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審決分類 審判 一部申し立て 発明同一  B41J
審判 一部申し立て 2項進歩性  B41J
審判 一部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  B41J
管理番号 1114649
異議申立番号 異議2002-73141  
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2002-02-05 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-12-26 
確定日 2005-02-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3298588号「インクジェット記録装置のインク供給装置」の請求項1〜3、5、6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3298588号の請求項1〜3、5、6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第3298588号の請求項1〜8に係る発明についての出願は、平成5年3月9日に出願した特願平5-72848号の一部を平成13年7月18日に新たな特許出願としたものであって、平成14年4月19日にその特許権の設定登録がされ、その後異議申立人佐藤佳子により請求項1〜3、5、6に係る発明について特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成16年4月6日に訂正請求がされた後、訂正拒絶理由が通知され、平成16年12月24日に手続補正書が提出されたものである。


第2 訂正の適否についての判断
1.訂正請求に対する補正の適否について
平成16年12月24日付手続補正書は、訂正請求書第5頁末行〜第6頁第11行記載の訂正事項fを削除する補正を行うものであり、当該訂正請求に対する補正は、訂正請求書の要旨を変更するものでないから、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第131条第2項の規定に適合する。

2.訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、以下のとおりである。
[訂正事項1]特許請求の範囲の請求項1の記載を、
「【請求項1】 インクジェットヘッド(1)に連通接続されるインクタンク(2)を有し、このインクタンク(2)内に収容されたインク(3)をインクジェットヘッド(1)へ供給するようにしたインクジェット記録装置のインク供給装置において、
上記インクタンク(2)には、その下部に接続されたインクジェットヘッド(1)に連通路(5)を介して連通しインク(3)が収容される密封状態の主インク収容室(4)と、この主インク収容室(4)の下部空間に連通路(7)を介して連通し且つ上部側に大気連通口(8)が開設された副インク収容室(6)とを具備させ、
上記副インク収容室(6)内部に多孔質部材(9)を充填し、上記多孔質部材(9)の下端部は副インク収容室(6)の下面に接触配置されていることを特徴とするインクジェット記録装置のインク供給装置。」
から、
「【請求項1】 インクジェットヘッド(1)に連通接続されるインクタンク(2)を有し、このインクタンク(2)内に収容されたインク(3)をインクジェットヘッド(1)へ供給するようにしたインクジェット記録装置のインク供給装置において、
上記インクタンク(2)には、その下部に接続されたインクジェットヘッド(1)に連通路(5)を介して連通しインク(3)が収容される密封状態の主インク収容室(4)と、この主インク収容室(4)の下部空間に連通路(7)を介して連通し且つ上部側に大気連通口(8)が開設された副インク収容室(6)とを具備させ、
上記副インク収容室(6)内部に多孔質部材(9)を充填し、副インク収容室(6)の下面に上記多孔質部材(9)の下端部を接触配置すると共に、主インク収容室(4)と副インク収容室(6)との間の連通路(7)よりも下方側にインクジェットヘッド(1)への連通路(5)を配置したことを特徴とするインクジェット記録装置のインク供給装置。」
に訂正する。
[訂正事項2]特許請求の範囲の請求項4の記載を、
「【請求項4】 請求項1記載のものにおいて、副インク収容室(6)は、主インク収容室(4)の上壁から筒状部材を直立垂下させ、筒状部材の下端部を主インク収容室(4)の下壁から離間配置したことを特徴とするインクジェット記録装置のインク供給装置。」
から、
「【請求項4】 インクジェットヘッド(1)に連通接続されるインクタンク(2)を有し、このインクタンク(2)内に収容されたインク(3)をインクジェットヘッド(1)へ供給するようにしたインクジェット記録装置のインク供給装置において、 上記インクタンク(2)には、その下部に接続されたインクジェットヘッド(1)に連通路(5)を介して連通しインク(3)が収容される密封状態の主インク収容室(4)と、この主インク収容室(4)の下部空間に連通路(7)を介して連通し且つ上部側に大気連通口(8)が開設された副インク収容室(6)とを具備させ、 上記副インク収容室(6)内部に多孔質部材(9)を充填し、副インク収容室(6)の下面に上記多孔質部材(9)の下端部を接触配置すると共に、副インク収容室(6)は、主インク収容室(4)の上壁から筒状部材を直立垂下させ、筒状部材の下端部を主インク収容室(4)の下壁から離間配置したことを特徴とするインクジェット記録装置のインク供給装置。」
に訂正する。
[訂正事項3]特許請求の範囲の請求項7の記載を、
「【請求項7】 請求項1記載のものにおいて、主インク収容室(4)内壁に複数のリブが突出形成されていることを特徴とするインクジェット記録装置のインク供給装置。」
から、
「【請求項7】 インクジェットヘッド(1)に連通接続されるインクタンク(2)を有し、このインクタンク(2)内に収容されたインク(3)をインクジェットヘッド(1)へ供給するようにしたインクジェット記録装置のインク供給装置において、 上記インクタンク(2)には、その下部に接続されたインクジェットヘッド(1)に連通路(5)を介して連通しインク(3)が収容される密封状態の主インク収容室(4)と、この主インク収容室(4)の下部空間に連通路(7)を介して連通し且つ上部側に大気連通口(8)が開設された副インク収容室(6)とを具備させ、 上記副インク収容室(6)内部に多孔質部材(9)を充填し、副インク収容室(6)の下面に上記多孔質部材(9)の下端部を接触配置すると共に、主インク収容室(4)内壁に複数のリブを突出形成したことを特徴とするインクジェット記録装置のインク供給装置。」
に訂正する。
[訂正事項4]特許請求の範囲の請求項8の記載を、
「【請求項8】 請求項1記載のものにおいて、インクジェットヘッド(1)への連通路(5)部分にインク吸収体(10)を装填したことを特徴とするインクジェット記録装置のインク供給装置。」
から、
「【請求項8】 インクジェットヘッド(1)に連通接続されるインクタンク(2)を有し、このインクタンク(2)内に収容されたインク(3)をインクジェットヘッド(1)へ供給するようにしたインクジェット記録装置のインク供給装置において、 上記インクタンク(2)には、その下部に接続されたインクジェットヘッド(1)に連通路(5)を介して連通しインク(3)が収容される密封状態の主インク収容室(4)と、この主インク収容室(4)の下部空間に連通路(7)を介して連通し且つ上部側に大気連通口(8)が開設された副インク収容室(6)とを具備させ、 上記副インク収容室(6)内部に多孔質部材(9)を充填し、副インク収容室(6)の下面に上記多孔質部材(9)の下端部を接触配置すると共に、インクジェットヘッド(1)への連通路(5)部分にインク吸収体(10)を装填したことを特徴とするインクジェット記録装置のインク供給装置。」
に訂正する。
[訂正事項5]明細書の段落【0006】の記載を、
「【0006】
【課題を解決するための手段】
すなわち、この発明の基本的構成は、図1に示すように、インクジェットヘッド1に連通接続されるインクタンク2を有し、このインクタンク2内に収容されたインク3をインクジェットヘッド1へ供給するようにしたインクジェット記録装置のインク供給装置において、上記インクタンク2には、その下部に接続されたインクジェットヘッド1に連通路5を介して連通しインク3が収容される密封状態の主インク収容室4と、この主インク収容室4の下部空間に連通路7を介して連通し且つ上部側に大気連通口8が開設された副インク収容室6とを具備させ、上記副インク収容室6内部に多孔質部材9を充填し、副インク収容室6の下面に上記多孔質部材9の下端部を接触配置することを特徴とする。
特に、本発明にあっては、主インク収容室4と副インク収容室6との間の連通路7よりも下方側にインクジェットヘッド1への連通路5を配置した態様が好ましい。」
に訂正する。

3.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項1は、請求項1に係る発明の「連通路(7)」と「連通路(5)」との位置関係について、連通路(7)よりも下方側に連通路(5)が配置されていることを限定するものであるから、特許請求の範囲の限縮を目的とした明細書の訂正に該当する。そして、当該限定事項は、願書に添付した図面(図1〜図3)に記載されているから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものと認められ、かつ、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものでないことは明らかである。
さらに、上記訂正事項2〜訂正事項4は、特許異議の申立てがなされていない請求項4、7、8について、訂正前の請求項1を引用する形式で記載されていたものを、各請求項に係る発明の構成が変更されないように、独立形式の記載に改めるものに過ぎないから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、上記訂正事項5は、上記訂正事項1との整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。そして、上記訂正事項2〜5のいずれも、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものと認められ、かつ、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものでないことは明らかである。

4.むすび
したがって、本件訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。


第3 特許異議の申立てについて
1.申立ての理由の概要
(1)申立理由1(特許法第29条の2)
特許異議申立人は、訂正前の請求項1〜3、5、6に係る発明は、先願明細書に記載された発明であるとして、甲第1号証を提出している。

(2)申立理由2(特許法第29条第2項)
特許異議申立人は、訂正前の請求項1〜3、5、6に係る発明は、当業者が容易に発明をすることができたものであるとして、甲第2号証を提出している。

(3)申立理由3(特許法第36条第5項)
本件請求項1に係る発明は、明細書に記載された効果を奏するための構成を欠如しているというものである。

2.本件発明の認定
本件の請求項1〜3、5、6に係る発明(以下、各請求項に係る発明をそれぞれ「本件発明1」〜「本件発明3」、「本件発明5」、「本件発明6」という。)は、平成16年12月24日付け手続補正書により補正された訂正明細書(以下、「訂正明細書」という)の特許請求の範囲の請求項1〜3、5、6に記載されたとおりの次のものと認める。
【請求項1】 インクジェットヘッド(1)に連通接続されるインクタンク(2)を有し、このインクタンク(2)内に収容されたインク(3)をインクジェットヘッド(1)へ供給するようにしたインクジェット記録装置のインク供給装置において、
上記インクタンク(2)には、その下部に接続されたインクジェットヘッド(1)に連通路(5)を介して連通しインク(3)が収容される密封状態の主インク収容室(4)と、この主インク収容室(4)の下部空間に連通路(7)を介して連通し且つ上部側に大気連通口(8)が開設された副インク収容室(6)とを具備させ、
上記副インク収容室(6)内部に多孔質部材(9)を充填し、副インク収容室(6)の下面に上記多孔質部材(9)の下端部を接触配置すると共に、主インク収容室(4)と副インク収容室(6)との間の連通路(7)よりも下方側にインクジェットヘッド(1)への連通路(5)を配置したことを特徴とするインクジェット記録装置のインク供給装置。
【請求項2】 請求項1記載のものにおいて、多孔質部材(9)は繊維束にて構成されていることを特徴とするインクジェット記録装置のインク供給装置。
【請求項3】 請求項1記載のものにおいて、主インク収容室(4)及び副インク収容室(6)はインクタンク(2)内部空間を仕切部材で区画したものであることを特徴とするインクジェット記録装置のインク供給装置。
【請求項5】 請求項1記載のものにおいて、副インク収容室(6)の周壁が多孔質部材(9)の被覆部材にて構成されていることを特徴とするインクジェット記録装置のインク供給装置。
【請求項6】 請求項1記載のものにおいて、主インク収容室(4)と副インク収容室(6)との間の連通路(7)の主インク収容室(4)側開口端位置が上記インクジェットヘッド(1)への連通路(5)から離間配置されていることを特徴とするインクジェット記録装置のインク供給装置。

3.申立理由1(特許法第29条の2)についての判断
(1)特許異議申立人提出の証拠
特許異議申立人が甲第1号証により提示した先願は特願平5-30072号(特開平6-238908号公報)である。

(2)先願の出願当初明細書等の記載事項
先願の出願当初明細書及び図面(以下、先願の出願当初明細書及び図面をまとめて「先願明細書等」という。)には、次の事項が記載されている。
a.「【産業上の利用分野】 本発明は、インクジェット記録装置に着脱可能に装着されるインクカートリッジ及び該インクカートリッジを搭載したインクジェット記録装置に関する。」(段落【0001】)
b.「【発明が解決しようとする課題】・・・図11aに示すような、カートリッジの供給口を封止している弾性封止材13に中空針9を挿入してインクをチューブを介してキャリッジ上の印字ヘッドに供給する方式では、針の挿入部が弾性封止材13によって封止されているので、カートリッジ1を取り外した時に瞬時にインク導入孔10をふさぐようになってはいるが、カートリッジを取り外した時に若干の空気22がカートリッジの液室7中に流入するし、カートリッジを取りつける時にも若干の空気22が針についたまま液室7中に混入してしまうことが避けられなかった(図14)。また、プリンタを立てた時(図13a、図13b)にも、同様に空気の位置が一定せず、空気が吸い出される恐れがあった。・・・本発明の目的は、上記印字ヘッドからの分離・交換が可能、かつ容易に行え、更に、印字ヘッドから分離した場合、及び印字ヘッドに装着した場合、また、どのような使用環境あるいは使用状態に置かれた場合のいずれにも、インクの漏出が起きないインクカートリッジ及びインクジェット記録装置を提供することにある。・・・また、カートリッジの液室中に流入あるいは混入した空気を一定位置に溜め、その空気が容易に移動しないようにして中空針のインク導入孔より空気の吸い出しが起こらないようにしたインクカートリッジ及びインクジェット記録装置を提供することにある。」(段落【0004】〜【0009】)
c.「【作用】・・・印字ヘッドが印字を開始すると、インク液を貯蔵する液室中のインクが中空針を通って印字ヘッドに供給され、液室中のインクが減少した分量と同量のインクが、収納室に収容された多孔質部材中の含浸インクから補われる。この際、両室を区画する壁面に形成した連通孔に設けたフィルタ手段によって、多孔質部材中のインクに混在している空気は液室中に侵入することはなく、また、カートリッジの設置の向きによらず、液室中のインクが多孔質に吸収されて使用不能となることなく、また、液室中に流入あるいは混入した空気を撥水処理を施した液室の内面にトラップすることで、印字ヘッドへのインクの供給が安定的に行われる。」(段落【0012】)
d.「【実施例】・・・インクカートリッジ1は、インクを含浸させた多孔質部材5を収容する収納室とインク液を貯蔵する液室7とに区画形成され、前記両室を区画する壁面に設けた連通孔に液室内のインクの逆流を防止するフィルタ手段6を設け、前記液室の壁面に穿設したインク供給口を、弾性封止材13により封止してある。多孔質部材としては、ポリウレタンフォームが用いられる。・・・フィルタ手段6は、微細孔部を形成しており、その部分に作用するインクの表面張力の働きによって、カートリッジの設置の向きによらず液室7中のインクが多孔質部材5に吸収されて使用不能となる事を防ぐ役割をする。」(段落【0013】〜【0018】)
e.「次に、カートリッジの液室中に流入あるいは混入した空気を液室の内面の一定位置にトラップするために、液室内面の一部に撥水処理を施したインクカートリッジを図8〜図12を参照して説明する。・・・撥水処理を施す部位としては、インク導入孔より10mm以上離れた壁面が最適である。例えば、図8に示すような形状の液室の場合には、液室内壁の一部分に撥水処理を施す。また、インク導入孔より壁面までの距離が10mm以下の場合は、例えば、図9に示すような形状の液室の場合には、液室内壁の全面に撥水処理を施す。」(段落【0023】〜【0025】)
f.「印字ヘッド4が印字を開始すると、液室7中のインクが中空針9を通って印字ヘッド4に供給され、液室7内のインクが減少した分量と同量のインクが、多孔質部材5よりフィルタ手段6の微細孔を経て補われる。また、多孔質部材5中のインクが減少した分は、相当量の空気が大気より大気連通孔19を経て補われる。この際、多孔質部材5は空気とインクの混在状態にあるが、液室7への空間補充はインクのみであり、液室7へ空気が侵入することはない。これは、フィルタ手段6の微細孔の穴径が小さいことで、インクの表面張力によって空気の侵入を防いでいるためである。また、カートリッジを印字ヘッド4から取り外す際には、中空針9によって弾性封止材にあいた穴は、その部分が弾性体13であるため自然にふさがり、カートリッジ全体において、内部と大気が連絡しているのは大気連通孔19のみとなる。・・・また、液室7のインクが多孔質部材5に吸い取られ、中空針9の周囲を空気が覆うようになると、そのカートリッジは使用できなくなるが、これもフィルタ手段の微細孔の働きで防ぐことができる。これは、液室7からインクが出ていくためには、逆に液室7に空気が入ってくる必要があり、前述のとおりフィルタ手段の微細孔が、この空気の侵入を防いでいるため、インクは多孔質部材に吸い取られることはない。」(段落【0030】〜【0032】)
g.図6a及び図6bから、印字ヘッド4はインクカートリッジ1の側部に接続されていること、液室7の下部空間において連通孔を介して収納室が連通していること、大気連通孔19は収納室の上部側に開設されていること、中空針9は、連通孔の下端部よりも上方に配置されていること、及び、収納室の下面に多孔質部材5の下端部が接触配置されていることが看取できる。

(3)先願発明の認定
インクカートリッジ1が印字ヘッド4に連通接続された状態において、中空針9及びインクカートリッジ1を、インクジェット記録装置のインク供給装置ということができるから、上記記載事項a〜gを含む、先願明細書等の全記載からみて、先願の出願当初明細書又は図面には次の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されているものと認めることができる。
「印字ヘッド4に中空針9を介して連通しインクが貯蔵される液室7と、液室7の下部空間において連通孔を介して液室7と連通し且つ上部側に大気連通孔19が開設された収納室とを具備したインクカートリッジ1と、中空針9とから構成されるインクジェット記録装置のインク供給装置であって、インクカートリッジ1の側部に印字ヘッド4を接続し、収納室内にインクを含浸させた多孔質部材5を収容し、収納室の下面に多孔質部材5の下端部を接触配置すると共に、連通孔の下端部よりも上方に中空針9を配置したインクジェット記録装置のインク供給装置。」

(4)対比・判断
(イ)本件発明1について
先願発明の「印字ヘッド4」、「インクカートリッジ1」、「中空針9」、「連通孔」、「大気連通孔19」、「多孔質部材5」、及び「インクジェット記録装置」は、本件発明1の「インクジェットヘッド(1)」、「インクタンク(2)」、「連通路(5)」、「連通路(7)」、「大気連通口(8)」、「多孔質部材(9)」、及び「インクジェット記録装置」に、それぞれ相当する。
先願発明の「液室7」の内部の空間は、連通孔及び中空針9以外には外部と連通していないのであるから、「密封状態」であるということができる。したがって、先願発明の「液室7」と本件発明1の「主インク収容室(4)」とは、インクジェットヘッドに連通路を介して連通しインクが収容される密封状態の第1のインク収容室である点で共通し、先願発明の「収納室」と本件発明1の「副インク収容室(6)」とは、第1のインク収容室の下部空間において連通路を介して連通し且つ上部側に大気連通口が開設されると共に、内部に多孔質部材を充填し、下面に上記多孔質部材(9)の下端部が接触配置されている第2のインク収容室である点で共通する。
さらに、先願発明の「インクジェット記録装置のインク供給装置」は、その構成部品であるインクカートリッジ1の側部に印字ヘッド4を接続し、当該印字ヘッド4にインクカートリッジ1内のインクを供給するものであるから、「インクジェットヘッドに連通接続されるインクタンクを有し、このインクタンク内に収容されたインクをインクジェットヘッドへ供給するようにしたインクジェット記録装置のインク供給装置」であるということができる。
したがって、先願発明と本件発明1とを対比すると、両者は、
「インクジェットヘッドに連通接続されるインクタンクを有し、このインクタンク内に収容されたインクをインクジェットヘッドへ供給するようにしたインクジェット記録装置のインク供給装置において、
上記インクタンクには、当該インクタンクに接続されたインクジェットヘッドに連通路を介して連通しインクが収容される密封状態の第1のインク収容室と、この第1のインク収容室の下部空間に連通路を介して連通し且つ上部側に大気連通口が開設された第2のインク収容室とを具備させ、
上記第2のインク収容室内部に多孔質部材を充填し、第2のインク収容室の下面に上記多孔質部材の下端部を接触配置したインクジェット記録装置のインク供給装置。」
である点で一致するが、以下の点で相違する。
相違点1-1:本件発明1では、インクタンク(2)の下部にインクジェットヘッド(1)が接続されていると共に、主インク収容室(4)と副インク収容室(6)との間の連通路(7)よりも下方側にインクジェットヘッド(1)への連通路(5)を配置しているのに対して、先願発明では、インクカートリッジ1の側部に印字ヘッド4が接続されていると共に、連通孔の下端部よりも上方に中空針9を配置している点
相違点1-2:本件発明1では、第1のインク収容室を主インク収容室とし、第2のインク収容室を副インク収容室としているのに対し、先願発明では、先願明細書等に明記がないため、液室4と収納室との主副関係が明らかではない点

そして、本件発明1は、上記相違点1-1に係る本件発明1の構成を採用することにより、主インク収容室(4)内のインク液面が連通路(7)の下端部に達するまで、多孔質部材がインクに浸漬した状態を維持できることにより、多孔質部材による気泡導入機能及びインク退避機能を確実に発揮することができることとなり(本件訂正明細書の段落【0023】参照。)、インク液面が連通路(7)の下端部に達するまで、インクタンク(2)内のインク(3)を安定供給することができるという顕著な効果を有することは明らかである。これに対して、先願発明では、先願明細書等の上記記載事項d〜f等からみて、液室7は、中空針9が挿入される空間内に混入した気泡を、撥水処理を施した液室内面によりトラップすることを目的として設けられたものであって、収納室内のインク(連通孔の下端部よりも下部にある収納室内のインクは除外する。)を使用し尽くしてしまった後に、液室7内のインクを使用すること、すなわち、液室7内に空気を導入して液室7内のインク液面が上端よりも下がるまで、インクを使用することが想定されていないことは明らかである。仮に、ユーザが製造者の想定を越えたところまでインクを使用したとしても、先願発明において、インクを安定的に供給できるのは、液室7内のインクの液面が中空針9に設けられたインク導入孔10の位置に達するまでであり、インク液面が連通孔の下端部に達するまでインクを使用することは不可能である。さらに、もし仮に、インクジェットヘッドをインクタンクの下部に接続することが、例えば、特開平3-87266号公報(甲第2号証)にみられるように、本願の基礎出願の出願日(以下、「本願出願日」という。)前に周知の技術であり、先願発明において、インクジェットヘッドをインクタンクの下部に接続するよう構成を変更することが、単なる設計変更ということができるとしても、当該設計変更を行った先願発明においては、液室7は、中空針9が挿入される空間の分だけ、収納室の下端よりも下方に延びた形状となる。つまり、連通孔は、液室7の下面から略中空針9が挿入される空間の高さだけ、上方に位置することとなる。
ここで、本件発明1における「主インク収容室(4)の下部空間に連通路(7)を介して連通」する「副インク収容室(6)」との表現は、請求項1の記載のみではその意味する内容を明確に特定できないから、本件訂正明細書の段落【0023】、図1〜図3、図5、図8等の記載を参酌すると、連通路(7)の下端部が、主インク収容室(4)の「略最下部」(主インク収容室(4)の下面の位置とほぼ同視できるような位置)に位置していることを意味するものと解するべきであって、上記設計変更を行った先願発明においては、連通孔が、液室(7)の「下部空間」に配置されているということはできない。

また、本件発明1の「主インク収容室」及び「副インク収容室」という用語は、インク収容室の主たる機能が、内部に貯蔵したインクのインクジェットヘッドに対する供給であることから、「主インク収容室」及び「副インク収容室」とは、内部に貯蔵したインクのインクジェットヘッドに対する供給機能の主副関係を意味していると解することが自然である。したがって、「主インク収容室」というからには、少なくとも、その内部に貯蔵されたインクが相当量供給されること、すなわち、空気が主インク収容室に導入されて、主インク収容室におけるインク液面が十分に低下するまで、インクが供給されるものでなければならない。本件発明1は、相違点1-2に係る本件発明1の構成を採用することにより、インクタンクに対するインクの収容効率を向上させることができる(本件訂正明細書の段落【0022】参照。)という顕著な効果を有するものである。一方、先願発明の「液室7」は、先にも述べたように、液室7内に空気を導入して液室7内のインク液面が上端よりも下がるまで、インクを使用することが想定されていないことは明らかであるし、仮に、ユーザが製造者の想定を越えたところまでインクを使用したとしても、先願明細書等(特に図3)の記載からみて、内部に貯蔵したインクのインクジェットヘッドに対する供給機能に関する主副関係は、「収納室」が主であり、「液室7」が副であるというべきであるから、先願発明が、相違点1-2に係る本件発明1の構成を備えているということはできない。さらに、当該構成が、本願出願日前に周知の技術であるとの証拠も見当たらないから、当該構成を単なる設計事項ということもできない。

以上のとおりであるから、本件発明1は、先願発明と同一であるとはいえない。

(ロ)本件発明2、3、5、6について
本件発明2、3、5、6は、本件発明1の構成要件の全てを構成要件の一部とするものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、先願発明と同一であるとはいえない。

4.申立理由2(特許法第29条第2項)についての判断
(1)特許異議申立人提出の証拠
特許異議申立人が甲第2号証により提示した刊行物は特開平3-87266号公報である。

(2)甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、次の事項が記載されている。
h.「(産業上の利用分野) 本発明は熱インキジェットプリントヘッド及びインキカートリッジに関する。」(第3頁左上欄第6行〜同欄第8行)
i.「プリントキャリア29上にドットをプリントする当該技術分野にて周知の型式の熱インキプリント要素35すなわちプリントヘッドが、伸長部分14(第1図)上に固定されている。」(第3頁右下欄第第19行〜第4頁左上欄第2行)
j.「カートリッジ32(第3図及び第4図)は・・・正面壁44に固定された4つの側壁40、41、42、43により形成された容器33を備えている。容器33の内部には、補助スペース46が形成されており、該補助スペース46はカートリッジ32の縦軸線A-Aに対して横方向の位置に配設されかつ正面壁44、側壁42及び正面壁44に対して垂直な内壁48と境を接している。補助スペース46は、一側部にてインキカートリッジ32の内側方向に開放する一方、反対側部にて例えば軟質ゴムのような弾性的材料から成る要素50によって閉塞されている。インキカートリッジ32を支持構造体10に取り付けたとき、補助スペース46及び閉塞要素50は管状要素36に対応する位置に配設され、このため、管状要素36は閉塞要素50に穴を開け、その端部37によってインキカートリッジの補助スペース46内に侵入する。容器33には、インキを含浸させることの出来る連通孔を有するスポンジ状材料52が充填されている。金属グリル47が補助スペース46の開口部46’上に配設されており、このスポンジ状材料52がスペース46内に侵入するのを防止する。容器33にスポンジ状材料52が充填された後、該容器33は壁44と反対側の壁40-43の端縁に密封された蓋54によって閉塞される。この蓋54には、外部への穴56が形成されており、蓋54と接触するスポンジ部分を外気圧に連通させる。」(第4頁右上欄第3行〜同頁左下欄第13行)
k.「プリント工程を開始するためには、閉塞要素50に穴を開けた後、管状要素36の端部37が補助スペース46(第1図)内に侵入するようにして、インキが充填されたインキカートリッジ32を支持構造体10の補助スペース30(第2図)に嵌める。」(第4頁第8行〜同欄第13行)
l.「メニスカスの表面張力により、スポンジ状材料52の毛管現象に起因して保持スペース46(第1図)及び補助リザーバ16内に形成された凹状部分が均衡される。この凹状部分はプリントヘッド1が作動していないとき、1〜5cm水柱程度であるが、プリント工程中、ある量のインキが再度、プリント要素35のリザーバ16から吸引されて、ノズル45から噴出されるインキに置換するとき、20〜30cm水柱程度まで増大する。」(第4頁右下欄第19行〜第5頁左上欄第8行)
m.第1図から、プリントヘッドはインキカートリッジ32の下部に接続されていること、補助スペース46はその上面において容器33内のスポンジ状材料52を充填した空間と連通していること、外部に連通する穴56は容器33内のスポンジ状材料52を充填した空間の上部側に開設されていること、管状要素36は、金属グリル47よりも下方に配置されていること、及び、容器33内のスポンジ状材料52を充填した空間の下面にスポンジ状材料52の下端部が接触配置されていることが看取できる。

(3)甲第2号証記載の発明の認定
インクカートリッジ32がプリントヘッドに連通接続された状態において、管状要素36及びインクカートリッジ32を、熱インキジェットプリンタのインク供給装置ということができるから、上記記載事項h〜mを含む全記載からみて、甲第2号証には次の発明(以下、「甲第2号証発明」という。)が記載されているものと認めることができる。なお、「容器33内のスポンジ状材料52を充填した空間」が、インクを収容する収容室であることは明らかであるから、以下では便宜上「インク収容室」と呼称する。
「プリントヘッドに管状要素36を介して連通しインクが貯蔵される補助スペース46と、補助スペース46の上面において金属グリル47を介して補助スペース46と連通し且つ上部側に外部に連通する穴56が開設されたインク収容室とを具備したインクカートリッジ32と、管状要素36とから構成される熱インキジェットプリンタのインク供給装置であって、インクカートリッジ32の下部にプリントヘッドを接続し、インク収容室内にインクを含浸させたスポンジ状材料52を収容し、インク収容室の下面にスポンジ状材料52の下端部を接触配置すると共に、金属グリル47よりも下方に管状要素36を配置した熱インキジェットプリンタのインク供給装置。」

(4)対比・判断
(イ)本件発明1について
甲第2号証発明の「プリントヘッド」、「インクカートリッジ32」、「管状要素36」、「穴56」、及び「スポンジ状材料52」は、本件発明1の「インクジェットヘッド(1)」、「インクタンク(2)」、「連通路(5)」、「大気連通口(8)」、及び「多孔質部材(9)」に、それぞれ相当する。
また、甲第2号証発明の「金属グリル47」は、インクを連通する部材であるのだから、当該部材にインクが通過する孔が設けられていることは明らかであり、当該孔は、本件発明1の「連通路(7)」に相当する。
また、甲第2号証発明の「補助スペース46」の内部の空間は、金属グリル47及び管状要素36以外には外部と連通していないのであるから、「密封状態」であるということができ、さらに、インクを収容しているのだから、「インク収容室」であるということができる。したがって、甲第2号証発明の「補助スペース46」と本件発明1の「主インク収容室(4)」とは、インクジェットヘッドに連通路を介して連通しインクが収容される密封状態の第1のインク収容室である点で共通し、甲第2号証発明の「インク収容室」と本件発明1の「副インク収容室(6)」とは、第1のインク収容室と連通路を介して連通し且つ上部側に大気連通口が開設されると共に、内部に多孔質部材を充填し、下面に上記多孔質部材(9)の下端部が接触配置されている第2のインク収容室である点で共通する。
さらに、甲第2号証発明の「熱インキジェットプリンタ」は、「インクジェット記録装置」の一態様であり、また、甲第2号証発明の「インクジェット記録装置のインク供給装置」は、その構成部品であるインクカートリッジ32の下部にプリントヘッドを接続し、当該プリントヘッドにインクカートリッジ32内のインクを供給するものであるから、「インクジェットヘッドに連通接続されるインクタンクを有し、このインクタンク内に収容されたインクをインクジェットヘッドへ供給するようにしたインクジェット記録装置のインク供給装置」であるということができる。
したがって、甲第2号証発明と本件発明1とを対比すると、両者は、
「インクジェットヘッドに連通接続されるインクタンクを有し、このインクタンク内に収容されたインクをインクジェットヘッドへ供給するようにしたインクジェット記録装置のインク供給装置において、
上記インクタンクには、当該インクタンクに接続されたインクジェットヘッドに連通路を介して連通しインクが収容される密封状態の第1のインク収容室と、この第1のインク収容室に連通路を介して連通し且つ上部側に大気連通口が開設された第2のインク収容室とを具備させ、
上記第2のインク収容室内部に多孔質部材を充填し、第2のインク収容室の下面に上記多孔質部材の下端部を接触配置したインクジェット記録装置のインク供給装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点2-1:本件発明1では、副インク収容室(6)が、主インク収容室(4)の下部空間に連通路(7)を介して連通しているのに対して、甲第2号証発明では、インク収容室が、補助スペース46の上面に連通路を介して連通している点
相違点2-2:本件発明1では、第1のインク収容室を主インク収容室とし、第2のインク収容室を副インク収容室としているのに対し、甲第2号証発明では、甲第2号証に明記がないため、補助スペース46とインク収容室との主副関係が明らかではない点

そこで、各相違点について検討する。
相違点2-1については、本件発明1は、相違点2-1に係る本件発明1の構成を採用することによって、主インク収容室(4)内のインク液面が「略最下部」に達するまで、インクを安定供給することができ、インクタンクに対するインクの収容効率を向上させることができる(本件訂正明細書の段落【0022】、【0023】参照。)という顕著な効果を有することは明らかである。これに対して、甲第2号証発明では、インク液面が金属グリル47の位置(すなわち補助スペース46の上面)よりも下降すると、インクに負圧を作用させることができなくなるのであるから、インクカートリッジ32内のインクを安定供給できるのは、インク液面が金属グリル47の位置となるところまでである。すなわち、甲第2号証発明において、インク収容室内のインク(金属グリル47よりも下部のインク収容室内のインクは除外する。)を使用し尽くした後に、補助スペース内のインクを使用することは、その構造上不可能である。そして、そのような構造が本願出願日前に公知であるとの証拠も見当たらないし、補助スペース46がインク収容室と「下部空間」で連通するように金属グリル47の位置を変更する動機付けも存在しないから、甲第2号証発明において、相違点2-1に係る本件発明1の構成を採用することが、当業者にとって容易に想到し得たことであるということはできない。
相違点2-2については、「3.(4)(イ)本件発明1について」で述べたように、「主インク収容室」とは、少なくとも、その内部に貯蔵されたインクが相当量供給されること、すなわち、空気が主インク収容室に導入されて、主インク収容室におけるインク液面が十分に低下するまで、インクが供給されるものでなければならない。本件発明1は、相違点2-2に係る本件発明1の構成を採用することにより、インクタンクに対するインクの収容効率を向上させることができる(本件訂正明細書の段落【0022】参照。)という顕著な効果を有するものである。一方、甲第2号証発明の「補助スペース46」は、先にも述べたように、補助スペース46内に空気を導入してインク液面が補助スペース46の上端よりも下がるまで、インクを使用することは不可能であるし、「補助スペース46」内のインクをも安定供給するという技術思想が、本願出願日前に公知であるとの証拠も見当たらないから、甲第2号証発明において、相違点2-2に係る本件発明1の構成を採用することが、当業者にとって容易に想到し得たことであるということはできない。
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第2号証発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではない。

(ロ)本件発明2、3、5、6について
本件発明2、3、5、6は、本件発明1の構成要件の全てを構成要件の一部とするものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲第2号証発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではない。

5.申立理由3(特許法第36条第6項)についての判断
異議申立人が申立理由として指摘する記載不備は、請求項1に記載された構成のみでは、当該段落【0023】に記載された「多孔質部材による気泡導入機能及びインク退避機能をインクが完全に消費されるまで確実に発揮することができる。」という効果を達成することはできない、というものである。
そこで、訂正明細書の段落【0023】の記載について検討してみると、当該記載中の効果は、訂正明細書の段落【0022】に記載の4つの基本的効果のほかに、請求項1に係る発明が有する効果として記載されたものであり、その全記載は、「特に、請求項1に係る発明によれば、多孔質部材の下端部を副インク収容室の下端部に接触配置しているため、インク液面が略最下部に達するまで多孔質部材がインクに浸漬した状態を維持することが可能になり、上述した多孔質部材による気泡導入機能及びインク退避機能をインクが完全に消費されるまで確実に発揮することができる。」である。当該記載からは、「インクが完全に消費されるまで」という表現を「インク液面が略最下部に達するまで」と同義の表現として用いていることは、その文脈上明らかであるし、本件発明1の「副インク収容室(6)の下面に上記多孔質部材(9)の下端部を接触配置すると共に、主インク収容室(4)と副インク収容室(6)との間の連通路(7)よりも下方側にインクジェットヘッド(1)への連通路(5)を配置した」という構成から、インク液面が連通路(7)の下端部に達するまで、記法導入機能とインク退避機能とを発揮できることは、技術常識からみて明らかである。
してみると、「多孔質部材による気泡導入機能及びインク退避機能をインクが完全に消費されるまで確実に発揮することができる。」という表現は、インク液面が、略最下部である連通路(7)の下端部に達するまで、気泡導入機能及びインク退避機能を発揮できることを意味しているものと解するべきであって、本件請求項1に係る発明は、明細書に記載された効果を奏するための構成を欠如しているとの、異議申立人の主張を採用することはできない。


第4 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1〜3、5、6の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜3、5、6の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
インクジェット記録装置のインク供給装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 インクジェットヘッド(1)に連通接続されるインクタンク(2)を有し、このインクタンク(2)内に収容されたインク(3)をインクジェットヘッド(1)へ供給するようにしたインクジェット記録装置のインク供給装置において、
上記インクタンク(2)には、その下部に接続されたインクジェットヘッド(1)に連通路(5)を介して連通しインク(3)が収容される密封状態の主インク収容室(4)と、この主インク収容室(4)の下部空間に連通路(7)を介して連通し且つ上部側に大気連通口(8)が開設された副インク収容室(6)とを具備させ、
上記副インク収容室(6)内部に多孔質部材(9)を充填し、副インク収容室(6)の下面に上記多孔質部材(9)の下端部を接触配置すると共に、主インク収容室(4)と副インク収容室(6)との間の連通路(7)よりも下方側にインクジェットヘッド(1)への連通路(5)を配置したことを特徴とするインクジェット記録装置のインク供給装置。
【請求項2】 請求項1記載のものにおいて、多孔質部材(9)は繊維束にて構成されていることを特徴とするインクジェット記録装置のインク供給装置。
【請求項3】 請求項1記載のものにおいて、主インク収容室(4)及び副インク収容室(6)はインクタンク(2)内部空間を仕切部材で区画したものであることを特徴とするインクジェット記録装置のインク供給装置。
【請求項4】 インクジェットヘッド(1)に連通接続されるインクタンク(2)を有し、このインクタンク(2)内に収容されたインク(3)をインクジェットヘッド(1)へ供給するようにしたインクジェット記録装置のインク供給装置において、
上記インクタンク(2)には、その下部に接続されたインクジェットヘッド(1)に連通路(5)を介して連通しインク(3)が収容される密封状態の主インク収容室(4)と、この主インク収容室(4)の下部空間に連通路(7)を介して連通し且つ上部側に大気連通口(8)が開設された副インク収容室(6)とを具備させ、
上記副インク収容室(6)内部に多孔質部材(9)を充填し、副インク収容室(6)の下面に上記多孔質部材(9)の下端部を接触配置すると共に、副インク収容室(6)は、主インク収容室(4)の上壁から筒状部材を直立垂下させ、筒状部材の下端部を主インク収容室(4)の下壁から離間配置したことを特徴とするインクジェット記録装置のインク供給装置。
【請求項5】 請求項1記載のものにおいて、副インク収容室(6)の周壁が多孔質部材(9)の被覆部材にて構成されていることを特徴とするインクジェット記録装置のインク供給装置。
【請求項6】 請求項1記載のものにおいて、主インク収容室(4)と副インク収容室(6)との間の連通路(7)の主インク収容室(4)側開口端位置が上記インクジェットヘッド(1)への連通路(5)から離間配置されていることを特徴とするインクジェット記録装置のインク供給装置。
【請求項7】 インクジェットヘッド(1)に連通接続されるインクタンク(2)を有し、このインクタンク(2)内に収容されたインク(3)をインクジェットヘッド(1)へ供給するようにしたインクジェット記録装置のインク供給装置において、
上記インクタンク(2)には、その下部に接続されたインクジェットヘッド(1)に連通路(5)を介して連通しインク(3)が収容される密封状態の主インク収容室(4)と、この主インク収容室(4)の下部空間に連通路(7)を介して連通し且つ上部側に大気連通口(8)が開設された副インク収容室(6)とを具備させ、
上記副インク収容室(6)内部に多孔質部材(9)を充填し、副インク収容室(6)の下面に上記多孔質部材(9)の下端部を接触配置すると共に、主インク収容室(4)内壁に複数のリブを突出形成したことを特徴とするインクジェット記録装置のインク供給装置。
【請求項8】 インクジェットヘッド(1)に連通接続されるインクタンク(2)を有し、このインクタンク(2)内に収容されたインク(3)をインクジェットヘッド(1)へ供給するようにしたインクジェット記録装置のインク供給装置において、
上記インクタンク(2)には、その下部に接続されたインクジェットヘッド(1)に連通路(5)を介して連通しインク(3)が収容される密封状態の主インク収容室(4)と、この主インク収容室(4)の下部空間に連通路(7)を介して連通し且つ上部側に大気連通口(8)が開設された副インク収容室(6)とを具備させ、
上記副インク収容室(6)内部に多孔質部材(9)を充填し、副インク収容室(6)の下面に上記多孔質部材(9)の下端部を接触配置すると共に、インクジェットヘッド(1)への連通路(5)部分にインク吸収体(10)を装填したことを特徴とするインクジェット記録装置のインク供給装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、インクジェットヘッドにインクを供給するインクジェット記録装置のインク供給装置に係り、特に、インク供給性能の安定化及び周囲環境変化による影響を抑えることを企図した新規なインク供給装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、インクジェット記録装置において用いられていたインク供給装置としては、インクジェットヘッドに連通接続されるインクタンク内部全域にスポンジ若しくは繊維状材料であるフェルト等のインク吸収体を装填し、このインク吸収体にインクを予め含浸保持させておき、インク吸収体内のインクをインクジェットヘッドへ供給するようにしたものが知られている。
しかしながら、このタイプにあっては、インク吸収体の毛細管力にてインクを保持するものであるため、インクタンクの内容積の約40%〜60%のインク量しか使用することができず、根本的に使用効率が低いばかりか、インクタンクの使用寿命を延ばそうとすると、必然的にインクタンクが大型化してしまい、小型化の要請に沿わないという技術的課題が生ずる。
また、インクが消費されるにつれてインク吸収体で保持すべきインク量が少なくなると、インク吸収体に含浸したインクに作用する負圧が増大し、その分、インクジェットヘッドへのインクの供給動作が妨げられ易くなってしまう。すると、インクジェットヘッドの印字ノズル部にてインクが供給されない状態でインクの吐出動作が行なわれる懸念があり、結果的に印字ノズル部より気泡が逆流し、画質欠陥につながり易いという技術的課題が生ずる。
【0003】
このような技術的課題を解決するインク供給装置としては、密封したインクタンク内にインクのみを充填し、このインクタンクを一端が大気に開放された毛細管に連通接続したものが既に提供されている(例えば、特表昭59-500609号,特開平1-148559号)。
このタイプによれば、インクタンク内のインクが消費されるにつれてインクタンク内の負圧レベルが増加すると、毛細管を通じて空気がインクタンク内に導入され、インクタンク内の負圧レベルは略一定に保たれ、インクタンク内のインクがインクジェットヘッドに安定供給される。
また、周囲環境が変化し、例えばインクタンク内の上方空間の空気が膨張したとすると、インクタンク内のインクは毛細管へ移動することになるため、インクジェットヘッドからインク洩れが生ずる事態は有効に阻止される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、密封したインクタンクに対してかなりの長さの毛細管を介して小室を連通接続したものであるため、毛細管を適宜屈曲させる等装置構成が複雑化してしまうばかりか、インクタンク内のインク消費に伴ってインクタンク内の負圧レベルが増加したとしても、毛細管内にゴミや乾燥したインクがつまると、毛細管からの気泡の導入がより不確実なものになってしまう。この結果、インクタンク内の負圧レベルが不安定になり易く、インクジェットヘッドへインクを安定供給することが難しいという技術的課題が生ずる。
【0005】
この発明は、以上の技術的課題を解決するために為されたものであって、装置構成の簡略化及び小型化という要請を満足させながら、インクの収容効率を高め、インクジェットヘッドへのインク供給性能の安定化を図ると共に、周囲環境変化による影響を確実に抑えることができるインクジェット記録装置のインク供給装置を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
すなわち、この発明の基本的構成は、図1に示すように、インクジェットヘッド1に連通接続されるインクタンク2を有し、このインクタンク2内に収容されたインク3をインクジェットヘッド1へ供給するようにしたインクジェット記録装置のインク供給装置において、上記インクタンク2には、その下部に接続されたインクジェットヘッド1に連通路5を介して連通しインク3が収容される密封状態の主インク収容室4と、この主インク収容室4の下部空間に連通路7を介して連通し且つ上部側に大気連通口8が開設された副インク収容室6とを具備させ、上記副インク収容室6内部に多孔質部材9を充填し、副インク収容室6の下面に上記多孔質部材9の下端部を接触配置することを特徴とする。
特に、本発明にあっては、主インク収容室4と副インク収容室6との間の連通路7よりも下方側にインクジェットヘッド1への連通路5を配置した態様が好ましい。
【0007】
このような技術的手段において、上記インクジェットヘッド1としては、インクタンク2に一体的に設けたものでもよいし、インクタンク2に対して着脱自在に取り付け得るものであってもよい。また、インクジェットヘッド1のインク吐出方式については、画像信号に応じた熱エネルギをインク3に与え、その気泡成長によってインク3を吐出させるようにしたもの、画像信号に応じた静電力によってインク3を吐出させるようにしたもの、ピエゾ素子によって画像信号に応じた振動をインク3に与えてインク3を吐出させるようにしたもの等適宜選定して差し支えない。尚、図1中、符号1aはインクジェットヘッド1のノズルを示す。更に、インクタンク2を形成する材料については耐インク性のものであれば適宜選定して差し支えないが、内部の残留インク3を目視確認するという観点からすれば、インクタンク2の全部若しくは一部を透明若しくは半透明部材で構成することが好ましい。
【0008】
また、副インク収容室6は連通路7を介して主インク収容室4の下部空間に連通していればよく、主インク収容室4及び副インク収容室6の形状、レイアウトは任意である。
この場合において、主インク収容室4及び副インク収容室6としては、一つのインクタンクケース内に設けるようにしてもよいし、複数のインクタンクケースに夫々分離して設けるようにしてもよい。ここで、一つのインクタンクケース内に両インク収容室4、6を設ける態様としては、インクタンク2内部空間を仕切部材にて仕切り、主インク収容室4と副インク収容室6を区画する(並列区画のみならず一方が他方を囲繞区画するものも含む)ようにしたり、あるいは、主インク収容室4の一部に副インク収容室6を直立区画形成するものが挙げられる。特に、後者のタイプにあっては、主インク収容室4の上壁から副インク収容室6区画用の筒状部材を直立垂下させ、筒状部材の下端部を主インク収容室の下壁から離間配置するようにしてもよいし、あるいは、インクタンク2側に多孔質部材9の保持部を設け、多孔質部材9の被覆部材で副インク収容室6の周壁を構成するようにしてもよい。
【0009】
また、上記連通路7としては、主インク収容室4と副インク収容室6との区画部材の下部に孔を開設したものでもよいし、また、主インク収容室4と副インク収容室6とが分離している場合連通接続部材で接続するようにしたものでもよい。
更に、インク3の収容効率を考慮すると、主インク収容室4の容積を可能な限り多く確保することが好ましいが、周囲環境変化に伴う主インク収容室4の内部上方の負圧空間の圧力変動分を考慮し、当該圧力変動分に伴う主インク収容室4内のインク3のあふれ量を副インク収容室6内の多孔質部材9で有効に吸収できるように設計することが必要である。
【0010】
また、多孔質部材9としては、毛細管現象が発生するような孔を多数有する部材であれば、複数の繊維を束ねた繊維束のようなものであってもよいし、繊維材料を二次元あるいは三次元構造のフェルト状に形成したり、連続気泡のスポンジ素材を用いる等適宜選定して差し支えない。
更に、多孔質部材9の下端部位置については副インク収容室6の下面まで延びていればよく、この場合には、多孔質部材9の下端部はインクタンク2内のインク3液面が最下部に達するまで浸漬した状態にあるため、インク3液面が最下部に達するまで多孔質部材9の毛細管部分に保持されたインク3が乾燥することはなく、主インク収容室4の負圧レベルは略一定に保たれる。
【0011】
また、多孔質部材9の気泡発生機能(後述する作用欄参照)により副インク収容室6から連通路7を通じて主インク収容室4内に気泡が入り込んでくるが、この気泡がインクジェットヘッド1側へ向かう事態を確実に回避するという観点からすれば、上記連通路7の主インク収容室4側開口端位置を上記インクジェットヘッド1への連通路5から離間配置するようにしたり、あるいは、上記連通路7の主インク収容室4側開口端位置とインクジェットヘッド1への連通路5との間に気泡ブロック部材を設けるようにすることが好ましい。
また、インクジェットヘッド1の走査時にはインクタンク2がインクジェットヘッド1と共に移動することになるので、インクタンク2内のインク3液面が振動し、気泡が生成されてしまう懸念があるが、この気泡の生成を有効に抑えるという観点からすれば、主インク収容室4内壁に複数のリブを突出形成し、インク3の振動を抑えるように設計することが好ましい。この場合において、複数のリブは上述した気泡ブロック部材としても機能し得る。
【0012】
また、インクジェットヘッド1への連通路5を通じてインクタンク2内に空気が混入したり、インクタンク2内のインクの振動に伴うインクジェットヘッド1からのインク洩れを有効に回避するという観点からすれば、インクジェットヘッド1への連通路5部分にインク吸収体10を装填するようにすることが好ましい。
【0013】
【作用】
上述したような技術的手段において、インク供給装置の使用開始時の状態としては、効率上の観点から主インク収容室4内にインク3を満杯とすることが好ましく、後述する毛細管現象で背圧を発生させるという観点から、副インク収容室6内の多孔質部材9の上部にインク3が充填されていない部分が存在するように、副インク収容室6内にはインク3を満杯付近(略満杯)とすることが好ましい。
このような状態において、インクジェットヘッド1の印字動作が行なわれると、インクタンク2内のインク3が消費されるが、このとき、副インク収容室6内のインク3が徐々に減少し、ついには、連通路7の近傍を残して空になる。
更に、インク3が消費されると、多孔質部材9中に多数存在する毛細管部に形成されたインク-空気界面から気泡状の空気が主インク収容室4に導入される。すると、主インク収容室4の内圧が上昇して所定のレベルに回復する。
また、周囲環境の変動によって、主インク収容室4上方の空気が膨張すると、インク3が主インク収容室4から副インク収容室6へと移動する。
このように、本発明では、インク3を保持し易い多孔質部材9中に常にインク-空気界面が形成されているため、多孔質部材9の毛細管部のインク3が乾燥し難い。このため、主インク収容室4の内圧の上昇、下降によるインク-空気界面の変動にかかわらず、主インク収容室4の内圧は安定的に維持される。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
◎実施の形態1
図2〜図4は実施の形態1に係るインクジェット記録装置のインク供給装置を示す。
同図において、インク供給装置はインクジェットヘッド20が連通接続されるインクタンク30を有している。
この実施の形態において、上記インクジェットヘッド20としては、例えば画像信号に応じた熱エネルギを各ノズル部内のインクに印加することにより生成される気泡にてインクを吐出させる方式のものが用いられる。
また、上記インクタンク30は耐インク性材料にて構成され、上方が開口したタンク本体31と、このタンク本体31の上部開口を塞ぐ蓋部材35とで構成されている。
【0015】
この実施の形態に係るタンク本体31は、ボックス状のアウタケース32の内部空間の一部に仕切壁33を立設し、この仕切壁33にて主インク収容室40及び副インク収容室50を区画したものである。
そして、主インク収容室40の下壁の一部には連通孔41が開設されると共に、この連通孔41にはインク供給管21を介してインクジェットヘッド20が一体的に連通接続されている。また、上記主インク収容室40の幅方向の両側壁には相手側側壁に向かって複数のリブ42が一体的に突設され、櫛歯状に相互に噛み合うように配列されている。
一方、上記蓋部材35はその周縁に上記タンク本体31に嵌合する突起部36を有し、また、副インク収容室50に対応した箇所には大気連通孔37を開設したものである。
更にまた、上記仕切壁33の下部には主インク収容室40と副インク収容室50とを連通する連通孔34が開設されている。
【0016】
また、この実施の形態において、上記副インク収容室50には多孔質部材60が充填されており、この多孔質部材60は、マーキングペンの芯材のようなものであり、例えば熱融着ポリエステル繊維をバインダとし、通常ポリエステル繊維とミックスし、所定の大きさに束ね融着したもので、多数の毛細管部を有する。
尚、ポリプロピレン、アクリル、ナイロン繊維等とミックスさせたものでもよく、繊維の材料は使用するインクとの相性に合わせて適宜選定すればよい。
より具体的に述べると、上記多孔質部材60は、副インク収容室50の上部に僅かな空間を残し、副インク収容室50の周壁に密接した状態で充填されており、副インク収容室50の下端部に接触配置されている。従って、多孔質部材60と副インク収容室50の周壁との間には空気流通路が形成されず、主インク収容室40は多孔質部材60の毛細管部を通じてのみ大気圧領域に通じている。
また、副インク収容室50の容積は温度、気圧等の環境条件によって適宜選択されるが、多孔質部材60の実質使用効率(=保水率×使用効率)を約60%とすれば、主インク収容室40の容積の約50%程度あればよい。
【0017】
更に、この実施の形態においては、上記インクジェットヘッド20に通ずる連通孔41の主インク収容室40側には塵埃除去フィルタ70が超音波融着若しくは熱融着にて接着されている。
この塵埃除去フィルタ70は濾過粒度が5μm〜50μm程度となるようなメッシュ若しくは細孔を持ったもので、具体的には、SUSメッシュ若しくはSUSの細線をフェルト状にし、更に圧縮焼結させたものを基材としたものである。
【0018】
次に、この実施の形態に係るインク供給装置の性能を評価する。
先ず、インクジェットヘッドの印字動作が行なわれた際の印字品質を調べたところ、インク25が完全に消費されるまで、かすれ等の印字不良は全く見られず、極めて良好なものが得られた。
この間のインクタンク30の主インク収容室40の内圧を調べたところ、略一定に保たれていることが確認された。
更に、この実施の形態では、塵埃除去フィルタ70によってインクジェットヘッド20側にインク25内の塵埃(多孔質部材60の繊維等)が浸入することは有効に防止されることが確認された。
更にまた、主インク収容室40に形成された複数のリブ42は、インクジェットヘッド20走査時においてインク25が振動する事態を抑えるため、インク25表面での振動に伴う気泡の発生は有効に阻止される。しかも、上記リブ42は多孔質部材60側から浸入する気泡がインクジェットヘッド20側へ向かう現象をも抑えるものである。
【0019】
◎実施の形態2
図5〜図7は実施の形態2に係るインク供給装置を示す。
同図において、インク供給装置は、実施の形態1と同様に、インクジェットヘッド20がインク供給管21を介して連通接続されるインクタンク30を有し、このインクタンク30をタンク本体31と蓋部材35とに分離形成したものであるが、インクタンク30の構成が実施の形態1と異なっている。尚、実施の形態1と同様な構成要素については同様な符号を付してここではその詳細な説明を省略する。
すなわち、この実施の形態に係るインクタンク30のタンク本体31はボックス状の主インク収容室40のみを有するものであり、一方、蓋部材35の大気連通孔37に面した部位には例えば円筒状パイプ38が一体的に直立垂下形成されており、その円筒状パイプ38の下端は主インク収容室40の下壁から離間配置されている。この実施の形態では、上記円筒状パイプ38が副インク収容室50を区画し、円筒状パイプ38と主インク収容室40の下壁との間の隙間39が副インク収容室50と主インク収容室40との連通路として機能するようになっている。そして、多孔質部材60が上記円筒状パイプ38内に周囲が密接するように充填され、多孔質部材60の下端部が主インク収容室40の下壁に接触配置されている。
また、上記主インク収容室40の下壁の一部には凹部43が下方に向かって膨出形成されており、この凹部43の底部にインクジェットヘッド20への連通孔41が開設されると共に、塵埃除去フィルタ70が設けられ、更に、塵埃除去フィルタ70の上にはインク吸収体80(この実施の形態では多孔質部材60と同様な素材が用いられている)が凹部43に嵌合した状態で装着されている。
更に、この実施の形態では、図7に示すように、タンク本体31が透明若しくは半透明部材にて形成され、そのアウタケース32の一部にインク残量に対応した目盛90が付されている。
【0020】
従って、この実施の形態に係るインク供給装置にあっては、蓋部材35側の円筒状パイプ38に多孔質部材60を充填した後、タンク本体31の上部開口を蓋部材35で塞ぐようにすれば、インク供給装置が構成される。
この後、インク供給装置にインク25を初期充填すれば、実施の形態1と略同様な作用を奏する。
また、この実施の形態においては、インクジェットヘッド20への連通孔41部分にインク吸収体80を装備しているため、以下のような効果を奏する。
すなわち、第一に、インクタンク30を傾けたような場合であっても、インク吸収体80はインク25が浸透した状態を維持するので、主インク収容室40の負圧空間空気層とインクジェットヘッド20との間に空気流通路が確保されることはない。従って、振動、衝撃力が加わっても簡単にインクジェットヘッド20のノズルからインクタンク30内に空気が混入することはない。言い換えれば、インク吸収体80が液体シールの働きをする。
第二に、何らかの外的作用により、インク25液面に振動が発生したような場合においても、インクジェットヘッド20のノズル部内のインクに作用する圧力は上記インク吸収体80を介して作用するため、圧力緩衝材の働きによりインク25の振動は減衰し、ノズルのメニスカスによるインク保持力を崩すことはなく、インクがノズルから洩れることは有効に回避される。
【0021】
◎変形形態
図8は実施の形態2の変形形態を示すものであり、インクタンク30のタンク本体31及び蓋部材35の一部に多孔質部材60の保持部65を設け、一方、多孔質部材60の周囲を下端部60aのみを除いて非インク浸透性の被覆部材61で被覆し、この被覆部材61にて被覆した多孔質部材60をインクタンク30の保持部65に保持させるようにしてもよい。
この場合には、上記多孔質部材60の被覆部材61が副インク収容室50の周囲区画部材として機能する。
【0022】
【発明の効果】
以上説明してきたように、請求項1記載の発明によれば、以下の基本的効果を奏する。
すなわち、第一に、インクタンク内の主インク収容室にはインクのみが充填され、副インク収容室の多孔質部材にはインクが浸透保持されることから、主インク収容室及び副インク収容室のいずれもがインク収容部として機能し得ることになり、その分、インクタンクに対するインクの収容効率を向上させることができる。
第二に、インクの消費に伴って主インク収容室の負圧空間の圧力が低減しようとすると、副インク収容室内に充填された多孔質部材は、その毛細管部分を通じて気泡を主インク収容室側へ導入し、主インク収容室の負圧空間の圧力を略一定に維持するように働くので、インクジェットヘッドに供給されるインク圧力を常時一定に保つことが可能になり、その分、インクの供給性能を安定させることができる。
第三に、周囲環境が変化し、主インク収容室の負圧空間の空気が膨張したとすると、負圧空間の圧力増加に伴ってインク押し出し力が作用することになるが、副インク収容室内の多孔質部材がインクを適宜浸透させ、主インク収容室内のインクを一時的に副インク収容室側へ退避させることになるので、主インク収容室の負圧空間の容積増加によって負圧空間の圧力が安定レベルに復帰させることが可能になり、その分、インクジェットヘッド側からのインク洩れを確実に回避することができる。
第四に、インクタンクに主インク収容室と副インク収容室とを具備させ、副インク収容室側に多孔質部材を充填させるという構成なので、構成そのものが不必要に複雑化し、装置自体が大型化するという懸念はない。
【0023】
特に、請求項1に係る発明によれば、多孔質部材の下端部を副インク収容室の下端部に接触配置しているため、インク液面が略最下部に達するまで多孔質部材がインクに浸漬した状態を維持することが可能になり、上述した多孔質部材による気泡導入機能及びインク退避機能をインクが完全に消費されるまで確実に発揮することができる。
【0024】
更に、請求項2記載の発明によれば、多孔質部材を繊維束で構成するようにしたので、多孔質部材の構成の簡略化を図ることができるばかりか、多孔質部材の体積調整を容易に行なうことができる。
【0025】
更にまた、請求項3記載の発明によれば、インクタンクの内部に適宜仕切部材を設けることにより、主インク収容室と副インク収容室とを区画するようにしたので、主インク収容室及び副インク収容室を極めて簡単に確保することができる。
また、請求項4記載の発明によれば、主インク収容室の上壁から副インク収容室の区画用の筒状部材を直立垂下させ、筒状部材の下端部を主インク収容室の下壁から離間配置するようにしたので、例えばインクタンクをタンク本体と蓋部材とに分離して形成し、上記蓋部材に上記筒状部材を一体的に形成するようにすれば、筒状部材に多孔質部材が充填された蓋部材にてタンク本体を閉じることによりインク供給装置を容易に構成することができる。
そしてまた、請求項5記載の発明によれば、副インク収容室の周壁を多孔質部材の被覆部材にて構成するようにしたので、インクタンク側に副インク収容室の周壁区画部材を設ける必要がなくなり、その分、インクタンクの構成を簡略化することができる。
【0026】
また、請求項6記載の発明によれば、主インク収容室と副インク収容室との間の連通路の主インク収容室側開口端位置をインクジェットヘッドへの連通路から離間配置するようにしたので、多孔質部材からインク内に気泡が浸入したとしても、当該気泡がインクジェットヘッド側へ向かって印字不良の原因になる事態を確実に回避することができる。
そしてまた、請求項7記載の発明によれば、主インク収容室内壁に複数のリブを突出形成するようにしたので、インクジェットヘッドの走査時においてインクが不必要に振動し、気泡が発生する事態を有効に回避することができるほか、多孔質部材から浸入する気泡がインクジェットヘッド側へ向かう事態をも有効に阻止することができる。
【0027】
また、請求項8記載の発明によれば、インクジェットヘッドへの連通路部分にインク吸収体を装填したので、インク吸収体の液体シール作用により、振動、衝撃力が加わっても、インクジェットヘッドのノズルからインクタンク内に空気が混入する事態を有効に回避することができ、また、インク吸収体の圧力緩衝作用により、インクタンク内のインクの振動を減衰させ、ノズルのメニスカスによるインク保持力を崩すことはなく、インクがノズルから洩れる事態を有効に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明に係るインクジェット記録装置のインク供給装置の構成を示す説明図である。
【図2】 実施の形態1に係るインクジェット記録装置のインク供給装置の概要を示す斜視図である。
【図3】 図2中III-III線断面図である。
【図4】 図3中IV-IV線断面図である。
【図5】 実施の形態2に係るインクジェット記録装置のインク供給装置の図3と同様な断面図である。
【図6】 図5中VI-VI線断面図である。
【図7】 図5中VII方向から見た矢視図である。
【図8】 実施の形態2の変形形態に係るインクジェット記録装置のインク供給装置の図5と同様な断面図である。
【符号の説明】
1…インクジェットヘッド,1a…ノズル,2…インクタンク,3…インク,4…主インク収容室,5…連通路,6…副インク収容室,7…連通路,8…大気連通口,9…多孔質部材,10…インク吸収体
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-01-31 
出願番号 特願2001-218636(P2001-218636)
審決分類 P 1 652・ 161- YA (B41J)
P 1 652・ 534- YA (B41J)
P 1 652・ 121- YA (B41J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 江成 克己高松 大治  
特許庁審判長 小沢 和英
特許庁審判官 清水 康司
谷山 稔男
登録日 2002-04-19 
登録番号 特許第3298588号(P3298588)
権利者 富士ゼロックス株式会社
発明の名称 インクジェット記録装置のインク供給装置  
代理人 小泉 雅裕  
代理人 成瀬 勝夫  
代理人 中村 智廣  
代理人 小泉 雅裕  
代理人 成瀬 勝夫  
代理人 中村 智廣  

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