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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23L
管理番号 1115783
審判番号 不服2002-6812  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-12-05 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-04-18 
確定日 2005-04-28 
事件の表示 平成11年特許願第180483号「ぶどうの樹のエキス食品」拒絶査定不服審判事件〔平成12年12月5日出願公開、特開2000-333652〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯・本願発明

本件出願は、平成11年5月25日の特許出願であって、その請求項1乃至4に係る発明は、平成14年4月18日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。(以下、「本件発明1乃至4」という)
「【請求項1】ぶどうの樹及び樹皮を熱水抽出した濃縮液状のエキス食品。
【請求項2】ぶどうの樹及び樹皮から得た抽出エキスを希釈し、保存のための安定剤を加えて飲料とした請求項1記載のぶどう樹及び樹皮を熱水抽出した濃縮液状のエキス食品。
【請求項3】ぶどうの樹及び樹皮から得た抽出エキスを凍結乾燥、または熱風乾燥により粉末にしたエキス食品。
【請求項4】ぶどうの樹及び樹皮から得た抽出エキスを乾燥加工することにより粉末とし、その粉末を打錠して固形粒にしたエキス食品。」


2.引用刊行物記載事項

これに対して原審の拒絶査定で引用された、本願の出願日前に頒布された
(1)特開平7-75524号公報
(2)平尾子之吉、日本植物成分總覽、第1卷、佐々木圖書出版株式會社、1949年、p.357-361
(3)緒方弘一、「台所漢方」、第11版、株式会社エム・エー・シー、1991年、p.260-261
(4)特開平11-75770号公報
(5)特開平8-198770号公報
(6)果樹、51(1997)、(7)、26〜29頁
(7)Phytochemistry,49(1998),(5),p.1393-1394
(8)Anal.Chem.,69(1997),(24),p.5172-5177
(9)J.Wine Res.,3(1992),(1),p.47-57
(10):Phytochemistry,38(1995),(6),p.1501-1504
(以下、「引用刊行物(1)乃至(10)」という。)の記載内容を検討する。
引用刊行物(1)には、「【請求項1】梅木の破砕片を熱湯に容れて加熱し、破砕片に含まれたベータカロチン、クエルチトリン、クエン酸、コハク酸、タンニン、その他諸々の人体有効成分を抽出する第1工程と、前記成分を含む抽出液を一定温度、時間煮つめて煎じ食品とする工程とを連続して行うことを特徴とする梅木を主原料とした健康食品の製法。・・・【請求項4】食品が、抽出液の煎じ時間の調整により液状またはペースト状或いは粉末または固形状をなしている請求項1記載の梅木を主原料とした健康食品の製法。
・・・」(特許請求の範囲)が記載されており、「往来、梅栽培では果実を利用した梅干し、梅酒、梅肉エキス及びその加工食品等の健康食品が主流をなす。ところが、梅栽培では果実採り入れ後、所定の時期に土壌に肥料を施し、新芽に対して次期果実生育に必要な充分な養分を蓄え、且つ、所定の時期に剪定作業がなされる。剪定された枝木は、通常、焼却処理乃至は破棄される。本願の出願人は、剪定により切り落とした枝木には次期果実生成に必要な充分な養分を含んでおり、これの利用に着眼し研究した結果、前記の枝木には、人体の癌予防に有効なベーターカロチン、整腸効果および解毒作用の高いクエルチトリン、解熱および胃液の分泌を促准するコハク酸、クエン酸およびタンニン等の有効成分が多量に含有していることを発見し、以て、梅木を主原料とした健康食品の製法を提供するに及んだものである。」(公報第2頁第1欄22〜43行)ことが記載されている。
引用刊行物(2)には、ブドウの葉の成分としてタンニン質、酒石酸、林檎酸、琥珀酸、アントチアニジン等が含有されている旨(358〜361頁)が、引用刊行物(3)には、ブドウの根、つる、葉にも薬効効果があり、根やつるは、体のだるさや痛み、筋肉や骨の痛みの症状を治す働きがあり、また鎮静・嘔吐止め・痛み止め・利尿などに効果があり、また葉には、身体のむくみ・結膜炎・咳嗽・利尿等に薬効のある成分が含まれている旨(260頁)が、引用刊行物(4)には、「ブドウ種子を適宜に破砕し、親水性有機溶媒あるいはこの含有溶媒で抽出して得られるエキスには、ポリフェノール類が多く含まれ、とりわけフラボノイドの1種であるアントシアニジン、プロアントシアニジン等が多く、該エキスには抗酸化機能があるため、ブドウ種子抽出エキスは抗酸化剤として市販されている。」(公報第2頁第2欄19〜25行)ことが、引用刊行物(5)には、「天然抗酸化物としてはジュースに適合するフェノール類を多く含むものを選択した。・・・・・ぶどう種子抽出物(メルローぶどう種子エタノール抽出物)、ぶどう皮抽出物(カルベネぶどう皮エタノール抽出物)などが適当であった。」(公報第2頁第2欄17〜22行)ことが記載されている。
引用刊行物(6)には、「赤ワインに含まれるフェノール化合物の一つであるリスベラトロールが、心臓疾患の予防効果をもつことが示唆され、注目を浴びた。リスベラトロールは、比較的簡単なフェノール化合物(図1)である。灰色カビ病などにブドウの葉や果実が感染すると、ブドウは菌糸を体内に入らせまいとして、抗酸性物質(ファイトアレキシン)を生成する。リスベラトロールもその1種で、その存在は1970年代から知られていた。今年になって、この物質がガンに対する抑制効果もあるとする論文が、世界的な雑誌の「Science」に発表され、大きな話題を引き起こすに至った。」(26頁左欄10〜右欄1行)ことが記載され、引用刊行物(7)には、レスベラトロールが、ブドウの茎に存在する旨、引用刊行物(8)乃至(9)には、レスベラトロールが、ブドウのつるに存在する旨、引用刊行物(10)には、レスベラトロールが、ブドウの根に存在する旨、夫々記載されている。

3.対比・判断

(本件発明1)
本件発明1は、ぶどうの樹及び樹皮を熱水抽出した濃縮液状のエキス食品に関するものであり、ポリフェノール、レスベラトール等の人体に有益な成分を含む栄養補助食品に供されるものである。
これに対して、上記引用刊行物(1)には、「梅木の破砕片を熱湯に容れて加熱し、破砕片に含まれた諸々の人体有効成分を抽出する第1工程と、前記成分を含む抽出液を一定温度、時間煮つめて煎じ、抽出液の煎じ時間の調整により液状食品とした梅木を主原料とした健康食品」が記載されている。
本件発明1と上記引用刊行物(1)に記載された発明(以下、「引用発明」という。)とを対比すると、本件発明1でいう「エキス」とは、本件明細書の段落【0003】に記載されたとおり「抽出濃縮液」に他ならず、梅もぶどうも薬効のある果実であるから、両者は、「薬効のある果実の樹及び樹皮を熱水抽出した濃縮液状のエキス食品」である点で一致し、薬効のある果実に関して、前者が「ぶどう」であるのに対して、後者は「梅」である点で相違する。
そこで、この相違点について検討する。
引用刊行物(1)には、剪定により切り落とした薬効のある果実を作る梅の枝木には次期果実生成に必要な充分な養分を含んでいることが記載され、上記引用刊行物(2)乃至(5)には、ぶどうの果実、葉、根、つる、種子にはポリフェノール等の種々の薬効成分が含まれること、上記引用刊行物(6)乃至(10)には、ぶどうの果実、葉、根、つる、茎にレスベラトールが含まれることが記載されているから、ぶどうの樹の剪定により得られるぶどうの枝木にも次期果実生成に必要な充分な養分、有効成分が含まれるであろうと考えて、梅の枝木に代えて、ぶどうの枝木を用いることは当業者が容易に想到しうるところである。
そして、本件発明の、ポリフェノール、レスベラトール等の人体に有益な成分を含む栄養補助食品が得られる、従来廃棄されていたぶどうの枝木を有効利用できる、アルコール含有度数が少ないという効果も、上記引用刊行物(1)乃至(10)から、当業者が予測しうる範囲内のものにすぎない。
したがって、本件発明1は、上記引用刊行物(1)乃至(10)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(本件発明2)
「抽出エキスを希釈し、保存のための安定剤を加えて飲料とする」ことは、エキス食品製造における慣用技術であり、それにより格別の効果を奏するものでもないから、本件発明2も本件発明1と同様の理由で、上記引用刊行物(1)乃至(10)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(本件発明3)
「抽出エキスを凍結乾燥、または熱風乾燥により粉末にする」ことは、エキス食品製造における慣用技術であり、それにより格別の効果を奏するものでもないから、本件発明3も本件発明1と同様の理由で、上記引用刊行物(1)乃至(10)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(本件発明4)
「抽出エキスを乾燥加工することにより粉末とし、その粉末を打錠して固形粒する」ことは、エキス食品製造における慣用技術であり、それにより格別の効果を奏するものでもないから、本件発明4も本件発明1と同様の理由で、上記引用刊行物(1)乃至(10)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

審判請求人は、審判請求書または上申書において、「本件発明のエキス食品のポリフェノールの含量が、熟成赤ワインの10倍強であり、格別の効果を奏する」旨主張しているので検討する。
本件明細書の段落【0008】の【表1】によれば、エキスでは100g中の水分含量は34.2gとされている。一方、赤ワインの成分のほとんどは水及びアルコールであり、100g中の含量は、水が88.4gである(「四訂食品成分表」、女子栄養大学出版部、平成6年1月、286〜287頁参照)から、本件発明のエキスとワインとでは水分含量及び固形分含量が全く異なるものである。
したがって、本件発明のエキスのように水分含量が34.2gまで固形成分が濃縮されたもののポリフェノール含量が、固形分含量の遙かに少ない赤ワインの含量の10倍強だとしても、それが格別顕著な効果であるとは到底いえない。

4. むすび

以上のとおり、本件請求項1乃至4に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された上記の引用刊行物(1)乃至(10)に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-03-01 
結審通知日 2005-03-02 
審決日 2005-03-17 
出願番号 特願平11-180483
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鵜飼 健斎藤 真由美▲高▼ 美葉子  
特許庁審判長 河野 直樹
特許庁審判官 種村 慈樹
田中 久直
発明の名称 ぶどうの樹のエキス食品  
代理人 井上 重三  

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