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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B62D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B62D
管理番号 1115383
審判番号 不服2003-157  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-03-17 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-01-06 
確定日 2005-04-14 
事件の表示 平成 8年特許願第249052号「煙突筒身検査装置」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 3月17日出願公開、特開平10- 71976〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本特許出願は、平成8年8月29日の出願であって、平成14年11月26日付けで、拒絶をすべき旨の査定がされたところ、同査定に対して平成15年1月6日付けで審判が請求され、それに伴い、平成15年2月4日付けで手続補正書(以下、この手続補正書を「本願補正書」という。)が提出された。

第2 本願補正書によりされた補正の却下の決定
1.補正却下の決定の結論
平成15年2月4日付けの手続補正を却下する。

2.理由
本願補正書による補正は、審判の請求の日から30日以内にされたものであって、平成14年改正前特許法第17条の2第1項第3号の場合に該当するものであると認められ、同項の要件を満たすものである。

(1)本願補正書による請求項1の補正
特許請求の範囲の請求項1に関しては、下記ア.の補正前の特許請求の範囲の請求項1が、下記イ.の補正後の特許請求の範囲の請求項1に補正されている。
ア.補正前の請求項1
「【請求項1】
自走して筒身の状態を検査する煙突筒身検査装置であって、
台車と、
前記台車に取付けられ、磁力により煙突筒身に接着し、それぞれ自転及び一体として公転可能な複数の遊星車輪と、
太陽ギヤと、
前記太陽ギヤを回転する駆動手段と、
前記遊星車輪と共に回転する複数の出力ギヤと、
前記太陽ギヤと前記複数の出力ギヤとに噛合された遊星ギヤと、
前記複数の遊星ギヤ及び出力ギヤを自転及び公転可能に支承するキャリアと、
を備え、
前記遊星車輪の自転が略停止された際に、前記キャリアは回転して前記遊星車輪を公転させることを特徴とする煙突筒身検査装置。」
イ.補正後の請求項1
「【請求項1】
自走して筒身の状態を検査する煙突筒身検査装置であって、
台車と、
前記台車に取付けられ、磁力により煙突筒身に接着し、それぞれ自転及び一体として公転可能な複数の遊星車輪と、
太陽ギヤと、
前記太陽ギヤを回転する駆動手段と、
前記遊星車輪と共に回転する複数の出力ギヤと、
前記太陽ギヤと前記複数の出力ギヤとに噛合された遊星ギヤと、
前記複数の遊星ギヤ及び出力ギヤを自転及び公転可能に支承し、前記遊星車輪の自転が略停止された際に前記太陽ギヤを駆動する前記駆動手段により該太陽ギヤ、該遊星ギヤ及び該出力ギヤと一体回転させられることにより、前記遊星車輪を公転させるキャリアと、
を備えたことを特徴とする煙突筒身検査装置。」
この請求項1についてされた補正は、キャリアに関する「前記複数の遊星ギヤ及び出力ギヤを自転及び公転可能に支承するキャリアと、を備え、前記遊星車輪の自転が略停止された際に、前記キャリアは回転して前記遊星車輪を公転させる」という技術的事項について、「前記複数の遊星ギヤ及び出力ギヤを自転及び公転可能に支承し、前記遊星車輪の自転が略停止された際に前記太陽ギヤを駆動する前記駆動手段により該太陽ギヤ、該遊星ギヤ及び該出力ギヤと一体回転させられることにより、前記遊星車輪を公転させるキャリア」としたものであって、補正後の請求項1は、補正前の請求項1と比較して、遊星車輪の自転が略停止された際に、遊星車輪を公転させるキャリアについて、太陽ギヤを駆動する駆動手段により太陽ギヤ、遊星ギヤ及び出力ギヤと一体的に回転させられるという技術的事項が限定されたものであると認められる。
よって、この補正は、特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮に該当するものと認められる。
したがって、次に、補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明が、平成15年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項に規定する特許出願の際独立して特許を受けることができるという要件(独立特許要件)を満たしているか否かについて、検討する。

(2)独立特許要件について
ア.本願補正発明
上記補正後の請求項1に係る発明(以下、本願補正発明という。)は、上記(1)イ.において記載されている事項により特定されるとおりのものと認める
イ.引用刊行物等及びその記載事項
刊行物1:特開昭61-100806号公報
刊行物2:特開平8-99657号公報
(ア)刊行物1の記載事項
(a1)「2.特許請求の範囲
1.支承中心軸を中心として公転するとともに自転自在な車輪を有し、その車輪を車体の前後方向に移動自在に支承する遊星車輪機構を車体の前後左右にそれぞれ備えた走行装置と、この走行装置から延出された各種作業を行なうマニプレ-タと、前記走行装置の走行状態および前記マニプレ-タの作業状態を認識する視覚機構と、前記走行装置、マニプレ-タおよび視覚機構を関連動作せしめる動作制御装置とを有する保全ロボツト。」(第1頁左下欄第5-14行)
(a2)「〔発明の技術分野〕
本発明は各種機械システム等の保全作業を無人で行なう保全ロボツトに関する。」(第1頁右下欄第13-14行)
(a3)「これらの機能を更に具体的に示すと次のようになる。
(1) 標準的な階段の昇降ができること。
(2) 階段と同程度の凹凸面の乗り越えができること。
(3) 車体の小回りがきくこと。
(4) 広範な作業のできるマニプレ-タを有すること。
(5) 壁面にならって、自動的に、壁面からの位置を検出でき、自走するための制御信号を取れること。
(6) 視覚を有すること。
(7) 走行、マニプレ-タおよび視覚の各々の動作を関連して制御できること。」(第2頁左下欄第7-20行)
(a4)「〔発明の実施例〕
以下、本発明の実施例を第1図から第11図について説明する。
第1図から第4図は本実施の外観を示しており、第1図は斜視図、第2図は正面図、第3図は背面図、第4図は底面図である。
図中、符号1は走行装置であり、車体2とその下面の前後左右4箇所にそれぞれ遊星車輪機構3を備えている。この本体2の左側側部からは9自由度を有するマニプレ-タ4が延出されている。
また、本体2の上面後部には走行装置1の走行状態およびマニプレ-タ4の作業状態を認識する視覚機構5が設けられている。そして、これらの走行装置1、マニプレ-タ4および視覚機構5は動作制御装置(図示せず)によつて相互に関連動作させられる。」(第2頁右下欄第12行-第3頁左上欄第7行)
(a5)「(a) 走行装置1
主として、第1図、第5図および第6図について説明する。
車体2の下面に取付けられた各遊星車輪機構3は、それぞれ同様にして形成されており、前輪同志の左右の車輪間隔を後輪同志の車輪間隔より広くして形成されている。後部側の遊星車輪機構3をもつて全体を説明すると、第5図に示すように、本体2の下面に枢軸6を介して略L字形のア-ム台7の立上り部の上端部が枢着されており、このア-ム台7の水平部の端部に支承中心軸となる水平軸8が設けられている。この水平軸8は二重軸構造となつており、その外軸の側方端に3本の放射状ア-ム9の中心部が固着されている。この放射状ア-ム9の各端部にはそれぞれ小車輪10,10が回転自在にして取り付けられており、各小車輪10の車軸には遊星歯車11が固着されている。そして、この遊星歯車11はアイドラ12を介して水平軸8の内側軸に固着されている太陽歯車13に噛合している。この水平軸8の外軸は駆動モ-タ14により歯車15,16を介して回転させられ、内軸は駆動モ-タ17により回転させられる。従つて、駆動モ-タ14を回転させると、水平軸8の外軸が回転させられ、放射状ア-ム9も一緒に回転するので、小車輪10が水平軸8を中心として公転する。他方の駆動モ-タ17を回転させると、水平軸8の内軸が回転させられ、この回転が太陽歯車13、アイドラ12を通して遊星歯車11に伝えられ、小車輪10が自転する。」(第3頁左上欄第13行-左下欄第1行)
(a6)「(a) 走行
平面を走行する場合には、第1図から第6図に示すように、前後左右の全部の遊星車輪機構3の2個の小車輪10,10を走行面に接地させ、駆動モ-タ17を回転させることにより各小車輪10,10を自転させる。この場合車体2は4個の遊星車輪機構3,3により安定的に支持された状態で走行する。直進する場合には各小車輪10,10を等速回転させ、コ-ナを曲がる場合には左右の小車輪10,10の回転速度を異ならせる。
階段の昇降や障害物、凹凸面等の乗り越えは、例えば、第9図(a)〜(g)のようにして行なわれる。なお、同図においては、理解を容易にするため車体2と遊星車輪機構3とを簡略化して示している。
先ず、同図(a)〜(b)に示すように、平地30を堰31に前方の遊星車輪機構3の小車輪10aが衝突するまで前進走行する。小車輪10aが堰31に衝突した後、駆動モ-タ14を回転させて放射状ア-ム9を回転させ、同図(c)〜(f)に示すように、小車輪10a,10b,10cを水平軸8を中心にして公転させ、堰31を乗り越える。その後、同図(g)に示すように、後方の遊星車輪機構3が堰31に衝突したら、同様にして堰31を乗り越える。」(第4頁右下欄第17行-第5頁右上欄第1行)
(a7)図面第1図〜第11図には、上記記載事項(a1)〜(a6)について、図示されている。

したがって、刊行物1には、
「各種機械システム等の保全作業を無人で行う保全ロボットであって、車体(2)と、前記車体(2)に取付けられ、それぞれ自転及び一体として公転可能な複数の遊星歯車機構(3)と、太陽歯車(13)と、前記太陽歯車(13)を回転する駆動モータ(17)と、前記遊星歯車機構(3)と共に回転する複数の遊星歯車(11)と、前記太陽歯車(13)と前記複数の遊星歯車(11)とに噛合されたアイドラ(12)と、前記遊星歯車(11)及びアイドラ(12)を自転及び公転可能に支承し、前記遊星歯車機構(3)の自転が略停止された際に、駆動モータ(14)により、該遊星歯車(11)及び該アイドラ(12)が回転させられることにより、前記遊星歯車機構(3)を公転させる放射状アーム(9)とを備えた保全ロボット」
が、記載されている。
(イ)刊行物2の記載事項
(b1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 メインフレームの腹面に装着され索体を介して互いに連結された3個以上の磁力を有する車輪を循環させて鋼構造物の壁面に吸着しながら壁面における突起物を越える循環車輪機構と、上記メインフレームの背面に装着され壁面に張設された索体を巻回したドラムを回転させて壁面に沿って移動を行うフリクションウインチとを備えたことを特徴とする壁面アクセス装置。」
(b2)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は鋼製煙突、鋼製タンクなど高層鋼構造物における高所壁面の計測などに適用される壁面アクセス装置に関する。」
(b3)「【0005】
【作用】即ち、本発明に係る壁面アクセス装置においては、メインフレームの腹面に索体を介して互いに連結された3個以上の磁力を有する車輪を循環させる循環車輪機構が装着されて鋼構造物の壁面に吸着しながら壁面における突起物を越えるとともにメインフレームの背面にフリクションウインチが装着され壁面に張設された索体を巻回したドラムを回転させて壁面に沿って移動を行うようになっており、循環車輪機構の少なくとも1個以上の車輪を鋼構造物の壁面に吸着させて昇降するとき、この昇降によって車輪が壁面の突起物に当接すると車輪は後方に循環移動して壁面から突起物の高さだけ離れて乗り越える。この車輪が壁面から離れる前に索体によって互いに連結されている別の車輪が突起物の前方に循環して移動することによって壁面に吸着し、本装置本体が壁面に支持される。また、壁面に沿って張設された索体をフリクションウインチのドラムに巻回してドラムを回転させると索体とドラムとの摩擦によって本装置本体が壁面に沿って昇降する。壁面に沿って張設された索体の張設位置を移設することにより、本壁面アクセス装置は鋼構造物の壁面を自在に移動することができる。」
(b4)「【0006】
【実施例】図1および図2は本発明の一実施例に係る壁面計測装置の説明図である。図において、本実施例に係る壁面計測装置は鋼製煙突、鋼製タンクなど高層鋼構造物における高所壁面の計測などに使用されるもので、図に示すようにメインフレーム1の先端部にウインチフレーム2と減速モータ4によって駆動されて回転するフリクションドラム3とから成るフリクションウインチ5が装着されている。・・・メインフレーム1の腹面には4組の循環車輪機構30がビーム26を介して上下左右に装着されている。この循環車輪機構30はそれぞれのビーム26に固着されたガイドフレーム27と、ガイドローラ34によって自在に循環移動する車輪フレーム32と、車輪フレーム32に回転自在に装着された車輪31と、車輪フレーム32に装着された磁石33と、ガイドフレーム27に巻回されて3個の車輪フレーム32を等間隔で連結するチェーン35などとによって構成されている。なお、車輪フレーム32を連結する索状の連結部材としてチェーン35に代えワイヤロープなどを用いてもよい。」
(b5)「【0007】本装置を用いて例えば鋼製煙突などにおける高所壁面の座屈変形量および板厚計測を行う場合は、先づ煙突50の壁面50aに沿い上下にワイヤロープ54を張設して両端を固定し、このワイヤロープ54をガイドローラ6でガイドしてフリクションドラム3に複数回巻回し、ワイヤロープ54に所要の張力を付与するとともに、磁石33の吸引力によって1組3個の車輪31のうちの1個または2個(4組の合計4個乃至は8個)を磁石33によって煙突50の壁面50aと密着させてそれぞれの距離計17と壁面50aとの距離を一定に保持する。また、壁面50aに沿って上下方向に張設したワイヤロープ54をフリクションウインチ5のフリクションドラム3に巻回してこのワイヤロープ54に張力を付与し、フリクションドラム3を遠隔操作により駆動して回転させ、ワイヤロープ54とフリクションドラム3との摩擦によって本装置本体を壁面50aに沿って昇降させる。」
(b6)「【0008】この上昇のときに壁面50aと接触して回転している車輪31が、壁面50aから突出した溶接ビード52や例えば煙突50の補強を兼ねた建設時のジャッキアップ用のリング51などに当接しても、図1に2点鎖線で示すようにこの車輪31は循環車輪機構30の後方へ循環移動して循環車輪機構30が溶接ビード52やリング51などを乗り越える。そして、この車輪31が壁面50aから離れる前に次の車輪31が循環移動し、その磁石33によってリング51などの前方の壁面50aに密着し、距離計17と壁面50aとの距離が保持される。・・・」
(b7)「【0009】・・・本装置においては鋼構造物の高所壁面に沿って地上からの遠隔操作で本装置本体が昇降するようになっており、少なくとも1組に3個以上の車輪31を有し、このうちの少なくとも1個以上の車輪31が高所壁面に常時接触し、昇降中にこれらの車輪31が高所壁面のリング51など突起物との当接によって昇降方向に同一間隔で自在に循環移動するように索状の連結部材によって連結した循環車輪機構30が複数組設けられている。この循環車輪機構30には磁石33が非接触で高所壁面を吸引するように設けられている。また、高所壁面に沿って上下方向に張設したワイヤロープ54を巻回して駆動回転するフリクションドラム3を具備したフリクションウインチ5が設けられている。本装置は複数組の循環車輪機構30におけるそれぞれの少なくとも1個以上の車輪31を鋼構造物の壁面50aに接触させて壁面50aを吸引しながら昇降する。この昇降によって壁面50aに接触する車輪31が壁面50aの突起物に当接した場合は、後方に循環移動して壁面50aから突起物の高さだけ離れて乗り越える。この車輪31が壁面50aから離れる前に索状の連結部材によって連結された他の車輪31が突起物の前方に循環移動して壁面50aと接触し、本装置本体を壁面50aからの距離を一定にして支持する。また、本装置本体がそれぞれの循環車輪機構30の少なくとも1個以上の車輪31によって支持されて壁面50aを昇降しているとき、それぞれの循環車輪機構30に設けた磁石33によって壁面50aを吸引してこの車輪31を壁面50aと密着させ、本装置本体の壁面50aからの距離を完全に一定に保持する。・・・」
(b8)「【0010】このように、本装置は3個の車輪31のうちの少なくとも1個以上の車輪31が高層鋼構造物の壁面50aに常時接触し、昇降中にこれらの車輪31が壁面50aの突起物との当接によって昇降方向に同一間隔で自在に循環移動するように索状の連結部材によって連結した循環車輪機構30を設けたことにより、本装置本体の昇降中に壁面50aに接触している車輪31が壁面50aの突起物に当接すると後方に循環移動して壁面50aから突起物の高さだけ離れて乗り越え、この車輪31が壁面50aから離れる前に他の少なくとも1個の車輪31が突起物の前方に循環移動して壁面50aと接触し、壁面50aからの距離を一定に保持することができる。・・・また、循環車輪機構30に磁石33を非接触で高層鋼構造物の壁面50aを吸引するように設けたことにより、本装置本体を支持する車輪31をその磁石33によって壁面50aと密着させ、本装置本体を壁面50aから一定の距離に完全に保持して安定して昇降させることができる。・・・」
(b9)【図1】〜【図3】には、上記記載事項(b1)〜(b8)について、図示されている。

ウ.本願補正発明と引用刊行物に記載された発明の対比
(ア)本願補正発明と刊行物1記載された発明の対比
刊行物1に記載された発明の「車体(2)」、「遊星歯車機構(3)」、「太陽歯車(13)」「駆動モータ(17)」、「遊星歯車(11)」、「アイドラ(12)」、及び「放射状アーム(9)」は、本願補正発明の「台車」、「遊星車輪」、「太陽ギヤ」、「(太陽ギヤを回転する)駆動手段」、「出力ギヤ」、「遊星ギヤ」、「キャリア」に、それぞれ相当する。
そして、刊行物1記載の発明も保全作業を無人で行う保全ロボットであって、自走するものであることが明らかである。
したがって、本願補正発明の刊行物1記載の発明の一致点及び相違点は、それぞれ、以下の(イ)及び(ウ)のとおりである。

(イ)一致点
自走する装置であって、台車と、前記台車に取付けられ、それぞれ自転及び一体として公転可能な複数の遊星車輪と、太陽ギヤと、前記太陽ギヤを回転する駆動手段と、前記遊星車輪と共に回転する複数の出力ギヤと、前記太陽ギヤと前記複数の出力ギヤとに噛合された遊星ギヤと、前記複数の遊星ギヤ及び出力ギヤを自転及び公転可能に支承し、前記遊星車輪の自転が略停止された際に該太陽ギヤ、該遊星ギヤ及び該出力ギヤと一体回転させられることにより、前記遊星車輪を公転させるキャリアと、を備えた装置。

(ウ)相違点
(A)本願補正発明が、煙突筒身検査装置であるのに対して、刊行物1記載の発明は、保全ロボットである点。
(B)本願補正発明の遊星車輪に磁力が付与されているのに対して、刊行物1記載の発明の対応する構成要素である遊星歯車機構には、磁力が付与されていない点。
(C)遊星車輪の自転が略停止された際に、遊星車輪を公転させるキャリアについて、本願補正発明は、太陽ギヤを駆動する駆動手段により太陽ギヤ、遊星ギヤ及び出力ギヤと一体的に回転させられるのに対し、刊行物1記載の発明においては、太陽ギヤを駆動する駆動手段とは別の駆動手段により、太陽ギヤ、遊星ギヤ及び出力ギヤと一体的に回転させられる点。

エ.当審の判断
(ア)相違点(A)及び(B)について
刊行物2には、磁石33の吸引力によって車輪31を煙突50の壁面50aと密着させる壁面アクセス装置について記載されて(特に、記載事項(b5)を参照。)いる。
そして、刊行物1には、各種機械システム等の保全作業を無人で行う保全ロボットが開示されているのであって、その保全作業の対象を本願発明のような煙突筒身とすること自体に格別の困難性はない。
さらに、煙突筒身の検査は装置が垂直方向に昇降し、かつ、筒身に接着される必要があるのは自明なことであり、接着手段としては広く知られている磁力を装置と煙突筒身の接着手段として利用するという刊行物2に記載の技術的思想を、刊行物1記載の発明に適用することに、格別の困難性は存在しない。
請求人は、審判請求書の請求の理由(この理由中の引用文献1は、本審決の刊行物2に該当する。)において、「・・・引用文献1の『磁石33』は、車輪31ではなく、車輪フレーム32に付いています。また、引用文献1の装置においては、車輪自体は駆動されず、車輪の駆動機構もありません。引用文献1の装置が壁面に沿って昇降する場合には、装置がワイヤによって引っ張られます。・・・したがって、引用文献1の装置が、本願発明の装置のように壁面を自走することは不可能であり・・・」(第4頁第3-12行)と、主張するが、本願補正発明においては、遊星車輪について、「磁力により煙突筒身に接着し」とされ、磁石の設置場所に関しては特定されておらず、遊星車輪に磁力を付与しうる点で、本願補正発明と刊行物2記載の発明に差異は認められない。
また、装置が自走するか、あるいはワイヤ駆動されるかは、装置の駆動手段の相違であるから、装置の車輪が磁力により煙突筒身に接着されることに関して、刊行物1記載の発明に記載された発明に、刊行物2記載の技術的思想を適用し、本願補正発明とすることの容易相当性を妨げるものではない。

(イ)相違点(C)について
刊行物1記載の発明の機構は、太陽ギヤ、遊星ギヤ、及び出力ギヤからなる本願発明の機構と同様なものであって、出力ギヤの回転が停止されない通常の走行状態においては、太陽ギヤが駆動されることで、出力ギヤが自転することで走行するという本願発明と等価な作用を奏する。
その一方、障害物を乗り越える際、刊行物1記載の発明の装置は、本願発明の装置が、遊星車輪を全体として公転させるキャリアを、太陽ギヤを駆動する駆動手段により回転させるのと異なり、太陽ギヤを駆動する駆動手段とは別の駆動手段により、直接回転させるものである。
しかしながら、刊行物1記載の発明は、本願発明と同様の遊星歯車機構を有するものであって、その特性からも、遊星歯車機構の自転が略停止された時に、太陽ギヤを駆動することで、遊星車輪を公転させ得る構造となっていることが明らかであるし、この際、キャリアを直接回転させている状態であっても、同時に太陽ギヤを回転させて、その駆動力を遊星歯車を公転させるのに利用しうるものであって、遊星歯車を公転させるのに、太陽ギヤを駆動するか、キャリアを駆動するかは、当業者が適宜選択しうる事項であると認められる。
そして、本願補正発明においては、遊星車輪を公転させるキャリアについては、遊星車輪の自転が略停止された際に、太陽ギヤを駆動する駆動手段により該太陽ギヤ、該遊星ギヤ及び該出力ギヤと一体回転させられることが、特定されただけであり、特に、太陽ギヤのみで駆動を可能とするのに適した構成が特定されているものでもない。
したがって、本願補正発明とは、遊星歯車機構が等価であって、その駆動する要素が異なる刊行物1記載の発明において、その要素を単に太陽ギヤに限定することには、格別の技術的意義は認められない。
(ウ)当審の判断の総括
結局、上述のとおり、相違点(A)〜(C)は、いずれの点も格別な技術的意義を有するものとはいえず、また、これらの相違点を総合的に検討しても、それらによって奏される効果は当業者が当然に予測できる範囲のものと認められるから、本願発明は、刊行物1及び刊行物2記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認める。

オ.むすび
以上により、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定に該当するから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものと認められる。
したがって、本願補正書による補正は、平成15年改正前特許法第17条の2第5項において前項第2号の場合に準用する同法第126条第4項の規定に違反しているものと認められ、特許法第159条において読み替えて準用する特許法第53条の規定により却下すべきものであるから、1.の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
第2のとおり、本願補正書による補正が却下されたから、本特許出願の請求項1の発明(以下、「本願発明」という。)は、平成14年10月10日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されている上記第2の2.(1)ア.の事項により特定されるとおりのものと認める。

2.引用刊行物等及びその記載事項
刊行物1:特開昭61-100806号公報
刊行物2:特開平8-99657号公報
上記刊行物1及び刊行物2は、第2で引用されたものと同じものであり、その記載事項については、第2の(2)イ.の内容を援用する。

3.当審の判断
第2の2.(1)で検討したように、本願補正発明は、本願発明と比較して、遊星車輪の自転が略停止された際に、遊星車輪を公転させるキャリアについて、太陽ギヤを駆動する駆動手段により太陽ギヤ、遊星ギヤ及び出力ギヤと一体的に回転させられるという技術的事項が限定されたものであると認められる。
そして、本願補正発明は、第2で検討したように刊行物1及び刊行物2から当業者が容易に発明をすることができたものであって、その構成のうち、当該技術的事項の限定が省かれた構成のみを有する本願発明も、刊行物1及び刊行物2に記載された発明から、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

4.むすび
したがって、本特許出願の請求項1に係る発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項について検討するまでもなく、本特許出願についての拒絶をすべき旨の査定を取り消すことはできない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-02-14 
結審通知日 2005-02-15 
審決日 2005-02-28 
出願番号 特願平8-249052
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B62D)
P 1 8・ 575- Z (B62D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 成彦小山 卓志山内 康明  
特許庁審判長 藤井 俊明
特許庁審判官 田々井 正吾
鈴木 久雄
発明の名称 煙突筒身検査装置  
代理人 加藤 朝道  
代理人 加藤 朝道  

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