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審決分類 |
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない A41C 審判 訂正 2項進歩性 訂正しない A41C |
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管理番号 | 1115354 |
審判番号 | 訂正2004-39198 |
総通号数 | 66 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1995-12-05 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2004-08-19 |
確定日 | 2005-04-11 |
事件の表示 | 特許第3020046号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
I 手続の経緯 特許第3020046号発明についての手続の経緯は、およそ次のとおりである。 (1)特許出願(特願平6-130948号) 平成6年5月19日 (2)特許権の設定の登録 平成12年1月14日 (3)倉内基弘より特許異議の申立て 平成12年9月13日 (4)中尾浩史より特許異議の申立て 平成12年9月12日 (5)訂正請求 平成13年3月27日 (6)訂正容認の上、取消決定(異議2000-73467号) 平成13年8月22日 (7)取消決定取消の訴え〔東京高等裁判所平成13年(行ケ)第439号〕 平成13年10月4日 (8)訂正審判請求 (訂正2002-39069号) 平成14年3月8日 (9)請求不成立の審決 平成14年8月6日 (平成16年4月16日 確定) (10)訂正審判請求 (訂正2004-39087号) 平成16年4月27日 (11)訂正拒絶理由通知書の発送 平成16年7月21日 (12)審判請求取下 平成16年8月23日 (13)本件審判の請求 平成16年8月19日 (14)訂正拒絶理由通知書の発送 平成16年11月30日 (15)意見書の提出 平成16年12月28日 II 請求の趣旨 1 本件審判の請求の要旨は、特許第3020046号発明の願書に添付した明細書について、審判請求書に添付した訂正明細書(以下「訂正明細書」という。)のとおりに訂正をすることを求めるものである。 2 訂正の内容は次の(1)〜(8)のとおりである。 (1)特許請求の範囲の請求項1の記載「オーステナイト系ステンレス鋼であり、全体が特に非磁性化されたステンレス鋼を冷間加工して成り且つ冷間加工後も非磁性とされたことを特徴とする下着用金属構成物。」を「コンベヤタイプ検針器に通過せしめられるブラジャーのカップ周部に挿入される2本1組の保形用ワイヤーであって、オーステナイト系ステンレス鋼であり、全体が特に非磁性化されたステンレス鋼を冷間加工して成り且つ冷間加工後も非磁性とされ、前記ワイヤー1本あたりの磁性を鉄球換算0.7mmφ以下に構成されたことを特徴とするブラジャー用金属構成物。」に訂正する。 (2)特許請求の範囲の請求項2の記載「オーステナイト系ステンレス鋼であり、化学成分がNを0.1%以上含有することにより特に非磁性化されたステンレス鋼を冷間加工して成り且つ冷間加工後も非磁性とされたことを特徴とする下着用金属構成物。」を「コンベヤタイプ検針器に通過せしめられるブラジャーのカップ周部に挿入される2本1組の保形用ワイヤーであって、オーステナイト系ステンレス鋼であり、化学成分がNを0.1%以上含有することにより特に非磁性化されたステンレス鋼を冷間加工して成り且つ冷間加工後も非磁性とされ、前記ワイヤー1本あたりの磁性を鉄球換算0.6mmφ相当又は鉄球換算0.5mmφ相当に構成されたことを特徴とするブラジャー用金属構成物。」に訂正する。 (3)特許請求の範囲の請求項3を削除する。 (4)明細書の段落【0001】の記載「【産業上の利用分野】本発明は、下着用の金属構成物に関する。」を「【産業上の利用分野】本発明は、下着用の金属構成物、特に、ブラジャーのカップ周部に挿入される保形用ワイヤーに関する。」に訂正する。 (5)明細書の段落【0021】の記載「従って、本発明は、Nを0.1%以上含有することにより特に非磁性化され且つCuを含有することにより冷間加工容易化されたオーステナイト系ステンレス鋼を出発物質とし、該出発物質を冷間加工することにより目的物質としての下着用の金属構成物を得るものであり、このような製造方法の点においても特徴がある。」を「本発明の第一の特徴によれば、コンベヤタイプ検針器に通過せしめられるブラジャーのカップ周部に挿入される2本1組の保形用ワイヤーであって、オーステナイト系ステンレス鋼であり、全体が特に非磁性化されたステンレス鋼を冷間加工して成り且つ冷間加工後も非磁性とされ、前記ワイヤー1本あたりの磁性を鉄球換算0.7mmφ以下に構成されたブラジャー用金属構成物が提供される。また、本発明の第二の特徴によれば、コンベヤタイプ検針器に通過せしめられるブラジャーのカップ周部に挿入される2本1組の保形用ワイヤーであって、オーステナイト系ステンレス鋼であり、化学成分がNを0.1%以上含有することにより特に非磁性化されたステンレス鋼を冷間加工して成り且つ冷間加工後も非磁性とされ、前記ワイヤー1本あたりの磁性を鉄球換算0.6mmφ相当又は鉄球換算0.5mmφ相当に構成されたブラジャー用金属構成物が提供される。」に訂正する。 (6)明細書の段落【0049】を削除する。 (7)明細書の段落【0050】の記載「【発明の効果】下着に残存針が含まれるときの危険性は、外装着等の一般の被服に残存針が含まれるときの危険性よりも遙かに高いにも拘わらず、現状の金属構成物を備えた下着では検針器による探針を行い得ないのが現状である。即ち、金属構成物を備えた下着を検針器に通過せしめると、ほとんどの場合、検針器の感度をクリアすることができず、異常信号を誤って発してしまうからである。この点について、本発明によれば、当該金属構成物を、全体が特に非磁性化されたオーステナイト系ステンレス鋼により形成したので、このような誤動作を生じることなく検針器所定の感度をクリアすることが可能になり、その結果、検針の必要性が最も高い下着について、検針器による検針作業を可能にするという所期目的を達し得る効果がある。」を「【発明の効果】下着に残存針が含まれるときの危険性は、外装着等の一般の被服に残存針が含まれるときの危険性よりも遥かに高いにも拘わらず、現状の金属構成物を備えた下着では検針器による探針を行い得ないのが現状である。即ち、金属構成物を備えた下着を検針器に通過せしめると、ほとんどの場合、検針器の感度をクリアすることができず、異常信号を誤って発してしまうからである。この点について、本発明によれば、当該金属構成物を、全体が特に非磁性化されたオーステナイト系ステンレス鋼により形成したので、このような誤動作を生じることなく検針器所定の感度をクリアすることが可能になる。特に、本発明におけるコンベヤタイプ検針器に通過せしめられるブラジャーのカップ周部に挿入される2本1組の保形用ワイヤーは、オーステナイト系ステンレス鋼であり、全体が特に非磁性化されたステンレス鋼を冷間加工して成り且つ冷間加工後も非磁性とされており、請求項1に記載の本発明によれば、ワイヤー1本あたりの磁性が鉄球換算0.7mmφ以下に構成され、請求項2に記載の本発明によれば、ワイヤー1本あたりの磁性が鉄球換算0.6mmφ相当又は鉄球換算0.5mmφ相当に構成されているので、その結果、検針の必要性が最も高いブラジャーについて、検針器による検針作業を可能にするという所期目的を達し得る効果がある。」に訂正する。 (8)明細書の段落【0053】を削除する。 III 訂正の適否 III-1 平成6年改正前特許法第126条第1項及び2項の規定の要件の適否(いわゆる訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について) (1)の訂正は、訂正前の請求項1の記載において、「下着用金属構成物」とあるのを、「コンベヤタイプ検針器に通過せしめられるブラジャーのカップ周部に挿入される2本1組の保形用ワイヤーであって」、「ブラジャー用」に限定を行うと共に、訂正前の請求項1の記載における非磁性について、「前記ワイヤー1本あたりの磁性を鉄球換算0.7mmφ以下に構成された」という技術的な限定を行うものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (2)の訂正は、訂正前の請求項2の記載において、「下着用金属構成物」とあるのを、「コンベヤタイプ検針器に通過せしめられるブラジャーのカップ周部に挿入される2本1組の保形用ワイヤーであって」、「ブラジャー用」に限定を行うと共に、訂正前の請求項1の記載における非磁性について、「前記ワイヤー1本あたりの磁性を鉄球換算0.6mmφ相当又は鉄球換算0.5mmφ相当に構成された」という技術的な限定を行うものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (3)の訂正は、訂正前の請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (4)〜(8)の訂正は、(1)〜(3)の訂正に整合させて、対応する発明の詳細な説明に所要の訂正を行うものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。 そして、これらの訂正は、特許請求の範囲に記載された構成を同構成に係る技術的事項として、明細書に記載された事項(本件特許明細書の段落【0005】、【0007】、【0010】、【0019】、【0025】、【0028】、【0035】〜【0037】、【0039】、【0040】を参照)により限定するものであるから、当該訂正は、願書に添付された明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてするものであり、また、特許請求の範囲を実質上拡張するものでも変更するものでもない。 したがって、前記(1)〜(8)の訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項及び2項の規定に適合するものである。 III-2 平成6年改正前特許法第126条第3項の規定の要件の適否(いわゆる独立特許要件について) 次に、訂正後の請求項1及び請求項2に係る発明は、出願の際、独立して特許を受けることができるものであるかについて検討する。 (A)訂正後の請求項1及び請求項2に係る発明 訂正後の請求項1及び請求項2に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲1、2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 -訂正後の請求項1に係る発明- コンベヤタイプ検針器に通過せしめられるブラジャーのカップ周部に挿入される2本1組の保形用ワイヤーであって、オーステナイト系ステンレス鋼であり、全体が特に非磁性化されたステンレス鋼を冷間加工して成り且つ冷間加工後も非磁性とされ、前記ワイヤー1本あたりの磁性を鉄球換算0.7mmφ以下に構成されたことを特徴とするブラジャー用金属構成物。 -訂正後の請求項2係る発明- コンベヤタイプ検針器に通過せしめられるブラジャーのカップ周部に挿入される2本1組の保形用ワイヤーであって、オーステナイト系ステンレス鋼であり、化学成分がNを0.1%以上含有することにより特に非磁性化されたステンレス鋼を冷間加工して成り且つ冷間加工後も非磁性とされ、前記ワイヤー1本あたりの磁性を鉄球換算0.6mmφ相当又は鉄球換算0.5mmφ相当に構成されたことを特徴とするブラジャー用金属構成物。 (B)引用刊行物に記載された事項 訂正拒絶理由通知に引用した刊行物は以下のとおりである。 引用刊行物1:1994年(平成6年)1月21日(金曜日)付け「日本繊維新聞」紙(見出し「サンコウ電子研究所・パンフレット作成・アパレル検針器(機)Q&A」の記事) 引用刊行物2:実公昭57-31770号公報(異議2000-73467号の異議決定における引用刊行物1に同じ) 引用刊行物3:特公平2-48612号公報(異議2000-73467号の異議決定における引用刊行物2に同じ) (B)-1 引用刊行物1 引用刊行物1には、検針機メーカーのサンコウ電子研究所が、アパレル検針器(機)に関するQアンドAのパンフレットを作成したことに関して、特に、以下の事項が記載されている。 ア 「問2(原文丸数字、以下同様に記す。) 検針器には二つの方式があると聞いてますが本当ですか。 答 磁気誘導方式と電磁誘導方式があり、使い方の目的によって分かれています。磁気誘導方式は永久磁石による静磁界を利用するもので鉄製(磁石に吸着する金属)の針などに強く反応します。広く普及しているのはこの種の検針器です。(この分野が鉄片探知器です。)」 イ 「電磁誘導方式は電磁界を利用していますのですべての金属に反応します。従って検体の縫製衣料品は金属製の服飾付属品が装着していないことが絶対条件です。一般にふとん、肌着、肩パッドなどに使用されています(この分野が金属探知器です)。」 ウ 「問3 検出部の構造がフラット型でもトンネル型でも検針能力は同じですか。 答 フラット型は片面、・・・動かす速さは遅いより早いほうが感度は高くなります。トンネル型は一般にコンベヤータイプの検針機です。検針部は・・・検針の確実性が高く効率的と評価されています。」 エ 「問4 コンベヤー式には検出基準があると聞きましたがどんな規格ですか? 答 マチ針、ミシン針の折れ針には、・・・検出の動作が最も安定する鋼球(鉄製のボール=鉄球)の大きさの直径φ(ファイ)で換算し表1のように規格化しています。表は折れ針検出能力試験として鋼球試験片1.2φで100%の検出感度があり、なおかつその時の服飾付属品は、0.8φ以下を100%検出しない検出機であることを基準にしています(見方はマチ針、肩パッドも同じ)。・・・」 オ 「問5 検針器対策用の服飾付属品の使用を勧められていますが、なぜですか。 答 検針器対策用服飾付属品とは、検針器に全く反応しないか、または反応の少ない副資材を言い、これらを総称して「NC商品」(NEEDLE CARE)と呼んでいます。磁気誘導方式の検針器(鉄片探知器)は金属の中でも磁性金属(一般には鉄またはニッケル)に強く反応します。・・・この検針器(鉄片探知器)の原理を利用して服飾付属品メーカーはファスナー、前かん、ボタンなどの素材、表面処理、強度、デザインなどの研究、開発が進み、検針器に全く反応しないか、または反応しにくい服飾付属品を生産しています。そのため金属性の服飾付属品でも検針器に反応がなく鉄製の針、折れ針の残針を確実に発見することができるわけです。」 カ 「問4〜6を整理しますと表3のようになります。」 キ 「問7 検針器に反応しにくいマチ針があるので心配です。よい方法はありませんか。 答 ステンレス製のマチ針、ピンのことと思います。・・・」 また、これらの記載と併せて、 「表1■コンベヤー式検針機の検出基準」が、また、「表3■コンベヤー式検針器APA-6000型の検針領域」が記載されている。 引用刊行物1の上記記載オから、当業者であれば、アパレル検針器(機)自体の技術的事項と併せて、磁気誘導方式の検針器(鉄片探知器)での検針に対応した金属製の服飾付属品、すなわち、当該検針器に反応しがたい金属製の服飾付属品に関する技術思想をも把握し得ることは明らかである。 また、同記載オには、検針器に反応しがたい金属製の服飾付属品を具現化するにあたり、その材料の選択等を工夫することも開示されている。 さらに、上記記載ア、イの問2に対する答えとして、検針器には磁気誘導方式と電磁誘導方式があり、一般にふとん、肌着、肩パッドには電磁誘導方式が用いられることが記載されており、一方、上記記載エ及び表1において、コンベヤー式検針機検出基準として肩パッドが記載されていることを併せて勘案すると、コンベヤー式検針器の検体の一つとして紹介されている肩パッドと同様の電磁誘導方式が用いられる肌着を、コンベヤー式検針器の検体から積極的に除外すべき理由は上記記載ア〜キからは見いだせず、当業者であれば上記コンベヤー式検針器の検体としての縫製衣料品に肌着を含めて把握可能である。 そして、上記記載エから、コンベヤー式の検針器における検出基準は、鋼球(鉄製のボール=鉄球)の大きさの直径φ(ファイ)で換算し規格化されていたことも明らかである。 以上を踏まえると、引用刊行物1には、 「コンベヤ-式の検針器に通過せしめられる肌着を含む縫製衣料品用金属製服飾付属品であって、当該肌着を含む縫製衣料品用金属製服飾付属品の材料の選択等を工夫することにより、前記肌着を含む縫製衣料品用金属製服飾付属品の磁性を鉄球換算での検出基準値以下に構成した肌着を含む縫製衣料品用金属性服飾付属品」の発明(以下、【引用発明】という。)が記載されているものと認める。 また、上記記載キから、「一般にステンレスは、検針器(鉄片探知機)に検出され難い材料として認識されていたこと」(以下、【技術的事項A】という。)が、把握される。 さらに、上記記載エ及び表1、表3から、ミシン折れ針(工業用ミシン針 No.11〜14相当 針先3.5mm相当)の検出感度が、鋼球換算値で1.2φであり、この場合、0.8φ以下の磁性の服飾付属品を使用すれば、前記ミシン折れ針を確実に検出し得ること、また、鉄製マチ針(φ0.6×33mm)の検出感度が鋼球換算値で2.5φであり、この場合、1.5φ以下の磁性の服飾付属品を使用すれば、鉄製マチ針を確実に検出し得ること、肩パッドの場合は鋼球換算値で0.8φの検出感度とすることが、明らかであり、これらの記載から、「検出すべき対象に合わせて設定される鋼球換算値の検出感度に応じて、許容される服飾付属品の磁性が定まること」(以下、【技術的事項B】という。)が把握される。 (B)-2 引用刊行物2 引用刊行物2の《実用新案登録請求の範囲(1)》、《第1欄29行〜2欄5行》、《第2欄19〜28行》、《第4欄4〜8行、及び、第12〜17行》の記載を総合すると、引用刊行物2には、「衣服の製作後の磁気検出機によるミシン折れ針の検出の際に、金属製の衣服用止具は検出せずに折れ針を検出することを可能とすることを目的として、衣服用の金属構成物の材質を非磁性の金属とすること」(以下、【技術的事項C】という。)が記載されていると認められる。 (B)-3 引用刊行物3 引用刊行物3の《特許請求の範囲》、《第2〜6欄》の記載を総合すると、Nを0.01〜0.5重量%含有する特定組成の高硬度非磁性ステンレス鋼が、高硬度でかつ非磁性であることが要求される部品、例えば、画像音声記憶装置(VTR)に用いられるシリンダー軸等やVTRカセットテープ内に使用されるガイドローラー、ガイドピン、各種バネ等、通信機器等に用いられる各種バネ、プーリー、チェーン、シャフト等に好適であること、同ステンレス鋼はオーステナイト系ステンレス鋼と呼ばれるもので冷間加工後も非磁性を保つこと、成分のNはCと同様オーステナイト安定化元素であると同時に固溶硬化に寄与する元素であって、この効果は0.01%未満では不十分であり、また0.5%を超えると鋼塊中にブローホールによる欠陥を生じさせる虞れがあるため好ましくないことがそれぞれ記載されており、前記記載によれば、前記のNを0.01〜0.5重量%含有する高硬度非磁性ステンレス鋼は、第一に、合金であるから、それは「全体が特に非磁性化されたステンレス鋼」といえるものであり、第二に、Nがオーステナイト安定化元素である、つまりNが非磁性に寄与するというのであるから、それは「化学成分がNを0.01〜0.5重量%含有することにより特に非磁性化されたステンレス鋼」といえるものであり、しかも、これらは冷間加工後も非磁性を保つのであり、また、前記シリンダー軸等の部品は、高硬度でかつ非磁性であることが要求される各種金属部品の例示にすぎないから、結局、刊行物3の記載からは、次の技術的事項(以下「技術的事項D」、「技術的事項E」という。)が把握される。 【技術的事項D】非磁性のものであることが要求される金属部品を、オーステナイト系ステンレス鋼であり、全体が特に非磁性化されたステンレス鋼を冷間加工して成り且つ冷間加工後も非磁性とされたもので構成すること。 【技術的事項E】非磁性のものであることが要求される金属部品を、オーステナイト系ステンレス鋼であり、化学成分がオーステナイト安定化元素であると同時に固溶硬化に寄与する元素であるNをその効果を確保しつつ鋼塊中のブローホールによる欠陥の発生を抑止すべく0.01〜0.5重量%の範囲で含有することにより特に非磁性化されたステンレス鋼を冷間加工して成り且つ冷間加工後も非磁性とされたもので構成すること。 (C)対比、判断 (C)-1 訂正後の請求項1に係る発明について 訂正後の請求項1に係る発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「金属製服飾付属品」は、訂正後の請求項1に係る発明にいう「金属構成物」に相当し、引用発明において検針の対象物である「肌着」は、直接肌に着衣するものである点において、訂正後の請求項1に係る発明にいう「ブラジャー」に対応し、また、訂正後の請求項1に係る発明は金属構成物の材料を「オーステナイト系ステンレス鋼であり、全体が特に非磁性化されたステンレス鋼を冷間加工して成り且つ冷間加工後も非磁性とされ」るよう、その材料を選択したものであるから、両発明は、 「コンベヤタイプ検針器に通過せしめられる肌着用金属構成物であって、前記肌着用金属構成物の材料を選択することにより、その磁性を鉄球換算での検出基準値以下に構成された肌着用金属構成物。」の発明である点で一致し、次の点で相違する。 (相違点1) 肌着用金属構成物が、訂正後の請求項1に係る発明では、ブラジャーのカップ周部に挿入される2本1組の保形用ワイヤーであって、オーステナイト系ステンレス鋼であり、全体が特に非磁性化されたステンレス鋼を冷間加工して成り且つ冷間加工後も非磁性とされ、前記ワイヤー1本あたりの磁性が鉄球換算0.7mmφ以下に構成されているのに対し、引用発明ではブラジャー用に特定されておらず、また材料の具体的な選択についての言及がない点。 そこで、上記(相違点1)について検討する。 まず、肌着とブラジャーは共に直接肌に着衣するものであることから、引用刊行物1において検針の対象物である肌着との記載に基づいて、「ブラジャー」を検針の対象とすること自体は当業者にとってごく自然になし得ることである。 また、ブラジャーが肌着の一形態であることは既述の如く自明であり、前記ブラジャーの金属構成物の一つとして、ブラジャーカップ周部に挿入される2本1組の保形用ワイヤーがあることもブラジャーの一形式として、当業者にとって自明であり、ブラジャーのカップ周部に挿入される2本1組の保形用ワイヤーの材質にステンレス鋼を用いること自体は、本願出願前に周知であった(必要ならば、特開平5-33203号公報の段落【0004】、【0010】、【0021】や実願昭63-44133号(実開平1-147205号)のマイクロフィルムの第2頁第4〜6行目等を参照されたい)ことを考慮すると、引用発明の肌着用金属構成物をブラジャーのカップ周部に挿入される2本1組の保形用ワイヤーと特定し、当該保形用ワイヤーの磁性を鉄球換算での検出基準値以下に構成することは、当業者ならば容易に着想し得たことである。 また、材料の選択にあたり、非磁性という要求に応じて公知の材料から必要な材料を選択することは当業者にとっての設計的事項であることに鑑みれば、ブラジャーのカップ周部に挿入される2本1組の保形用ワイヤーの具体的な設計段階における前記非磁性の金属の材料の選択にあたり、【技術的事項D】が教えるところの、非磁性のものであることが要求される金属部品を、オーステナイト系ステンレス鋼であり、全体が特に非磁性化されたステンレス鋼を冷間加工して成り且つ冷間加工後も非磁性とされたものを採用することは、当業者が適宜なし得た程度のことというべきである。 さらに、【技術的事項A】によると「一般にステンレスは、検針器(鉄片探知機)に検出され難い材料として認識されていた」のであるし、既述の如く、ブラジャーのカップ周部に挿入される2本1組の保形用ワイヤーの材質にステンレス鋼を用いること自体は本願出願前に周知であったこと、及び、【技術的事項C】にあるように「衣服の製作後の磁気検出機によるミシン折れ針の検出の際に、金属製の衣服用止具は検出せずに折れ針を検出することを可能とすることを目的として、衣服用の金属構成物の材質を非磁性の金属とすること」、すなわち、検針器に反応しがたい金属製の服飾付属品を具現化するにあたり、その材料の選択等を工夫することが、引用発明とは別に、本願出願前に知られていたことを併せ考慮すると、前記ブラジャーのカップ周部に挿入される2本1組の保形用ワイヤーの材料として前記【技術的事項D】が教えるところのオーステナイト系ステンレス鋼を採用することへの特段の阻害要因は見出せない。 ところで、訂正後の請求項1に係る発明において、コンベヤタイプ検針器に通過せしめられるブラジャーのカップ周部に挿入される2本1組の保形用ワイヤー1本あたりの磁性を鉄球換算0.7mmφ以下に構成した点については、特許明細書の段落【0037】に、オーステナイト系ステンレス鋼の化学成分を、Cが0.01ないし0.05%、Siが1.0%以下、Mnが3.0ないし7.0%、Niが5.0ないし6.0%、Crが17.0ないし19.0%、Cuが1.0ないし4.0%、Nbが0.2%以下、Nが0.1ないし0.3%の範囲で変更せしめたワイヤーを数種類試作し、それぞれ試験に供した結果のワイヤー1本あたり鉄球換算値が0.7mmφ以下であった旨の記載があるものの、「0.7mmφ以下」という値自体は、訂正後の請求項1に係る発明において、上記化学成分を構成として何ら特定するものではなく、単に、検針時の磁性値の上限値を定めるものにすぎない。 してみると、訂正後の請求項1に係る発明において、保形用ワイヤー1本あたりの磁性を鉄球換算0.7mmφ以下に構成した点は、「検出すべき対象に合わせて設定される鋼球換算値の検出感度に応じて、許容される服飾付属品の磁性が定まること」を教える【技術的事項B】と格別差異はなく、前記「鉄球換算0.7mmφ以下」という値は、当業者がその設計に当たり、検針時の検針器に設定される検出感度以下の範囲内で適宜決定し得たものと言わざるを得ない。 以上のことから、引用発明において、肌着用金属構成物をブラジャーのカップ周部に挿入される2本1組の保形用ワイヤーに特定し、これを、オーステナイト系ステンレス鋼であり、全体が特に非磁性化されたステンレス鋼を冷間加工して成り且つ冷間加工後も非磁性とされたもので構成し、その磁性をワイヤー1本あたり鉄球換算0.7mmφ以下に構成することは、上記【技術的事項A】〜【技術的事項D】に接した当業者ならば容易に想到し得たことというべきである。 そして、このような適用対象の特定、材料の選択及び数値範囲の限定によって当業者が容易に予測しえない格別の作用効果も生じていない。 (C)-2 訂正後の請求項2に係る発明について 訂正後の請求項2に係る発明と引用発明とを対比すると、両発明は、 「コンベヤタイプ検針器に通過せしめられる肌着用金属構成物であって、前記肌着用金属構成物の材料を選択することにより、その磁性を鉄球換算での検出基準値以下に構成された肌着用金属構成物。」の発明である点で一致し、次の点で相違する。 (相違点2) 肌着用金属構成物が、訂正後の請求項2に係る発明では、ブラジャーのカップ周部に挿入される2本1組の保形用ワイヤーであって、オーステナイト系ステンレス鋼であり、化学成分がNを0.1%以上含有することにより特に非磁性化されたステンレス鋼を冷間加工して成り且つ冷間加工後も非磁性とされ、前記ワイヤー1本あたりの磁性が鉄球換算0.6mmφ相当又は鉄球換算0.5mmφ相当に構成されているのに対し、引用発明ではブラジャー用に特定されておらず、また材料の具体的な選択についての言及がない点。 そこで、上記(相違点2)について検討する。 まず、肌着とブラジャーは共に直接肌に着衣するものであることから、引用刊行物1において検針の対象物である肌着との記載に基づいて、「ブラジャー」を検針の対象とすること自体は当業者にとってごく自然になし得ることである。 また、ブラジャーが肌着の一形態であることは既述の如く自明であり、前記ブラジャーの金属構成物の一つとして、ブラジャーカップ周部に挿入される2本1組の保形用ワイヤーがあることもブラジャーの一形式として、当業者にとって自明であり、ブラジャーのカップ周部に挿入される2本1組の保形用ワイヤーの材質にステンレス鋼を用いること自体は、本願出願前に周知であった(必要ならば、特開平5-33203号公報の段落【0004】、【0010】、【0021】や実願昭63-44133号(実開平1-147205号)のマイクロフィルムの第2頁第4〜6行目等を参照されたい)ことを考慮すると、引用発明の肌着用金属構成物をブラジャーのカップ周部に挿入される2本1組の保形用ワイヤーと特定し、当該保形用ワイヤーの磁性を鉄球換算での検出基準値以下に構成することは、当業者ならば容易に着想し得たことである。 また、材料の選択にあたり、非磁性という要求に応じて公知の材料から必要な材料を選択することは当業者にとっての設計的事項にであることに鑑みれば、ブラジャーのカップ周部に挿入される2本1組の保形用ワイヤーの具体的な設計段階における前記非磁性の金属の材料の選択にあたり、【技術的事項E】が教えるところの、非磁性のものであることが要求される金属部品を、オーステナイト系ステンレス鋼であり、化学成分がオーステナイト安定化元素であると同時に固溶硬化に寄与する元素であるNをその効果を確保しつつ鋼塊中のブローホールによる欠陥の発生を抑止すべく0.01〜0.5重量%の範囲で含有することにより特に非磁性化されたステンレス鋼を冷間加工して成り且つ冷間加工後も非磁性とされたもので構成する技術を採用し、前記Nの含有量を0.01〜0.5重量%の範囲内で設定することは、当業者が適宜なし得た程度のことというべきである。 さらに、【技術的事項A】によると「一般にステンレスは、検針器(鉄片探知機)に検出され難い材料として認識されていた」のであるし、既述の如く、ブラジャーのカップ周部に挿入される2本1組の保形用ワイヤーの材質にステンレス鋼を用いること自体は本願出願前に周知であったこと、及び、【技術的事項C】にあるように「衣服の製作後の磁気検出機によるミシン折れ針の検出の際に、金属製の衣服用止具は検出せずに折れ針を検出することを可能とすることを目的として、衣服用の金属構成物の材質を非磁性の金属とすること」、すなわち、検針器に反応しがたい金属製の服飾付属品を具現化するにあたり、その材料の選択等を工夫することが、引用発明とは別に、本願出願前に知られていたことを併せ考慮すると、前記ブラジャーのカップ周部に挿入される2本1組の保形用ワイヤーの材料として前記【技術的事項E】が教えるところのオーステナイト系ステンレス鋼を採用することへの特段の阻害要因は見出せない。 ところで、訂正後の請求項2に係る発明において、Nの含有量を0.1%以上とした点については、本件特許明細書において、オーステナイト系ステンレス鋼を用いた場合、これを特に非磁性化するためには、化学成分が少なくともNを0.1%以上含有していることが好ましい旨(段落【0020】)、ワイヤー2、調節環3、ホック6等のように、冷間加工により形成される金属構成物においては、オーステナイト系ステンレス鋼であって、化学成分が少なくともNを0.1%以上含有しているものを用いる旨(段落【0031】)、ワイヤー2本、調節環2個、ホック2組から成る金属構成物の磁性を検針器のB感度(鉄球換算2.5mmφ)を下回るまで非磁性化するためには、Nを0.1%以上含有せしめることにより、良好な結果が得られた旨(段落【0032】)、Nを0.193%、Cを0.04%、Siを0.40%、Mnを5.15%、Pを0.030%、Sを0.000%、Niを5.55%、Crを18.21%、Cuを2.47%、Nbを0.09%としてワイヤーを作成した場合に、鉄球換算0.6mmφ相当であった旨、(段落【0035】、【0036】)、Nを0.298%、Cを0.07%、Siを0.53%、Mnを9.85%、Pを0.020%、Sを0.000%、Niを5.62%、Crを18.08%としてワイヤーを作成した場合に、鉄球換算0.5mmφ相当であった旨(段落【0039】、【0040】)が記載されているものの、訂正後の請求項2に係る発明は、ワイヤー単体に関するものであり、当該ワイヤー単体についてNを0.1%以上含有すべきこと、すなわち、0.1%がワイヤー単体に許容されるNの含有値の下限を示すものと解すべき合理的理由は、本件特許特許明細書の記載からは見いだせないから、訂正後の請求項2に係る発明において、Nの含有量を0.1%以上とした点自体については、【技術的事項E】に係る公知ないし周知の技術を採用すること以上の格別な技術的意義は認められない。 また、訂正後の請求項2に係る発明において、コンベヤタイプ検針器に通過せしめられるブラジャーのカップ周部に挿入される2本1組の保形用ワイヤー1本あたりの磁性を鉄球換算0.6mmφ相当、又は0.5mmφ相当に構成した点については、特許明細書の段落【0035】及び【0036】に、オーステナイト系ステンレス鋼の化学成分を、Cが0.04%、Siが0.40%、Mnが5.15%、Pが0.030%、Sが0.000%、Niが5.55%、Crが18.21%、Cuが2.47%、Nbが0.09%、Nが0.193%であるワイヤーを製作し、試験に供した結果のワイヤー1本あたり鉄球換算値が0.6mmφ相当であった旨が、また、特許明細書の段落【0039】及び【0040】に、オーステナイト系ステンレス鋼の化学成分を、Cが0.07%、Siが0.53%、Mnが9.85%、Pが0.020%、Sが0.000%、Niが5.62%、Crが18.08%、Nが0.298%であるワイヤーを製作し、試験に供した結果のワイヤー1本あたり鉄球換算値が0.5mmφ相当であった旨の記載があり、これらの記載から前記化学成分の採用により鉄球換算値0.6mmφ、及び、0.5mmφという非磁性のオーステナイト系ステンレス鋼が得られるとしても、「0.6mmφ」及び「0.5mmφ」という値は、訂正後の請求項2に係る発明において、上記化学成分を構成として何ら特定するものではなく、単に、検針対象に合わせて当業者が適宜設定すべき磁性値を定めるものにすぎない。 してみると、訂正後の請求項2に係る発明において、保形用ワイヤー1本あたりの磁性を鉄球換算0.6mmφ相当又は0.5mmφ相当に構成した点は、「検出すべき対象に合わせて設定される鋼球換算値の検出感度に応じて、許容される服飾付属品の磁性が定まること」を教える【技術的事項B】と格別差異はなく、前記「鉄球換算0.6mmφ相当又は鉄球換算0.5mmφ相当」という値は、当業者がその設計に当たり、検針時の検針器に設定される検出感度以下の範囲内で適宜決定し得たものと言わざるを得ない。 以上のことから、引用発明において、肌着用金属構成物をブラジャーのカップ周部に挿入される2本1組の保形用ワイヤーに限定し、これを、オーステナイト系ステンレス鋼であり、化学成分がNを0.1%以上含有することにより特に非磁性化されたステンレス鋼を冷間加工して成り且つ冷間加工後も非磁性とされたもので構成し、その磁性をワイヤー1本あたり鉄球換算0.6mmφ相当、又は、0.5mmφ相当に構成することは、上記【技術的事項A】〜【技術的事項E】に接した当業者ならば容易に想到し得たことというべきである。 そして、このような適用対象の特定、材料の選択及び数値範囲の限定によって当業者が容易に予測しえない格別の作用効果も生じていない。 なお、審判請求人は、上記(相違点1)ないし(相違点2)に関して、平成16年12月28日付け意見書(以下、「意見書」という。)及び審判請求書において、概ね以下の主張をなしている。 (主張1.)引用刊行物1には縫製衣料品が肌着であることについて何ら記載がなく、ましてブラジャーに関する記載は全くないから、引用発明における金属製の服飾付属品をブラジャーのカップ周部に挿入される2本1組の保形用ワイヤーと特定するに至るまで思想としてかなりの飛躍があり、当業者が容易に想到し得るものではない旨(意見書第2頁第18〜26行目)。 (主張2.)訂正後の請求項1に係る発明について、本件発明が実施例1(本件明細書の段落【0037】以降に記載)や実施例2(本件明細書の段落【0039】以降に記載)等に示すような所定の化学成分を具備することを前提に、鉄球換算0.7mmφを実現できたのであるから、0.7mmφという鉄球換算値はワイヤー1本あたりの許容される磁性の上限値としての意味があり、磁性を鉄球換算値0.7mmφ以下とするための具体的な化学成分の記載がない引用刊行物1〜3から容易に想到し得たという論理付けは成り立たない旨(意見書第3頁第16〜第4頁21行目)、及び、 訂正後の請求項2に係る発明について、本件発明が実施例1(本件明細書の段落【0035】以降に記載)や実施例2(本件明細書の段落【0039】以降に記載)等に示すような所定の化学成分を具備することを前提に、鉄球換算0.6mmφ相当又は0.5mmφ相当を実現できたのであるから、0.6mmφ又は0.5mmφという鉄球換算値は実現可能な値としての意味があり、磁性を鉄球換算値0.6mmφ相当又は0.5mmφ相当とするための具体的な化学成分の記載がない引用刊行物1〜3から容易に想到し得たという論理付けは成り立たない旨(意見書第6頁第26行〜第7頁第27行目)。 (主張3.)訂正後の請求項1に係る発明においてワイヤー1本あたりの磁性を鉄球換算0.7mmφ以下としたこと、及び、訂正後の請求項2に係る発明においてワイヤー1本あたりの磁性を鉄球換算0.6mmφ、又は0.5mmφとしたことに関して、 ワイヤー1本あたりの磁性を鉄球換算0.7mmφ以下とした場合には、ワイヤー3本分に相当する1枚のブラジャーとさらに半身のブラジャーが同時に検針器内に入った場合でもB感度(2.4mmφ以下)を楽々とクリアできるし、ワイヤー1本あたりの磁性を鉄球換算0.6mmφ、又は0.5mmφとした場合には、ワイヤー4本分に相当する2枚のブラジャーが同時に検針器内に入った場合でもB感度(2.4mmφ以下)をクリアできるため検針作業の迅速性と能率性を向上し得る旨(審判請求書第10頁第9行目〜第13頁第7行目)、及び、 本件に関する訂正拒絶理由通知で言及されたような2枚、更には3枚のブラジャーの全身が検針器の誘導区間内に同時に進入するような異常な検針作業は実際上あり得ず、本件訂正後の発明は、通常の検針作業において、軽微な不注意により、1枚のブラジャーの全身と他の1枚のブラジャーの半身とが同時に検針器の誘導区間内を通過する状況や、前後しつつも2枚のブラジャーの全身が同時に検針器の誘導区間内を通過する状況が生じ得るとの知見のもと、これらの状況下であっても、検針作業を中断させないようにしたブラジャー用金属構成物を提供するものであることを、発明の進歩性を評価する際に十分参酌すべきである旨(意見書第9頁第4行〜第11頁第15行目)。 そこで、上記主張について検討する。 まず、(主張1.)については、「(B)-1 引用刊行物1」で既述したように、引用刊行物1に、検針器には磁気誘導方式と電磁誘導方式があり、一般にふとん、肌着、肩パッドには電磁誘導方式が用いられること、及び、コンベヤー式検針機検出基準としての肩パッドが記載されていることを併せて勘案すると、コンベヤー式検針器の検体の一つとして紹介されている肩パッドと同様の電磁誘導方式が用いられる肌着を、コンベヤー式検針器の検体から積極的に除外すべき理由は見いだせず、当業者であれば上記コンベヤー式検針器の検体としての縫製衣料品に肌着を含んで把握すべきであるし、そもそも、検針という作業が、縫製される衣料品全般に対して行うべき作業である以上、引用刊行物1に記載された検針器の検針対象から、保形用ワイヤーの材質としてステンレス鋼を用いることが周知であったブラジャーのみを積極的に排除すべき合理的理由は何ら認められないから、上記(主張1.)は採用できない。 次に、(主張2.)については、上記(相違点1)及び(相違点2)の検討において、既述したように、「検出すべき対象に合わせて設定される鋼球換算値の検出感度に応じて、許容される服飾付属品の磁性が定まること」を教える【技術的事項B】に接した当業者ならば、実際の検針に使用する磁気検出器の所要の検出感度に合わせて、縫製衣類用金属構成物の磁性を前記検出感度以下の適当な値に設定することは、当然なすべきことであることであるから、0.7mmφ以下、あるいは、0.6mmφ相当、0.5mmφ相当という値自体は、ワイヤーを構成する化学成分とは無関係に検針感度により定まるものであり、しかも、上記(主張2.)は、本件発明が所定の化学成分を具備することを前提とした主張であるが、訂正後の請求項1においては何ら化学成分を特定するものではないし、請求項2においても、N以外の化学成分については何ら特定するものではないから、訂正後の各請求項の記載に基づかない上記(主張2.)は、その前提を欠く主張であり、失当であるといわざるを得ない。 最後に、(主張3.)に関して検討するに、「1枚のブラジャーの全身と他の1枚のブラジャーの半身とが同時に検針器の誘導区間内を通過する状況や、前後しつつも2枚のブラジャーの全身が同時に検針器の誘導区間内を通過する状況が生じ得るとの知見のもと、これらの状況下であっても、検針作業を中断させないようにしたブラジャー用金属構成物を提供する」ことは、訂正後の請求項1ないし2に係る発明においてワイヤー一本あたりの磁性値を鉄球換算値で0.7mmφ以下、あるいは、0.6mmφ、又は0.5mmφという値にした契機ないし目的自体ではなく、あくまで、0.7mmφ以下、あるいは、0.6mmφ、又は0.5mmφという値にした結果期待される効果を主張するものであることは、当該主張3は本件審判請求書において初めて明らかにされたことであり、本件特許明細書には何ら記載がないことからも明らかである。 ところで、同時に検針器を通過し得るブラジャーの枚数自体は、ワイヤー一本当たりの磁性値と検針感度とが定まれば自ずと定まるものであり、また、同時に検針器を通過するブラジャーの枚数が増えれば検針の作業効率が上がることは自明である。 そして、訂正後の請求項1ないし2に係る発明における0.7mmφ以下、あるいは、0.6mmφ、又は0.5mmφという鉄球換算値自体は、既述の如く、実際の検針時の検出感度以下の範囲内で当業者が適宜決定すべき磁性値に過ぎない。 してみると、上記主張3は、実際の検針時の検出感度以下の範囲内で当業者が適宜決定すべきワイヤー一本あたりの磁性値と検針感度とに応じて自ずと定まるところの同時に検針器を通過し得るブラジャーの枚数から自ずと予測される効果を述べているに過ぎない。 したがって、上記(主張3.)は、訂正後の請求項1ないし2に係る発明の進歩性を認めるに足る根拠にはなり得ない。 (C)結論 以上のように、訂正後の請求項1及び2に係る発明は、上記引用刊行物1〜3に記載された発明及び周知の技術的事項に基づき、本願出願前に当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、出願の際、独立して特許を受けることができない。 IV むすび したがって、本件審判の請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第3項の規定に適合しないものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2005-02-10 |
結審通知日 | 2005-02-15 |
審決日 | 2005-03-01 |
出願番号 | 特願平6-130948 |
審決分類 |
P
1
41・
856-
Z
(A41C)
P 1 41・ 121- Z (A41C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鈴木 美知子 |
特許庁審判長 |
鈴木 公子 |
特許庁審判官 |
渡邊 豊英 粟津 憲一 |
登録日 | 2000-01-14 |
登録番号 | 特許第3020046号(P3020046) |
発明の名称 | 下着用金属構成物及びその製造方法 |
代理人 | 中野 収二 |