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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K |
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管理番号 | 1115852 |
審判番号 | 不服2002-19911 |
総通号数 | 66 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1997-09-09 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2002-10-10 |
確定日 | 2005-04-27 |
事件の表示 | 平成 8年特許願第 44378号「緊急作動器機用のアクチュエータ」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 9月 9日出願公開、特開平 9-238447〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成8年3月1日の出願であって、平成11年4月16日付けで拒絶理由が通知され、指定期間内の同年6月18日に意見書とともに手続補正がなされた。その後、平成14年5月17日付けで拒絶理由が通知され、指定期間内の同年7月5日に意見書とともに手続補正がなされ、同年8月28日付けで拒絶査定がなされ、同年10月10日に前記拒絶査定に対する審判の請求がなされたものである。 2.本願発明 本願の請求項1に係る発明は、平成11年4月16日付けの手続補正書及び平成14年7月5日付け手続補正書により補正された明細書、並びに出願当初の図面の記載からみて、その明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)は、次のとおりである。 「ウォームを有するウォーム軸、前記ウォームに噛合するウォームホイール、該ウォームホイールに接続する出力軸、及び前記ウォーム軸を回転駆動させる電動モータを備え、前記電動モータの作動・停止により前記ウォーム軸を回転・停止させ、これに応じて前記ウォームホイールが前記出力軸を回転・停止させ、この出力軸の回転・停止により、当該出力軸に接続した回転式開閉羽根の緊急作動・停止を行わせる緊急バルブ用のアクチュエータであって、 前記ウォーム軸を、前記ウォームを設けた大径部及びこの両側に形成した小径部からなる形状とし、その小径部において軸受け部により軸芯方向へスライド可能に支持するとともに前記大径部と前記小径部との境目の段部と前記軸受け部との間に緩衝ばねを挟持させることにより、前記電動モータのロック状態の停止にともない前記ウォームホイールにより発生する慣性力に応じて前記ウォーム軸を軸芯方向へスライドさせつつ前記緩衝ばねで前記慣性力を吸収することを特徴とするアクチュエータ。」 3.引用文献 (1) ア.原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-139594号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。 a.「【産業上の利用分野】本発明は、ハウジングが脚体ないしは基礎台に固定されたウォームギヤを使用して、機械ないしは装置部品、例えばクレ-ンを脚体や基礎台上で回転駆動するための回転駆動装置に関する。」(段落【0001】) b.「さらには、例えば冒頭で述べたようなウォームギヤを装備した回転駆動装置が知られているが(US-A-4 616 528,US-A-3 710 649,EP-A-0 031 873,DE-A-33 21 854参照)、これらではウォームホイールはギア・ハウジング内で二重ないしは二面剪断取り付けとなっている。二面剪断取り付けとは、ウォームホイールに対して2台の別々のベアリング、例えばボールベアリングが互いに同軸で配置されていることを言う。当該ベアリングが配された場合、ウォームギヤは一般にバルブギヤの変速装置、特に直流モータや主軸型ホイストギヤを備えた複式駆動装置、またスライディングギヤとして使われている。これらの構造に共通している点は、異常な最大トルクがウォームホイールのシャフトや主軸に与える影響に対して特別な予防処置が全く取られていないことである。これらのハウジングは、見て取れる限りではおしなべて一体構造につくられており、その構造のために動力取り出しに使われるウォームホイールの主軸やシャフトの位置的な安定性を保証することも、ましてやそれを高めることにも全く役立っていない。」(段落【0004】) c.「既知のウォームギヤで、特にそれが純粋な伝達装置としてではなく、本発明の種類から言って機械部品ないしは装置部品の直接駆動のために使用されている場合は(DE-OS 34 46 438参照)次の問題が生じがちである。つまり回転しているウォームホイールが、短時間でいつかは減速しなければならないと言う点である。上述のような使用例では回転中のウォームホイールと一緒に通常非常に多くのものが共に動いているため、運動エネルギーが多量に変換されなければならない。そのため急速に減速すると、ウォームホイールの歯が、あるいはその歯と噛み合っているウォームのネジ山が破損することがある。 そこで本発明の一環として、機械部品と連結されたウォームホイールの運転を始める際、また特に減速する際に発生する動力学的な力を受け止め、ウォームとウォームホイールの歯車の噛み合いを破壊しないように、この力を補償すると言う新たな問題が持ち上がる。この解決のため、冒頭で述べた特性をもつウォームギヤ回転駆動装置では、本発明に基づき、ウォームを回転取り付けするだけでなく、バネの力(直線)に対抗してウォーム軸方向にも可動調整できるよう据付けすることを提案する。言い換えればそれは、ウォームをその軸方向に位置調整するバネの力で、ウォームがギヤ・ハウジング内で抵抗するよう、1ないしは複数のスプリングを配置することである。単数個のまたは複数個のスプリングが一方ではハウジングの壁で、また一方ではウォームに支えられるか作用するかすれば、適切に実現することができる。 この本発明による構想を用いれば、回転中の部品の慣性力を補償することができ、過荷重によって歯が損なわれることはない。急激な制動が回避されている。ウォーム・ネジ山の一端あるいは両端の後ろにスプリング装置を設けるのが有利である。例えばそれは1本あるいは複数本のコイルバネ、ないしはひとまとめにされた個別からなる板バネであって、ウォームのネジ山の端とウォームの軸端の間に取り込まれて、それぞれハウジングの壁に支えられる。」(段落【0015】-【0017】) d.「本発明によるこのウォームギヤ・回転駆動装置は、特に自動クレーン、建設用クレーン、港湾用クレーン、産業用クレーン、パワーショベル、舞台装置用リフト、溝堀機、コンクリートミキサー、フォークリフト耕作機、溶接回転テーブル並びにコンクリートポンプ等、それぞれに回転連結が必要とされる構造のために使用することができる。本発明による回転駆動装置の更なる適用例としては、グラブ、レールクランプ、作業荷方向転換機、耕作用マジックハンド、旋回式フォークリフト耕作機、自動パーキングシステム、旋回式吊り舞台、車両ウインチ及び隔壁ウインチのための旋回装置、重量物車両用操縦台、トラック、梱包、充填、レッテル貼り、選別、混合及び攪拌作業を目的とした機械の操縦駆動ユニット、廃水やスラッジ処理用の濃縮装置とコンピュータ、建設機械、ピボットベアリング、パワーショベル積み降ろし機、ユニバーサルパワーショベル、ロボット、供給装置、ターンテーブル並びに方向転換クランプなどである。」(段落【0021】) e.「図1乃至図5を参照して、本発明による回転駆動装置に使用されるウォームギヤ1はベース部2aを有するギヤ・ハウジング2(図3参照)を持ち、ベース部にはウォーム3とウォームホイール4が回転可能に軸受けされている。ベース部2aは、一列に並んだ雌ネジ穴21を有する接触面20を持つ。また、大きく湾曲を描くベース部2aの直線状の正面部には、取り付けフランジ22が前に突き出した形で設けられている。このフランジの取り付け穴23で基礎台または脚体(図示されていない)への固定が行なわれる。その螺旋形のネジ山5でウォームホイール4の歯6と噛み合っているウォーム3は、回転駆動モーター(図示されていない)と連結するため予め所定の装備を有している。 ウォームホイール4はその頭頂部にジョイント部7を持ち、これが軸に平行に、あるいはシリンダー状に突き出ている。ジョイント部7の頭頂外面8には多数の取り付けエレメント、例えばネジ穴9が周囲をぐるりと取り巻く形で、あるいは環状に設けられている。これは回転する機械ないしは装置部品(図示されていない)を取り付けるために使われる。ウォームホイールの歯6の内側上面に接触して、対角ボールベアリング(図4参照)の比較的小型の内レース10が図面1に見える。多数のボール11をこの内レース10にはめ込み(図3及び4参照)、比較的大型の外レース12を上にあてることで、完全な対角ボールベアリング10、11、12が形成される。」(段落【0023】-【0024】) f.「図1と特に図2からはっきりと分かるように、ウォームのネジ山5の両端部には、各1個のつば付きストッパ13が装着されていて、ウォーム軸をリング状にぐるりと取り巻くように突き出ている。このつば付きストッパ13の各々と、ギア・ハウジング2の壁に回転可能に軸受けされたウォーム端14との間には、多数の個々の板バネ16からなる1あるいは複数の板バネセット15が、特に圧縮された状態で配置されている。この板バネ16あるいはそのセット15は、その内部の孔を通して、ウォーム・ネジ山5の両サイドのウォーム3に取り付けられ、つば付きストッパ13の各々に突き当たる。 板バネ16は、円形リング状の小さなプレート形をしており、図2の部分断面図によれば外側から内側へ行く程厚みが増し、平面的な二次元の円形底面積を持たない。バネセット15内にはこうした板バネ16が2個、ほとんどの場合上述の平面的な円形底面積を持たないで、外側の隅だけが接触するような状態で、互いに左右対称形で配置される。この平面的な歪みは、例えばウォームホイール4の短時間の遅れや加速のために軸方向の力が掛かった場合、弾性的な可逆性によって減少する。このことから明らかなように、ギヤ・ハウジング2に対して、ウォーム3は直線的な位置調整移動17が可能となる。このウォーム3の位置調整移動17により、例えば停止したり始動する際にウォームホイール4が大幅に減速されたり、大幅に加速された場合に発生する動力学的な力が、両サイドの板バネセット15によって受け取られる。結果として積載物を突然減速しても歯6及び/またはネジ山5の破壊が回避できる。」(段落【0025】-【0026】) イ.以上の記載及び図1〜5、並びに技術常識を参酌すると、引用文献1において以下のことが言える。 (ア)ウォーム3はウォーム軸ともよべ、ギヤハウジング2のベース部2aに回転可能に軸受けされていることから、軸受け部があることは明らかである。 (イ)上記(1)ア.eから、ウォーム3は回転駆動モーターに連結可能であることから、ウォーム3は回転駆動モーターにより回転駆動可能な構成であり、回転駆動モータを作動させればウォーム3が回転でき、回転駆動モータを停止させればウォーム3が停止可能な構成である。 (ウ)上記(1)ア.eの記載によれば、ウォームホイール4のジョイント部7の頭頂外面8に回転する機械ないしは装置部品が取り付けられ、ウォームギヤ1は、この回転する機械又は装置部品を作動させるためのものであるから、アクチュエータといえる。 (エ)上記(1)ア.fには、「このウォーム3の位置調整移動17により、例えば停止したり始動する際にウォームホイール4が大幅に減速されたり、大幅に加速された場合に発生する動力学的な力が、両サイドの板バネセット15によって受け取られる。」との記載があり、ウォームホイール4とウォーム3とは噛み合っていることから、ウォームホイール4が減速され停止するときは、ウォーム3も停止し、ウォームホイール4が停止状態から加速するときは、ウォーム3も停止状態から加速することは明らかである。また、上記(1)ア.cには、「この本発明による構想を用いれば、回転中の部品の慣性力を補償することができ、過荷重によって歯が損なわれることはない。」との記載があり、この記載及び前記(1)ア.fの記載を併せて鑑みれば、ウォームホイール4の慣性力は、両サイドの板バネセット15によって吸収しているものである。 ウ.以上から、引用文献1には次の発明が記載されていると認められる。 「螺旋形のネジ山5を有するウォーム軸、前記螺旋系のネジ山5に噛合するウォームホイール、該ウォームホイールのジョイント部7、及び前記ウォーム軸を回転駆動可能な回転駆動モータを備え、前記回転駆動モータの作動・停止により前記ウォーム軸が回転・停止可能であり、これに応じて前記ウォームホイールのジョイント部7が回転・停止し、該ジョイント部7に接続した回転する機械又は装置部品の回転・停止が可能なアクチュエータであって、 前記ウォーム軸を、前記螺旋系のネジ山5を設けた部分、並びにこの両側をストッパ13及びウォーム端部14からなる形状とし、そのウォーム端部14において軸受け部により軸芯方向へスライド可能に支持するとともに前記螺旋系のネジ山5を設けた部分と前記ウォーム端部14との境目のストッパ13と前記軸受け部との間に板バネセット15を挟持させることにより、前記ウォームホイールにより発生する慣性力に応じて前記ウォーム軸を軸芯方向へスライドさせつつ前記板バネセット15で前記慣性力を吸収するアクチュエータ。」(以下「引用発明1」という) (2) ア.原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-83345号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。 a.「【産業上の利用分野】本発明は電動調節弁駆動装置に関し、特に停電時や緊急時の対策に関する。」(段落【0001】) b.「【実施例】一実施例の電動調節弁駆動装置の機構部の構成を図1及び図2に示す。図1は正面から見た縦断面図であり、図2は図1のII-II線断面図である。図1及び図2を参照して説明する。装置の中央部には、軸受けを介して出力軸6が回動自在に支持されている。この出力軸6の下端6aに、図示しない調節弁の操作軸が連結される。つまり、出力軸6を回転駆動することにより、調節弁の弁開度が調節される。出力軸6の上端側には、出力軸6の角度、即ち弁開度を指示する開度計8が装着され、更にポテンショメ-タ7の摺動子が連結されている。出力軸6の中央部には、扇状に形成されたウォ-ムホイ-ル5が装着され、ウォ-ムホイ-ル5は出力軸6と一体になっている。このウォ-ムホイ-ル5と対向する位置にウォ-ム軸4が、回動自在に設置してあり、ウォ-ム軸4の中央部分に形成されたウォ-ム4cが、ウォ-ムホイ-ル5と噛合っている。」(段落【0016】) c.「ウォ-ム軸4の他端4bには、歯車9が装着されている。また、回動自在に支持された中間歯車10が、歯車9と噛合っている。ウォ-ム軸4の上方に直流電気モ-タM2が設置されており、電気モ-タM2の駆動軸に装着された駆動歯車11が、中間歯車10の近傍に配置されている。この実施例の電気モ-タM2は、自動車用のセルモ-タであり、次に示す定格等になっている。 トルク:1.82kgf・m(実測値) 耐熱性:90℃ 電力 :0.8KW 連続運転時間:30秒 また、電気モ-タM2にはそれと一体に構成されたソレノイドSOLが備わっており、ソレノイドSOLの通電により、電気モ-タM2の駆動軸をその軸方向に移動することができる。この例では、ソレノイドSOLに通電すると、駆動軸の先端に装着された駆動歯車11が、中間歯車10と噛合う位置に移動し、ソレノイドSOLの通電を遮断すると、駆動歯車11と中間歯車10との噛合いが外れる位置に駆動軸が移動する。この駆動軸を動かす機構は、市販のセルモ-タに最初から備わっているものである。」(段落【0018】-【0019】) d.「ステップ42では、電源遮断検出信号S3を参照し、それがアクティブ(電源遮断検出状態)であればステップ48に進み、そうでなければステップ43に進む。ステップ43では、緊急閉指示信号S2を参照し、それがアクティブ(指示有)であればステップ48に進み、そうでなければステップ44に進む。ステップ44では、緊急開指示信号S1を参照し、それがアクティブ(指示有)であればステップ45に進み、そうでなければステップ42に戻る。つまり、停電を検出した時、又は緊急閉指示を検出した時にはステップ48に進み、緊急開指示を検出した時にはステップ45に進む。停電を検出せず、緊急閉指示及び緊急開指示のいずれも検出しない時には、ステップ42,43及び44を繰り返し実行する。 ステップ45では、まず内部タイマをスタ-トし、次に主駆動系遮断信号S6をドライバ38に出力し、更にドライバ35に与える緊急開駆動信号をオンにする(オン/オフ信号をオンに、駆動方向信号を開方向にセット)。これにより、主駆動系遮断信号S6が電磁クラッチCLの通電を強制的に遮断するので、電磁クラッチCLの結合が外れる。また、ソレノイドSOLに通電されるので、電気モ-タM2の駆動軸が軸方向に移動し、それに嵌合された駆動歯車11が、中間歯車10と噛合う。更に、電気モ-タM2に通電され、それが駆動されるので、出力軸6がそれに接続される調節弁を開く方向に高速で回転する。 次のステップ46では、ポテンショメ-タ7が出力する開度信号を参照し、それが全開になったか否かを識別する。またステップ47では、ステップ45でスタ-トしたタイマがタイムオ-バしたか否かを識別する。開度信号が全開になると、ステップ46からステップ4Cに進む。また、全開を検出する前であっても、タイマの計時が所定時間(この例では2秒)を経過すると、ステップ47からステップ4Bを通ってステップ4Cに進む。 この実施例では、電気モ-タM2により緊急開動作を実施する時には、全閉から全開までの作動所要時間が約1.5秒である。従って、ステップ47でタイムオ-バが検出されるのは、異常であるので、ステップ4Bでは、異常信号を外部に出力し、異常が生じたことを報知する。 ステップ4Cでは、ドライバ35に与える緊急駆動信号(オン/オフ信号)をオフにセットし、主駆動系遮断信号S6を解除する。 ステップ48では、まず内部タイマをスタ-トし、次に主駆動系遮断信号S6をドライバ38に出力し、更にドライバ35に与える緊急閉駆動信号をオンにする(オン/オフ信号をオンに、駆動方向信号を閉方向にセット)。これにより、主駆動系遮断信号S6が電磁クラッチCLの通電を強制的に遮断するので、電磁クラッチCLの結合が外れる。また、ソレノイドSOLに通電されるので、電気モ-タM2の駆動軸が軸方向に移動し、それに嵌合された駆動歯車11が、中間歯車10と噛合う。更に、電気モ-タM2に通電され、それが駆動されるので、出力軸6がそれに接続される調節弁を閉じる方向に高速で回転する。 次のステップ49では、ポテンショメ-タ7が出力する開度信号を参照し、それが全閉になったか否かを識別する。またステップ4Aでは、ステップ48でスタ-トしたタイマがタイムオ-バしたか否かを識別する。開度信号が全閉になると、ステップ49からステップ4Cに進む。また、全閉を検出する前であっても、タイマの計時が所定時間(この例では2秒)を経過すると、ステップ4Aからステップ4Bを通ってステップ4Cに進む。 この実施例では、電気モ-タM2により緊急閉動作を実施する時には、全開から全閉までの作動所要時間が約1.5秒である。従って、ステップ4Aでタイムオ-バが検出されるのは、異常であるので、ステップ4Bでは、異常信号を外部に出力し、異常が生じたことを報知する。」(段落【0025】-【0032】) イ.以上の記載及び図1〜4、並びに技術常識を参酌すると、引用文献2には次の発明が記載されていると認められる。 「ウォームを有するウォーム軸、前記ウォームに噛合するウォームホイール、該ウォームホイールに接続する出力軸、及び前記ウォーム軸を回転駆動させる直流電気モータを備え、前記直流電気モータにより前記ウォーム軸を作動させ、これに応じて前記ウォームホイールが前記出力軸を作動させ、当該出力軸に接続した調節弁の緊急作動を行わせる緊急調節弁用のアクチュエータ。」(以下、「引用発明2」という) 4.対比 本願発明と引用発明1とを対比すると、後者の「螺旋形のネジ山5」「板バネセット15」は、それぞれ前者の「ウォーム」「緩衝ばね」に相当する。また、後者の「ジョイント部7」と、前者の「出力軸」は両者ともアクチュエータの出力部材である点で共通する。また、後者の「回転駆動モータ」も前者の「電動モータ」も、モータである点で共通する。また、後者の「回転する機械又は装置部品」も前者の「回転式開閉羽根」も被回転駆動部材である点で共通する。 したがって、両者は [一致点] 「ウォームを有するウォーム軸、前記ウォームに噛合するウォームホイール、該ウォームホイールに設けられた出力部材、及び前記ウォーム軸を回転駆動可能なモータを備え、前記モータの作動・停止により前記ウォーム軸を回転・停止可能であり、これに応じて前記ウォームホイールが前記出力部材を回転・停止でき、この出力部材の回転・停止により、当該出力部材に接続した被回転駆動部材作動・停止が可能なアクチュエータであって、 前記ウォーム軸を、前記ウォームを設けた部分及びこの両側に形成した両端部分からなる形状とし、その両端部分において軸受け部により軸芯方向へスライド可能に支持するとともに前記ウォームを設けた部分と前記両端部分との境目と前記軸受け部との間に緩衝ばねを挟持させることにより、前記ウォームホイールにより発生する慣性力に応じて前記ウォーム軸を軸芯方向へスライドさせつつ前記緩衝ばねで前記慣性力を吸収するアクチュエータ。」 で一致し、次の点で相違する。 [相違点1] 前者のモータが「電動モータ」であり、「電動モータの作動・停止により前記ウォーム軸を回転・停止」させるもので、ウォームホイールにより発生する慣性力が、「電動モータのロック状態の停止」にともなうものであるのに対し、後者のモータは電動モータかどうか不明であり、また後者はモータによりウォーム軸を回転・停止が可能な構成ではあるが、実際にウォーム軸の停止をモータの停止により行うものか不明であり、ウォームホイールにより発生する慣性力が、モータのロック状態の停止にともなうものなのかどうか不明である点。 [相違点2] 前者は、出力部材が、「ウォームホイールに接続する出力軸」であり、出力軸に接続されたものが「回転式開閉羽根」であり、アクチュエータが該「回転式開閉羽根」の「緊急作動・停止を行わせる緊急バルブ用」であるのに対し、後者は、出力部材がウォームホイールのジョイント部で、出力部材に接続されたものが、回転する機械又は装置部品であり、アクチュエータが特に緊急バルブ用とはされていない点。 [相違点3] 前者のウォーム軸は、「ウォームを設けた大径部及びこの両側に形成した小径部からなる形状」であり、「その小径部において軸受け部により軸芯方向へスライド可能に支持するとともに前記大径部と前記小径部との境目の段部と前記軸受け部との間に緩衝ばねを挟持させる」構成であるのに対し、後者のウォーム軸は、大径部と小径部を備えておらず、緩衝ばねが挟持される箇所の軸受とは反対側のウォーム軸の境目には段部がなく、ストッパが設けられている点。 5.判断 (1)上記相違点1について検討する。 引用文献1の従来の技術(上記3.(1)ア.b)の欄に「当該ベアリングが配された場合、ウォームギヤは一般にバルブギヤの変速装置、特に直流モータや主軸型ホイストギヤを備えた複式駆動装置、またスライディングギヤとして使われている。」との記載があるように、ウォーム及びウォームホイールを備えたウォームギヤにおいて、直流モータなどの電動モータを用いることは従来周知の技術である。また電動モータを作動させて、ウォーム軸を回転させること、及び電動モータを停止させ、モータをロック状態とすることで、ウォーム軸を停止させることも、当業者間において周知の制御態様に過ぎない。 また、引用文献1には、機械部品ないしは装置部品の直接駆動のために使用される場合、急激に減速すると、運動エネルギーが多量に変換されなければならず、ウォームホイールの歯やウォームのネジ山が破損することがあり、そのため、機械部品と連結されたウォームホイールの運転を始める際、また特に減速する際に発生する動力学的な力を受け止め、この力を補償するという問題が持ち上がる旨の記載(3.(1)ア.c)があり、それを解決するために、ウォーム・ネジ山の一端あるいは両端にコイルバネ、板バネなどのスプリング装置を設け、ウォーム軸方向にも稼働調整できるようにし、回転中の部品の慣性力を補償できるようにした旨の記載がある(3.(1)ア.c)。さらに、「このウォーム3の位置調整移動17により、例えば停止したり始動する際にウォームホイール4が大幅に減速されたり、大幅に加速された場合に発生する動力学的な力が、両サイドの板バネセット15によって受け取られる。」(3.(1)ア.f)との記載があり、引用発明1は、ウォームホイールが大幅に減速された場合に発生する慣性力も、大幅に加速された場合の慣性力も、ばねにより吸収される構成であるとともに、特に減速する際に発生する動力学的な力を補償するという課題を解決したものである。したがって、引用発明1において、モータを電動モータとし、特にモータのロック状態の停止にともない発生するウォームホイールの慣性力に着目し、当該慣性力を緩衝ばねにより吸収すると規定することは、当業者が容易になし得たものである。 (2)上記相違点2について検討する。 引用発明2のアクチュエータは、ウォーム軸、ウォームホイール、ウォーム軸を回転させるモータ、ウォームホイールに接続する出力軸、及び出力軸に接続した調節弁を備え、調節弁の緊急作動・停止を行う緊急調節弁用アクチュエータである。引用文献2には、調節弁がどのような構造の弁又はバルブであるかの限定はないが、例えばバタフライバルブなどの回転式開閉羽根を有する弁又はバルブは、従来慣用的に用いられる手段に過ぎない。 そして、引用発明1のアクチュエータも引用発明2のアクチュエータも、ウォーム軸、ウォームホイール、ウォーム軸を回転させるモータを備えるもので、しかも引用文献1の従来の技術(上記3.(1)ア.b)の欄に「当該ベアリングが配された場合、ウォームギヤは一般にバルブギヤの変速装置、特に直流モータや・・・」と従来技術としてバルブギヤが記載され、また引用発明1は、供給装置など様々な分野に応用可能なものであるから(上記3.(1)ア.d)、引用発明1に引用発明2を適用できないとする特段の理由は見あたらない。 したがって、引用発明1に引用発明2の適用をする際、調節弁を回転式回転羽根を有するバルブとした上で、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることに格別の困難性はない。 (3)上記相違点3について検討する。 ウォーム軸、及びそれに噛み合いするギヤを備えた装置において、ウォームが設けられているウォーム軸の部分を大径部とし、ウォームが設けられていない軸端部を小径部とし、該小径部にばね部材を配設し、大径部と小径部との境目の段部と軸受部との間に該ばね部材を挟持させることは従来周知の技術に過ぎない(例えば、実公平3-10436号公報(特に第2図)、特開昭55-57774号公報(特に第3図)、米国特許第4261224号明細書(特に第3図))。 したがって、引用発明1において、前記周知技術を適用し、上記相違点3に係る本願発明の構成とすることに格別の困難性はない。 (6)また、本願発明を全体としてみても、引用発明1、引用発明2及び周知技術から予測される以上の格別の効果を奏するものでもない。 6.むすび したがって、本願発明は引用発明1、引用発明2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2005-02-10 |
結審通知日 | 2005-02-22 |
審決日 | 2005-03-07 |
出願番号 | 特願平8-44378 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H02K)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 栗林 敏彦、野村 亨、岩瀬 昌治 |
特許庁審判長 |
城戸 博兒 |
特許庁審判官 |
安池 一貴 岩本 正義 |
発明の名称 | 緊急作動器機用のアクチュエータ |
代理人 | 竹内 裕 |
代理人 | 西山 春之 |
代理人 | 笹島 富二雄 |