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審決分類 審判 全部申し立て 特29条の2  C04B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
管理番号 1114699
異議申立番号 異議2003-72370  
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-06-15 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-09-22 
確定日 2005-03-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第3389484号「窒化アルミニウム接合構造体とその製造方法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3389484号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3389484号の請求項1、2に係る発明は、平成9年11月28日に特許出願され、平成15年1月17日にその特許権の設定登録がなされ、その後、久保田 和夫(以下、「申立人01」という。)及び日本碍子株式会社(以下、「申立人02」という。)より特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知されたものである。

2.本件発明
本件特許第3389484号の請求項1、2に係る発明(以下、必要に応じて、それぞれ、「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、特許明細書の特許請求の範囲請求項1、2に記載される次のとおりのものである。
【請求項1】
窒化アルミニウム焼結体からなる基体同士を窒化アルミニウム焼結体からなる結合層でもって接合一体化してなる窒化アルミニウム接合構造体であって、上記結合層は、Y2O3、Er2O3、CeO2などの希土類酸化物及び/又はCaOを合計で9重量%以下の範囲で含有し、残部が窒化アルミニウムからなり、上記結合層を構成する窒化アルミニウムの平均結晶粒子径を、前記基体を構成する窒化アルミニウムの平均結晶粒子径よりも小さくかつその平均結晶粒子径を5μm以下とするとともに、上記結合層の厚み幅を50μm以下としたことを特徴とする窒化アルミニウム接合構造体。
【請求項2】
窒化アルミニウム焼結体からなる基体同士を窒化アルミニウム焼結体からなる結合層でもって接合一体化してなる窒化アルミニウム接合構造体を製造する方法であって、予め焼結した窒化アルミニウム質焼結体からなる基体を用意し、この基体の接合面に、平均粒子径が1.5μm以下の窒化アルミニウム粉末に対してY2O3、Er2O3、CeO2などの希土類酸化物及び/又はCaCO3やCaNO3の粉末を合計で9重量%以下の範囲で含むペーストを、厚み幅が100μm以下の範囲で均一に塗布したあと、別に用意した窒化アルミニウム焼結体からなる基体を密着させ、1〜250kgf/cm2の圧力を加えた状態で1700〜2000℃の温度にて焼成し接合したことを特徴とする窒化アルミニウム接合構造体の製造方法。

3.特許異議申立の概要
申立人01は、証拠として甲第1号証ないし甲第3号証(それぞれ、下記の刊行物1ないし刊行物3に相当する。)を提示し、以下のように主張をする。
特許明細書の請求項1に係る発明は、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許明細書の請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
特許明細書の請求項2に係る発明は、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許明細書の請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、特許明細書の請求項1、2に係る特許は取り消されるべきものである。
また、申立人02は、証拠として甲第1号証(下記の引用出願4に相当する。)を提示し、以下のように主張をする。
特許明細書の請求項1に係る発明は、本件出願前に出願され、その後公開された引用出願4の出願当初明細書に記載された発明と同一であるので、特許明細書の請求項1に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
したがって、特許明細書の請求項1に係る特許は取り消されるべきものである。

刊行物1:特開平7-50369号公報
刊行物2:特開平4-50171号公報
刊行物3:特許第2547767号公報
引用出願4:特願平9-338295号(特開平10-273370号)

4.証拠に記載される事項
4-1刊行物1
刊行物1には、以下の事項が記載される。
(4-1-1)「AlNを主成分とする焼結体でそれぞれ構成された、板状のベース部と、ベース部の一面上に配置された複数のフィン部とを備える半導体用セラミックス放熱体において、ベース部とフィン部とが別々の部材であり、接合手段により接合されていることを特徴とする半導体用セラミックス放熱体。」(第1頁【請求項1】)
(4-1-2)「前記接合手段が、AlNを主成分とするペーストの焼成体である」(第1頁【請求項2】)
(4-1-3)前記ぺ一ストの焼成体が10%重量%以上99.9重量%以下のAlNを含む」(第1頁【請求項3】)
(4-1-4)「本発明の方法では、ペーストに加える焼結助剤の種類および添加量を選択することにより焼成温度を調節できる。すなわち、焼結肋剤を、公知のアルカリ土類金属酸化物および希土類元素酸化物から選択することもこより、1400℃〜2100℃程度の焼結温度にすることが可能である。」(第3頁段落【0019】)
(4-1-5)「AlN焼結体のベース部の表面に、AlNとCaOとを重量比9:1で含み、さらに有機ビヒクルおよび有機溶剤を含むペーストを50μmの厚さで・・・塗布した。次に、・・・ベース部に塗布したペースト上に、フィン部となる・・・のAlN焼結体板を・・・配置し、1600℃の非酸化雰囲気で焼成し、本発明のAlN放熱体が完成した。」(第4頁段落【0023】)
(4-1-6)「重量比95:5で混合されたAlNとY2O3との混合粉末を50重量%含み、残りが有機ビヒクルと溶剤とからなるペーストを使用して製造した。このペーストを40μmの厚さに塗布し、フィン部となるAlN板を・・・配置した後、1600℃の非酸化雰囲気で焼成して、本発明のAlN放熱体が完成した」(第4頁段落【0030】)
(4-1-7)「AlNを主成分とする焼結体でそれぞれ構成された、板状のベース部と、該ベース部の一面上に配置された複数のフィン部とを備える半導体用セラミックス放熱体の製造方法において、互いに別の部材からなるベース部およびフィン部の少なくとも一方にAlNを主成分とするペーストを塗布する工程と、ベース部上にフィン部を配置する工程と、ペーストを焼成してベース部とフィン部とを接合する工程とを含むことを特徴とする製造方法。」(第1頁【請求項9】)
(4-1-8)「引っ張り強度を測定した結果、接合強度は 1.5kg/cm2 以上であることが判明した。」(第4頁段落【0025】)

4-2刊行物2
刊行物2には、以下の事項が記載される。
(4-2-1)「主成分のAlNに、焼結助剤として・・・にて常圧焼成することを特徴とするAlN焼成体の製造方法」(第1頁特許請求の範囲第1項)

4-3刊行物3
刊行物3には、以下の事項が記載される。
(4-3-1)「本発明は、以上の点を考慮してなされたもので、熱伝導性に優れた窒化アルミニウム焼結体を提供することを目的とする。」(第2頁第3欄第37-39行)
(4-3-2)「なお焼結は、減圧、加圧及び常圧を含む雰囲気圧下で行う」(第3頁第6欄第11-12行)

4-4引用出願4
引用出願4の出願当初明細書には、以下の事項が記載される。
(4-4-1)「本発明は、窒化アルミニウム質セラミックスからなる複数の基材の接合体であって、基材の接合界面に、液相中から再析出した窒化アルミニウム質セラミックスからなる再析出相が生成していることを特徴とする、窒化アルミニウム質基材の接合体に係るものである。」(第4頁段落【0009】)
(4-4-2)「接合した基材1である「95%AlN」とは、・・・混合粉末を焼結して得た焼結体である。」(第6頁段落【0054】)
(4-4-3)「本発明においては、基材の接合界面に、窒化アルミニウム質セラミックスの粒子の再析出相が生成する。これは、いったん融材の溶融物中に融解した窒化アルミニウムの析出によって形成されたものである。通常、基材の接合界面における窒化アルミニウム粒子の平均粒径は小さく、3.0μm以下であり、こうした液相からの細かい析出粒子が、基材の接合界面に沿って層状をなして存在している。窒化アルミニウムの全部またはかなりの部分が融材中にいったん融解し、再析出しているので、基材などに比べて未だ窒化アルミニウム粒子の成長が進行していないことによって、細かい粒子が生成するものと考えられる。」(第6頁段落【0047】)
(4-4-4)「界面層の厚さは、約10μmであった。・・・界面層中にある窒化アルミニウム質粒子の粒径は約2ミクロンである。つまり、界面層中の窒化アルミニウム粒子は、再析出したものであることを示している。」(第8頁段落【0072】、【0073】)
(4-4-5)「界面層の厚さは、約5μmであった。・・・界面層中にある窒化アルミニウム質粒子の粒径は約2ミクロンである。つまり、界面層中の窒化アルミニウム粒子は、再析出したものであることを示している。」(第10頁段落【0084】)
(4-4-6)「窒化アルミニウム質セラミックスからなる複数の基材を接合するために使用する接合剤であって、接合剤が融材および窒化アルミニウム質セラミックスを含有しており、融材の組成がX-Y-Z系組成であり、接合剤における窒化アルミニウム質セラミックスの含有量が10重量%以上、90重量%以下であることを特徴とする・・・基材の接合面1aと基材2の接合面2aとを対向させる。このとき、所定の接合剤3を接合面1aと2aとの間に介在させる。」(第4頁段落【0013】、【0014】)
(4-4-7)「融材の組成は限定されないが、イットリウムを含有する系が好ましく、この場合に、融材の排出効果が特に顕著であった。この観点からは、Y-Ca-Al-O共晶組成が特に好ましく、CaO:25〜45重量%(更に好ましくは25〜40重量%)、Y2O3:5〜30重量%(更に好ましくは15〜30重量%)および残部Al2O3の系が特に好ましい。」(第5頁段落【0036】)
(4-4-8)「溶融した融材が実質的に基材の間から排出され、各基材が第三相を介在させることなく、連続するようになった。・・・基材1と基材2とは、この融材中から再析出した窒化アルミニウム質セラミックスの析出相を介して、窒化アルミニウム質相以外の第三相を介在させることなく、直接に強固に接合されている」(第4頁段落【0025】、【0026】)
(4-4-9)「この接合界面には、融材の残留はほとんど見られず、顕著な第三相は確認されていない。」(第6頁段落【0048】)

5.当審の判断
5-1本件発明1の特許法第29条第2項違反について
刊行物1には、上記摘示箇所(4-1-1)〜(4-1-3)によれば「AlNを主成分とする焼結体でそれぞれ構成されたベース部とフィン部とを備えた半導体用セラミックス放熱体であって、ベース部とフィン部とが別々の部材であり、AlNを主成分とするペーストの焼成体により接合されていることを特徴とする半導体用セラミックス放熱体」が記載されているといえ、斯かるAlNを主成分とするペーストの焼成体は、上記摘示箇所(4-1-5)によれば、「AlNとCaOとを重量比9:1で含み、さらに有機ビヒクルおよび有機溶剤を含むペーストを、50μmの厚さで塗布した後、焼成した」ものであること、あるいは、上記摘示箇所(4-1-6)によれば、「重量比95:5で混合されたAlNとY2O3との混合粉末を50重量%含み、残りが有機ビヒクルと溶剤とからなるペーストを、40μmの厚さに塗布した後、焼成した」ものであることが記載されるといえる。
してみれば、刊行物1には、以下の発明(以下、「刊行物1発明A」という。)が記載されているといえる。
「AlNを主成分とする焼結体でそれぞれ構成されたベース部とフィン部とを備えた半導体用セラミックス放熱体であって、ベース部とフィン部とが別々の部材であり、AlNを主成分とするペーストの焼成体により接合されており、斯かるAlNを主成分とするペーストの焼成体は、AlNとCaOとを重量比9:1で含み、さらに有機ビヒクルおよび有機溶剤を含むペーストを、50μmの厚さで塗布した後、焼成したものであるか、あるいは、重量比95:5で混合されたAlNとY2O3との混合粉末を50重量%含み、残りが有機ビヒクルと溶剤とからなるペーストを、40μmの厚さに塗布した後、焼成したものである半導体用セラミックス放熱体」
次いで、本件発明1と刊行物1発明Aを対比する。刊行物1発明Aにおける「AlNを主成分とする焼結体で構成されたベース部、あるいは、フィン部」は、本件発明1の「窒化アルミニウム焼結体からなる基体」に相当し、刊行物1発明Aの「AlNを主成分とするペーストの焼成体」は、本件発明1の「窒化アルミニウム焼結体からなる結合層」に相当するものである。また、刊行物1発明Aの「AlNを主成分とする焼結体でそれぞれ構成されたベース部とフィン部を接合した半導体用セラミックス放熱体」は、1種の「接合一体化してなる窒化アルミニウム接合構造体」といえるものであり、刊行物1発明Aの「斯かるAlNを主成分とするペーストの焼成体は、AlNとCaOとを重量比9:1で含み、さらに有機ビヒクルおよび有機溶剤を含むペーストを、50μmの厚さで塗布した後、焼成したものであるか、あるいは、重量比95:5で混合されたAlNとY2O3との混合粉末を50重量%含み、残りが有機ビヒクルと溶剤とからなるペーストを、40μmの厚さに塗布した後、焼成したものである」とは、技術的にいって、本件発明1の「結合層は、Y2O3、Er2O3、CeO2などの希土類酸化物及び/又はCaOを合計で9重量%以下の範囲で含有し、残部が窒化アルミニウムからなり、結合層の厚み幅を50μm以下としたこと」との事項に包含されるものである。
よって、本件発明1と刊行物1発明Aを対比すると、両者は、「窒化アルミニウム焼結体からなる基体同士を窒化アルミニウム焼結体からなる結合層でもって接合一体化してなる窒化アルミニウム接合構造体であって、上記結合層は、Y2O3、Er2O3、CeO2などの希土類酸化物及び/又はCaOを合計で9重量%以下の範囲で含有し、残部が窒化アルミニウムからなり、上記結合層の厚み幅を50μm以下としたことを特徴とする窒化アルミニウム接合構造体」である点で一致し、本件発明1は、「結合層を構成する窒化アルミニウムの平均結晶粒子径を、前記基体を構成する窒化アルミニウムの平均結晶粒子径よりも小さくかつその平均結晶粒子径を5μm以下とする」ものであるのに対し、刊行物1発明Aは、斯かる事項について特段の記載がない点で相違(以下、「相違点1-1」という。)する。
そこで、相違点1-1を検討するに、刊行物2及び刊行物3には、窒化アルミニウム焼結体自体については記載されるものの、窒化アルミニウム焼結体の接合に関しては何等記載されていない。
そして、本件発明1は、「結合層を構成する窒化アルミニウムの平均結晶粒子径を、前記基体を構成する窒化アルミニウムの平均結晶粒子径よりも小さくかつその平均結晶粒子径を5μm以下とする」ことを特許明細書に記載されるとおり技術的意義(特に、段落【0021】参照)をもって行い、これにより他の構成と相まって、特許明細書に記載されるとおり(特に、段落【0044】【表1】の「接合構造体の曲げ強度」の値を参照)の著しい効果を有するものである。
してみれば、「結合層を構成する窒化アルミニウムの平均結晶粒子径を、前記基体を構成する窒化アルミニウムの平均結晶粒子径よりも小さくかつその平均結晶粒子径を5μm以下とする」との構成を具備する点で、本件発明1は、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5-2本件発明2の特許法第29条第2項違反について
刊行物1には、上記の摘示箇所によれば、以下の発明(以下、「刊行物1発明B」という。)が記載されているといえる。
「AlNを主成分とする焼結体でそれぞれ構成されたベース部とフィン部とを備える半導体用セラミックス放熱体の製造方法であって、互いに別の部材からなるベース部およびフィン部の少なくとも一方にAlNを主成分とするペーストを塗布する工程と、ベース部上にフィン部を配置する工程と、ペーストを1400℃〜2100℃程度で焼成してベース部とフィン部とを接合する工程とを含み、斯かるAlNを主成分とするペーストを塗布する工程が、AlNとCaOとを重量比9:1で含み、さらに有機ビヒクルおよび有機溶剤を含むペーストを50μmの厚さで塗布するか、重量比95:5で混合されたAlNとY2O3との混合粉末を50重量%含み、残りが有機ビヒクルと溶剤とからなるペーストを40μmの厚さに塗布する工程である製造方法」
ここにおいて、本件発明2と刊行物1発明Bを対比する。刊行物1発明Bにおける「AlNを主成分とする焼結体でそれぞれ構成されたベース部、あるいは、フィン部」は、本件発明2の「窒化アルミニウム焼結体からなる基体」に相当し、刊行物1発明Bにおける「ベース部とフィン部とを備える半導体用セラミックス放熱体の製造方法であって、互いに別の部材からなるベース部およびフィン部の少なくとも一方にAlNを主成分とするペーストを塗布する工程と、ベース部上にフィン部を配置する工程と、ペーストを焼成してベース部とフィン部とを接合する工程とを含む製造方法」は、本件発明2の「基体同士を窒化アルミニウム焼結体からなる結合層でもって接合一体化してなる窒化アルミニウム接合構造体を製造する方法であって、予め焼結した窒化アルミニウム質焼結体からなる基体を用意し、この基体の接合面に、ペーストを均一に塗布したあと、別に用意した窒化アルミニウム焼結体からなる基体を密着させ、焼成し接合した窒化アルミニウム接合構造体の製造方法」の1種であり、刊行物発明Bにおける「AlNを主成分とするペーストを塗布する工程が、AlNとCaOとを重量比9:1で含み、さらに有機ビヒクルおよび有機溶剤を含むペーストを50μmの厚さで塗布するか、重量比95:5で混合されたAlNとY2O3との混合粉末を50重量%含み、残りが有機ビヒクルと溶剤とからなるペーストを40μmの厚さに塗布する工程である」ことは、技術的にいって、「窒化アルミニウム粉末に対してY2O3、Er2O3、CeO2などの希土類酸化物及び/又はCa化合物の粉末を合計で9重量%以下の範囲で含むペーストを、厚み幅が100μm以下の範囲で均一に塗布」との事項に包含されるものである。
してみれば、本件発明2と刊行物1発明Bは、「窒化アルミニウム焼結体からなる基体同士を窒化アルミニウム焼結体からなる結合層でもって接合一体化してなる窒化アルミニウム接合構造体を製造する方法であって、予め焼結した窒化アルミニウム質焼結体からなる基体を用意し、この基体の接合面に、窒化アルミニウム粉末に対してY2O3、Er2O3、CeO2などの希土類酸化物及び/又はCa化合物の粉末を合計で9重量%以下の範囲で含むペーストを、厚み幅が100μm以下の範囲で均一に塗布したあと、別に用意した窒化アルミニウム焼結体からなる基体を密着させ、焼成し接合したことを特徴とする窒化アルミニウム接合構造体の製造方法」である点一致し、本件発明2は、ペーストに含まれる窒化アルミニウム粉末の「平均粒子径が1.5μm以下」であるのに対し、刊行物1発明Bは、斯かる事項について特段の記載がない点で相違(以下、「相違点2-1」という。)し、本件発明2は、「1〜250kgf/cm2の圧力を加えた状態で1700〜2000℃の温度にて焼成」するのに対し、刊行物1発明Bは、加圧することに関しては特段の記載がなく、温度も「1400℃〜2100℃程度」と本件発明2より広い範囲に規定されている点で相違(以下、「相違点2-2」という。)し、本件発明2は、Ca化合物が「CaCO3やCaNO3」であるのでに対し、刊行物発明Bは、「CaO」である点で相違(以下、「相違点2-3」という。)する。
そこで、相違点2-1及び相違点2-2を検討するに、刊行物2及び刊行物3には、窒化アルミニウム焼結体自体の製造方法については記載されるものの、窒化アルミニウム焼結体を接合する製造方法に関しては何等記載されていない。
そして、本件発明2は、ペーストに含まれる窒化アルミニウム粉末の「平均粒子径が1.5μm以下」とすることを特許明細書に記載されるとおり技術的意義(特に、段落【0029】参照)をもって行い、また、「1〜250kgf/cm2の圧力を加えた状態で1700〜2000℃の温度にて焼成」することも特許明細書に記載されるとおり技術的意義(特に、段落【0022】〜【0034】参照)をもって行うものである。これらの条件を規定することにより他の構成と相まって、特許明細書に記載されるとおり(特に、段落【0044】【表1】参照)の気密かつ強固な接合体を製造できるという効果を有するものである。
してみれば、ペーストに含まれる窒化アルミニウム粉末の「平均粒子径が1.5μm以下」及び「1〜250kgf/cm2の圧力を加えた状態で1700〜2000℃の温度にて焼成」との構成を具備する点で、その余の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5-3本件発明1の特許法第29条の2違反について
引用出願4の出願当初明細書には、上記摘示箇所(4-4-1)、(4-4-2)によれば、「窒化アルミニウム質セラミックスからなる焼結して得た焼結体である複数の基材の接合体であって、基材の接合界面に、窒化アルミニウム質セラミックスからなる再析出相が生成していることを特徴とする窒化アルミニウム質基材の接合体」が記載されているといえる。
また、上記摘示箇所(4-1-3)によれば、引用出願4の出願当初明細書には、斯かる「基材の接合界面に生成される窒化アルミニウム質セラミックスからなる再析出相」が、「接合界面における窒化アルミニウム粒子の平均粒径は小さく、3.0μm以下」であること、「基材などに比べて未だ窒化アルミニウム粒子の成長が進行していないこと」が記載されているといえ、上記(4-4-4)、(4-4-5)によれば、前記「接合界面における窒化アルミニウム粒子の平均粒径は小さく、3.0μm以下」について、具体的には「約2ミクロン」であることが記載されているといえる。
さらに、上記摘示箇所(4-4-4)には、「界面層の厚さは、約10μmであった」、上記摘示箇所(4-4-5)には、「界面層の厚さは、約5μmであった」と記載されるように、斯かる「基材の接合界面に生成される窒化アルミニウム質セラミックスからなる再析出相」の厚さも記載されているといえる。
加えて、上記摘示箇所(4-4-6)ないし(4-4-9)よれば、斯かる「基材の接合界面に生成される窒化アルミニウム質セラミックスからなる再析出相」は、「好ましくY-Ca-Al-O共晶組成の溶融した融材が基材の間から排出されるので、融材の残留はほとんど見られず、窒化アルミニウム質相以外の第三相を介在させることなく、直接に強固に接合されている」ものであることが記載されているといえる。
ここにおいて、引用出願4の出願当初明細書に記載される「窒化アルミニウム質セラミックスからなる焼結して得た焼結体」、「基材」、「基材の接合界面に生成される窒化アルミニウム質セラミックスからなる再析出相」、「窒化アルミニウム質基材の接合体」及び「窒化アルミニウム粒子の平均粒径」は、それぞれ、本件発明1の「窒化アルミニウム焼結体」、「基体」、「結合層」、「窒化アルミニウム接合構造体」及び「窒化アルミニウムの平均結晶粒子径」に相当するので、引用出願4の出願当初明細書に記載される事項を本件特許明細書の記載に沿って整理すると、引用出願4の出願当初明細書には、下記の発明が記載されるといえる。
「窒化アルミニウム焼結体からなる基体同士を窒化アルミニウム焼結体からなる結合層でもって接合一体化してなる窒化アルミニウム接合構造体であって、上記結合層は、窒化アルミニウム相以外の第三相を介在させない窒化アルミニウムからなり、上記結合層を構成する窒化アルミニウムの平均結晶粒子径を、3.0μm以下具体的には約2ミクロンとするとともに、上記結合層の厚み幅を約10μm又は約5μmとしたことを特徴とする窒化アルミニウム接合構造体」
そこで、本件発明1と引用出願4の出願当初明細書に記載された発明を対比すると、引用出願の4の出願当初明細書に記載された発明の「結合層を構成する窒化アルミニウムの平均結晶粒子径を、3.0μm以下具体的には約2ミクロン」及び「結合層の厚み幅を約10μm又は約5μm」との事項は、それぞれ、「結合層を構成する窒化アルミニウムの平均結晶粒子径を、5μm以下」及び「結合層の厚み幅を50μm以下」との事項に技術的に包含されるものであるから、両者は、「窒化アルミニウム焼結体からなる基体同士を窒化アルミニウム焼結体からなる結合層でもって接合一体化してなる窒化アルミニウム接合構造体であって、結合層を構成する窒化アルミニウムの平均結晶粒子径を、5μm以下とするとともに、上記結合層の厚み幅を50μm以下としたことを特徴とする窒化アルミニウム接合構造体」である点で一致し、本件発明1は、「結合層を構成する窒化アルミニウムの平均結晶粒子径が、基体を構成する窒化アルミニウムの平均結晶粒子径よりも小さい」のに対し、引用出願4の出願当初明細書に記載された発明は、斯かる事項について特段の記載がない点で相違(以下、「相違点3-1」という。)し、本件発明1は、「結合層は、Y2O3、Er2O3、CeO2などの希土類酸化物及び/又はCaOを合計で9重量%以下の範囲で含有し、残部が窒化アルミニウムからなる」のに対し、引用出願4の出願当初明細書に記載された発明は、「結合層は、窒化アルミニウム相以外の第三相を介在させない窒化アルミニウムからなる」点で相違(以下、「相違点3-2」という。)する。
次いで、上記相違点を検討して、本件発明1が引用出願4の出願当初明細書に記載された発明と同一であるかを検討する。
相違点3-1を検討するに、引用出願4の出願当初明細書に記載された発明は、上記のとおり「結合層を構成する窒化アルミニウムの平均結晶粒子径を、3.0μm以下具体的には約2ミクロン」であるから、仮に、基体を構成する窒化アルミニウムの平均結晶粒子径が斯かる値より大きければ、「結合層を構成する窒化アルミニウムの平均結晶粒子径が、基体を構成する窒化アルミニウムの平均結晶粒子径よりも小さい」といえるが、窒化アルミニウム焼結体において平均結晶粒子径が斯かる値より小さいものも技術的に周知であるから、斯かる事項について特段の記載がない以上、引用出願4の出願当初明細書に記載された発明が「結合層を構成する窒化アルミニウムの平均結晶粒子径が、基体を構成する窒化アルミニウムの平均結晶粒子径よりも小さい」ものであったと断定することはできない。
また、本件発明1では、「結合層を構成する窒化アルミニウムの平均結晶粒子径が、基体を構成する窒化アルミニウムの平均結晶粒子径よりも小さい」との事項を、特許明細書に記載されるような技術的な思想を以て行い(特に、段落【0021】参照)、所定の効果を得るもの(特に、段落【0045】参照)であるから、「結合層を構成する窒化アルミニウムの平均結晶粒子径が、基体を構成する窒化アルミニウムの平均結晶粒子径よりも小さい」との事項を、単なる設計事項であって新たな効果を奏しないものということもできない。
してみれば、相違点3-1をして、その余の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、引用出願4の出願当初明細書に記載された発明と同一ではない。

6.まとめ
以上のとおりであるから、申立人01、申立人02の理由及び証拠によっては特許明細書の請求項1、2に係る特許は取り消すことはできない。
また、他に特許明細書の請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2005-02-28 
出願番号 特願平9-329338
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C04B)
P 1 651・ 16- Y (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 近野 光知  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 西村 和美
鈴木 毅
登録日 2003-01-17 
登録番号 特許第3389484号(P3389484)
権利者 京セラ株式会社
発明の名称 窒化アルミニウム接合構造体とその製造方法  
代理人 桂田 健志  
代理人 岩崎 幸邦  
代理人 三好 秀和  
代理人 鈴木 壯兵衞  
代理人 伊藤 由布子  

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