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審決分類 審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1115705
審判番号 審判1997-10371  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-03-05 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1997-06-23 
確定日 2005-04-21 
事件の表示 平成 7年特許願第243853号「組換えDNA技術によってDNA、RNA、ペプタイド、ポリペプタイド、または蛋白質を取得するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 3月 5日出願公開、特開平 8- 56667〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、1985年6月17日(パリ条約による優先権主張1985年3月30日、スイス)を国際出願日とする特願昭60-502625号の一部を平成7年8月30日に新たな出願(特願平7-243853号)としたものであって、その出願に係る発明は、平成11年9月24日付けの手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1、15、16、24、25、34、44、45、46、47、48に記載されたとおりのものと認められる(以下、それぞれ本願発明1、15、16、24、25、34、44、45、46、47、48という。)ところ、請求項1の記載は以下のとおりである。
「【請求項1】 リガンドに対する結合特性を有するペプチド、ポリペプチドまたはたんぱく質を同定する方法で、
(a)上記の結合特性を検出するリガンドを提供し、
(b)ストキャスティック的に生成したポリヌクレオチド配列の多様な集団を合成し、
(c)上記のストキャスティック的に生成したポリヌクレオチド配列の多様な集団を、発現ベクター集団中に挿入して、ストキャスティック的に生成したポリヌクレオチド配列を含有する発現ベクターの多様な集団を形成し、
(d)上記ストキャスティック的に生成したポリヌクレオチド配列を含有する発現ベクターの多様な集団を宿主細胞において発現し、ペプチド、ポリペプチド、またはたんぱく質の多様な集団を産生し、および
(e)上記リガンドを使用して、上記ペプチド、ポリペプチド、またはたんぱく質の多様な集団を、1つ以上のペプチド、ポリペプチド、またはたんぱく質の上記リガンドとの結合と検出が行える条件下においてスクリーニングする、
ことを含む方法。」

2.当審が通知した拒絶理由
これに対して、当審が平成13年8月31日付で通知した拒絶理由は、
「この出願は、明細書の記載が以下の点で不明瞭であり、特許を受けようとする発明を当業者が容易に実施し得る程度に記載されているものとは認められないため、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
(1)「ストキャスティック的に生成したポリヌクレオチド配列の多様な集団を合成」することができる程度に記載されていない点。これにより、請求項1、15、16、24、25、34、44、45、46、47、48に記載された発明は、容易に実施できるものと認められない。
(2)「特定の結合特性を有するリガンドを使用して、ペプチド、ポリペプチド、またはたんぱく質の多様な集団を上記リガンドとの結合と検出が行える条件下においてスクリーニングする」ことができる程度に記載されていない点。これにより、請求項1、15、16、24、25、34、44、45、46、47、48に記載された発明は、容易に実施できるものと認められない。」
というものである。
なお、本願出願は昭和60年6月17日に出願された特許出願の一部を分割出願したものであるから、上記理由中、「特許法第36条第4項」は、昭和60年改正法の「特許法第36条第3項」の誤記であることが明らかであり、請求人も実質的にこれに沿った対応をしているので、以後、この審決では、当審の上記拒絶理由の適用条文を「特許法第36条第3項」と改めて、記載する。

3.当審の判断
以下、本願発明1について、上記拒絶理由により拒絶すべきものか否か、検討する。
(3-1)本願明細書によれば、本願発明は、「予じめ定められた構造、式、配列を有する遺伝子産物を専らその対象としている技術の現状において、予じめ定められた性質を利用するという従来未知の全く新規な方法を開発する目的でなされたもの」(【0003】)であり、そのために、「RNA、ペプチド、ポリペプチドまたは蛋白質を発現することのできる遺伝子を含有する形質転換された宿主細胞を用いて、つまり組換えDNA技術を利用して、DNA、RNA、ペプチド、ポリペプチドまたは蛋白質を同定、分離又は取得するための方法を、その目的対象とする」(【0004】)ものであり、「特に、一応次のことができるストキャスティック遺伝子またはストキャスティック遺伝子のフラグメントを製造することを目途とするものである:該遺伝子またはその断片は、これらの遺伝子の転写または翻訳の後に、(およそ少なくとも10,000の)非常に数多くの全く新規な蛋白質を、これらの蛋白質を発現しうるこれらの遺伝子をそれぞれ含有する(バクテリアまたは真核細胞からなる)宿主細胞の存在下で、同時に得ることができるものであり、しかる後に、該クローンの内どれが希望する性質を有する蛋白質を生産するのかを決定する目的で、選択又はクリーニング(注.スクリーニングの誤記と考えられる。)を行うものである。該希望する性質としては、例えば、構造的、酵素的、触媒的、抗原的、薬学的性質、またはリガンドとしての性質があり、そして更に一般的には、化学的、生化学的、生物学的その他の性質がある。」(【0005】)というものである。
そして、このような発明の1つである本願発明1は、上述のとおりの構成を有するものである。
(3-2)そこで、検討すると、本願発明1の方法により特定のリガンドに対する結合特性を有するペプチド等が実際に得られるには、当該ペプチド等の配列に関する情報が予め知られているなどの特別の場合は別として、一般的には、特定の結合特性についてのスクリーニングの対象となるペプチド等の集団が高度にランダムな配列を網羅的に含むものである必要があり、そのような高度にランダムかつ網羅的なペプチド等の集団をスクリーニングしなければ、確実にそのような結合特性を有するペプチド等を得ることができるとはいえないと考えられる。
しかしながら、以下に述べるように、本願の発明の詳細な説明中の記載によっては、当該目的を達成できる程度に高度にランダムかつ網羅的な配列の集団を容易に得ることができるとは認められない。
すなわち、
(3-2-1)本願明細書には、特定のリガンド結合特性を有するペプチド等をスクリーニングし得る対象の多様なペプチド等の集団、またそれらをコードする多様なヌクレオチド配列の集団が104、105、106、107あるいは108以上の異なるストキャスティックなアミノ酸配列、またそれらをコードするヌクレオチド配列を含むべきことが記載され(特許請求の範囲の請求項3、15、49、50、51等参照)、また、当該ペプチド等をコードするヌクレオチド配列の長さについては、特許請求の範囲の請求項45等に約300ヌクレオチド以下とすることが記載され、また、本願明細書には、600程度、および800程度のものが記載されており(本願明細書【0046】、【0047】には、直線化したベクターに3’末端当たり平均300のヌクレオチドを添加し、更にAとTの配列を付加した後、ハイブリッド化し、第2鎖を形成する旨記載されており、この手法により最終的に得られる二重鎖配列は600以上のヌクレオチド長を有することになる。また、本願明細書【0053】には、オクタマーを100オリゴマー、アセンブルしたポリマーをストキャスティック遺伝子とすることが記載されている。)、本願発明の目的を達成するためのストキャスティックな配列集団としては、この程度の多様性を有するものが想定され、また、この程度のヌクレオチド配列長のものが想定されているものと認められる。
(3-2-2)一方、本願明細書には、上記ストキャスティックなヌクレオチド配列を得る方法として、i)発現ベクター上の直接合成、ii)コヘッシブ-エンドを持たないオリゴヌクレオチドを出発原料とする合成、およびiii)ヘプタマーのグループを出発原料とするアセンブリーの3つの方法が記載されている。
このうちii)の方法は、本願明細書【0051】に記載された5種類の回帰性DNAオクタマーをランダムに重合するというものである。そして、例えば104の多様性を有するアミノ酸配列を得るためには、コドンの縮重を考慮すれば、少なくとも104以上の多様性を有するヌクレオチド配列を得る必要があるところ、ii)の方法で、104以上の多様性を有するヌクレオチド配列を得るためには、オクタマーの種数の重合数乗=5×5×5×5×5=3125種、3125×3(読み枠の種数)=9375種であるから、3とおりの読み枠を考慮しても5個以上のオクタマーを重合する必要がある。そして、この時のヌクレオチド長は少なくとも8×5=40以上となり、これがコードするペプチドのアミノ酸長は少なくとも40/3=13以上であるところ、生体を構成するアミノ酸の種類は20であり、アミノ酸長13のペプチドの完全にランダムなアミノ酸配列の網羅的な種数は2013種であるから、上記手法により得られる104種類のアミノ酸配列の種数は、完全にランダムな場合の網羅的な種数(2013以上)に比べて遙かに少ない種数である。得ようとするアミノ酸配列の多様性が104以上の場合についても、これに応じてオクタマーの重合数を増やす必要があり、これによりヌクレオチド配列長が長くなり、これがコードするアミノ酸配列長も長くなり、ひいてはアミノ酸配列の完全にランダムな場合の網羅的な種類が増大するから、これと同様のことがいえる。
また、iii)の方法は、本願明細書【0059】に記載された10種類のコヘッシブ-エンドを有するDNAヘプタマーをランダムに重合するというものであり、この方法で例えば104以上の多様性を得るためには、10×10×10×10×3=30000であるから、4個以上のヘプタマーの重合が必要であり、この時のヌクレオチド長は7×4=28、これがコードするアミノ酸長は少なくとも28/3=9であり、完全にランダムなアミノ酸配列の種数は209種であるから、上記手法により得られる104種類のアミノ酸配列の種数も、ii)と同様に、完全にランダムな場合の網羅的な種数(209以上)に比べて遙かに少ない種数である。得ようとするアミノ酸配列の多様性が104以上の場合も、これと同様である。
本願明細書には、また、「これらのオクタマーまたはヘプタマーの有する制限酵素の特異的部位を利用して、これらの重合物を部分消化したのち、T4DNAリガーゼで処理することにより、最初の配列の基本的な性質は保持する一方で、非常に数多くの新規配列を創造することができる」旨記載されている(【0063】)が、これは、上記5種類のオクタマーのうちの1つに存在するClaI制限酵素の消化部位、及び上記10種類のヘプタマーのうちの4つに存在するPstI制限酵素の消化部位を利用するものであり、これによっても、得られるアミノ酸配列の多様性は、アミノ酸配列の完全にランダムな場合の網羅的な種類には及ばないと認められる。
また、i)の手法は、直線化したベクターをターミナルトランスフェラーゼ(TdT)の存在下、各種dNTP混合物と反応させ、ベクターの3’末端にヌクレオチドをランダムに添加伸長する方法であるが、これについては、TdTによるヌクレオチドの添加のし易さがヌクレオチド種により異なること、また、dTTPの使用量が他のdNTP量に比べて少ないこと、合成されたポリヌクレオチドの中間にAとTの連続した配列を必ず有することとなること等からすれば、この手法により完全にランダムかつ網羅的なヌクレオチド合成が行われるとはいい難いうえ、反応に供される直線化ベクターの数によりランダム化には限界がある。例えば、本願明細書に記載されているように1013個の直線化ベクターを用いた場合(【0044】)には、最大でも1013の多様性しか得られないが、この多様性(種数)は、この手法で得るとしている300ないし600のヌクレオチド長の配列(【0046】、【0047】)のコードするアミノ酸配列の網羅的な数20100-200に比べてはるかに少ない種数である。
(3-2-3)以上のとおりであるから、当審は、上述の拒絶理由通知において、「本願明細書には、ストキャスティック的に生成したポリヌクレオチド配列の多様な集団を合成することができる程度に記載されていないから、本願明細書の記載は当業者が本願発明1を容易に実施することができる程度にその目的、構成、効果が記載されていない」と判断する理由として、「本願明細書には、ストキャスティックなポリヌクレオチド配列を作成する方法として、i)発現ベクター上の直接合成、ii)コヘッシブ-エンドを持たないオクタマーオリゴヌクレオチドを出発原料とする合成、iii)ヘプタマーのグループを出発原料とするアセンブリーの三とおりを挙げているが、これらの方法により作成されたポリヌクレオチド配列は、それぞれの方法に起因した制限された範囲の多様性を有するものと認められ、完全にランダムな配列が得られるものとは認められない。」点を指摘した。
(3-2-4)これに対し、審判請求人は、平成14年3月11日付の意見書で、「本発明の方法における目的は、完全にランダムである配列を得ることではない」、「前もって配列に関する情報を必要とする代わりに、望ましいリガンドに結合する特性を有するペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質(以下、ペプチド等という)を、上記リガンドで多様な集団をスクリーニングすることによって得ることができる」、「本願発明の方法においては、特定の性質(リガンドに対する結合特性)に対してスクリーニングを行う点に特徴があり、このことは、適切なリガンド結合特性を有するペプチド等を突き止めるために、全ての可能なアミノ酸配列のペプチドを作り出すことを必要とすることを意図しているわけではない」と、本願発明には完全にランダムかつ網羅的なペプチド集団は必要がない旨主張する。
しかしながら、「前もって配列に関する情報を知ることなしに」、完全にランダムかつ網羅的な配列種よりも遙かに少ない上記ストキャスティックな配列種をスクリーニングすることにより、どうして特定のリガンド結合特性を有するペプチド等を得ることができるといえるのか、請求人は合理的な説明は何もしていない。
そして、本願明細書には、このような手法により実際に特定のリガンド結合性を有するペプチドを得たことを示す実施例等の具体的な記載は何もない(本願出願後も、本願の手法により有用なペプチドを得たことは報告されていない。)。
本願明細書には、また、2000万(2×107)の形質転換細胞コロニー中には所期のペプチドを発現するコロニーが20含まれる旨の記載がある(公開公報【0084】)が、これは、実際に行った結果ではなく、なぜ2000万に対して20程度の陽性コロニーが得られるといえるのか、また、本願明細書に記載された、限られた多様性を有するペプチドでも同様のことがいえるのか、合理的な説明は何も記載されていない。
してみると、i)〜iii)の手法で、その中に特定のリガンド結合性を有するペプチド等が含まれる蓋然性が高い程の多様性を有するペプチド集団が得られるとすべき、合理的な根拠は何もないというべきである。
(3-3)審判請求人は、また、上記意見書において、「本願明細書には、i)〜iii)の手法のほかに、化学合成によってDNAまたはRNAの1本鎖オリゴマーを得、これを生化学的手法によって重合し、次いで、このような遺伝子をクローニングするために、2本鎖DNAを発生せしめるのに確立された手法によって、これらのDNAまたはRNAセグメントを処理することができることが挙げられているから、本願明細書は、アミノ酸組成において偏りのあるものから完全にランダムであるものまでの種々の集団をストキャスティックに合成するように改変可能な手順を教示しているといえる」旨、主張する。
しかしながら、本願明細書には、上記手法につき、これ以上の具体的な記載は何もなく、具体的にどのような手段を用いれば、完全にランダムなヌクレオチド配列を網羅的に作成することができるのか不明である。
そして、仮に本願明細書の記載に基づいて完全にランダムなヌクレオチド配列を網羅的に作成し得るとしたとしても、特許請求の範囲の請求項45等に記載された、ヌクレオチド配列長が300程度のものや、本願明細書の上記i)の手法で作成されるとされている、ヌクレオチド配列長が600以上のものは、これらがコードするアミノ酸配列長が100〜200にわたるものであり、これらのアミノ酸配列長を有するポリペプチドの完全にランダムなアミノ酸配列の種数は20100〜200種となり、審判請求人が平成14年8月2日付で提出した上申書において主張するように本願優先日当時cDNAライブラリーにおいて107個程度の細胞コロニー由来のペプチドのスクリーニングが可能であったとしても、この数を遙かに超える、このような膨大な種類のペプチドをスクリーニングすることは、本願出願時に当業者が容易になし得たこととは到底認められない。
(3-4)してみると、本願明細書の発明の詳細な説明は、先の当審の拒絶理由通知で指摘したとおり、
(1)「ストキャスティック的に生成したポリヌクレオチド配列の多様な集団を合成」することができる程度に記載されておらず、
また、
(2)仮に上記多様な集団が合成できたとしても、そのような集団について、「特定の結合特性を有するリガンドを使用して、ペプチド、ポリペプチド、またはたんぱく質の多様な集団を上記リガンドとの結合と検出が行える条件下においてスクリーニングする」ことができる程度に記載されていないから、
当業者が本願発明1を容易に実施できる程度に記載されているものとはいえない。

4.むすび
以上のとおり、本特許出願は本願発明1について特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていないから、他の本願発明について検討するまでもなく、本特許出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-12-01 
結審通知日 2004-12-03 
審決日 2004-12-15 
出願番号 特願平7-243853
審決分類 P 1 8・ 531- WZ (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 新見 浩一中木 亜希  
特許庁審判長 種村 慈樹
特許庁審判官 佐伯 裕子
鵜飼 健
発明の名称 組換えDNA技術によってDNA、RNA、ペプタイド、ポリペプタイド、または蛋白質を取得するための方法  
代理人 山本 秀策  

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