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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1115551
審判番号 不服2003-21757  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-11-10 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-11-07 
確定日 2005-04-21 
事件の表示 平成 6年特許願第112247号「発熱体」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年11月10日出願公開、特開平 7-296959〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成6年4月27日の出願であって、平成15年9月30日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月7日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年12月8日付で手続補正がなされたものである。

2.平成15年12月8日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成15年12月8日付の手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「 緯糸又は経糸のいずれか一方が、1×10-4〜5×10-3Q・cmの体積固有抵抗率で、230〜500GPaの弾性率を有する炭素繊維及び非導電性繊維で構成され、該炭素繊維からなる糸は互いに隣り合わない状態で配列されており、他方が非導電性繊維で構成される混織織物と、該織物に接続された銅箔片からなる電極及びリード線接続用端子とからなり、該端子を除く混織織物及び電極の全体を、エポキシ樹脂及びポリシアネート系樹脂から選ばれるマトリックス樹脂をガラスファイバークロスに含浸させてなるプリプレグからなる被覆材で、当該被覆材の余った上下端部のプリグレグ同士が接着するように両面から被覆してなる発熱体。」
と補正された。
なお、上記補正特許請求の範囲の請求項1における「Q・cm」は「Ω・cm」の誤記、「 プリグレグ同士」は「プリプレグ同士」の誤記と認める。

上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「炭素繊維」について、「1×10-4〜5×10-3Ω・cmの体積固有抵抗率で、230〜500GPaの弾性率を有する」との限定を付加し、「電極」について、「銅箔片からなる」との限定を付加し、「プリプレグの被覆材で被覆」について、「プリプレグからなる被覆材で、当該被覆材の余った上下端部のプリプレグ同士が接着するように両面から被覆」と限定とするものであって、平成6年法律第116号による改正前の特許法第17条の2第3項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成6年法律第116号による改正前の特許法第17条の2第4項において読み替えて準用する特許法第126条第3項)について以下に検討する。

(2)引用例
(2-1)特開平6-60965号公報
原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-60965号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
・「図3において、発熱層31は、絶縁性繊維からなる絶縁性糸状体31aと、導電性繊維を含む繊維からなる導電性糸状体31bとを織って布状体を形成し、これに樹脂31cを含浸させたものである。この場合、導電性糸状体31bが所定の間隔をおいて略平行に配置されるとともに、これら導電性糸状体31bの間に絶縁性糸状体31aが介在されて導電性糸状体31bどうしが電気的に絶縁されるようになっている。なお、上記布状体を形成するのに、この一実施例では、横糸として全て絶縁性糸状体31aを用い、縦糸として絶縁性糸状体31aと導電性糸状体31bとを交互に用いる方法を採用している。」(段落【0027】)
・「図4(a)に示されるように、発熱層31における導電性糸状体31bの長さ方向の両端部は短絡線31dによって短絡され、」(段落【0029】)
・「【0030】絶縁層33,34,35,36は、発熱層31の導電性糸状体31bを絶縁性糸状体に置き換えた外は同一の構成を有するものであるので、その詳細説明は省略する。
【0031】ここで、この一実施例では、導電性繊維としては直径7μmの炭素繊維を用い、導電性糸状体としてはこの炭素繊維を1000〜3000本束ねて糸状にしたものを用いた。また、絶縁性繊維としてガラスファイバを用い、絶縁性糸状体としてはこのガラス繊維を多数束ねて上記導電性糸状体の太さ程度の糸状にしたものを用いた。さらに、これら絶縁性糸状体もしくは導電性糸状体を織って形成した布状体に含浸させる樹脂としてはエポキシ樹脂を用いた。なお、図示しないが、発熱抵抗体部5の両端部には適宜の電力供給端子が形成され、図示しない適宜の電力供給装置によって電力を供給できるようになっている。」(段落【0030】、【0031】)
・「面状発熱体3のプリプレグは、次のようにして作製する。すなわち、発熱層31,32を構成する布状体及び絶縁層33,34,35,36を構成する布状体をそれぞれ必要枚数作製し、それぞれにエポキシ樹脂を含浸させ、発熱層と絶縁層となるべき未硬化状態のプリプレグを作製する。しかる後、これらプリプレグを上述の配置関係で積層させて面状発熱体3のプリプレグを得る。」(段落【0033】)
・「この面状発熱体3を構成する発熱層31,32及び絶縁層33,34,35,36が布状体に樹脂31c,32cを含浸させてなるものであるので、各層自体が極めて強固なものである。」、「さらに、本発明の一実施例のものはこれに加えて発熱層と絶縁層とを積層させて複数層構造をなしているのでその機械的強度は著しく大きい。また、発熱層31,32が絶縁層33,34と35,36とで挾まれた構造であるので、発熱層を絶縁層で被覆保護する効果が得られ、絶縁性及び耐久性に極めて勝れている。」(段落【0035】)

これらの摘示事項からみて、引用例1には、
「縦糸が炭素繊維からなる導電性糸状体31b及び絶縁性繊維からなる絶縁性糸状体31aで構成され、横糸が絶縁性繊維からなる絶縁性糸状体31aで構成され、前記炭素繊維からなる導電性糸状体31bは、これら導電性糸状体31bの間に絶縁性糸状体31aが介在されて、互いに隣り合わない状態で配列されており、前記縦糸と前記横糸を織って形成された布状体とし、これにエポキシ等の樹脂31cを含浸させプリプレグ発熱層31とし、該発熱層31における導電性糸状体31bの長さ方向の両端部は短絡線31dによって短絡され、電力供給端子が形成され、前記発熱層31を、エポキシ樹脂をガラスファイバを織っ形成した布状体に含浸させてなるプリプレグからなる絶縁層33,34,35,36で、挟まれた構造に積層した面状発熱体。」
という発明(以下「引用例1発明」という。)が記載されているものと認める。

(2-2)特開昭62-157687号公報
同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭62-157687号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
・可撓性フィルム状の発熱素体の両面に、合成樹脂製の内板と外板とを、それぞれ一体に積層固着すると共に、前記発熱素体は、リボン状のカーボン繊維群が直列または並列に自在に配列されると共に、前記カーボン繊維群には導電用端子が設けてあり、さらに、前記導電用端子のみを残して、前記カーボン繊維群が可撓性エポキシ樹脂によって封止されている構造を特徴とする発熱性樹脂積層体」(特許請求の範囲の請求項2)
・「「作用」 以上の構成の発熱素体は、導電性のカーボン繊維が可撓性エポキシ樹脂に封止された可撓性フィルム状を有するもので、加熱冷却の反復に対するサーマルショック性や耐湿性、電気絶縁性に優れ、その熱素体を核として内在させた発熱性樹脂積層体は、外気にさらされる屋外用の加熱」保温器や保温ベンチの曲面を含む各種形状の発熱壁として良好な性能を奏する作用がある。」(第2頁左上欄18行〜同頁右上欄6行)
・「以上の様に配列形成した格子状のカーボン繊維2には、上下両面ならびに左右縁部を含む全面に公知の可撓性エポキシ樹脂が塗布されて絶縁被膜8が形成されており、格子状配列のカーボン繊維2は導電用端子5のみを残して可撓性エポキシ樹脂の絶縁被膜8に包み込まれて封止された可撓性フィルム体である。」(第2頁右上欄17行〜同頁左下欄3行)

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用例1発明とを比較すると、引用例1発明の「横糸」は、本願補正発明の「緯糸」に相当し、同様に「縦糸」は「経糸」、「炭素繊維」は「炭素繊維」、「絶縁性繊維」は「非導電性繊維」、「織って形成した布状体」は「織物」、「電力供給端子」は「リード線接続用端子」、「エポキシ樹脂」は「エポキシ樹脂」、「プリプレグ」は「プリプレグ」、「ガラスファイバを織っ形成した布状体」は「ガラスファイバークロス」、「絶縁層」は「被覆材」、「面状発熱体」は「発熱体」に相当するから、両者は、
「緯糸又は経糸のいずれか一方が、炭素繊維及び非導電性繊維で構成され、該炭素繊維からなる糸は互いに隣り合わない状態で配列されており、他方が非導電性繊維で構成される混織織物と、該織物に接続されたリード線接続用端子とからなり、混織織物の全体を、エポキシ樹脂から選ばれるマトリックス樹脂をガラスファイバークロスに含浸させてなるプリプレグからなる被覆材で、両面から被覆してなる発熱体。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]本願補正発明は、1×10-4〜5×10-3Ω・cmの体積固有抵抗率で、230〜500GPaの弾性率を有する炭素繊維であるのに対し、引用例1発明は、炭素繊維はこのような体積固有抵抗率及び弾性率の数値は特定されていない点。

[相違点2]本願補正発明は、銅箔片からなる電極があるのに対し、引用例1には電極の明記がない点。

[相違点3]本願補正発明は、混織織物をプリプレグからなる被覆材で両面から被覆したたのに対し、引用例1発明は混織織物(発熱層)及びその両面の被覆材(絶縁層)がともにプリプレグである点。

[相違点4]本願補正発明は、該端子を除く混織織物及び電極の全体を、プリプレグからなる被覆材で、当該被覆材の余った上下端部のプリプレグ同士が接着するように両面から被覆してなるのに対し、引用例1にはこの構成の明記がない点。

(4)判断
[相違点1]について
面状発熱体の発熱素子として用いる炭素繊維として、高弾性率のピッチ系炭素繊維を用いることは、本願出願当時において周知の事項(例えば、特開平2-154099号公報(第2頁右下欄13〜18行)参照)であるし、炭素繊維の体積固有抵抗率も格別な数値ではない(例えば、実願昭55-167743号(実開昭57-89295号)のマイクロフィルム明細書第3頁7〜10行参照)し、本願補正発明では、炭素繊維の体積固有抵抗率と弾性率についてのみ数値限定をしているが、炭素繊維の径や長さ、どの程度の密度で配列されているのかによって、発熱体全体としての強度や抵抗率は変わるものであり、炭素繊維の体積固有抵抗率と弾性率についての細かい数値限定に技術的意義はなく、相違点1に係る数値に限定することは、引用例1に記載された発明において、当業者が発熱体として要求される条件に応じて適宜選択する設計的事項にすぎない。

[相違点2]について
引用例1には電極の明記はないが、「図4(a)に示されるように、発熱層31における導電性糸状体31bの長さ方向の両端部は短絡線31dによって短絡され、」(段落【0029】)と図4の記載によれば、短絡線31dが、電極の機能の一部を有しており、また、面状発熱体に電極を設けることは自明のことであるし、面状発熱体の電極に銅箔を用いることは本願出願当時において周知の事項(例えば、特開平2-154099号公報(第3頁左下欄8〜10行)、特開平5-1818号公報(段落【0013】)参照)であり、引用例1に記載された発明において、銅箔片からなる電極を設けることは当業者が適宜採用する設計的事項である。

[相違点3]について
面状発熱素子の全体を包むようにその両面をエポキシ樹脂を用いたガラス布等のプリプレグからなる被覆材で被覆した点は本願出願当時には周知の事項(例えば特開平5-251163号公報参照)であり、引用例1発明の発熱層をプリプレグにするか否かは当業者が適宜選択する設計的事項である。

[相違点4]について
引用例2には、導電用端子のみを残して、カーボン繊維からなる可撓性フィルム状発熱素体の両面にエポキシ樹脂製の板を積層して、前記発熱素体の上下両面並びに左右縁部を含む全面をエポキシ樹脂で封止して耐水性とした発熱体の点が記載されており、しかも、耐水性、耐久性を確保するために面状発熱素子の上下面並びに左右縁部を含む全面を樹脂で封止した点は本願出願当時には周知の事項(例えば、特開平5-251163号公報、実願昭55-167743号(実開昭57-89295号)のマイクロフィルム、実公平3-13112号公報、参照)であり、端子部分を被覆しないようにすることは電気的接続を確保するために当業者が適宜行う設計的事項であり、引用例1発明において、電力供給端子を除いて発熱層の全体を包むようにプリプレグで被覆することは、当業者が必要に応じて容易になし得たことである。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用例1、引用例2及び周知の事項から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本願補正発明は、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明、及び、周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成6年法律第116号による改正前の特許法第17条の2第4項において読み替えて準用する特許法第126条第3項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成15年12月8日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成15年7月17日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

緯糸又は経糸のいずれか一方が炭素繊維及び非導電性繊維で構成され、該炭素繊維からなる糸は互いに隣り合わない状態で配列されており、他方が非導電性繊維で構成される混織織物と、該織物に接続された電極及びリード線接続用端子とからなり、該端子を除く混織織物及び電極の全てをエポキシ樹脂及びポリシアネート系樹脂から選ばれるマトリックス樹脂をガラスファイバークロスに含浸させてなるプリプレグの被覆材で被覆してなる発熱体。

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、および、その記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明から「炭素繊維」について、「1×10-4〜5×10-3Ω・cmの体積固有抵抗率で、230〜500GPaの弾性率を有する」との限定、「電極」について、「銅箔片からなる」との限定、「プリプレグの被覆材で被覆」について、「プリプレグからなる被覆材で、当該被覆材の余った上下端部のプリグレグ同士が接着するように両面から被覆」という限定を省いたものである。

そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり、引用例1、引用例2、及び、周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1、引用例2、及び、周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明、及び、周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-02-08 
結審通知日 2005-02-15 
審決日 2005-02-28 
出願番号 特願平6-112247
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
P 1 8・ 575- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 結城 健太郎長崎 洋一豊島 唯  
特許庁審判長 水谷 万司
特許庁審判官 櫻井 康平
長浜 義憲
発明の名称 発熱体  
代理人 森田 順之  

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