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審決分類 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  A47G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A47G
審判 全部申し立て 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  A47G
審判 全部申し立て 2項進歩性  A47G
審判 全部申し立て 特29条の2  A47G
管理番号 1114608
異議申立番号 異議2003-71796  
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-09-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-07-14 
確定日 2005-01-17 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3366368号「防滑用シート」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3366368号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3366368号は、平成5年3月19日の出願に係り、平成14年11月1日に設定登録がなされ、平成15年1月14日にその特許掲載公報が発行され、その後、水島暁美より特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成16年7月26日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正の内容
平成16年7月26日付け訂正請求書によれば、本件訂正は、本件特許明細書の記載を同上訂正請求書に添付の訂正明細書のとおりに訂正することを求めたものであって、その具体的な内容は次のとおりのものである。
訂正事項A:
【特許請求の範囲】の【請求項1】及び【請求項2】の記載中、
「スチレンと共役ジエン化合物との共重合体」とあるのを、
「スチレン-イソプレン-スチレン型ブロック共重合体」と訂正する。
訂正事項B:
明細書の段落【0004】、【0005】、【0017】の記載中、
「スチレンと共役ジエン化合物との共重合体」とあるのを、
「スチレン-イソプレン-スチレン型ブロック共重合体」と訂正する。

2-2.訂正の適否
訂正事項Aは、訂正前の【請求項1】に係る発明を特定する、「スチレンと共役ジエン化合物との共重合体」を、「スチレン-イソプレン-スチレン型ブロック共重合体」と限定して特定するもので、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、当該訂正事項Aに係る記載事項は、特許明細書の段落【0013】に実施例として記載されているものである。
訂正事項Bは、訂正事項Aにより訂正された特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを整合させるためのものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
そうすると、上記の訂正事項は、いずれも、訂正前の明細書に記載された範囲内の訂正事項であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないといえる。
したがって、本件訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
3-1.異議申立の理由の概要
異議申立人は、下記の証拠(甲第1号証乃至甲第3号証)及び理由により、本件請求項1及び2に係る発明は取り消されるべきであると主張している。
[証拠]
甲第1号証:特開平6-17355号公報(当審で通知した取消理由通知において採用した本件出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開された特許出願である特願平4-174301号の願書に最初に添付された明細書又は図面が掲載されている)
甲第2号証:特開平3-220356号公報
甲第3号証:「不織布情報」第233号(平成4年11月10日発行)、第50頁左欄第17〜32行

[理由1]本件請求項1及び2に係る発明は、いずれも、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開された特許出願である甲第1号証の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件出願の発明者がその出願前の上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
[理由2]本件請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
[理由3]本件請求項1に係る発明は、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
[理由4]本件請求項1及び2に係る発明の特許は、その明細書の記載が特許法第36条第4項及び第5項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから取り消されるべきである。
なお、当審により通知した取消理由は、上記理由の内の理由2のみであって、他の理由は採用しなかった。

3-2.本件発明
上記したように本件訂正が認められるので、本件請求項1及び2に係る発明(以下順に、「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のとおりのものである。
(本件発明1)
「スチレン-イソプレン-スチレン型ブロック共重合体を水素添加して得られるスチレン系エラストマーを含む樹脂繊維の不織布からなる防滑シート。」
(本件発明2)
「床面に、スチレン-イソプレン-スチレン型ブロック共重合体を水素添加して得られるスチレン系エラストマーを含む樹脂繊維の不織布からなる防滑シートを敷設した上に敷物を敷設することを特徴とする敷物の敷設方法。」

3-3.異議申立の[理由1(特許法第29条の2)]について
3-3-1.先願明細書の記載事項
特願平4-174301号(特開平6-17355号公報参照)の願書に最初に添付された明細書又は図面(以下、「先願明細書」という。)には、「主としてビニル芳香族化合物から構成された重合体ブロックAを少なくとも2個、主として共役ジエン化合物から構成された重合体ブロックBを少なくとも2個有し、かつ、少なくとも1個の重合体ブロックBがポリマー鎖の末端にあり、全体の数平均分子量が30,000から65,000の範囲にあり、ビニル芳香族化合物の含有量が、15〜40重量パーセントであるブロック共重合体を水素添加して得られた水素添加ブロック共重合体から製造される熱可塑性繊維から作られた不織布から成る滑り止め材」(【特許請求の範囲】の【請求項1】参照、下線は当審が付記した。)の発明について、そのブロック共重合体Aを構成するビニル芳香族化合物としてスチレンが特に好ましいこと、また、そのブロック共重合体Bを構成する共役ジエン化合物としてはブタジエン及びイソプレンが特に好ましいこと(明細書の段落【0010】参照)がそれぞれ記載され、その実施例1には、ブロック共重合体として「ブタジエン-スチレン-ブタジエン-スチレン型ブロック共重合体」を用いた例が示されている(明細書の段落【0026】参照)とともに、その使用態様につき、明細書の段落【0024】の記載を参酌すると、その図1に、滑り止め材1を玄関マット、バスマットあるいはタイルカーペット等のマット類2の裏面全面に貼り合わせて使用した例が示されているといえる。

3-3-2.対比・判断
本件発明1と先願明細書に記載された発明とを対比すると、先願明細書に記載されたブロック共重合体において、「主としてビニル芳香族化合物から構成された重合体ブロックA」の「ビニル芳香族化合物」として「スチレン」を選択し、また、「主として共役ジエン化合物から構成された重合体ブロックB」の「共役ジエン化合物」として「イソプレン」を選択して採用すれば、イソプレンを含有する繊維が弾性を有するもの、すなわちエラストマーであり、不織布から成る防滑材が防滑シートであるということができるので、先願明細書には、「少なくとも2個のスチレン重合体ブロックと、少なくとも2個のイソプレン重合体ブロックを有し、ポリマー鎖の末端に少なくとも1個のイソプレン重合体ブロックを有するブロック共重合体を水素添加して得られるスチレン系エラストマーを含む樹脂繊維の不織布からなる防滑シート」の発明が記載されているといえるから、結局、両者は、水素添加前のブロック共重合体の構成を除いて一致するといえる。
しかしながら、本件発明1のブロック共重合体は、「スチレン-イソプレン-スチレン型」であって、そのポリマー鎖の末端は常にスチレンということになるのに対して、先願明細書に記載された発明のブロック共重合体は、上記した「ポリマー鎖の末端に少なくとも1個のイソプレン重合体ブロックを有する」ものである点で相違する。
そして、先願明細書には、先願明細書記載された発明のブロック共重合体として、本件発明1の「スチレン-イソプレン-スチレン型」を用いてもよいという記載ないし示唆を見出すことができないし、また、そのように取り替えて用いることが当該技術分野において本願出願前に周知の技術であったということもできない。
したがって、本件発明1は、先願明細書に記載された発明ということができない。
また、本件発明2は、上記本件発明1の防滑シートを用いた敷物の敷設方法の発明であるから、上記と同様の理由から、先願明細書に記載された発明ということができない。

3-4.異議申立の[理由2(特許法第29条第1項第3号)]について
3-4-1.甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、「ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAを少なくとも2個、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBを少なくとも2個有し、かつ、少なくとも1個の重合体ブロックBがポリマー鎖の末端にあるブロック共重合体を水素添加して得られた水素添加ブロック共重合体を少なくともその成分の一部に含む平均繊維径が8.0μm以下の極細繊維から成る不織布Xと、該不織布Xと該不織布Xの少なくとも片面側に積層され且つ結合された、平均繊維径が10μm以上の繊維から成る不織布、又は編織布Yから成る複合シート」(特許請求の範囲の請求項1参照)の発明について、当該複合シートは、「強力(引張り、引裂き、表面摩耗)に優れ、特に風合がソフトでフィット性に優れ、しかも防塵性、バクテリアバリアー性と通気性に優れ、高い耐水圧を有する」ものであって、「特に防塵服(防塵衣)、サージカルガウン、ドレープ類、各種ラップ類、テープ、バンド類、包帯、使い捨て衣料等に特に有用なものである」こと(第1頁右下欄第10〜17行の記載参照)、また、その水素添加前のブロック共重合体(前駆ポリマー)を構成するビニル芳香族化合物としてスチレンが特に好ましく、共役ジエン化合物としてブタジエン及びイソプレンが好ましいこと(第3頁左下欄第15行〜同頁右下欄第6行の記載参照)が記載されている。
さらに、その従来技術として、ブロック共重合体組成物及びその水素添加物の例として熱可塑性Kraton(登録商標)を挙げ、その一般的構造としてスチレン-イソプレン-スチレン(S-I-S)のKratonDシリーズがあること(第2頁左上欄第6〜18行の記載参照)及び、米国特許第4692371号明細書にA-B-A’ブロックポリマーからなるメルトブロー不織布が開示されていること(同頁右上欄第8〜18行の記載参照)が示されている。

3-4-2.対比・判断
上記の記載事項によれば、甲第2号証には、特許請求の範囲に記載された発明を構成する不織布Xとして、上記「3-3.」の[理由1]について検討した水素添加前のブロック共重合体と同じ「少なくとも2個のスチレン重合体ブロックと、少なくとも2個のイソプレン重合体ブロックを有しポリマー鎖の末端に少なくとも1個のイソプレン重合体ブロックを有するブロック共重合体」を水素添加して得られるスチレン系エラストマーを含む樹脂繊維の不織布が記載されているということができる。
そうすると、甲第2号証における水素添加前のブロック共重合体は、その「ポリマー鎖の末端に少なくとも1個のイソプレン重合体ブロックを有する」ものであるから、本件発明1における「スチレン-イソプレン-スチレン型」ブロック共重合体と同一のものでないことは明らかである。
また、甲第2号証で従来技術とする米国特許第4692371号明細書には、A-B-A’ブロックポリマーのBがイソプレンであるKRATONDが示されていることから、甲第2号証には、その従来技術として、スチレン-イソプレン-スチレン型ブロック共重合体を水素添加して得られるスチレン系エラストマーを含む樹脂繊維の不織布が示されているという余地があるといえる。
しかしながら、甲第2号証並びにその先行技術文献である上記米国特許明細書には、それらの樹脂繊維から成る不織布を「防滑シート」という用途に用いることについての記載は無く、また、当該不織布を「防滑シート」という用途に用いることが従来より周知の使用態様であったという証拠も見出し得ない。
したがって、本件発明1が、甲第2号証に記載された発明であるということはできない。
なお、異議申立人は、甲第2号証には、その実施例2として記載された不織布Xが防滑性を有する等の記載が発明の詳細な説明にないものの、当該不織布Xの樹脂組成が甲第1号証の実施例1に記載されたものと完全同一であるから、甲第1号証に記載された発明と同じ防滑性を潜在的に有していることは明白であり、本件発明1は甲第2号証に記載された不織布Xとの構成が内在的に同一であって新規性がない旨を主張する。
しかしながら、甲第2号証に記載された不織布Xが甲第1号証に記載された発明の樹脂組成と同じ防滑性を潜在的に有していたといえても、それは潜在的に有していたに止まるというべきであって、当該防滑性を有していることが甲第2号証の記載事項から当業者において明らかであったとまではいえないし、また、本件発明1の樹脂繊維を構成する樹脂組成は甲第1号証に記載された発明の樹脂組成と同一であるといえないこと、いいかえれば、本件発明1の樹脂繊維を構成する樹脂組成は甲第2号証に記載された発明の樹脂組成と同一であるといえないことは、上記説示したとおりである。
したがって、異議申立人の上記主張は採用できない。

3-5.異議申立の[理由3(進歩性欠如)]について
3-5-1.甲第2及び3号証の記載事項
甲第2号証の記載事項は、上記「3-4-1.甲第2号証の記載事項」で述べたとおりである。
また、甲第3号証には、「滑りにくい棚シート」として、粘性の高い高分子材料を原料としたメルトブロー不織布を使用して防滑シートが開発されたことが記載されている。

3-5-2.対比・判断
上記「3-4.」の[理由2]について述べたとおり、甲第2号証の特許請求の範囲に記載された発明の構成として記載された不織布Xと本件発明1とは水素添加前のブロック共重合体の構成が異なっており、また、甲第3号証は粘性の高い高分子材料を原料とした不織布を使用して防滑シートが得られることが示されているものの、当該粘性の高い高分子材料として具体的に如何なるブロック共重合体の構成のものを用いるのかについては何も示されていない。
ところで、先にも述べたように、甲第2号証で従来技術とする米国特許第4692371号明細書には、A-B-A’ブロックポリマーのBがイソプレンであるKRATONDが示されているから、甲第2号証には、その従来技術として、スチレン-イソプレン-スチレン型ブロック共重合体を水素添加して得られるスチレン系エラストマーを含む樹脂繊維の不織布が示されているとして、当該不織布を防滑シートへ適用するという余地があるといえる。
しかしながら、上記「3-4-2.」で上述したように、甲第2号証並びにその先行技術文献である上記米国特許明細書には、それらの樹脂繊維から成る不織布を「防滑シート」という用途に用いることについての記載は無く、また、当該不織布を「防滑シート」という用途に用いることが従来より周知の使用態様であったという証拠も見出し得ない。
さらに、仮に、甲第3号証に記載された一般的な事項から、粘性の高い高分子材料を原料とした不織布を、いいかえれば、粘性の高い特性を備えた不織布を、防滑シートとして使用することが容易に想起できたとしても、甲第2号証には、そこに示された従来技術の不織布が粘性の高い特性を備えている旨の記載ないし示唆も見出すことができない(ちなみに、甲第2号証には、不織布シートXの粘着性が前駆ポリマー(水素添加前ブロック共重合体)の種類によって変わり、該粘着性が大きいとき、他の不織布等と貼り合わせて積層体とする際の結合力が高まること、不織布の粘着性は「粘着性パラメータT」という指標を用いてT=1.25を境界として粘着性を二分できること、当該TはT=V/Sという算出式で導出されること等が説示されている(公報第5頁右上欄第13行〜同頁左下欄第16行参照)ものの、上述した従来技術の樹脂繊維を備えた不織布が粘着性の高い特性を備えたものであるか否かについては何ら言及されていない)。
以上のことから、本件発明1の防滑シートが、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたということができない。
なお、本件発明2は、上記本件発明1の防滑シートを用いた敷物の敷設方法の発明であるから、上記と同様の理由から、本件発明2が、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたということもできない。

3-6.異議申立の[理由4(記載不備)]について
異議申立人は、本件明細書の記載が不備である理由として、概ね次の3点を主張している。
(イ)スチレンと共役ジエン化合物との共重合体を水素添加して得られるスチレン系エラストマーを含む樹脂の具体的構成の開示が不十分であり、発明の詳細な説明の記載が、当業者が容易に発明を実施できる程度になされていない。
(ロ)請求項1及び2における「防滑シート」の記載が機能的表現であるので、わずかでもすべりを防止する機能を有するものは明細書に開示がないものも含むから、当該記載は不当に広い表現であって明確性に欠けている。
(ハ)「防滑シート」が滑りを防止する(という機能を備えた)シートを意味するならば、その滑りを防止するための構成は、当該シートに使用する樹脂がすでに有している構成であり、残る「シート」は該樹脂からなる繊維の不織布を単に意味することとなる。したがって、本件発明の「防滑シート」はその不織布自体がすでに防滑性を備えたシートであるといえるから、「防滑シート」の表現に意味がない。
しかしながら、上記(イ)については、本件訂正により、本件発明1及び2の水素添加前のブロック共重合体は、本件特許明細書に実施例として開示されたもののみに特定されたといえるし、また、上記(ロ)及び(ハ)について、本件の請求項1及び2に記載された「防滑シート」という記載表現は、本件特許明細書における段落【0001】の「産業上の利用分野」の項において「本発明は、接着に代わるタイルカーペット、玄関マットなどの敷物や家具類の滑り止めに用いる防滑シートに関するものである。」と記載されていることからして、防滑性という機能を備えたシートを意味するものではなく、滑り止めのために用いられるシート、いいかえれば、防滑用という特定の用途に用いるシートを意味するものであることが明らかである。
そうすると、異議申立人が明細書の記載が不備であると主張する点は、いずれも、その前提において失当であるといえるから、採用することができない。
また、本件特許明細書の記載が不備であるとする他の理由も見出し得ない。

4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
防滑用シート
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 スチレン-イソプレン-スチレン型ブロック共重合体を水素添加して得られるスチレン系エラストマーを含む樹脂繊維の不織布からなる防滑シート。
【請求項2】 床面に、スチレン-イソプレン-スチレン型ブロック共重合体を水素添加して得られるスチレン系エラストマーを含む樹脂繊維の不織布からなる防滑シートを敷設した上に敷物を敷設することを特徴とする敷物の敷設方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、接着に代わるタイルカーペット、玄関マットなどの敷物や家具類の滑り止めに用いるに防滑シート関するものである。
【0002】
【従来の技術】
玄関マットなどの敷物と床の間に挿入する敷物の滑り止め用のシートとしては、不織布や紙の一面に粘弾性物質を付与したものが用いられている。例えば、実開平3-64079号公報には防虫機能を有する不織布の床と接する面に滑り止め効果を有する樹脂を塗布し、敷物と接合する側を毛羽立たせたシートが、実公平4-9885号公報にはニードルパンチした不織布にゴム粘弾性を示す樹脂を含浸発泡したシートをスライスしたシートが提案されている。また、塩化ビニル、ポリウレタン等を塗布した防滑紙、メッシュ状シートやポリウレタンスポンジ等を裏面に貼り合わせた防滑性を有する敷物も知られている。タイルカーペットは、従来の床面全面に1枚のカーペット敷き詰めるものではなくタイル状の小片に加工したカーペットを任意に組み合わせて敷き詰めるものであり、施工後も部分的に張り替えることにより雰囲気を変えたり汚れた部分のみのクリーニングが可能であるため普及しつつある。このようなタイルカーペットの施工方法としては、従来、再剥離性の良好な粘着剤をコンクリートスラブ、木製床材、樹脂製床材の上に塗り、その上に接着して固定することが一般的に行われている施行法である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
従来の滑り止め用のシートは、一般に厚さがあり、例えばタイルカーペット等の滑り止めとして使用する場合、床面との間の密着一体感が乏しい。防滑紙を貼り合わせた敷物は防滑紙が柔軟性に欠けるためコンパクトな折り畳みや巻き上げが行いにくく、しかも床面に対する敷設性が良くない。また、紙独特のカサカサという音が敬遠されている。ポリウレタンスポンジ等を貼り合わせたものでは嵩高でコンパクトな折り畳みや巻き上げが行いにくい。さらに、防滑性を付与した玄関マットなどの敷物は繰り返しのクリーニング処理などにより防滑性が低下しやすいという欠点を有しており、長期の使用に耐えない。タイルカーペットの従来の施行法は、有機溶剤が室内に充満し健康に有害である可能性があり、また、粘接着剤を塗布した面は歩行困難なため作業効率が悪く、また、施工後、使用中に部分的に汚れた箇所をクリーニングするためにタイルカーペットを引きはがすことが困難であり、また、引き剥がし回数が重なると粘接着力が低下し、再度粘接着剤を塗布し接着する必要があった。本発明は、これらの不都合をなくさんとするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、スチレン-イソプレン-スチレン型ブロック共重合体を水素添加して得られるスチレン系エラストマーを含む樹脂繊維の不織布からなる防滑シートであり、また、床面に、スチレン-イソプレン-スチレン型ブロック共重合体が水素添加して得られるスチレン系エラストマーを含む樹脂繊維の不織布からなる防滑シートを敷設した上に敷物を敷設することを特徴とする敷物の敷設方法である。
【0005】
【作用】
本発明の防滑シートは、床面及び敷物、特にタイルカーペットに対する摩擦係数の高い熱可塑性エラストマー、すなわちスチレン-イソプレン-スチレン型ブロック共重合体を水素添加して得られるスチレン系エラストマーを含む樹脂から構成された繊維からなる不織布を使用するものであり、一般に、熱可塑性エラストマーとしては、ポリウレタン、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテル系エラストマーなどが挙げられるが、本発明は、スチレン-イソプレン-スチレン型ブロック共重合体を水素添加して得られるスチレン系エラストマーを用いるものであり、このエラストマーは容易に極細繊維不織布とすることができ、床面との密着性が高く滑り止め効果が高く好ましい。
【0006】
スチレン系エラストマーの合成に用いる共役ジエンとしては1,3-ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、ヘキサジエン等があるが本発明の目的にはイソプレンが適している。また、水素添加する割合は、共役二重結合に基づくイソプレン二重結合の80%以上、好ましくは90%以上であり、水素添加割合が低いと溶融成形時に熱劣化を生じ易く、また得られる不織布の耐候性も低下してくる。
【0007】
本発明で用いる不織布はエラストマー繊維を従来公知の乾式法または湿式法により不織布とする方法、あるいはメルトブローン法やスパンボンド法により熱可塑性エラストマーの繊維化と同時に不織布化する方法により得ることができる。不織布はエラストマー繊維単独である必要はなく、紡糸性改善等のために本発明の効果を損なわない範囲でポリオレフィン、ポリエステル、あるいはポリアミド等の非エラストマー繊維を複合化しても良い。また、不織布形成時にメッシュ状の補強シートを間に挟み込んでもよい。メッシュ状の補強シートであれば、熱可塑性エラストマー繊維はメッシュの空隙部を通じて容易に自己融着し、特別な接着処理を必要としない。
【0008】
本発明に使用する不織布を構成する繊維は、柔軟性および滑り防止性の点、さらにはタイルカーペットと床面の間に使用する場合に違和感のない密着性の点から極細繊維であることが効果的である。繊維径は例えば20μ以下であることが好ましく、目付は50〜200g/m2のものを用いることができる。このような繊維径と目付の不織布はメルトブローン法によって容易に得ることができる。
【0009】
上記スチレン系エラストマーは単独で繊維化すると粘着性が高くそのまま重ねたりすると相互に膠着して団塊状となりやすいため、ポリオレフィンを5〜30%の範囲で混合し溶融紡糸することが好ましい。ポリオレフィンの混合率を変更することにより床面及び敷物への粘着力を変更することができ、また、不織布間の膠着が防止されるとともに、紡糸性も改善される。ポリオレフィンの混合量を多くすることは、敷物及び床との密着性が低下するとともに風合いがかたくなるため好ましくない。混合するポリオレフィンは、ポリエチレンやポリブチレンなどを使用することもできるが、膠着防止効果はポリプロピレンが最も優れている。
【0010】
ブロック共重合体とポリオレフィンとの上記混合ポリマーは、耐熱性、流動性などの加工性に優れ、通常の熱可塑性ポリマー、例えばポリプロピレンなどと同様な容易さで紡糸、成形することが可能であり、通常の溶融紡糸やメルトブロー法において、その溶融粘度、ポリマー吐出量、噴射流体の量をいろいろ変更することによって、任意の繊維あるいは不織布を得ることができる。不織布は、必要に応じて保管中の膠着防止のため離型性のフイルムなどのシートを間に挟んでロール状に巻き取って保管する。
【0011】
敷物類の施工に当たっては、コンクリートスラブ、木製床材、樹脂製床材などの床面の施工部分に本発明の防滑シートを敷設し、その上にタイルカーペットや玄関マットなどの敷物を敷設する。玄関マットなどの比較的小型の敷物を部分的に敷設する場合には、敷物の裏面に本発明の防滑シートを貼着し敷物の形状に裁断した後に所定の位置に敷設してもよく、この方が作業としてはやり易い。
【0012】
【実施例】
以下本発明を実施例によってさらに具体的に説明する。実施例中に示される摩擦抵抗値の測定方法は以下のとおりである。不織布試料を、巾5cm長さ10cmの平面板(A板と略記)上に両面接着テープでしっかりと固定し、それを、該固定した各不織布が下になるようにして、塩化ビニル製の同じく平面板(B板と略記)上に置く。不織布を固定したA板上には約200gの重りを載せ、固定した不織布へは該A板並びに重りの両者で1m2当たり44.2kgの荷重がかかるように調整する。該不織布を固定したA板をB板上で平行に引っ張り、その時の摩擦力を求めた。
【0013】
実施例1
スチレン含有量27重量%のスチレン-イソプレン-スチレン型ブロック共重合体を水添反応して得た水素添加率98%の水添ブロック共重合体のペレットとMFR(メルトフローレート、230℃、荷重2160gで測定)が200のホモポリプロピレンペレットとを、重量比で85:15に混合し、メルトブローを行い目付70g/m2の不織布を得た。この不織布の平均繊維系は5μmであり、摩擦抵抗値は820g/5cmであった。
【0014】
この不織布を木製の床面全面に敷き詰め、その上に裏面に塩化ビニールのバッキングを施したタイルカーペットを置き敷きし固定したところ、タイルカーペットは床面を滑ることなく、床面に密着して敷設できた。該タイルカーペットは容易に再剥離可能で、数回にわたって繰り返し張り替えが可能であった。
【0015】
実施例2、比較例1
実施例1の不織布を玄関マットの形状に合わせて裏面に貼着し、木製フローリングの上に敷設し実用試験を行った。半年毎にマットのクリーニングを行い2年間使用したが、この間、マットのずれは生じなかった。比較のために、裏面に塩化ビニールがドット状に付与された防滑性玄関マットを直接木製フローリング上に敷設して試験を行ったところ、クリーニング1回後からずれを生じやすくなり、クリーニング2回後では防滑効果がほとんど認められなかった。
【0016】
【0017】
【発明の効果】
本発明の防滑シートは、スチレン-イソプレン-スチレン型ブロック共重合体を水素添加して得られるスチレン系エラストマーから構成された繊維からなる不織布を用いるため、弾性もあり、柔軟であるため、敷物の下に敷き込んでも敷物の感触が損なわれることがなく、また、敷物及び床面との密着性が良く、極めて高い防滑性を有する。特に、タイルカーペットを敷設する場合、エラストマーの繊維からなる不織布層により、防滑性は優れているがタック性は低く、施工の際に不織布上を歩行しても従来の粘接着剤の塗布に比べ履物に接着することなく施工が容易であり、当然のことながら有機溶剤の揮発もなく作業環境が良好である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の防滑シートの使用状態を示す断面模式図である。
【符号の説明】
1 本発明の防滑シート
2 タイルカーペット
3 床
【図面】

 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-12-21 
出願番号 特願平5-60391
審決分類 P 1 651・ 832- YA (A47G)
P 1 651・ 113- YA (A47G)
P 1 651・ 121- YA (A47G)
P 1 651・ 534- YA (A47G)
P 1 651・ 16- YA (A47G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山崎 勝司  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 西村 泰英
和泉 等
登録日 2002-11-01 
登録番号 特許第3366368号(P3366368)
権利者 株式会社クラレ
発明の名称 防滑用シート  

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