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審決分類 審判 査定不服 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1115198
審判番号 不服2002-20799  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-10-25 
確定日 2005-04-04 
事件の表示 平成 4年特許願第266188号「不正行為の調査支援システム」拒絶査定不服審判事件〔平成 6年 4月28日出願公開、特開平 6-119355〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成4年10月15日の出願であって、「不正行為の調査支援システム」に関するものと認められる。

2.原査定の理由
一方、原査定の拒絶の理由の一つの概要は、次のとおりである。
「この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第5項第2号及び第6項に規定する要件を満たしていない。

「請求項10から14」
上記各請求項の「方法」の各ステップを実行するのが、「支援装置」であるのか、「支援装置を操作するオペレータ」であるのか明確でない。
よって、請求項10から14は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものでない。」

3.当審の判断
上記請求項10は、平成14年11月25日付け手続補正により以下のとおり請求項9に補正されている。
「【請求項9】支援装置を用いて次の各プロセスからなる不正手口の事実を調査するための調査方針を得る方法。
(a)入力手段を通して入力された調査対象となる事案情報を、過去の不正事例に基づき、事案情報の特徴と不正手口との対応関係から作成された連想記憶データとを用いて演算し、不正手口を連想する。
(b)前記連想された不正手口と、過去の不正事例に基づき不正手口と調査方針との対応関係から作成された推論データとを用いて演算し、調査方針を推論する。
(c)推論された調査方針を出力表示する。
(d)調査方針ごとに調査の効率(「効果率」の誤記と認める。)を演算する。
(e)調査の効果率の高い順に調査方針を配列する。」
請求項9に記載された構成要件のうち、「演算」、「連想」、「推論」及び「配列」といった動作は人間でもコンピュータでもできる動作であり、その主体が特定されていないために、「支援装置という道具を操作する方法」とも、「支援装置による情報処理方法」とも解釈できる。
したがって、本来別々の請求項に記載すべき「支援装置という道具を操作する方法」及び「支援装置による情報処理方法」という異なる概念を一の請求項に含んでいるために、請求項に記載された事項に基づいて、まとまりのある一の技術的思想がとらえられない。
よって、請求項9の記載は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものとは認められない。
同請求項を引用する請求項10ないし12も同様である。

4.むすび
上記のとおりであるから、本願は、特許法第36条第5項第2号及び第6項の要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。

5.備考
なお、上記3.の記載不備が解消したとしても、以下のとおり、本願の請求項9に係る発明(上記3.参照。以下、「本願発明」という。)は、下記刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(1)引用例
(1-1)本願出願前に頒布された、安田火災海上保険(株)編、「火災保険の理論と実務」、海文堂、昭和53年9月25日、331〜336頁(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 「損害査定業務の基本には適正、迅速、丁寧の3要素がある。保険会社の査定は司法的機能を持つとはいえ、営業である以上当然である。第1の適正とは、適正支払いということであり、保険の公共性・団体性を考慮し不当不正な請求は排除しなければならない。第2の迅速とは被保険者の経済的再建に役立てるため、いかに迅速に支払いをするかということであり、保険の重要な効用の一つである。」(331頁12〜17行)」
イ 「(2)事実調査
(1) 申込書記載事実との照合
保険の目的の所在地・構造・用法・料率などの事実を確かめ、申込書記載内容を調査する必要がある。これらは前述のように具体的妥当性の範囲で処理する。」(332頁22〜26行)
ウ 「(2) 損害額の調査
現場査定にあたっては、まず全体の保険価額の把握が先決であり、損害額の算定は次のステップである。また、査定は常に現場査定が基本である。交通事故傷害保険、ゴルファー保険(用品)などの事故処理の場合のような机上での書類査定とは大きく相違する。調査の途中で不審が生じたときは現場にもどって確認することが必要であり、業者の見積り・写真だけで保険価額及び損害額を算定するのはきわめて困難であるだけでなく、誤りを犯しやすい。現場には必ず何らかの手がかりが残されているものなのである。」(333頁6〜13行)
エ 「9-4-2 査定の実務
(1) 事故受付けと指示事項
保険の目的について損害が生じたことを知ったときは、保険契約者または被保険者は遅滞なく書面をもって、これを保険会社に通知する(火保約款13条、商法658条)ことになっている。通知先は保険会社となっているが、会社の営業課店所でも代理店でもさしつかえなく、また通知方法としては「書面」によることになっているが、実際には口頭・電話などによる例がほとんどである。
損害の通知を受ける際は次の事項を聴取する。
1)契約内容(契約者名、事故日時、事故場所、損害状況、保険種別、証券番号、保険期間、保険金額、罹災目的、分担契約、相手方の連絡先・電話番号)
2)事故内容」(334頁1〜12行)
オ 「(2)現場調査
査定担当者は速やかに罹災現場に赴き、調査に着手しなければならない。調査にあたっては、必ず契約者、被保険者あるいは責任ある代理人の立ち会いを求め、調査に必要な事項を説明し、相手の事情もよく聴取したうえで、調査に協力が得られるよう配慮する。現場調査は損害査定の中心をなすもので、事実関係の正確な把握が損害査定の鍵を握っている。したがって、目前の事故が物語る事実をどのように査定担当者が聴取するかが現場調査の神髄である。現場調査の方法は損害の態様により異なるが、調査の要点は次のとおりである。
1)被保険者のなどの相手方に面接し、状況を聴取
2)罹災物件と保険目的との照合(所在地・構造・用法・面積・品名・数量・家族構成など)
3)損害状況調査
4)損害個所(品)の相互確認および残存損害物の検討
5)被保険利益の確認
6)てん補責任の検討(必要に応じて罹災時間、原因など消防・警察当局への照会および記録の聴取)
7)保険価額・損害額決定について、とるべき査定方法の検討・選択(場合により帳簿記録の現場調査・検討)
8)分担契約の調査
9)被保険者に対し保険金請求に必要な書類提出の依頼・説明」(335頁3〜22行)
カ 「(3)原因の調査
事故原因は、担保事故であるか、約款の免責事由に該当しないか、損害の範囲をどうとらえるか、第三者への損害賠償請求権が発生しないかなどを判断するうえで不可欠であり、罹災状況を克明に調査することによって得られる。原因調査にあたっては、警察・消防署などとよく連絡をとり、十分納得したうえで保険金を支払う必要がある。時には疑わしいが決め手が得られないなど、きわめて困難な場合に直面し、事故原因の究明が長びいて、てん補責任の確定が遅れることもある。このような場合には、あらかじめてん補金のみについて書面で協定しておき、てん補責任が確定したとき、遅滞なく支払いを実行できるよう手段を講じておくことも必要である。とくに出火原因で問題となる放火について、疑いあるケースを以下に挙げる。
1)新規契約で保険の始期に近い罹災
2)新規契約でとび込み契約
3)焼け跡に焼残物の少ないもの
4)経営不振にもかかわらず不相応に多額な契約ならびに著しい超過保険
5)資産状態の不良と営業不振にあるもの
6)火災の発見の遅れたものや火の気のない場所からの出火
7)死蔵貨物(デッド・ストック)の異常累増
8)道路又は区画整理による建物の立ち退き、および移転命令の出されている物件の罹災」(335頁23行〜336頁14行)
これら記載事項によれば、損害査定業務の調査では、不当不正な請求を排除するためにも原因の調査をし、特に出火原因で問題となる放火については、疑いとなるケースがあることが示されているから、これは類型から放火という不正手口が推論できることを意味しており、また、現場調査においては、複数の調査の要点があり、「必要に応じて」原因などを照会したり、「場合により」帳簿記録の現場調査・検討をすることが示されており、さらに複数の要点の調査を一度に行うことができないことは自明であるから、原因の調査を含む複数の調査の要点を優先順位に応じて行うべきことを意味している。また、現場調査においては、想定された不正手口について調査することも当然含まれているのであるから、その調査の要点も不正手口によって決めるべきことも明らかである。してみると、刊行物1には、「損害査定業務の調査において、類型から不正手口を推論し、不正手口から調査の要点を決定し、調査の要点の優先順位を決定する方法」が記載されている。(以下、「引用発明」という。)

(1-2)同じく、本願出願前に頒布された、一色弘之(外5名)、”自動車事故過失相殺割合認定エキスパートシステム-日動火災海上保険株式会社-”、日立評論、日立評論社、1990年11月25日、第72巻、第11号、61〜64頁(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 「自動車事故過失相殺割合認定支援ES(Expert System)は、損害保険会社の自動車保険金支払い調査業務をシステム化したものである。自動車事故の中でも車対車の事故について双方の過失の割合を算出し、保険金支払い調査時の判断支援を行う。このシステムはワークステーション2050/32上で、ES構築ツールES/KERNEL/W(ES/KERNEL/Workstation)を用いて構築した。昭和63年9月から平成元年8月までの約1年間で開発したものである。」(61頁上欄1〜6行)
イ 「この損害調査業務を専門に行う損害調査担当者は、交通法規や過去の判例などさまざまな知識と経験、高度な判断力が要求され、損害調査担当者の育成にも多くの時間と労力が必要とされている。そこで、
(1)損害調査担当者の判断をサポートする。
(2)損害調査担当者育成のための教育用ツールとして使用する。
の2点を主目的として、システムを作成することにした。」(61頁右欄21行〜62頁3行)
ウ 「3.2 システム機能
車対車事故を処理する自動車どうしESの機能階層図を図2に示す。大別すると画面入出力、分割語作成、パターン決定、修正要素決定、説明、事故状況図作画および帳票出力の七つの機能で構成される。
(1) 画面入出力機能は、マンマシンインタフェースとして各画面の入出力を行う。また、事故状況についての入力データをフレームに設定する。
(2) 分割語生成機能は、道路状況画面、走行状態画面でフレームに設定した事故情報を、ルールによって知識整理で定義した語(例として「十字交差点」、「信号機あり」など。以下、分割語と呼ぶ。)に置き換え、プライベートメモとしてビューノートへ出力する。また、分割語の組み合わせから推論できる語(例として「交通整理された交差点」など)もすべてビューノートへ出力する。
(3) パターン決定機能では、上記(2)で生成された分割語のすべての組み合わせの中に、あらかじめフレーム形知識として登録してある事故類型の成立条件と合致するものがあるかどうか推論する。候補の事故類型が推論によって一意に決まる場合、または複数の場合がある。複数の場合は利用者に複数候補のある旨を知らせ、人の判断によって一つの事故類型を決定する。一つの事故類型が決まることで、その事故の契約車両と相手車両に対する基本的な過失割合が決まる。
(4) 修正要素決定機能では、事故類型に基づいて、契約車両と相手車両のそれぞれで相殺する可能性のある過失(以下、修正要素と呼ぶ。)を選び出し、最終的な過失相殺割合を算出する。選別方法として、(2)で生成した分割語から推定できる修正要素はシステムが決定する。決定できないものについては画面に表示し、利用者に判断してもらい、該当する修正要素を決定する。」(62頁右欄19行〜63頁左欄9行)

(2)対比
本願発明と引用発明とを対比すると、前者の「調査の方針」は後者の「調査の要点」に相当するから、両者は、
「次の各プロセスからなる不正手口の事実を調査するための調査方針を得る方法。
(a)不正手口を連想する。
(b)前記連想された不正手口から調査方針を推論する。」点で一致するが、以下の点で相違する。

(相違点1)本願発明が、支援装置を用いて方法を実行するのに対し、刊行物1に記載されたものでは、人手で実行する点。
(相違点2)不正手口を連想するために、本願発明では、入力手段を通して入力された調査対象となる事案情報を、過去の不正事例に基づき、事案情報の特徴と不正手口との対応関係から作成された連想記憶データとを用いて演算するのに対し、引用発明では、類型から不正手口を連想する点。
(相違点3)不正手口から調査方針を推論するために、本願発明が、過去の不正事例に基づき不正手口と調査方針との対応関係から作成された推論データとを用いて演算するのに対し、引用発明ではどのように類推するかは明示されていない点。
(相違点4)本願発明では、(c)推論された調査方針を出力表示する。(d)調査方針ごとに調査の効果率を演算する。(e)調査の効果率の高い順に調査方針を配列する。の各プロセスを有するのに対し、引用発明ではこのようなプロセスは有さず調査の方針の優先順位を決定するにとどまる点。

(3)判断
上記(相違点1)について検討すると、刊行物2には、損害調査担当者の判断をサポートするためにエキスパートシステムを用いることが記載され((1-2)のイ参照。)ており、これは損害調査業務に支援装置を用いることを示しており、損害調査業務にさまざまな知識と経験、高度な判断力が要求されることからこれをサポートするために、引用発明の損害査定業務の調査に支援装置を用いることは当業者が容易になし得ることである。
上記(相違点2)について検討すると、引用発明は類型から不正手口を連想するものであるが、刊行物2には、入力手段から入力された事故状況(本願発明の「事案情報」に相当。)から分割語(本願発明の「事案情報の特徴」に相当。)を生成し事故類型を推論することが記載されて((1-2)のウ参照。)おり、支援効率を高めるためには処理をなるべく自動化した方がよいから、刊行物2記載の前記技術を引用発明に組み合わせて類型を自動生成して不正手口を連想するステップとすることは当業者が容易になし得ることである。なお、この際に、エキスパートシステムは専門家の知識をデータベース化した知識ベースを用いるものであり、また、調査業務担当者の知識が経験に基づいていることは明らかであるから、「過去の不正事例に基づき」連想のためのデータを作成することも容易に設計しうることである。
上記(相違点3)について検討すると、(相違点2)と同様に、引用発明の不正手口から調査方針を推論するために、周知のエキスパートシステムを用いて自動化することは当業者が容易になし得ることである。この際に、「過去の不正事例に基づき」データを作成することも容易に設計しうることである。
上記(相違点4)について検討すると、引用発明の調査の方針の優先順位を決定する際には、その効果を考慮して効果の高いものを優先すべきことは自明のことである。そして、上記(相違点1)で検討したように、支援装置を用いるのであれば、その結果を操作者に出力表示しなければならず、この際に効果率の高い順に配列することも、調査の方針を出力表示する際に当業者が普通に思いつくことである。
 
審理終結日 2005-02-04 
結審通知日 2005-02-08 
審決日 2005-02-21 
出願番号 特願平4-266188
審決分類 P 1 8・ 534- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 丹治 彰  
特許庁審判長 小川 謙
特許庁審判官 深沢 正志
江頭 信彦
発明の名称 不正行為の調査支援システム  
代理人 名塚 聡  
代理人 岡田 淳平  
代理人 森 秀行  
代理人 吉武 賢次  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 永井 浩之  
代理人 黒瀬 雅志  

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