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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C02F 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C02F |
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管理番号 | 1114576 |
異議申立番号 | 異議2003-71552 |
総通号数 | 65 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1996-12-10 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-06-16 |
確定日 | 2005-01-31 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3358388号「セレン含有水の処理方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3358388号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第3358388号は、平成7年6月1日に特許出願され、平成14年10月11日に特許権の設定登録がなされ、その後、特許異議申立人稲川満智子(以下「申立人」という)より、特許異議の申立てがなされ、取消通知がなされ、その指定期間内の平成16年6月25日付けで訂正請求がなされたものである。 2.訂正の適否 2-1.訂正の内容 本件訂正の内容は、本件特許明細書を、訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、即ち、下記訂正事項に訂正しようとするものである。 訂正事項(a) 【特許請求の範囲】の【請求項1】の 「銀・塩化銀電極を対照とする酸化還元電位が-50mV以下となる条件で、セレン含有水を生物汚泥と嫌気状態で接触させることを特徴とするセレン含有水の処理方法。」 を 「有機物の添加量、生物汚泥濃度および/またはセレン含有水の滞留時間を制御することにより、銀・塩化銀電極を対照とする酸化還元電位が-50mV以下となる条件で、硝酸呼吸を行う脱窒菌が優勢となった生物汚泥とセレン含有水を嫌気状態で接触させ、反応系に(亜)硝酸イオンを存在させ脱窒菌の活性を高く維持して脱窒を行うとともに、(亜)セレン酸を還元することを特徴とするセレン含有水の処理方法。」 と訂正する。 訂正事項(b) 段落【0005】の 「【課題を解決するための手段】 本発明は、銀・塩化銀電極を対照とする酸化還元電位が-50mV以下となる条件で、セレン含有水を生物汚泥と嫌気状態で接触させることを特徴とするセレン含有水の処理方法である。」 を、 「【課題を解決するための手段】 本発明は、有機物の添加量、生物汚泥濃度および/またはセレン含有水の滞留時間を制御することにより、銀・塩化銀電極を対照とする酸化還元電位が-50mV以下となる条件で、硝酸呼吸を行う脱窒菌が優勢となった生物汚泥とセレン含有水を嫌気状態で接触させ、反応系に(亜)硝酸イオンを存在させ脱窒菌の活性を高く維持して脱窒を行うとともに、(亜)セレン酸を還元することを特徴とするセレン含有水の処理方法である。」 と訂正する。 訂正事項(c) 段落【0008】の 「本発明で使用する生物汚泥はセレン含有水を嫌気状態に維持することにより生成する生物汚泥であり、」 を 「本発明で使用する生物汚泥は、硝酸呼吸を行う脱窒菌が優勢となった生物汚泥であって、セレン含有水を嫌気状態に維持することにより生成する生物汚泥であり、」 と訂正する。 訂正事項(d) 段落【0033】の 「本発明によれば、ORPが-50mV以下となる条件でセレン含有水を生物汚泥と嫌気状態で接触させるようにしたので、簡単な装置と操作により、セレン化合物を安定して効率よく除去して無害化することができる。」 を、 「本発明は、有機物の添加量、生物汚泥濃度および/またはセレン含有水の滞留時間を制御することにより、銀・塩化銀電極を対照とする酸化還元電位が-50mV以下となる条件で、硝酸呼吸を行う脱窒菌が優勢となった生物汚泥とセレン含有水を嫌気状態で接触させ、反応系に(亜)硝酸イオンを存在させ脱窒菌の活性を高く維持して脱窒を行うとともに、(亜)セレン酸を還元するようにしたので、簡単な装置と操作により、セレン化合物を安定して効率よく除去して無害化することができる。」 と訂正する。 2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 上記訂正事項(a)は、酸化還元電位が-50mV以下となる条件を、「有機物の添加量、生物汚泥濃度および/またはセレン含有水の滞留時間を制御することにより、」と限定し、「生物汚泥」を「硝酸呼吸を行う脱窒菌が優勢となった生物汚泥」と限定し、かつ、嫌気状態でのセレン含有水との接触操作を「反応系に(亜)硝酸イオンを存在させ脱窒菌の活性を高く維持して脱窒を行うとともに、(亜)セレン酸を還元する」と限定するものであるから、上記訂正事項(a)は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。 また、上記訂正事項(b)〜(d)は、上記請求項1の訂正に整合させるためであって、明りようでない記載の釈明を目的とする訂正に該当するものである。 そして、訂正事項(a)〜(d)は、特許明細書段落【0009】、【0010】、【0014】、【0015】、【0017】、【0025】、【0027】に基づくものであり、上記訂正事項(a)〜(d)は、いずれも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 2-3.まとめ 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.特許異議の申立てについての判断 3-1.本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という) 本件発明は、上記2.で示したように、上記訂正が認められるから、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲請求項1に記載された次のとおりのものである。(上記2-1.の訂正事項参照) 「【請求項1】 有機物の添加量、生物汚泥濃度および/またはセレン含有水の滞留時間を制御することにより、銀・塩化銀電極を対照とする酸化還元電位が-50mV以下となる条件で、硝酸呼吸を行う脱窒菌が優勢となった生物汚泥とセレン含有水を嫌気状態で接触させ、反応系に(亜)硝酸イオンを存在させ脱窒菌の活性を高く維持して脱窒を行うとともに、(亜)セレン酸を還元することを特徴とするセレン含有水の処理方法。」 3-2.特許異議の申立ての理由の概要 申立人は、証拠として甲第1〜2号証を提示し、下記の理由により、本件請求項1に係る特許を取り消すべきと主張している。 【理由】本件発明は、下記の刊行物1又は2に記載された発明と同一又は下記の刊行物1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項又は同条第2項の規定に違反してなされたものである。 刊行物1:"WATER, AIR, AND SOIL POLLUTION" VOL. 49 Nos. 3/4 February 1990 : 251-272(甲第1号証) 刊行物2:"FEMS MICROBIOLOGY LETTERS" VOL.61 Nos. 1-2 OCTOBER 1989:195-198(甲第2号証) 3-3.刊行物の記載 3-3-1.刊行物1には、以下の事項が記載されている。 「地下水中にSeが存在する場合には、ほぼ常に硝酸塩を伴っている。硝酸塩は穏やかな酸化条件(Eh≒+350mV)を誘導し、Seの微生物による固定を阻害する。硝酸塩の不在下で、地下水に比較的還元性の条件が優勢となると(Eh≒-50mV)、Seは急速に除去される。土壌の微生物が電子受容体として利用するのは、酸素と硝酸塩の次にセレン酸塩の順番となる。」(第251頁第5〜9行) 3-3-2.刊行物2には、以下の事項が記載されている。 (i)「その一つは厳密な嫌気性の、グラム陽性桿菌で亜セレン酸塩を元素状セレンに還元する。他の一つはシュードモナス種の微生物でセレン酸塩呼吸をしてこれを亜セレン酸塩にすることが示された。酢酸塩とセレン酸塩含有の最小培地中で細胞は嫌気的に成長し、14C酢酸塩を14CO2に酸化するとともに同時にセレン酸塩を亜セレン酸塩にそして少量の元素状セレンに還元した。」(第195頁左欄第9〜16行) (ii)「セレン除去のための生物学的反応器からの材料を嫌気性メタノール-酢酸塩富化培地(最小培地プラス20mMのセレン酸ナトリウム、5mMの酢酸ナトリウム、20mMのメタノール)に接種した。1週間内に元素状セレンの存在を示す赤色がこの富化培地中に見られた。」(第196頁右欄第24〜31行) 3-4.当審における判断 3-4-1.特許法第29条第1項3号について (a)本件発明と刊行物1記載との対比 本件発明と刊行物1記載を対比すると、刊行物1の処理対象である「地下水中にSeが存在する」地下水は、本件発明の「セレン含有水」に対応し、刊行物1の「土壌の微生物」は、本件発明の「生物汚泥」に対応し、刊行物1の、微生物との接触状態が「地下水に比較的還元性の条件が優勢となると(Eh≒-50mV)、Seは・・・除去される」は、本件発明の「酸化還元電位が-50mV以下となる条件で嫌気状態で接触させ(亜)セレン酸を還元する」に対応するので、刊行物1の記載を本件発明に沿って整理すると、「酸化還元電位が-50mVの嫌気状態で、セレン含有水を生物汚泥と接触させてセレン酸を還元処理する方法」(以下「刊行物1記載の発明」という)が記載されているといえる。 そこで、本件発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、両者は上記の点で一致するが、(1)酸化還元電位の制御手段について、本件発明では「有機物の添加量、生物汚泥濃度および/またはセレン含有水の滞留時間を制御する」と規定するのに対し、刊行物1記載の発明では酸化還元電位を制御する発想が示されていない点(相違点1)、(2)酸化還元電位を測定するときに使用する対照電極について、本件発明では「銀・塩化銀電極」と規定するのに対し、刊行物1記載の発明では対照電極を明示していない点(相違点2)、(3)生物汚泥について、本件発明では「硝酸呼吸を行う脱窒菌が優勢となった生物汚泥」と規定するのに対し、刊行物1記載の発明では菌体を明示していない点(相違点3)、また、(4)セレン含有水と生物汚泥を接触させる条件として、本件発明では「反応系に(亜)硝酸イオンを存在させ脱窒菌の活性を高く維持して脱窒を行うとともに、(亜)セレン酸を還元する」のに対し、刊行物1記載の発明では、「硝酸塩の不在下で、セレンを除去する」点(相違点4)で相違する。 そこで、上記の相違点について検討する。 まず、相違点2についてみると、酸化還元電位測定用の対照電極として、「銀・塩化銀電極」は普通に使用されているものであるから、この点は実質的な相違点とすることはできない。 次に、相違点1についてみるに、本件発明で規定する酸化還元電位の制御手段自体は、常套的に使用されるものであるが、本件発明はそれらの手段を採用して酸化還元電位を-50mV以下に制御して(亜)セレン酸を還元することに特徴があるところから、そのような制御について示唆する記載のない刊行物1記載の発明とは、実質的に相違するというべきである。 次に、相違点3についてみるに、刊行物1記載の発明が硝酸塩の不在下でセレンを除去しているところから、硝酸呼吸を行う脱窒菌を実質的に排除していることは明らかであり、硝酸呼吸を行う脱窒菌が優勢となった生物汚泥を使用する必然性は全くなく、よって、相違点3は両者を区別する上で実質的な意味を有するといえるものである。 次に、相違点4についてみるに、セレンを除去するときの条件として、刊行物1記載の発明では、硝酸塩を存在させないのに対し、本件発明では、(亜)硝酸イオンを存在させ脱窒菌の活性を高く維持して行う点で相違し、両者は互いに相容れないものであるから、相違点4は両者を区別する上で実質的な意味を有するといえるものである。 そして、回答書の内容を検討してみても上記の判断は左右されるものではない。 したがって、本件発明は、上記刊行物1に記載された発明に該当しない。 (b)本件発明と刊行物2記載との対比 本件発明と刊行物2記載を対比すると、両者は、セレン含有水を生物汚泥と嫌気状態で接触させて(亜)セレン酸を還元処理する方法で一致するが、(1)生物汚泥として、本件発明では、「硝酸呼吸を行う脱窒菌が優勢となった生物汚泥」を使用するのに対し、刊行物2では、「セレン酸塩呼吸」をするものを使用する点(相違点1)、(2)嫌気状態を示す酸化還元電位については、本件発明では、「有機物の添加量、生物汚泥濃度および/またはセレン含有水の滞留時間を制御することにより、-50mV以下」に制御するのに対し、刊行物2にはこれに対応する記載はなく(相違点2)、(3)(亜)セレン酸を還元処理する条件として、本件発明では、「反応系に(亜)硝酸イオンを存在させ脱窒菌の活性を高く維持して脱窒を行うとともに、(亜)セレン酸を還元する」のに対し、刊行物2では、「14C酢酸塩を14CO2に酸化するとともに同時にセレン酸塩を亜セレン酸塩にそして少量の元素状セレンに還元」する点(相違点3)で相違する。 そこで、上記の相違点について検討する。 本件発明は、硝酸呼吸を行う脱窒菌が優勢となった生物汚泥を使用し、有機物の添加量、生物汚泥濃度および/またはセレン含有水の滞留時間を制御することにより、酸化還元電位を-50mV以下の嫌気状態の下で、反応系に(亜)硝酸イオンを存在させ脱窒菌の活性を高く維持して脱窒を行うとともに、(亜)セレン酸を還元することを特徴とするのに対し、上記相違点1〜3にみるように、刊行物2には、上記特徴は記載されていない。 したがって、本件発明は、上記刊行物2に記載された発明に該当しない。 3-4-2.特許法第29条第2項について 上記したように、本件発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、両者は、「酸化還元電位が-50mVの嫌気状態で、セレン含有水を生物汚泥と接触させてセレン酸を還元処理する方法」である点で一致し、本件発明と刊行物2記載の発明とを対比すると、両者は、「セレン含有水を生物汚泥と嫌気状態で接触させて(亜)セレン酸を還元処理する方法」である点で一致するが、刊行物1、2には、上記3-4-1(a)及び(b)の相違点として摘示した本件発明の特徴については記載されておらず示唆もされていない。 そして、回答書の内容を検討してみても上記の判断は左右されるものではない。 したがって、本件発明は、上記刊行物1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。 4.まとめ 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 セレン含有水の処理方法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 有機物の添加量、生物汚泥濃度および/またはセレン含有水の滞留時間を制御することにより、銀・塩化銀電極を対照とする酸化還元電位が-50mV以下となる条件で、硝酸呼吸を行う脱窒菌が優勢となった生物汚泥とセレン含有水を嫌気状態で接触させ、反応系に(亜)硝酸イオンを存在させ脱窒菌の活性を高く維持して脱窒を行うとともに、(亜)セレン酸を還元することを特徴とするセレン含有水の処理方法。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明はセレン含有水を生物処理により無害化する方法に関するものである。 【0002】 【従来の技術】 Se6+、Se4+等のセレン化合物を含有する排水を無害化する処理方法として、鉄塩による凝集沈殿、イオン交換による吸着等の方法がある。このうち前者は多量の凝集剤を必要とするほか、Se6+は除去できないという問題点がある。一方後者は吸着量が少なく、また再生廃液の処理が必要になるなどの問題点がある。 【0003】 セレン化合物の生物反応として、水環境学会年会講演集、1995、P176には、(亜)セレン酸還元菌によりラクトースの存在下にSe6+およびSe4+が還元されることが報告されている。しかしこの方法ではセレン化合物に汚染された場所から、(亜)セレン酸還元菌を分離して培養する必要がある。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】 本発明の目的は、入手および使用が容易な微生物を用い、簡単な装置と操作により、セレン化合物を安定して効率よく除去することが可能なセレン含有水の処理方法を提案することである。 【0005】 【課題を解決するための手段】 本発明は、有機物の添加量、生物汚泥濃度および/またはセレン含有水の滞留時間を制御することにより、銀・塩化銀電極を対照とする酸化還元電位が-50mV以下となる条件で、硝酸呼吸を行う脱窒菌が優勢となった生物汚泥とセレン含有水を嫌気状態で接触させ、反応系に(亜)硝酸イオンを存在させ脱窒菌の活性を高く維持して脱窒を行うとともに、(亜)セレン酸を還元することを特徴とするセレン含有水の処理方法である。 【0006】 本発明において、「(亜)セレン酸」は「セレン酸および/または亜セレン酸」を意味する。また「Se6+」、「Se4+」、「Se0」または「Se2-」は、それぞれの酸化数+VI、+IV、ゼロまたは-IIのセレンを意味する。これらを単にSeと記述する場合がある。 また本発明において、「(亜)硝酸」は「硝酸および/または亜硝酸」を意味する。 【0007】 本発明において処理の対象となるセレン含有水は、Se6+および/またはSe4+のセレン化合物を含む排水その他の水である。Se6+またはSe4+のセレン化合物としては(亜)セレン酸などがあげられる。具体的なセレン含有水としては金属精錬工業排水、ガラス工業排水、化学工業排水、および石炭、石油または燃焼排ガス処理プロセスの排水などがあげられる。これらのセレン含有水中にはセレン化合物以外に有機物、窒素化合物、硫酸塩などが含まれていてもよい。 【0008】 本発明で使用する生物汚泥は、硝酸呼吸を行う脱窒菌が優勢となった生物汚泥であって、セレン含有水を嫌気状態に維持することにより生成する生物汚泥であり、活性汚泥処理法のような排水の好気性処理法における生物汚泥(活性汚泥)を採取し、これをセレン含有水に加えて嫌気状態に維持することにより自然発生的に生成させることもできる。このような生物汚泥には(亜)セレン酸を還元するような菌が優勢となり、このような菌によりセレン含有水中の(亜)セレン酸が還元される。 【0009】 生物汚泥中に生成する生物相は、セレン含有水の組成および嫌気処理の条件等により異なる。例えば原水または反応液中に(亜)硝酸イオンが存在する系では硝酸呼吸を行う脱窒菌が優勢となる。また炭水化物等の有機物が存在する系では、酸発酵菌が出現し、硫酸塩が存在する系では硫酸塩還元菌が出現する。その他系に存在する物質により、その分解に適した菌が出現し、それらの分解に伴ってセレン化合物の還元が行われる。これらの中では脱窒菌が適している。 【0010】 本発明で使用できる脱窒菌は硝酸呼吸により(亜)硝酸イオンの酸素を利用して有機物を分解する細菌であり、シュードモナス等の通性嫌気性菌の中に見られる。このような脱窒菌はアンモニア性窒素含有排水の生物反応を利用した硝化脱窒による脱窒方法における脱窒工程に利用されている。 本発明で使用できる脱窒菌としては、このような生物脱窒法における脱窒菌をそのまま利用できるほか、活性汚泥処理法のような排水の好気性処理法における好気性汚泥(活性汚泥)を採取し、これを有機物および(亜)硝酸イオンの存在下に嫌気状態に維持することにより、自然発生的に生成させることもできる。 【0011】 このような脱窒菌その他の(亜)セレン酸を還元する菌を含む生物汚泥は通常フロック状の生物汚泥となっており、本発明ではフロック状の生物汚泥をそのまま懸濁状態で用いることもできるが、粒状、繊維状、その他の空隙率の大きい担体に担持させて用いることもできる。担体としては生物汚泥を担持できるものであれば制限はないが、砂、活性炭、アルミナゲル、発泡プラスチックなどがあげられる。担体に生物汚泥を担持させるには、担体の存在下に馴養ないし処理を行うことにより、担持させることができる。 【0012】 本発明の処理方法は、セレン含有水を上記のような生物汚泥と嫌気状態で接触させることにより、セレン含有水中の(亜)セレン酸すなわちSe6+および/またはSe4+を還元して無害化する。このときSe6+はSe4+を経てSe0および/またはSe2-に還元されるものと推定される。 本発明において嫌気状態とは酸素を遮断する状態を意味するが、セレン化合物の還元を阻害しない程度の若干の酸素の混入は許容される。 【0013】 上記の反応では生物汚泥の呼吸のための酸素源および栄養源が必要になる。酸素源としては嫌気状態であるため分子状酸素ではなく、(亜)硝酸、炭水化物、有機酸、硫酸などの形で含まれる酸化剤となりうる酸素が利用される。栄養源としては反応液中に含まれる有機物や生物汚泥中に含まれる有機物などが基質として利用される。これらの酸素源や栄養源はセレン含有水に含まれていればそのまま利用できるが、含まれていない場合には別途添加される。これにより生物汚泥は高い活性に維持され、これらの分解に伴って(亜)セレン酸が還元される。 【0014】 脱窒菌を含む生物汚泥の場合について説明すると、反応系に(亜)硝酸イオンを存在させることにより、生物汚泥中に脱窒菌を出現させて活性を高く維持し、これにより(亜)セレン酸を還元させる。(亜)硝酸イオンはすでに反応系に存在するときはそのまま利用することができるが、存在しないときは(亜)硝酸塩等を添加することができる。(亜)硝酸イオンは脱窒菌の活性を維持する限度(NOxとして1〜10mg/l程度)で添加すればよい。 【0015】 原水が有機性またはアンモニア性窒素を含有する場合は、別の硝化工程において原水を硝化菌と接触させて好気性下に硝化を行って有機性またはアンモニア性窒素を(亜)硝酸性窒素に転換し、その硝化液を脱窒菌を含む生物汚泥と嫌気性下に接触させて脱窒を行うとともに、(亜)セレン酸を還元する。この場合、硝化工程ではセレン化合物は(亜)セレン酸となっているが、脱窒工程で還元される。 【0016】 本発明ではセレン含有水と生物汚泥とを嫌気状態で接触させる場合、銀・塩化銀電極を対照とする酸化還元電位(ORP)が-50mV以下となるように制御する。このORPは反応系の嫌気度を示しており、上記ORPを-50mV以下の嫌気度とすることにより(亜)セレン酸の還元が可能となる。 ORP=0の場合でも嫌気状態であって、脱窒等の生物汚泥の本来の機能は現われるが、(亜)セレン酸の還元は起こらない。従って脱窒等が起こるよりもはるかに強い嫌気度とすることにより、(亜)セレン酸の還元が可能になる。 【0017】 ORPを-50mV以下にする手段としては、有機物の添加量、生物汚泥濃度および/またはセレン含有水の滞留時間等を制御する。有機物は基質として添加されるもので、通常メタノール等が用いられるが、有機排水等の他の有機物源であってもよい。このような有機物添加量を多くするとORPは低くなり、嫌気度が高くなる。 【0018】 生物汚泥濃度は嫌気性反応を行う系の生物汚泥濃度、すなわちMLSSであり、MLSSを高くするとORPは低下し、嫌気度が高くなる。この場合は生物汚泥中に蓄えられた有機物が基質として利用され、汚泥の自己消化が起こる。 原水の滞留時間の制御は原水の導入量を少なくすることにより滞留時間を長くすると、ORPが低下し、嫌気度が高くなる。この場合負荷と生物汚泥の量的関係はMLSSを高くする場合と同様であり、ほぼ同様の反応形態となる。 【0019】 上記のような嫌気性反応は嫌気性反応槽に原水、有機物を導入して行われる。 セレン含有水と生物汚泥との接触には嫌気性反応槽を用い、浮遊法、生物膜法など、任意の方法が採用できる。浮遊法は脱窒細菌を含むフロック状の生物汚泥を浮遊状態で攪拌して接触させる方法であり、生物脱窒法における脱窒工程と同様に行われる。 生物膜法は生物汚泥を担体に支持させて生物膜を形成し、これをセレン含有水と接触させる方法であり、固定床式、流動床式など、また上向流式、下向流式など脱窒工程で採用されているのと同様の方式が採用できる。 【0020】 嫌気性反応槽における滞留時間は(亜)セレン酸イオンが還元されるのに必要な時間であるが、これは系内に存在する有機物の分解に必要な時間としてとらえることもでき、系内で脱窒等を行う場合は脱窒等に必要な時間の1.1倍以上とすることができる。 嫌気性反応は上記の滞留時間となるように反応液の一部を抜出して固液分離し、分離汚泥を返送し、汚泥濃度を所定濃度(500〜50000mg/l、好ましくは2000〜20000mg/l)に維持して反応を行う。 【0021】 ORPの制御は、上記のような嫌気性反応槽に銀・塩化銀電極を対照とする酸化還元電位計を設け、その検出値が-50mV以下を示すように有機物供給系、汚泥返送系、原水導入系等を制御して、有機物供給量、生物汚泥濃度、原水導入量(滞留時間)等を調整する。 【0022】 上記の生物反応により、セレン含有水中の(亜)セレン酸は金属セレンに還元されて沈殿物となり、汚泥に付着した状態で、固液分離により分離され、余剰汚泥とともに系外に排出される。そしてセレンが除去された分離液は処理水として放流される。 【0023】 上記の処理で用いる生物汚泥は、通常の生物学的処理法に使用されている汚泥から馴養により得ることができ、その入手および使用は容易であり、純粋分離や特別の培養条件は不要である。このような生物汚泥は(亜)硝酸イオン等を供給して活性化することによりセレン除去能力が高くなる。 【0024】 【実施例】 以下、本発明の実施例を図面により説明する。 図1は脱窒菌を利用する実施例の処理装置を示す系統図である。1は嫌気性反応槽、2は固液分離槽、3はORP計、4は制御装置である。 【0025】 処理方法は嫌気性反応槽1に原水路5からセレン含有水としての原水を導入し、汚泥返送路6から返送汚泥を導入し、NOx導入路7から(亜)硝酸イオン(NOx)を導入し、有機物導入路8から有機物を供給して槽内の脱窒菌を含む生物汚泥と混合し、攪拌機9で緩やかに攪拌して、嫌気状態で接触させる。 【0026】 このとき反応槽1内のORPを、銀・塩化銀電極を対照とするORP計3で検出し、その検出信号を制御装置4に入力する。制御装置4ではORP値が-50mV以下となるように、ポンプ11、12または13を制御する。この場合、ORPが-50mVより高いとき、ポンプ12の送液量を多くして有機物添加量を多くするか、ポンプ13の送液量を多くし返送汚泥量を多くしてMLSSを高くするか、あるいはポンプ11の送液量を少なくして原水導入量を少なくし滞留時間を長くするように制御する。この制御は予め設定されたプログラムにより行われる。 【0027】 上記の処理により嫌気性反応槽1では脱窒菌が有機物を基質としてNOxをNに還元し、これにより脱窒活性を高い状態で維持し、過剰の有機物を基質としてSe6+およびSe4+をSe0等に還元する。生成するNはガスとして放出され、Seは沈殿して汚泥に付着する。 【0028】 反応液の一部は連絡路14から固液分離槽2に導入して固液分離し、分離液は処理水路15から処理水として放流される。分離汚泥の一部は返送汚泥として返送汚泥路6から嫌気性反応槽1に返送し、残部は汚泥排出路16から余剰汚泥として排出する。 【0029】 参考例1 NH4-N 20mg/l、6価のSe 0.9mg/lを含む電力排煙脱硫排水を好気性処理により硝化したのち、嫌気性処理により脱窒およびセレンの還元を行い、固液分離により汚泥を分離した。滞留時間は好気性処理槽が4時間、嫌気性処理槽が12時間、固液分離槽が4時間である。嫌気性処理槽では下水処理装置の活性汚泥を種汚泥としてMLSS 4000mg/lで嫌気性処理を行った。 その結果、好気性処理槽のORPは+320mV、嫌気性処理槽のORPは-40〜+20mVであり、処理水中のNH4-Nは1mg以下、NOx-Nは1mg/l以下で脱窒はできたが、Seは1.1〜0.1mg/lの範囲と高く、不安定であった。 【0030】 実施例1 参考例1の段階から、嫌気性処理槽にメタノールを200mg/l添加したところ、ORPは徐々に低下し、1週間後に-50mVになり、処理水中のSeは0.04mg/lになった。そのまま運転を続けたところ、ORPは-60〜-80mVとなり、処理水Seは常に0.1mg/l未満で安定した。脱窒効果は参考例1と同様であった。 【0031】 実施例2 実施例1におけるメタノールの添加を中止し、嫌気性処理槽に下水活性汚泥を添加してMLSS濃度を8000mg/lにした。当初嫌気性処理槽のORPは-40mVであったが、すぐに低下し、-50〜-60mVとなり、処理水Seは0.1mg/l未満で安定した。 【0032】 実施例3 参考例1の状態において、好気性処理槽から嫌気性処理槽への好気性処理液の導入量を少なくし、嫌気性処理槽における滞留時間を48時間にした。 その結果、嫌気性処理槽のORPは-50〜-90mVになり、処理水Seは常に0.1mg/l未満で安定した。 【0033】 【発明の効果】 本発明によれば、有機物の添加量、生物汚泥濃度および/またはセレン含有水の滞留時間を制御することにより、銀・塩化銀電極を対照とする酸化還元電位が-50mV以下となる条件で、硝酸呼吸を行う脱窒菌が優勢となった生物汚泥とセレン含有水を嫌気状態で接触させ、反応系に(亜)硝酸イオンを存在させ脱窒菌の活性を高く維持して脱窒を行うとともに、(亜)セレン酸を還元するようにしたので、簡単な装置と操作により、セレン化合物を安定して効率よく除去して無害化することができる。 【図面の簡単な説明】 【図1】 実施例の処理装置を示す系統図である。 【符号の説明】 1 嫌気性反応槽 2 固液分離槽 3 ORP計 4 制御装置 5 原水路 6 汚泥返送路 7 NOx導入路 8 有機物導入路 9 攪拌機 11、12、13 ポンプ 14 連絡路 15 処理水路 16 汚泥排出路 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2005-01-11 |
出願番号 | 特願平7-135437 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YA
(C02F)
P 1 651・ 113- YA (C02F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 谷口 博 |
特許庁審判長 |
板橋 一隆 |
特許庁審判官 |
鈴木 毅 西村 和美 |
登録日 | 2002-10-11 |
登録番号 | 特許第3358388号(P3358388) |
権利者 | 栗田工業株式会社 |
発明の名称 | セレン含有水の処理方法 |
代理人 | 柳原 成 |
代理人 | 柳原 成 |