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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C22C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C22C
管理番号 1116078
審判番号 不服2003-4534  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-03-20 
確定日 2005-05-06 
事件の表示 平成10年特許願第4297号「靱性に優れた低降伏点鋼」拒絶査定不服審判事件〔平成11年7月27日出願公開、特開平11-199965〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成10年1月12日の出願であって、平成15年2月7日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成15年3月20日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、平成15年4月15日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成15年4月15日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成15年4月15日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)手続補正の内容
本件手続補正の内容は、特許請求の範囲を限定的減縮を目的として、特許請求の範囲の請求項1〜3のとおりに補正するものであるところ、補正後の請求項1に係る発明は、請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】質量%で、C:0.01%以下(0%を含まない),Mn:0.30%以下(0%を含まない),P:0.025%以下(0%を含む),S:0.012%以下(0%を含む),Al:0.010〜0.08%,sol.Ti:0.03%以下(0%を含む),(ここで、[sol.Ti]=[total-Ti]-[insoluble-Ti]であり、[insoluble-Ti]は10%アセチルアセトン-1%テトラメチルアンモニウムクロリドのメタノール電解溶液を用いた定電解抽出法により算出されるものである)total-Ti:0.01〜0.05%,Si:0.10%以下(0%を含む),N:0.01%以下(0%を含む)残部:Fe及び不可避不純物を満足することを特徴とする靱性に優れた低降伏点鋼。」(以下、「本願補正発明1」という。)
(2)当審の判断
本件手続補正の上記内容は、次の理由により、平成15年改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に違反するものである。
(独立特許要件違反について)
(i)引用刊行物と記載事項
原査定の理由で引用された引用例(特開平9-227936号公報)には、次の事項が記載されている。
(a)「本発明の目的は、Siを含有させることなく、引張強さが200〜280N/mm2、降伏強さが150N/mm2以下の範囲でバラツキが小さく、伸びが40%以上であり、0℃での衝撃値が47J以上と建築構造物として優れた靱性レベルを有する低降伏点構造用鋼板の製造法を提供することにある。」(段落【0006】)
(b)「本発明は、重量%で、C:0.0050%以下、Si:0.02%以下、Mn:0.01〜0.30%、Al:0.005〜0.050%、N:0.005%以下、Ti:0.005〜0.080%を含有し、残部が不可避的不純物から成る鋼組成を有する鋳片を熱間圧延し、650〜830℃の温度範囲で仕上げ圧延を行った後、830〜930℃の温度範囲で焼ならし処理をすることを特徴とする低降伏点構造用鋼板の製造法である。本発明の別の態様にあっては、前記鋼組成が、さらにNb:0.005〜0.030%、B:0.0003〜0.0030%の1種または両方を含有するものであってもよい。」(段落【0011】)
(c)段落【0027】表1には、鋼の成分が示されており、「本発明例」No.1、5〜8の「Ti」の欄には、「重量%」で、「0.015」「0.020」「0.020」「0.020」「0.015」と記載されている。
(d)「Ti:0.005〜0.080%
Tiは炭窒化物を生成し、固溶C、Nを減少させることで、粒内強度を低下させ、靱性を向上させる。0.005%未満では固溶C、Nの減少が十分でなく効果が得られず、0.080%超では析出物量が非常に多く、粗大化するため逆に靱性が劣化する。従ってTi含有量は0.005〜0.080%とした。好ましくは、0.010〜0.05%である。」(段落【0018】)
(ii)対比・判断
引用例の上記(b)によれば、引用例には、「重量%で、C:0.0050%以下、Si:0.02%以下、Mn:0.01〜0.30%、Al:0.005〜0.050%、N:0.005%以下、Ti:0.005〜0.080%を含有し、残部が不可避的不純物から成る鋼組成を有する低降伏点構造用鋼板」が記載されているといえるし、この低降伏点構造用鋼板は、引用例の上記(a)の「0℃での衝撃値が47J以上と建築構造物として優れた靱性レベルを有する低降伏点構造用鋼板」という記載によれば、靭性に優れたものといえるから、これら記載を、本願補正発明1の記載ぶりに則って整理すると、引用例には、「質量%で、C:0.0050%以下、Mn:0.01〜0.30%、Al:0.005〜0.050%、Ti:0.005〜0.080%、Si:0.02%以下、N:0.005%以下、残部:Fe及び不可避的不純物を満足する靭性に優れた低降伏点鋼」という発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
そこで、本願補正発明1と引用発明とを対比すると、両者は、「質量%で、C:0.0050%以下、Mn:0.01〜0.30%、,Al:0.010〜0.050%、Si:0.02%以下、N:0.005%以下、及びTiを含有し、残部:Fe及び不可避不純物を満足する靱性に優れた低降伏点鋼。」という点で一致し、次の点で相違しているといえる。
相違点:
(イ)本願補正発明1は、「P:0.025%以下(0%を含む)」及び「S:0.012%以下(0%を含む)」であるのに対し、引用発明は、P及びSの含有量が明らかではない点
(ロ)本願補正発明1は、「sol.Ti:0.03%以下(0%を含む),(ここで、[sol.Ti]=[total-Ti]-[insoluble-Ti]であり、[insoluble-Ti]は10%アセチルアセトン-1%テトラメチルアンモニウムクロリドのメタノール電解溶液を用いた定電解抽出法により算出されるものである)total-Ti:0.01〜0.05%」であるのに対して、引用発明は、「Ti:0.005〜0.080%」である点
次に、これらの相違点について検討する。
(a)相違点(イ)について
本願補正発明1の「P:0.025%以下(0%を含む)」及び「S:0.012%以下(0%を含む)」という範囲は、低降伏点鋼中に含有されるP及びSの量として、周知事項である(特開平5-214442号公報、特開平9-227986号公報等参照)から、本願補正発明1の上記相違点(イ)に係る特定事項は、上記周知事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることといえる。
(b)相違点(ロ)について
本願補正発明1の上記相違点(ロ)の「sol.Ti」が0%である場合については、本願補正発明1の「total-Ti」は、「insoluble-Ti」であると解されるところ、引用発明のTiも、引用例の上記(d)の記載によれば、炭窒化物を生成するものであるから、このような「Ti」は、本願補正発明1の「insoluble-Ti」に相当すると解される。そして、引例発明の「Ti」がすべて「insoluble-Ti」であるとは必ずしも断定できないが、その可能性をも否定できないから、本願補正発明1の「sol.Ti」が0%の場合であって、引例発明の「Ti」もすべて「insolubul-Ti」である場合には、両者は、上記相違点(ロ)において実質的な差異はないと云うべきである。
次に、本願補正発明1の上記相違点(ロ)の「sol.Ti」が0%ではなく、0.03%以下の範囲で含む場合について検討するに、本願補正発明1の「sol.Ti」の規制の理由は、本願明細書の段落【0016】の「靱性向上にはsol.Tiを0.03%以下に抑制すれば良いことを見出し、」たためであり、その結果、0℃でのシャルピー衝撃吸収エネルギーが47Jを遙かに超える靱性が得られたというものであるが、引例発明も、「Ti」の規制の理由は、上記(d)に記載されているとおり、靱性向上のためであり、しかも、引例発明でも0℃での衝撃吸収エネルギーが47J以上の靱性が得られているのであるから、引例発明でも、その「Ti」の殆ど(又は前示のようにすべて)がinsoluble-Tiというものであって、「sol.Ti」の量は極力抑制されていると解するのが相当であると云える。
そうであれば、鋼中のTi成分には、sol.Tiと炭窒化物を生成しているinsolubul-Tiの2種が存在することは周知の事項であるから、本願補正発明1の「sol.Ti」の規制は、引例発明のTi成分について、炭窒化物を生成して靱性向上に有効な「insolubul-Ti」の量とそうでない「sol.Ti」の量を単に分析して確認しただけのことであり、そして、sol.Tiの上限を0.03%以下と限定する程度のことも、当業者が容易に想到することといえる。
してみると、本願補正発明1は、引用発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(iii)むすび
したがって、本件手続補正は、平成15年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明1についての審決
(1)本願発明1
平成15年4月15日付け手続補正は、上記のとおり却下すべきものであるから、本願の請求項1〜3に係る発明は、平成14年8月8日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定されるものであるところ、そのうちの請求項1に係る発明は、次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】質量%で、C:0.01%以下(0%を含まない),Mn:0.30%以下(0%を含まない),P:0.025%以下(0%を含む),S:0.012%以下(0%を含む),Al:0.010〜0.08%,sol.Ti:0.03%以下(0%を含む),(ここで、[sol.Ti]=[total-Ti]-[insoluble-Ti]であり、[insoluble-Ti]は10%アセチルアセトン-1%テトラメチルアンモニウムクロリドのメタノール電解溶液を用いた定電解抽出法により算出されるものである)total-Ti:0.01〜0.05%,Si:0.10%以下(0%を含む),N:0.01%以下(0%を含む)からなることを特徴とする靱性に優れた低降伏点鋼。」(以下、「本願発明1」という。)
(2)引用刊行物と引用発明
原査定の拒絶理由に引用された引用例とその記載事項は、上記「2.(2)(i)」に記載されたとおりのものであるから、引用発明も、上記「2.(2)(ii)」に示したとおり、「質量%で、C:0.0050%以下、Mn:0.01〜0.30%、Al:0.005〜0.050%、Ti:0.005〜0.080%、Si:0.02%以下、N:0.005%以下、残部:Fe及び不可避的不純物を満足する靭性に優れた低降伏点鋼」である。
(3)対比・判断
本願発明1は、本願補正発明1の内容と対比すると、本願補正発明1の「残部:Fe及び不可避的不純物を満足する」という特定事項が、「からなる」という違いだけであるから、本願発明1と上記引用発明との相違点も、本願補正発明1の場合と同様、上記相違点(イ)及び(ロ)である。そして、これらの相違点は、上記「2.(2)(ii)」で言及したとおりであるから、本願発明1も、本願補正発明1と同様に、引用発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

4.むすび
したがって、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その余の発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-03-02 
結審通知日 2005-03-08 
審決日 2005-03-22 
出願番号 特願平10-4297
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C22C)
P 1 8・ 121- Z (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 朝幸奥井 正樹  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 平塚 義三
原 賢一
発明の名称 靱性に優れた低降伏点鋼  
代理人 小谷 悦司  
代理人 植木 久一  

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