• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C25D
管理番号 1114693
異議申立番号 異議2003-73137  
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-09-19 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-17 
確定日 2005-04-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第3459964号「銅ホイルのためのノジュラー銅・ニッケル合金処理方法」の請求項1〜14に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3459964号の請求項1〜14に係る特許を維持する。 
理由 [1]手続の経緯
本件特許第3459964号は、平成7年1月20日(パリ条約による優先権主張1994年1月21日、米国)の出願であって、特許権の設定登録の後、特許異議申立人 岡誠一(以下、「異議申立人」という。)より、請求項1〜14に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明14」という。)について特許異議の申立てがなされたものである。

[2]特許異議申立ての理由の概要
異議申立人は、証拠として、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である下記の甲第1〜5号証を提出して、本件発明1〜14は、甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1〜14についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきである旨主張している。

甲第1号証:電子技術(1987-9月別冊)第88-96頁、高橋直臣著「プリント配線板用銅箔の現状と将来」
甲第2号証:特開昭61-119699号公報
甲第3号証:WPINDEX 1980-85631C[48]1980年11月
甲第4号証:特開平2-292894号公報
甲第5号証:特公昭64-11118号公報

[3]本件発明
本件特許の請求項1〜14に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1〜14に記載された以下のとおりのものである(以下、「本件発明1」〜「本件発明14」という)。
「【請求項1】銅又は銅主成分合金の基体(12)と、前記銅又は銅主成分合金の基体(12)の少なくとも片面(16)に隣接するノジュラー被覆層(14)とを含む複合ホイル(10)であって:
前記ノジュラー被覆層(14)が、少なくとも50重量%の銅を含み残りがニッケルである銅・ニッケル合金であり、前記ノジュラー被覆層(14)を形成するノジュールが0.05ミクロン〜5ミクロンの平均横断面幅と、0.5ミクロン〜3ミクロンの平均高さとを有する、ことを特徴とする複合ホイル(10)。
【請求項2】誘電性基体(22)と、前記誘電性基体(22)の少なくとも片面に結合する請求項1に記載の複合ホイル(10)と、を有することを特徴とする印刷回路板(20)。
【請求項3】ノジュラー被覆層(14)が55重量%〜99重量%の銅を含む請求項2記載の複合ホイル(10)。
【請求項4】ノジュラー被覆層(14)が70重量%〜95重量%の銅を含む、請求項3記載の複合ホイル(10)。
【請求項5】ノジュールが0.1ミクロン〜1ミクロンの平均横断面幅と、0.7ミクロン〜1.5ミクロンの平均高さとを有する、請求項1記載の複合ホイル(10)。
【請求項6】複合ホイル(10)を製造する方法であって、
(a)アノード(64)と、銅イオン及びニッケルイオンの水溶液を含む一定量の電解質(60)とを有する電解槽(48)中に銅又は銅主成分合金の基体(12、42)を浸漬する工程と、
(b)第1電流密度を、カソードとしての前記基体(12、42)によって前記電解質(60)を通して、第1時間印加する工程と、
(c)第2電流密度を、カソードとしての前記基体(12、42)によって前記電解質(60)を通して、第2時間印加する工程(但し、前記第1電流密度と前記第2電流密度との両方は零より大きい。)と、
(d)少なくとも50重量%の銅を含み残りがニッケルである銅・ニッケル合金である暗色ノジュラー被覆層が付着するまで、工程(b)と(c)を連続的に繰り返す工程と
を含み、
前記ノジュラー被覆層を形成するノジュールが0.05ミクロン〜5ミクロンの平均横断面幅と、0.5ミクロン〜3ミクロンの平均高さとを有する、前記方法。
【請求項7】第1電流密度が100〜400mA/cm2の範囲内であり、第1時間が10ミリ秒〜50ミリ秒の範囲内であり、かつ第2電流密度が10〜100mA/cm2の範囲内であり、前記第2時間が5ミリ秒〜20ミリ秒の範囲内である、請求項6記載の方法。
【請求項8】工程(b)と(c)を5〜40秒間繰り返す、請求項7記載の方法。
【請求項9】電解質(60)が金属銅としての銅イオン3〜20g/lと、金属ニッケルとしてのニッケルイオン3〜20g/lと、クエン酸ナトリウム2水和物40〜210g/lとを含み、4〜9の作用pHと、30℃〜60℃の作業温度とを有するように選択される、請求項8記載の方法。
【請求項10】前記工程(a)の前に、前記基体(12、42)を洗浄する、請求項9記載の方法。
【請求項11】洗浄工程が、カソードとしての前記基体(12、42)による10〜40mA/cm2の電流密度においてアルカリ性水溶液(52)中に前記基体(12、42)を10〜40秒間浸漬し、次に前記洗浄済み基体(12、42)を電解エッチングすることを含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】洗浄工程が、前記基体(12、42)をアルカリ性水溶液(52)中に浸漬し、アノードとしての前記基体によって前記溶液を通して、40℃〜60℃の電解質温度において、10〜100mA/cm2の電流密度で10〜40秒間電流を印加することを含む、請求項10記載の方法。
【請求項13】工程(d)後に、処理済み前記基体(44)を錆止め層によって被覆する、請求項10記載の方法。
【請求項14】錆止め塗料が、クロムに対する亜鉛の重量比が4を越えるクロムと亜鉛との混合物である後処理腐食防止剤(66)から形成される、請求項13記載の方法。」

[4]甲各号証の記載事項
[4-1]甲第1号証:電子技術(1987-9月別冊)第88-96頁
甲第1号証には、“プリント配線板用銅箔の現状と将来”と題して、
「(2)粗面化処理工程
粗面化処理は,樹脂との接着強度を高めるために施されるものであり,箔下地の形状,粗面化の手法により接着強度が異なってくる。」(第90頁右欄17〜21行)、
「プリント配線板の高密度化に伴ないファインパターン化が進行し,より強い接着強度を要求されるようになった。そこで開発されたのが今日一般的な塊状の粗面化処理である。また,特殊な例として,銅以外の金属による粗面化処理がなされている分野もある。」(第92頁左欄26〜34行)、
「代表的な例として,・・・圧延箔のブライト面,・・・について,下地の形状と粗面化処理後の形状の電子顕微鏡写真を写真1〜4に示した。」(第92頁左欄1〜7行)」と記載されるとともに、「写真3-圧延銅箔のブライト面(×3000)(処理前)(処理後)」が第91頁に示され、また、第93頁の「表3-35μ銅箔の引き剥し強さ」の表中には、圧延箔のブライト面の粗さRmaxが1.5μmであることが示されている。

[4-2]甲第2号証:特開昭61-119699号公報
甲第2号証には、
「良好な接着・樹枝状結晶鍍金被覆効果は、約0.01〜1.0μmの範囲の厚さを有する銅層を以て箔表面を鍍金被覆することによって得られることが発見された。」(第9頁左上欄2〜5行)と記載されている。

[4-3]甲第3号証:WPINDEX 1980-85631C[48]1980年11月
甲第3号証には、第2頁の「EXAMPLE」に、ニッケルを含有するピロフォスフェート銅のノジュラー又は樹枝状の被覆層を銅箔に形成すること、及び、その樹枝状ピロフォスフェート銅被覆層のニッケル含有量は2重量%であることが記載されている。

[4-4]甲第4号証:特開平2-292894号公報
甲第4号証には、
「銅箔の、樹脂基材と接着する面即ち粗化面には積層後の銅箔の引き剥し強さを向上させることを目的として、脱脂後の銅箔の表面に例えば銅のふしこぶ状の電着を行なう粗化処理が施される。こうした銅のふしこぶ状の電着はいわゆるヤケ電着により容易にもたらされる。・・・・・本発明においては、こうした処理を総称して予備処理と云う。本発明は予備処理後の銅箔の処理と関係する。予備処理後、銅箔の少なくとも一面に、印刷回路用表面として要求される多くの性質を与える合金表面がめっきにより形成される。」(第3頁左上欄17行〜右上欄13行)と記載され、また、第5頁左下欄の表には、比較例として、Cu:50%、Ni:50%のCu-Ni合金めっきの例が示されている。

[4-5]甲第5号証:特公昭64-11118号公報
甲第5号証には、
「1 ・・・前記箔14を陰極として前記溶液に浸漬し;所望の周波数と、反復パルスを伴った所望の波形とを有する非ゼロの基底陰極性電流を提供し、各前記パルスは第一の期間にわたる第一の電流密度を有する第一の部分と、第二の期間にわたる第二の電流密度を有する基底部分とより成り・・・前記電解槽10に前記電流を通じ、かつ前記箔14を多数の前記電流パルスに供して各前記パルスの前記第一の電流密度を0.1秒以下の時間にわたって適用し・・・微細な樹枝状めっきとして前記箔上に析出させる・・・
7 150〜300mA/cm2の範囲にある前記第一の電流密度と、10から40mA/cm2の範囲にある前記第二の電流密度とを有する前記電流を通す・・・特許請求の範囲第1項記載の方法。」(特許請求の範囲第1項、同第7項)、
「金属シート又は金属箔上に比較的に微細な樹枝状構造を形成し、それにより該シート及び箔に対し改良された剥離強さ、耐摩耗性及び耐機械的汚染性を与える上記改良された方法及び装置を提供する」(第6頁第11欄12〜16行)、
「第一の電流密度において、溶液からの銅粒子が陰極表面上に析出して樹枝状層を形成する。第二の電流密度において、該樹枝状晶が銅箔又は銅シートの表面に接着される。本発明方法の実施において、電流の多数のサイクル中に樹枝状晶が銅シート又は銅箔の表面上に析出され、次いで該銅シート又は銅箔上に接着される。基板に積層すべき銅シート又は銅箔の表面上に銅粒子の樹枝状層を析出させることにより、該表面が更に容易に基板に接着し得るようになる。このことは、樹枝状層を形成する粒子が、高度に不規則な、こぶ状突起により特徴づけられ、該突起が露出表面積を増加させて、それにより接着性を改良するのみならず、接着の機械的性質を強化するからである。」(第7頁第14欄3〜17行)と記載され、
更に、第2図が示されるとともに、
「第2図に示すもののような波形を有する変動電流を電解槽を横切って通した。該変動電流は200mA/cm2の第一の電流密度と25mA/cm2の第二の電流密度とを有した。該第一及び第二の電流密度を同一時間にわたって適用した。該電流は15秒間の析出時間にわたって0.25,1,4,16,64,256及び1024Hzの各周波数において供給した。」(第9頁第18欄21〜27行)と記載されている。

[5]対比・判断
上記[3]で認定したとおり、本件発明1は、「ノジュラー被覆層(14)が、少なくとも50重量%の銅を含み残りがニッケルである銅・ニッケル合金であり、」を発明特定事項とし、また、本件発明2〜5はいずれも、本件発明1又はその下位の発明を引用して本件発明1の上記発明特定事項を具備しており、また、本件発明6は、「(d)少なくとも50重量%の銅を含み残りがニッケルである銅・ニッケル合金である暗色ノジュラー被覆層が付着するまで、工程(b)と(c)を連続的に繰り返す工程とを含み、」を発明特定事項とし、また、本件発明7〜14はいずれも、本件発明6又はその下位の発明を引用して本件発明6の上記発明特定事項を具備している。
してみると、本件発明1〜14はいずれも、少なくとも50重量%の銅を含み残りがニッケルである銅・ニッケル合金であるノジュラー被覆層を形成することを発明特定事項とするものである。
これに対して、甲第1号証には、プリント配線板の誘電性基体に積層する銅箔又は銅以外の金属箔に塊状の粗面化処理をすること、及びその粗さRmaxが1.5μmであることが記載され、粗化面の電子顕微鏡写真が示されてはいるものの、銅・ニッケル合金のノジュラー被覆層を形成することは、記載も示唆もされていない。
また、甲第2号証には、箔表面に約0.01〜1.0μmの範囲の厚さの銅の樹枝状被覆層を鍍金被覆することが記載されているものの、銅・ニッケル合金の樹枝状被覆層乃至ノジュラー被覆層を鍍金被覆することは、記載も示唆もされていない。
また、甲第3号証には、ニッケルを含有するピロフォスフェート銅のノジュラー被覆層を銅箔に形成することについて記載されているものの、該ニッケルを含有するピロフォスフェート銅と、銅を含み残りがニッケルである銅・ニッケル合金とは、成分組成が相違し、同じ材料とはいえない。そして、銅を含み残りがニッケルである銅・ニッケル合金のノジュラー被覆層を形成することについては、記載も示唆もされていない。
また、甲第4号証には、銅箔面へ銅のふしこぶ状の電着を行なう粗化処理等の予備処理後、銅・ニッケル合金めっきをすることが記載されているものの、銅箔面へ銅・ニッケル合金のふしこぶ状の電着を行ない、銅・ニッケル合金のノジュラー被覆層を形成することは、記載も示唆もされていない。
また、甲第5号証には、銅の微細な樹枝状晶を銅箔又は銅シートの表面に形成することが記載されているものの、銅・ニッケル合金の樹枝状晶乃至ノジュラー被覆層を形成することは、記載も示唆もされていない。
してみると、甲第1〜5号証のいずれにも、本件発明1〜14の発明特定事項である、少なくとも50重量%の銅を含み残りがニッケルである銅・ニッケル合金であるノジュラー被覆層を形成することは、記載も示唆もされていないのであるから、甲第1〜5号証に記載された発明をいかに組み合わせても、本件発明1〜14の該発明特定事項を導き出すことはできない。
そして、本件発明1〜14は、上記発明特定事項を具備することにより、複合ホイルの誘電性基体への積層結合強度を改良でき、かつノジュラー被覆層を迅速に化学エッチング除去できるという、特許明細書に記載されているとおりの効果を奏するものと認められる。
したがって、本件発明1〜14は、甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

[6]むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1〜14についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜14についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明1〜14についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、平成6年法律第116号附則第14条の規定に基づく、平成7年政令第205号第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2005-03-25 
出願番号 特願平7-7503
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C25D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 日比野 隆治  
特許庁審判長 城所 宏
特許庁審判官 瀬良 聡機
市川 裕司
登録日 2003-08-15 
登録番号 特許第3459964号(P3459964)
権利者 オリン コーポレーション
発明の名称 銅ホイルのためのノジュラー銅・ニッケル合金処理方法  
代理人 浅村 皓  
代理人 長沼 暉夫  
代理人 歌門 章二  
代理人 浅村 肇  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ