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審決分類 審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04B
管理番号 1115326
審判番号 不服2003-15877  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-05-17 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-08-15 
確定日 2005-04-11 
事件の表示 平成 6年特許願第282995号「アラーム信号発生回路」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 5月17日出願公開、特開平 8-125610〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 A.手続の経緯・本願発明の要旨
本願は、平成6年10月21日の出願であって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成12年9月28日付け、平成15年6月24日付け,平成15年9月16日付け及び平成16年9月21日付けの各手続補正書によって補正された「アラーム信号発生回路」に関するものと認められる。

B.当審の拒絶理由
当審で平成16年7月16日付けで通知した拒絶理由の内、理由B.は、
「B.本件出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項並びに第5項及び第6項に規定する要件を満たしていない。

本願発明の目的は、「受信信号との比較基準となるアラーム基準信号を温度及び電源電圧の変動による影響を受けずに設定し得るアラーム信号発生回路を提案」(段落【0008】)することにあり、本願明細書の発明の詳細な説明の欄の段落【0011】〜【0024】において、図2に記載の回路の動作について詳述し(特に、段落【0018】の【数1】〜【数5】の数式及びそれらの説明を参照のこと。)、その後、段落【0025】において、「本発明はこれに限らず、図3に示すアラームレベル設定回路30のように、トランジスタQ2を接続しない回路構成を用いても良い。」と述べ、図3に記載の回路でも本願発明の作用効果を奏するとしている。
しかしながら、図3の回路において、トランジスタのエミッタ接地増幅率をhFEとし、回路の各部における電流及び電圧を下記参考図の通りとすると、この回路の温度特性を調べるため、トランジスタのベース-エミッタ間電圧降下をVBE、ベース-コレクタ間漏れ電流をICBOとする。VBE及びICBOはいずれも温度依存性を持つことが知られている。そして、出力端子間には負荷インピーダンスZLが接続されているものとする。
そして、バンドギャップ基準回路からの出力電圧VCSは、明細書の段落【0009】に「温度及び電源電圧の変動に影響されない定電圧でなる基準電圧(VCS)を供給するバンドギヤツプ基準回路(22)」と記載されているように、温度依存性及び電源電圧依存性が無い一定の定数であるものとする。
下記参考図の回路の接点方程式は下図右側に記載した9本の式で表され、これを回路の出力電圧Voutについて解くと、参考図下方に記載した通りとなる。hFEは1よりも圧倒的に大きな数であるから、hFE/(1+hFE)≒1と近似して良く、この結果は、
Vout=(R11VCS-R11VBE+R11R13ICBO)ZL/(R13(R11+R12+ZL))
となる。この式は温度依存性のパラメータVBE及びICBOを含んでいるから、出力電圧Voutは明らかに温度の変動による影響を受けるものである。
したがって、図3の回路の出力電圧Voutは温度依存性を有しているので、温度の変動に影響されない出力電圧を得るという、本願発明の所期の目的を達成し得ないことは明らかである。
したがって、本願の発明の詳細な説明の欄の記載は、発明を容易に実施できる程度に十分に記載されているものとは認められない(図3の回路であっても、温度の変動に影響されない出力電圧を得ることができるのであれば、そのことを、数式を用いて証明すべきである)。
(以下、参考図等省略)」
というものである。

C.意見書
上記拒絶理由に対して、審判請求人は、平成16年9月21日付けで明細書を補正するとともに、意見書を提出し、概要以下のように主張している。
「〔3〕 特許法第36条第4項並びに第5項及び第6項の拒絶理由について
本願発明の構成要件の1つであり、上記第2の特徴点としても提示しているアラーム基準信号設定回路においてアラーム基準信号が温度依存性を有しているため、本願発明の所期の目的を達成し得ないという指摘に対して、電圧供給回路の一構成を示して以下に説明する。
(FIG.1省略)
まず例えばFIG1に示すように電圧供給回路に設けられたバンドギヤツプリフアレンス部BGRにおいて、エミツタサイズの異なるトランジスタQ1及びQ2に生じるベース・エミツタ間の電圧降下をそれぞれVBE(Q1)及びVBE(Q2)とし、当該トランジスタQ2のエミツタ端子に接続された抵抗R2にかかる電圧をΔVBEとすると、
ΔVBE=VBE(Q1)-VBE(Q2)……(1)
となる。そしてトランジスタQ2のエミツタサイズがトランジスタQ1のエミツタサイズのA倍であると仮定すると、(1)式は、
ΔVBE=(KT/q)ln(I1/IS)-(KT/q)ln(I2/(A×IS))
=(KT/q)ln((A×I1)/I2)……(2)
となる。(Kはボルツマン定数、Tは絶対温度、qは電子の電荷、ISはトランジスタ逆方向飽和電流)
この場合、I1は、トランジスタQ1に流れる電流であり、
I1=(VOUT-VBE(Q1))/R1
となる。またI2は、トランジスタQ2に流れる電流であり、トランジスタQ3に生じるベース・エミツタ間の電圧降下をVBE(Q3)とすると、
I2=(VOUT-VBE(Q3))/R3
となる。そしてVBE(Q1)及びVBE(Q3)をほぼ等しいと仮定すると、
I1/I2=R3/R1……(3)
となり、かかる(3)式を上記(2)式に代入すると、
ΔVBE=(KT/q)ln((A×R3)/R1)……(4)
となる。ここでΔVBEは、抵抗R2の両端にかかる電圧であるから、トランジスタQ2
のコレクタに接続された抵抗R3の両端にかかる電圧VR3は、
VR3=(R3/R2)(KT/q)ln((A×R3)/R1)……(5)
となる。
従つてバンドギヤツプリフアレンス部BGRの出力電圧VOUTは、
VOUT=VBE(Q3) +(R3/R2)(KT/q)ln((A×R3)/R1)……(6)
となる。
一方、(6)式の温度影響度は、
δVOUT/δT
=δVBE(Q3)/δT
+δ〔(R3/R2)(KT/q)ln((A×R3)/R1)〕/δT
=δVBE(Q3)/δT
+(R3/R2)(K/q)ln((A×R3)R1)……(7)
となる。かかる(7)式における前項のδVBE(Q3)/δTは、ほぼ-2〔mV/deg〕であるから、後項の(R3/R2)(K/q)ln((A×R3)/R1)を+2〔mV/deg〕となるように抵抗値及びエミツタサイズ比を設定する。すなわち、K及びqは物理定数であり、K=1.38×10^-23〔J/K〕及びq=1.602 ×10^-19〔C〕であるから、バンドギヤツプリフアレンス部BGRを(R3/R2)ln((A×R3)/R1)が約23となるように設計すれば、全体の温度係数を“0”にし得る。また上記(6)式には、電源電圧VCCを含む項が存在していない。このため出力電圧VOUTは、電源電圧VCCの変動に依存してはいない。
従つて上記(6)式に対し、(R3/R2)ln((A×R3)/R1)=約23を代
入すると、バンドギヤツプリフアレンス部BGRの出力電圧VOUTは、温度及び電源電
圧に依存しない1.数〔V〕の定電圧となる。」(第5頁6行〜第6頁第22行目)
と主張している。

D.審尋
そこで、当審において、平成16年10月25日付けで、
「この審判事件について、下記の点に対する回答書を、この審尋の発送の日から60日以内に提出して下さい。

本願明細書及び平成16年9月21日付け提出の意見書の記載では、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至10に記載の発明のアラーム信号発生回路につき、請求項1に係る発明においては、第1のトランジスタのベース端子に対して、基準電圧を供給することで、第1のトランジスタのエミッタ端子及び第2の電源間に温度及び電源電圧の変動に影響されない定電圧が発生される理由及び当該定電圧に応じて第1の抵抗の両端に温度及び電源電圧の変動に影響されない第2の電圧が発生される理由が不明であり、又、請求項4に係る発明においても、第2のトランジスタのベース端子に基準電圧が供給された結果、第2のトランジスタのエミッタ端子及び電源間に温度及び電源電圧の変動に影響されない定電圧が発生される理由が不明であり、更に、請求項5に係る発明においても、第3のトランジスタのベース端子に基準電圧が供給された結果、第3のトランジスタのエミッタ端子及び第2の電源間に温度及び電源電圧の変動に影響されない定電圧が発生される理由が不明であるので、その理由を具体的に説明されたい。
更にいうならば、本願請求項1に係る発明のアラーム基準信号設定回路の構成は、具体的には、本願図面の図4に示されている回路から抵抗R12を除去し、第1の電源であるVccを第1の出力端子としたものと認められるが、そのような1個のトランジスタQ1と抵抗R11とR13のみからなる単純な構成の回路から、何故、温度及び電源電圧の変動に影響されない定電圧が得られるのか、その理論的理由が本願明細書等には記載されていないので、このような回路でも定電圧が得られる理由を説明されたい。

なお、本願発明に対して、当審において、平成16年7月16日付けで拒絶の理由を通知し、その中の「B.」項において、図3に記載の回路(平成16年9月21日付け提出の手続補正前の本願特許請求の範囲の請求項1に係る発明における「アラーム基準信号設定回路」は、具体的には、図3に示されている回路であるものと認められる。)で本願発明の作用効果が得られる理由が不明である旨を通知し、これに対して、審判請求人は、平成16年9月21日付け提出の意見書中の「【意見の内容】 〔3〕 特許法第36条第4項並びに第5項及び第6項の拒絶理由について」の項で、「FIG.1」及び「FIG.2」を用いて、FIG.2におけるトランジスタQ4のエミッタ端子と第2の電源間に発生する電圧を第2のオペアンプOP2にフィードバックすることで、第2のオペアンプOP2は、トランジスタQ4のエミッタ端子と第2の電源間に発生する電圧に対し、トランジスタQ4のベース・エミッタ間の電圧降下に応じて生ずる変動を相殺するような出力電圧をベース端子に供給することによって、エミッタ端子と第2の電源間の電圧を一定にするものである旨主張している。しかしながら、本願発明の明細書及び図面には、アラーム基準信号設定回路のバンドギャップ基準回路から基準電圧がベースに供給されるトランジスタのエミッタ端子等からバンドギャップ基準回路側へフィードバックすることは記載されておらず、又、そのことを示唆する記載も存在しないので、審判請求人の該意見書中における係る主張は、本願発明と前提を異にしているものであり、採用できないものである。」
という審尋を発し、回答を求めた。

E.回答書
これに対し、審判請求人は、平成16年12月28日付けで回答書を提出し、概要以下のように主張している。
「本願発明は、電圧供給回路からアラーム基準信号設定回路の第1乃至第3のトランジスタのベース端子に対して、当該第1乃至第3のトランジスタのエミツタ端子及び第2の電源間に温度及び電源電圧の変動に影響されない定電圧を発生させるための基準電圧を供給する。
つまり本願発明は、電圧供給回路から、第1乃至第3のトランジスタのベース端子に対して、温度依存性を有し、ベース・エミツタ間の電圧降下(VBE)を相殺する電圧の項と、温度及び電源電圧の変動に影響されず、エミツタ端子及び第2の電源間に定電圧を発生させる電圧の項とを有する基準電圧を供給する。これにより本願発明は、第1乃至第3のトランジスタのベース・エミツタ間の電圧降下(VBE)を相殺して、これら第1乃至第3のトランジスタのエミツタ端子及び第2の電源間に定電圧を発生させる。
この点について、例えば刊行物「入門トランジスタ回路(1) 第77頁及び第78頁」(著者 山田 泰三、発行者 株式会社オーム社、昭和56年3月20日第1版第13刷発行)にも記載されているように、トランジスタのエミツタ端子を抵抗を介して第2の電源に接続し、かかるトランジスタのベース端子に電圧を供給した場合、エミツタ端子及び第2の電源間の抵抗には電圧が発生するものの、ベース・エミツタ間には温度依存性を有する電圧降下(VBE)が生じることは周知のことである。
このため本願発明のように『電圧供給回路から第1のトランジスタのエミツタ端子及び第2の電源間に温度及び電源電圧の変動に影響されない定電圧を発生させるための基準電圧を供給する』と主張すれば、第1乃至第3のトランジスタにおいてベース・エミッタ間の電圧降下(VBE)を消去するようにして、エミツタ端子及び第2の電源間に温度及び電源電圧の変動に影響されない定電圧を発生させることは当業者にとつて自明の事項である。
ただし第1乃至第3のトランジスタのエミツタ端子及び第2の電源間に、温度及び電源電圧の変動に影響されない定電圧を発生させるための基準電圧を生成する電圧供給回路としては、種々の構成がある。このため本願発明では、出願当初の明細書において『エミツタ端子と第2の電源間に温度及び電源電圧の変動に影響されない定電圧を発生するような基準電圧をベース端子に供給する』という記載にとどめた。なお本願発明では、出願当初の明細書において、段落番号〔0010〕及び〔0037〕に『エミツタ端子と第2の電源間に温度及び電源電圧の変動に影響されない定電圧を発生するような基準電圧をベース端子に供給する』と記載している。また本願発明では、出願当初の明細書において、かかる『エミツタ端子と第2の電源間に温度及び電源電圧の変動に影響されない定電圧を発生するような基準電圧をベース端子に供給する』と言う記載に対応させて、段落番号〔0016〕、〔0017〕、〔0019〕、〔0021〕及び〔0022〕に、『エミツタ端子及びと負電源間に温度及び電源電圧の変動に影響されない定電圧が発生する』と記載している。」(第1頁第21行〜第2頁末行)

「(1) バンドギヤツプリフアレンス回路部の基本的な考え方
例えばFIG1(図示省略)に示すように電圧供給回路に設けられるバンドギヤツプリフアレンス回路部BGR1においては、基本的にエミツタサイズの異なるトランジスタQ11及びQ12に生じるベース・エミツタ間の電圧降下をそれぞれVBE(Q11)及びVBE(Q12)とし、当該トランジスタQ12のエミツタ端子に接続された抵抗R22にかかる電圧をΔVBEとすると、かかる電圧ΔVBEは、」(第3頁第4〜10行目)
「そしてかかる(9)式における前項のδVBE(Q13)/δTは、ほぼ-2〔mV/deg〕であるから、後項の(R23/R22)(K/q)ln((A×R23)/R21)を+2〔mV/deg〕となるように抵抗値及びエミツタサイズ比を設定する。すなわち、K及びqは物理定数であり、K=1.38×10^-23〔J/K〕、q=1.602 ×10^-19〔C〕であるから、バンドギヤツプリフアレンス回路部BGR1を、(R23/R22)ln((A×R23)/R21)が約23となるように設計すれば、全体の温度係数を“0”にし得る。
ところで上記(8)式には、電源電圧VCCを含む項が存在していない。このため出力電圧VOUTは、電源電圧VCCの変動に依存してはいない。従つて上記(8)式に対し、(R23/R22)ln((A×R23)/R21)=約23を代入すると、バンドギヤツプリフアレンス回路部BGR1の出力電圧VOUTは、温度及び電源電圧に依存しない1.数〔V〕の定電圧となる。」(第4頁下から第3行〜第5頁第9行目)
「例えばFIG3に示すバンドギヤツプリフアレンス回路部BGR2において、R32=4r、R33=r、R34=r/3、A=7、R35=4r、R36=rとすると、δVBE(Q21)/δTに対する温度特性をキャンセルして、VCS_Eが 350〔mV〕となり、温度及び電源電圧に依存しない電圧を得ることができる。」(第8頁下から第5行〜同頁末行)
等と主張している。

F.審判請求人の主張のまとめ
これらを総合すると、審判請求人の主張は、要するに、本願発明は、アラーム基準信号設定回路が定電圧を発生するようにするため、-2mV/deg程度の温度特性を有する基準電圧供給回路電圧によるアラーム基準信号設定回路の出力電圧の変動を防止するようにするために、アラーム基準信号設定回路における各素子の値を、基準電圧供給回路の温度特性による変動を相殺するような値に選ぶようにしたものであり、このような、トランジスタのエミツタ端子を抵抗を介して第2の電源に接続し、かかるトランジスタのベース端子に電圧を供給した場合、エミツタ端子及び第2の電源間の抵抗には電圧が発生するものの、ベース・エミツタ間には温度依存性を有する電圧降下(VBE)が生じることは周知のことである。このため本願発明のように『電圧供給回路から第1のトランジスタのエミツタ端子及び第2の電源間に温度及び電源電圧の変動に影響されない定電圧を発生させるための基準電圧を供給する』と主張すれば、第1乃至第3のトランジスタにおいてベース・エミッタ間の電圧降下(VBE)を消去するようにして、エミツタ端子及び第2の電源間に温度及び電源電圧の変動に影響されない定電圧を発生させることは当業者にとつて自明の事項である、というものである。

G.当審の判断
そこで、審判請求人の主張の当否について以下判断する。
(1)平成16年9月21日付手続補正書により補正された明細書の発明の詳細な説明の段落【0009】,【0010】及び【0032】には、
「【0009】
【課題を解決するための手段】
かかる課題を解決するため本発明においては、入力信号(S1)の有無をアラーム基準信号(S10)と検出信号(S4)との比較結果に基づいて判別し、アラーム信号(S12)を発生するアラーム信号発生回路(21)において、コレクタ端子(26)を第1の抵抗(R11)を介して第1の電源(VCC)に接続し、エミツタ端子(27)を第2の抵抗(R13)を介して第2の電源(VEE)に接続する電流供給用の第1のトランジスタ(Q1)と、第1の電源(VCC)から第1の電圧(VU2)を出力する第1の出力端子(25)と、当該コレクタ端子(26)に接続され、第1の抵抗(R11)により電圧降下された第2の電圧(VD2)を出力する第2の出力端子(24)とを有するアラーム基準信号設定回路(23)と、第1のトランジスタ(Q1)のベース端子(28)に対して、エミツタ端子(27)と第2の電源(VEE)間に温度及び電源電圧の変動に影響されない定電圧を発生させるための基準電圧(VCS)を供給する電圧供給回路(22)とを設けるようにし、第1のトランジスタ(Q1)のベース端子(28)に基準電圧(VCS)を供給してエミツタ端子(27)及び第2の電源(VEE)間に温度及び電源電圧の変動に影響されない定電圧を発生させ、当該定電圧に応じて第1の抵抗(R11)の両端に温度及び電源電圧の変動に影響されない第2の電圧(VD2)を発生させることにより、第1の出力端子(25)より出力される第1の電圧(VU2)と第2の出力端子(24)より出力される第2の電圧(VD2)との電位差からアラーム基準信号(S10)を生成するようにした。
【0010】
【作用】
従つて、第1のトランジスタ(Q1)のベース端子(28)に対し、エミツタ端子(27)及び第2の電源(VEE)間に温度及び電源電圧の変動に影響されない定電圧を発生させるための基準電圧(VCS)を供給することにより、これに応じて第2の抵抗(R11)の両端に温度及び電源電圧の変動に影響されない第2の電圧(VD2)を発生させ、その結果、第1の出力端子(25)より出力される第1の電圧(VU2)と、第2の出力端子(24)より出力される第2の電圧(VD2)との電位差から、温度及び電源電圧の変動に影響されない定電圧でなるアラーム基準信号(S10)を生成することができる。」

「【0032】
さらに上述の実施例においては、電圧供給回路として同一基板上の素子によつて形成されたバンドギヤツプ基準回路を用いた場合について述べたが、本発明はこれに限らず、一般に、エミツタ端子27と負電源VEE間に温度及び電源電圧の変動に影響されない定電圧を発生させる電圧供給回路であればどのような回路構成でも良く、さらに同一基板上の素子によつて構成せずとも外部から、エミツタ端子27と負電源VEE間に温度及び電源電圧の変動に影響されない定電圧を発生させるような基準電圧VCSを供給するようにしても良い。」
と記載されている。

又、その他の段落には、
「【0008】
本発明は・・・受信信号との比較基準となるアラーム基準信号を温度及び電源電圧の変動による影響を受けずに設定し得るアラーム信号発生回路を提案しようとするものである。」

「【0015】
図2に示すように、アラームレベル信号S10はアラームレベル設定回路23において、出力端子24からの出力VD2と出力端子25からの出力VU2との電位差として生成される。出力端子24及び25は、抵抗R10によつて電源電圧VCCから電圧降下されたA点にそれぞれ抵抗R11及びR12を介して接続される。
【0016】
出力端子24には電流供給用のトランジスタQ1のコレクタ端子26が接続される。トランジスタQ1のエミツタ端子27は抵抗R13を介して負電源VEEに接続され、ベース端子28にはバンドギヤツプ基準回路22から基準電圧VCSが供給される。これによりエミツタ端子27と負電源VEE間に温度及び電源電圧の変動に影響されない定電圧が発生する。この結果、抵抗R13に流れた電流I1が抵抗R11に流れることにより、抵抗R11の両端に温度及び電源電圧の変動に影響されない定電圧を発生させることができる。
【0017】
同様にコレクタ端子29をA点に接続しエミツタ端子30を抵抗R14を介して負電源VEEに接続するトランジスタQ2においてもベース端子31に供給される基準電圧VCSによつてエミツタ端子30と負電源VEE間に定電圧が発生し、抵抗R10の両端に定電圧を発生させる。
【0018】
これにより開放端として用いられる出力端子25からの出力電位VU2は次式
【数1】(数式省略(以下、同じ))
によつて表される。一方、出力端子24は抵抗R11に電流が流れるため、出力電位VD2は次式
【数2】
によつて表される。これにより出力VU2と出力VD2との間の電位差でなるアラームレベル信号S10の電圧が次式
【数3】
によつて表される。Q1のトランジスタのエミツタと負電源VEE間の電圧は周囲温度及び電源電圧の変動に影響されない定電圧であり、Vcontとすると、抵抗R13を流れる電流I1は次式
【数4】
に示されるようになり、よつてアラームレベル信号S10の出力VS10は数式(3)と数式(4)により次式
【数5】
によつて表される。
【0019】
このようにトランジスタQ1及びQ2のそれぞれのベース端子28及び31に基準電圧VCSを供給することによりトランジスタQ1及びQ2のエミツタ電圧が周囲温度及び電源電圧の変動に影響されない定電圧となり、これにより出力端子24及び25からは安定した出力電位VU2、VD2が得られ、この出力電位VU2、VD2の電位差によつて生成されるアラームレベル信号S10の出力を安定したものとすることができる。」

「【0021】
以上の構成において、アラーム信号設定回路23の出力トランジスタQ1のベース端子28にバンドギヤツプ基準回路22から基準電位VCSが供給されると、トランジスタQ1のエミツタ端子27と負電源VEE間には温度及び電源電圧の変動に影響されない定電圧が発生し、抵抗R13に流れた電流I1が抵抗R11に流れることにより、抵抗R11の両端には温度及び電源電圧の変動に影響されない定電圧が得られる。一方、出力端子25には抵抗R11の正電源VCCに近い側のA点の電圧が出力される。よつてこの出力端子24と出力端子25との電位差を用いて温度及び電源電圧の変動に影響されないアラームレベル信号S10を設定することができる。
【0022】
以上の構成によれば、バンドギヤツプ基準回路22から供給される基準電圧VCSを用いて電流供給用のトランジスタQ1のエミツタ端子27と負電源VEE間に温度及び電源電圧の変動に影響されない定電圧が発生する。これにより抵抗R13に流れる電流I1 が抵抗R11に流れることにより、出力端子24及び25の電圧を温度及び電源電圧の変動に影響されない安定な出力電圧とすることができ、これによりアラームレベル信号S10を安定に設定することができる。」
と記載されている(なお、これらの個所は出願当初のままであり、補正はされていない)。

(2)これらの記載によると、段落【0032】には、本願発明の電圧供給回路としては、エミッタ端子と負電源間に温度及び電源電圧の変動に影響されない定電圧を発生させる電圧供給回路であればどのような回路構成のものでもよいことが記載されており、本願発明における基準電圧供給回路はバンドギャップ基準回路に限定されるものではないので、たとえ、トランジスタのエミッタ端子を抵抗を介して第2の電源に接続し、かかるトランジスタのベース端子に電圧を供給した場合、エミッタ端子及び第2の電源間の抵抗には電圧が発生するものの、ベース・エミッタ間には温度依存性を有する電圧降下(VBE)が生じることは周知のことであっても、本願発明における電圧供給回路がバンドギャップ基準回路に限られるものではない以上、本願発明の電圧供給回路の特性が審判請求人が周知であると主張している特性のものに限られるものではないので、審判請求人の係る主張は、本願明細書の記載に基づいた主張であるものとは認めることはできず、採用することはできない。

更にいうならば、本願発明における電圧供給回路がバンドギャップ基準回路であるとしても、本願明細書中には、基準電圧VCSを供給する基準電圧供給回路が例えば、-2mV/deg程度の温度依存特性を有するものであること、及び、アラーム信号設定回路が該基準電圧供給回路の出力電圧の温度依存特性による電圧変動を補償するような特性を付与されることによって、基準電圧供給回路が有している温度依存特性による電圧変化を相殺するようにして結果としてアラーム基準信号として温度及び電圧の変動に影響されない出力信号を得るようにしたことについての記載はなく、又、それらのことが当業者に自明の事項にすぎないものであると認めることもできない。したがって、この点からいっても、審判請求人の係る主張は、本願明細書の記載に基づいた主張であるものと認めることはできず、採用することはできない。

又、本願明細書のそのほかの記載にも、審判請求人の主張を裏付ける記載は存在しない。

したがって、本願明細書の記載は依然として不備であり、先の、平成16年7月16日付けで通知した拒絶理由の内、理由B.は依然として解消していない。

H.むすび
以上のとおりであるので、本願は、明細書及び図面の記載が不備であり、特許法第36条第4項の要件を満たしていないので、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-02-09 
結審通知日 2005-02-10 
審決日 2005-02-23 
出願番号 特願平6-282995
審決分類 P 1 8・ 531- WZ (H04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 丸山 高政  
特許庁審判長 川名 幹夫
特許庁審判官 松浦 功
橋本 正弘
発明の名称 アラーム信号発生回路  
代理人 田辺 恵基  
代理人 田辺 恵基  

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