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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  F23Q
審判 全部申し立て 2項進歩性  F23Q
審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  F23Q
管理番号 1114667
異議申立番号 異議2003-72755  
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-05-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-11-12 
確定日 2005-03-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第3404827号「セラミックヒータ」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3404827号の請求項1ないし5に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3404827号の請求項1ないし5に係る発明についての出願は、平成5年10月20日に特許出願され、平成15年3月7日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、平成15年11月12日付けでその特許について、異議申立人日本特殊陶業株式会社、異議申立人木村昭子より特許異議の申立がなされ、そして、平成16年5月19日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成16年7月26日に訂正請求がなされ、平成16年8月11日付けで訂正拒絶理由が通知され、これに対して平成16年10月7日に意見書が提出されたものである。

2.異議申立て理由の概要
2-1 異議申立人日本特殊陶業株式会社の申立の理由概要
本件に係る出願の出願前に頒布された刊行物に記載された発明を立証するために、甲第1号証として、「実願平3-85851号(実開平5-31191号)のCD-ROM」を提出して、本件請求項1、2、4、5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明であり、あるいは特許法第29条第2項に規定する発明であるとすると共に、本件に係る出願の出願前に出願され、本件に係る出願の出願後に出願公開された特許出願(特願平5-244401号)の願書に最初に添付された明細書及び図面に記載された発明を立証するために、甲第2号証として、「特開平7-98121号公報」を提出して、本件請求項1、2に係る発明は、特願平5-244401号の願書に最初に添付された明細書及び図面に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるとして、本件請求項1、2、4、5に係る発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものである旨主張している。

2-2 異議申立人木村昭子の申立の理由概要
本件に係る出願の出願前に出願され、本件に係る出願の出願後に出願公開された特許出願(特願平5-244401号、特願平6-160884号の優先権の主張の基礎とされた先の出願の特願平5-233075号)の願書に最初に添付された明細書及び図面に記載された発明を立証するために、甲第1号証として、「特開平7-98121号公報」、甲第2号証の1として「特開平7-139737号公報」、甲第2号証の2として、「特願平5-233075号の明細書および図面」を提出して、本件請求項1、2、4、5に係る発明は、特願平5-244401号の願書に最初に添付された明細書及び図面に記載された発明と同一であり、本件請求項1、2、3に係る発明は、特願平6-160884号の優先権の主張の基礎とされた先の出願の特願平5-233075号の願書に最初に添付された明細書及び図面に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるとすると共に、
本件に係る出願の出願前に頒布された刊行物に記載された発明を立証するために、 甲第3号証として、「特開昭62-44975号公報」を提出すると共に、甲第4号証として「特開昭61-193393号公報」を提出して、本件請求項1、2、3に係る発明は、甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してなされたものである旨主張している。
さらに、本件特許は、請求項1に係る発明について「抵抗値を制御するための具体的な方法が、記載されていない」、及び請求項2に係る発明について「実施例として具体的な断面積、抵抗値、発熱量などのデータが一切示されていない。」という記載不備があり明細書の記載が特許法第36条の要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものである旨主張している。

3.特許権者の求めている訂正
特許権者が求めている訂正は、平成16年7月26日付け訂正請求書、及び当該訂正請求書に添付された訂正明細書の記載により、以下のとおりのものであると認められる。
(1)訂正事項A
特許明細書中に記載された特許請求の範囲の記載である
「【請求項1】 絶縁性セラミックから成る絶縁性セラミック体と、該絶縁性セラミック体中に埋設され、しかも電圧印加によって発熱する導電性セラミックからなる発熱体と、前記絶縁性セラミック体中に埋設され、上記発熱体に電気的に接続された高融点金属線からなる電極とから構成されたセラミックヒータにおいて、
前記発熱体と前記電極との接合部分である発熱体側接合部の前記発熱体の単位長さ当たりの抵抗値を、前記発熱体の発熱部の単位当たりの抵抗値よりも小さくしたことを特徴とするセラミックヒータ。
【請求項2】 絶縁性セラミックから成る絶縁性セラミック体と、該セラミック体中に埋設され、しかも電圧印加によって発熱する導電性セラミックからなる発熱体と、前記絶縁性セラミック体中に埋設され、上記発熱体に電気的に接続された高融点金属線からなる電極とから構成されたセラミックヒータにおいて、
前記発熱体と前記電極との接合部分である発熱体側接合部の前記発熱体の断面積を、前記発熱体の発熱部の断面積よりも大きくしたことを特徴とするセラミックヒータ。
【請求項3】 絶縁性セラミックから成る絶縁性セラミック体と、該セラミック体中に埋設され、しかも電圧印加によって発熱する導電性セラミックからなる発熱体と、前記絶縁性セラミック体中に埋設され、上記発熱体に電気的に接続された高融点金属線からなる電極とから構成されたセラミックヒータにおいて、
前記発熱体が、少なくとも2本以上の並列に配置された抵抗体からなり、しかも前記発熱体と前記電極との接合部分である発熱体側接合部の前記発熱体の単位長さ当たりの抵抗値を、前記発熱体の発熱部の単位当たりの抵抗値よりも小さくしたことを特徴とするセラミックヒータ。
【請求項4】 前記発熱体接合部の軸方向長さLは、1mm以上であることを特徴とする請求項1乃至3の少なくとも1項記載のセラミックヒータ。
【請求項5】 前記発熱体接合部の軸方向長さLは、2mm以上であることを特徴とする請求項1乃至3の少なくとも1項記載のセラミックヒータ。」
を、
「【請求項1】 絶縁性セラミックから成る絶縁性セラミック体と、該絶縁性セラミック体中に埋設され、しかも電圧印加によって発熱する導電性セラミックからなる発熱体と、前記絶縁性セラミック体中に埋設され、一端のみが上記発熱体に埋設されることで電気的に接続された高融点金属線からなる電極とから構成されたセラミックヒータにおいて、前記発熱体と前記電極との接合部分である発熱体側接合部の前記発熱体の単位長さ当たりの抵抗値を、前記発熱体の発熱部の単位長さ当たりの抵抗値よりも小さくし、かつ、前記発熱体側接合部の軸方向長さLは1mm以上であることを特徴とするセラミックヒータ。
【請求項2】 絶縁性セラミックから成る絶縁性セラミック体と、該セラミック体中に埋設され、しかも電圧印加によって発熱する導電性セラミックからなる発熱体と、前記絶縁性セラミック体中に埋設され、一端のみが上記発熱体に埋設されることで電気的に接続された高融点金属線からなる電極とから構成されたセラミックヒータにおいて、前記発熱体と前記電極との接合部分である発熱体側接合部の前記発熱体の断面積を、前記発熱体の発熱部の断面積よりも大きくし、かつ、前記発熱体側接合部の軸方向長さLは1mm以上であることを特徴とするセラミックヒータ。
【請求項3】 前記発熱体側接合部の軸方向長さLは、2mm以上であることを特徴とする請求項1乃至2の少なくとも1項記載のセラミックヒータ。」と訂正する。
前記訂正事項Aは、具体的には次のA-1ないしA-3を訂正するものである。
訂正事項A-1
特許請求の範囲の請求項1、2に記載の「発熱体に電気的に接続された高融点金属線からなる電極」を「一端のみが上記発熱体に埋設されることで電気的に接続された高融点金属線からなる電極」と訂正する。
訂正事項A-2
特許請求の範囲の請求項1に記載の「発熱体側接合部の前記発熱体の単位長さ当たりの抵抗値を、前記発熱体の発熱部の単位当たりの抵抗値よりも小さくしたこと」を「発熱体側接合部の前記発熱体の単位長さ当たりの抵抗値を、前記発熱体の発熱部の単位長さ当たりの抵抗値よりも小さくし、かつ、前記発熱体側接合部の軸方向長さLは1mm以上であること」と訂正する。
訂正事項A-3
特許請求の範囲の請求項3、4を削除し、請求項5を繰り上げて、「前記発熱体接合部」を「前記発熱体側接合部」、「請求項1乃至3の少なくとも1項」を「請求項1乃至2の少なくとも1項」と訂正して新たに請求項3とする。

(2)訂正事項B
段落【0004】、【0005】の「前記絶縁性セラミック体中に埋設され、上記発熱体に電気的に接続された高融点金属線からなる電極」を「前記絶縁性セラミック体中に埋設され、一端のみが上記発熱体に埋設されることで電気的に接続された高融点金属線からなる電極」と訂正する。

(3)訂正事項C
段落【0004】の「前記発熱体と前記電極との接合部分である発熱体側接合部の前記発熱体の単位長さ当たりの抵抗値を、前記発熱体の発熱部の単位当たりの抵抗値よりも小さくした」を「前記発熱体と前記電極との接合部分である発熱体側接合部の前記発熱体の単位長さ当たりの抵抗値を、前記発熱体の発熱部の単位長さ当たりの抵抗値よりも小さくし、かつ、前記発熱体側接合部の軸方向長さLは1mm以上であることを特徴とする」と訂正する。

(4)訂正事項D
段落【0005】の「前記発熱体と前記電極との接合部分である発熱体側接合部の前記発熱体の断面積を、前記発熱体の発熱部の断面積よりも大きくした」を「前記発熱体と前記電極との接合部分である発熱体側接合部の前記発熱体の断面積を、前記発熱体の発熱部の断面積よりも大きくし、かつ、前記発熱体側接合部の軸方向長さLは1mm以上であることを特徴とする」と訂正する。

(5)訂正事項E
段落【0006】、【0009】、【0023】〜【0028】及び図5を削除する。

(6)訂正事項F
段落【0007】、【0010】の「前記発熱耐接合部」を「前記発熱体側接合部」と訂正する。

(7)訂正事項G
【符号の説明】の「11a発熱体接合部」を「11a発熱体側接合部」と訂正する。

(8)訂正事項H
【符号の説明】の「13a,14a電極の一端」を「13a,14a電極の他端」と訂正する。


4.訂正の適否の判断
4-1 平成16年8月11日付けの訂正拒絶理由の概要
訂正拒絶理由の概要は、上記訂正事項A-1の、特許請求の範囲の請求項1、2に記載の「発熱体に電気的に接続された高融点金属線からなる電極」を「一端のみが上記発熱体に埋設されることで電気的に接続された高融点金属線からなる電極」について検討した次のようなものである。

特許権者は、訂正請求書の「(4)請求の原因」において、図1の記載から自明な事項を特許請求の範囲請求項1,2に追加するものであるとし、発熱体に埋設される電極とは端部の外周面が発熱体に覆われている電極をいうと主張している。そして、図面の簡単な説明において図1は断面図であることが明記されていること、及び図1において発熱体11及び電極13,14にハッチングが付されており、それぞれの断面が描かれていることが明らかであるとし、電極端部の外周面が発熱体に覆われていることは自明であると主張し、さらには、段落【0003】に、「上記の如き構造のセラミックヒータは、近年のエンジンの高出力化に伴い、高い温度にまで発熱できるセラミックヒータが、必要とされてきているのであるが、発熱体と電極との接合部で、発熱体側にクラックを発生することがあるために、更に、耐久性を向上させる必要が有る。」と埋設されている構成における特有の課題を記載していることからも、上記訂正事項は特許明細書の記載から自明である旨を主張している。
しかし、明細書において図1は断面図であるとの記載があるが、図1の断面図からは、例えば、電極端部の外周面の全部が覆われているものではなく参考図に例示した一部を欠く発熱体のようなものも想定されるように発熱体と電極の接続構造については種々の態様が想定されるので、図1の断面図は必ずしも発熱体に埋設される電極だけを示すものではない。また、段落【0003】の発熱体のクラックについても、高温となるセラミックからなる発熱体と高融点金属線電極を接続するものであれば、セラミックからなる発熱体にクラックが生じるものであって、埋設することだけで生じるものではないと考えられる。
よって、特許権者の前記主張は採用できない。
したがって、上記訂正の「一端のみが上記発熱体に埋設されることで電気的に接続された高融点金属線からなる電極」については、特許明細書及び図面に記載されておらず、かつこれらから、自明な事項でもないから、新規事項の追加に該当する。

以上のとおりであるから、上記訂正は特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。

4-2 判断
本件特許明細書には、「電気的に接続された」(請求項1、2、3、段落【0004】、【0005】、【0006】)又は「電気的に結合され」(段落【0013】、【0025】)と記載されているのみであり、電気的に接続、結合するために「埋設される」ことは記載も示唆もない。
さらに、本件特許明細書に添付された図面についてみると、図1は第1実施例の断面図であり、発熱体11及び電極13、14にハッチングが付されていることが記載されており、図5(ア)は、第2実施例を説明するための断面図、図5(イ)はA-A断面を説明するための断面図、図5(ウ)はB-B断面を説明するための断面図であるが、本件特許明細書に添付された図5には、発熱体111、112及び電極13、14にハッチングが付されていることが記載されている。
一般的にはハッチングは断面を示すものではあるが、図5(ア)においてハッチングの付された発熱体112が、図5(ア)上では発熱体の断面が記載されているものではないことは図5(イ)、(ウ)の記載からみても明らかであるように、発熱体112をハッチングで記載しているのは各部材を区別するためというべきものであり、本件特許明細書に添付された図面においては、ハッチングによる記載が必ず断面を示すものとすることはできない。したがって、図1においても発熱体及び電極にハッチングが記載されているからといってこれが直ちに断面を示しているものと解することはできない。
このことは、本件特許に係る出願の願書に最初に添付した明細書及び図面において、図6には、本件特許明細書に添付された図面の図1記載のセラミックヒータの発熱体を複数並列配置したものに相当するセラミックヒータが、発熱体(11-、11-2、11-3)及び電極13、14にハッチングが付されて記載されているが、その説明としては、「図6に記したセラミックヒータ2は、窒化珪素を主成分にした絶縁性セラミック体12のグリーンシートを作製し、そのうえに発熱体11を構成する印刷パターンを形成し、さらに前記のグリーンシートに耐熱金属製のタングステンからなる電極13、14を配して、前記のグリーンシートを適当量積層したのちに、ホットプレスにて加圧焼成して作製された。」(段落【0014】)と、電極が発熱体に埋設されるようなものではない一般的な製法が記載されていることからも裏付けられるものである。
また、特許権者は、訂正拒絶理由通知に対する意見書において、図1はJISに則って「基本的な形状を最もよく表すように切断面を決めて描」いた図面である旨を主張し、さらに「埋設」とは電極端部の外周面の全部が覆われているものに限定されない、すなわち、一部を欠く発熱体も「埋設」に該当する旨を主張している。
しかし、一部を欠く発熱体は「埋設」であるとは言えないし、例え「埋設」であるとしても、外周面の全部を覆う構造及び一部を欠く構造という自明でない特別な構造を表す図面としては、図1では、特許権者が主張するところのJISに則って「基本的な形状を最もよく表すように切断面を決めて描」いたものであるとすることはできず、図5(イ)に相当する断面図(同意見書に添付された参考図1の横断面図)が基本的な形状を最もよく表すように切断面であるから、このような異なる面での複数の断面図で表現されているならばともかくも、図5(イ)に相当する断面図を欠いている本件特許明細書に添付された図面からは図1の断面図において、前述のように、ハッチングが記載されているからといってこれが直ちに断面を示しているものと解することはできず、又、発熱体及び電極との位置関係において切断面がどこであるかも特定できない以上、特許権者の主張は採用することができず、本件特許明細書又は図面には、電極が発熱体に埋設される点は記載されていないものと言わざるを得ない。

したがって、上記訂正の「一端のみが上記発熱体に埋設されることで電気的に接続された高融点金属線からなる電極」については、特許明細書及び図面に記載されておらず、かつこれらから、自明な事項でもないから、新規事項の追加に該当するので、この訂正は、特許明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものとは認められない。

4-3 むすび
以上説示のとおり、当該訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。


5 特許異議申立に対する判断
5-1 特許請求の範囲の記載
4.に述べたとおり、特許権者が請求した訂正は認められないので、本件特許に係る発明を特定する本件特許請求の範囲の記載は以下のとおりのものである。
【請求項1】 絶縁性セラミックから成る絶縁性セラミック体と、該絶縁性セラミック体中に埋設され、しかも電圧印加によって発熱する導電性セラミックからなる発熱体と、前記絶縁性セラミック体中に埋設され、上記発熱体に電気的に接続された高融点金属線からなる電極とから構成されたセラミックヒータにおいて、
前記発熱体と前記電極との接合部分である発熱体側接合部の前記発熱体の単位長さ当たりの抵抗値を、前記発熱体の発熱部の単位長さ当たりの抵抗値よりも小さくしたことを特徴とするセラミックヒータ。
【請求項2】 絶縁性セラミックから成る絶縁性セラミック体と、該セラミック体中に埋設され、しかも電圧印加によって発熱する導電性セラミックからなる発熱体と、前記絶縁性セラミック体中に埋設され、上記発熱体に電気的に接続された高融点金属線からなる電極とから構成されたセラミックヒータにおいて、
前記発熱体と前記電極との接合部分である発熱体側接合部の前記発熱体の断面積を、前記発熱体の発熱部の断面積よりも大きくしたことを特徴とするセラミックヒータ。
【請求項3】 絶縁性セラミックから成る絶縁性セラミック体と、該セラミック体中に埋設され、しかも電圧印加によって発熱する導電性セラミックからなる発熱体と、前記絶縁性セラミック体中に埋設され、上記発熱体に電気的に接続された高融点金属線からなる電極とから構成されたセラミックヒータにおいて、
前記発熱体が、少なくとも2本以上の並列に配置された抵抗体からなり、しかも前記発熱体と前記電極との接合部分である発熱体側接合部の前記発熱体の単位長さ当たりの抵抗値を、前記発熱体の発熱部の単位長さ当たりの抵抗値よりも小さくしたことを特徴とするセラミックヒータ。
【請求項4】 前記発熱体側接合部の軸方向長さLは、1mm以上であることを特徴とする請求項1乃至3の少なくとも1項記載のセラミックヒータ。
【請求項5】 前記発熱体側接合部の軸方向長さLは、2mm以上であることを特徴とする請求項1乃至3の少なくとも1項記載のセラミックヒータ。

なお、請求項1、3に「前記発熱体の発熱部の単位当たりの抵抗値」と記載されているが、これ以前には比較するものは「単位長さ当たり抵抗値」と記載されているので、「単位当たり抵抗値」は「単位長さ当たり抵抗値」の誤記と認め、また、請求項4、5に「前記発熱体接合部」と記載されているが、請求項4、5が引用する請求項1乃至3にこれに該当するものは「発熱体側接合部」のみであるから、「発熱体接合部」は「発熱体側接合部」の誤記と認め、本件特許請求の範囲を上記のように認定した。

5-2 取消理由概要
これに対して、取消理由の概要は以下のとおりである。
5-2-1 取消理由1
本件請求項1、2、4、5に係る発明とは別異の発明者が発明をし、本件出願人とは別異の出願人が本件出願前に出願し、本件出願後に出願公開された、特願平5-244401号(特開平7-98121号)の出願の願書の最初に添付された明細書または図面(以下、「先願明細書等1」という。)に記載された発明と本件請求項1、2、4、5に係る発明とは同一の発明であるから、本件請求項1、2、4、5に係る発明に対する特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものである。
また、本件請求項1、2、3に係る発明とは別異の発明者が発明をし、本件出願人とは別異の出願人が本件出願前に出願し、本件出願後に出願公開された、特願平6-160884号(特開平7-139737号)の優先権の主張の基礎とされた先の出願の特願平5-233075号の出願の願書の最初に添付された明細書または図面(以下、「先願明細書等2」という。)に記載された発明と本件請求項1、2、3に係る発明とは同一の発明であるから、本件請求項1、2、3に係る発明に対する特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものである。

5-2-2 取消理由2
本件請求項1ないし5に係る発明は、その出願前に頒布された次の刊行物に記載された発明に及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、本件請求項1ないし5に係る発明に対する特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

引用文献1 特開平1-317170号公報
引用文献2 実願昭63-98603号(実開平2-20293号)のマイクロフィルム
引用文献3 実願平3-85851号(実開平5-31191号)のCD-ROM(異議申立人日本特殊陶業株式会社が提出した甲第1号証の刊行物)
なお、発熱体を少なくとも2本以上の並列に配置された抵抗体で構成することは、本件特許に係る出願の時点において周知の事項(特開平2-75188号公報、特開平2-78174号公報、特開昭61-195580号公報、実願昭61-81035号(実開昭62-198358号)のマイクロフィルム参照)であり、また、発熱体接合部の軸方向長さLを、1mm以上、あるいは2mm以上とすることは引用文献2、3の図面等において示唆されており、この程度の長さにすることは当業者が適宜設定する設計的事項である。

5-2-3 取消理由3
本件明細書の記載は下記の点で不備であると認められるから、本件請求項3ないし5に係る発明に対する特許は、特許法第36条第4項、5項及び第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

A 本件請求項4、5に、「 前記発熱体接合部・・・請求項1乃至3の少なくとも1項」請求項1乃至3を引用して記載されているが、請求項1乃至3には「発熱体接合部」の記載はなく、「発熱体側接合部」と記載されているが用語が相違しているため、構成が不明確である。
B 段落【0025】の「発熱体接続部11a」と、請求項4、5の「発熱体接合部」と、図面の簡単な説明の欄の【符号の説明】の「発熱体接合部11a」と、「発熱体側接合部」の関係が不明確である。(同一のものか否かも不明確である。)
C 請求項3に係る発明は発明の詳細な説明に記載されていないものであり、特許法第36条第4項(「第5項」の誤記)第1号の規定する要件を満たしていない。
請求項3の「前記発熱体が、少なくとも2本以上の並列に配置された抵抗体からなり、しかも前記発熱体と前記電極との接合部分である発熱体側接合部の前記発熱体の単位長さ当たりの抵抗値を、前記発熱体の発熱部の単位当たりの抵抗値よりも小さくした」の記載によれば、「発熱体の単位長さ当たりの抵抗値」を小さくするものであるが、請求項3に一応対応すると推定される第2実施例(【図5】)には、発熱体接続部11aを構成する3mm以上の長さである、電極でもなく、導電性セラミックからなる発熱体でもない、材料不明の別部材である発熱部接続体114,115を発熱体と共に電極に電気的に結合したことが記載されているものの、発熱部接続体114,115は、発熱体の一部をなすものではないので、これを付加しても発熱体の単位長さ当たりの抵抗値自体は何ら変化するものではない。この点において請求項3の記載と整合していない。
D 図面の記載は発明の構成を不明確にする。
図5(イ)の断面図によれば上下にある発熱部接続体114,115が接触しており、すなわち、電気的に短絡しており、発熱体は発熱できない。

なお、請求項1、3の「単位当たりの抵抗値」は、その直前に記載された「単位長さ当たりの抵抗値」の誤記ではないか。
また、「発熱耐接合部」(段落【0007】、【0010】)、「抵抗耐」(段落【0027】)は誤記ではないか。また、図面の簡単な説明の欄の【符号の説明】の「13a、14a 電極の一端」とあるが段落【0016】の記載によれば、13a、14aは電極の他端である。

5-3 取消理由についての判断
5-3-1 取消理由1について
5-3-1-1 特願平5-244401号の願書に最初に添付された明細書及び図面に記載された発明との対比判断
5-3-1-1-1特願平5-244401号の願書に最初に添付された明細書及び図面の記載

本件に係る出願の出願日(出願日 平成5年10月20日)の前に出願され、本件に係る出願の出願後に出願公開された特願平5-244401号(特開平7-98121号)(異議申立人日本特殊陶業株式会社の引用した甲第2号証、異議申立人木村昭子の引用した甲第1号証に係る出願)の願書に最初に添付された明細書及び図面(以下、「引用明細書等1」という。)には以下の記載がある。
「無機導電材から成る発熱抵抗体を電気絶縁性セラミック焼結体中に埋設したセラミック発熱体を発熱素子とするセラミックグロープラグにおいて、」(【請求項1】)、
「図1及び図2において、1は電気絶縁性セラミック焼結体2中に、略平行な2層の無機導電材から成る発熱抵抗体3と、発熱抵抗体3の各端部にそれぞれ接続した高融点金属の線材から成るリード部8、9と、リード部8、9にそれぞれ接続した無機導電材から成る複数個の層状の電極取り出し部10、11を埋設したセラミック発熱体4を、ろう材12にて固着した筒状金具13を介して取り付け金具14と電気的に接続したセラミックグロープラグである。」(段落【0012】)、
「更に、電気絶縁性セラミック焼結体2が、窒化珪素(Si3N4 )を主成分とする焼結体である場合には、前記発熱抵抗体3あるいは電極取り出し部10、11は、タングステンカーバイド(WC)を主成分とし、電気絶縁性セラミック焼結体2の主成分である窒化珪素(Si3N4 )粉末を添加混合したものが好ましい。」(段落【0019】)、
「一方、リード部8、9には、高融点金属であるタングステン(W)、モリブデン(Mo)、レニウム(Re)やその合金等があげられるが、とりわけタングステン(W)が好適である。」(段落【0021】)、
「次に、80重量%のタングステンカーバイド(WC)と20重量%の窒化珪素(Si3N4 )の各微粉末に溶媒を加えて調製したペーストを使用して、スクリーン印刷等の手法により設計抵抗値に基づき、実効発熱部に該当する長さを種々設定した略U字状のパターンで、かつ該実効発熱部の先端がセラミック焼結体の先端より5mm以内に位置するように、第1のセラミック成形体上面に厚さ約40μm の発熱抵抗体を形成した。但し、実効発熱部の長さは、1.5mm未満では集中発熱して発熱抵抗体が断線する恐れがあるため、1.5mm以上となるとように設定した。」( 段落【0023】)、
また、発熱抵抗体3とリード部8,9との接合部分を発熱体3の実効発熱部よりも幅広く形成してあることが図2に記載されている。そして、段落【0023】の記載は、発熱抵抗体3のうち実効発熱部において発熱することを示唆しており、すなわち、図2の発熱抵抗体3とリード部8,9との接合部分(本件請求項1、2に係る発明の発熱体側接合部に相当)を発熱抵抗体3の実効発熱部よりも幅広く形成することによって発熱し難くしている構成が開示されている。
これら記載及び図面の記載をみれば、引用明細書等1には、
「電気絶縁性セラミックから成る電気絶縁性セラミック焼結体2と、該電気絶縁性セラミック焼結体2中に埋設され、しかも電圧印加によって発熱する80重量%のタングステンカーバイトと20重量%の窒化珪素の各微粉末を使用したもの等の無機導電材から成る発熱抵抗体3と、前記電気絶縁性セラミック焼結体2中に埋設され、上記発熱抵抗体3に電気的に接続された高融点金属の線材から成るリード部8、9とから構成されたセラミックグロープラグにおいて、
前記発熱抵抗体3と前記リード部8、9との接合部分を、発熱抵抗体3の実効発熱部よりも幅広く形成したセラミックグロープラグ」 が記載されているものと認められる。(以下。「先願発明1」という。)

5-3-1-1-2 対比判断
5-3-1-1-2-1 本件請求項1について
本件請求項1に係る発明と先願発明1とを対比すると、先願発明1の「電気絶縁性セラミック焼結体2」、「80重量%のタングステンカーバイトと20重量%の窒化珪素の各微粉末を使用したもの等の無機導電材から成る発熱抵抗体3」、「高融点金属の線材から成るリード部8、9」、「発熱抵抗体3とリード部8、9との接合部分」は、本件請求項1に係る発明の「絶縁性セラミック体」、「導電性セラミックからなる発熱体」、「高融点金属線からなる電極」、「発熱体と電極との接合部分である発熱体側接合部」に相当し、先願発明1の「セラミックグロープラグ」は、ヒータの一種であるから、本件請求項1に係る発明の「セラミックヒータ」に相当するものと認められる。
また、発熱体の単位長さ当たりの抵抗値は幅が広い方がより抵抗値が小さいことは自明のことであるから、先願発明1の「前記発熱抵抗体3と前記リード部8、9との接合部分を、発熱抵抗体3の実効発熱部よりも幅広く形成した」ことは、本件請求項1に係る発明の「前記発熱体と前記電極との接合部分である発熱体側接合部の前記発熱体の単位長さ当たりの抵抗値を、前記発熱体の発熱部の単位長さ当たりの抵抗値よりも小さくした」ことに相当するものと認められる。しかも、その効果としては発熱抵抗体3のうち幅の狭い実効発熱部lが発熱し高温になることが記載されていることから、実効発熱部より幅広く形成した接合部分は温度が低くなることも明らかなことであり、本件請求項1に係る発明と同様な効果である。
してみると、両発明は、
絶縁性セラミックから成る絶縁性セラミック体と、該絶縁性セラミック体中に埋設され、しかも電圧印加によって発熱する導電性セラミックからなる発熱体と、前記絶縁性セラミック体中に埋設され、上記発熱体に電気的に接続された高融点金属線からなる電極とから構成されたセラミックヒータにおいて、
前記発熱体と前記電極との接合部分である発熱体側接合部の前記発熱体の単位長さ当たりの抵抗値を、前記発熱体の発熱部の単位長さ当たりの抵抗値よりも小さくしたセラミックヒータ。
の発明である点で一致し、格別な差異はなく、同一の発明である。
そして、両発明の発明者が同じではなく、さらに、本件特許に係る出願の時において、その出願人と引用明細書等1に係る出願の出願人とは同じではない。
したがって、本件請求項1に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

5-3-1-1-2-2 本件請求項2について
本件請求項2に係る発明と先願発明1とを対比すると、先願発明1の「電気絶縁性セラミック焼結体2」、「80重量%のタングステンカーバイトと20重量%の窒化珪素の各微粉末を使用したもの等の無機導電材から成る発熱抵抗体3」、「高融点金属の線材から成るリード部8、9」、「発熱抵抗体3とリード部8、9との接合部分」は、本件請求項2に係る発明の「絶縁性セラミック体」、「導電性セラミックからなる発熱体」、「高融点金属線からなる電極」、「発熱体と電極との接合部分である発熱体側接合部」に相当し、先願発明1の「セラミックグロープラグ」は、ヒータの一種であるから、本件請求項2に係る発明の「セラミックヒータ」に相当するものと認められる。
また、発熱体の断面積は幅が広い方が大きいことは自明のことであるから、先願発明1の「前記発熱抵抗体3と前記リード部8、9との接合部分を、発熱抵抗体3の実効発熱部よりも幅広く形成した」ことは、本件請求項2に係る発明の「前記発熱体と前記電極との接合部分である発熱体側接合部の前記発熱体の断面積を、前記発熱体の発熱部の断面積よりも大きくした」ことに相当するものと認められる。しかも、その効果としては発熱抵抗体3のうち幅の狭い実効発熱部lが発熱し高温になることが記載されていることから、実効発熱部より幅広く形成した接合部分は温度が低くなることも明らかなことであり、本件請求項2に係る発明と同様な効果である。
してみると、両発明は、
絶縁性セラミックから成る絶縁性セラミック体と、該絶縁性セラミック体中に埋設され、しかも電圧印加によって発熱する導電性セラミックからなる発熱体と、前記絶縁性セラミック体中に埋設され、上記発熱体に電気的に接続された高融点金属線からなる電極とから構成されたセラミックヒータにおいて、
前記発熱体と前記電極との接合部分である発熱体側接合部の前記発熱体の断面積を、前記発熱体の発熱部の断面積よりも大きくしたセラミックヒータ。
の発明である点で一致し、格別な差異はなく、同一の発明である。
そして、両発明の発明者が同じではなく、さらに、本件特許に係る出願の時において、その出願人と引用明細書等1に係る出願の出願人とは同じではない。
したがって、本件請求項2に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

5-3-1-1-2-3 本件請求項4について
本件請求項4に係る発明は、請求項1乃至3に係る発明に、前記発熱体接合部の軸方向長さLは、1mm以上であることを限定したものであるので、この点について検討する。
引用明細書等1の図1及び図2によれば、実効発熱部の長さ5は1.5mm以上(段落【0023】)、タングステン線から成るリード線は直径0.25mm(段落【0025】)、評価用のセラミック発熱体直径約3.4mm(段落【0026】)、セラミック発熱体の露出長さ7は5〜15mm(段落【0027】)なので、発熱体接合部(発熱抵抗体3とリード部8,9との接合部分)の軸方向長さが約1mm程度であることは読みとれるものであり、実質的に記載されているものと認められる。
よって、本件請求項4に係る発明は、引用明細書等1に記載された発明と実質的に同一の発明である。
そして、両発明の発明者が同じではなく、さらに、本件特許に係る出願の時において、その出願人と引用明細書等1に係る出願の出願人とは同じではない。
したがって、本件請求項4に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

5-3-1-2 特願平6-160884号の優先権の主張の基礎とされた先の出願の特願平5-233075号の願書に最初に添付された明細書または図面の記載された発明との対比
5-3-1-2-1 特願平5-233075号の願書に最初に添付された明細書または図面の記載
本件に係る出願の出願日(出願日 平成5年10月20日)の前(平成5年9月20日)を優先日として、本件に係る出願の出願後に出願公開された特願平6-160884号(特開平7-139737号)の優先権の主張の基礎とされた先の出願の特願平5-233075号の願書に最初に添付された明細書及び図面(異議申立人木村昭子の引用した甲第2号証の2)(以下、「引用明細書等2」という。)には、以下の事項が記載されている。
「電気絶縁性セラミック焼結体中に、少なくとも2層の無機導電材の発熱抵抗体層と、該発熱抵抗体層に接続した高融点金属から成るリード部と、該リード部に接続した無機導電材から成る層状の電極取り出し部を埋設したセラミック発熱体。」(【請求項1】)、
「図1及び図2において、1は電気絶縁性セラミック焼結体2中に、略平行な2層の無機導電材から成る発熱抵抗体層3、4と、発熱抵抗体層3、4の各端部にそれぞれ接続した高融点金属の線材から成るリード部5、6と、リード部5、6にそれぞれ接続した無機導電材から成る2層を成し複数個に分割した電極取り出し部7、8を埋設し、電極取り出し部7、8の一部がセラミック焼結体2の外周面に露出するとともに、発熱抵抗体層3、4側のセラミック焼結体2の先端が略球面で、少なくとも発熱抵抗体層3、4を埋設したセラミック焼結体2の断面が円形を成すセラミック発熱体。」(段落【0015】)、
「更に、電気絶縁性セラミック焼結体2が、窒化珪素(Si3N4 )を主成分とする焼結体の場合には、発熱抵抗体層3、4あるいは電極取り出し部7、8等は、タングステンカーバイド(WC)を主成分とし、セラミック焼結体2の主成分である窒化珪素(Si3N4 )粉末を添加混合したものが好適である。
段落【0019】前記無機導電材から成る発熱抵抗体層3、4は、熱膨張率の点から炭化タングステン(WC)が65〜95重量%、窒化珪素(Si3N4)が5〜35重量%の組成から成るものが良く、とりわけ炭化タングステン(WC)が75〜90重量%、窒化珪素(Si3N4)が10〜25重量%の組成が好ましく、また、前記発熱抵抗体層3、4の厚さは、発熱抵抗体層にクラック等の不都合を発生しないようにするためには、少なくとも最高発熱部で2.3〜150μm 、特に8〜53μm の範囲が望ましい。」(段落【0018】、【0019】)、
「一方、リード部5、6には、高融点金属であるタングステン(W)、モリブデン(Mo)、レニウム(Re)やその合金等が上げられるが、とりわけタングステン(W)が好適である。」(段落【0021】)、
「次に、タングステンカーバイド(WC)と窒化珪素(Si3N4 )の各微粉末を用い、その配合量を種々設定して混合した原料粉末に溶媒を加えてペーストを調製し、スクリーン印刷法等により設計抵抗値に基づいた各種寸法と厚さの略U字形状のパターンで、かつ該パターンの先端がセラミック焼結体の先端より5mm以内に位置するように、セラミック成形体9及び10の表面に発熱抵抗体層3及び4を形成する。」( 段落【0023】)、
また、発熱抵抗体層3、4が並列に配置されていること、及び、発熱抵抗体層3、4のうち、発熱抵抗体層3、4とリード部5、6との接合部分を幅広く形成したことが図1、図3に記載されている。
これら記載及び図面の記載をみれば、引用明細書等2には、
「電気絶縁性セラミックから成る電気絶縁性セラミック焼結体2と、該電気絶縁性セラミック焼結体2中に埋設され、しかも電圧印加によって発熱する炭化タングステン(WC)が65〜95重量%、窒化珪素(Si3N4)が5〜35重量%の組成から成る無機導電材から成る少なくとも2層の並列配置された発熱抵抗体層3、4と、前記電気絶縁性セラミック焼結体2中に埋設され、上記発熱抵抗体層3、4に電気的に接続された高融点金属の線材から成るリード部5、6とから構成されたセラミック発熱体1において、
前記発熱抵抗体層3、4のうち前記発熱抵抗体層3、4と前記リード部5、6との接合部分を、幅広く形成したセラミック発熱体」 が記載されているものと認められる。(以下、「先願発明2」という。)

5-3-1-2-2 対比判断
5-3-1-2-2-1 本件請求項1について
本件請求項1に係る発明と先願発明2とを対比すると、先願発明2の「電気絶縁性セラミック焼結体2」、「炭化タングステン(WC)が65〜95重量%、窒化珪素(Si3N4 )が5〜35重量%の組成から成る無機導電材から成る少なくとも2層の並列配置された発熱抵抗体層3、4」、「高融点金属の線材から成るリード部5、6」、「発熱抵抗体層3、4とリード部5、6との接合部分」、「セラミック発熱体1」は、本件請求項1に係る発明の「絶縁性セラミック体」、「導電性セラミックからなる発熱体」、「高融点金属線からなる電極」、「発熱体と電極との接合部分である発熱体側接合部」、「セラミックヒータ」に相当するものと認められる。
また、発熱体の単位長さ当たりの抵抗値は幅が広い方がより抵抗値が小さいことは自明のことであるから、先願発明2の「発熱抵抗体層3、4のうち前記発熱抵抗体層3、4と前記リード部5、6との接合部分を、幅広く形成した」ことは、本件請求項1に係る発明の「前記発熱体と前記電極との接合部分である発熱体側接合部の前記発熱体の単位長さ当たりの抵抗値を、前記発熱体の発熱部の単位長さ当たりの抵抗値よりも小さくした」ことに相当するものと認められる。
してみると、両発明は、
絶縁性セラミックから成る絶縁性セラミック体と、該絶縁性セラミック体中に埋設され、しかも電圧印加によって発熱する導電性セラミックからなる発熱体と、前記絶縁性セラミック体中に埋設され、上記発熱体に電気的に接続された高融点金属線からなる電極とから構成されたセラミックヒータにおいて、
前記発熱体と前記電極との接合部分である発熱体側接合部の前記発熱体の単位長さ当たりの抵抗値を、前記発熱体の発熱部の単位長さ当たりの抵抗値よりも小さくしたセラミックヒータ。
の発明である点で一致し、格別な差異はなく、同一の発明である。
そして、両発明の発明者が同じではなく、さらに、本件特許に係る出願の時において、その出願人と引用明細書等2に係る出願の出願人とは同じではない。
したがって、本件請求項1に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

5-3-1-2-2-2 本件請求項2について
本件請求項2に係る発明と先願発明2とを対比すると、先願発明2の「電気絶縁性セラミック焼結体2」、「炭化タングステン(WC)が65〜95重量%、窒化珪素(Si3N4)が5〜35重量%の組成から成る無機導電材から成る少なくとも2層の並列配置された発熱抵抗体層3、4」、「高融点金属の線材から成るリード部5、6」、「発熱抵抗体層3、4とリード部5、6との接合部分」、「セラミック発熱体1」は、本件請求項2に係る発明の「絶縁性セラミック体」、「導電性セラミックからなる発熱体」、「高融点金属線からなる電極」、「発熱体と電極との接合部分である発熱体側接合部」、「セラミックヒータ」に相当するものと認められる。
また、発熱体の断面積は幅が広い方が大きいことは自明のことであるから、先願発明2の「発熱抵抗体層3、4のうち、発熱抵抗体層3、4とリード部5、6との接合部分を幅広く形成した」ことは、本件請求項2に係る発明の「前記発熱体と前記電極との接合部分である発熱体側接合部の前記発熱体の断面積を、前記発熱体の発熱部の断面積よりも大きくした」ことに相当するものと認められる。
してみると、両発明は、
絶縁性セラミックから成る絶縁性セラミック体と、該絶縁性セラミック体中に埋設され、しかも電圧印加によって発熱する導電性セラミックからなる発熱体と、前記絶縁性セラミック体中に埋設され、上記発熱体に電気的に接続された高融点金属線からなる電極とから構成されたセラミックヒータにおいて、
前記発熱体と前記電極との接合部分である発熱体側接合部の前記発熱体の断面積を、前記発熱体の発熱部の断面積よりも大きくしたセラミックヒータ。
の発明である点で一致し、格別な差異はなく、同一の発明である。
そして、両発明の発明者が同じではなく、さらに、本件特許に係る出願の時において、その出願人と引用明細書等2に係る出願の出願人とは同じではない。
したがって、本件請求項2に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

5-3-1-2-2-3 本件請求項3について
本件請求項3に係る発明と先願発明2とを対比すると、先願発明2の「電気絶縁性セラミック焼結体2」、「炭化タングステン(WC)が65〜95重量%、窒化珪素(Si3N4)が5〜35重量%の組成から成る無機導電材から成る少なくとも2層の並列配置された発熱抵抗体層3、4」、「高融点金属の線材から成るリード部5、6」、「発熱抵抗体層3、4とリード部5、6との接合部分」、「セラミック発熱体1」は、本件請求項3に係る発明の「絶縁性セラミック体」、「少なくとも2本以上の並列に配置された抵抗体」からなる「導電性セラミックからなる発熱体」、「高融点金属線からなる電極」、「発熱体と電極との接合部分である発熱体側接合部」、「セラミックヒータ」に相当するものと認められる。
また、発熱体の単位長さ当たりの抵抗値は幅が広い方がより抵抗値が小さいことは自明のことであるから、先願発明2の「発熱抵抗体層3、4のうち前記発熱抵抗体層3、4と前記リード部5、6との接合部分を、幅広く形成した」ことは、本件請求項3に係る発明の「前記発熱体と前記電極との接合部分である発熱体側接合部の前記発熱体の単位長さ当たりの抵抗値を、前記発熱体の発熱部の単位長さ当たりの抵抗値よりも小さくした」ことに相当するものと認められる。
してみると、両発明は、
絶縁性セラミックから成る絶縁性セラミック体と、該セラミック体中に埋設され、しかも電圧印加によって発熱する導電性セラミックからなる発熱体と、前記絶縁性セラミック体中に埋設され、上記発熱体に電気的に接続された高融点金属線からなる電極とから構成されたセラミックヒータにおいて、
前記発熱体が、少なくとも2本以上の並列に配置された抵抗体からなり、しかも前記発熱体と前記電極との接合部分である発熱体側接合部の前記発熱体の単位長さ当たりの抵抗値を、前記発熱体の発熱部の単位長さ当たりの抵抗値よりも小さくしたセラミックヒータ。
の発明である点で一致し、格別な差異はなく、同一の発明である。
そして、両発明の発明者が同じではなく、さらに、本件特許に係る出願の時において、その出願人と引用明細書等2に係る出願の出願人とは同じではない。
したがって、本件請求項3に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。


5-3-2 取消理由2について
5-3-2-1 引用文献1ないし3に記載された事項
引用文献1 特開平1-317170号公報
引用文献2 実願昭63-98603号(実開平2-20293号)のマイクロフィルム
引用文献3 実願平3-85851号(実開平5-31191号)のCD-ROM(異議申立人日本特殊陶業株式会社が提出した甲第1号証の刊行物)

5-3-2-1-1引用文献1に記載された事項
引用文献1には、以下の事項が図面と共に記載されている。
「 第1図は、本発明の導電性セラミック材料を適用したグロープラグを示す。
第1図に示すようにこのグロープラグは円形断面を有する支持部材2の先端内部に断面U字形のヒータ1が形成してある。さらに、支持部材2には先端がヒータ1に接続するタングステンの通電線3a、3bが埋設してある。支持部材2の外周には金属パイプ4を取付け、該パイプ4に筒状の金属ハウジング5の一端が接合してある。通電線3aの後端は支持部材2の基端まで延びて基端に嵌着した金属キャップ6に接続し、キャップ6およびニッケル線7を介して図示しない電源に接続してある。通電線3bの後端は金属スリーブに接続してある。
支持部材2とパイプ4とは支持部材2の表面にニッケルメッキを施した後、ロウ付けを行なうことにより結合せしめてある。またパイプ4とハウジング5はロウ付けにより結合せしめてある。
ヒータ1の組成は、平均粒径10μmの70重量%Si3N4と平均粒径1μmの30重量%Mo5Si3Cであり、支持体2の組成は平均粒径が1μmの72wt%Si3N4平均粒径が1μmの28wt%MoSi2である。又、焼結助剤は両者共Y2O2、Al2O3各々5%添加した。ここでこの支持体2の組成比は、ヒータ1と支持体2の熱膨張係数が一致するように選定してある。
ここでヒータ材料は、Si3N4粉末として、平均粒径10μmのものを用いることにより、Mo5Si3C粒子がSi3N4粒子を包み、Mo5Si3C粒子が連続する導電性の組織とし、又、支持体2の材料は、Si3N4原料として平均粒径1μmのものを用いることにより導電性のMoSi2粒子が絶縁性のSi3N4粒子に囲まれて分断され、これにより、電気絶縁された組織としてある。
ここでヒータ1の材料として平均粒径10μmのSi3N4を用いたのは第2実施例にも示したごとく、所望の比抵抗を得るのに必要とされるMo5Si3Cの量を低減せしむることにより、熱膨張係数の低減及び抗折強度の向上を画るためである。
又支持体2の材料中にMoSi2を分散せしめたのは、ヒータ材料と熱膨張係数を合致せしめ、両者間に発生する熱応力を低減せしむるためである。
第2図は、このセラミックヒータの通電特性を示す。」(第4頁左上欄末行〜同頁右下欄6行)

これら記載及び図面の記載をみれば、引用文献1には、
「平均粒径が1μmの72wt%Si3N4平均粒径が1μmの28wt%MoSi2の組成からなり、Si3N4原料として平均粒径1μmのものを用いることにより導電性のMoSi2粒子が絶縁性のSi3N4粒子に囲まれて分断され、これにより、電気絶縁された組織とした支持部材(支持体)2と、該支持部材2の先端内部に形成され、通電によって発熱する、平均粒径10μmの70重量%Si3N4と平均粒径1μmの30重量%Mo5Si3Cの組成からなり、平均粒径10μmのものを用いることにより、Mo5Si3C粒子がSi3N4粒子を包み、Mo5Si3C粒子が連続する導電性の組織としたヒータ1と、前記支持部材2中に埋設され、前記ヒータ1に接続するタングステンの通電線3a、3bとから構成されたグロープラグ」 が記載されているものと認められる。

5-3-2-1-2 引用文献2に記載された事項
引用文献2には、以下の事項が図面と共に記載されている。
「窒化珪素を主成分とし棒状または板状を呈する電気絶縁性セラミック焼結体中に、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステンより選ばれた、少なくとも1種以上の窒化物を主体とする導電性セラミック焼結体からなる発熱体を埋設してなるセラミックヒータにおいて、」(実用新案登録請求の範囲)、
「第1実施例…(中略)…第5図に示す如く、高融点金属(例えばタングステン)のリード線27を発熱体に当接させ…(中略)…発熱体2の後端側は、幅または厚さを大きくし抵抗値を下げることが好ましい。」(明細書14頁7〜19行)

5-3-2-1-3 引用文献3に記載された事項
引用文献3には、以下の事項が図面と共に記載されている。
「【0006】 本考案のセラミックヒータに用いられるセラミックス支持体の成分は、特に限定されず、例えば、アルミナ、ムライト、スピネル、コージェライト、フォルステライト、ベリリア、窒化珪素等が用いられるが、α-Al2O3を90%以上含有するセラミックスはより好ましい。
【0007】 発熱抵抗体は、白金、ロジウム、モリブデン、タングステン、タンタル等の高融点金属を主成分とし、抵抗値調整のために、またはセラミックス支持体との結合力向上のために上記セラミックス支持体と同質又は異質のセラミックスから成る。」(段落【0006】、【0007】)、
「【0009】 (5)次に白金黒粉末と白金スポンジ粉末とを重量比で2:1に混合し、さらにこの混合物にAl2O3を約10wt%添加し、ブチルカルビドールを溶剤として加えて白金ペーストを作製し、この白金ペーストを用いて、図1に示すように厚さ0.40mmの第1のグリーンシート1に発熱抵抗体パターン2(幅0.3mm、厚み15〜30μm)をスクリーン印刷した。…(中略)…
(7)さらに、上記グリーンシートに、低抵抗導体ペーストを用いて、電極端子リード部3をその一端が発熱抵抗体パターンに重なるようにスクリーン印刷(幅1.4mm、厚さ30±10μm)を行なった後、
(8)…(中略)…
【0010】 (9)次にφ0.2mmの白金線4をその一端が電極端子リード部に重なるように並べた後、厚さ0.26mmの第2のグリーンシート5を積層し、温度50℃、真空度70cmHg以上で、35〜40kg/cm2の面圧で2分間の熱圧着を行なった。
(10)得られた積層体を温度260℃で6時間保持して樹脂抜きをし、さらに、
(11)温度1540℃で2時間保持し、幅4mm、長さ40mmのセラミックヒータを製作した。」(段落【0009】、【0010】)
また、図1ないし4には、発熱抵抗体パターン2と白金線4の間の電極端子リード部が発熱抵抗体パターンよりも広い幅である点が記載されている。

5-3-2-2 対比判断
5-3-2-2-1 本件請求項1について
本件請求項1に係る発明と引用文献1に記載された発明とを対比すると、引用文献1に記載された発明の「電気絶縁された組織とした支持部材(支持体)2」、「導電性の組織としたヒータ1」、「タングステンの通電線3a、3b」、「グロープラグ」は本件請求項1に係る発明の「絶縁性セラミック体」、「導電性セラミックからなる発熱体」、「高融点金属線からなる電極」、「セラミックヒータ」に、それぞれ相当する。

してみると、本件請求項1に係る発明と引用文献1に記載された発明とは、
「絶縁性セラミックから成る絶縁性セラミック体と、該絶縁性セラミック体中に埋設され、しかも電圧印加によって発熱する導電性セラミックからなる発熱体と、前記絶縁性セラミック体中に埋設され、上記発熱体に電気的に接続された高融点金属線からなる電極とから構成されたセラミックヒータ」
の点で一致し、次のイの点で相違する。

イ.本件請求項1に係る発明が、発熱体と電極との接合部分である発熱体側接合部の前記発熱体の単位長さ当たりの抵抗値を、前記発熱体の発熱部の単位長さ当たりの抵抗値よりも小さくしたのに対して、引用文献1に記載された発明はこの構成がない点。

そこで、この相違点イについて検討する。
・相違点イについて
セラミックヒータにおいて、抵抗体の実効的に発熱する部分の幅よりも、電極と接続する部分側にいくほど抵抗体の幅を広くすることは、引用文献2、3に記載されており、また本件特許に係る出願の時点において周知の事項(特開昭63-67556号公報(第1〜3図)、特開昭63-66452号公報(第1〜3図)、特開平3-10040号公報(第1、5、6図)、特開平3-246458号公報(第5、6図)、特開昭61-27084号公報(第7図))でもある。そして、抵抗体の単位長さ当たりの抵抗値は幅が広い方がより抵抗値が小さいことは自明のことであるから、接続部分の発熱を抑制するために、刊行物1に記載されたものにおいて、抵抗体と電極との接続部分の単位長さ当たりの抵抗値を相違点イに係る構成とすることは当業者が容易になし得たことである。
以上のとおりであるから、相違点イは格別なものではない。
そして、本件発明1の効果は、刊行物1ないし3に記載された発明及び周知事項から、当業者が予測し得たものと認められる。
したがって、本件発明1は、刊行物1ないし3に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである

5-3-2-2-2 本件請求項2について
本件請求項2に係る発明と引用文献1に記載された発明とを対比すると、引用文献1に記載された発明の「電気絶縁された組織とした支持部材(支持体)2」、「導電性の組織としたヒータ1」、「タングステンの通電線3a、3b」、「グロープラグ」は本件請求項2に係る発明の「絶縁性セラミック体」、「導電性セラミックからなる発熱体」、「高融点金属線からなる電極」、「セラミックヒータ」に、それぞれ相当する。

したがって、本件請求項2に係る発明と引用文献1に記載された発明とは、「絶縁性セラミックから成る絶縁性セラミック体と、該セラミック体中に埋設され、しかも電圧印加によって発熱する導電性セラミックからなる発熱体と、前記絶縁性セラミック体中に埋設され、上記発熱体に電気的に接続された高融点金属線からなる電極とから構成されたセラミックヒータ」
の点で一致し、次のロの点で相違する。

ロ.本件請求項2に係る発明が、発熱体と電極との接合部分である発熱体側接合部の前記発熱体の断面積を、前記発熱体の発熱部の断面積よりも大きくしたのに対して、引用文献1に記載された発明はこの構成がない点。

そこで、この相違点ロについて検討する。
・相違点ロについて
セラミックヒータにおいて、抵抗体の実効的に発熱する部分の幅よりも、電極と接続する部分側にいくほど抵抗体の幅を広くすることは、引用文献2、3に記載されており、また本件特許に係る出願の時点において周知の事項(特開昭63-67556号公報(第1〜3図)、特開昭63-66452号公報(第1〜3図)、特開平3-10040号公報(第1、5、6図)、特開平3-246458号公報(第5、6図)、特開昭61-27084号公報(第7図))でもある。そして、発熱体の断面積は幅が広い方が大きいことは自明のことであるから、接続部分の発熱を抑制するために、引用文献1に記載されたものにおいて、抵抗体と電極との接続部分の単位長さ当たりの抵抗値を相違点ロに係る構成とすることは当業者が容易になし得たことである。
以上のとおりであるから、相違点ロは格別なものではない。
そして、本件請求項2に係る発明の効果は、引用文献1ないし3に記載された発明及び周知事項から、当業者が予測し得たものと認められる。
したがって、本件請求項2に係る発明は、引用文献1ないし3に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5-3-2-2-3 本件請求項3について
本件請求項3に係る発明と引用文献1に記載された発明とを対比すると、引用文献1に記載された発明の「電気絶縁された組織とした支持部材(支持体)2」、「導電性の組織としたヒータ1」、「タングステンの通電線3a、3b」、「グロープラグ」は本件請求項3に係る発明の「絶縁性セラミック体」、「導電性セラミックからなる発熱体」、「高融点金属線からなる電極」、「セラミックヒータ」に、それぞれ相当する。

してみると、本件請求項3に係る発明と引用文献1に記載された発明とは、「絶縁性セラミックから成る絶縁性セラミック体と、該セラミック体中に埋設され、しかも電圧印加によって発熱する導電性セラミックからなる発熱体と、前記絶縁性セラミック体中に埋設され、上記発熱体に電気的に接続された高融点金属線からなる電極とから構成されたセラミックヒータ」
の点で一致し、次のハ、ニの点で相違する。

ハ. 本件請求項3に係る発明が、発熱体が少なくとも2本以上の並列に配置された抵抗体からなるのに対して、引用文献1に記載された発明はこの構成がない点。
ニ.本件請求項3に係る発明が、発熱体と電極との接合部分である発熱体側接合部の前記発熱体の単位長さ当たりの抵抗値を、前記発熱体の発熱部の単位長さ当たりの抵抗値よりも小さくしたのに対して、引用文献1に記載された発明はこの構成がない点。

そこで、この相違点ハ、ニについて検討する。
・相違点ハについて
セラミックヒータにおいて、発熱体を少なくとも2本以上の並列に配置された抵抗体で構成することは、本件特許に係る出願の時点において周知の事項(特開平2-75188号公報、特開平2-78174号公報、特開昭61-195580号公報、実願昭61-81035号(実開昭62-198358号)のマイクロフィルム参照)であり、引用文献1に記載されたものにおいて、この周知事項を適用し相違点ハに係る構成とすることは当業者が必要に応じて適宜容易になし得たことである。
・相違点ニについて
相違点ニは、「5-3-2-2-1 本件請求項1について」の相違点イと同様であり、相違点イで検討したとおり格別なものではない。
以上のとおりであるから、相違点ハ、ニは格別なものではない。
そして、本件請求項3に係る発明の効果は、引用文献1ないし3に記載された発明及び周知事項から、当業者が予測し得たものと認められる。
したがって、本件請求項3に係る発明は、引用文献1ないし3に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである

5-3-2-2-4 本件請求項4について
本件請求項4に係る発明は、請求項1乃至3に係る発明に、前記発熱体接合部の軸方向長さLは、1mm以上であることを限定したものであるので、この点について検討する。
引用文献2には、発熱体の幅の広い部分の長さは明記されていないものの、「焼結体を直径を3.5mm」(明細書10頁6行)と記載されていること、及び図面の記載全体からみて、発熱体2の幅の広い部分の長さが2mm以上であることが記載されているものと認められる。
引用文献3には、段落【0011】の「 幅4mm、長さ40mmのセラミックヒータ」及び図面の記載全体からみて、抵抗体の幅の広い部分の長さは、2mm以上であることが記載されているものと認められる。
さらに、「5-3-2-2-1 本件請求項1について」及びに「5-3-2-2-2 本件請求項2ついて」の前記周知例の、特開昭63-67556号公報、特開昭63-66452号公報、特開平3-10040号公報、にはグリーンシートが47.8mm×4.0mmであることが記載されており、図面には熱抵抗電極パターンと端子パターンからなる電極パターンが、発熱側(検出電極側)を除いて47.8mmの長さのかなりの部分にわたって幅広く形成されていることからみて、この幅が広い部分の長さが2mm以上であることが記載されているものと認められる。
以上のように、抵抗体の電極側の幅を広くした部分の長さを2mm以上にすることはセラミックヒータにおいて、本件特許に係る出願の時点において周知の事項であり、格別なものではない。
したがって、1mm以上は2mm以上で重複しており、本件請求項4に係る発明において、発熱体接合部の軸方向長さLを1mm以上にした点は、当業者が適宜選定する設計的事項と認められる。
そして、本件請求項4に係る発明の効果は、引用文献1ないし3に記載された発明及び周知事項から、当業者が予測し得たものと認められる。
したがって、本件請求項4に係る発明は、引用文献1ないし3に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである

5-3-2-2-5 本件請求項5について
本件請求項5に係る発明は、請求項1乃至3に係る発明に、前記発熱体接合部の軸方向長さLは、2mm以上であることを限定したものであるので、この点について検討する。
この点は「5-3-2-2-4 本件請求項4について」において述べたように、抵抗体の電極側の幅を広くした部分の長さを2mm以上にすることは、セラミックヒータにおいて、本件特許に係る出願の時点において周知の事項であり、格別なものではない。
したがって、本件請求項5に係る発明において、発熱体接合部の軸方向長さLを2mm以上にした点は、当業者が適宜選定する設計的事項と認められる。
そして、本件請求項5に係る発明の効果は、引用文献1ないし3に記載された発明及び周知事項から、当業者が予測し得たものと認められる。
したがって、本件請求項5に係る発明は、引用文献1ないし3に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである

5-3-3 取消理由3について
4.に述べたとおり、特許権者が請求した訂正は認められず、本件明細書及び図面の記載は、「5-2-3 取消理由3」で述べたCの記載不備の点が依然として解消していない。
したがって、本件請求項3及び請求項3を引用する請求項4、5に係る発明に対する特許は、特許法第36条第5項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

6 むすび
以上説示のとおり、本件請求項1ないし5に係る発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであるから、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2005-01-28 
出願番号 特願平5-262664
審決分類 P 1 651・ 841- ZB (F23Q)
P 1 651・ 161- ZB (F23Q)
P 1 651・ 121- ZB (F23Q)
最終処分 取消  
前審関与審査官 東 勝之  
特許庁審判長 水谷 万司
特許庁審判官 櫻井 康平
長浜 義憲
登録日 2003-03-07 
登録番号 特許第3404827号(P3404827)
権利者 株式会社デンソー
発明の名称 セラミックヒータ  
代理人 碓氷 裕彦  
代理人 伊藤 高順  
代理人 加藤 大登  

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