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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特39条先願  C08L
審判 全部申し立て 発明同一  C08L
管理番号 1114618
異議申立番号 異議2003-72731  
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-12-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-11-07 
確定日 2005-02-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3406776号「電気絶縁材料用シリコーンゴム組成物」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3406776号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 [1]手続きの経緯
本件特許第3406776号の請求項1〜2に係る発明についての出願は、平成8年5月24日に特許出願され、平成15年3月7日にその特許権の設定登録がなされ、その後、信越化学工業株式会社及びジーイー東芝シリコーン株式会社より特許異議の申立がなされ、取消の理由が通知され、その指定期間内である平成16年8月13日に訂正請求がなされたものである。

[2]訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
特許権者が求める訂正の内容は次のとおりである。
(1)訂正事項a
特許請求の範囲の【請求項1】と【請求項2】の「(b)ビニルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランまたはメチルトリメトキシシラン」を、「(b)γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランまたはメチルトリメトキシシラン」と訂正する。
(2)訂正事項b
特許請求の範囲の【請求項1】と【請求項2】の「(ただし、該シリコーンゴム組成物は遷移元素を含む金属酸化物を含有しない)」を、「(ただし、該シリコーンゴム組成物は遷移元素を含む金属酸化物および三酸化アンチモンを含有しない)」と訂正する。
(3)訂正事項c
発明の詳細な説明の段落【0004】の「(b)ビニルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランまたはメチルトリメトキシシラン」を、「(b)とγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランまたはメチルトリメトキシシラン」と訂正する。
(4)訂正事項d
発明の詳細な説明の段落【0004】の2箇所に記載の「(ただし、該シリコーンゴム組成物は遷移元素を含む金属酸化物を含有しない)」を、「(ただし、該シリコーンゴム組成物は遷移元素を含む金属酸化物および三酸化アンチモンを含有しない)」と訂正する。
(5)訂正事項e
発明の詳細な説明の段落【0006】に記載の「(b)成分はビニルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランまたはメチルトリメトキシシランである。」を、「(b)成分は、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランまたはメチルトリメトキシシランである。」と訂正する。
(6)訂正事項f
訂正事項fは、次の2つの訂正事項f-1及びf-2を含む。
訂正事項f-1:発明の詳細な説明の段落【0006】の8行目に記載の「(B)成分は上記のようような」を、「(B)成分は上記のような」と訂正する。
訂正事項f-2:、発明の詳細な説明の段落【0006】の11〜14行に記載の「また、シリコーンベースコンパウンドを製造するに際して、(A)成分に(a)と(b)成分を加えて、加熱下に混練することによっても製造できる。」を削除する。
(7)訂正事項g
発明の詳細な説明の段落【0008】の5行目に記載の「が挙げらる。」を 、「が挙げられる。」と訂正する。
(8)訂正事項h
発明の詳細な説明の段落【0009】に記載の「表面処理剤等を添加配合することは、本発明の目的を損なわない限り差し支えない。ここで、非補強性充填剤としては、けいそう土、石英粉末、マイカ、酸化アルミニウム、酸化チタンが例示される。顔料としては、カーボンブラック、ベンガラが例示される。耐熱剤としては、稀土類酸化物、稀土類水酸化物」を、「表面処理剤等(ただし、遷移元素を含む金属酸化物および三酸化アンチモンを除く)を添加配合することは、本発明の目的を損なわない限り差し支えない。ここで、非補強性充填剤としては、けいそう土、石英粉末、マイカ、酸化アルミニウムが例示される。顔料としては、カーボンブラックが例示される。耐熱剤としては、希土類水酸化物」と訂正する。
(9)訂正事項i
発明の詳細な説明の段落【0009】の10〜11行に記載の「あるいは(A)成分〜(C)成分」を、「あるいは(A)成分〜(D)成分」と訂正する。
(10)訂正事項j
発明の詳細な説明の段落【0012】の3行に記載の「25℃におけzる測定値」を、「25℃における測定値」と訂正する。
(11)訂正事項k
発明の詳細な説明の段落【00013】に記載の「【実施例1】」を、「【参考例1】」と訂正する。
(12)訂正事項l
発明の詳細な説明の段落【0014】に記載の「【実施例2】」を、「【実施例1】」と訂正する。
(13)訂正事項m
発明の詳細な説明の段落【0014】の15〜16行に記載の「次いで上記で得られたシリコーンゴム組成物の電気特性、耐水性の測定を実施例1と同様に測定した。それらの結果を結果を表1に示した。」を削除する。
(14)訂正事項n
発明の詳細な説明の段落【0015】の【比較例1】の本文2箇所に記載の「実施例1」を、「参考例1」と訂正する。
(15)訂正事項o
発明の詳細な説明の段落【0015】 の【表1】に記載の「実施例1」を「参考例1」と訂正し、「実施例2」を「実施例1」と訂正する。
(16)訂正事項p
発明の詳細な説明の段落【0016】に記載の「【実施例3】」を、「【実施例2】」と訂正する。
(17)訂正事項q
発明の詳細な説明の段落【0016】の2箇所に記載の「実施例1」を、「参考例1」と訂正する。
(18)訂正事項r
発明の詳細な説明の段落【0017】の【比較例2】の2箇所に記載の「実施例1」を、「参考例1」と訂正する。
(19)訂正事項s
発明の詳細な説明の段落【0018】の【表2】に記載の「実施例3」を、「実施例2」と訂正する。
(20)訂正事項t
発明の詳細な説明の段落【0019】に記載の「(B)成分のビニルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランまたはメチルトリメトキシシラン」を、「(B)成分のγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランまたはメチルトリメトキシシラン」と訂正する。
2.訂正の適否についての判断
(1)訂正事項a
訂正事項aは、請求項1及び2において択一的に挙げられている(b)の3つのシリコーン化合物の内の一つを削除するものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(2)訂正事項b
請求項1及び2のシリコーンゴム組成物は遷移元素を含む金属酸化物を含有しないものであるところ、訂正事項bは、更に三酸化アンチモンをも含まない組成物に限定するものである。
この訂正は、取消理由通知における特許法第29条の2に規定される先願の証拠として挙げられた特願平7-157133号(特開平8-325459号公報参照、特許異議申立人:信越化学工業株式会社が提出した甲第1号証)の出願当初の明細書に記載された発明との同一性を回避するためになされたものであると認められ、三酸化アンチモンをも含まない組成物に限定することは、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(3)訂正事項c
訂正事項cは、特許請求の範囲の訂正に係る訂正事項aの訂正に伴い、対応する発明の詳細な説明の段落【0004】の記載を同様に訂正し、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の整合性を維持しようとするものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(4)訂正事項d
訂正事項dは、特許請求の範囲の訂正に係る訂正事項bの訂正に伴い、対応する発明の詳細な説明の段落【0004】の記載を同様に訂正し、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の整合性を維持しようとするものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(5)訂正事項e
訂正事項eは、特許請求の範囲の訂正に係る訂正事項aの訂正に伴い、対応する発明の詳細な説明の段落【0006】の記載を同様に訂正し、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の整合性を維持しようとするものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(6)訂正事項f
訂正事項fは、2つの訂正事項f-1及びf-2を含むものであるところ、訂正事項f-1は発明の詳細な説明の段落【0006】における誤記の訂正を目的とした明細書の訂正に該当し、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内における訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
また、訂正事項f-2は、「また、シリコーンベースコンパウンドを製造するに際して、(A)成分に(a)と(b)成分を加えて、加熱下に混練することによっても製造できる。」を削除するものであるところ、本件請求項1及び2に係る発明はいずれも(b)γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランまたはメチルトリメトキシシランによって(a)水酸化アルミニウム粉末を予め表面処理するものであり、これと相容れない組成物の配合時に(a)と(b)を同時添加混練する上記の態様を発明の詳細な説明から削除することは、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の整合性を維持しようとするものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(7)訂正事項g
訂正事項fは、発明の詳細な説明の段落【0008】における誤記の訂正を目的とした明細書の訂正に該当し、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内における訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(8)訂正事項h
訂正事項hは、特許請求の範囲の訂正に係る訂正事項a及びbの訂正により、本件請求項1及び2に係る発明が遷移元素を含む金属酸化物及び三酸化アンチモンを含まないものになったのに伴い、段落【0009】において、本件発明で任意成分として添加される表面処理剤については「(ただし、遷移元素を含む金属酸化物及び三酸化アンチモンを除く)」と注釈を付すと共に、非補強性充填剤として例示された酸化チタン、顔料として例示されたベンガラ、及び耐熱材として例示された希土類酸化物、などの遷移元素の酸化物に該当するものを削除し、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の整合性を維持しようとするものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(9)訂正事項i
訂正事項iは、段落【0009】において、「上記した(A)成分〜(C)成分あるいは(A)成分〜(C)成分」という記載を「上記した(A)成分〜(C)成分あるいは(A)成分〜(D)成分」と訂正するものであり、本件発明では「(A)成分〜(C)成分」以外にも(D)成分を用いることは請求項2や発明の詳細な説明の段落【0008】にも記載されており、訂正前の記載が正しくは「(A)成分〜(C)成分あるいは(A)成分〜(D)成分」であることは明白である。してみれば、この訂正は誤記の訂正を目的とした明細書の訂正に該当し、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内における訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(10)訂正事項j
訂正事項jは、段落【0012】における「25℃におけzる測定値」を「25℃における測定値」と訂正するものであるが、「z」が誤記であることは明白であるから、この訂正は誤記の訂正を目的とした明細書の訂正に該当し、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内における訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(11)訂正事項k
訂正事項kは、訂正事項aによってビニルトリメトキシシランが請求項1及び2から削除されたのに伴い、それを使用する実施例1を参考例1と改め、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の整合性を維持しようとするものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(12)訂正事項l
訂正事項lは、訂正事項kにより実施例1が参考例1になったのに伴い、実施例2を実施例1とするものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(13)訂正事項m
訂正事項mは、実施例における実験結果である、電気特性や耐水性の測定結果が表1に記載されている旨の記載が重複して記載されていたところ、不要な重複記載をその一方だけにするものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(14)訂正事項n
訂正事項nは、訂正事項kにより実施例1が参考例1になったのに伴い、段落【0015】の【比較例1】中の実施例1の記載を参考例1と訂正(2箇所)し、明細書の整合性を維持しようとするものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(15)訂正事項o
訂正事項oは、訂正事項kによって実施例1が参考例1となったのに伴い、段落【0015】の【表1】中の実施例1の記載を参考例1と同様に訂正すると共に、実施例2を実施例1と訂正し、明細書の整合性を維持しようとするものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(16)訂正事項p
訂正事項pは、訂正事項lにより実施例2が実施例1になったのに伴い、段落【0016】の【実施例2】を【実施例3】と訂正するものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(17)訂正事項q
訂正事項qは、訂正事項kによって実施例1が参考例1となったのに伴い、段落【0016】の【実施例2】(訂正前の【実施例3】)中に記載された実施例1を参考例1と訂正し(2箇所)、明細書の整合性を維持しようとするものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(18)訂正事項r
訂正事項rは、訂正事項kにより実施例1が参考例1になったのに伴い、発明の詳細な説明の段落【0017】の【比較例2】中の「実施例1」の記載を「参考例1」と訂正し(2箇所)、明細書の整合性を維持しようとするものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(19)訂正事項s
訂正事項sは、訂正事項pによって実施例3が実施例2となったのに伴い、段落【0018】の【表2】中の実施例3を実施例2と訂正し、明細書の整合性を維持しようとするものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(20)訂正事項t
訂正事項tは、特許請求の範囲の訂正に係る訂正事項aの訂正に伴い、発明の詳細な説明の段落【0018】において、訂正事項aと同様に(B)成分の(b)として記載されたビニルトリメトキシシランを削除し、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の整合性を維持しようとするものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
3.まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。

[3]本件発明
訂正後の本件請求項1〜2に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
【請求項1】(A)平均組成式RaSiO(4-a )/2 (式中、Rは置換または非置換の1価炭化水素基であり、aは1.95〜2.05の数である。)で示され、1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン 100重量部、
(B)(a)水酸化アルミニウム粉末の表面が(b)γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランまたはメチルトリメトキシシランで表面処理されてなる表面処理水酸化アルミニウム粉末 1〜300重量部、および
(C)有機過酸化物 本発明組成物を硬化させるのに十分な量
からなる電気絶縁材料用シリコーンゴム組成物(ただし、該シリコーンゴム組成物は遷移元素を含む金属酸化物および三酸化アンチモンを含有しない)。
【請求項2】(A)平均組成式RaSiO(4-a )/2 (式中、Rは置換または非置換の1価炭化水素基であり、aは1.95〜2.05の数である。)で示され、1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン 100重量部、
(B)(a)水酸化アルミニウム粉末の表面が(b)γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランまたはメチルトリメトキシシランで表面処理されてなる表面処理水酸化アルミニウム粉末 1〜300重量部、
(D)シリカ微粉末 1〜200重量部および
(C)有機過酸化物 本発明組成物を硬化させるのに十分な量
からなることを特徴とする、電気絶縁材料用シリコーンゴム組成物(ただし、該シリコーンゴム組成物は遷移元素を含む金属酸化物および三酸化アンチモンを含有しない)。

[4]特許異議の申立についての判断
特許異議申立人の主張の概略は次のとおりである。
1.特許異議申立人:信越化学工業株式会社の申立理由
(1)訂正前の本件請求項1及び2に係る発明は、本出願前の出願に係る特願平7-157133号(特開平8-325459号公報参照、特許異議申立人の提出した甲第1号証)の当初明細書に記載された発明と同一であり、本件発明の発明者と先願発明の発明者とは同一人でなく、また、本件特許の出願時点での出願人と先願の出願人とは同一ではないから、特許法第29条の2第1項の規定により特許を受けることができないものである。
(2)訂正前の本件請求項1及び2に係る発明は、本出願前の出願に係る特願平8-37457号(特許第3406763号公報参照、特許異議申立人の提出した甲第2号証)に係る発明と同一であるから、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないものである。
2.特許異議申立人:ジーイー東芝シリコーン株式会社の申立理由
(1)訂正前の本件請求項1及び2に係る発明は、本出願前の出願に係る特願平8-37457号(特許第3406763号公報参照、特許異議申立人の提出した甲第1号証)に係る発明と同一であるから、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないものである。
(2)訂正前の本件請求項1及び2に係る発明は、本出願前に頒布された特開昭59-198604号公報(特許異議申立人の提出した甲第2号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得るものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(特許異議の申立についての判断)
〈1〉特許法第29条の2の申立理由について
1.特願平7-157133号(特開平8-325459号公報参照、特許異議申立人:信越化学工業株式会社の提出した甲第1号証)の当初明細書(以下、先願明細書という。)には次のことが記載されている。
(1)【特許請求の範囲】
「【請求項1】
(1)有機過酸化物硬化型又は付加硬化型のシリコーンゴム組成物 100重量部
(2)シリカ微粉末 1〜100重量部
(3)アルミニウム水酸化物 30〜300重量部
(4)三酸化アンチモン 0.1〜50重量部を含有してなることを特徴とする高電圧電気絶縁体用シリコーンゴム組成物。
【請求項2】有機過酸化物硬化型シリコーンゴム組成物が、
(イ)下記平均組成式(1)
R1 a SiO(4-a )/2 …(1)
(但し、式中R1 は置換又は非置換の一価炭化水素基であるが、R1 の0.01〜20モル%はアルケニル基である。aは1.9〜2.4の正数である。)
で示される1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン 100重量部
(ロ)有機過酸化物 触媒量
を主成分とするものである請求項1記載の高電圧電気絶縁体用シリコーンゴム組成物。
【請求項3】付加硬化型シリコーンゴム組成物が、
(イ)下記平均組成式(1)
R1 a SiO(4-a )/2 …(1)
(但し、式中R1 は置換又は非置換の一価炭化水素基であるが、R1 の0.01〜20モル%はアルケニル基である。aは1.9〜2.4の正数である。)
で示される1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン 100重量部
(ハ)下記平均組成式(2)
R2 b Hc SiO(4-b-c )/2 …(2)
(但し、式中R2 は炭素数1〜10の置換又は非置換の一価炭化水素基である。また、bは1〜2.1、cは0.01〜1で、かつb+cは1.5〜2.6を満足する正数である。)
で示される、ケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2固有する常温で液体のオルガノハイドロジェンポリシロキサン 0.1〜100重量部
(ニ)付加反応触媒 触媒量
を主成分とするものである請求項1記載の高電圧電気絶縁体用シリコーンゴム組成物。」
(2)発明の詳細な説明、公報第3頁
「【0006】本発明は上記事情に鑑みなされたもので、加熱硬化後に過酷な大気汚染或いは気候に晒される条件下でも耐候性、耐トラッキング性、耐アーク性、耐エロージェン性等の高電圧電気絶縁特性に優れたシリコーンゴムを与える高電圧電気絶縁体用シリコーンゴム組成物を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段及び作用】本発明者は上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、有機過酸化物硬化型又は付加硬化型のシリコーンゴム組成物、シリカ微粉末を含有するシリコーンゴム組成物に対して、アルミニウム水酸化物と三酸化アンチモンとを特定量併用して配合することにより、アルミニウム水酸化物と三酸化アンチモンとの相乗効果によりシリコーンゴムの耐トラッキング性、更には耐エロージョン性、耐アーク性等の特性が大幅に向上し、高圧碍子として実用的な耐トラッキング性を得るためのアルミニウム水酸化物の充填量を減量することが可能であり、シリコーンゴム碍子の軽量化、機械的特性の改良にも寄与できること、それ故、耐候性、耐トラッキング性、耐アーク性、耐エロージェン性等の高電圧電気絶縁特性に優れたシリコーンゴムを与える高電圧電気絶縁体用シリコーンゴム組成物が得られることを知見し、本発明をなすに至った。」
(3)発明の詳細な説明、公報第4頁
「【0017】有機過酸化物の添加量は触媒量であり、硬化速度に応じて適宜選択することができるが、通常は上記式(1)のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン100部に対して0.1〜10部、好ましくは0.2〜3部の範囲である。」
(4)発明の詳細な説明、公報第6頁
「【0035】また、上記アルミニウム水酸化物は、表面処理を施してもよく、例えばシラン系、チタネート系のカップリング剤、ジメチルポリシロキサンオイル、ジメチルハイドロジェンポリシロキサンオイル等を使用して行うことが好ましい。
【0036】具体的にシラン系カップリング剤としては、ヘキサメチルジシラザン、ジビニルテトラメチルジシラザン、ジフェニルテトラメチルジシラザン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ビニルトリス(メトキシエトキシ)シラン、トリメチルクロロシラン、トリメチルアミノシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、(エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジビニルジメトキシシラン及びクロロプロピルトリメトキシシラン等が例示される。」
(5)発明の詳細な説明、公報第6頁
「【0043】上記表面処理剤は、アルミニウム水酸化物100部に対して1〜50部、特に5〜30部の範囲で使用することが好ましく、1部に満たないと処理剤としての効果がない場合があり、50部を超えると工程上無駄となりコスト的にも不利な場合がある。
【0044】アルミニウム水酸化物の表面処理は、一般的周知の技術により処理することができ、例えば予めアルミニウム水酸化物に直接処理しても他の成分と混練しながら処理しても良いが、特に予め直接処理することが好ましい。具体的には、常圧で密閉された機械混練装置に、或いは流動層にアルミニウム水酸化物と処理剤を入れ、必要に応じて不活性ガス存在下において室温或いは熱処理にて混合処理し、混練後乾燥することにより調整することができる。なお、場合により各処理剤に合わせて触媒を使用して処理を促進しても良い。」
(6)発明の詳細な説明、公報第7頁
「【0046】本発明では、第四成分として三酸化アンチモンを使用するもので、上記三酸化アンチモンを特定量配合することで上記第三成分のアルミニウム水酸化物との相乗効果によりシリコーンゴムの耐トラッキング性、耐エロージョン性、耐アーク性等を更に向上することができるものである。」
2.対比判断
(1)訂正後の本件請求項1に係る発明(以下、本件発明1という)について
先願明細書の請求項1を引用する形式で記載された請求項2に係る発明(以下、先願発明という。)は、有機過酸化物硬化型のシリコーンゴム組成物に係るものであり、(3)アルミニウム水酸化物、(ロ)有機過酸化物などを必須の成分として含有するものである〔(1)参照〕。
一方、本件発明1は、シリコーンゴム組成物に係るものであり、(B)アルミニウム水酸化物、(C)有機過酸化物などを必須の成分として含有するものである。
してみれば、先願発明と本件発明1とは、アルミニウム水酸化物と有機過酸化物を含有するシリコーンゴム組成物に係るものであるという大枠の点で一致している。
そして該シリコーンゴムについては、先願発明では平均組成式(1)即ちR1 aSiO(4-a )/2 で示されるオルガノポリシロキサンであり〔(1)参照〕、一方本件発明1では、RaSiO(4-a )/2 で示されるオルガノポリシロキサン生ゴムであるところ、先願発明のR1 は置換又は非置換の一価炭化水素であり、aは1.9〜2.4であり、該オルガノポリシロキサンは1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するものである〔(1)参照〕のに対し、本件発明1ではRは置換又は非置換の一価炭化水素であり、aは1.95〜2.05であり、該オルガノポリシロキサンは1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するものである。
してみると、先願発明のR1 と本件発明1のRは同じであり、したがって、両者の組成式も同じであり、aの値も両者で重複一致しており、また、両者はいずれも1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するものであるから、両者のオルガノポリシロキサンは同一である。
先願発明では、アルミニウム水酸化物は、シラン系カップリング剤で表面処理を施してもよいことが記載され〔(4)参照〕、そのシラン系カップリング剤の具体例としてメタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが挙げられている〔(4)参照〕から、先願発明にはアルミニウム水酸化物がメタクリロキシプロピルトリメトキシシランで表面処理されたものも含まれるということができ、これは本件発明1の「(B)(a)水酸化アルミニウム粉末の表面が(b)γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランまたはメチルトリメトキシシランで表面処理されてなる表面処理水酸化アルミニウム粉末」と同じものである。なお、水酸化アルミニウムが粉末であり、またメタクリロキシプロピルトリメトキシシランがγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランであることは自明である。
両者の発明の配合成分の配合割合については、いずれもオルガノポリシロキサン100部をベースとしており、水酸化アルミニウムについては、先願では30〜300重量部であるのに対し本件発明1では1〜300重量部で重複一致し、本件発明1の(a)水酸化アルミニウムについては(b)γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどの表面処理剤を含む重量部で規定されているが、本件明細書の段落【0006】によれば(a)成分に対する(b)成分の比率は0.1〜30重量%が好ましいとされるのであり、該表面処理剤の量は相対的には僅かであるから、その量を勘案しても両者の配合割合が異なるとはいえない。
また、有機過酸化物の配合割合については、先願発明では触媒量〔(1)参照〕であるのに対し本件発明1では「本発明の組成物を硬化させるに十分な量」としているが、先願発明は有機過酸化物硬化型と規定しているのであるから〔(1)参照〕、この触媒量は当然に硬化するに十分な量でなければならないので、この点で両者が実質的に異なるものでもない。
また、両者の発明の組成物の用途については、先願発明が「高電圧電気絶縁用」であるのに対し、本件発明1では「電気絶縁用」であるから、一致している。
以上のことを総括すると、両者の発明は次の点で一致している。
「(A)平均組成式RaSiO(4-a )/2 (式中、Rは置換または非置換の1価炭化水素基であり、aは1.95〜2.05の数である。)で示され、1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン 100重量部、
(B)(a)水酸化アルミニウム粉末の表面が(b)γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランまたはメチルトリメトキシシランで表面処理されてなる表面処理水酸化アルミニウム粉末 1〜300重量部、および
(C)有機過酸化物 本発明組成物を硬化させるのに十分な量
からなる電気絶縁材料用シリコーンゴム組成物」
しかし、先願発明は(4)三酸化アンチモン0.1〜50重量部を配合することを請求項1〜3の必須の要件とし〔(1)参照〕、アルミニウム水酸化物と三酸化アンチモンとの相乗作用により、耐トラッキング性、耐エロージョン性、耐アーク性等の特性を大幅に向上させるものである〔(3)参照〕のに対し、本件発明1は「(三酸化アンチモンを含有しない)」組成物であるから、この点で両者の発明は相違するといわざるを得ない。
(2)本件請求項2に係る発明(以下、本件発明2という)について
本件発明2は、本件発明1に対して更に(D)シリカ微粉末を1〜200重量部を配合する要件が付加するものであるが、その余の点はすべて本件発明1と同じである。即ち、三酸化アンチモンを含有しない点でも同じである。
してみれば、(1)で述べたことと同様の理由により、本件発明2は、先願発明と同一とすることはできない。
3.まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1〜2は上記先願明細書に記載された発明と同一ではないから、特許法第29条の2の規定に該当しない。

〈2〉特許法第39条第1項の申立理由について
1.先願である特願平8-37457号の発明(特許第3406763号公報参照、異議申立人:信越化学工業株式会社の提出した甲第2号証、同:ジーイー東芝シリコーン株式会社の提出した甲第1号証)は、その特許請求の範囲に記載された以下のとおりのものである。
(1)【特許請求の範囲】
「【請求項1】(A)平均組成式;Ra SiO(4-a )/2 (式中、Rは置換または非置換の1価炭化水素基であり、aは1.95〜2.05の数である。)で示され、1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン生ゴム 100重量部、
(B)水酸化アルミニウム粉末 10〜300重量部、
(C)アルケニル基およびアルコキシ基もしくは水酸基を有するシラン(ただし、該シランはフェニル基を含有しない。) 0.1〜30重量部、および
(D)有機過酸化物 0.1〜10重量部からなるシリコーンゴム組成物(ただし、該シリコーンゴム組成物は三酸化アンチモンを含有しない。)。
【請求項2】(A)平均組成式;Ra SiO(4-a )/2 (式中、Rは置換または非置換の1価炭化水素基であり、aは1.95〜2.05の数である。)で示され、1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン生ゴム 100重量部、
(E)アルケニル基およびアルコキシ基もしくは水酸基を有するシラン(ただし、該シランはフェニル基を含有しない。)により表面処理されてなる水酸化アルミニウム粉末 10〜300重量部、
(D)有機過酸化物 0.1〜10重量部からなるシリコーンゴム組成物(ただし、該シリコーンゴム組成物は三酸化アンチモンを含有しない。)。」
そして、発明の詳細な説明には次のことが記載されている。
(2)公報第2頁
「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、シリコーンゴム組成物に関する。詳しくは、高い機械的強度と良好な電気特性(耐トラッキング性、耐アーク性、耐エロージョン性等)を有するシリコーンゴム組成物に関する。」
(3)公報第3頁
「【0007】(C)成分のシラン(ただし、該シランはフェニル基を含有しない。)は本発明の特徴をなす成分であり、本発明組成物中の(B)成分の表面を処理し、本発明組成物の機械的強度を向上させるために必須とされる成分である。本成分としては、ビニルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、ブチニルトリメトキシシラン、ヘキセニルトリメトキシシラン等のアルケニルトリアルコキシシランが挙げられる。」
(4)公報第3頁
「【0008】(D)成分の有機過酸化物は、本発明組成物を加熱硬化させるための加硫剤である。…」
(5)公報第3頁
「【0010】…。この(E)成分に使用されるアルケニル基およびアルコキシもしくは水酸基を有するシランおよび…はそれぞれ…(C)成分と同じものである。…」
2.対比判断
(1)本件請求項1に係る発明(以下、本件発明1という)について
先願の請求項2に係る発明(以下、先願発明2という)の(A)成分と、本件発明1の(A)成分とは同一である。
先願発明2の(E)成分と、本件発明1の(B)成分は、シランで表面処理された水酸化アルミニウム粉末である点で一致している(ただ、後述するように両者のシラン化合物は相違する。)。
先願発明2の(D)成分と、本件発明1の(C)成分とは同一である。
また、先願発明2は三酸化アンチモンを含有しないものであるところ、本件発明1もまた三酸化アンチモンを含有しないものであるから、この点でも両者は異なるものではない。
さらに、先願発明2のシリコーン組成物は耐トラッキング性や耐アーク性を有するのであり〔(2)参照〕、当然に絶縁性を有するものであるということができるから、本件発明1の「電気絶縁材料用」という用途は記載されているに等しい。
また、両者の発明の配合割合については、いずれも(A)オルガノポリシロキサン100重量部をベースとし、先願発明2では(E)シランで表面処理された水酸化アルミニウム粉末を10〜300重量部配合するのに対し、本件発明1では(B)シランで表面処理された水酸化アルミニウム粉末を1〜300重量部配合するのであるから、両者の配合割合は重複一致している。また、有機過酸化物についても、先願発明2では0.1〜10重量部であるのに対し、本件発明1では「本件組成物を硬化させるに十分な量」としているが、先願発明2の有機過酸化物は組成物を加熱硬化させるための加硫剤であるから〔(4)参照〕、先願発明2の0.1〜10重量部は当然に組成物を硬化させるに十分な量であるということができ、この点で両者の配合量が実質的に異なるとはいえない。
以上のことをまとめると、両者の発明は次の点で一致している。
「(A)平均組成式RaSiO(4-a )/2 (式中、Rは置換または非置換の1価炭化水素基であり、aは1.95〜2.05の数である。)で示され、1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン 100重量部、
(B)(a)水酸化アルミニウム粉末の表面が(b)シランで表面処理されてなる表面処理水酸化アルミニウム粉末 1〜300重量部、および
(C)有機過酸化物 本発明組成物を硬化させるのに十分な量
からなる電気絶縁材料用シリコーンゴム組成物(ただし、該シリコーンゴム組成物は遷移元素を含む金属酸化物及び三酸化アンチモンを含有しない)」
しかし、シランについては、先願発明2は「アルケニル基及びアルコキシもしくは水酸基を有するシラン」であるのに対し、本件発明1では「γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランまたはメチルトリメトキシシラン」である点で相違している。
なお、ここで、γ-メタクリロキシ基は不飽和結合を有するものではあるが、それをアルケニル基(二重結合を有する脂肪族炭化水素基)とは一般にはいわないし、また、先願明細書の(C)シラン成分のアルケニル基としては、発明の詳細な説明〔(3)(5)参照〕によれば、ビニル、アリル、ブチニル、ヘキセニルなどの炭化水素基が例示されるだけであり、メタクリロキシのようなCOOを含有する基は記載されていないのであるから、両者のシランはこの点で相違しているといえる。
したがって、両者の発明は同一ではない。
(2)本件請求項2に係る発明(以下、本件発明2という)について
本件発明2は、本件発明1に対して更に(D)シリカ微粉末を1〜200重量部を配合する要件が付加されたものであるが、その余の点はすべて本件発明1と同じである。
してみれば、両者の発明で使用するシランは別異のものであるから、(1)で述べたことと同様の理由により本件発明2は、先願発明2と同一とすることはできない。
3.まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1〜2は上記先願発明2と同一ではないから、特許法第39条第1項には該当しない。

〈3〉特許法第29条第2項の申立理由について
刊行物1:特開昭59-198604号公報(異議申立人:ジーイー東芝シリコーン株式会社の提出した甲第2号証)には次のことが記載されている。
(1)「(1)(I)表面の耐アーク性がASTM D-2303に従って2.5KVで測定して少なくとも750分である高圧絶縁体に対し、
(A)(i)式 Y(Me2 SiO)a H
(式中、………)を有する100重量部のポリジメチルシロキサン液、
及び
(ii)式 Rb Si(ON=X)4-b 〔式中、……………〕を有する5〜30重量部のシラン
からなる混合物45〜70重量%
(B)5μm未満の平均粒径を有する水酸化アルミニウム30〜55重量%
〔…〕、
(C)所望により、非反応性の溶剤
を実質的に湿気の不存在下において混合することによって得られ、湿気を排除した容器内では貯蔵安定性を有するが、湿気にさらすと硬化する生成物からなる室温硬化性のシリコーン組成物の平滑で凝集性の被覆を施し、次いで、
(II)前記の被覆が硬化して少なくとも0.25mmの厚さを有する結合したエラストマー性の被覆が生成されるのに充分な時間、大気中の湿気に対して該被覆をさらす
ことを特徴とする、電気的高圧絶縁体を改良する方法。」(特許請求の範囲第1項)
(2)「例1
………………………………………………………構造物Aと名づける。
シリコーンエラストマー素材を練って…ロッドを成形した。このシリコーンエラストマー素材は、0.142モル%のビニル基を含むポリジメチルシロキサンガム100部、ヒュームドシリカ23部及び充填剤処理用としてのヒドロキシル末端封鎖ポリジメチルシロキサン液7.5部からなるシリコーンゴムベース100部、前記と同じ水酸化アルミニウム120部、熱安定剤1部、メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン0.1部、ならびに2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)-2,5-ジメチルヘキサンの50%活性粉末1部を含むものであった。ロッドは190℃で15分間成形した後、型から取出し、ばら取りを行った。152mmの長さに切った。この比較用構成物Bは、加熱硬化を必要とする組成物を用いている。」(特に、第12頁左上欄11行〜同頁右上欄9行)
(3)「試験結果
………表Iの結果は、構成物A及びDに較べ、構成物B及びCから形成した絶縁体が試験中早期に電流開始を示したことを物語っている。………」(特に、第13頁右下欄9行〜同頁右下欄11行)
2.対比判断
(1)本件請求項1に係る発明(以下、本件発明1という)について
刊行物の特許請求の範囲に記載された発明は、(ii)式、Rb Si(ON=X)4-b のシランを使用する点に特徴を有するものであり、本件発明1を示唆するものではないが、刊行物1には比較例として、ポリジメチルシロキサン、水酸化アルミニウム及び有機過酸化物を含む組成物を成形した比較構成物Bが記載されており、異議申立理由もこの比較構成物Bの記載に基づくものなので、この比較構成物Bに基づく進歩性について以下検討する。
この刊行物1の比較構成物Bの組成物は、ポリジメチルシロキサン、水酸化アルミニウム及び有機過酸化物を所定重量部含み、遷移元素を含む酸化物や三酸化アンチモンを配合成分として含まない点で、本件発明1の組成物と一致する。
また、刊行物1の比較構成物Bの組成物は、電気絶縁材料に用いられることについて直接的な記載はないが、「構成物B及びCから形成した絶縁体」〔(3)参照〕との記載から一応電気絶縁材料となることも示唆されている。
しかし、刊行物1の比較構成物Bの組成物は、次に述べる点で本件発明1と相違する。
刊行物1の比較構成物Bの「0.142モル%のビニル基を含むポリジメチルシロキサンガム」は、そのビニル基がケイ素に直結しているのか否か、また、ビニル基が1分子中に少なくとも2個の以上存在するか否か、については明確な記載がない〔(2)参照〕。
刊行物1の比較構成物Bの「メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン0.1部」が何のために添加されているのかということについては何の記載もなく〔(2)参照〕、その一方で、「充填剤処理用としてのヒドロキシ末端封鎖ポリジメチルシロキサン液」との記載も存在する〔(2)参照〕。
このような刊行物1の比較構成物Bについての記載からみると、「メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン0.1部」が水酸化アルミニウムの表面処理用に添加されていたと結論づけることはできない。
また、本件発明1の(B)成分は(a)水酸化アルミニウム粉末を予め(b)γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランで表面処理したものを用いるのであるから、「メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン0.1部」を単に配合成分の一として配合する刊行物1の比較構成物(B)とはこの点で明確に相違している。
そして、かかる刊行物1の比較構成物Bの記載からメタクリルオキシプロピルトリメトキシシランで水酸化アルミニウムを予め表面処理したものを用いることが当業者にとって容易に想到し得る程度のことであるともいえない。
また、異議申立人は、予めフィラーをシラン化合物で処理しても、フィラーとシラン化合物を同時混合しても、同様な効果が得られることは周知である旨主張するが、そもそも刊行物1の比較構成物Bの「メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン0.1部」が何のために添加されているのかということについて何の記載もない以上、それを水酸化アルミニウムの表面処理に用いることが直ちに想到し得るとはいえない。
さらにまた、異議申立人は、メチルトリメトキシシランのような一般的なシランをメタクリルオキシプロピルトリメトキシシランに代えて使用することは容易である旨主張するが、そもそも刊行物1の比較構成物Bの「メタクリリルオキシプロピルトリメトキシシラン0.1部」が何のために添加されているのかということについては何の記載もなく、また、一般的なシランであるメチルトリメトキシシランが常にメタクリルオキシプロピルトリメトキシシランの代わりに用いることができる理由も見いだせないので、異議申立人のこの主張も採用できない。
よって、本件発明1は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
(2)本件請求項2に係る発明(以下、本件発明2という)について
本件発明2は、本件発明1に対して更に(D)シリカ微粉末を1〜200重量部を配合する要件が付加されたものであるが、その余の点はすべて本件発明1と同じである。
してみれば、(1)で述べたことと同様の理由により本件発明2は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものということはできない。
3.まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1〜2は刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得るものではないから、特許法第29条第2項の規定には該当しない。

[5]むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては本件請求項1〜2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
電気絶縁材料用シリコーンゴム組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A)平均組成式RaSiO(4-a)/2(式中、Rは置換または非置換の1価炭化水素基であり、aは1.95〜2.05の数である。)で示され、1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン
100重量部、
(B)(a)水酸化アルミニウム粉末の表面が(b)γーメタクリロキシプロピルトリメトキシシランまたはメチルトリメトキシシランで表面処理されてなる表面処理水酸化アルミニウム粉末
1〜300重量部、
および
(C)有機過酸化物 本発明組成物を硬化させるのに十分な量からなる電気絶縁材料用シリコーンゴム組成物(ただし、該シリコーンゴム組成物は遷移元素を含む金属酸化物および三酸化アンチモンを含有しない)。
【請求項2】 (A)平均組成式RaSiO(4-a)/2(式中、Rは置換または非置換の1価炭化水素基であり、aは1.95〜2.05の数である。)で示され、1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン
100重量部、
(B)(a)水酸化アルミニウム粉末の表面が(b)γーメタクリロキシプロピルトリメトキシシランまたはメチルトリメトキシシランで表面処理されてなる表面処理水酸化アルミニウム粉末
1〜300重量部、
(D)シリカ微粉末 1〜200重量部
および
(C)有機過酸化物 本発明組成物を硬化させるのに十分な量からなることを特徴とする、電気絶縁材料用シリコーンゴム組成物(ただし、該シリコーンゴム組成物は遷移元素を含む金属酸化物および三酸化アンチモンを含有しない)。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】 本発明は電気絶縁材料用シリコーンゴム組成物に関する。詳しくは、硬化後、耐水性に優れ、良好な電気特性(体積抵抗率、誘電率、誘電正接、耐トラッキング性、耐アーク性、耐エロージョン性)を有し、電気絶縁用材料として好適とされる電気絶縁材料用シリコーンゴム組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、シリコーンゴム組成物に水酸化アルミニウム粉末を配合してなる組成物は知られており、この種のシリコーンゴム組成物は、硬化して電気特性に優れたシリコーンゴムになるということも知られている(特公平5-12805号公報、特開平7-57574号公報参照)。しかし、この種のシリコーンゴム組成物は、吸水性の高い水和物である水酸化アルミニウム粉末を多量に含有しているため、耐水性に劣り、時間経過と共に水分を吸収して電気絶縁性が低下するという欠点があり、高電圧下で使用される電気絶縁用シリコーンゴム組成物としては十分に満足できるものではなかった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明者らは上記の欠点を解消すべく鋭意研究した結果、本発明に到達した。即ち、本発明の目的は、硬化後、耐水性に優れ、良好な電気特性を有するシリコーンゴムになり得る電気絶縁材料用シリコーンゴム組成物を提供することにある。
【0004】
【課題の解決手段】本発明は、(A)平均組成式RaSiO(4-a)/2(式中、Rは置換または非置換の1価炭化水素基であり、aは1.95〜2.05の数である。)で示され、1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン
100重量部、
(B)(a)水酸化アルミニウム粉末の表面が(b)γーメタクリロキシプロピルトリメトキシシランまたはメチルトリメトキシシランで表面処理されてなる表面処理水酸化アルミニウム粉末
1〜300重量部、
および
(C)有機過酸化物 本発明組成物を硬化させるのに十分な量からなることを特徴とする、電気絶縁材料用シリコーンゴム組成物(ただし、該シリコーンゴム組成物は遷移元素を含む金属酸化物および三酸化アンチモンを含有しない)、および、前記(A)成分〜(C)成分からなる組成物にさらに(D)シリカ微粉末1〜200重量部を配合してなる電気絶縁材料用シリコーンゴム組成物(ただし、該シリコーンゴム組成物は遷移元素を含む金属酸化物および三酸化アンチモンを含有しない)に関する。
【0005】
【発明の実施の形態】これを説明すると、本発明組成物に使用される(A)成分のオルガノポリシロキサンは本発明組成物の主成分であり、平均組成式RaSiO(4-a)/2で示される。式中、Rは置換または非置換の1価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基;ビニル基、アリル基、ブチニル基、ヘキセニル基などのアルケニル基;フェニル基などのアリール基;3,3,3-トリフルオロプロピル基、2-フェニルエチル基、2-シアノエチル基が挙げられる。これらの中でもRの50モル%以上がメチル基であることが好ましい。式中、aは1.95〜2.05の数である。本成分は1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合アルケニル基を有する。このアルケニル基の結合位置は、側鎖でも末端でもよくまたその両方でもよい。本成分の分子構造は、直鎖状または一部に分岐を有する直鎖状である。本成分の粘度は特に限定されず、通常25℃における粘度が100〜20,000,000センチポイズの範囲のものが使用される。本成分は単一化合物でも共重合体でもよく、あるいはこれらの重合体の混合物でもよい。本成分を構成する単位の具体例としては、ジメチルシロキサン単位、メチルビニルシロキサン単位、メチルフェニルシロキサン単位、メチル(3,3,3-トリフルオロプロピル)シロキサン単位が挙げられる。また、本成分の分子末端基としては、トリメチルシロキシ基、シラノール基、ジメチルビニルシロキシ基、メチルビニルヒドロキシシロキシ基が例示される。このようなオルガノポリシロキサンとしては、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、両末端メチルビニルヒドロキシシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン・メチルフェニルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体が挙げられる。
【0006】本発明組成物に使用される(B)成分は、本発明組成物を硬化させて得られるシリコーンゴムに優れた耐水性と良好な電気特性を付与するために必須とされる成分である。ここで、(B)成分を構成する(a)成分の水酸化アルミニウム粉末の粒子径は0.1〜100μmの範囲内にあるものが好ましく、0.1〜50μmの範囲にあるものがより好ましい。(b)成分は、γーメタクリロキシプロピルトリメトキシシランまたはメチルトリメトキシシランである。
(B)成分は上記のような(a)成分に上記のような(b)成分を加えて、ミキサー中で混練して、(a)成分の表面を(b)成分で処理することにより得られる。その際、処理温度は50℃〜200℃が好ましく、80℃〜180℃がより好ましい。ここで、(a)成分に対する(b)成分の比率は、0.1〜30重量%が好ましい。(B)成分の配合量としては、(A)成分100重量部に対して1〜300重量部であり、好ましくは30〜200重量部とされる。これは(B)成分の配合量が30重量部より少ないと耐トラッキング性、耐アーク性等の電気絶縁性について効果の発現が不十分であり、200重量部を越えると硬化物の脆化が激しく良好なゴム物性が得られないからである。
【0007】本発明組成物に使用される(C)成分の硬化剤は、本発明組成物を硬化させるためのものである。本成分の代表例としては有機過酸化物がある。このような有機過酸化物としては、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーベンゾエイト、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンが例示される。
【0008】本発明に使用される(D)成分のシリカ微粉末は補強性充填剤であり、本発明組成物を硬化させて得られるシリコーンゴムに機械的強度をさらに高める必要性があるときに使用される成分である。このようなシリカ微粉末としては、ヒュームドシリカ等の乾式法シリカ、沈澱シリカ等の湿式法シリカ等の補強性シリカ微粉末,石英粉末,けいそう土等の準補強性シリカ微粉末が挙げられる。本成分としては、粒子径が50μm以下であり、比表面積が50m2/g以上であるシリカ微粉末が好ましい。さらにこれらの表面が、オルガノシラン、オルガノシラザン、オルガノシロキサンオリゴマー等の有機ケイ素化合物で疎水化処理されたシリカ微粉末が好ましい。本成分の配合量は、少なすぎると高い機械的強度が得られず、多すぎると流動性が失われるので、(A)成分100重量部に対して1〜200重量部の範囲内であることが必要であり、好ましくは1〜60重量部の範囲内である。尚、(D)成分をさらに含有する場合には(B)成分と(D)成分の配合量の合計が(A)成分100重量部に対して30〜300重量部となる量が好ましい。
【0009】本発明組成物は上記した(A)成分、(B)成分および(C)成分あるいは(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分からなるものであるが、これらの成分に加えて、シリコーンゴム組成物に添加配合することが周知とされる従来公知の各種添加剤、例えば、非補強性充填剤、顔料、耐熱剤、難燃剤、内部離型剤、表面処理剤等(ただし、遷移元素を含む金属酸化物および三酸化アンチモンを除く)を添加配合することは、本発明の目的を損なわない限り差し支えない。ここで、非補強性充填剤としては、けいそう土、石英粉末、マイカ、酸化アルミニウムが例示される。顔料としては、カーボンブラックが例示される。耐熱剤としては、稀土類水酸化物、セリウムシラノレート、セリウム脂肪酸塩が例示される。
本発明組成物は、上記した(A)成分〜(C)成分あるいは(A)成分〜(D)成分を均一に混合することにより容易に製造できる。これらの成分を混合するための手段としては、一般のシリコーンゴム組成物に使用されている従来公知の混合手段が使用できる。かかる混合手段としては、ニーダーミキサー、2軸連続混練押出機、2本ロール等が挙げられる。
【0010】本発明組成物を硬化させるには、(C)成分の有機過酸化物の分解温度以上の温度条件下で、例えば、130〜200℃の温度条件下で加熱し硬化させればよい。また、本発明のシリコーンゴム組成物の成形方法としては、圧縮成形、押出成形などの従来公知の成形方法を目的に応じて適宜選択すればよい。
【0011】以上のような本発明組成物は、硬化後、吸水性が小さく、耐水性に優れ、良好な電気特性を有する。特に耐高電圧電気絶縁特性に優れている。そのためかかる特性を要求される用途、例えば、屋外で使用される電気絶縁材料用シリコーンゴムとして好適に使用される。
【0012】
【実施例】次に、本発明を実施例にて説明する。実施例中、部とあるのは重量部のことであり、粘度は25℃における測定値である。実施例中、電気特性の測定は次に示す方法に従って行った。
○電気特性の測定
シリコーンゴム組成物を10分間,170℃の条件下でプレス加硫して、厚さ2mmのシリコーンゴムのシートを成型し、このシートについて、電気特性を測定した。体積抵抗率、導電率、誘電正接については、JIS C 2123シリコーンゴムコンパウンド試験方法に準じて測定した。ここで、体積抵抗率はハイレジスタンスメータ(ヒューレットパッカード社製、ハイレジスタンスメーター4339A)を用いて、また、誘電率、誘電正接は誘電体損失自動測定装置[安藤電気(株)製,TR-1100形誘電体損自動測定装置、110Hz]を用いて測定した。
耐トラッキング性試験は、IEC.publ.587法に準じて日立化成工業(株)製,HAT-520型を用いて行った。試験電圧は3.5kVであった。
測定結果を示した表中の判定Aおよび判定Bは、前者は、試験片を通して高圧回路を流れる電流が60mAを越えるまでの時間であり、後者は試験片の表面上に下部電極から25mmの位置につけたマークにトラッキングが到達した時間である。
○耐水性の測定
シリコーンゴム組成物を10分間,170℃の条件下でプレス加硫して、厚さ2mmのシリコーンゴムのシートを成型した。このシートを室温でイオン交換水中に100時間浸漬した後、取り出し、その電気特性を測定した。更に浸漬前後のシートの重量変化率から吸水率を測定した。
【0013】
【参考例1】ジメチルシロキサン単位99.87モル%とメチルビニルシロキサン単位0.13モル%からなり、両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体生ゴム100部と、表面がビニルトリメトキシシランで処理された水酸化アルミニウム粉末「昭和電工(株)製,商品名:ハイジライトH42STV、平均粒子径:1μm]160部をニーダーミキサーにより均一に混合して、シリコーンゴムベースコンパウンドを調製した。このシリコーンゴムベース100部に対して、2本ロール上で、硬化剤として2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンの50重量%シリコーンオイルペーストマスターバッチ0.8部を添加し、均一に混練して電気絶縁材料用シリコーンゴム組成物を調製した。次いで、このシリコーンゴム組成物を10分間,170℃の条件下でプレス加硫して、厚さ2mmのシリコーンゴムシートを成型した。このシートについて、電気特性,耐水性の測定を行った。これらの測定結果を表1に示した。
【0014】
【実施例1】ジメチルシロキサン単位99.87モル%とメチルビニルシロキサン単位0.13モル%からなり、両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体生ゴム100部と、表面がγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランで処理された水酸化アルミニウム粉末[昭和電工(株)製,商品名:ハイジライトH320ST、平均粒子径:8μm]を160部添加しニーダーミキサーにより均一に混合した。このシリコーンゴムベース100部に対して、2本ロール上で、硬化剤として2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンの50重量%シリコーンオイルペーストマスターバッチ0.8部を添加し、均一に混練して電気絶縁材料用シリコーンゴム組成物を調製した。次いで、このシリコーンゴム組成物を10分間,170℃の条件下でプレス加硫して、厚さ2mmのシリコーンゴムのシートを成型した。このシートについて、電気特性、耐水性の測定を行った。これらの結果を表1に示した。
【0015】
【比較例1】参考例1において、表面をビニルトリメトキシシランで処理した水酸化アルミニウム粉末[昭和電工(株)製,商品名:ハイジライトH42STV、平均粒子径:1μm]を未処理の水酸化アルミニウム[昭和電工(株)製,商品名:ハイジライトH42M、平均粒子径:1μm]変更した以外は上記と同様にしてシリコーンゴム組成物3を調製した。
次いで上記で得られたシリコーンゴム組成物の特性を参考例1と同様に測定した。これらの結果を表1に併記した。
【表1】

【0016】
【実施例2】ジメチルシロキサン単位99.87モル%とメチルビニルシロキサン単位0.13モル%からなり、両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体生ゴム100部に比表面積120m2/gの表面処理ヒュームドシリカ30部[日本アエロジル(株)製,アエロジルR972]、粘度30センチポイズの両末端シラノール基封鎖ジメチルポリシロキサン3部をニーダーミキサーにより均一に混合した後、メチルトリメトキシシランで処理された水酸化アルミニウム粉末160部を添加し、室温下で混練した。このベース100部に対して、参考例1と同様に硬化剤を添加してシリコーンゴム組成物を調製した。尚、ここで使用したメチルトリメトキシシランで表面処理された水酸化アルミニウム粉末は未処理の水酸化アルミニウム粉末[昭和電工(株),商品名:ハイジライトH42M]100部にメチルトリメトキシシランを1.0部添加して、スーパーミキサー中で混練して、120℃で3時間加熱処理することによって調製した。
次いで得られたシリコーンゴム組成物の電気特性、耐水性について参考例1と同様して測定した。それらの結果を表2に示した。
【0017】
【比較例2】ジメチルシロキサン単位99.87モル%とメチルビニルシロキサン単位0.13モル%からなり、両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体生ゴム100部に比表面積200m2/gのヒュームドシリカ30部、表面処理剤として粘度30センチポイズの両末端シラノール基封鎖ジメチルポリシロキサン12部をニーダーミキサー中で均一に混練して、175℃で30分の条件下で加熱処理をして、シリコーンゴムベースを調製した。このシリコーンゴムベースに、室温で未処理の水酸化アルミニウム粉末[昭和電工(株)製,商品名:ハイジライトH42M、平均粒子径:1μm]160部を添加して均一に混合した。この混合物100部に対して参考例1と同様に硬化剤を添加し、電気絶縁材料用シリコーンゴム組成物を調製した。このシリコーンゴム組成物の電気特性、耐水性の測定を参考例1と同様に行った。その結果を表2に併記した。
【0018】
【表2】

【0019】
【発明の効果】本発明の電気絶縁材料用シリコーンゴム組成物は、上記した(A)成分〜(C)成分あるいは(A)成分〜(D)成分からなり、特に(B)成分のγーメタクリロキシプロピルトリメトキシシランまたはメチルトリメトキシシランで処理された表面処理水酸化アルミニウム粉末を含有しているので、耐水性に優れ、良好な電気特性を有するという特徴を有する。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-01-21 
出願番号 特願平8-152978
審決分類 P 1 651・ 4- YA (C08L)
P 1 651・ 121- YA (C08L)
P 1 651・ 161- YA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中島 庸子  
特許庁審判長 松井 佳章
特許庁審判官 佐野 整博
藤原 浩子
登録日 2003-03-07 
登録番号 特許第3406776号(P3406776)
権利者 東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社
発明の名称 電気絶縁材料用シリコーンゴム組成物  
代理人 古谷 聡  
代理人 久保田 芳譽  
代理人 小島 隆司  
代理人 溝部 孝彦  
代理人 義経 和昌  
代理人 久保田 芳譽  
代理人 小林 克成  
代理人 持田 信二  
代理人 石川 武史  
代理人 重松 沙織  

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