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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B42D
管理番号 1116088
審判番号 不服2002-19422  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-06-20 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-10-03 
確定日 2005-05-06 
事件の表示 平成 5年特許願第308317号「真正さがチェックされるカード状の被検出物」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 6月20日出願公開、特開平 7-156580〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明

本願は、平成5年12月8日の出願であって、その請求項1乃至5に係る発明は、平成17年1月21日付手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至5に記載されたとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は次のとおりである。
「【請求項1】非磁性材料からなるカード状の本体と、上記本体の表面あるいは裏面の少なくとも一部に設けられかつ所定の記入事項が記入されるサインパネルとを有するカード状の被検出物であって、
上記サインパネルは、多数のパルプ繊維と、該パルプ繊維と一緒にすき込まれる可撓性を有する磁性ポリマー素子と、を混合し抄紙してなり、
上記磁性ポリマー素子は、高分子溶液を凝固液中に引き出して紡糸する湿式法によって表面に多数の小突起を形成可能な高分子材料からなる繊維状の素子本体と、該素子本体に混入される磁性金属粉とを具備し、上記湿式法によって上記磁性ポリマー素子の表面に上記小突起が形成され、該磁性ポリマー素子が不特定多数の方向を向くよう上記サインパネル中にランダムに混入されているとともに上記磁性ポリマー素子が上記パルプ繊維と立体的に絡み合い、
かつ上記サインパネル中の上記磁性ポリマー素子に応じて得られる固有の検出信号に関する情報がコード化して記録されるコード表示部とを具備したことを特徴とする真正さがチェックされるカード状の被検出物。」

2.引用例

これに対して、当審が平成16年11月17日(起案日)付で通知した拒絶の理由において引用した引用例1(特開平5-270181号公報)には次の事項の記載が認められる(記載中、「・・・」は中略を示す)。
a.「図1、図2において、10は例えばクレジットカードを示し、このカード10は矩形(5.4cm×8.6cm)で所定厚さのプラスチック製のカード基体11を有している。このカード基体11の表面のほぼ中央部には帯状のサインパネル基材12が接着剤層である熱可塑性樹脂層13によって貼着されている。サインパネル基材12は主に万年筆、ボールペン、サインペン等のインキを吸着固定しやすく、カード基体11に接着しやすく、かつ、その偽造、改ざんが判明しやすい紙基材が使用されている。例えば薄い上質紙(王子製紙製四六判45kg)をサインパネル基材12とすることができる。」(【0013】)
b.「サインパネル基材12中には導電性ファイバ15がランダムに分布されている。例えばこのサインパネル基材12中に1g/m2の分布密度でランダムに分布するように、ステンレススチールのファイバ15を上質紙中に分散したものである。この導電性ファイバ15は、例えば8〜12μmの厚み、3〜5mmの長さを有するものとする。また、カード基体11の表面の一部には磁気記録を保持する磁気ストライプ14も接着等により設けられている。この記録情報として例えば上記導電性ファイバ15の分布を検索して得られる信号と同等な意義を有するものとすることもできる。」(【0014】)
c.「図4はこのカード10の真偽を判定するためのチェック装置を示している。このチェック装置は、マイクロ波発振器41およびマイクロ波受信器42で構成されている。...カード10がこの検出部を横切ると、マイクロ波受信器42はこのカード10が横切った後のマイクロ波の振幅を測定することができるものである。...サインパネル基材12に含有される導電性ファィバ15の分布によって、その応答マイクロ波束が例えば図5に示すような4つの種類の応答パターン(A)〜(D)を示す。これらの応答パターンは分布密度、厚み、長さの異なるファイバ15を組み合わせることにより得られるものである。」(【0017】)
d.「マイクロ波受信器42の応答信号は、さらに、当業者には公知の方法でデジタル走査信号に変換される。このマイクロ波走査システムでカード10を走査したときに得られるデジタル走査信号を用いて、暗号変換コード化式に基づくID機能を有するID記号にすることもできる。このID記号は、例えば読み取り可能な印刷文字、バーコード、穿孔、プログラムされた集積回路あるいは磁気読み取りヘッドで読み取り可能な磁気ストライプの形態等でカード10に付与することができる。これにより、サインパネル基材12に導電性ファイバ15の分布として付与されたID記号と、カード10に付与されたコード等を参照してカード10およびサインパネル12の真偽判定を行うことができるものである。」(【0018】)
e.「このカード10の真偽を判定するには、上記チェック装置の検出部にカード10を挿入する。このカード10のサインパネル基材12部分にマイクロ波発振器41よりマイクロ波を入射する。そして、この応答マイクロ波をマイクロ波受信器42で受信する。このとき、サインパネル基材12中には導電性ファイバ15を分布、埋め込んでいるため、図5の(A)〜(D)に示すような応答パターンを示す。そして、このマイクロ波束の応答パターンを信号化してカード10の例えば磁気ストライプ14から読み込んだ信号と比較することにより、そのカード10の真偽を判定する。一致していれば正当なカードの使用である。」(【0019】)
f.「サインパネル基材12中には多数の導電性ファイバ15がランダムに分布してあるため、その組合せは無限大に近く、そのため、本発明に係るサインパネル基材12を偽造しようとしても、このサインパネル基材12自体が1つ1つ異なるものであり、全く同一の物を作成しようとしても、導電性ファイバ15を同じ配列に並べることは困難である。さらには、このサインパネル基材12にはID機能を付加しており、その判定を特別の検出装置で行うことができ、人間の目視で確認するような判断ミスを引き起こす可能性が無い。このようにカード基体11は真正なものであっても、その正当な所有者以外の者の使用を確実に排除することができる。」(【0020】)
g.「本発明によれば、サインパネルをカード基体から剥してこれに別の(不真正な)サインパネルを貼り付けても、このサインパネルの不真正を判定することができる。導電性ファイバを含むサインパネル基材について同一の物を作製することは困難であるからである。」(【0021】)

上記記載事項a.〜g.を含む全記載によれば、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されているものと認められる。
「プラスチック製のカード基体11と、このカード基体11の表面のほぼ中央部に貼着された万年筆、ボールペン、サインペン等のインキを吸着固定しやすいサインパネル基材12とを有するカード10であって、上記サインパネル基材12は薄い上質紙等の紙基材からなり、該サインパネル基材中に導電性ファイバ15が分散され、この導電性ファイバの分布はランダムであり、該導電性ファィバ15の分布を検索して得られた信号を用いて、暗号変換コード化式に基づくID機能を有するID記号とし、該ID記号を、バーコード、磁気ストライプ14等の形態でカード10に付与し、該磁気ストライプ14等から読み込んだID信号と、サインパネルにマイクロ波を入射し、その応答マイクロ波に基づいて生成した走査信号を比較して、サインパネル12の真偽判定を行うことができるカード10。」

3.対比

本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の、「万年筆、ボールペン、サインペン等のインキを吸着固定しやすいサインパネル基材12」、「真偽判定を行うことができるカード10」は、それぞれ、本願発明の、ボールペンや万年筆によって「所定の記入事項が記入されるサインパネル」、「真正さがチェックされるカード状の被検出物」に相当する。
引用発明の「プラスチック」が「非磁性材料」であることは自明の事項であるから、引用発明の「プラスチック製のカード基体11」は、本願発明の「非磁性材料からなるカード状の本体」に相当する。
引用発明の「表面のほぼ中央部」も「表面あるいは裏面の少なくとも一部」であることに相違はないから、引用発明の「カード基体11の表面のほぼ中央部」が、本願発明の「本体の表面あるいは裏面の少なくとも一部」に相当する。
引用発明では、サインパネル基材12はカード基体11に「貼着されて」いるが、本願発明の実施例では、サインパネル3は本体2に接着剤によって固定されるから、引用発明の「貼着された」は、本願発明の「設けられかつ...とを有する」に相当する。
「上質紙」は、パルプ繊維を抄紙して作られるものであるから、引用発明の薄い上質紙等の紙基材からなる「サインパネル基材12」も、本願発明のサインパネルと同じく多数のパルプ繊維を抄紙してなるものである。
引用発明の「導電性ファィバ15のランダムな分布を検索して得られた信号」が、被検出物固有の検出信号であることは明白であり、該信号は、暗号変換コード化式に基づくID機能を有するID記号とし、該ID記号が、バーコード、磁気ストライプ14等の形態でカード10に付与されるから、引用発明の「バーコード、磁気ストライプ14等」は、本願発明の「固有の検出信号に関する情報がコード化して記録されるコード表示部」に対応する。
「導電性ファイバ」が、紙基材中に分散されるということは、パルプ繊維と一緒にすき込まれ、混合し抄紙されたことを意味し、パルプ繊維と一緒にすき込まれ、混合し抄紙されたものは、当然、不特定多数の方向を向いている。よって、引用発明の「導電性ファイバ」と、本願発明の「高分子材料からなる繊維状の素子本体に磁性金属粉が混入された磁性ポリマー素子」は、真正さがチェックされるカード状の被検出物のサインパネルにパルプ繊維と一緒にすき込まれ、不特定多数の方向を向くよう上記サインパネル中にランダムに混入され、その分布に応じて得られる固有の検出信号がコード表示部に記録される「検出用ファイバー」である点で共通する。
そうすると、本願発明と引用発明とは、「非磁性材料からなるカード状の本体と、上記本体の表面あるいは裏面の少なくとも一部に設けられかつ所定の記入事項が記入されるサインパネルとを有するカード状の被検出物であって、
上記サインパネルは、多数のパルプ繊維と、該パルプ繊維と一緒にすき込まれる検出用ファイバーと、を混合し抄紙してなり、
上記検出用ファイバーが、不特定多数の方向を向くよう上記サインパネル中にランダムに混入されているとともに、
上記サインパネル中の上記検出用ファイバーに応じて得られる固有の検出信号に関する情報がコード化して記録されるコード表示部とを具備したことを特徴とする真正さがチェックされるカード状の被検出物。」である点において一致し、以下の各点で相違する。
〈相違点〉検出用ファイバーが、本願発明では、可撓性を有する磁性ポリマー素子であり、該磁性ポリマー素子は、高分子溶液を凝固液中に引き出して紡糸する湿式法によって表面に多数の小突起を形成可能な高分子材料からなる繊維状の素子本体と、該素子本体に混入される磁性金属粉とを具備し、上記湿式法によって上記磁性ポリマー素子の表面に上記小突起が形成され、上記磁性ポリマー素子が上記パルプ繊維と立体的に絡み合っているのに対して、引用発明では、単に、導電性ファイバである点。

4.当審の判断

(1)相違点について
高分子材料からなる繊維状の素子本体に磁性金属粉が混入された可撓性を有する磁性ポリマー素子は、当審が平成16年11月17日(起案日)付で通知した拒絶の理由において引用した特開昭55-98909号公報(以下、「引用例2-1」という。「繊維形成能ある有機高重合体に微粉末状の強磁性体を混合し、次いで繊維化した繊維状の自由に変形可能な磁性体」公報第1頁右欄10〜13行、同欄19〜20行、第2頁左下欄14〜17行)、特公昭64-482号公報(以下、「引用例2-3」という。「溶融した熱可塑性重合体と磁化性微粉末状物質との混合懸濁液を紡糸口金から押出し、冷却しながら繊維状細流に交換し、固化することによって製造された柔軟性にすぐれた性能を有する磁化性繊維」公報第2頁第4欄2〜7行、第5頁第10欄23〜26行)に記載のように従来から周知である。また、同じく当審で引用した特開平3-244598号公報(以下、「引用例3」という。)には、真正さがチェックされるカード状の被検出物に、磁性金属粉により、その分布に応じた固有のデータを付与でき、読み取り装置で読み取ることによって固有の検出信号が得られること、該固有の検出信号に関する情報がコード化できること(特許請求の範囲の第1、2項、公報第2頁右上欄13行〜左下欄2行、公報第2頁右下欄15〜18行、公報第4頁右下欄3〜9行)が記載されている。
引用例3に記載されたように磁性金属粉の分布に応じても、カード状の被検出物に固有の検出信号が得られ、また、磁性金属粉の特性を利用し易くするものとして、高分子材料からなる繊維状の素子本体に磁性金属粉が混入された可撓性を有する磁性ポリマー素子が従来から周知であるから、固有の検出信号を得るためにパルプ繊維と一緒にすき込まれる検出用ファイバーとして、導電性ファイバーに代えて、従来から周知の上記可撓性を有する磁性ポリマー素子を用いてみることは、当業者が容易になし得ることと認められる。
そして、磁性ポリマー素子を用いたことによる、外から見えない、記入する際に記入の妨げにならない、インクがにじまない、サインパネルを所望の大きさに切断しても、その一部がサインパネルの切断面から飛び出さない、カッタの寿命がながくなる、外部ノイズの影響を受けにくい、ノイズ源にならないといった明細書に記載された効果も当業者が事前に予測可能の範囲内のものである。
また、磁性ポリマー素子を、磁性金属粉を混入した高分子溶液を凝固液中に引き出して紡糸する湿式法により形成することは同じく上記拒絶の理由で引用した実願昭53-53877号(実開昭54-158007号公報)のマイクロフィルム(以下、「引用例2-2」という。「粉末磁性材料とアクリロニトリル系重合体との混合は...上記混合物より繊維状成形物を得るには通常の湿式成形法...を用いてフィララメント状物とする」明細書第4頁8〜17行、第5頁1〜7行)及び特開昭59-199817号公報(「湿式または乾式いずれかの固化手段」公報第2頁左下欄20行〜右下欄14行)等に記載されているように従来から周知である。
上記引用例2-2記載の湿式法により形成された磁性ポリマー素子は、本願発明において、湿式法によって表面に多数の小突起を形成可能な高分子材料として記載されているアクリロニトリル系重合体を用いて形成されており、紡糸法も、材料も本願明細書に表面に多数の小突起を形成可能(本願明細書には、他の条件は一切記載されていない。)として記載されているものと同じであるから、引用例2-2記載の紡糸法と材料で形成されれば、表面に多数の小突起が形成された磁性ポリマー素子も普通に作られ得るといえる(もし、そうでないとすれば、当業者が容易に実施できる程度に条件を開示していない事になる。)。
そして、上記紡糸法と材料により得られた磁性ポリマー素子の中からより適切なものを選択することは当業者が当然に行う作業といえるところ、小突起が多数形成されている方がよいというのであれば、結果としてそのようなものを選択することになるのは当業者にとって困難なこととはいえない。
別の見方をすれば、磁性ポリマー素子をすき込むに当って、磁性ポリマー素子の構造を知らずにすき込むのは大凡考え難い事であり、その構造を調べれば、小突起が多数ある構造のものが当然に見出され、そのようなものがパルプ繊維とより絡まり合って望ましいであろうことは当業者であれば容易に理解できることであるから、そのようなものを選択することは当業者にとって困難ではない、ともいえる。
したがって、可撓性を有する磁性ポリマー素子を「高分子溶液を凝固液中に引き出して紡糸する湿式法によって表面に多数の小突起を形成可能な高分子材料からなる繊維状の素子本体と、該素子本体に混入される磁性金属粉とを具備し、上記湿式法によって上記磁性ポリマー素子の表面に上記小突起が形成されるとともに上記磁性ポリマー素子が上記パルプ繊維と立体的に絡み合っている」ものとした点は、当業者が容易になし得たものと認められる。
以上のとおりであるから、相違点に係る本願発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易であり、相違点に係る構成を採用したことによる効果も当業者であれば容易に予測しうる範囲内のものである。

5.むすび

本願発明は引用発明、引用例2-1〜引用例3記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本願発明即ち請求項1に係る発明が特許を受けることができないから、その余の請求項2乃至5に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-02-28 
結審通知日 2005-03-01 
審決日 2005-03-23 
出願番号 特願平5-308317
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B42D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平井 聡子  
特許庁審判長 小沢 和英
特許庁審判官 藤井 靖子
谷山 稔男
発明の名称 真正さがチェックされるカード状の被検出物  
代理人 橋本 良郎  
代理人 河野 哲  
代理人 中村 誠  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 村松 貞男  
代理人 坪井 淳  

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