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審決分類 審判 全部申し立て 特123条1項8号訂正、訂正請求の適否  B21D
審判 全部申し立て 2項進歩性  B21D
管理番号 1114627
異議申立番号 異議2003-73431  
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-05-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-26 
確定日 2005-01-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3424463号「液圧バルジ加工用表面処理鋼管」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3424463号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 第1.手続の経緯
本件特許第3424463号の請求項1に係る発明は、平成8年11月7日に特許出願され、平成15年5月2日にその発明について特許権の設定登録がなされ、平成15年12月26日に、新日本製鐵株式会社より請求項1に係る特許に対して異議の申立てがなされ、平成16年9月2日付けで取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成16年11月9日に訂正請求がなされたものである。

第2.訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、以下のとおりである。
〈訂正事項1〉
本件特許の設定登録時の願書に添付した明細書又は図面(以下、「本件特許明細書」という。)の段落【0025】に記載される「そのの要旨」を「その要旨」と訂正する。
〈訂正事項2〉
本件特許明細書の段落【0028】に記載される「・・・化成処理被覆膜である。さらに好ましくは、高加工度での加工への対応のために潤滑油との併用するのがよい。」を「・・・化成処理被覆膜である。」と訂正する。
〈訂正事項3〉
本件特許明細書の段落【0049】に記載される「図6(イ)」を「図5」と、「20.2g/m2」を「20.0g/m2」と、それぞれ訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項1が誤記の訂正を目的とする明細書の訂正に該当することは明らかである。また、訂正事項2は、段落【0028】中の「さらに好ましくは、高加工度での加工への対応のために潤滑油との併用するのがよい。」との記載を削除するものであって、潤滑油を併用しない実施例と整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当する。さらに、訂正事項3の段落【0049】中の「図6(イ)」を「図5」と訂正することは、そもそも「図6(イ)」が存在せず、また、同段落中のサンプルNo.4-6の付着量に関して、「20.2g/m2」を「20.0g/m2」と訂正することは、表1中の「20.0g/m2」との記載に訂正するものであるから、いずれも誤記の訂正を目的とする明細書の訂正に該当する。
そして、いずれの訂正事項も、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4並びに同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3.特許異議申立てについての判断
1.本件発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「鋼管の少なくとも外表面に、付着量が0.1〜10g/m2 のリン酸塩系、シュウ酸塩系およびホウ酸塩系のいずれかの化成処理被覆膜を備えていることを特徴とする液圧バルジ加工用表面処理鋼管。」

2.刊行物記載の発明(事項)
当審で通知した取消しの理由で引用し、本件特許の出願前に国内で頒布された刊行物である、「チューブフォーミング-管材の二次加工と製品設計-」、社団法人日本塑性加工学会編、株式会社コロナ社、1992年10月30日初版第1刷、1998年5月25日初版第2刷発行、第84頁〜第85頁(以下、「刊行物1」という。)、「名古屋工業技術試験所報告」、第8巻、第9号、第603頁〜第608頁、昭和34年9月(以下、「刊行物2」という。)、及び、「塑性と加工」、第2巻、第6号、第51頁〜第56頁、1961年(以下、「刊行物3」という。)には、以下の事項が記載されていると認められる。
(1)刊行物1記載の事項
(イ)第85頁5行〜16行
「バルジ加工の場合
・・・
(2)高い内圧をかけながら軸方向に圧縮して成形するので,管と金型の間の摩擦抵抗も大きく,軸方向の反力は意外に大きい。この反力を軽減する方策として,素管にショットブラストをかけるなどして表面をざらざらにして油だめを作ることや,りん酸塩,しゅう酸塩の被覆処理を行うこと,あるいは金属石けんなど適当な潤滑剤を選ぶことが重要である。・・・
(3)バルジ圧力をかける前に管と金型の間に入ってしまった油の逃げ道を考慮する必要がある。」
上記の記載からみて、刊行物1には、
「管の外表面に、りん酸塩、しゅう酸塩のいずれかの被覆膜を備えている液圧バルジ加工用表面処理管」の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)刊行物2記載の事項
(イ)第603頁左欄下から16行〜同頁右欄下から16行
「段付中空軸をバルジ加工する場合,第11),2報2)の実験装置を見るとわかるように,鋼管内部の高い液圧によってバルジ部以外で鋼管が型とカン合する部分においても鋼管がふくれて型と強く接触するので,管が型に対して軸方向にすべる場合にはこの接触部に摩擦力が生じる。・・・したがってバルジ加工を効果的に行うにはこの部分の摩擦力をできるだけ小さくする必要がある。」
(ロ)第604頁左欄1行〜2行
「実験方法としては素材管表面に潤滑剤を塗布してシリンダ1に入れ,上下ピストンをそれぞれさしこむ。」
(ハ)第604頁左欄25行〜同頁右欄2行
「また潤滑剤としては・・・ボンデライト処理(燐酸皮膜処理)の各種を用いた。」
(ニ)第604頁右欄8行〜10行
「バルジ部のふくらみを容易にするにはこの接触部分に生じる摩擦力を小さくすることが必要である。」
(ホ)第608頁左欄10行〜18行
「ボンデライトは移動とともに摩擦力が漸減ししかも安定性のあることはリン酸皮膜の付着強度が非常に高いことによるものであって,移動量の大きい加工法に用いれば良い結果をうるものと思われる。なおこれはボンデライト処理ののちボンダリューベを浸透させたものであるが,これにモリコートGを浸透させると図のようになり,モリコートとボンデライト処理の特性が加味されて良好な結果をうる。」
上記の記載からみて、刊行物2には、
「鋼管の外表面に、ボンデライト処理(燐酸皮膜処理)の皮膜を備えている液圧バルジ加工用表面処理鋼管」との事項(以下、「刊行物2記載の事項」という。)が記載されていると認められる。

(3)刊行物3
(イ)第51頁右欄4行〜10行
「一般に鋼材の塑性加工用として利用されている燐酸塩被膜の種類は主として燐酸亜鉛系被膜であり,・・・。亜鉛系の場合も一定の膜厚範囲(3〜10μ程度)のものが主として用いられている(第2表)。」
(ロ)第2表から、
「燐酸亜鉛系被膜の被膜重量が、2.5〜3.5、4〜5、6〜8g/m2であること」が看取し得る。
(ハ)第52頁左欄下から16行〜下から15行
「一般に膜厚の過大過小なもの・・・は潤滑被膜として不利である(第3表)。」
(ニ)第54頁左欄4行〜16行
「3.燐酸塩化成処理
3.1反応機構
鉄鋼素材を燐酸塩処理液に浸漬すると液中の遊離燐酸が鉄面に働いて次の反応が起こる。
Fe+2H3PO4→Fe(H2PO4)2+H2 (1)
その結果,鉄の界面における水素イオンの濃度が低下するため液中の第1燐酸塩が解離して,不溶性の第2,第3燐酸塩が鉄面にdepositする。
M(H2PO4)2→MHPO4+H3PO4 (2)
3MHPO4→M3(PO4)2+H3PO4 (2’)
したがって,亜鉛系被膜は第2,第3燐酸亜鉛が主体で処理液の種類,処理条件によって事情を異にするが若干の鉄の燐酸塩を含有するものである。」
上記の記載からみて、刊行物3には、
「鋼材に塑性加工の際の潤滑性向上のための燐酸亜鉛化成処理被覆膜の燐酸亜鉛付着量は、2.5〜3.5、4〜8、6〜8g/m2 である」との事項(以下、「刊行物3記載の事項」という。)が記載されていると認められる。

3.対比
本件発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、後者の「りん酸塩」は前者の「リン酸塩系」に相当することは明らかであるから、両者の一致点及び相違点は以下のとおりである。
〈一致点〉管の外表面に、リン酸塩系の被覆膜を備えている液圧バルジ加工用表面処理管。
〈相違点1〉液圧バルジ加工を施す管が、前者は鋼管であるのに対して、後者は鋼管とは特定されていない点。
〈相違点2〉リン酸塩系の被覆膜が、前者は化成処理被覆膜であるのに対して、後者は化成処理被覆膜とは特定されていない点。
〈相違点3〉リン酸塩系の付着量が、前者は0.1〜10g/m2 であるのに対して、後者は特定されていない点。

4.当審の判断
上記相違点1〜3等について検討する。
〈相違点1について〉
刊行物2には、液圧バルジ加工を施す管を鋼管とすることが記載されており、当該刊行物2記載の事項は刊行物1記載の発明と同じく、「液圧バルジ加工用表面処理管」という同一の技術分野に属し、しかも、液圧バルジ加工の際の管と型との間の摩擦を低減するという課題を共通にするものである(刊行物2の摘記事項(イ)、(ハ)を参照)。
したがって、刊行物1記載の発明の管を、刊行物2記載の事項を適用して鋼管とすることは、当業者が容易になし得ることである。
〈相違点2、3について〉
刊行物3には、「鋼材に塑性加工の際の潤滑性向上のための燐酸亜鉛被覆膜を、化成処理被膜とし、その燐酸亜鉛付着量を、2.5〜3.5、4〜8、6〜8g/m2 とする」との事項が記載されており、当該刊行物3記載の事項は、刊行物1記載の発明と「塑性加工の際の摩擦力低減」という課題、「リン酸塩系の被覆処理」という技術分野を共通にするものである。
したがって、刊行物1記載の発明に刊行物3記載の事項を組合わせ、相違点2、3に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることである。

なお、特許権者は、特許異議意見書の中で、甲第1号証(刊行物1)の記載事項について、「甲第1号証の85頁、5〜14行には『バルジ加工の場合、(1)・・(省略)・・。(2)高い内圧をかけながら軸方向に圧縮して成形するので、管と金型の間の摩擦抵抗も大きく、軸方向の反力は意外に大きい。この反力を軽減する方策として、素管にショットブラストをかけるなどして表面をざらざらにして油だめを作ることや、リン酸塩、シュウ酸塩の被覆処理を行うこと、あるいは金属石けんなど適当な潤滑剤を選ぶことが重要である。・・・』と記載されています。・・・しかしながら、上記の記載からは、バルジ加工に用いる鋼管への表面処理として『リン酸塩、シュウ酸塩の皮膜処理』を単独で用いるのか、金属石けんなどの潤滑剤との併用になるのかが不明りょうであり、いずれであるか読み取ることができません。」(第3頁11行〜22行、以下、「特許権者の前提1」という。)とし、甲第2〜5号証(甲第2、3号証はそれぞれ刊行物2、3である)の記載事項について、「全て化成処理皮膜と潤滑剤との併用に基づく技術事項が記載されています。」(第5頁8行〜9行)ことを理由に、甲第1号証(刊行物1)記載の「バルジ加工に用いる鋼管への表面処理として『リン酸塩、シュウ酸塩の皮膜処理』を単独で用いるものではなく、金属石けんなどの潤滑剤との併用であると解すべきです。」(第5頁13行〜15行、以下、「特許権者の前提2」という。)とし、一方、本件特許は、「他の潤滑剤との併用を不要とする化成処理皮膜」(第6頁2行、以下、「特許権者の前提3」という。)であるから、甲第1〜5号証に記載の皮膜は本件特許のものとは相違する、旨主張している。
そこで、上記特許権者の主張について検討するに、
(i)本件特許明細書の段落【0028】中の「さらに好ましくは、高加工度での加工への対応のために潤滑油との併用するのがよい。」との記載を削除するとの訂正がなされたが、特許請求の範囲の記載を含め、訂正明細書全体の記載を精査しても、本件発明が、「リン酸塩、シュウ酸塩の皮膜処理」と他の潤滑剤とを併用したものを積極的に除外しているとは認め得ないから、そもそも「特許権者の前提3」が誤っている。また、
(ii)甲第1号証(刊行物1)には、「この反力を軽減する方策として,・・・りん酸塩,しゅう酸塩の被覆処理を行うこと,あるいは金属石けんなど適当な潤滑剤を選ぶことが重要である。」(下線は当審が付与)と、「りん酸塩,しゅう酸塩の被覆処理」と「金属石けんなど適当な潤滑剤を選ぶこと」とが択一的に記載されていることからみて、潤滑剤を使用せずにりん酸塩,しゅう酸塩の被覆処理を行うことが甲第1号証に示されているとするのが相当であり、上記「特許権者の前提1」ひいては当該前提に基づく「特許権者の前提2」も誤っている。
(iii)したがって、これら誤った前提に基づく上記特許権者の主張は採用できない。

そして、本件発明の作用効果は、刊行物1記載の発明及び刊行物2、3記載の事項から当業者が予測可能な範囲内のものであって、格別のものではない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、刊行物1記載の発明及び刊行物2、3記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
液圧バルジ加工用表面処理鋼管
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管の少なくとも外表面に、付着量が0.1〜10g/m2のリン酸塩系、シュウ酸塩系およびホウ酸塩系のいずれかの化成処理被覆膜を備えていることを特徴とする液圧バルジ加工用表面処理鋼管。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は液圧バルジ加工に供する表面処理鋼管に関する。
【0002】
【従来の技術】
鋼管の液圧バルジ加工は、配管の分岐部に用いられるT型管継手(以下、T継手と記す)の代表的な加工方法として知られている。
【0003】
図1はT継手の図で、(イ)は側面図、(ロ)はA-A中央断面図である。T継手1は母管部1aと高さHの枝管部1bからなり、両者がスムースな曲率(半径R)を有するクロッチ部1cで結ばれている。
【0004】
図2は、T継手の液圧バルジ加工に用いられる金型を示し、(イ)は長手方向断面図、(ロ)は側面図である。金型2は上型2aと下型2bからなり、上下に分割できる構造になっている。
【0005】
上型2aには半円形のダイス溝2a-1が、下型2bには同じく半円形のダイス溝2b-1とダイス孔2b-2が設けられており、これらで形成される金型内郭形状はT継手1の外郭形状と同一である。金型2には一般に工具鋼が用いられ、熱処理あるいはクロムメッキなどによって金型内郭部表面は硬質かつ平滑に仕上げられている。
【0006】
図3は、T継手の液圧バルジ加工工程を示す部分断面図である。
【0007】
図3(イ)は、T継手の母管部と同一の外径D1、肉厚taの管を所定長さL0に切断した素管3を液圧バルジ加工機(図示せず)に取り付けた下型2bのダイス溝2-1にセットし、液圧バルジ加工機の上下方向加圧装置(図示せず)に取り付けた上型2aを降下せしめ、液圧バルジ加工の際に上型2aが浮き上らないように、下型2bに所定の力で押しつけた状態を示す。
【0008】
図3(ロ)は、液圧バルジ加工機の水平方向加圧装置(図示せず)に取り付けた対向する押金4、5を前進させて押金端面4a、5aを素管端面3aに押し付け、ついで押金4の内部を貫通する加工液注入用管路6を通して注入した加工液8で素管3の内部を充満させた状態を示す。加工液としては、水に防錆を主目的とした油分を混合させたエマルジョンを用いるのが一般的である。この後、加工液8の圧力を増加させながら左右の押金4、5を前進せしめると、下型ダイス孔2b-2の入口R部2b-3を通過して材料がダイス孔2b-2の中に流入していく。
【0009】
図3(ハ)は、材料の長さがT継手母管部の長さよりも僅かに長いL´まで縮むと同時に、ダイス孔2b-2と所定位置にあらかじめセットされたストッパ7で規制された形状の隆起部9bが形成された状態を示す。この後、加工液8の圧力を低下、押金4、5を後退および上型2aを上昇させ、ストッパ7をシリンダ(図示せず)で上昇させて半製品9を下型2bから取り出す。
【0010】
図3(ニ)は、半製品の側面図である。隆起部9bを高さHの位置で切断し、母管部9aを長さLに仕上げ、必要に応じて熱処理を施すことによってT継手が得られる。
【0011】
ところで、図3(ロ)〜(ハ)の加工工程においては、材料には加工液8による数百〜千数百気圧の内圧が作用し、これに押金4、5による軸方向圧縮が加わるので、材料の外面と上型ダイス溝2a-1および下型ダイス溝2b-1には大きな圧力が作用する。
【0012】
また、加工硬化した材料が滑る下型ダイス孔の入口R部2b-3にも大きな圧力が作用する。この状態で材料をダイス溝2a-1、2b-1内で軸方向に収縮、あるいはダイス孔2b-2に流入させる際の摩擦が次のような問題を引き起こす。第1は、半製品9の外面に擦り疵が生じ、グラインダなどによる研磨手入れが必要となることである。前述のごとく金型2の内郭部は硬質かつ平滑に仕上げられてはいるが、摩擦条件が過酷であるために、連続して加工を行うと金型にも擦り疵が発生する。金型表面の研磨修正は生産の能率を低下させるばかりでなく、修正が度重なると製品に寸法変化をきたしてしまう。この場合には肉盛りと仕上げ加工が必要となるので金型の保守費用が嵩んでしまう。
【0013】
第2は、材料が軸方向にすべりにくいために、管端部近傍での挫屈が生じ易くなり、薄肉品の加工が困難となることである。
【0014】
図4は、挫屈が発生した状態を示す図である。同図に示すように挫屈10は管端部近傍で生じ易い。
【0015】
第3は、材料がダイス孔2b-2内に流入しにくくなるために、隆起部の破断が生じ易くなることである。
【0016】
図5は、隆起部の破断状態を示す斜視図である。同図に示すように、材料がダイス孔に流入しにくくなると隆起部の頂部で割れ11が発生する。
【0017】
液圧バルジ加工における上記のような諸問題を解消するためには、材料が金型と極めて高い面圧のもとで摺動する際の摩擦抵抗を減少させることが重要である。
【0018】
その対策として、素管の外表面に金型との焼付き防止する処理が行われている。潤滑油を素管に塗布する方法も考えられるが、金型との高面圧下での摺動でこすり取られてしまうために効果が乏しい。金型内が内圧付加のための水系の加工液で濡れているために潤滑油の効果が低下することもある。
【0019】
そこで最も広く採用されているのはペイント塗装である。所定長さに切断された素管を脱脂洗浄し、その外面を吹き付け、あるいははけ塗りによって塗装し、十分に乾燥固化させた後に液圧バルジ加工が行われている。
【0020】
しかしながら、この方法には次のような問題がある。
【0021】
第1は、素管の脱脂洗浄および塗装乾燥に労力と工数がかかる。また、長尺の素管を所定の長さに切断した後でペイント塗装されるため、素管切断工程と液圧バルジ加工工程を連続させることができない。したがって、工程毎に材料が滞留し、材料保管のための余分なスペースを確保する必要があるばかりでなく、工程全体の能率が上がらないことである。
【0022】
第2は、長尺の素管を所定の長さに切断した後、1個1個人手によてペイント塗装がおこなわれているので、塗装に時間を要するばかりでなく、素管の曲面部にペイントを均一に塗装するには熟練を必要とすることである。薄肉の素管の場合に、不均一な膜厚でペイント塗装されると、液圧バルジ加工の軸圧縮の際に膜厚の段差部で挫屈が生じ易くなる。また、塗膜が厚過ぎると金型に塗膜がこびりつき、これが次の加工で製品に押し込み疵を発生させるので、その都度金型から塗膜を取り除く手間がかかる。
【0023】
第3には、液圧バルジ加工の後で有機溶剤などでペイント塗膜を除去する必要がある場合に手間と工数がかかり、作業環境面でも問題がある。
【0024】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、ユーザーにおける加工前の脱脂洗浄やペイント塗装、乾燥工程を省略し、素管切断から液圧バルジ加工を連続的に行うことのできる焼付き防止性能および潤滑性に優れた液圧バルジ加工用表面処理鋼管を提供することを課題とする。
【0025】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、長尺の素管のままで潤滑表面処理ができ、素管を切断した後、直ちにバルジ加工ができる表面処理鋼管の開発をすべく実験、検討した結果、鋼管表面に付着量0.1g/m2〜10g/m2のリン酸塩系、シュウ酸塩系およびホウ酸塩系のいずれかの化成処理被覆膜を設けておくのがよいという知見を得た。本発明はこのような知見に基づきなされたものでその要旨とするところは、「鋼管の少なくとも外表面に、付着量が0.1〜10g/m2のリン酸塩系、シュウ酸塩系およびホウ酸塩系のいずれかの化成処理被覆膜を備えている液圧バルジ加工用表面処理鋼管。」
【0026】
【発明の実施の形態】
本発明の液圧バルジ加工用表面処理鋼管における限定条件について以下に詳述する。
【0027】
(a)化成処理被覆膜
鋼管の少なくとも外表面にリン酸塩系、シュウ酸塩系およびホウ酸塩系のいずれかの化成処理被膜を設けるのは、バルジ加工時に鋼管とダイスとの摺動界面に化成処理被膜を存在させることにより、焼き付きを防止するためである。化成処理被膜は、ダイスと鋼管との直接のメタル接触を防止するスペーサとしての機能を有する。化成処理被膜は、被膜密着性に優れており、バルジ加工時の摺動により剥離することがなく、また皮膜電気絶縁性に優れているので、工具と皮膜との凝着防止の効果がある。
【0028】
上記のような性能を満足する被覆膜として、リン酸塩系、シュウ酸塩系、ホウ酸塩系のいずれかの化成処理被覆膜である。
【0029】
(b)化成処理被膜の付着量
被膜の付着量は、0.1g/m2未満では被膜が不連続となり、加工中に擦り疵や焼き付きが発生しやすい。一方、10g/m2を超えると、被膜の内部応力により剥離しやすくなり、その剥離した被膜が鋼管とダイスの間隙に蓄積されて次の成形時に鋼管外表面に押し込み疵を発生させ。また経済的にも過大な被膜厚みは無駄である。したがって、化成処理被膜の付着量は0.1〜10g/m2とした。なお、化成処理被覆膜は、均一に施す必要があるが、リン酸亜鉛処理等の反応型化成処理であれば、薬液への浸漬、必要があれば水洗、乾燥させることにより均一にすることができる。
【0030】
このような化成処理被膜を施した鋼管を、液圧バルジ成形する際、加工液として防錆目的のエマルジョン油を使用する場合には、加工後そのまま製品として使用するか、あるいはその後更に必要な塗装を施して使用することができる。加工液として鉱物油を使用する場合には、アルカリ脱脂や溶剤脱脂をした後、必要であればその後塗装を施すことができる。
【0031】
(c)鋼管
鋼管の材質は、炭素鋼、オーステナイト系ステンレス鋼やフェライト系ステンレス鋼が一般的であるが、とくに限定されるものではない。
【0032】
【実施例】
板厚4.2mmの熱間圧延鋼帯(炭素鋼:C:0.05%、Si:0.1%、Mn:0.25%)から製造した電縫鋼管(外径:89.1mm、肉厚:4.2mm、長さ:5.5mm)の表面を酸洗し、さらに、ブラスト処理を施し、次いで下記3種(1)、(3)、(4)の無機被膜処理を施し、表1に示すような種々の付着量の処理鋼管を用意した。
【0033】
(1)リン酸塩系化成処理
下記の工程でリン酸亜鉛処理を施した。
【0034】
面調整-リン酸亜鉛処理浴浸漬-水洗-熱風乾燥。
【0035】
リン酸処理液として、日本パーカ社製のPB-3080を使用した。また、処理被膜の付着量制御は、リン酸亜鉛処理浴浸漬時間を変化させることにより行った。また、薄膜X線回折測定により、得られた無機被覆膜の結晶形態がフォスフォフィライトを示すことが判明したので、皮膜付着量を、蛍光X線にてリン付着量として測定し、フォスフォフィライト換算することにより求めた。
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
(2)シュウ酸塩系化成処理
下記の工程でシュウ酸塩処理を施した。
【0040】
シュウ酸処理浴浸漬-水洗-熱風乾燥。
【0041】
シュウ酸処理液として、20%シュウ酸水溶液+促進剤(チオ硫酸ナトリウム)を用い、液温80℃で処理した。処理被膜の付着量は、シュウ酸処理浴浸漬時間を変化させることにより行った。皮膜付着量を、イビット入り5%HClにて皮膜溶解、溶解液中のシュウ酸イオンをイオンクロマトグラフィー測定により定量し、シュウ酸鉄換算することにより求めた。
【0042】
(3)ホウ酸塩系化成処理
下記の工程でホウ酸塩処理を施した。
【0043】
ホウ酸処理浴浸漬-水洗-熱風乾燥。
【0044】
ホウ酸処理液は、20%ホウ酸水溶液+促進剤(チオ硫酸ナトリウム)を用い、液温80℃で処理した。処理被膜の付着量は、ホウ酸処理浴浸漬時間を変化させることにより行った。皮膜付着量を、イビット入り5%HClにて皮膜溶解、原子吸光分析にてホウ素付着量を測定し、ホウ酸鉄換算することにより求めた。
【0045】
上記の無機物質による被覆膜を備えた鋼管に、以下の方法により液圧バルジ加工を施した。
【0046】
図3(イ)に示す長さL0=300mmの素管に切断し、図3(ロ)に示すように加工液(水に防錆油を濃度3%で混合したエマルジョン)を素管に注入し、図3(ハ)に示すように軸方向圧縮と最高500kgf/mm2の内圧を付加した。図3(ニ)に示す目標とする半製品の寸法は、母管部が外径D1=89.1mm、長さL´=180mm、隆起部が外径D2=89.1mm、高さH´=65mmである。
【0047】
各処理鋼管の被膜付着量毎に10回連続して液圧バルジ加工を実施し、加工後の角鋼管について、破断、擦り疵、押し込み疵および被膜剥離の発生状況を観察した。結果を表1に示す。
【0048】

【0049】
被覆膜付着量がリン酸塩系化成処理では0.05g/m2(サンプルNo1-1)、シュウ酸塩系化成処理では0.05g/m2(サンプルNo3-1)、ホウ酸塩系化成処理では0.01g/m2で(サンプルNo4-1)では図5に示すような破断が頻発した。また、これら鋼管外面に顕著な擦り疵が発生したため、10回の加工中に3回の金型研磨手入れを要した。
一方、被覆膜付着量がリン酸塩系化成処理では17.1g/m2(サンプルNo1-6)、シュウ酸塩系化成処理では12.3g/m2(サンプルNo3-6)、ホウ酸塩系化成処理では20.0g/m2で(サンプルNo4-6)では被膜剥離が発生し、その都度金型を清掃する必要があった。また、剥離物によって鋼管外面に押し込み疵が形成されたので、半製品外面をグラインダにより手入れをする必要があった。
3種類の化成処理被覆膜の何れも付着量0.1〜10g/m2の範囲(サンプルNo1-2〜No1-5、No3-2〜No3-5、No4-2〜No4-5)では全数良品となり、そのまま図3(ニ)に示す半製品の頭部をH=41.2mmの位置で切断し、さらに母管端面を切削加工して図1に示すL=171.4mmのT継手(1)を得た。
【0050】
【発明の効果】
本発明の無機物質による被覆膜を備えた表面処理鋼管を用いて液圧バルジ成形することにより、良好に加工ができ。さらに、従来の問題点であった素管の脱脂洗浄、塗装乾燥工程が省略でき、鋼管の切断から液圧バルジ成形まで連続して行うことができるので、大幅な工程の短縮化が図れる。また、長尺の素管状態でのスプレー塗装等による均一塗装が行われるため、塗膜の均一性が良好で挫屈等が生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【図1】
T型管継手の一例を示す図である。
【図2】
T型管継手の液圧バルジ成型用金型の図である。
【図3】
T型管継手の液圧バルジ加工の工程を説明するための図である。
【図4】
座屈が発生した状態を示す図である。
【図5】
隆起部の破断状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
1 T型管継手
2 T型管継手の金型
4、5 押金
6 加工液注入用管路
8 加工液
11 破断部
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-11-24 
出願番号 特願平8-295058
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (B21D)
P 1 651・ 831- ZA (B21D)
最終処分 取消  
前審関与審査官 金澤 俊郎福島 和幸  
特許庁審判長 西川 恵雄
特許庁審判官 上原 徹
鈴木 孝幸
登録日 2003-05-02 
登録番号 特許第3424463号(P3424463)
権利者 住友金属工業株式会社
発明の名称 液圧バルジ加工用表面処理鋼管  
代理人 古賀 哲次  
代理人 西山 雅也  
代理人 森 道雄  
代理人 亀松 宏  
代理人 青木 篤  
代理人 石田 敬  
代理人 森 道雄  

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