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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02B
管理番号 1115452
審判番号 不服2002-9306  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-08-15 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-05-23 
確定日 2005-04-14 
事件の表示 平成6年特許願第11224号「ターボチャージャの非接触シール装置」拒絶査定不服審判事件〔平成7年8月15日出願公開、特開平7-217441〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
1.特許出願:平成6年2月2日
2.拒絶理由の通知:平成13年10月23日(発送:平成13年10月3 0日)
3.意見書、手続補正書の提出:平成14年1月4日
4.拒絶査定:平成14年4月16日(発送:平成14年4月23日)
5.審判請求書の提出:平成14年5月23日(方式補正:平成14年6月 24日)
6.手続補正書(明細書)の提出:平成14年6月24日

第2 平成14年6月24日付け手続補正についての補正却下の決定
【補正却下の決定の結論】
平成14年6月24日付けの明細書を補正対象とする手続補正を却下する。
【理由】
1.補正の内容
本件手続補正は、上記第1、4の拒絶査定時の明細書(以下、「原明細書」という。)の記載を、上記第1、6の手続補正書(以下、「本件手続補正書」という。)のとおりに補正(以下、「本件補正」という。)することを求めるものであって、その内容は、次のとおりである。

(1)特許請求の範囲に係る補正
原明細書の特許請求の範囲を次のように補正する。
「【請求項1】一端部にコンプレッサ室に臨むコンプレッサインペラを有す
るロータシャフト;
このロータシャフトを回転自在に支持するハウジング;
上記ロータシャフト用の貫通孔を構成する筒状部を有し、上記ハウジングに、該ハウジング内の潤滑室と上記コンプレッサ室との間に位置させて固定されたリテーナ;及び
このリテーナの貫通孔に嵌合する筒状部を有し、上記ロータシャフトに固定されたカラー;
とを備えたターボチャージャにおいて、
上記リテーナの筒状部の下部を、90〜180゜の角度範囲に渡って切除してカラーの上記筒状部を露出させ、
この切除部以外では、リテーナの貫通孔とカラーの筒状部との間の嵌合隙間にラビリンスによるリングシールを形成したことを特徴とするターボチャージャの非接触シール装置。」
なお、下線は補正箇所を明確にするため、当審で付加したものである。

(2)発明の詳細な説明に係る補正
原明細書の段落【0004】、【0005】、【0029】を本件手続補正書のとおりに補正する(詳細については、記載を省略する。)

2.補正の目的の適否について
本件補正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項によりなお従前の例によるものとされた同法による改正前(以下、単に「改正前」という。)の特許法第17条の2第1項第5号に規定された、特許法第121条第1項の審判(拒絶査定に対する審判)を請求する場合において、その審判の請求から30日以内になされたものであり、その目的の適否について検討する。
原明細書の特許請求の範囲の請求項1(以下、「補正前請求項1」という。)の記載と補正後の明細書の特許請求の範囲の請求項1(以下、「補正後請求項1」という。)の記載とを対比すると、特許請求の範囲の請求項1に係る補正事項は、次のとおりである。
(1)補正前請求項1の「上記ロータシャフトの貫通孔を構成する筒状部を有し、・・・固定させたリテーナ」を、「上記ロータシャフト用の貫通孔を構成する筒状部を有し、・・・固定させたリテーナ」と補正する。
(2)補正前請求項1の「上記リテーナの筒状部の下部を、90〜180゜の角度範囲に渡って切除した」を、「上記リテーナの筒状部の下部を、90〜180゜の角度範囲に渡って切除してカラーの上記筒状部を露出させ」と補正する。
(3)補正前請求項1に、「この切除部以外では、リテーナの貫通孔とカラーの筒状部との間の嵌合隙間にラビリンスによるリングシールを形成した」という構成を追加する。

上記(1)の補正事項は、補正前請求項1における、リテーナの筒状部が構成する「貫通孔」が、ロータシャフトを貫通させるためのものであることを明確にするもので、不明瞭な記載の釈明を目的とするものに該当し、出願当初の明細書の段落【0012】における「このリテーナ30は、潤滑油室23とコンプレッサ室25(コンプレッサインペラ13)の間に位置しており、その軸部の筒状部30dによってロータシャフト12(第2カラー15)を貫通させる貫通孔30aが構成されている。」などの記載によれば、新規事項を追加するものではない。
次に上記(2)及び(3)の補正事項について検討する。
上記(2)の補正事項は、補正前請求項1における、リテーナの筒状部の下部を切除する態様について、「カラーの上記筒状部を露出させ」るという構成を付加して、これを限定するものであり、出願当初の明細書の段落【0015】における「リテーナ30の筒状部30dには、その下部に、切除部分30eが形成されている。この切除部分30eは、回転する第2カラー15(筒状部15a)をその下部において露出させる。」などの記載によれば、新規事項を追加するものではない。
さらに、上記(3)の補正事項は、補正前請求項1における、「リテーナの貫通孔」とこれに嵌合するカラーの「筒状部」との嵌合隙間に関して、リテーナ筒状部の下部に形成された切除部以外では、ラビリンスによるリングシールを形成したという構成を付加して、これを限定するものであり、出願当初の明細書の段落【0012】における「この貫通孔30aと筒状部15a、及びCリング35と環状溝36の間のラビリンスにより、潤滑油室23とコンプレッサ室25間のシール手段(リングシール)が構成される。」などの記載、及び同段落【0015】、【0017】に記載されているように、切除部分により第2カラー15(筒状部15a)をその下部において露出させるものであるから、この切除部分では、「リテーナの貫通孔」とこれに嵌合するカラーの「筒状部」との嵌合隙間自体が形成されず、ラビリンスによるリングシールが形成されないことは、出願当初の明細書の記載から自明の事項として導き出せることである。
したがって、この補正事項も新規事項を追加するものではない。
そして、補正前請求項1に記載される発明と補正後請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、上記補正事項(2)及び(3)は、改正前の特許法第17条の2第3項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、補正後請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうか(すなわち、改正前の特許法第17条の2第4項において準用する同法第126条第3項の規定に適合するものであるのかどうか)について、次に検討する。

3.本願補正発明の独立特許要件について
(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記した補正後請求項1に記載されたとおりのものと認める。

(2)引用文献
(2-1)引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された実願昭58-29917号(実開昭59-137331号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
「 第1図は本考案の一実施例を適用したターボチャージャを示すものである。この図において、ハウジング1内にはシャフト2を軸支する軸受部3が形成され、またハウジング1の両側にはコンプレッサハウジング4とタービンハウジング5が設けられる。シャフト2は一端にコンプレッサホイール6、他端にタービンホイール7がそれぞれ設けられ、コンプレッサホイール6はコンプレッサハウジング4内に、タービンホイール7はタービンハウジング5内にそれぞれ収容される。・・・・・
ハウジング1のコンプレッサホイール6側には、環状のシールリテーナ11が嵌着され、さらにその内側には逆U字状のスラストベアリング12が取付けられる。シャフト2はこれらシールリテーナ11およびスラストベアリング12を貫通し、シャフト2とシールリテーナ11との間には筒状のシールリングカラー13が、シャフト2とスラストベアリング12との間には、両端に鍔を有する筒状のスラストカラー14が、それぞれ設けられる。シールリングカラー13およびスラストカラー14はシャフト2に一体的に固定される。
・・・・・しかして取付部15bの内周筒状部と環状板部15aとにより環状の第2油溝15cが形成される。また取付部15bの下方部分には、オイルを通過させるための通路15dが穿設される。
シールリングカラー13はシャフト2に嵌着されてシールリテーナ11とインシュレータ15の内周側に位置し、その一端はコンプレッサホイール6に当接し、他端はスラストカラー14に接触する。このシールリングカラー13には、シールリテーナ11とインシュレータ15との間に位置する円板状の突起フランジ13aが形成される。この突起フランジ13aはシールリングカラー11の内周部端面11cに近接し、これとの間に間隙16を形成し、また突起フランジ13aの先端はシールリテーナ11の上記円錐面部11aに対向する。突起フランジ13aの外径は、第1油溝11bの径よりも大きくかつ第2油溝15cの径よりも小さく形成される。後述するように、突起フランジ13aの回転によりオイルがコンプレッサ側に流動するのを抑制するようになつているが、シールリテーナ11の内周部にはシールリングカラー13と摺接するシールリング17が嵌着され、仮にオイルが間隙16内に入り込んだとしてもシールリテーナ11よりも外方へ洩れないようになつている。」(明細書第4頁5行〜第7頁11行)

上記の記載事項及び図面の記載を総合すると、引用文献1には、次のような発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「一端部にコンプレッサハウジング4により形成された空間に臨むコンプレッサホイール6を有するシャフト2;
このシャフト2を回転自在に支持するハウジング1;
上記シャフト2用の貫通孔を構成する筒状部を有し、上記ハウジング1に、該ハウジング1内のオイルを通過させるための通路15dを備えた空間と上記コンプレッサハウジング4により形成された空間との間に位置させて固定されたシールリテーナ11;
及び
上記シールリテーナ11の貫通孔に嵌合する筒状部を有し、上記シャフト2に固定されたシールリングカラー13;
とを備えたターボチャージャにおいて、
上記シールリテーナ11の内周部端面11cをシールリングカラー13に設けた突起フランジ13aに近接させ、
上記シールリテーナ11の貫通孔の内周部にシールリングカラー13と摺接するシールリング17が嵌着された、
ハウジング内のオイルが上記コンプレッサホイール6側に漏洩するのを抑制するオイル漏れ止め装置。」

(2-2)引用文献2
同じく原査定の拒絶の理由に引用された実願昭62-95976号(実開昭64-3031号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
「 本考案の第1実施例を第1図〜第3図にもとづいて説明する。排気タービン側のシールリング近傍の構成は、図示の通り、排気タービン2側でベアリングハウジング7を嵌通しているタービンシャフト4のシールリング軸部4aに環状溝13が形成され、この環状溝13にシールリング14が嵌合されている。一方、シールリング軸部4aが嵌通しているベアリングハウジング7の円筒状摺動面16に前記シールリング14に近傍してシールリング14の位置から見てタービン2と反対側の位置に環状凹部18を形成し該環状凹部18にはタービンシャフト中心線X-X’より下部において、切り欠き部18a、18bによって開口部19が形成されベアリングハウジング7のオイル通路11(第7図)と連通している。
上記の構成により、機関の運転中に機関潤滑用のオイルはターボチャージャ1のオイル通路入口10(第7図)よりベアリングハウジング7内に流入し、排気タービン2側ではベアリング9を潤滑したあとタービンシャフト4のシールリング軸部4aを伝わって環状凹部18に流入し、隣接したシールリング14を潤滑する。環状凹部18内のオイルはその後そこに滞留することなく、オイル戻しとなる開口部19より流出してオイル通路出口11(第7図)より機関のオイル溜めに戻される。
以上の作用により、常に環状凹部18より一定量のオイルがシールリング14に供給されてその焼付防止を行うと共に開口部19を設けたことで余分なオイルが環状凹部に滞留することがなく、運転中、各種の圧力変動があってもオイルが排気タービン側に吸出されて洩油することが防がれる。」(明細書第7頁11行〜第9頁1行)

上記の記載事項及び図面の記載を総合すると、引用文献2には、次のような発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「一端部に排気タービン2を有するタービンシャフト4;
このタービンシャフト4を回転自在に支持するベアリングハウジング7;
上記タービンシャフト4用の貫通孔を構成する円筒状摺動面16を有し、 上記ベアリングハウジング7内のオイル通路出口11に連なる空間とタービンハウジング5内の空間との間に位置させたベアリングハウジング7の側壁部;
及び
上記円筒状摺動面16に設けられた環状凹部18に位置する筒状部を有し、上記タービンシャフト4に設けられたシールリング軸部4a;
とを備えたターボチャージャにおいて、
上記環状凹部18のタービンシャフト中心線より下部において、所定角度範囲にわたって、切り欠き部18a、18bにより開口部19を形成してシールリング軸部4aの上記筒状部を露出させた、ターボチャージャのオイル漏れ防止構造。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「コンプレッサハウジング4により形成された空間」、「コンプレッサホイール6」及び「シャフト2」は、その技術的意義や機能からみて、本願補正発明の「コンプレッサ室」、「コンプレッサインペラ」及び「ロータシャフト」のそれぞれに相当し、以下同様に、引用発明1の「該ハウジング1内のオイルを通過させるための通路15dを備えた空間」、「シールリテーナ11」及び「シールリングカラー13」は、本願補正発明の「該ハウジング内の潤滑室」、「リテーナ」及び「カラー」のそれぞれに相当する。
また、引用発明1において「上記シールリテーナ11の内周部端面11cをシールリングカラー13に設けた突起フランジ13aに近接」させることと、本願補正発明において「上記リテーナの筒状部の下部を、90〜180゜の角度範囲に渡って切除してカラーの上記筒状部を露出」させることとは、その機能からみて、ともに「オイルが上記リテーナよりも外方へ漏れるのを防止する構造」である限りにおいて一致する。
さらに、引用発明1において「上記シールリテーナ11の貫通孔の内周部にシールリングカラー13と摺接するシールリング17が嵌着」されていることと、本願補正発明において「この切除部以外では、リテーナの貫通孔とカラーの筒状部との間の嵌合隙間にラビリンスによるリングシールを形成」していることとは、ともに「上記リテーナの貫通孔とカラーの筒状部との間の嵌合隙間にシール部を形成」している限りにおいて一致する。
そして、引用発明1における「オイル漏れ止め装置」も、引用文献1の明細書第2頁末行の「・・・すなわち上記各部材は相互に非接触であり、・・・」という記載、及びシールリテーナ11、シールリングカラー13、シールリング17などの構造からみて、非接触シール装置であることは、明らかである。

したがって、本願補正発明と引用発明1との一致点、相違点は次のとおりである。
〈一致点〉
「一端部にコンプレッサ室に臨むコンプレッサインペラを有するロータシャフト;
このロータシャフトを回転自在に支持するハウジング;
上記ロータシャフト用の貫通孔を構成する筒状部を有し、上記ハウジングに、該ハウジング内の潤滑室と上記コンプレッサ室との間に位置させて固定されたリテーナ;及び
このリテーナの貫通孔に嵌合する筒状部を有し、上記ロータシャフトに固定されたカラー;
とを備えたターボチャージャにおいて、
オイルが上記リテーナよりも外方へ漏れるのを防止する構造を有するとともに、
上記リテーナの貫通孔とカラーの筒状部との間の嵌合隙間にシール部を形成したターボチャージャの非接触シール装置。」
〈相違点1〉
オイルがリテーナよりも外方へ漏れることを防止する構造に関して、本願補正発明においては「上記リテーナの筒状部の下部を、90〜180゜の角度範囲に渡って切除してカラーの上記筒状部を露出」させているのに対して、引用発明1においては「上記シールリテーナ11の内周部端面11cをシールリングカラー13に設けた突起フランジ13aに近接」させている点。

〈相違点2〉
リテーナの貫通孔とカラーの筒状部との間の嵌合隙間に形成したシール部に関して、本願補正発明においては「この切除部以外では、リテーナの貫通孔とカラーの筒状部との間の嵌合隙間にラビリンスによるリングシールを形成」しているのに対して、引用発明1においては「上記シールリテーナ11の貫通孔の内周部にシールリングカラー13と摺接するシールリング17が嵌着」されている点。

(4)相違点について検討及び判断
そこで、上記相違点1、2について検討する。
(4-1)相違点1について
前述のように、引用発明2においては、「上記円筒状摺動面16に設けられた環状凹部18に位置する筒状部を有し、上記タービンシャフト4に設けられたシールリング軸部4a」を備えるとともに、「上記環状凹部18のタービンシャフト中心線より下部において、所定角度範囲にわたって、切り欠き部18a、18bにより開口部19を形成してシールリング軸部4aの上記筒状部を露出させ」ており、それにより、「環状凹部18内のオイルはその後そこに滞留することなく、オイル戻しとなる開口部19より流出してオイル通路出口11(第7図)より機関のオイル溜めに戻される。以上の作用により、常に環状凹部18より一定量のオイルがシールリング14に供給されてその焼付防止を行うと共に開口部19を設けたことで余分なオイルが環状凹部に滞留することがなく、運転中、各種の圧力変動があってもオイルが排気タービン側に吸出されて洩油することが防がれる。」(引用文献2;明細書第8頁12行〜第9頁1行)という作用、効果が奏されるものと解される。
引用発明2は、オイルが排気タービン側に吸出されて漏油することを防止するものであるが、ターボチャージャの軸受部を潤滑するオイルの漏れを防止する点で、引用発明1と技術的課題が共通し、しかも、オイルシールの構造からみて、引用発明2の「シールリング軸部4a」及びベアリングハウジング7の「円筒状摺動面16に設けられた環状凹部18」を形成する部分は、引用発明1の「シールリングカラー13」及び「(シールリテーナ11の)筒状部」にそれぞれ相当するものといえる。
したがって、引用発明1に引用発明2を適用し、引用発明1における「上記シールリテーナ11の内周部端面11cをシールリングカラー13に設けた突起フランジ13aに近接」させるという構造に代えて、引用発明1の「(シールリテーナ11の)筒状部」のタービンシャフト中心線より下部において、所定角度範囲にわたって、切り欠き部により開口部を形成してシールリングカラー13の筒状部を露出させることは、当業者が容易に想到し得ることである。
ところで、引用発明2においては、引用文献2の図3などを参酌すると、切り欠き部18a、18bは、概略90°程度の角度範囲にわたって形成されていることが認められる。
仮に上記切り欠き部の角度範囲が90〜180°の範囲にないとしても、必要な潤滑特性の確保やオイルの漏れを防止する観点などから、最適な角度範囲を選定することは、当業者が当然に考慮すべき設計的事項と解され、しかも、この角度範囲を90〜180°とすることにより、格別顕著な効果が奏されるものとも解されない。
してみると、切り欠き部の角度範囲を90〜180°とすることは、引用発明1に引用発明2を適用するにあたり、当業者が適宜なし得る程度の設計的事項というべきである。
したがって、本願補正発明の相違点1に係る構成とすることは、引用発明1に引用発明2を適用することにより、当業者が容易に想到し得ることといわざるを得ない。

(4-2)相違点2について
ターボチャージャのオイルシール構造として、ラビリンスによるリングシールを採用することは、当業者にとって広く知られた技術的事項と解されるところ、リテーナとカラー部の筒状部との間の嵌合隙間にラビリンスによるリングシールを形成することは、例えば、実願昭60-64240号(実開昭61-181832号)のマイクロフィルム(特に第2図のラビリンスシール部25を参照のこと)や実願昭60-188470号(実開昭62-97367号)のマイクロフィルム(特に第1図のラビリンスシール10を参照のこと)にみられるように、本願出願前より周知の技術である。
してみると、引用発明1における「上記シールリテーナ11の貫通孔の内周部」と「(シールリングカラーの)筒状部」との間の嵌合隙間に、ラビリンスによるリングシールを形成し、本願補正発明の相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
なお、上記(4-1)の「相違点1について」で述べたように、引用発明1に引用発明2を適用し、「シールリテーナ11の貫通孔に嵌合する筒状部」のタービンシャフト中心線より下部において、所定角度範囲にわたって、切り欠き部により開口部を形成してシールリングカラー13の筒状部を露出させるようにすれば、その結果として、当該部分にシールリングカラー13の筒状部との嵌合隙間自体が形成されないから、ラビリンスによるリングシールが形成されないことは、当然の帰着として導き出されることというべきである。

(5)本願補正発明の独立特許要件についてのむすび
本願補正発明は、全体構成でみても、引用発明1、2及び前述した周知の技術から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものではない。
よって、本願補正発明は、引用発明1、2及び前述した周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおり、本件補正は、改正前の特許法第17条の2第4項において準用する同法第126条第3項の規定に違反するので、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって上記補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明を拒絶する理由
1.本願発明
平成14年6月24日付けの手続補正書による手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成14年1月4日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】一端部にコンプレッサ室に臨むコンプレッサインペラを有す
るロータシャフト;
このロータシャフトを回転自在に支持するハウジング;
上記ロータシャフトの貫通孔を構成する筒状部を有し、上記ハウジングに、該ハウジング内の潤滑室と上記コンプレッサ室との間に位置させて固定されたリテーナ;及び
このリテーナの貫通孔に嵌合する筒状部を有し、上記ロータシャフトに固定されたカラー;
とを備えたターボチャージャにおいて、
上記リテーナの筒状部の下部を、90〜180゜の角度範囲に渡って切除したことを特徴とするターボチャージャの非接触シール装置。」

2.拒絶査定の理由の概要
拒絶査定の理由は、上記第1、2の拒絶理由通知書及び同4の拒絶査定書からみて、概略、次のようなものである。
「この出願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された刊行物である実願昭58-29917号(実開昭59-137331号)のマイクロフィルム、実願昭62-95976号(実開昭64-3031号)のマイクロフィルムに記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 」

3.引用文献
拒絶査定の理由に引用された実願昭58-29917号(実開昭59-137331号)のマイクロフィルム(引用文献1)、実願昭62-95976号(実開昭64-3031号)のマイクロフィルム(引用文献2)の記載事項は、前記第2の【理由】3.(2)の「引用文献」に記載したとおりである。

4.対比
前記第2の【理由】3、(3)の「対比」での検討によれば、本願発明と上記した引用発明1との一致点、相違点は次のとおりである。
〈一致点〉
「一端部にコンプレッサ室に臨むコンプレッサインペラを有するロータシャフト;
このロータシャフトを回転自在に支持するハウジング;
上記ロータシャフトの貫通孔を構成する筒状部を有し、上記ハウジングに、該ハウジング内の潤滑室と上記コンプレッサ室との間に位置させて固定されたリテーナ;及び
このリテーナの貫通孔に嵌合する筒状部を有し、上記ロータシャフトに固定されたカラー;
とを備えたターボチャージャにおいて、
オイルが上記リテーナよりも外方へ漏れるのを防止する構造を有するターボチャージャの非接触シール装置。」
〈相違点〉
オイルがリテーナよりも外方へ漏れるのを防止する構造に関して、本願発明においては「上記リテーナの筒状部の下部を、90〜180゜の角度範囲に渡って切除」しているのに対して、引用発明1においては「上記シールリテーナ11の内周部端面11cをシールリングカラー13に設けた突起フランジ13aに近接」させている点。

5.判断
上記相違点は、前記第2の【理由】、(3)で述べた本願補正発明と引用発明1との〈相違点1〉から、「カラーの上記筒状部を露出」させた点を削除したものに相当し、同(4)、(4-1)の「相違点1について」で述べたとおり、本願補正発明の上記〈相違点1〉に係る構成とすることが、引用発明1に引用発明2を適用することにより、当業者が容易に想到し得ることであるから、本願発明の上記相違点に係る構成とすることも、同様の理由により引用発明1に引用発明2を適用することにより、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、本願発明は、全体構成でみても、引用発明1、2から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものではない。
したがって、本願発明は、引用発明1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者がその出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-02-09 
結審通知日 2005-02-15 
審決日 2005-03-01 
出願番号 特願平6-11224
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F02B)
P 1 8・ 121- Z (F02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 黒瀬 雅一  
特許庁審判長 石原 正博
特許庁審判官 平城 俊雅
亀井 孝志
発明の名称 ターボチャージャの非接触シール装置  
代理人 三浦 邦夫  

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