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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61J
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61J
管理番号 1114595
異議申立番号 異議2002-71831  
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-02-02 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-07-29 
確定日 2005-01-17 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3250807号「グルコースまたはグルコース様化合物を含有する滅菌医療用溶液を用いるシステムおよびそのシステム用の溶液」の請求項1ないし16に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3250807号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3250807号の請求項1〜16に係る発明は、1992年9月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1991年11月18日、スウェーデン国)を国際出願日とする出願であって、平成13年11月16日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について、特許異議申立人田嶋順治、及びテルモ株式会社により特許異議の申立てがなされ、取消の理由が通知され、その指定期間内である平成15年5月26日に訂正請求(後日取下)がなされた後、再度の取消の理由が通知され、その指定期間内である平成16年5月14日に訂正請求(後日取下)がなされた後、再度の取消の理由が通知され、その指定期間内である平成16年11月19日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は以下の(a)ないし(h)のとおりである。
訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1における「グルコースまたはグルコース様化合物およびその他の物質を含有する滅菌医療用溶液、たちえば栄養溶液または腹膜透析用溶液を供給するシステムであって、同医療用溶液の第一の部分を含む第一のパッケージ(A)および同医療用溶液の第二の部分を含む第二のパッケージ(B)からなり、上記第二の部分は上記グルコースまたはグルコース様化合物を含有し、第一および第二のパッケージは加熱滅菌可能であり、かつ第一および第二の部分は混合して上記滅菌医療用溶液を形成させることができるシステムにおいて、第二のパッケージ(B)中の第二の部分におけるグルコースまたはグルコース様化合物の濃度を、上記滅菌を通じて毒性物質の形成を実質的に防止するために、20重量%より大きくすることを特徴とするシステム。」を「グルコースまたはグルコース様化合物を除く成分からなる第一溶液を内包する加熱可能な第一のパッケージ(A)と、少なくともグルコースまたはグルコース様化合物を含む第二溶液を内包する加熱可能な第二のパッケージ(B)と、該第一および第二のパッケージを、加熱滅菌後、これらのパッケージ中の各溶液を混合可能な状態に連通する連通部材とを備える腹膜透析用溶液調整用パッケージシステムであって、該第二のパッケージ(B)中の該第二溶液は、加熱滅菌処理前の状態で、グルコースまたはグルコース様化合物の濃度が20重量%より大きく、且つpH値が3〜6であり、第一のパッケージ(A)中の該第一溶液は、加熱滅菌処理前の状態で、pH値が7〜9.0であり、該加熱滅菌処理後の該第一および第二のパッケージの連通により、該第一及び第二の溶液が混合され、pH値6.5〜7.5となる腹膜透析用溶液を調整できることを特徴とする、上記パッケージシステム。」と訂正する。
訂正事項b
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
訂正事項c
上記請求項2の削除に伴い、請求項3を請求項2とし、従属する請求項を請求項1と訂正する。
訂正事項d
特許請求の範囲の請求項4〜6を削除する。
訂正事項e
特許請求の範囲の請求項7における「好ましくは0.20のオーダーまたはそれ以下」との記載を削除し、同請求項8における「好ましくは30%未満」との記載を削除し、同請求項9における「適当には0.1未満、好ましくは0.01〜0.001のオーダー」との記載を削除する。また、上記請求項2及び4〜6の削除に伴い、請求項7〜9をそれぞれ4づつ繰り上げ、従属する請求項を変更する。
訂正事項f
特許請求の範囲の請求項10〜14を削除する。
訂正事項g
特許請求の範囲の請求項15における「グルコースまたはグルコース様化合物およびその他の物質を含有する滅菌医療用溶液、たとえば、栄養溶液または腹膜透析用溶液を供給する方法であって、第一のパッケージ(A)中の医療用溶液の第一の主要部分およびグルコースまたはグルコース様化合物を含有する第二のパッケージ(B)中の医療用溶液の第二の部分を供給し、同第一および第二のパッケージを加熱滅菌し、そして同第一および第二の部分を合わせて滅菌医療用溶液を形成させるため第一および第二のパッケージを連結することからなる方法において、第二のパッケージ(B)中のグルコースまたはグルコース様化合物の濃度を、滅菌を通じて毒性物質が形成されるのを実質的に防止するように20重量%より大きくすることを特徴とする方法。」を「グルコースまたはグルコース様化合物を除く成分からなる第一溶液を内包する加熱可能な第一のパッケージ(A)と、少なくともグルコースまたはグルコース様化合物を含む第二溶液を内包する第二のパッケージ(B)とを、それぞれ加熱滅菌し、次いで該第一及び第二のパッケージ(A)及び(B)を、これらパッケージ中の該第一及び第二の溶液が混合可能な状態で連通することにより、腹膜透析用溶液を調整する方法において、該第二のパッケージ(B)中の該第二溶液を、加熱滅菌処理前の状態で、グルコースまたはグルコース様化合物の濃度が20重量%より大きく、且つpH3〜6とし、該第一のパッケージ(A)中の該第一溶液を、加熱滅菌処理前の状態で、pH値7〜9.0とし、該加熱滅菌処理後、該第一および第二のパッケージを連通して、該第1及び第二医療用溶液を混合して、pH値6.5〜7.5となる透析液を得ることを特徴とする、腹膜透析用溶液の調製方法。」と訂正する。また、上記請求項2、4〜6および10〜14の削除に伴い、請求項15を請求項6に繰り上げる。
訂正事項h
特許請求の範囲の請求項16における「110℃〜150℃、好ましくは120℃以上の濃度において、加熱開始から室温への冷却までの時間間隔180〜10分で」を「110℃〜150℃の滅菌温度を適用し、且つ加熱開始から加熱後の室温までの冷却を180〜10分の時間で行うことにより、」と訂正する。また、上記請求項2、4〜6および10〜14の削除に伴い、請求項16を請求項7に繰り上げ、従属する請求項を変更する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、訂正前の請求項1に、請求項5、6および13の発明の限定事項を追加し、誤記を訂正するとともに明瞭でない記載を釈明するものであるから、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正および明瞭でない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
上記訂正事項bについての訂正は、請求項を削除する訂正であるから特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正に該当し、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
上記訂正事項cについての訂正は、一部請求項の削除に伴い、請求項の番号を修正するとともに従属する請求項から削除された請求項を除外するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
上記訂正事項dについての訂正は、請求項を削除する訂正であるから特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正に該当し、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
上記訂正事項eについての訂正は、各請求項に記載されている、複数の数値範囲の並立という明瞭でない数値範囲の記載を一つに統一するとともに、一部請求項の削除に伴い、請求項の番号を修正し従属する請求項から削除された請求項を除外するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
上記訂正事項fについての訂正は、請求項を削除する訂正であるから特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正に該当し、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
上記訂正事項gについての訂正は、訂正前の請求項15に、請求項5、6および13の発明の限定事項を追加するとともに請求項の番号を修正し、誤記を訂正するとともに明瞭でない記載を釈明するものであるから、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正および明瞭でない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
上記訂正事項hについての訂正は、複数の数値範囲の並立という明瞭でない数値範囲の記載を一つに統一するとともに、明瞭でない記載を釈明し、一部請求項の削除に伴い、請求項の番号を修正し従属する請求項の番号を修正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立ての理由の概要
(1)特許異議申立人田嶋順治は、甲第1〜8号証を提出し、請求項1〜16に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号または同第2項の規定に違反してなされたものであり、また、請求項1、7および15に係る発明について特許法第36条第4、5項の規定を満たしていないから取り消すべき旨主張している。
(2)特許異議申立人テルモ株式会社は、甲第1〜6号証を提出し、請求項1、3、5〜9、15、16に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号または同第2項の規定に違反してなされたものであるから取り消すべき旨主張している。

4.本件発明
特許第3250807号の請求項1〜7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1〜7」という。)は、平成16年11月19日付けの訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
本件発明1「グルコースまたはグルコース様化合物を除く成分からなる第一溶液を内包する加熱可能な第一のパッケージ(A)と、少なくともグルコースまたはグルコース様化合物を含む第二溶液を内包する加熱可能な第二のパッケージ(B)と、該第一および第二のパッケージを、加熱滅菌後、これらのパッケージ中の各溶液を混合可能な状態に連通する連通部材とを備える腹膜透析用溶液調整用パッケージシステムであって、該第二のパッケージ(B)中の該第二溶液は、加熱滅菌処理前の状態で、グルコースまたはグルコース様化合物の濃度が20重量%より大きく、且つpH値が3〜6であり、第一のパッケージ(A)中の該第一溶液は、加熱滅菌処理前の状態で、pH値が7〜9.0であり、該加熱滅菌処理後の該第一および第二のパッケージの連通により、該第一及び第二の溶液が混合され、pH値6.5〜7.5となる腹膜透析用溶液を調整できることを特徴とする、上記パッケージシステム。」
本件発明2「前記第一のパッケージ(A)が、前記第一及び第二の溶液の両方を収容するのに十分な容量を有することを特徴とする請求項1に記載のシステム。」
本件発明3「滅菌、混合およびグルコース含量1.5重量%に希釈後、前記腹膜透析用溶液の、グルコースからの分解生成物によって生じる228nmでの吸光度が0.35未満であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のパッケージシステム。」
本件発明4「滅菌、混合およびグルコース含量1.5重量%に希釈後、前記腹膜透析用溶液の、グルコースからの分解生成物によって生じるICG値(培養線維芽細胞L-929について試験した細胞増殖の阻害)が、50%未満であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つに記載のパッケージシステム。」
本件発明5「滅菌、混合およびグルコース含量1.5重量%に希釈後、前記腹膜透析用溶液のアセトアルデヒド含有量が、1.0ppm未満であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つに記載のパッケージシステム。」
本件発明6「グルコースまたはグルコース様化合物を除く成分からなる第一溶液を内包する加熱可能な第一のパッケージ(A)と、少なくともグルコースまたはグルコース様化合物を含む第二溶液を内包する第二のパッケージ(B)とを、それぞれ加熱滅菌し、次いで該第一及び第二のパッケージ(A)及び(B)を、これらパッケージ中の該第一及び第二の溶液が混合可能な状態で連通することにより、腹膜透析用溶液を調整する方法において、該第二のパッケージ(B)中の該第二溶液を、加熱滅菌処理前の状態で、グルコースまたはグルコース様化合物の濃度が20重量%より大きく、且つpH3〜6とし、該第一のパッケージ(A)中の該第一溶液を、加熱滅菌処理前の状態で、pH値7〜9.0とし、該加熱滅菌処理後、該第一および第二のパッケージを連通して、該第1及び第二医療用溶液を混合して、pH値6.5〜7.5となる透析液を得ることを特徴とする、腹膜透析用溶液の調整方法。」
本件発明7「上記第二のパッケージ(B)を、110℃〜150℃の滅菌温度を適用し、且つ加熱開始から加熱後の室温までの冷却を180〜10分の時間で行うことにより、滅菌することを特徴とする請求項6に記載の方法。」

5.異義申立人田嶋順治の特許法第36条第4、5項の規定に基づく異議申立の理由について
(1)申立ての理由の詳細
異義申立人田嶋順治は、下記の理由で特許法第36条第5項第1号または第2号、同法第36条第4項の規定を満たしていない旨主張している。

(1-1)本件請求項1の「医療用溶液の第一の部分を含む第一のパッケージ」なる記載は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、発明の構成に欠くことができない構成のみを記載しているとはいえない。
(1-2)本件請求項1の「毒性物質の形成を実質的に防止するために」なる記載は、技術的に明瞭でないか、発明の詳細な説明において、当業者が容易に実施できる程度に記載されていない。
また、本件請求項15の「毒性物質が形成されるのを実質的に防止するように」なる記載も、同様な理由で不備である。
(1-3)本件請求項1の「20重量%」なる記載は、重量/重量基準の場合と重量/容量基準のいずれの基準に基づく濃度か不明である。
(1-4)本件請求項7の「グルコースからの分解生成物によって生じる228nmにおける吸光度が、0.35未満」なる記載は技術的に明瞭でない。

(2)判断
そこでまず、上記(1-1)の理由について検討する。
「医療用溶液の第一の部分を含む第一のパッケージ」なる記載は、上記訂正により削除されており、上記異議申立人の主張する記載不備は解消されている。
次に、上記(1-2)の理由について検討する。
「毒性物質の形成を実質的に防止するために」なる記載及び「毒性物質が形成されるのを実質的に防止するように」なる記載は、上記訂正により削除されており、上記異議申立人の主張する記載不備は解消されている。
次に、上記(1-3)の理由について検討する。
重量%が重量/重量基準に基づく濃度であることは明らかであり(必要であれば平成16年5月14日付け特許異議意見書の参考資料4参照)、上記異議申立人の主張するような記載不備はない。
次に、上記(1-4)の理由について検討する。
上記異議申立人の主張は、本件特許公報の第5頁の表の実験テストの場合において、従来技術による1.5%グルコース完成溶液の1つにおいても、グルコースからの分解生成物によって生じる228nmにおける吸光度が、0.35未満の条件を満たしているから、「グルコースからの分解生成物によって生じる228nmにおける吸光度が、0.35未満」は従来技術の効果と何等相違しないというものであるが、本件特許公報の第5頁の表には、濃グルコース液の状態で加熱滅菌されたものは加熱時間の如何にかかわらず、グルコースからの分解生成物によって生じる228nmにおける吸光度が、0.35未満となることが示されているのに対し、1.5%のグルコースを含有する完成溶液の状態で加熱滅菌されたものは加熱時間が10分の場合には0.35未満となってはいるものの加熱時間が長くなると、グルコースからの分解生成物によって生じる228nmにおける吸光度が、0.35以上となってしまうことが示されているのであるから、濃グルコース液の状態で加熱滅菌することにより「グルコースからの分解生成物によって生じる228nmにおける吸光度が、0.35未満」となることの技術的意義が明瞭であるから、上記異議申立人の主張するような記載不備はない。
したがって、上記異義申立人の特許法第36条第4、5項の規定に基づく異議申立の理由は何れも採用することができない。

6.異義申立人田嶋順治の特許法第29条第1項第3号または同第2項の規定に基づく異議申立ての理由について
(1)申立ての理由の詳細
異義申立人田嶋順治は、下記の理由で特許法第29条第1項第3号または同第2項の規定を満たしていない旨主張している。
(1-1)
本件請求項1に係る発明は、甲第1号証〜甲第4号証のいずれかに記載された発明であるか、あるいは甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(1-2)
本件請求項2に係る発明は、甲第3号証または甲第4号証に記載された発明であるか、あるいは甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(1-3)
本件請求項3に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証または甲第4号証に記載された発明である。
(1-4)
本件請求項4に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証または甲第4号証に記載された発明並びに甲第5号証および甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(1-5)
本件請求項5に係る発明は、甲第1号証または甲第3号証に記載された発明および甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(1-6)
本件請求項6に係る発明は、甲第1号証または甲第3号証に記載された発明および甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(1-7)
本件請求項7に係る発明は、甲第3号証または甲第4号証に記載された発明である。
(1-8)
本件請求項8に係る発明は、甲第3号証または甲第4号証に記載された発明である。
(1-9)
本件請求項9に係る発明は、甲第3号証または甲第4号証に記載された発明である。
(1-10)
本件請求項10に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である。
(1-11)
本件請求項11に係る発明は、甲第1号証または甲第2号証に記載された発明および甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(1-12)
本件請求項12に係る発明は、甲第2号証または甲第4号証に記載された発明であるか、あるいは甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(1-13)
本件請求項13に係る発明は、甲第2号証または甲第4号証に記載された発明であるか、あるいは甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(1-14)
本件請求項14に係る発明は、甲第2号証または甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(1-15)
本件請求項15に係る発明は、甲第1号証または甲第2号証に記載された発明であるか、あるいは甲第1号証〜甲第4号証のいずれかに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(1-16)
本件請求項16に係る発明は、甲第1号証または甲第2号証に記載された発明であるか、あるいは甲第1号証、甲第2号証または甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)上記異議申立人が証拠として提示した刊行物
刊行物1:特開昭59-75058号公報(甲第1号証)
刊行物2:特開昭61-103823号公報(甲第2号証)
刊行物3:米国特許第4,997,083号明細書(甲第3号証)
刊行物4:特開平2-241457号公報(甲第4号証)
刊行物5:特開昭61-355号公報(甲第5号証)
刊行物6:「KIDNEY INTERNATIONAL」,Vol.40(1991), 第77〜79頁(甲第6号証)
刊行物7:国際公開第91/08008号パンフレット(甲第7号証)
刊行物8:米国特許第4,369,779号明細書(甲第8号証)

上記刊行物1には、次の事項が記載されている。
(a)「本発明に係る輸液用器具は、前記第1の容器および第2の容器の一方の容器が、他方の容器に収容されている液剤をも収容し得る容積を有するようにしたものである。」(第3頁左上欄第7〜10行)
(b)「第1の容器11には、表1の実施例に示す組成(700ml中)のブドウ糖-電解質液700mlが分注されている。・・・(表1)・・・また、第2の容器12には12w/v%のアミノ酸注射液が300〜400ml分注されている。」(第3頁左下欄第1〜16行)
(c)「しかして、上記第1の容器11と第2の容器12は、それぞれブドウ糖-電解質液、アミノ酸を収容している分離状態下で、それぞれ柔軟性を有するプラスチック容器によつて真空包装され、例えば118℃、40分の条件で高圧蒸気滅菌を施される。
上記滅菌後、第1コネクタ15と第2コネクタ19は、プロテクタ16,20を除去されるとともに、火炎滅菌を施された後、相互に焼き嵌め嵌合される。上記第1コネクタ15と第2コネクタ19の確実な嵌合が確認された状態下で、第1破断部材21および第2破断部材22がそれぞれ薄肉部23,24の破壊によつて閉状態に設定され、第1の容器11、第1連結管14、第2連結管18および第2の容器12を相互に導通状態とし、第2の容器12内のアミノ酸を第1の容器11に移送する。次に、第1連結管14の中央部を高周波溶着法等によつて溶着することにより閉塞した状態下で、第1連結管14の閉塞部より第2の容器12側を切断除去する。なお、ゴム栓25には、第1の容器11内の輸液を中心静脈に供給可能とするカテーテルに連通せしめられているびん針等の接続具が刺通可能とされる。」(第4頁右上欄第19行〜右下欄第1行)
(d)「上記滅菌後の第1の容器11と第2の容器12とは、火炎滅菌を施された第1コネクタ15と第2コネクタ19の嵌合下で、第1破断部材21および第2破断部材22を開状態に設定することにより、相互に連通され、第2の容器12内のアミノ酸を第1の容器11に移送し、アミノ酸、ブドウ糖液および電解質液からなる輸液を作成することが可能となる。したがつて、滅菌されたアミノ酸とブドウ糖液とが外気に触れることなく無菌下で混合可能となる。」(第4頁右下欄第10〜19行)
(e)また、第3頁左下欄の表1には、第1の容器11のブドウ糖-電解質液700ml中にブドウ糖が250g含まれる実施例が記載されている。
上記記載からみて刊行物1には、「アミノ酸注射液が収容される第2の容器と、ブドウ糖-電解質液が収容される第1の容器と、該第1および第2の容器を、高圧蒸気滅菌後、第1の容器と第2の容器を相互に導通状態とする第1連結管および第2連結管とを備える輸液用器具であって、第1の容器のブドウ糖-電解質液は、高圧蒸気滅菌前の状態で、ブドウ糖-電解質液700ml中にブドウ糖が250g含まれており、高圧蒸気滅菌後の第1の容器および第2の容器の連通により、アミノ酸注射液およびブドウ糖-電解質液が混合され、輸液を作成できる輸液用器具。」(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

また、上記刊行物2には、次の事項が記載されているものと認められる。
「密閉容器に、二液を隔離する手段を設けることにより二室を作り、各室にそれぞれぶどう糖を含む溶液およびアミノ酸を含む溶液を封入し、電解質を上記何れかの溶液または両溶液に含有せしめ、その後上記密閉容器を加熱滅菌し、冷却後上記隔離手段を除去して上記両溶液を混合することによりぶどう糖、アミノ酸および電解質を含有する静脈投与用一液栄養輸液を製造する製造法であって、ぶどう糖を含む溶液として注射用蒸留水400ml中にぶどう糖130gを溶解した溶液、アミノ酸を含む溶液として注射用蒸留水200ml中にアミノ酸を配合したもの、または、ぶどう糖を含む溶液として注射用蒸留水600ml中にぶどう糖250gを溶解した溶液、アミノ酸を含む溶液として注射用蒸留水600ml中にアミノ酸を配合したものを用い、混合後のpHが3.5〜7.0となる静脈投与用一液栄養輸液の製造法。」

また、上記刊行物3には、次の事項が記載されているものと認められる。
「アミノ酸の水性溶液を導入する区画4と、水中40%のグルコース水性溶液を導入する区画5とを有する容器を、オートクレーブ中で滅菌(温度100℃以上)され、使用前に破壊可能な通路11を手で破壊し、アミノ酸溶液を区画5に移送し混合することにより医薬分野等に用いられる灌流溶液を得ることのできる容器。」

また、上記刊行物4には、次の事項が記載されているものと認められる。
「アミノ酸及び電解質の混合液を収容する第1室と、ぶどう糖、フラクトース、マルトース等の還元糖液を収容する第2室と、全体を日本薬局法一般試験法、滅菌法に従つて滅菌し、第1室と第2室との間にはクランプを配置した連結チューブを取り付けてなる輸液バッグであって、第2室の還元糖液は、還元糖が30〜50w/v%の高濃度の糖水溶液であり、連結チューブのクランプをゆるめることにより、第2室の還元糖液が第1室のアミノ酸及び電解質の混合液中に流入して混合され、総合栄養輸液製剤とする輸液バッグ。」

また、上記刊行物5には、次の事項が記載されているものと認められる。
「酸溶液を含有する第一の容器部分と、閉塞されているが開放され得る液流連絡部分を介し該第一の容器部分に連絡されており且つ重炭酸塩含有溶液で充たされている第二の容器部分とを有し、その際これら容器部分の一方に除去可能な栓が備えられている少なくとも1つの流出用管を持つ、生体透析、血液濾過あるいは注入の為の重炭酸塩含有溶液を調製する為の容器であって、該容器は約120℃のもとで殺菌され、重炭酸塩含有溶液が浸透作用もするCAPDの為の溶液の場合には、一定量の浸透に有効な物質であるグルコーゼを約26〜90g/l酸性溶液中に入れて置く重炭酸塩含有液用容器。」

また、上記刊行物6には、次の事項が記載されているものと認められる。
「D-グルコース15g(BDH Limited Poole)DL-乳酸ナトリウム(50%)9g(Merck)、塩化ナトリウム5.4g(Merck)、塩化カルシウム無水物190mg(Merck)、および塩化マグネシウム六水和物51mg(Merck)を塩酸でpHを5.5に調節し、脱イオン水を加え最終容量を1000mlとした腹膜透析液。」

また、上記刊行物7には、次の事項が記載されているものと認められる。
「水に84.08g/Lのデキストロースを溶解することにより作られた溶液Aと、水にL-ヒスチジン等を溶解することにより作られた溶液Bとを、混合の前に加熱滅菌し、滅菌後混合されてpH6.5〜7.6の範囲に調節される腹膜透析溶液。」

また、上記刊行物8には、次の事項が記載されているものと認められる。
「血液バッグ9および10に連結される、2つのチューブ間の無菌結合(無菌連結)の形成のための方法、装置およびシステム。」

(3)対比・判断
(3-1)申立ての理由(1-1)について
本件発明1と引用発明1とを対比すると、後者における「アミノ酸注射液」がその作用・機能からみて前者における「グルコースまたはグルコース様化合物を除く成分からなる第一溶液」に相当し、以下同様に、「収容される」が「内包する」に、「第2の容器」が「第一のパッケージ(A)」に、「ブドウ糖-電解質液」が「少なくともグルコースまたはグルコース様化合物を含む第二溶液」に、「第1の容器」が「第二のパッケージ(B)」に、「高圧蒸気滅菌後」が「加熱滅菌後」に、「第1の容器と第2の容器を相互に導通状態とする第1連結管および第2連結管」が「これらのパッケージ中の各溶液を混合可能な状態に連通する連通部材」に、「器具」が「溶液調整用パッケージシステム」に、「高圧蒸気滅菌後」が「加熱滅菌処理後」に、それぞれ相当している。また、後者における第1の容器および第2の容器は高圧蒸気で滅菌されるのであるから当然加熱可能な素材で形成されているものと認められる。
従って、両者は、
「グルコースまたはグルコース様化合物を除く成分からなる第一溶液を内包する加熱可能な第一のパッケージ(A)と、少なくともグルコースまたはグルコース様化合物を含む第二溶液を内包する加熱可能な第二のパッケージ(B)と、該第一および第二のパッケージを、加熱滅菌後、これらのパッケージ中の各溶液を混合可能な状態に連通する連通部材とを備える溶液調整用パッケージシステムであって、該加熱滅菌処理後の該第一および第二のパッケージの連通により、該第一及び第二の溶液が混合される、上記溶液調整用パッケージシステム。」の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]本件発明1は、パッケージシステムが腹膜透析用であり、第二溶液は、加熱滅菌処理前の状態で、グルコースまたはグルコース様化合物の濃度が20重量%より大きいのに対し、引用発明1のパッケージシステムは輸液用であり、加熱滅菌処理前の状態で、ブドウ糖-電解質液700ml中にブドウ糖が250g含まれているものである点、
[相違点2]本件発明1は、第二溶液は、加熱滅菌処理前の状態で、pH値が3〜6であり、第一溶液は、加熱滅菌処理前の状態で、pH値が7〜9.0であり、加熱滅菌処理後混合されてpH値が6.5〜7.5となるのに対し、引用発明1はこれらのpH値が具体的に記載されていない点でそれぞれ相違している。
そこで、上記相違点について検討する。
まず、相違点1について検討する。
引用発明1の、グルコースまたはグルコース様化合物に相当するブドウ糖の濃度は、ブドウ糖-電解質液700ml中にブドウ糖が250g含まれているのであるから、約35.7重量/容量%(250g÷700ml×100)となる。ところで本件発明1のグルコースまたはグルコース様化合物の濃度の単位である重量%は重量/重量基準によるもの(上記5.(2)の(1-3)の判断参照)であるのに対し、引用発明1の上記重量/容量%は重量/容積基準によるものである点で異なってはいるが、約35.7重量/容量%を重量/重量基準に換算しても20重量%より大きい値となることは当業者にとって明らかであるから、両者のグルコースまたはグルコース様化合物の濃度に実質的な差異はない。
しかし、パッケージシステムの用途については、引用発明1のパッケージシステムは輸液用であり、刊行物1の上記記載事項(b)等に記載されているように、第一溶液300〜400mlと第二溶液700mlとを混合して輸液とするものであるから、第一溶液と第二溶液とを混合したときの輸液のブドウ糖の濃度は約22.7〜25重量/容量%となり、重量/重量%に換算してもかなり高濃度で用いられるものである。一方、腹膜透析用溶液は、本件の特許明細書中にグルコース含量1.5重量%とする例が記載されているように輸液と比較するとグルコースまたはグルコース様化合物の濃度は低濃度(必要であれば平成16年5月14日付け特許異議意見書の参考資料3参照)で用いられるものである。そうすると、引用発明1では、グルコースまたはグルコース様化合物の濃度が腹膜透析用溶液と比べて高濃度となる輸液であるため、第一溶液と混合前の第二溶液のグルコースまたはグルコース様化合物の濃度をある程度高濃度としなければ混合後にグルコースまたはグルコース様化合物の濃度を高濃度とすることができないものであるのに対し、本件発明1の腹膜透析用溶液は、輸液と比較するとグルコースまたはグルコース様化合物の濃度は低濃度であるから、第一溶液と混合前の第二溶液のグルコースまたはグルコース様化合物の濃度をあまり高濃度とする必要のないものである。実際、腹膜透析用に用いることが記載されている上記刊行物5では、第二溶液に相当する酸性溶液のグルコース濃度は約26〜90g/l(2.6〜9.0重量/容量%に相当、上記刊行物5の記載事項参照)、同じく腹膜透析用に用いることが記載されている上記刊行物7では、第二溶液に相当する溶液Aのグルコース濃度は84.08g/l(8.408重量/容量%に相当、上記刊行物7の記載事項参照)となっており、これらを重量%に換算しても明らかに20重量%よりも低い濃度となるものしか記載されていない。これに対して、本件発明1では、混合前のグルコースまたはグルコース様化合物の濃度を高濃度とする必要のない腹膜透析用溶液において、混合前の第二溶液のグルコースまたはグルコース様化合物の濃度をあえて20重量%より大きい値とすることにより、加熱滅菌しても低毒性の溶液を得ることができるものであるから本件発明1は上記相違点1で実質的に相違している。
したがって、本件請求項1に係る発明は、他の相違点を検討するまでもなく刊行物1に記載された発明であるとすることはできない。
同様に、刊行物2、4には、輸液において混合前の溶液のグルコースまたはグルコース様化合物の濃度が20重量%より大きい値となることが、刊行物3には、医薬分野に用いられる灌流溶液において混合前の溶液のグルコースまたはグルコース様化合物の濃度が20重量%より大きい値となることがそれぞれ記載されてはいるが、腹膜透析用溶液において、混合前の溶液のグルコースまたはグルコース様化合物の濃度が20重量%より大きい値とすることは刊行物2〜4には記載されていない。
したがって、本件請求項1に係る発明は、引用発明1との対比・判断で示した理由と同様の理由により刊行物2〜4のいずれかに記載された発明であるとすることはできない。
また、上記のように刊行物3には、医薬分野に用いられる灌流溶液において、混合前の溶液のグルコースまたはグルコース様化合物の濃度が20重量%より大きい値となることが記載されてはいるが、それを腹膜透析用溶液の混合前の溶液のグルコースまたはグルコース様化合物の濃度として適用できることが記載乃至示唆されておらず、上記異議申立人の提示した他の刊行物等を参照しても、上記相違点1の構成とすることが当業者にとって容易に想到し得ることであるとはいえない。
したがって、本件請求項1に係る発明は、刊行物3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

(3-2)申立ての理由(1-2)について
上記異議申立人の申立ての理由(1-2)は訂正前の請求項2に対するものであり、訂正前の請求項2は、上記訂正により削除された(2.(1)の訂正事項b参照)ので、異議申立人の申し立ての理由を採用することはできない。

(3-3)申立ての理由(1-3)について
上記異議申立人の申立ての理由(1-3)は訂正前の請求項3に対するものであり、訂正前の請求項3は、上記訂正により請求項2となった(2.(1)の訂正事項c参照)ので、申立ての理由(1-3)は訂正後の請求項2すなわち本件発明2を対象とするものとして検討する。
そこで、本件発明2と刊行物1、刊行物2または刊行物4とを対比すると、本件発明2は、本件発明1を引用しているから、上記(3-1)で検討した理由と同様の理由により、刊行物1、刊行物2または刊行物4に記載された発明であるとすることはできない。

(3-4)申立ての理由(1-4)〜(1-6)について
上記異議申立人の申立ての理由(1-4)〜(1-6)は訂正前の請求項4〜6に対するものであり、訂正前の請求項4〜6は上記訂正により削除された(2.(1)の訂正事項d参照)ので、異議申立人の申し立ての理由を採用することはできない。

(3-5)申立ての理由(1-7)〜(1-9)について
上記異議申立人の申立ての理由(1-7)〜(1-9)は訂正前の請求項7〜9に対するものであり、訂正前の請求項7〜9は、上記訂正により請求項3〜5となった(2.(1)の訂正事項e参照)ので、申立ての理由(1-7)〜(1-9)は訂正後の請求項3〜5すなわち本件発明3〜5を対象とするものとして検討する。
そこで、本件発明3〜5と刊行物3または刊行物4とを対比すると、本件発明3〜5は、本件発明1を直接または間接的に引用しているから、上記(3-1)で検討した理由と同様の理由により、刊行物3または刊行物4に記載された発明であるとすることはできない。

(3-6)申立ての理由(1-10)〜(1-14)について
上記異議申立人の申立ての理由(1-10)〜(1-14)は訂正前の請求項10〜14に対するものであり、訂正前の請求項10〜14は上記訂正により削除された(2.(1)の訂正事項f参照)ので、異議申立人の申し立ての理由を採用することはできない。

(3-7)申立ての理由(1-15)について
上記異議申立人の申立ての理由(1-15)は訂正前の請求項15に対するものであり、訂正前の請求項15は、上記訂正により請求項6となった(2.(1)の訂正事項g参照)ので、申立ての理由(1-15)は訂正後の請求項6すなわち本件発明6を対象とするものとして検討する。
そこで、本件発明6と刊行物1または刊行物2とを対比すると、本件発明6は、実質的に本件発明1と同様の構成を備えたものであるから、上記(3-1)で検討した理由と同様の理由により、刊行物1または刊行物2に記載された発明であるとすることはできない。
また、上記(3-1)で検討した理由と同様の理由により、本件発明6は、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(3-8)申立ての理由(1-16)について
上記異議申立人の申立ての理由(1-16)は訂正前の請求項16に対するものであり、訂正前の請求項16は、上記訂正により請求項7となった(2.(1)の訂正事項h参照)ので、申立ての理由(1-16)は訂正後の請求項7すなわち本件発明7を対象とするものとして検討する。
そこで、本件発明7と刊行物1または刊行物2とを対比すると、本件発明7は、本件発明6を引用しているから、上記(3-7)で検討した理由と同様の理由により、刊行物1または刊行物2に記載された発明であるとすることはできない。
また、上記(3-7)で検討した理由と同様の理由により、本件発明7は、刊行物1、2または刊行物4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

よって、異義申立人田嶋順治の特許法第29条第1項第3号または同第2項の規定に基づく異議申立ての理由は何れも採用することができない。

7.異義申立人テルモ株式会社の特許法第29条第1項第3号または同第2項の規定に基づく異議申立ての理由について
(1)申し立ての理由の詳細
異義申立人テルモ株式会社は、下記の理由で特許法第29条第1項第3号または同第2項の規定を満たしていない旨主張している。
(1-1)
本件請求項1の発明は、甲第1号証および甲第2号証に記載された発明である(甲第3号証の実験報告書参照)。更に、本件請求項1の発明は、甲第1号証および甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(1-2)
本件請求項3の発明は、甲第1号証および甲第2号証に記載された発明であり、更に、甲第1号証、甲第2号証および甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(1-3)
本件請求項5の発明は、甲第1号証および甲第2号証に記載された発明であり、更に、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証および甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(1-4)
本件請求項6の発明は、甲第2号証に記載された発明であり、更に、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証および甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(1-5)
本件請求項7〜9の発明は、甲第1号証および甲第2号証に記載された発明であり、更に、甲第1号証および甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(1-6)
本件請求項15の発明は、甲第1号証に記載された発明であり、更に、甲第1号証および甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(1-7)
本件請求項16の発明は、甲第1号証に記載された発明であり、更に、甲第1号証、甲第2号証、甲第5号証および甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)上記異議申立人が証拠として提示した刊行物等
刊行物9:特公平1-34066号公報(甲第1号証)
刊行物10:特開昭61-103823号公報(甲第2号証)
刊行物11:「輸液」、株式会社 中外医学社、1985年9月10日2版1刷発行、第339〜342頁(甲第4号証)
刊行物12:特開昭61-355号公報(甲第5号証)
刊行物13:「薬剤学」Vol.40、No.2、(1980)、第74〜82頁(甲第6号証)

上記刊行物9は、刊行物1(異議申立人田嶋順治の甲第1号証)である公開公報と同じ特許出願の特許公報であり、刊行物9には、刊行物1と同様の事項が記載されているから、刊行物9の記載事項については、刊行物1の記載事項を参照。

また、上記刊行物10は、刊行物2(異議申立人田嶋順治の甲第2号証)と同一公報であるから、刊行物10の記載事項については、刊行物2の記載事項を参照。

また、上記刊行物11には、次の事項が記載されているものと認められる。
「糖液は一般に,滅菌時および保存時の安定のためにpHを酸性にしてあり、ブドウ糖・果糖・マルトースは比較的pHが低い(3.5〜5.0)こと、およびアミノ酸液のpHは大体6.0程度であること。」

また、上記刊行物12は、刊行物5(異議申立人田嶋順治の甲第5号証)と同一公報であるから、刊行物12の記載事項については、刊行物5の記載事項を参照。

また、上記刊行物13の第79頁のFig.6、Fig7、Fig.10等の記載から高圧蒸気滅菌器による加熱滅菌を120℃前後で行うこと、および、加熱開始から室温への冷却までに要する時間が10〜100分の範囲内であることが読みとれる。

(3)対比・判断
(3-1)申立ての理由(1-1)について
刊行物9には実質的に刊行物1(異議申立人田嶋順治の甲第1号証)と同様の事項が記載されているから、異議申立人田嶋順治の異議申し立ての理由に対して検討した理由と同様の理由により、本件発明1は刊行物9に記載された発明であるとすることはできない。
また、刊行物10は刊行物2(異議申立人田嶋順治の甲第2号証)と同一公報であるから、異議申立人田嶋順治の異議申し立ての理由に対して検討した理由と同じ理由により、本件発明1は刊行物10に記載された発明であるとすることはできない。
また、上記のように刊行物9には刊行物1(異議申立人田嶋順治の甲第1号証)と同様の事項が記載されており、刊行物10は刊行物2(異議申立人田嶋順治の甲第2号証)と同一公報であるから、異議申立人田嶋順治の異議申し立ての理由に対して検討した理由と同様の理由により、本件請求項1に係る発明は、刊行物9、10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

(3-2)申立ての理由(1-2)について
上記異議申立人の申立ての理由(1-2)は訂正前の請求項3に対するものであり、訂正前の請求項3は、上記訂正により請求項2となった(2.(1)の訂正事項c参照)ので、申立ての理由(1-2)は訂正後の請求項2すなわち本件発明2を対象とするものとして検討する。
そこで、本件発明2と刊行物9または刊行物10に記載されたものと対比すると、本件発明2は、本件発明1を引用しているから、上記(3-1)で検討した理由と同様の理由により、刊行物9または刊行物10に記載された発明であるとすることはできない。
また、同様に上記(3-1)で検討した理由と同様の理由により刊行物9、10、12に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

(3-3)申立ての理由(1-3)、(1-4)について
上記異議申立人の申立ての理由(1-3)、(1-4)は訂正前の請求項5、6に対するものであり、訂正前の請求項5、6は上記訂正により削除された(2.(1)の訂正事項d参照)ので、異議申立人の申し立ての理由を採用することはできない。

(3-4)申立ての理由(1-5)について
上記異議申立人の申立ての理由(1-5)は訂正前の請求項7〜9に対するものであり、訂正前の請求項7〜9は、上記訂正により請求項3〜5となった(2.(1)の訂正事項e参照)ので、申立ての理由(1-7)〜(1-9)は訂正後の請求項3〜5すなわち本件発明3〜5を対象とするものとして検討する。
そこで、本件発明3〜5と刊行物9または刊行物10とを対比すると、本件発明3〜5は、本件発明1を引用しているから、上記(3-1)で検討した理由と同様の理由により、刊行物9または刊行物10に記載された発明であるとすることはできない。
また、同様に上記(3-1)で検討した理由と同様の理由により刊行物9、10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

(3-5)申立ての理由(1-6)について
上記異議申立人の申立ての理由(1-6)は訂正前の請求項15に対するものであり、訂正前の請求項15は、上記訂正により請求項6となった(2.(1)の訂正事項g参照)ので、申立ての理由(1-6)は訂正後の請求項6すなわち本件発明6を対象とするものとして検討する。
そこで、本件発明6と刊行物9とを対比すると、本件発明6は、実質的に本件発明1と同様の構成を備えたものであるから、上記(3-1)で検討した理由と同様の理由により、刊行物9に記載された発明であるとすることはできない。
また、同様に上記(3-1)で検討した理由と同様の理由により、本件発明6は刊行物9、10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

(3-6)申立ての理由(1-7)について
上記異議申立人の申立ての理由(1-7)は訂正前の請求項16に対するものであり、訂正前の請求項16は、上記訂正により請求項7となった(2.(1)の訂正事項h参照)ので、申立ての理由(1-7)は訂正後の請求項7すなわち本件発明7を対象とするものとして検討する。
そこで、本件発明7と刊行物9とを対比すると、本件発明7は、本件発明6を引用しているから、上記(3-5)で検討した理由と同様の理由により、刊行物9に記載された発明であるとすることはできない。
また、同様に上記(3-5)で検討した理由と同様の理由により、本件発明7は刊行物9、10、12、13に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

よって、異義申立人テルモ株式会社の特許法第29条第1項第3号または同第2項の規定に基づく異議申立ての理由は何れも採用することができない。

8.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1〜7についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜7についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
グルコースまたはグルコース様化合物を含有する滅菌医療用溶液を用いるシステムおよびそのシステム用の溶液
【発明の詳細な説明】
技術分野
本発明は,グルコースまたはグルコース様化合物からなる滅菌医療用溶液,たとえば栄養溶液または腹膜透析用の溶液を用いるシステムであって,その溶液の大部分は一つのパッケージ内に充填され,一方,グルコースまたはグルコース様化合物は第二のパッケージに別個に充填され,ついで2つのパッケージが加熱滅菌されているシステムに関する.グルコース様化合物の表現はたとえばグルコースのポリマーを意味する.
発明の背景
CAPD溶液を2つのチャンバーからなるパッケージ中に充填することは,たとえばN.Topeyらの文献,”In vitro Testing of a Potentially Biocompatible Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis Fluid,”Nephrol Dial Transport(1991)6:574-581によって知られている.
実質的に同一の発明者らによる,同一もしくは少なくとも類似の2チャンバーパッケージが国際特許出願WO91/08008号に記載されている.たとえばこの明細書の実施例1からは,パッケージの2つの部分は実質的に同量の溶液を含有するように意図されていることが明らかである.すなわち,この文献では,大きい方と小さい方のそれぞれのパッケージについて言及されたときも,大きく作られた方のパッケージは混合用チャンバーとして使用できるようにしたもので,この場合でも,2つのパッケージには同量の溶液を含有させることを意味するものと考えられる.
たとえば,Anders Wieslanderらの文献,”Toxicity of peritoneal dialysis fluids on cultured fibroblasts L-929,”Kidney International,Vol 40(1991),pp 77-79から,加熱滅菌されたCAPD溶液は,滅菌時におけるある種の化合物たとえばグルコースの分解が原因と考えられる有害な成分を含有することがあり得ることが知られている.
たとえば米国特許4,369,779号および4,753,697号からは,様々な方法で2つのチューブ間の滅菌的なカップリングを達成できることが知られている.この2つのチューブは2つの別個のパッケージを連結することができる.
発明の説明
本発明は上述の教示を発展させたものということができ,グルコースまたはグルコース様化合物からなる滅菌医療用溶液,たとえば栄養溶液または腹膜透析用の溶液を用いるシステムであって,その溶液の大部分は一つのパッケージ内に充填され,一方,グルコースまたはグルコース様化合物は第二のパッケージに別個に充填され,ついで2つのパッケージが加熱滅菌されるシステムに関する.
本発明のシステムは,第二のパッケージ内のグルコースまたはグルコース様化合物の含量を10重量%以上,適当には20重量%以上,好ましくは40重量%のオーダーに維持することを特徴とする.この方法によって,充填された製品の分解が減少する.同時に,加熱滅菌時に,分解しやすい製品を最終溶液中のすべての化合物と接触させる必要がないので,分解の危険が低下する.
本発明のさらに他の利点は,pH6.5〜7.5の最終的な中性溶液を達成できる可能性である.好ましくはこの場合,7.0のpHが達成される.本発明者の知る限りでは,PD透析用のこのような中性溶液は,現在,市場で市販品を入手できないことが,とくに強調されなければならない.
実際には,110℃〜150℃の滅菌温度,および加熱開始から室温への冷却まで180分〜10分の滅菌時間を使用できることが明らかにされている.同時に,最大加熱の時間間隔は,もちろん政府によって課せられた要求に合致する細菌や胞子の十分な死滅率を達成するのに十分長くなければならないのではあるが,この場合可能な限り短く保持すべきである.
一つの可能性は,2つのパケージを別個に製造し,それぞれに連結ピースまたは連結チューブを装着するものである.好ましくは,両パッケージを完全に密閉し,それぞれに加熱シールが可能な材料で作られ,その末端を溶接シールで密閉した連結ピースまたは連結チューブを設ける.末端のシールは滅菌状態の保持下に除去または開口して,2つのパッケージを連結しそれらの内容物を混合することを意図するものである.このような連結のための装置および操作は,上述の米国特許に記載されている.したがって,これらの記載は本明細書の説明に包含するものとする.しかしながら,本発明は,他の既知のまたは将来の滅菌連結,たとえば,現在CAPDに用いられている連結も包含するものである.この実施態様による利点は,小さい方のパッケージは別個に,短い加熱時間と短い冷却時間により,高温で短時間加熱滅菌できることである.
別法として,上記グルコースまたはグルコース様化合物を含有する第二のパッケージは,ダブルパッケージたとえばダブルバッグの小部分を形成させ,他の部分では第一のパッケージを形成させることもできる.2つの部分はついで互いに連結させて,内容物を混合させることができる.この場合,第一のパッケージにはその元の内容物に加えて第二のパッケージの内容物も収容をできるだけの容量がなければならない.この実施態様での利点は,開口可能な連結導管がその製造時に既に2つのパッケージの間に配置できることである.しかしながら,小さい方のパッケージの加熱時間は大きな方のパッケージの加熱時間にある程度依存することになる.しかしこの場合でも,滅菌温度は高く加熱時間は短く維持することが望ましい.
小さい方のグルコース含有パッケージの内容物は滅菌時低いpH,好ましくは3.5のオーダーに維持されるのが適当である.同時に,滅菌時における2つのパッケージの内容物は,混合後に得られる最終生成物が実質的に中性,すなわち,たとえば6.5〜7.5,好ましくは約7.0のpHになるようなそれぞれのpH値に維持されなければならない.
本発明はさらに,上に定義された種類のシステム用に意図された溶液に関する.この溶液は,滅菌,混合およびグルコース含量1.5%へ希釈後に,グルコースからの分解生成物によって生じる228nmの吸光度が0.35未満,好ましくは0.20もしくはそれ以下であることを特徴とする.
本発明の溶液が腹膜透析用に意図された場合には,本発明のシステムは,pH3〜6,好ましくは約3.5,グルコース含量10〜70%,好ましくは約40%のグルコース溶液20〜500ml,好ましくは約65〜75mlを含有する小さいパッケージ,ならびに残りの化合物,たとえば乳酸-Na9g,NaCl10.8g,CaCl2380mgおよびMgCl2102mgを含有し,pHが所望の値6〜8.5に調整され,好ましくは蒸留水を2Lのオーダー,たとえば1935〜1925ml含む大きなパッケージから構成させることができる.
本発明の溶液はまた,滅菌,混合およびグルコース含量1.5%に希釈後,グルコースからの分解生成物により生じるICG値(培養線維芽細胞L-929で試験された細胞増殖の阻止)が50%未満,好ましくは30%未満であるとも定義できる.この定義の根拠は,図4から明らかなように,この細胞増殖の阻止の程度が228nmにおけるUVの吸光度と密接に相関することである.しかしながら,この溶液がグルコースまたはグルコース様化合物以外の228nmに吸収をもつ化合物を含んではならないことに留意すべきである.溶液が他のこのような化合物を含有すると,吸光度が影響されることになる.しかしながら,包含される化合物がわかっていれば,グルコースからの分解生成物による吸光度を計算することが可能である.
図面の簡単な説明
図1は,本発明のシステムに関連しての使用が意図されるダブルパッケージを示す.
図2は,2つの分離したバッグの形態の他の態様を示す.
図3は,純水中に溶解したグルコースのグルコース含量とその加熱滅菌後におけるICG値との間の関係を例示する.
図4は,純水中に様々なグルコース含量を有する溶液を加熱滅菌したのちの,ICG値と228nmにおけるUV-吸光度の間の関係を示す.
図5は,純水中に様々なグルコース含量を有する溶液を加熱滅菌したのちの,228nmにおける吸光度を示す.
図6は,グルコース含量がそれぞれ1.5%および40%の水溶液を加熱滅菌したのちのICG値間の比較を棒グラフの形で示す.
図7は,グルコース含量がそれぞれ1.5%および40%の水溶液を加熱滅菌したのちの228nmにおける吸光度の比較を同様に例示する.
本発明の最良の実施態様
上述のAnders Wieslanderらの文献から,現在市販されているグルコース溶液は培養線維芽細胞の増殖を阻害することが明らかである.これは,グルコース溶液が生物系に毒性を示す1種または2種以上の物質を含有することを意味する.
たとえば,内容物が実質的に等しい滅菌濾過溶液と加熱滅菌溶液の比較から,この毒性作用は加熱滅菌またはその後の保存に関連して形成された物質によるものと考えられる.この場合,多くの国の政府が製品をパッケージしたのちの滅菌を要求していることに留意すべきである.原理的に,これは滅菌濾過溶液では不可能である.
たとえば図4のグラフから,毒性作用(増殖阻害百分率),またその場合の毒性物質の量も,228nmにおける吸光度に相関することがわかる.これは228nmに高い吸光度を有するグルコース溶液よりも,低い吸光度の溶液の方が多分,毒性学的観点から,良好であることを意味する.
本発明の目的は,現在までに市販されている滅菌グルコース溶液に比較して,生物系に対し相当に低毒性のグルコース溶液を提供することである.低毒性の語は,本発明においては,グルコース含量1.5%に希釈されたグルコース溶液が,分解生成物によって培養線維芽細胞L-929の細胞増殖(本明細書の説明に導入されるAnders Wieslanderらの上述の文献に従って試験)を50%以上,好ましくは30%以上阻害しないことを意味する.
上述のパッケージから形成させることができる2つの別のバッグシステムを図1および2に示す.図1には,溶接部または他のシールCによって分離されている大きい方の部分Aと小さい方の部分Bからなるダブルバッグを示す.ダブルパッケージの末端は類似の様式で,溶接部または他の手段それぞれD,Eによって密閉される.溶接部Cは完全に離脱開口することができる.別法として,2つのバッグ部分AおよびBは,既に製造時に,適当な破断可能なシールたとえば慣用のブレークピンを含有するチューブFによって連結することができる.
図2に示す別の態様は分離された大きい方のバッグAと同様に分離された小さい方のバッグBからなる.2つのバッグには,それぞれGおよびHの符号を付した連結ピースまたは連結導管が装着される.これらの連結ピースのそれぞれが滅菌連結のための滅菌連結部の前後を提供できる.ここに示した例では,それらは末端が末端シール溶接部,それぞれI,Jで終わるように意図されている.滅菌連結は,たとえば,上述の米国特許に一例として記載されている方法で達成することができる.したがって,これらの内容は本明細書の説明に導入される.
図2の別の態様では,一方が他方の上部に重ねられ,縁に沿って互いに連結された2枚のプラスチックシートから製造され,グルコース溶液の層を加熱滅菌時に比較的薄く維持できるような寸法にすれば,バッグAを慣用方法で加熱滅菌すると同時にバッグBのとくに急速な加熱および冷却が達成できるという利点が得られる.たとえば,75mlのグルコース溶液を含有するバッグは10cm×10cmの寸法とすることができる.
大きい方のバッグAには,腹膜透析に使用する場合は,乳酸-Na9g,NaCl10.8g,CaCl2380mgおよびMgCl2102mgの内容の塩溶液を含有させることができる(組成はある程度変動させることができる).pHは所望の値7〜9に調整されなければならない.最終的にバッグには,好ましくは蒸留水を2Lのオーダーの量,たとえば1935〜1925mlを含有させる.加熱滅菌には,慣用方法により,適当に調整した時間および温度でのオートクレーブ中における実施が想定される.
小さい方のバッグBには,たとえば20〜500ml好ましくは65〜75ml,10〜70%好ましくは40%グルコースのグルコース濃厚液を含有させることができる.pH値は3〜6,好ましくは約3.5でなければならない.滅菌は,オートクレーブ中110〜145℃,適当には120℃以上,好ましくは130℃において行うことができる.図1の実施態様においては,バッグ部分Bはもちろん,バッグ部分Aと同時に滅菌される.図2の実施態様においては,しかしながら,バッグBは,必要な滅菌温度への速やかな到達ついで速やかな冷却が可能なように別個に滅菌するのに適している.
試験時には,FOは40で検討したが,実際にはこの値はある程度変動させることができる.FOは,監督官庁によって要求されるところに従い滅菌するために,溶液を121℃に維持する必要がある時間を分で示す値である.FOが10とは,したがって,滅菌を達成するためには,製品を121℃に10分間維持しなければならないことを意味する.
以下の表は多数の実験テストの結果を示す.1行目は,滅菌濾過された,すなわち非加熱滅菌された,1.5%グルコース含有PD用完成溶液の試験結果である.次の3行は,最初からグルコースが添加された完成PD溶液の,様々なFOでの加熱滅菌における結果を示す.これらの溶液も1.5%のグルコースを含有する.
最後の3行は,滅菌後にはじめてPD溶液中に包含される残りの化合物と混合できるようにグルコース溶液を別個に加熱滅菌し,これからの完成混合物についてのテスト結果を示す.この場合,滅菌時のグルコース濃度は約40%に維持された.全部を混合したのち,これは,比較試験における他の溶液の濃度と一致する1.5%に低下させた.
表からさらに,本発明を用いると,グルコース溶液の別個の滅菌により,アセトアルデヒドの濃度を低く保持できることが明らかである.アセトアルデヒドは,グルコースからの代表的な分解生成物であり,この生成物の量は1.0ppm未満,適当には0.1ppm未満,好ましくは0.01〜0.001ppmのオーダーに保持されなければならない.
図4には,多数の純水中グルコース溶液の加熱滅菌後における228nmの吸光度とICG値の間の関係を示す.グラフは,許容できる製品の状態が,低吸光度および低ICG値のいずれによっても定義できることを示している.
図5には,多数の純水中グルコース溶液の加熱滅菌後における228nmでの吸光度を示す.グルコース濃度が高く維持されるほど,吸光度は低く,したがってICG値も低くなる.しかしながら,実際には,グルコース濃度は約40%より高くすべきではない.さらに,とくに低温では,結晶生成の危険がある.
最後に,図6および7は,それぞれ,1.5%のグルコースを含む完成溶液として滅菌された水溶液,およびグルコースが40%の濃度で別個に滅菌された相当する1.5%溶液についての228nmにおける吸光度の比較を示すものである.
本発明を以上,とくに腹膜透析,さらに特定的にCAPDに関連して説明した.しかしながら,本発明が,グルコースまたはグルコース様化合物たとえばグリコースのポリマーを含有する他の滅菌溶液に関しても適当に使用できることは明白であろう.たとえば,本発明は,本発明によらなければ加熱滅菌に関連する分解生成物の点で問題がある,グルコースまたはグルコース様化合物を含む栄養溶液の滅菌に際して適当に使用することができる.

(57)【特許請求の範囲】
1. グルコースまたはグルコース様化合物を除く成分からなる第一溶液を内包する加熱可能な第一のパッケージ(A)と、少なくともグルコースまたはグルコース様化合物を含む第二溶液を内包する加熱可能な第二のパッケージ(B)と、該第一および第二のパッケージを、加熱滅菌後、これらのパッケージ中の各溶液を混合可能な状態に連通する連通部材とを備える腹膜透析用溶液調整用パッケージシステムであって、
該第二のパッケージ(B)中の該第二溶液は、加熱滅菌処理前の状態で、グルコースまたはグルコース様化合物の濃度が20重量%より大きく、且つpH値が3〜6であり、
第一のパッケージ(A)中の該第一溶液は、加熱滅菌処理前の状態で、pH値が7〜9.0であり、
該加熱滅菌処理後の該第一および第二のパッケージの連通により、該第一及び第二の溶液が混合され、pH値6.5〜7.5となる腹膜透析用溶液を調製できることを特徴とする、上記パッケージシステム。
2. 前記第一のパッケージ(A)が、前記第一及び第二の溶液の両方を収容するのに十分な容量を有することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
3. 滅菌、混合およびグルコース含量1.5重量%に希釈後、前記腹膜透析用溶液の、グルコースからの分解生成物によって生じる228nmでの吸光度が0.35未満であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のパッケージシステム。
4. 滅菌、混合およびグルコース含量1.5重量%に希釈後、前記腹膜透析用溶液の、グルコースからの分解生成物によって生じるICG値(培養線維芽細胞L-929について試験した細胞増殖の阻害)が、50%未満であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つに記載のパッケージシステム。
5. 滅菌、混合およびグルコース含量1.5重量%に希釈後、前記腹膜透析用溶液のアセトアルデヒド含有量が、1.0ppm未満であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つに記載のパッケージシステム。
6. グルコースまたはグルコース様化合物を除く成分からなる第一溶液を内包する加熱可能な第一のパッケージ(A)と、少なくともグルコースまたはグルコース様化合物を含む第二溶液を内包する第二のパッケージ(B)とを、それぞれ加熱滅菌し、
次いで該第一及び第二のパッケージ(A)及び(B)を、これらパッケージ中の該第一及び第二の溶液が混合可能な状態で連通することにより、腹膜透析用溶液を調整する方法において、
該第二のパッケージ(B)中の該第二溶液を、加熱滅菌処理前の状態で、グルコースまたはグルコース様化合物の濃度が20重量%より大きく、且つpH3〜6とし、
該第一のパッケージ(A)中の該第一溶液を、加熱滅菌処理前の状態で、pH値7〜9.0とし、
該加熱滅菌処理後、該第一および第二のパッケージを連通して、該第1及び第二医療用溶液を混合して、pH値6.5〜7.5となる透析液を得ることを特徴とする、腹膜透析用溶液の調整方法。
7. 上記第二のパッケージ(B)を、110℃〜150℃の滅菌温度を適用し、且つ加熱開始から加熱後の室温までの冷却を180〜10分の時間で行うことにより、滅菌することを特徴する請求項6に記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-12-13 
出願番号 特願平5-509187
審決分類 P 1 651・ 536- YA (A61J)
P 1 651・ 121- YA (A61J)
P 1 651・ 113- YA (A61J)
P 1 651・ 537- YA (A61J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 生越 由美  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 北川 清伸
西村 泰英
登録日 2001-11-16 
登録番号 特許第3250807号(P3250807)
権利者 ガンブロ ルンデイア アクチーボラグ
発明の名称 グルコースまたはグルコース様化合物を含有する滅菌医療用溶液を用いるシステムおよびそのシステム用の溶液  
代理人 浅村 皓  
代理人 長沼 暉夫  
代理人 辻 邦夫  
代理人 木川 幸治  
代理人 辻 良子  
代理人 浅村 肇  
代理人 浅村 皓  
代理人 長沼 暉夫  
代理人 木川 幸治  
代理人 浅村 肇  

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