物を製造することができることを見出し本発明を完成した。」(第2頁第3欄第1〜8行)
(c)「ポリカーポネート樹脂の平均分子量は、12000〜18000である必要があり、好ましくは13000〜17500程度である。」(第2頁第4欄第30〜32行)
(9)刊行物9:特公平1-23498号公報:申立人Aの提出した甲第8号証
(a)「(A)平均分子量13000〜18000のポリカーボネート100重量部当り、(B)炭素数10〜22の一価脂肪酸と多価アルコールとから誘導されるエステル及び/又は部分エステル0.01〜0.1重量部、(C)リン酸トリメチル及び/又はリン酸トリエチル0.001〜0.01重量部、および(D)亜リン酸エステルをリン原子として0.00001〜0.005重量部配合したポリカーボネート樹脂組成物。」(特許請求の範囲第1項)
(b)「これらのポリカーボネートは、その塩化メチレン溶液について20℃で得られた極限粘度〔η〕(dl/g)から次式〔η〕=1.23×10-4M0.83によって求められる平均分子量Mが13000〜18000の範囲内にあることが必要である。13000未満では、成形品の強度が実用に耐えないし、18000を超えるときは、成形時に成形歪を生じやすいので、光学的用途には適当でない。」(第2頁第4欄第2〜10行)
(c)「成分(D)は、ポリカーボネートの熱安定性を向上せしめる共に、・・・」(第3頁第5欄第14〜15行)
(d)「かくの如く、成分(C)が本発明組成物の熱安定性を著しく改善する・・・」(第3頁第5欄第28〜29行)
(10)刊行物10:特開平5-210873号公報:申立人Bの提出した甲第1号証
(a)「片側に記録層が設けられた樹脂材料から成る光学記録ディスクの上記記録層が設けられた表面を、支持体に砥粒と接着剤とを混合して熱プレスした研磨シートを円筒状に加工した研磨体により、水を供給しながら研磨して上記樹脂材料を取り出すことを特徴とする光学記録ディスクからの再生方法。」(請求項1)
(b)「ところで、光学記録ディスク材料は、流動性、透明性に優れ、光学歪、コンタミネーションの少ない材料である。従って、低分子量で分子量分布の少ない安定したポリマーが用いられている。この材料は、ポリカーボネート(PC)、アクリル樹脂、非晶質ポリオレフィンであり、光学用に特殊グレードが市場に出ている。しかしこれらの耐衝撃性は低く、一般成型グレードに比べ機械的特性の悪い材料である。」(第2頁第2欄第14〜22行)
(c)「一方、光学記録ディスクのリサイクル材を用いたCDケースが商品化されている(特開平4-253677号公報参照)。これらは記録層のアルミ片を適度に分散させ、意匠性を高めたことに特徴をもつ。しかし、不純物の混入量(記録層、保護層、レーベル層)をコントロールできないため、物性がばらつくおそれがあり、機能成型品への応用範囲はせまい。本発明は、上述したような光学記録ディスクの基板材料を、Al(アルミニウム)蒸着膜等の不純物を含むことなく簡便な手法で取出して、効率よく樹脂材料の再利用をはかることができるようにした再生方法を提供する。」(第2頁第2欄第29〜40行)
(d)「実施例1 本実施例で、再生利用化をはかる対象とする光学記録ディスクは、図3及び図4にその略線的断面図及びその要部の略線的拡大断面図を示すように、ディスクドライブ装置のスピンドルが挿入係合される中心孔1aを有し、その周りに記録情報に応じた凹凸による信号記録部20が形成されている。・・・また、この光学記録ディスク1は、PC(帝人化成製:AD5503)よりなる基板21の一主面に、上述の記録情報に基く凹凸22が形成され、これの上に、厚さ1μmのAl蒸着膜23、厚さ5〜10μmの保護膜24、厚さ20μmのレーベル印刷膜25が被着されている。この光学記録ディスク1を、図1の研磨装置によって研磨した。」(第4頁第5欄第12行〜第6欄第1行)
(e)「また、本発明は、光学記録ディスクからの再生樹脂にこれとの相溶性樹脂、即ち熱可塑樹脂の例えば、・・・PC等を添加する。この場合の実施例を、実施例3及び4に挙げる。・・・実施例4はPCを添加した場合である。実施例4 実施例1による光学記録ディスクからの再生樹脂を粉砕し、アイゾット衝撃値が95kg・f・cm/cmのPC(帝人化成K-1300)を添加混練してペレットを得て、射出成型により試料9、試料10及び試料11を作製した。各試料9、試料10及び試料11は、再生樹脂とPCとの比(重量)P/Poを、P/Po=90/10、P/Po=80/20、及びP/Po=60/40とした場合で、各試料9〜11の機械的特性の測定結果を表4に示す。この場合においても、再生樹脂自体の試料2に比して、アイゾット衝撃値の改善がみられ、特に、PC添加量が20重量%以上で大きな改善がみられ、前述した外筐等の成型体として用いることができる。」(第5頁第7欄第33行〜第6頁第9欄第40行)
(11)刊行物11:松金幹夫他著「プラスチック材料講座[5]ポリカーボネート樹脂」日刊工業新聞社、p145(昭和44年9月30日)
(a)「・・・りん化合物は熱酸化防止にきわめて効果があり・・・」
(b)図3・80(安定剤の効果)には、トリ(ノニルフェニル)ホスファイトが記載されている。
(12)刊行物12:米国特許第3305520号明細書:申立人の提出した甲第5号証
(a)「しばしばポリカーボネートプラスチックは、キャステイング又は他の成形プロセスの間に空気の存在下に加熱される間に、着色する。そのような着色は、プラスチックが無色であることが成形品を作るためにはポリカーボネートを不適当にする。従って、本発明の目的は、ポリカーボネートプラスチックの従来の望ましくない着色を避ける方法を提供することである。本発明のもう一つの目的は、着色に対して安定化されたポリカーボネートプラスチックを提供することである。より詳しくは、本発明の目的は、ポリカーボネートプラスチックの着色を防止する方法を提供することである。本発明のもう一つの目的は、ポリカーボネートプラスチックに着色の量を低減する方法を提供することである。」(第1欄第31〜44行 訳文 以下、同じ)
(b)「亜燐酸トリ(アルキル)、亜燐酸トリ(アリール)及び亜燐酸混合トリ(アルキル-アリール)からなる群から選ばれる員により着色に対して安定化された、ジフェノールから誘導されるポリカーボネートプラスチック。」(請求項1)
(c)「約0.01〜1%の上記群の員を含む請求項1のポリカーボネート。」(請求項2)
(13)刊行物13:「PAPER,FILM&FOIL コンバーテック」第16巻第11号 第1〜5頁(昭和63年11月15日):申立人Aが回答書で提出した甲第10号証
(a)「従来よりプラスチックのフィラーとしては,炭酸カルシウム,マイカ,タルク,ガラス繊維,炭素繊維等が増量剤,機能向上剤等として使用されている。また,これらの他にプラスチックの着色に用いられる各種の顔料のようなフィラーもある。これらのフィラーは熱可塑,熱硬化性の各種樹脂に混練され,射出成形,押出成形等の加工法により製品となる。金属がプラスチックのフィラーとして用いられる例としては,メタリック飲料用途としてのアルミ粉末,アルミフレークが代表的なものである。」(第1頁左欄)
(14)甲第2号証:帝人化成株式会社のホームページ「パンライト ポリカーボネート樹脂 標準」の写し:申立人Bの提出した甲第2号証
(a)パンライトK-1300Yの物性表の中に、K-1300Yのメルトボリュームレイトが2.5であることが記載されている。 (15)甲第3号証:帝人化成株式会社のホームページ「パンライト ポリカーボネート樹脂 光学用」の写し:申立人Bの提出した甲第3号証
(a)パンライトAD-5503の物性表の中に、AD-5503のメルトボリュームレイトが54であることが記載されている。 (16)参考文献1:古川孝志編著「プラスチック技術全書11 ポリカーボネート樹脂」株式会社工業調査会 p9〜17 (1971年2月10日):申立人Aの提出した参考文献1
(a)「分子量による強度変化は図2.3に示すようにM=2×104以下で急激な強度の低下が起こり,実用上M=2×104が下限であることを示している。」(第11頁)
(17)参考文献2:特開2003-76041号公報:申立人Bが特許異議申立書中で言及している公報
(a)「ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂(帝人化成社製:K1300、粘度平均分子量30000)」(第12頁第22欄第39〜41行)
4-3.対比・判断
刊行物1の上記(1)(a)には、「光透過性樹脂を主体として金属細片を含有して成る材料によって成形された記録媒体用収納ケース。」が記載されている。
この場合の「光透過性樹脂を主体として金属細片を含有して成る材料」とは、「コンパクトディスク(CD)、光磁気ディスク等の光ディスクの廃棄物となる返品、不良品」(上記(1)(b))であり、上記収納ケースの製造工程は、「廃棄物となる光ディスク(以下廃棄光ディスクと云う)を利用してトレーを成形する工程を説明する。先ず廃棄光ディスクを破砕機により所要の大きさに破砕する。この破砕片の大きさは3mm〜12mmが好しい。次にこの廃棄光ディスク破砕片の素材に必要に応じて着色剤と樹脂増強剤を添加して溶融混練して樹脂溶融材を製造する。この工程において廃棄光ディスク破砕片に付着する光反射金属膜(アルミニウム膜)は非常に薄く(0.1μm程度)であるため更に細分化されて樹脂材に均等に混入される。そして、この樹脂溶融材をペレタイザにより所要の大きさに造粒してペレットを成形する。このペレットを射出成形機に入れてトレー5を射出成形する。」(上記(1)(c))というものである。
そして、成形主材料の廃棄光デイスクとして「ポリカーボネート樹脂層に光反射層としてアルミニウムを蒸着」(上記(1)(d))したものが97重量%、他に樹脂増強材3重量%用いられており(上記(1)(d))、また、成形された収納ケースは、「表面には微細の金属(アルミニウム)片が現われて優美な銀河模様を呈し、見栄えが良好となる。」(上記(1)(d))というものであって、かつ「金属反射膜が微細となって均等に散在されて優美な外観を呈する」(上記(1)(e))というものである。
これら記載を本件訂正発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には「基板がポリカーボネート樹脂でありアルミニウムを蒸着してあるコンパクトデイスク材97重量%、樹脂増強剤3重量%より実質的になる樹脂組成物を溶融混練し再生した、金属反射膜が微細となって均等に散在されて優美な外観を呈する樹脂溶融材の製造方法」という発明(以下、必要に応じて「刊行物1発明」という)が記載されていると云える。
そこで、本件訂正発明と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明の「樹脂溶融材」は、本件訂正発明の「ポリカーボネート樹脂組成物」に相当し、また本件訂正発明の「メタリック調の外観」とは、「アルミ膜が輝いて綺麗なメタリック調の外観になる。」(本件特許掲載公報第3頁第6欄第21〜22行)ということであるから、刊行物1発明の「金属反射膜が微細となって均等に散在されて優美な外観」は、本件訂正発明の「メタリック調の外観」に相当する。
してみると、両者は「基板がポリカーボネート樹脂でありアルミ膜が付着したコンパクトディスク材97重量%(a成分)より実質的になる樹脂組成物を溶融混練して再生したメタリック調の外観を有するポリカーボネート樹脂組成物の再生方法」という点で一致し、次の点で相違している。
相違点:本件訂正発明では、a成分であるポリカーボネート樹脂が「芳香族ポリカーボネート樹脂」であり、かつa成分以外に、「(B)粘度平均分子量が17,000〜60,000の芳香族ポリカーボネート樹脂3重量%(b成分)及びa成分とb成分の合計を100重量部とした時、(C)亜燐酸エステル(c-1成分)及び/又は燐酸エステル(c-2成分)が0.005〜2.0重量部」より実質的になり、さらに「溶融混練して再生した樹脂の粘度平均分子量が16,500〜35,000」であるのに対して、刊行物1発明ではそのことが示されない点
上記相違点のうち、まず、本件訂正発明のc-1及びc-2成分(以下、必要に応じて、「c成分」という)の構成について検討する。
本件明細書の記載からみると、特に、本件特許掲載公報第4頁表1及び第5頁表2において、本件訂正発明の実施例である実施例5のものが、比較例である実施例2、4に比較して、その衝撃強度を大幅に改善していることからみると、本件訂正発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の再生方法において、その樹脂組成物が、「(A)基板が芳香族ポリカーボネート樹脂でありアルミ膜が付着したコンパクトデイスク材(a成分)、(B)粘度平均分子量が17,000〜60,000の芳香族ポリカーボネート樹脂(b成分)、及び、(C)亜燐酸エステル(c-1成分)及び/又は燐酸エステル(c-2成分)より実質的になる」との構成を具備することにより、すなわち、樹脂組成物の当該a及びb成分に対してc成分を添加することにより、その余の構成と相まって、得られた成型物の熱安定性が優れ外観がメタリック調であるというだけでなく、その成型物が衝撃強度等の機械的強度においても著しく優れるという、有用な効果を奏したものである。
これに対して、刊行物11ではポリカーボネートプラスチックの熱酸化防止のためにりん化合物を添加すること、刊行物3ではポリカーボネート樹脂組成物の熱安定性のために亜リン酸エステルを添加すること、刊行物8ではポリカーボネート樹脂組成物の溶融流動性及び熱安定性のために亜リン酸エステルを添加すること、刊行物9ではポリカーボネート樹脂組成物の熱安定性のためにリン酸トリメチル、亜リン酸エステルを添加すること、そして、刊行物12ではポリカーボネートプラスチックの着色を防ぐため亜リン酸トリアルキルを添加することが示されるが、これら刊行物のものでは、本件訂正発明のように、a及びb成分に対してc成分を添加するものはなく、また、そのc成分の添加と衝撃強度の改善との関連につき教示するものでもない。してみれば、上記刊行物3、8、9、11及び12に記載の発明を考慮したとしても、刊行物1発明において、その樹脂組成物が「(C)亜燐酸エステル(c-1成分)及び/又は燐酸エステル(c-2成分)より実質的になる」との構成を採択して本件訂正発明のようにすることが当業者の容易に想到できるものではない。
次に、刊行物2、4〜7、10及び13の記載をみると、その記載の中には、コンパクトデイスク廃材にポリカーボネート又は芳香族ポリカーボネートを配合することが示されているとしても(但し、本件訂正発明のa成分及びb成分の組み合わせまでは示唆されない)、当該c成分の添加につき示唆するものはなく、また、当該c成分の添加と成型物の衝撃強度との関連につき教示するものでもない。
してみれば、上記刊行物3、8、9、11及び12に記載の発明に加え、上記刊行物2、4〜7、10及び13に記載の発明を考慮したとしても、刊行物1発明において、その樹脂組成物が「(C)亜燐酸エステル(c-1成分)及び/又は燐酸エステル(c-2成分)より実質的になる」との構成を採択して本件訂正発明のようにすることが当業者の容易に想到できるものではない。
このように、上記相違点のうち、その樹脂組成物が「(C)亜燐酸エステル(c-1成分)及び/又は燐酸エステル(c-2成分)より実質的になる」とのc成分の構成を導き出して本件訂正発明のようにすることが容易になし得ないのであるから、その他の相違点については検討するまでもなく、本件訂正発明は、刊行物1〜13に記載される発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

また、その他の特許異議申立ての理由及び証拠方法は、訂正後の本件請求項1に係る発明についての特許を取り消すべき理由として採用することができない。

5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠方法によっては、訂正後の本件請求項1に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に訂正後の本件請求項1に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、訂正後の本件請求項1に係る発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
芳香族ポリカーボネート樹脂の再生方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A)基板が芳香族ポリカーボネート樹脂でありアルミ膜が付着したコンパクトディスク材1〜99重量%(a成分)、(B)粘度平均分子量が17,000〜60,000の芳香族ポリカーボネート樹脂99〜1重量%(b成分)及びa成分とb成分の合計を100重量部とした時、(C)亜燐酸エステル(c-1成分)及び/又は燐酸エステル(c-2成分)が0.005〜2.0重量部より実質的になる樹脂組成物を溶融混練して再生した樹脂の粘度平均分子量が16,500〜35,000であることを特徴とするメタリック調の外観を有する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の再生方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、不用のコンパクトディスク材を利用した樹脂組成物の再生方法、更に詳しくは、流動性、耐衝撃性、耐熱性に優れた樹脂組成物の再生方法に関するものである。コンパクトディスクは多くのユーザーに使用されており、生産される量も年々増え続けている。従って、使用されなくなった不用のコンパクトディスクや販売店から返却されて来るコンパクトディスク又、生産時発生する不良品等いわゆる再生すべきコンパクトディスクが増えており、それらの再生方法について種々の検討が行われている。
【0002】
本発明は、資源の有効利用ならびに環境保護の見地から、不用のコンパクトディスクの再生利用を行おうとするものである。
【0003】
【従来の技術】
従来、芳香族ポリカーボネート樹脂で成形されたコンパクトディスクの再生利用方法としては、コンパクトディスクに付着しているアルミ膜、インク、UVコート膜を取り除き基板の樹脂を再利用する方法が考えられている。しかしながら、これらアルミ膜、インク、UVコート膜等を取り除く方法としてコンパクトディスクの表面を切硝研磨する方法、振動圧縮する方法等の物理的方法あるいは、酸、アルカリ等を用いた化学的方法等が考えられるが、いずれもコストが高く一般的ではなかった。又コンパクトディスクに付着しいているアルミ膜,インク,UVコート膜等を取り除かずにそのまま粉砕し使用すると、押出機中で長時間滞留した時基板である芳香族ポリカーボネート樹脂が熱分解し、粘度平均分子量が低下し、樹脂の機械的特性が低下する。その結果、樹脂の銘柄切替え時に熱劣化物が製品に混入し収率が低下する問題があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂で成形された不用のコンパクトディスク材を用いた流動性、耐衝撃性、耐熱性に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の再生方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明の目的は、(A)基板が芳香族ポリカーボネート樹脂でありアルミ膜が付着したコンパクトディスク材1〜99重量%(a成分)、(B)粘度平均分子量が17,000〜60,000の芳香族ポリカーボネート樹脂99〜1重量%(b成分)及びa成分とb成分の合計を100重量部とした時、(C)亜燐酸エステル(c-1成分)及び/又は燐酸エステル(c-2成分)が0.005〜2.0重量部より実質的になる樹脂組成物を溶融混練して再生した樹脂の粘度平均分子量が16,500〜35,000であることを特徴とするメタリック調の外観を有する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の再生方法によって達成される。この再生利用方法は、従来の方法と比べ手間が掛からず低コストで再生が可能であり、この再生利用方法により再生された芳香族ポリカーボネート樹脂樹脂組成物は、流動性、耐衝撃性、耐熱性に優れている。
【0006】
本発明で使用する(A)基板が芳香族ポリカーボネート樹脂であるコンパクトディスク材(a成分)は、コンパクトディスクの生産から販売後迄のあらゆる経路から発生するいわゆる不良品、返却品、回収品等の不用になったコンパクトディスクのことである。再生すべきコンパクトディスク材は、あらかじめ粗粉砕されていても良く、又そのままのディスク状の形状でもかまわない。又、アルミ膜、インク、UVコート膜等が付着していてもかまわない。コンパクトディスク材(100重量%)中の芳香族ポリカーボネートの量は90重量%以上、好ましくは95重量%以上、更に好ましくは99重量%以上である。
【0007】
コンパクトディスク材の基板に使用されている芳香族ポリカーボネート樹脂は、二価フェノールより誘導されるものである。通常二価フェノールとカーボネート前駆体とを溶液法又は溶融法で反応させて得られる。ここで使用する二価フェノールとしては、例えば2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(以下ビスフェノールAと略称する)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン等のビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカン及び、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフォン等があげられ、ビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカンが好ましく、なかでもビスフェノールAが特に好ましい。また、カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、ジアリールカーボネート、ハロホルメート等があげられ、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネート、二価フェノールのジハロホルメート及びそれらの混合物である。芳香族ポリカーボネート樹脂を製造するに当り、前記二価フェノールを単独で使用しても又は二種以上を使用してもよい。また、適当な分子量調節剤、分岐剤、反応を促進するための触媒等も使用できる。かくして得られた芳香族ポリカーボネート樹脂の二種以上を混合しても差支えない。通常は、粘度平均分子量で14,000〜16,000程度のものが一般的に使用される。
【0008】
ここでいう粘度平均分子量とは、20℃で塩化メチレンを溶媒として求めた〔η〕を用いて下記関係式から平均分子量Mを求めた。
【0009】
〔η〕=1.23×10-4M0.83
一方本発明の(B)粘度平均分子量が17,000〜60,000である芳香族ポリカーボネート樹脂(b成分)は、二価フェノールより誘導されるものである。通常二価フェノールとカーボネート前駆体とを溶液法又は溶融法で反応させて得られる。ここで使用する二価フェノールは前述のa成分の芳香族ポリカーボネートと同じく、例えば2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(以下ビスフェノールAと略称する)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン等のビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカン及び、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフォン等があげられ、ビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカンが好ましく、なかでもビスフェノールAが特に好ましい。また、カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、ジアリールカーボネート、ハロホルメート等があげられ、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネート、二価フェノールのジハロホルメート及びそれらの混合物である。a成分及びb成分の芳香族ポリカーボネート樹脂を製造するに当り、前記二価フェノールを単独で使用しても又は二種以上を使用してもよい。更にa成分及びb成分の芳香族ポリカーボネート樹脂は同種の二価フェノールからのポリカーボネート樹脂が好ましく、特にビスフェノールAからのポリカーボネート樹脂が好ましい。かかる樹脂には適当な分子量調節剤、分岐剤、反応を促進するための触媒等も使用できる。かくして得られた芳香族ポリカーボネート樹脂の二種以上を混合してもよい。
【0010】
本発明のb成分である芳香族ポリカーボネート樹脂の形状は、ペレットでもパウダーでも良く、又それらの混合物でもかまわない。
【0011】
b成分の芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、17,000〜60,000であり好ましくは20,000〜50,000、更に好ましくは23,000〜40,000である。又、a成分とb成分の合計を100重量%とした時にb成分の割合は1〜99重量%である。好ましくは10〜90重量%、更に好ましくは20〜80重量%である。1重量%未満では本発明の方法で再生された芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の分子量が低下し、耐熱性、耐衝撃性が不足する。一方、99重量%を越えると分子量が高くなり過ぎて流動性が不足する。
【0012】
本発明で使用するc-1成分の亜燐酸エステルは、例えばトリフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシル-モノフェニルホスファイト、ジオクチル-モノフェニルホスファイト、ジイソプロピル-モノフェニルホスファイト、モノブチル-ジフェニルホスファイト、モノデシル-ジフェニルホスファイト、モノオクチル-ジフェニルホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4-ジフェニレンホスホナイト等の亜リン酸のトリエステル又はエステル部をアルキル基、フェニル基、アルキルアリール基等で置換したジエステル、モノエステルであり、これらは単独で使用しても又は二種以上併用してもよい。なかでもトリスノニルフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイトが好ましい。
【0013】
本発明で使用するc-2成分の燐酸エステルは、例えばトリブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクロルフェニルホスフェート、トリエチルホスフェート、ジフェニルクレジルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、ジュブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート等があげられ、これらは単独で使用しても又は二種以上併用してもよい。なかでもトリフェニルホスフェート、トリメチルホスフェートが好ましい。
【0014】
本発明で使用するc-1成分の亜燐酸エステル及び/又はc-2成分の燐酸エステルの量は、a成分とb成分の合計を100重量部とした時0.005〜2.0重量部である。好ましくは0.008〜1.8重量部、更に好ましくは0.01〜1.5重量部である。亜燐酸エステル及び/又は燐酸エステルを配合することで、再生された芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の熱安定性が向上し、粘度平均分子量低下が抑御できる。このc-1成分及び/又はc-2成分の量が、0.005重量部未満では熱安定性への効果が少なく、2.0重量部を越えると再生した樹脂組成物の物性(耐衝撃性、剛性等)に悪影響を及ぼす。
【0015】
本発明の組成物は、そのまま成形しても、更に着色剤を配合しても良い。再生すべきコンパクトディスクにアルミ膜が付いている場合、アルミ膜が輝いて綺麗なメタリック調の外観になる。特に透明で綺麗なメタリック調の外観にするには、染料系の着色剤を使用するのが良い。又、本発明の組成物には目的を損なわない範囲で有効発現量の添加剤を配合しても良い。例えば、他の安定剤や衝撃改質剤、離型剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、滑剤等を配合しても良い。
【0016】
本発明でa成分及びb成分更に必要に応じてc-1及び/又は成分c-2成分からの樹脂組成物を溶融混練する方法としては、単軸押出機、2軸押出機、加圧ニーダー等一般に使用されているものが使用できる。特に好ましくは、ベント付きの2軸押出機であり、ベントから真空排気ができるものが好ましい。この場合、(A)基板が芳香族ポリカーボネート樹脂であるコンパクトディスク材(a成分)は、粒径30mm以下に粉砕されていることが好ましい。粉砕されていないと溶融混練する時に使用する押出機等への供給が難しくなる。但し、ここでいう粒径とは、粉砕されたものの長径をいう。使用する原料は、タンブラー、ブレンダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール等であらかじめ混合していても計量機を用いて独立に供給されても良い。
【0017】
本発明の再生方法は、資源の有効利用ならびに環境保護の見地から、不用のコンパクトディスクの再生利用を行おうとするものであり、これにより再生された芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、流動性、耐熱性、耐衝撃性に優れる。本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、例えばOA部品、家庭電化製品、オーディオ部品、雑化等の部品に有用である。
【0018】
【実施例1及び比較例1〜7】
以下に実施例をあげて本発明を更に説明する。表1記載の各成分を表1記載の割合でタンブラーで混合後、径30mmφのベント付き単軸押出機〔中央機械製作所VSK30型〕でベントから真空排気させながらシリンダー温度280℃で溶融混練し押し出しペレット化した。このペレットを120℃5時間乾燥後、射出成形機〔住友重機械工業S480/150〕でシリンダー温度280℃、金型温度80℃で滞留なしおよび射出成形機中10分間滞留させて作成した試験片およびと溶融押し出し前の樹脂組成物を下記の方法で評価を行った。評価結果は表2に記載した。
【0019】
粘度平均分子量:溶融押し出し前及び射出成形機中10分間滞留後の樹脂5gを塩化メチレン100gに溶解し、オストワルド粘度計を用いて測定し明細書4頁記載の式で計算した。
分子量低下率:(MW2-MW1)/MW1×100(%)
ここでMW1は溶融混練前の粘度平均分子量、MW2は射出成形機中10分間滞留後の粘度平均分子量。
流動性:メルトフローレート JIS K-7210に準じ、荷重2.16kgf、温度280℃の条件下で測定した。
アイゾットノッチ付き衝撃強さ:測定試験片厚さ3.2mmとしASTMD-256に従って測定した。
荷重たわみ温度:荷重18.5kgf/cm2の条件下でJIS K-7207に従って測定した。
外観:目視によって判定した。
透明……厚さ5mmの試験片を黒い文字の上に置いて文字が読める状態若干メタリック……文字はかすかに読めるが表面はメタリックになっている。
メタリック……完全に表面が金属光沢になっている。文字は全く見えない。
【0020】
なお表1記載の各成分を示す記号は下記の通りである。
<a成分>CD:コンパクトディスク材[製品]
基板が粘度平均分子量15,000のビスフェノールA系芳香族ポリカーボネートであり、その量がコンパクトディスク中99.6重量%であるアルミ膜付着の直径120mmのコンパクトディスクを粉砕機で粉砕し、平均粒径6mmにしたコンパクトディスク材。
<b成分>PC-1:ビスフェノールA系芳香族ポリカーボネート樹脂パウダー(粘度平均分子量:24,000)
PC-2:ビスフェノールA系芳香族ポリカーボネート樹脂ペレット(粘度平均分子量:30,000)
PC-3:ビスフェノールA系芳香族ポリカーボネート樹脂ペレット(粘度平均分子量:15,000)
<c-1成分>安定剤:トリメチルホスフェート<着色材>ペリノン系赤色染料[有本化学工業(株)プラストレッド8370]
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
【発明の効果】
本発明によれば、手間が掛からず低コストな芳香族ポリカーボネート樹脂で成形された不用なコンパクトディスクの再生利用方法であり、本発明の再生利用方法は、資源の有効利用ならびに環境保護の見地から、不用なコンパクトディスクの再生利用に優れている。また、その再生利用方法により再生されたメタリック調で流動性、耐衝撃性、耐熱性に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂の再生樹脂組成物を提供することが可能になり、本発明の奏する工業的効果は格別なものである。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-01-11 
出願番号 特願平6-291136
審決分類 P 1 651・ 121- YA (B29B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中野 孝一  
特許庁審判長 多喜 鉄雄
特許庁審判官 中村 泰三
野田 直人
登録日 2003-05-16 
登録番号 特許第3428749号(P3428749)
権利者 帝人化成株式会社
発明の名称 芳香族ポリカーボネート樹脂の再生方法  
代理人 三原 秀子  
代理人 三原 秀子  

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