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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1115857
審判番号 不服2002-7149  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1992-10-08 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-04-25 
確定日 2005-04-13 
事件の表示 平成 3年特許願第 46654号「球状核および球形顆粒」拒絶査定不服審判事件〔平成 4年10月 8日出願公開、特開平 4-283520〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願発明
本願は、平成3年3月12日の出願であって、平成14年5月24日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1には、以下の通り記載されている。

「平均重合度が100〜300である結晶セルロースを10〜50%および水溶性添加剤を10〜90%含有し、真球度が0.8以上、タッピング見掛け密度が0.65g/ml以上、吸水率が5〜15%以上、かつ磨損度が0.8%以下である薬学的に不活性な球状核。」

ここで、吸水率の記載に関し「5〜15%以上」が「5〜15%」の誤記であることは明細書の6段落等の記載から明らかであるから、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、次の通りのものと認める。

「平均重合度が100〜300である結晶セルロースを10〜50%および水溶性添加剤を10〜90%含有し、真球度が0.8以上、タッピング見掛け密度が0.65g/ml以上、吸水率が5〜15%、かつ磨損度が0.8%以下である薬学的に不活性な球状核。」

2.引用文献
これに対して、原審において平成13年11月8日付けで通知された拒絶の理由に引用された本出願前に頒布された刊行物である特開昭61-213201号公報(以下「引用文献1」という)及び特公昭56-38128号公報(以下「引用文献2」という)には、以下の記載がある。

1)引用文献1
a.「見かけ密度0.65g/ml以上、真球度0.8以上の顆粒特性を有する微結晶セルロースの球形顆粒」(特許請求の範囲第1項)
b.「本発明は、優れた顆粒特性を有し、医薬品や食品等に用いられる微結晶セルロースの球形顆粒とその製造法に関する。・・・〔従来技術〕・・・また、近年薬剤の徐放持続化製剤として、球形顆粒を核とし、その表面に薬剤をコーティングした薬剤が提案され、注目されている。・・従来、蔗糖・・を組成とする球形顆粒が一般的に用いられている。しかし、・・製剤加工上の強度も小さいなどの欠点がある。このような背景から・・物理的強度が大きく、製剤加工が容易な球形顆粒が要望されていた。・・微結晶セルロースは化学的に不活性で生体に安全でかつ吸収されない物質として医薬品や食品の分野で汎用されており、球形顆粒としうることも公知である。」(1頁右下欄9行〜2頁左上欄14行)、
c.「本発明における微結晶セルロースの球形顆粒は、微結晶セルロース単体を組成とするもののみでなく、微結晶セルロース100〜20重量%を含有する組成であってもよい。混合される組成成分としては、・・例えば、球形顆粒の崩壊性、溶解性を調整する物質、具体的にはカルボキシメチルセルロースカルシウム(CMC-Ca)、カルボキシセルロースナトリウム(CMC-Na)、・・乳糖、蔗糖などである。」(3頁左上欄5〜14行)
d.実施例4に、微結晶セルロース6kg、乳糖6kgから真球度0.90の微結晶セルロース球形顆粒を得た例が、また、実施例5に、微結晶セルロース8kg、乳糖4kgから真球度0.95の微結晶セルロース球形顆粒を得た例が記載されている。
e.発明の効果について、以下の記載がある。
「本発明によって提供される微結晶セルロースの球形顆粒は、・・表面平滑で、緻密重質な構造を有し、ほぼ真球に近いものである。・・このような顆粒特性を持つ微結晶セルロースの球形顆粒は・・以下に示す製剤上経済上の多くの利点をもたらす。
(1)表面平滑さは、球形顆粒に自由流動性を与えると共に、球形顆粒に薬物或いはコーティング液をコーティングする場合のコーティングのむらをなくし、コーティング粒子の歩留りを高める。・・
(2)緻密かつ重質であることは、球形顆粒の物理的強度を高めると共に、かさ高さをなくし、製剤上の取扱いを容易にし、加工時輸送時などの衝撃に対する安定性を高める。
(3)真球度が大きいことは、表面平滑さと同様、自由流動性、コーティングの経済性を改善し、かつ製品美観を良好にする。
又微結晶セルロースは不活性であるので、結晶セルロース単体のみでなく、他のものを混合した原料を用いて前述のような真球度の高い平滑で硬質な造粒物を得ることが可能である。また、膨潤性が大であるので、これを薬剤用に用いた場合、薬剤にて要望される持効性、徐放性等のすぐれた薬剤の製剤が可能であって、使用にあたって均一に溶出するので所望の薬効が得られることになる。」(6頁左下欄7行〜右下欄18行)

2)引用文献2
平均重合度60〜375の微結晶セルロース集合体からなり、特定の見掛比容積、安息角及びタッピング見掛比容積を有する賦形剤に関するものである引用文献2には、以下の記載がある。
a.「混合粉体の流動性を高めて易分包性、易服用性をもたらすような散剤用賦形剤に関するものであり、造粒に際し少ない結合剤量しか必要とせず、それにもかかわらず、得られる顆粒の強度を高めて微粉化を防止し、かつ優れた崩壊性をもたらすような細粒剤および顆粒剤用賦形剤に関するものである」(1頁2欄13〜20行)
b.「直打用賦形剤として重要な成型能力を賦与するには、・・平均重合度が60〜375の範囲にあることが必要である。・・平均重合度(以下DPと称する)が60未満では、成形性が乏しく、キャッピングし易い粉体を与え実用的でない。また、DPが375を超えると、繊維性が現れ、後で規定する高流動性、高嵩密度のものが得られない。」(2頁4欄17〜27行)
c.「本発明による賦形剤の大きな特徴は、これを湿式造粒法に応用した場合(すなわち、湿打法による・・顆粒・・が最終製品形態となる)、少ない結合剤量で造粒でき、かつ顆粒の強度を高めて粉化を防止し、・・顆粒ないし錠剤の崩壊性を大幅に改善できることである。これらの効果は、微結晶セルロース集合体の平均重合度が60〜375、特に、70〜160の範囲で、・・発揮された」(4頁7欄40行〜8欄7行)
d.実施例17として、重合度の違うA〜Dの4種の微結晶セルロース賦形剤を400gと乳糖1600gとから顆粒を得て、崩壊試験及び錠剤摩損度試験器による微粉体量の測定を行った結果が示されており、賦形剤B(重合度390)を使用した場合に、崩壊試験が10.9分と他の賦形剤(重合度180のA,重合度130のC,重合度40のD)より長いことを示すデータが、Dを使用した場合に微粉体量が4.3%と他の賦形剤より多いことを示すデータが記載されている。

3.対比・判断
引用文献1には、見かけ密度0.65g/ml以上、真球度0.8以上の微結晶セルロースの球形顆粒が記載(記載事項a)されているところ、この球形顆粒は、その表面に薬剤をコーティングすることについても記載(記載事項b,e(1))されているから、球状核となるものであると認められる。また、引用文献1に記載の微結晶セルロースの球形顆粒は、微結晶セルロース100〜20重量%を含有し、球形顆粒の崩壊性、溶解性を調整する物質である乳糖や蔗糖等との混合組成にされるものである(記載事項c,d)が、球形顆粒の崩壊性、溶解性を調整するために添加される物質は、通常、水溶性であると認められるし、微結晶セルロースは化学的に不活性であること(記載事項c)、引用文献1でいう「微結晶」と本願発明でいう「結晶」が単なる表現上の違いであることは明らかであることから、本願発明と引用文献1に記載の発明を対比すると、両者の一致点、相違点は、以下の通りである。

<一致点>
結晶セルロース及び水溶性添加剤を含有し、真球度が0.8以上、見掛け密度が0.65g/ml以上の、薬学的に不活性な球状核。

<相違点>
1)球状核に関し、請求項1には、結晶セルロース10〜50%と、水溶性添加剤10〜90%を含有することが規定されているのに対し、引用文献1には、結晶セルロースは20〜100%含有されると記載されているが、水溶性添加剤の含有量についての記載はない点。
2)球状核に関し、請求項1には、結晶セルロースの平均重合度が100〜300であることが規定されているのに対し、引用文献1には、結晶セルロースの重合度についての記載がない点。
3)本願発明の球状核の見掛け密度は、タッピング見掛け密度(0.65g/ml以上)であるのに対し、引用文献1には、見かけ密度の値(0.65g/ml以上)がどのような試験法によるものか記載されていない点。
4)本願発明の球状核は、吸水率が5〜15%、かつ磨損度が0.8%以下であるのに対し、引用文献1には、球状核の吸水率及び磨損度について記載されていない点。

そこで、上記相違点について検討すると、

1)顆粒剤を含め、服用される薬剤は、その薬剤の溶解性が高く、体内吸収性が高いことが重要であり、また、顆粒剤においては、一般に、分包作業や輸送時に破壊されないように摩損度が高いことが要求される(仲井由宣 他著「製剤学」(1977年第2刷)南山堂の124,125,219頁や引用文献1の記載事項e)。そして、引用文献1には、結晶セルロースを20〜100%の範囲で混合することが記載され、水溶性添加物は、顆粒の崩壊性、溶解性を調整し、ひいては、薬剤の溶解、吸収性を改善するために配合されるものであるから、引用文献1に記載された結晶セルロース20〜100%の範囲内で、薬剤の溶解性及び顆粒の摩損度の観点から、結晶セルロースと水溶性添加剤の配合量を調整することは、当業者が適宜なし得ることである。そして、その際に、結晶セルロースの配合量を引用文献1に示唆されている範囲内の20〜50%とすること、水溶性添加物の配合量を引用文献1の実施例4,5の例(実施例4では、結晶セルロースと乳糖の総量に対し50%、実施例5では、結晶セルロースと蔗糖の総量に対し33%である。)にあるような10〜90%の範囲とする点に、格別の困難性があるとは認められない。

2)引用文献1には、結晶セルロースの重合度について記載されていないが、引用文献1と同様、顆粒剤に使用可能な結晶セルロースについて開示する引用文献2には、平均重合度60〜375、特に70〜160の範囲の微結晶セルロースを使用した顆粒剤にも使用可能な賦形剤は、造粒に際し少ない結合剤量しか必要とせず、得られる顆粒等の強度を高めて微粉化を防止し、かつ優れた崩壊性をもたらすこと(記載事項a,c)、重合度が60未満では、キャッピングし易い粉体を与え実用的でないこと、重合度が375を超えると、繊維性が現れ、高流動性、高嵩密度のものが得られないこと(記載事項b)が記載され、重合度が40である小さいすぎるものを使用した球状顆粒は、微粉化が多く起こる(即ち強度が低く摩損しやすい)し、重合度が390である大きすぎるものを使用した場合は崩壊性及び流動性が劣ることが具体的に記載されている。
してみると、引用文献1に記載の、緻密で強度が優れ、また流動性の点でも優れた球形核に使用される結晶セルロースとして、強度、崩壊性、流動性の点で優れた顆粒を与えることが自明な引用文献2に記載の程度の重合度のものを採用することは、当業者が自然に想到し得ることである。

3)見掛け密度には、疎充填によるによる見掛け密度とタッピング見掛け密度のような密充填での見掛け密度があり、引用文献1に記載の見掛け密度がどちらを意味するかは明らかではないが、前者の場合には疎充填密密度が0.65g/ml以上であれば、タッピング見掛け密度はそれ以上に高くなることは明らかであるし、後者の場合、密充填による試験法としてタッピング試験法は代表的なもの(前述のp製剤学80〜81頁や引用文献2の13頁)であるから、引用文献1に記載の見かけ密度に対応する範囲内を、タッピング試験法による見掛け密度で規定することは当業者が適宜なし得ることである。

4)引用文献1は、緻密で強度の優れた球状核を得ることを目的としており、これは、摩損度が低い球状核を得るという本願発明の目的と表現上の違いがあるに過ぎず、内容的に異なるものではないし、摩損の低い顆粒とすることは前述の通り、顆粒剤における周知の課題であるから、引用文献1に記載の球状核において、使用する結晶セルロースや水溶性添加剤の種類及び配合量等を調整して、本願発明の程度の摩損度の球状核とすることは当業者が容易になし得ることである。
また、引用文献1には吸水率についての記載はないが、吸水率は、使用する結晶セルロースの重合度や配合量、水溶性添加剤の種類や配合量等により変化すると解されるところ、前述の通り、結晶セルロースの重合度として本願発明の程度のものを採用することは当業者が自然に想到し得ることであるし、水溶性添加剤の種類や配合量は目的に応じて当業者が適宜調整しうる事項であるところ、引用文献1では、本願発明と同様、球状核の強度、コーティングの経済性、顆粒剤としての崩壊・溶解性の点で優れたものを得ることを目的としている(記載事項e)から、吸水率の点の記載の有無に拘わらず、本願発明の程度の吸水率を有する球状核を得ること自体は、当業者が容易になし得ることである。

なお、請求人は、審判請求書(平成14年5月24日付けの手続補正による)において、引用文献1、2には、球状核の吸水率とその作用効果について記載されていないから、本願発明は進歩性を有する旨主張するが、本明細書の記載によれば吸水率を特定する技術的意義は、吸水率が小さすぎて結合液やコーティング液を噴霧した場合に、顆粒の凝集等が多くなったり、吸水率が大きすぎて粉体の被覆速度が遅くなる(【0005】,【0010】)といったことのない、コーティング効率のよい球状核とすることであると解されるところ、前述の通り、引用文献1には、本願発明と同様、コーティング加工の経済性の観点で球状核を改良することが示唆(記載事項e)されており、吸水率の記載の有無に拘わらず、本願発明の程度の吸水率を有する球状核を得ることに格別の困難性は認められないのであるから、請求人の主張は採用できない。

したがって、本願発明は、引用文献1及び2に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物である引用文献1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-06-16 
結審通知日 2004-06-22 
審決日 2004-07-06 
出願番号 特願平3-46654
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 新留 素子横尾 俊一冨永 保瀬下 浩一植原 克典  
特許庁審判長 竹林 則幸
特許庁審判官 渕野 留香
齋藤 恵
発明の名称 球状核および球形顆粒  

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