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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
管理番号 1115554
審判番号 不服2003-14801  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-06-02 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-07-31 
確定日 2005-04-21 
事件の表示 平成 5年特許願第283792号「能動素子の等価回路のパラメータの決定方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 6月 2日出願公開、特開平 7-141414〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成5年11月15日の出願であって、その請求項1に係る発明は、次のとおりのものと認める。(以下、「本願発明」という。)
「【請求項1】能動素子を四端子網として測定したSパラメータの測定値から該能動素子の外部の付随的パラメータの値を差引いて素子内部の各本質的パラメータ値を決定するCADを用いた能動素子の等価回路のパラメータの決定方法において、
該測定した能動素子のSパラメータをZパラメータに変換し、外部の付随的パラメータZex、
【数4】

として適当な初期値Zex0を与えて、内部の本質的パラメータのZパラメータに相当する差分Z-Zex0を求め、該差分を計算の容易化の為にYパラメータYin0に変換し、能動素子の等価回路をYパラメータ表現したYin、
【数5】

の各マトリクス要素に現れる等価回路の構成要素の値を、前記Yin0のマトリクス要素との対応を利用して求め、
該Zex0と求められた構成要素の値から計算したSパラメータと、測定した前記Sパラメータとの全周波数域にわたる自乗誤差の和を零にすると同時に、
求めた該構成要素の値が周波数依存性を示さない様に、Zex0値を変化させ最適化することにより、
能動素子の等価回路の各構成要素の前記本質的パラメータ値を求めることを特徴とした能動素子の等価回路のパラメータの決定方法。」
なお、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1には「差分Z=Zex0」と記載されているが、数学的整合性及び本願明細書段落4の記載を考慮すると、これは「差分Z-Zex0」の誤記と認められる。

2.引用例
一方、当審において平成16年11月17日付けで通知した拒絶の理由に引用された、本願出願日前に頒布された特開平5-267946号公報(以下「引用刊行物」という。)には、下記の事項が記載されている。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 電気回路の4端子パラメータの測定値を有理式で表現し、これに最小二乗近似法を適用して該電気回路の等価回路素子定数を決定することを特徴とした方法。
【請求項2】 逐次近似法により該電気回路の寄生素子の値を決定することを特徴とした請求項1に記載の電気回路の等価回路素子定数の決定方法。」(1頁1欄1〜8行)
イ 「【0003】
【従来の技術】FET等の等価回路の構成は図1に示すように示されることが提案されており、この構成でほぼ固まって来ている。これは、例えば、「アイ・イー・イー・イー・トランザクション・マイクロ波理論技術」の1984年12月第32巻・第12号・第1573-1578 頁(IEEE Trans. Microwave Theory Tech. vol.32 No.12 Dec.1984 pp1573-1578)において、カーティス及びカミサ(Curtice & Camisa)による「増幅器の設計及び素子診断のための矛盾無きGaAsFET モデル(Self-Consistent GaAsFET Models for Amplifier Design and Device Diagnostics)」と題する論文において示されている。
【0004】このような等価回路において、Ri,Rds,Rg,Rs,Rdは抵抗成分を示して、Lg,Ls,Ldはインダクタンス成分を示し、Cgs,Cgd,Cdsはキャパシタンス成分を示しており、gmは電流源を示している。また、図示の点線で囲まれた抵抗成分Ri,Rdsとキャパシタンス成分Cgs,Cgd,Cdsと電流源gmとで構成されるインピーダンス部分ZFは基本素子(Intrinsic element) 部分と称され、また、この基本素子部分ZFの外側に位置するインピーダンス部分Zg(=Lg+Rg),Zs(=Ls+Rs),Zd(=Ld+Rd)はそれぞれ寄生素子(Extrinsic element) 部分と称されるものである。
【0005】このような等価回路の素子定数の決定方法としては、測定で得られたSパラメータをCADソフトウェアに取り込んで決定するという方法が採られている。
【0006】尚、図1の等価回路のSパラメータを求めるため、まず基本素子部分ZFのY.アドミタンス)パラメータ及び寄生素子部分Zg,Zs,ZdのZ(インピーダンス)パラメータを求めると次式のようになる。
【0007】
【数1】

【0008】
但し、Zg=Rg+jωLg ┐
Zd=Rd+jωLd ├ ・・・・・(3)
Zs=Rs+jωLs ┘
」(2頁1欄17行〜同頁32行)
ウ 「【0015】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記のような方法では、各素子定数を逐次近似法のみによって決定して行くため、その初期値は経験的に決定したものが使用される。これは、図1に示すような寄生素子Zg,Zs,Zdについては高周波域に関して決定しなければならず、前周波数域に適用できる逐次近似法が必要であるからであるが、そのため、該初期値の選び方や逐次近似のやり方によっては収束した最終的な各素子定数が異なってしまったり物理的な妥当性が無く、またその検証にも一定の経験を必要とするというような問題があった。」(3頁3欄11〜22行)
エ 「【0021】このようにして逐次近似法を用いずに有理式を用いたので、一意性が有り、得られた初期値は合理的な等価回路素子定数を求めることができるので、最終的な結果が初期値の選び方によって左右されずに得られ、物理的にも妥当なものとなる。
【0022】また本発明では、上記の有理式に適用した最小二乗近似法に更に逐次近似法を組み合わせることにより該電気回路の寄生素子の値をより正確に決定することができる。これは、4端子パラメータの測定値には誤差が含まれており、従って得られた有理式の係数にも圧縮されてはいるが誤差が含まれているので、係数に多くの処理を施して決定しなければならないような高周波帯域に対応するパラメータについては該係数からの直接的な導出はできないからである。
【0023】従って、この場合には、有理式に適用した最小二乗近似法では、逐次近似法の初期値が4端子パラメータの測定値により一義的に定まることとなり、この初期値を用いて逐次近似法により全ての等価回路素子定数を求めることができる。」(3頁4欄17〜35行)
オ 「【0052】(2)等価回路素子の定数の決定:
(1)初期値の抽出 上記のように、分数式(8)は等価回路素子の情報をすべて含んでいる筈であり、少なくとも原理的には、その分数式から等価回路素子の全てが決定出来る筈である。
【0053】しかしながら、Sパラメータの測定値には必ず誤差が含まれており、それが分数式の係数にも含まれるので、係数に多くの演算を施して素子値(特に寄生素子部分Zg,Zs,Zdの値)を抽出する事は周波数が高くなればなる程困難となり逐次近似法を用いる必要性が生じる。そこで比較的低次の係数のみを用いて逐次近似法の初期値を求める。
(中略)
【0074】尚、上記の計算では、Rg ,Rd ,Rg 等の寄生部分の抵抗はZ0 ,Rds等にくらべて小さいので係数からの決定は困難と考えられるので初期値は0とすることができ、インダクタンスについても係数に対する処理が多くなるので、初期値は0している。
【0075】(2)逐次近似による素子値の決定 図1に示した基本素子部分ZFの各素子定数の初期値が上記の計算により与えられたので、まず寄生部分の素子の値を更新する。
【0076】即ち、素子定数Rs ,R g,R d,Ls ,L g,L d,に対するSパラメータの傾き∂Sij/∂Rs …… ∂Sij/∂Ls ……をラフソン・ニュートン法により計算し、次式、
【0077】
【数23】

【0078】を目的関数として誤差εを極小とする様に逐次近似を行う。但し、〔Spq〕(ωi )は測定値である。この極小値は大きく値を変化させると不安定を起こす恐れがあるので減衰係数α(=0.5)を用いている。
【0079】次に基本素子部分ZFに対するSパラメータの傾きを計算し、基本素子部分ZFの値を更新する。
【0080】これを交互に繰り返して、収束するまで行う。尚、はじめの分数式近似に対して式(44)を計算すると実験誤差の程度が分かるので、この値を収束判定の目安とすることができる。」
これらの記載事項及び図1によると、引用刊行物には、
「FET等の電気回路の4端子パラメータの測定値を有理式で表現し、これに最小二乗近似法を適用して該電気回路の等価回路の基本素子部分の各素子定数の初期値を決定し、この際に寄生部分の定数の初期値は0とし、寄生部分の素子の値を更新し、次に基本素子部分の値を更新し、これを相互に繰り返してSパラメータの計算値と測定値の全周波数域にわたる自乗誤差の和が極小となるように逐次近似を行って等価回路素子定数を決定することを特徴とした方法」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。なお、引用刊行物の数23式(エの段落0077参照。)が「全周波数域にわたる自乗誤差の和」を表すことは当業者に明らかである。

3.周知例
本願出願日前に頒布された特開平3-105268号公報には、以下の周知例が記載されている。
ア 「2.特許請求の範囲
試作した電界効果型半導体装置(FET)の寄生的な回路要素(Cgp、Rg、Rd、Cdp、Rs)を測定し、
前記電界効果型半導体装置(FET)のSパラメ-タを測定し、
前記Sパラメ-タから寄生的な回路要素(Cgp、Rg、Rd、Cdp、Rs)を取り除き、
前記寄生的な回路要素(Cgp、Rg、Rd、Cdp、Rs)を取り除いた本質的な回路要素に係る等価回路パラメ-タをYパラメ-タに変換し、
前記Yパラメ-タに基づいて、前記電界効果型半導体装置(FET)の性能演算処理を行うことを特徴とする電界効果型半導体装置の評価方法。」(1頁左欄4〜17行)
イ 「次いで、ステツプP4でSパラメ-タから寄生的な回路要素Cgp,Rg,Rd,Cdp,Rsを取り除く.この回路要素を取り除く方法は、第3図(d)に示すように、まずSパラメ-タをRパラメ-タに変換する。次に各回路要素ボンデイングパツド容量Cgpに対して、R-Cgp、同Cdpに対してR-Cdp,ゲ-ト抵抗Rgに対してR-Rd及びドレイン抵抗Rdに対してR-Rdを算出する。この算出結果に基づいて、回路要素Cgp,Cdp,Rg,Rdの影響を取り除き、その後、等価回路のZパラメ-タを求める。この際にZ-Rsが算出され、この値に基づいてソ-ス抵抗Rsの影響が取り除かれる。
次に、ステップP5で等価回路の各パラメ-タCgs,Cgd,Cds,gm,Rds,Riを演算する。
該パラメ-タを算出する方法は、第3図(e)の等価回路に示すように、本質的な回路要素に係るZパラメ-タをYパラメ-タに変換することに行う。ここで、Cgsをゲ-ト・ソ-ス間の容量、Cgdをゲ-ト・ドレイン間の容量、Cdsをドレイン・ソ-ス間の容量、Riを実効ゲ-ト直列抵抗、Rdsをチヤネル抵抗及びgmを順方向相互コンダクタンスとすれば、Yパラメ-タは次式により得られる。すなわち、

これにより、実数部及び虚数部の計8個の本質的な回路要素が一意的に決定される。」(4頁左下欄1行〜同右下欄15行)

4.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「FET等の電気回路」、「4端子パラメータの測定値」、「基本素子部分の各素子定数」、「等価回路素子定数」及び「寄生部分の定数の初期値」は、それぞれ本願発明の「能動素子」、「四端子網として測定したSパラメータの測定値」、「素子内部の各本質的パラメータ値」及び「能動素子の等価回路のパラメータ」及び「Zex0」に相当する。そして、引用発明も「CADソフトウェアに取り込んで決定するという方法」(2.イの段落0005参照。)を前提としているから「CADを用いる」ことは明らかであり、引用発明の「4端子パラメータの測定値を有理式で表現し、これに最小二乗近似法を適用して」決定した各素子定数の初期値は「求められた構成要素の値」ということができる。
してみると、両者は、
「能動素子を四端子網として測定したSパラメータの測定値から素子内部の各本質的パラメータ値を決定するCADを用いた能動素子の等価回路のパラメータの決定方法において、
Zex0と求められた構成要素の値から計算したSパラメータと、測定した前記Sパラメータとの全周波数域にわたる自乗誤差の和を評価し、
Zex0値を変化させ最適化することにより、
能動素子の等価回路の各構成要素の前記本質的パラメータ値を求めることを特徴とした能動素子の等価回路のパラメータの決定方法。」
である点で一致するが、以下の点で相違する。
(相違点1)上記「求められた構成要素の値」を求めるにあたって、本願発明は、測定した能動素子のSパラメータをZパラメータに変換し、外部の付随的パラメータZex、【数4】(1.参照。)として適当な初期値Zex0を与えて、内部の本質的パラメータのZパラメータに相当する差分Z-Zex0を求め、該差分を計算の容易化の為にYパラメータYin0に変換し、能動素子の等価回路をYパラメータ表現したYin、【数5】(1.参照。)の各マトリクス要素に現れる等価回路の構成要素の値を、前記Yin0のマトリクス要素との対応を利用して求め、かつSパラメータの測定値から該能動素子の外部の付随的パラメータの値を差し引いて素子内部の各本質的パラメータ値を決定するのに対し、引用発明は、Sパラメータの測定値を有理式で表現し、これに最小二乗近似法を適用して構成要素の値を求め、かつ付随的パラメータは0としておく点。
(相違点2)上記「自乗誤差の和」の評価にあたり、本願発明は零とするのに対し、引用発明は極小となるようにする点。
(相違点3)最適化の際に、本願発明では、求めた該構成要素の値が周波数依存性を示さない様にするのに対し、引用発明では、周波数依存性については明示されていない点。

5.当審の判断
(相違点1)について検討する。引用刊行物には構成要素の初期値を決定するにあたり、従来は経験的に決定していたところ(2.ウ参照。)、より一意的で合理的な定数を求める(2.エ参照。)べきことが示唆されており、一方、上記3.に示したように、回路要素を一意的に決定するために、測定されたSパラメータをZパラメータに変換し、付随的パラメータを差し引いてさらにYパラメータに変換し、Yパラメータのマトリクス要素との対応(3.イの各式参照。)を利用して求めることは周知であるから、一意的な初期値を決定する方法として該周知技術を採用することは当業者が容易になし得ることである。なお、この際に付随的パラメータ及び能動素子の等価回路のYパラメータとして、引用刊行物に記載された周知の表現形式(2.イの段落0007〜8参照。)を用いることは当業者にとって設計的事項である。
(相違点2)について検討すると、引用発明において自乗誤差の和を極小とするところ、その究極的な表現である「零とする」を用いることに技術的な意義は認められない。
(相違点3)について検討すると、逐次近似法において周波数依存性を示さないようにすることが望ましいことは当業者にとって自明のこと(2.ウ参照。なお、段落0015中の「前周波数域」は「全周波数域」の誤記。)であるから、周波数依存性をも考慮して逐次近似を試みることは当業者が容易に思いつくことである。

6.むすび
したがって、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。

7.付言
なお、念のため付言すれば、上記通知では、明細書の記載不備についても拒絶の理由としてあげたが、これに対し、審判請求人は、「自乗誤差の和を零にする」ことは不可能であることを平成17年1月31日付け意見書で自認した上で、「零にするの表現で、零に向けて努力するの意味である事は、実際に、等価回路の構成要素の決定を行った、或いは行おうとする当業者にとって誤解なく伝わる基本的な事実であることを確信します。」と主張しているが、周知だからといって当業者が常に正確な理解をするとは限らないのであって、この場合引用刊行物に記載されているように、例えば「極小にする」といった適切な表現があるのであるから、上記実現不可能な事項を含む特許請求の範囲あるいは発明の詳細な説明の記載は、特許法上不適法である。
 
審理終結日 2005-02-17 
結審通知日 2005-02-22 
審決日 2005-03-07 
出願番号 特願平5-283792
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 早川 学  
特許庁審判長 小川 謙
特許庁審判官 深沢 正志
加藤 恵一
発明の名称 能動素子の等価回路のパラメータの決定方法  
代理人 横山 淳一  

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