ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B01D 審判 全部申し立て 2項進歩性 B01D |
---|---|
管理番号 | 1116157 |
異議申立番号 | 異議2003-73582 |
総通号数 | 66 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1997-09-02 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-12-25 |
確定日 | 2005-02-21 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3473726号「空気清浄機用エアーフィルタ」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3473726号の訂正後の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第3473726号の請求項1〜5に係る発明についての出願は、平成8年2月26日に特許出願され、平成15年9月19日にその特許の設定登録がなされたところ、安永真介(以下、「申立人」という)より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内の平成16年10月7日に訂正請求がなされ、その後、当審より申立人に審尋がなされたが、何ら応答がなかったものである。 2.訂正の適否 2-1.訂正の内容 本件訂正の内容は、本件特許明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正しようとするものである。 (1)訂正事項a 請求項1の「隔離されている空気清浄機用エアーフィルタ」(本件特許掲載公報第1頁第1欄第5〜6行)を、「隔離されており、抗菌抗黴抗ウイルス層が、プレフィルタ層上に設けられた抗菌抗黴抗ウイルス剤を含む樹脂の塗膜からなる空気清浄機用エアーフィルタ」と訂正する。 (2)訂正事項b 請求項2を削除し、請求項3、4をそれぞれ請求項2、3に繰り上げる。 (3)訂正事項c 請求項5を削除する。 (4)訂正事項d 明細書の段落【0005】の「隔離されている。」(本件特許掲載公報第2頁第3欄第22〜23行)を、「隔離されており、抗菌抗黴抗ウイルス層は、プレフイルタ層上に設けられた抗菌抗黴抗ウイルス剤を含む樹脂の塗膜からなる。」と訂正する。 (5)訂正事項e 明細書の段落【0008】の「樹脂の塗膜から構成されるのが好ましい。」(本件特許掲載公報第2頁第4欄第8行)を、「樹脂の塗膜から構成される。」と訂正する。 2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張変更の存否 上記訂正事項aは、抗菌抗黴抗ウイルス層をさらに限定したものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。そして、上記訂正事項aは、訂正前の請求項2の記載からみて願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 上記訂正事項b、cは、請求項の削除であるから特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 上記訂正事項d、eは、特許請求の範囲の減縮を目的とする上記訂正事項a〜cの訂正に伴って、減縮された特許請求の範囲と明細書の記載を整合させるためになされた訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正であり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 2-3.まとめ 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項、第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.本件訂正発明 特許権者が請求した上記訂正は、上述したとおり、認容することができるから、訂正後の本件請求項1〜3に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、必要に応じて「本件訂正発明1〜3」という)。 「【請求項1】抗菌抗黴抗ウイルス層、プレフィルタ層、および帯電フィルタ層を風上側から順に積層した空気清浄機用エアーフィルタであって、前記抗菌抗黴抗ウイルス層が前記帯電フィルタ層と隔離されており、抗菌抗黴抗ウイルス層が、プレフイルタ層上に設けられた抗菌抗黴抗ウイルス剤を含む樹脂の塗膜からなる空気清浄機用エアーフィルタ。 【請求項2】プレフィルタ層および帯電フィルタ層が疎水性樹脂繊維からなり、抗菌抗黴抗ウイルス剤を含む樹脂が疎水性樹脂からなる請求項1記載の空気清浄機用エアーフィルタ。 【請求項3】抗菌抗黴抗ウイルス剤が、チオスルファト銀錯体を担持したシリカゲルからなる請求項1または2記載の空気清浄機用エアーフィルタ。」 4.特許異議申立てについて 4-1.取消理由通知の概要 本件取消理由通知の概要は、(1)請求項1〜5に係る発明は、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜5に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり取り消されるべきものである、(2)本件明細書には請求項5に関して具体的に記載されていないから、請求項5に係る発明の特許は、特許法第36条第4項及び第6項の規定に違反してされたものであり取り消されるべきものである、というものである。 4-2.特許法第29条第2項違反について(上記4-1.(1)) 4-2-1.刊行物の記載内容 (1)刊行物1:特開平4-161213号公報:申立人の提出した甲第1号証 (a)「ひだ折り加工された除塵用ろ材を用いたフィルターユニットにおいて、除塵用ろ材のひだと平面状の抗菌用ろ材とから形成されるV字型等の空間に、日本工業規格標準ふるいJIS-Z-8801で呼び寸法1000μのふるいを通過せず、呼び寸法11.1mmのふるいを通過する粒径を持ったペレット状の造粒物から成る脱臭材を充填したこと特徴とする除塵、防臭、抗菌機能を有したフィルターユニット。」(請求項1) (b)「本発明はエアフィルターユニットに係わり、特に空気清浄機用フィルター・・・等に関するものである。」(第1頁左下欄第16〜18行) (c)「そしてこれら除塵用ろ材、脱臭材を1個のフィルターユニットとする場合、除塵用ろ材、脱臭材を直列に配置しなくてはならなかった。」(第1頁右下欄第12〜14行) (d)「上記問題点を解決するため本発明は、ひだ折り加工された除塵用ろ材を用いたフィルターユニットにおいて、除塵用ろ材のひだと平面状の抗菌用ろ材とから形成されるV字型等の空間に、日本工業規格標準ふるいJIS-Z-8801で呼び寸法1000μのふるいを通過せず、呼び寸法11.1mmのふるいを通過する粒径を持ったペレット状の造粒物から成る脱臭材を充填したことを特徴とする除塵、脱臭、抗菌機能を有したフィルターユニットに関するものである。本発明における折り加工された除塵用ろ材とは、ガラス繊維ろ材、合成繊維ろ材、エレクトレット繊維ろ材等であるが、好ましくはエレクトレット繊維ろ材である。」(第2頁左上欄第12行〜右上欄第5行) (e)「本発明における抗菌用ろ材とは、合成または天然繊維による織布、布織布、パルプ紙、合成紙またはそれらの複合紙に抗菌処理を施したものである。抗菌処理の方法としては、原料となる合成または天然繊維による織布、不織布、パルプ紙、合成紙またはそれらの複合紙の製造段階でローラーやガイドにより抗菌剤をオイリングと同じ要領で付与するか、スプレー、またはディッピング法で付与しその後常法により抗菌用ろ材を製造すれば良い。または常法で製造された合成または天然繊維による織布、不織布、パルプ紙、合成紙またはそれらの混合紙にパッド法(マングル絞り)、スプレー法、グラビアコート法など適当な手段で抗菌剤を付与すれば良い。抗菌剤としては公知のものを使用できる。例えば、有機シリコーン第4級アンモニウム塩、ハロゲン化芳香族化合物等がある。」(第2頁左下欄第17行〜右下欄第13行) (f)「また第1図中の4は除塵用ろ材のひだの内部に充填された脱臭材を固定するために貼られた抗菌処理が施されたろ材を表す。」(第3頁右上欄第1〜4行) (2)刊行物2:特開平4-180808号公報:申立人の提出した甲第2号証 (a)「平均繊径が0.5〜6.0μm、嵩密度0.05〜0.50g/cm2の極細不織布と、該極細不織布の片面又は両面が平均繊径10〜50μm、嵩密度0.05〜0.50g/cm2の繊維シートとを積層し、高さ3〜100mmの凹凸形状に成形されていることを特徴とする、成形フィルター。」(請求項1) (b)「本発明の成形フィルターは、空気清浄機、掃除機等のフィルターとして利用できる。」(第1頁右下欄第5〜6行) (c)「第4図は、繊維シートa、極細不織布bの二層構造の成形フィルター断面模式図である。第4図において、空気流入口側がa方向の場合、第1図と同様に、繊維シートaはプレフィルターの役割が大きい。」(第2頁右下欄第8〜12行) (d)「本発明の極細不織布の目付は特に限定されていないが、10〜100g/m2が好ましい。更に、除塵性能を向上させる目的で繊維に帯電加工を施すが、エレクトレット加工などを行うことができる。本発明の繊維シートは、平均繊径が10〜60μmの範囲から成る、ポリエチレン系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリエチレン/ポリプロピレン複合繊維、熱融着性繊維、接着性繊維などの短繊維、又は長繊維の1種又は2種以上の混繊、積層によって得られるシート状物である。」(第3頁右上欄第5〜17行) (e)「さらに、本発明の繊維シート、及び積層シート状物は、目的に応じて、捕集した菌、カビ、虫などの繁殖を防ぐため、抗菌剤、防カビ剤、防臭剤などの機能性付与加工が行える。」(第3頁右下欄第11〜14行) (3)刊行物3:特開平5-310992号公報:申立人の提出した甲第3号証 (a)「透明性樹脂材料に無機系抗菌剤が混練されていることを特徴とする抗菌性透明樹脂。」(請求項1) (b)「一般に、樹脂表面の微生物汚染は、樹脂上に栄養源を含んだ水分と微生物が接触するところから始まり、さらにほこり等も付着し、最終的にはぬめりの発生、細菌の増殖につながる。」(第2頁第2欄第19〜22行) (c)「本発明は、従来のこのような課題を考慮し、微生物汚染を防止でき、人体および環境に対する安全性が高い透明性樹脂、透明性樹脂を主剤とする塗料、あるいは透明性樹脂フィルム等の抗菌性透明樹脂を提供することを目的とするものである。」(第2頁第2欄第43〜47行) (d)「このシリカゲル粉末を180℃で2時間以上乾燥させた。シリカゲル100重量部に対し、銀成分として2重量部になるように上記チオスルファト銀錯塩水溶液を混合した。次いで、速やかに溶媒および担体中に吸収された水分を除去した。次いで、これを所定の粒径に粉砕して、抗菌性材料が担持したシリカゲルを得た。反応性有機珪素化合物としてテトラエトキシシラン100重量部をエチルアルコールに希釈混合させた溶液に、上記シリカゲル100重量部を分散させた後、これに純水を加えてテトラエトキシシランを加水分解させ、シリカゲルの表面の少なくとも1部をコーティングした。次いでこれを乾燥させて銀シリカゲル系抗菌剤を得た。」(第3頁第4欄第1〜14行) (e)「まず、実施例1と同様に銀シリカゲル系抗菌剤を作成する。次に、塩化ビニル樹脂40量部、メタノール25量部、酢酸エチル10量部およびトルオール25量部に上記銀シリカゲル系抗菌剤1量部を混合撹拌し、抗菌性塗料を得る。この抗菌性塗料をヘアライン加工したSUS304にスプレー塗布し、48時間常温放置で乾燥硬化させたものについて下記の方法で抗菌試験を行った。その結果を表4に示す。」(第5頁第7欄第39行〜第8欄第2行) (4)刊行物4:特開昭50-79390号公報:申立人の提出した甲第4号証 (a)「アミノアンスラキノン系色素にて着色されたポリアミド系高分子物質を主成分とする空調用濾過資材によって窒素酸化物を吸収させその吸収量を変褪色によって知る空調用濾過資材による検知方法。」(特許請求の範囲第1項) (b)「依って本方法ではポリアミド高分子であるナイロンをフィルターとして使用し大気中の窒素酸化物を除去し、此の窒素酸化物の除去方法と同時にポリアミド高分子物質であるナイロンをアミノアンスラキノン系の色素で着色し酸化窒素ガスに曝露すると酸化窒素の亜硝酸弱酸性作用に依り色素中アミン類のチャン化反応を起しアミノアンスラキノン色素は変褪色を来たす。」(第2頁左上欄第7〜13行) (c)「二酸化窒素ガス曝露を継続すると青色は曝濾時間の経過に伴いピンク色になる迄徐々に変褪色を来たす。」(第2頁右上欄第7〜8行) (d)「例えばナイロン繊維をアミノアンスラキノン系の分散染料で染色し空調用フィルターに使用出来る様な組織に編繊又は製繊して大気中の塵埃を濾過すると同時に窒素酸化物も除去する方法で此の時にナイロン繊維に吸着された窒素酸化物の量が色相の変化に依り表れて来るのでナイロン繊維の窒素酸化物の吸収効力が染料の変褪色程度に依り明示出来る簡便な窒素酸化物の除去方法である。」(第2頁右上欄第14行〜左下欄第1行) 4-2-2.対比・判断 (1)本件訂正発明1について (1-1)刊行物1を主引例とする対比・判断 刊行物1の上記(1)(a)には、「ひだ折り加工された除塵用ろ材を用い除塵用ろ材のひだと平面状の抗菌用ろ材とから形成されるV字型等の空間に脱臭材を充填したフィルターユニット。」が記載されていると云える。 ここで、上記(1)(c)の「除塵用ろ材、脱臭材を直列に配置」の記載から、除塵用ろ材が風上側と解され、また、上記(1)(b)から空気清浄機用フィルターとして使用されることも明らかである。 そして、上記(1)(d)から、除塵用ろ材にはエレクトレット繊維ろ材を含む。 また上記(1)(e)(f)から、抗菌用ろ材にはグラビアコート法で抗菌剤を付与された不織布を含む。 これらの記載を本件訂正発明1の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には「除塵用ろ材であるひだ折り加工されたエレクトレット繊維ろ材、V字型空間に充填した脱臭材、平面状の抗菌用ろ材を風上側から順に積層した空気清浄機用フィルターであって、ひだ折り加工された除塵用ろ材と平面状の抗菌用ろ材とからV字型空間を形成し、かつ平面状の抗菌用ろ材がグラビアコート法で抗菌剤を付与された不織布からなる空気清浄機用フィルター」という発明(以下、必要に応じて「刊行物1発明」という)が記載されていると云える そこで、本件訂正発明1と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明の「エレクトレット繊維ろ材」は本件訂正発明1の「帯電フィルタ層」に相当するから、両者は「帯電フィルタ層を積層した空気清浄機用エアーフィルタ」という点で一致し、次の点で相違していると云える。 相違点(イ):本件訂正発明1では、「抗菌抗黴抗ウイルス層、プレフィルタ層、および帯電フィルタ層を風上側から順に積層」しているのに対して、刊行物1発明では、「エレクトレット繊維ろ材、脱臭材、抗菌用ろ材を風上側から順に積層」している点 相違点(ロ):本件訂正発明1では、「抗菌抗黴抗ウイルス層が帯電フィルタ層と隔離されており、抗菌抗黴抗ウイルス層が、プレフイルタ層上に設けられた抗菌抗黴抗ウイルス剤を含む樹脂の塗膜からなる」のに対し、刊行物1発明では、ひだ折り加工された除塵用ろ材と平面状の抗菌用ろ材とからV字型空間を形成し、かつ平面状の抗菌用ろ材がグラビアコート法で抗菌剤を付与された不織布からなる点 次にこれら相違点のうち相違点(ロ)について検討する。 刊行物1においては、不織布は風下側にあるので、プレフィルタとは云えないが、仮に不織布をプレフィルタと仮定しても、不織布は除塵用ろ材と接触してV字型空間を形成しているから、不織布と除塵用ろ材とが隔離されているとは云えず、またグラビアコート法が不織布のどちら側に施されるのかも示されておらず、加えて、抗菌剤として「抗菌抗黴抗ウイルス剤を含む樹脂」は示唆されていない(上記(1)(e))。 このように、刊行物1発明は、そのフィルターの使用態様、層構成が本件訂正発明1のものとは基本的に異なるものであり、したがって、当業者といえども刊行物1発明から当該相違点の構成を容易に導き出すことができない。 次に刊行物2には、下記(1-2)で述べるとおり、相違点(ロ)の構成は記載も示唆もされていないと云える。 次に刊行物3には、銀シリカゲル系抗菌剤を含む樹脂の塗膜が記載されているが(上記(3)(e))、フィルターについても何も記載されていないから、相違点(ロ)の構成は記載も示唆もされていないと云える。 刊行物4には、二酸化窒素ガス曝露を継続すると青色からピンク色になる迄徐々に変褪色を来たす空調用濾過資材が記載されているだけである。 してみると、上記相違点(ロ)の構成は、刊行物1〜4から当業者が容易に想到し得るものであると云うことはできない。 そして、本件訂正発明1は、上記相違点(ロ)の構成により明細書記載の効果を奏するものと云える。 したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件訂正発明1は、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 (1-2)刊行物2を主引例とする対比・判断 刊行物2記載のフィルターは空気清浄機に利用できる(上記(2)(b))。第4図では、繊維シートがプレフィルターであるとの記載(上記(2)(c))から、繊維シートは風上側であると云える。 してみると、第4図には、風上側から繊維シート、極細不織布からなる成形フィルターが記載されていると云える。ここで極細不織布はエレクトレット加工がされている(上記(2)(d))。さらに、上記(2)(e)には、繊維シートに、抗菌剤、防カビ剤、防臭剤などの機能性附与加工が行えることが記載されている。 これら記載を、本件訂正発明1の記載ぶりに則って整理すると、刊行物2には、「抗菌剤、防カビ剤、防臭剤などの機能性附与加工をしたプレフィルターである繊維シート、エレクトレット加工をした極細不織布を風上側から順に積層した空気清浄機用成形フィルター」という発明(以下、必要に応じて「刊行物2発明」という)が記載されていると云える。 そこで、本件訂正発明1と刊行物2発明とを対比すると、両者は「プレフィルタ層、および帯電フィルタ層を風上側から順に積層した空気清浄機用エアーフィルタ」という点で一致し、次の点で相違している。 相違点(イ):本件訂正発明1では、「抗菌抗黴抗ウイルス層」が風上側から積層されているのに対し、刊行物2発明では、その点が不明である点 相違点(ロ):本件訂正発明1では、「抗菌抗黴抗ウイルス層が帯電フィルタ層と隔離されており、抗菌抗黴抗ウイルス層が、プレフイルタ層上に設けられた抗菌抗黴抗ウイルス剤を含む樹脂の塗膜からなる」のに対し、刊行物2発明では、プレフィルターに「抗菌剤、防カビ剤、防臭剤などの機能性附与加工をした」点 次にこれら相違点のうち相違点(ロ)を検討すると、刊行物2では、抗菌剤、防カビ剤による機能性付与加工について具体的に明らかでない。すなわち抗菌剤、防カビ剤がプレフィルターに層として付与されたのか、またその風上側に付与されたのか、不明であり、加えて「抗菌抗黴抗ウイルス剤を含む樹脂の塗膜」も示唆されていない。してみると、刊行物2には、上記相違点(ロ)の構成は記載も示唆もされていないと云える。 他の刊行物については上記(1)と同じことが云える。 したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件訂正発明1は、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 (2)本件訂正発明2、3について 本件訂正発明2、3は、少なくとも請求項1を引用しさらに限定したものであるから、上記(1)と同じ理由で、本件訂正発明2、3は、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 4-3.その他(上記4-1.(2)の特許法第36条違反について) 訂正前の請求項5が削除されたので、特許法第36条違反は解消された。 5.むすび 以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、訂正後の本件請求項1〜3に係る発明の特許を取り消すことはできない。 また、他に訂正後の本件請求項1〜3に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 空気清浄機用エアーフィルタ (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 抗菌抗黴抗ウイルス層、プレフィルタ層、および帯電フィルタ層を風上側から順に積層した空気清浄機用エアーフィルタであって、 前記抗菌抗黴抗ウイルス層が前記帯電フィルタ層と隔離されており、 抗菌抗黴抗ウイルス層が、プレフィルタ層上に設けられた抗菌抗黴抗ウイルス剤を含む樹脂の塗膜からなる空気清浄機用エアーフィルタ。 【請求項2】 プレフィルタ層および帯電フィルタ層が疎水性樹脂繊維からなり、抗菌抗黴抗ウイルス剤を含む樹脂が疎水性樹脂からなる請求項1記載の空気清浄機用エアーフィルタ。 【請求項3】 抗菌抗黴抗ウイルス剤が、チオスルファト銀錯体を担持したシリカゲルからなる請求項1または2記載の空気清浄機用エアーフィルタ。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、家庭用空気清浄機などに用いられるエアーフィルタの改良に関する。 【0002】 【従来の技術】 近年、空気清浄機は、従来のエアコンの機能分野と協調した空気の質を改善する機器として注目されている。特に、空気清浄機に用いられるエアーフィルタについては、高性能エアーフィルタと同程度の機能を有し、かつ小型化、低コスト化が要求されている。また、最近では、快適性追求の観点から、集塵機能以外にも、花粉除去、たばこなどの消臭機能等を付加したものが求められている。 【0003】 この種のエアーフィルタは、一般家庭の中や、身体の抵抗力の低下した人にも使用されることから、さらに、生物学的な清潔性、安全性を確保することを目的に抗菌、抗黴加工への要望も多い。特に、空気清浄機の稼働中はもちろん、稼働を停止させた時には、フィルタ表面に吸引されている埃あるいは埃に含まれる細菌類が、フィルタから外れやすくなり、一度捕集された微生物類による再汚染の可能性がある。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】 本発明は、以上に鑑み、フィルタに集められた微生物の増殖を抑制し、再汚染の生じにくい抗菌性能を付与するとともに帯電フィルタの帯電性能の劣化を抑制した空気清浄機用エアーフィルタを提供することを目的とする。 【0005】 【課題を解決するための手段】 本発明の空気清浄機用エアーフィルタは、抗菌抗黴抗ウイルス層、プレフィルタ層、および帯電フィルタ層を、空気清浄機の動作時の気流に対し風上側から順に積層した構成を有し、前記抗菌抗黴抗ウイルス層は、前記帯電フィルタ層と隔離されており、抗菌抗黴抗ウイルス層は、プレフィルタ層上に設けられた抗菌抗黴抗ウイルス剤を含む樹脂の塗膜からなる。 【0006】 【発明の実施の形態】 抗菌抗黴抗ウイルス剤をフィルタに加工する方法については、フィルタ繊維中に混合し紡糸する方法と、フィルタを形成した後に繊維表面に薬剤を添着させる方法がある。前者の方法では、紡糸温度が高い場合は、無機系抗菌剤が適している。しかし、無機系抗菌剤は、その薬剤の繊維表面に出現する率が低いので、微生物と直接接触しないと効果の少ない無機系抗菌剤は、添加量を多くしなければならない。 一方、後者の方法では、薬剤が有効に微生物と接触し、しかも加工温度が低いため無機系のみならず、有機系抗菌剤を使用できる。しかし、繊維表面に薬剤を添着させるためには、薬剤を繊維の間に固定する塗料用樹脂が必要となる。塗料用樹脂には溶剤が含まれるため、電気伝導度が低く、帯電フィルタに接すると帯電性能を劣化させる。そこで、プレフィルタに帯電フィルタを積層させ、フィルタ強度をプレフィルタに持たせる。そして、この帯電フィルタと反対面のプレフィルタ表面のみに抗菌剤を含む耐微生物層を設ける。 【0007】 フィルタへの空気の導入方向として、まずプレフィルタ層上に設けられた抗菌抗黴抗ウイルス層に最初に触れさせる。その後帯電フィルタ層を通過する内に小さな微生物まで帯電捕集される。空気中に浮遊する微生物は、まず抗菌抗黴抗ウイルス層に触れる。抗菌抗黴抗ウイルス層には、チオスルファト銀錯体などの抗菌剤が添加されているため、接触した微生物は増殖率が低下する。その後、空気清浄機が停止して、フィルタ上の埃などがフィルタへの吸引力がなくなり、埃がフィルタ面より外れても、抗菌剤の作用でフィルタ面に接触していた微生物は増殖率が低下しているため、人間への影響力は極めて低い。 【0008】 上記のように、本発明の空気清浄機用エアーフィルタでは、抗菌抗黴抗ウイルス層が、プレフィルタ層上に設けられた抗菌抗黴抗ウイルス剤を含む樹脂の塗膜から構成される。 また、抗菌抗黴抗ウイルス層は、特に銀などの無機系抗菌剤を含む場合、帯電フィルタ層の機能を損なわないよう、帯電フィルタ層と隔離されている。 【0009】 また、同様に水分の流入による帯電破壊を防止するために、プレフィルタ層およびフィルタ層が疎水性樹脂繊維からなり、抗菌抗黴抗ウイルス剤を含む樹脂が疎水性樹脂からなるのが好ましい。 抗菌抗黴抗ウイルス剤としては、チオスルファト銀錯体を担持したシリカゲルが好ましく、さらには、薬剤の除放性を付与するため、アルコキシシランなどの反応性有機ケイ素化合物から生成する二酸化ケイ素などにより表面を部分的に被覆するのが好ましい。 【0010】 【実施例】 以下、本発明の実施例を説明する。 図1は、本発明による空気清浄機用フィルタの構成を模式的に示す断面図である。 フィルタは、抗菌抗黴抗ウイルス層1、プレフィルタ層2、および帯電フィルタ層3から構成されている。プレフィルタ層2は、プレフィルタ繊維4からなり、プレフィルタ繊維4上にのみ抗菌抗黴抗ウイルス層1が印刷により形成されている。抗菌抗黴抗ウイルス層1は、抗菌抗黴抗ウイルス剤粒子5を含む樹脂の塗膜6から構成されている。 【0011】 ここに用いた抗菌抗黴抗ウイルス剤は、チオスルファト銀錯体をシリカゲルに担持させ、その表面の少なくとも一部をテトラエトキシシランの加水分解物二酸化ケイ素で被覆したものである。これは、例えば次のようにして作製することができる。すなわち、酢酸銀の水溶液に亜硫酸カリウムとチオ硫酸カリウムを加えてチオスファト銀錯塩溶液を調製し、これを粒径10μm以下のシリカゲルに吸着させ、乾燥させる。次いで、これを、テトラエトキシシランのエタノール溶液に添加し、水を加えてテトラエトキシシランを加水分解させ、生成する二酸化ケイ素によりシリカゲル粒子の表面を部分的に被覆させる。 【0012】 プレフィルタ層2は、径約30μmのポリプロピレン繊維4の不織布で構成され、その不織布の表面上にメルトブローされたポリプロピレン極細繊維で帯電フィルタ層3を形成している。また、アクリル樹脂中に上記抗菌抗黴抗ウイルス剤粒子5を分散させたトルエンを溶媒とする印刷用塗料を準備し、これをプレフィルタ繊維4の帯電フィルタ層3と反対側にのみグラビア印刷法で印刷して塗膜6を形成している。 【0013】 この印刷用塗料は、青色に着色され、その着色度合いより、抗菌抗黴抗ウイルス剤粒子5を含む樹脂の塗膜が、上記帯電フィルタ層3と反対側にのみ実施されているかを評価する品質管理法として利用できる。 さらに、この青色色素として、堅牢性の低い色素を用いることにより、フィルタ寿命の目安とすることもできる。 【0014】 このフィルタ表面の抗菌性能を測定した結果を表1に示す。比較例のフィルタは、抗菌抗黴抗ウイルス剤粒子を含まない印刷用塗料を用いた他は上記と同じ構成である。 対数増殖期に活性化された微生物を、初期菌数としそれぞれのフィルタ上に滴下し、35℃の雰囲気中に18時間放置した後の生存菌数を計数した。また、ウイルスに関しては、抗菌処理したフィルタと無処理のフィルタを比較した感染濃度の差を不活化率とした。 この結果から、本発明のフィルタは、実用的な抗菌抗黴抗ウイルス性能を有することがわかる。 【0015】 【表1】 【0016】 【発明の効果】 以上のように本発明は、常に清潔性を保てる安定した抗菌効果を示す空気清浄機用エアーフィルタを得ることができる。また、空気清浄機の稼働を停止させた後フィルタ吸気面に付着した埃が逆流しても、フィルタ接触面の微生物の増殖が抑止されるため、微生物のフィルタからの再汚染を防止することができる。また、抗菌抗黴抗ウイルス層は、帯電フィルタ層と隔離されているため、帯電フィルタの帯電性能の劣化が抑制される。さらに、抗菌剤としてチオスルファト銀錯体を用いると、安全性が高いため、フィルタを廃棄あるいは焼却しても環境汚染の原因となりにくい。 【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明による空気清浄機用フィルタの構成を模式的に示す断面図である。 【符号の説明】 1 抗菌抗黴抗ウイルス層 2 プレフィルタ層 3 帯電フィルタ層 4 プレフィルタ繊維 5 抗菌抗黴抗ウイルス剤粒子 6 印刷用塗料樹脂 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2005-02-01 |
出願番号 | 特願平8-38280 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YA
(B01D)
P 1 651・ 537- YA (B01D) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 松本 貢 |
特許庁審判長 |
多喜 鉄雄 |
特許庁審判官 |
中村 泰三 野田 直人 |
登録日 | 2003-09-19 |
登録番号 | 特許第3473726号(P3473726) |
権利者 | 松下電器産業株式会社 |
発明の名称 | 空気清浄機用エアーフィルタ |
代理人 | 石井 和郎 |
代理人 | 石井 和郎 |