• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
管理番号 1116166
異議申立番号 異議2003-72229  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-02-10 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-09-08 
確定日 2005-03-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3385391号「水性樹脂分散体」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3385391号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
本件特許第3385391号の請求項1〜4に係る発明は、平成6年5月20日(優先権主張、平成5年5月24日)に特許出願がなされ、平成15年1月10日に特許権の設定登録がなされたものであるところ、請求項1〜4に係る発明の特許について、中澤昭彦から特許異議の申立てがなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成16年7月27日に訂正請求がなされたものである。

2 訂正請求について
(1)訂正事項
(a)特許明細書の特許請求の範囲の請求項1を、
「【請求項1】グラフト樹脂(A)と水/メタノール混合溶剤(重量比35/65)での溶剤希釈率が20以下の疎水性メラミン樹脂(B)とを水性媒体中で分散してなる水性分散体であって、該グラフト樹脂(A)は重量平均分子量10,000〜100,000、酸価5〜80であり、疎水性主鎖と親水性側鎖とからなり、そして該親水性側鎖は重量平均分子量が5,000〜50,000で、酸価が20より大きいこと、且つグラフト樹脂(A)と疎水性メラミン樹脂(B)との配合割合が、疎水性メラミン樹脂(B)の固形分20重量部に対して、グラフト樹脂(A)が4〜40重量部であることを特徴とする水性樹脂分散体。」と訂正する。
(b)特許明細書の特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(c)特許明細書の段落番号【0007】(本件特許公報2頁3欄24〜34行)の記載を、
「本発明は、グラフト樹脂(A)と水/メタノール混合溶剤(重量比35/65)での溶剤希釈率が20以下の疎水性メラミン樹脂(B)とを水性媒体中で分散してなる水性分散体であって、該グラフト樹脂(A)は重量平均分子量10,000〜100,000、酸価5〜80であり、疎水性主鎖と親水性側鎖とからなり、そして該親水性側鎖は重量平均分子量が5,000〜50,000で、酸価が20より大きいこと、且つグラフト樹脂(A)と疎水性メラミン樹脂(B)との配合割合が、疎水性メラミン樹脂(B)の固形分20重量部に対して、グラフト樹脂(A)が4〜40重量部であることを特徴とする水性樹脂分散体を提供するものである。」と訂正する。
(2)訂正の適否
訂正事項(a)に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項1に記載された「疎水性メラミン樹脂(B)」を、特許請求の範囲の請求項4の記載及び明細書の段落【0031】(本件特許公報3頁6欄36〜41行)の記載に基づいて、下位概念である「水/メタノール混合溶剤(重量比35/65)での溶剤希釈率が20以下の疎水性メラミン樹脂(B)」に限定しようとするものであるから、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項(a)に係る訂正は、適法な訂正である。
訂正事項(b)に係る訂正は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項(b)に係る訂正は、適法な訂正である。
訂正事項(c)に係る訂正は、請求項1の前記訂正により生ずる明細書の記載の不整合を解消するものであり、明りょうでない記載の釈明に該当し、訂正事項(a)について記載したのと同様、願書に添付した明細書に記載した範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、適法な訂正である。
(3)以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する前記法律による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3 本件発明
本件の請求項1〜3に係る発明は、前記訂正請求により訂正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された次のとおりのものである(以下、それぞれ、「本件発明1」〜「本件発明3」といい、それらをまとめて、単に、「本件発明」という。)。
【請求項1】グラフト樹脂(A)と水/メタノール混合溶剤(重量比35/65)での溶剤希釈率が20以下の疎水性メラミン樹脂(B)とを水性媒体中で分散してなる水性分散体であって、該グラフト樹脂(A)は重量平均分子量10,000〜100,000、酸価5〜80であり、疎水性主鎖と親水性側鎖とからなり、そして該親水性側鎖は重量平均分子量が5,000〜50,000で、酸価が20より大きいこと、且つグラフト樹脂(A)と疎水性メラミン樹脂(B)との配合割合が、疎水性メラミン樹脂(B)の固形分20重量部に対して、グラフト樹脂(A)が4〜40重量部であることを特徴とする水性樹脂分散体。
【請求項2】グラフト樹脂(A)の該主鎖と該側鎖との比率が、該両成分の合計重量に基づいて、主鎖/側鎖=70/30〜30/70(重量比)である請求項1に記載の水性樹脂分散体。
【請求項3】疎水性メラミン樹脂(B)の重量平均分子量が、400〜5,000である請求項1に記載の水性樹脂分散体。

4 取消理由の概要
取消理由は、訂正前の請求項1〜4に係る特許は、次の理由(イ)及び(ロ)により取り消されるべきであるというものである。
(イ)請求項1〜4に係る発明は、刊行物5記載の周知事項を考慮すると、その出願前に国内において頒布された刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(ロ)請求項1〜4に係る発明は、その出願前に国内において頒布された刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
刊行物1:特開平1-287162号公報(異議申立人の提出した甲第1号証)
刊行物2:特開平3-24170号公報(同甲第2号証)
刊行物3:特開平4-103680号公報(同甲第3号証)
刊行物4:特開昭63-193968号公報(異議申立書で引用している、審査時の拒絶理由に引用された「引例2」。異議申立ての証拠方法としては提出されていない。)
刊行物5:「理化学辞典第4版」(岩波書店、1989年12月15日発行)1155頁(異議申立人の提出した甲第4号証)

5 引用刊行物の記載
刊行物1(特開平1-287162号公報)
(a1)「2.水媒体およびグラフトポリマーを含有する水性分散体に水不溶性樹脂を分散した水性塗料組成物において、該グラフトポリマーが分子量5,000〜100,000を有し、しかも主鎖と分子量1,000〜4,000の側鎖からなりその主鎖または側鎖のいずれか一方が疎水性で他方が親水性であり、疎水性部分の溶解度パラメーターが8.0〜11.5、親水性部分の溶解度パラメーターが10.0〜13.0を有し、両者の溶解度パラメーターの差の絶対値が1.0以上であり、かつ該グラフトポリマーを水媒体中に配合した場合に濃度10〜70重量%および粘度50〜10,000cpsの範囲内で50度(カオリン)以下の積分球濁度を有し、更に前記水不溶性樹脂の溶解度パラメーターと前記グラフトポリマーの疎水部の溶解度パラメーターとの差の絶対値が2.0以下であり、かつ該水不溶性樹脂が酸価15以下を有することを特徴とする水性塗料組成物。
3.アミノ樹脂を更に含有する請求項2記載の水性塗料組成物。」(特許請求の範囲、請求項2〜3)
(a2)「本発明のグラフトポリマーは当業者に周知の方法により得られる。例えば酸官能性アクリル重合体にグリシジル基含有不飽和単量体を付加して、二重結合を持つアクリルオリゴマーを合成し、このものとα、β-エチレン性不飽和単量体を重合する方法がある。ここで酸官能性アクリルへの酸基の導入方法は通常(メタ)アクリル酸を単量体として用いることにより導入される。また、チオグリコール酸等の連鎖移動剤の共存下でラジカル重合を起こす方法、または酸末端の重合開始剤を使用してアクリル重合体を合成する方法等がある。」(3頁右上欄15行〜左下欄5行)
(a3)「このようにして得られた二重結合を持つアクリルオリゴマーとα、β-エチレン性不飽和単量体の混合物と共重合することにより本発明のアクリルグラフトポリマーを得る。α、β-エチレン性不飽和単量体の例としては上記共重合に用いられる単量体が用いられる。この単量体の選択により疎水性部分あるいは親水性部分が形成される。」(4頁左上欄14〜20行)
(a4)「本発明のグラフトポリマーの側鎖は数平均分子量で1,000〜4,000、グラフトポリマー全体としては数平均分子量で5,000〜100,000、好ましくは5,000〜50,000の分子量を有する。」(4頁右上欄1〜5行)
(a5)「本発明においては、2種類の水不溶性樹脂を混合して用いてもよい。その内の1つは・・・酸価15以下を有する。・・・ここで水不溶性ポリマーはグラフトポリマーの熱溶融粘度などを低下させる役目を持ち、数平均分子量で3,000〜10,000が好適である。・・・この第1の水不溶性樹脂はグラフトポリマー100に対し水不溶性樹脂は5〜100重量部、好ましくは5〜50重量部分散することが好ましい。・・・第2の水不溶性樹脂は・・・酸価15〜100を有する。・・・グラフトポリマー/第2の水不溶性樹脂は98/2〜40/60の比率である。」(5頁左上欄8行〜右上欄17行)
(a6)「得られた夫々の水性塗料はアミノ樹脂を配合して、熱硬化性水性塗料組成物としてもよい。アミノ樹脂としてはアルコキシ化メラミンホルムアルデヒド樹脂(メラミンとホルムアルデヒドまたはパラホルムアルデヒドとの縮合物のアルコキシ化物であり、例えばメトキシ化メチロールメラミン、イソブトキシ化メチロールメラミン、n-ブトキシ化メチロールメラミン)等が挙げられ、これらの少なくとも1種を使用し得る。」(5頁左下欄1〜9行)
(a7)「製造例1 グラフトポリマー(1)の調製
撹拌機、温度調節機、冷却管を備えた1lの反応容器にキシレン400重量部を仕込み、撹拌下120℃に昇温した。スチレン73.6重量部、メタクリル酸メチル151.6重量部、エチルヘキシルアクリレート100.8重量部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート74.4重量部、カヤエステルO(化薬ヌーリー社製、重合開始剤)40重量部、メタクリル酸17.2重量部を3時間で滴下重合を実施した。その後2時間撹拌を継続した。次にこの樹脂溶液にヒドロキノン0.1重量部、グリシジルメタクリレート17.0重量部を仕込み、140℃で3時間撹拌を続けた。得られた樹脂は酸価3.0、数平均分子量2,500、SP値10.3で不揮発分50%の疎水性のオリゴマーであった。次に上記反応容器と同様の容器にブチルジグリコール45重量部を仕込み、撹拌下120℃に昇温した。上記疎水性オリゴマー溶液400重量部、スチレン52.6重量部、メチルメタクリレート63.8重量部、エチルヘキシルアクリレート35.0重量部、ヒドロキシエチルアクリレート30.2重量部、メタクリル酸18.4重量部およびカヤエステルO14重量部の混合液を3時間で滴下し重合を実施した。その後撹拌を継続した。次いで減圧蒸留によりキシレンを除去した。得られたものは数平均分子量8,000、酸価30、ヒドロキシル価74、疎水性部分/親水性部分=50/50、親水性部分のSP値11.4を有するグラフトポリマーであった。不揮発分は87%であった。このグラフトポリマーをジメチルエタノールアミンで100%中和して水希釈して、20%不揮発分に調整したとき粘度が500cpsで濁度3度(カオリン)の透明な水溶液であった。」(5頁右下欄3行〜6頁左上欄17行)
(a8)「製造例3 水性樹脂の合成
製造例1と同様に・・・重合させた。得られた樹脂は酸価60、SP値11.5、OH価80の分子量を10,000を有するアクリル樹脂であった。この樹脂ワニス135重量部とジメチルエタノールアミン9.0重量部を混合し、50℃で脱イオン水142重量部を添加して水溶性ワニスを調製した。」(6頁左下欄10行〜右下欄5行)
(a9)「実施例1 製造例3で調製した水性樹脂285重量部を60℃に加温し、グラフトポリマー(1)92重量部とサイメル303(三井東圧(株)製、メラミン樹脂)72重量部およびブチルセルソルブ20重量部の混合液を徐々に添加した。その後60℃で1時間加温撹拌を継続し、粒子径0.1μの安定な水分散体が得られた。」(6頁右下欄6〜13行)
(a10)「製造例4 水不溶性ポリマー1の合成
・・・得られた樹脂は酸価8.0、SP値10.4、OH価80の分子量4,000のアクリル樹脂であった。」(8頁左上欄1〜11行)
(a11)「実施例5 製造例1によって得られたグラフトポリマー115重量部とジメチルエタノールアミン4重量部を混合し、脱イオン水167部で希釈した。不揮発分35%の水溶性ワニスを得た。この水溶性ワニスに製造例4で得た水不溶性ポリマー30重量部とサイメル303 56重量部の混合液を分散した。分散は水溶性ワニスを60℃の保温し、ラボミキサーで撹拌しながら水不溶性ポリマー混合液を徐々に添加していき、1時間の撹拌で分散工程を終了した。得られた分散体の粒径0.1μの安定な分散体であった。」(8頁右上欄3〜14行)

刊行物2(特開平3-24170号公報)
(b1)「1.グラフトポリマーと硬化剤とを含む水性樹脂分散体において、該グラフトポリマーが分子量5,000〜100,000を有し、しかも主鎖と分子量1,000〜4,000の側鎖からなりその主鎖または側鎖のいずれか一方が疎水性で他方が親水性であり、疎水性部分の溶解度パラメーターが8.0〜11.5、親水性部分の溶解度パラメーターが10.0〜13.0を有し、両者の溶解度パラメーターの差の絶対値が1.0以上であり、かつ該グラフトポリマーを水媒体中に配合した場合に濃度10〜70重量%および粘度50〜10,000cpsの範囲内で50度(カオリン)以下の積分球濁度を有し、かつ該グラフトポリマーを前記硬化剤と共に水性媒体中で撹拌下に硬化温度にまで加熱することを特徴とする熱的に安定な水性樹脂分散体。
2.水不溶性樹脂を硬化剤と共に用いる請求項1記載の水性樹脂分散体。
・・・
4.請求項1〜3いずれかに記載の水性樹脂分散体およびアミノ樹脂を含有する熱硬化性水性塗料組成物。」(特許請求の範囲、請求項1〜4)
(b2)「(従来の技術)水性塗料組成物は・・・種々の研究がなされている。水性塗料組成物には分散剤が一般に用いられるが、分散剤として親水性部分と疎水性部分とを有するグラフトポリマーを用いるものもある。この種のグラフトポリマーは分散能は高い。しかし分散される物が熱硬化性である場合、分子量が低いものが多く、それらの分散系の熱的安定性が比較的悪い。熱的安定性を上げるために分散される物のガラス転移温度を上げたり、分子量を上げたりする方法があるが、分散の均一性あるいは製法上の問題があった。・・・
(課題を解決するための手段)本発明者らはグラフトポリマーの主鎖および側鎖の特性を特定し、かつ硬化剤とともに加熱することにより、上記欠点が大きく改善されることを見出す本発明を成すに至った。」(1頁右下欄12行〜2頁左上欄14行)
(b3)「本発明のグラフトポリマーの側鎖は数平均分子量で1,000〜4,000、グラフトポリマー全体としては数平均分子量で5,000〜100,000、好ましくは5,000〜50,000の分子量を有する。」(3頁右上欄12〜16行)
(b4)「本発明に用いる硬化剤は樹脂分散体中に存在する樹脂成分グラフトポリマー、水不溶性樹脂、水性樹脂の少なくとも1部分と反応性のものである。従って、樹脂分散体がグラフトポリマーと硬化剤の2成分系であれば、硬化剤は該グラフトポリマーと反応性のものである。・・・硬化剤の具体例としては例えば、いずれかの樹脂成分中にヒドロキシル基があればメラミン樹脂またはブロック化イソシアネート樹脂が好適であり、・・・好ましくはメラミン樹脂であり、より好ましくは分子量5,000以下で-NCH2OH基をトリアジン核1当量当たり0.4当量有するメラミン樹脂である。」(3頁右下欄7行〜4頁左上欄3行)
(b5)「硬化剤の使用量は樹脂/硬化剤の比が95/5〜50/50である。」(4頁右上欄5〜6行)
(b6)「水不溶性樹脂は公知のいかなるものを用いてもよい。特に、溶解度パラメーターが上記グラフトポリマーの疎水部の溶解度パラメーターとの差の絶対値が2.0以下を有し、酸価20以下を有するものが好ましい。・・・の水不溶性樹脂はグラフトポリマー100重量部に対し水不溶性樹脂は5〜100重量部・・・分散することが好ましい。」(4頁右下欄4〜17行)
(b7)「得られた夫々の水性塗料組成物はアミノ樹脂を配合して、熱硬化性水性塗料組成物としてもよい。アミノ樹脂としてはアルコキシ化メラミンホルムアルデヒド樹脂(メラミンとホルムアルデヒドまたはパラホルムアルデヒドとの縮合物のアルコキシ化物であり、例えばメトキシ化メチロールメラミン、イソブトキシ化メチロールメラミン、n-ブトキシ化メチロールメラミン)等が挙げられ、これらの少なくとも1種を使用し得る。」(5頁左上欄2〜10行)
(b8)「製造例1 グラフトポリマー(1)の調製
撹拌機、温度調節機、冷却管を備えた1lの反応容器にキシレン400重量部を仕込み、撹拌下120℃に昇温した。スチレン73.6重量部、メタクリル酸メチル151.6重量部、エチルヘキシルアクリレート100.8重量部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート74.4重量部、カヤエステルO(化薬ヌーリー社製、重合開始剤)40重量部、メタクリル酸17.2重量部を3時間で滴下重合を実施した。その後2時間撹拌を継続した。次にこの樹脂溶液にヒドロキノン0.1重量部、グリシジルメタクリレート17.0重量部を仕込み、140℃で3時間撹拌を続けた。得られた樹脂は酸価3.0、数平均分子量2500、Sp値10.3で不揮発分50%の疎水性のオリゴマーであった。次に上記反応容器と同様の容器にブチルジグリコール45重量部を仕込み、撹拌下120℃に昇温した。上記疎水性オリゴマー溶液400重量部、スチレン31.3重量部、メチルメタクリレート51.2重量部、エチルアクリレート56重量部、ヒドロキシエチルアクリレート33.1重量部、メタクリル酸18.4重量部およびカヤエステルO14重量部の混合液を3時間で滴下し重合を実施した。その後撹拌を継続した。次いで減圧蒸留によりキシレンを除去した。得られたものは数平均分子量8,000、酸価33、ヒドロキシル価76、疎水性部分/親水性部分=50/50、親水性部分のSp値11.9を有するグラフトポリマーであった。不揮発分は87%であった。このグラフトポリマーをジメチルエタノールアミンで100%中和して水希釈して、27%不揮発分に調整したとき粘度が500cpsで濁度3度(カオリン)の透明な水溶液であった。」(5頁右上欄5行〜左下欄19行)
(b9)「実施例1 製造例1で調製したグラフトポリマー(2)[審決注.「(2)」は「(1)」の誤記と認められる。]370重量部を50℃に加温し、メラミン樹脂サイメル732(三井サイアナミド(株)製)35重量部を徐々に添加し、10分撹拌をした。その後脱イオン水40重量部添加し、90℃で3時間加温撹拌を継続し、粒子径80nmの安定な水分散体が得られた。・・・この分散体を50℃で1ヶ月保持したが、貯蔵安定性は良好であった。」(7頁左上欄5〜15行)
(b10)「比較例1 製造例1で調製したグラフトポリマー(1)370重量部を50℃に加温し、サイメル732 35重量部を徐々に添加し、10分撹拌した。その後脱イオン水40重量部添加し、粒子径90nmの水分散体が得られた。この分散体を実施例1と同様に貯蔵安定性をしらべたところ、1日で分離・沈降や粘度の変化がみられた。」(7頁右上欄19行〜左下欄7行)

刊行物3(特開平4-103680号公報)
(c1)「(A)水性塗料用樹脂
(B)ウレタン樹脂系エマルジョン及び
(C)架橋剤
を主成分とし、且つ、上記(B)成分が、(a)脂肪族及び/又は脂環式ポリイソシアネート、(b)高分子ポリオール、(c)α,α-ジメチロールモノカルボン酸、及び必要により(d)鎖伸長剤及び/又は重合停止剤を反応させ、次いでカルボキシル基を(e)第1級及び/又は第2級モノアミンで中和して得られるポリウレタン樹脂の水性分散体であることを特徴とする水性塗料。」(特許請求の範囲、請求項1)
(c2)「まず、本発明の水性塗料について説明する。(A)成分:水性塗料用樹脂
硬化塗膜の基本的構成成分であり、例えばアクリル樹脂、アルキド樹脂・・・エポキシ樹脂、フッ素含有樹脂等・・・が挙げられ・・・アクリル樹脂が好適である。下記(イ)〜(ニ)に本発明で使用されるアクリル樹脂についてより具体的に述べる。」(2頁左下欄17行〜右下欄9行)
(c3)「(ハ)水分散性アクリル樹脂-2
水中に分散しているアクリル樹脂微粒子が安定剤ポリマーによって安定化されている水分散体であり、これは、該粒子をコア部、安定剤ポリマーをシェル部であるコア/シェルタイプのエマルジョンである。具体的には、最初にカルボキシル基含有ビニルモノマー(M-1)を全くもしくは殆んど含有しないビニルモノマー成分を乳化重合し、その後、カルボキシル基含有ビニルモノマー(M-1)を多量に含んだビニルモノマー成分を加えて乳化重合することによって得られ、このものは後記第1級及び/又は第2級モノアミンを用いて中和することによって増粘するので塗装作業性の面から好ましいものである。
(ニ)水分散性アクリル樹脂-3
重合体粒子(コア部)が架橋しており、これを安定化させるポリマー(シェル部)があり、該コア部とシェル部とが化学的に結合してなるコア/シェルタイプのエマルジョンである。コア部とシェル部との結合方法は特に、コア部の表面に加水分解性官能基又はシラノール基を有せしめ、次いでこれらの基に重合性不飽和結合を導入し、そして該不飽和結合にカルボキシル基含有ビニルモノマー(M-1)を含むビニルモノマー成分を共重合した(シェル部が形成される)後、該シェル部のカルボキシル基を中和することによって得たものが好ましい。・・・このコア/シェルタイプのエマルジョンは次の工程(I)〜(III)によって得られる。
(I):加水分解性官能基及び/又はシラノール基並びに重合性不飽和結合を有するシラン系モノマー・・・(M-5)、水酸基含有ビニルモノマー(M-2)及びこれ以外のビニルモノマー(M-6)を水媒体中で反応せしめ、三次元に架橋反応してなる微粒子状ポリマーが水中に分散してなるエマルジョンを製造する。この微粒子がコア部を形成する。
(II):上記エマルジョン中の微粒子状ポリマーに、シラン系モノマー(M-5)及び/又はアリル(メタ)アクリレート(M-7)を反応させる。・・・
(III):上記(II)の反応後のエマルジョン中で、カルボキシル基含有モノマー(M-1)を含むビニルモノマー成分(M-8)を共重合し、更に該カルボキシル基を中和する。この中和した共重合体が上記微粒子状ポリマーを分散安定化するための安定化ポリマーであり、シェル部に相当する。(III)では、ビニルモノマー成分(M-8)が上記(II)の反応後の微粒子状ポリマー表面のシラン系モノマー(M-5)及び/又はアリル(メタ)アクリレート(M-7)に由来する重合性不飽和結合と共重合する。」(4頁左上欄14行〜5頁左上欄6行)
(c4)「(C)成分:架橋剤
上記(A)成分及び/又は(B)成分を架橋硬化させるためのもので、塗料用メラミン樹脂やフェノールホルムアルデヒド樹脂が適している。これ等は、水溶性、疎水性のいずれでも差し支えないが、塗装作業性、貯蔵安定性、耐湿性等を向上させるには疎水性のものを用いることが好ましい。例えば、疎水性メラミン樹脂としては、溶剤稀釈率が20以下、好ましくは15以下であり且つその重量平均分子量が800〜4000、好ましくは1000〜3000の範囲を有するものが適している。溶剤稀釈率は、メラミン樹脂の親水性溶剤への溶解性を表わす指標であり、これが低いほど疎水性である。その測定方法は、50ccのビーカーにメラミン樹脂2gを採り、五号活字を印刷した紙上におき、次いで25℃にて水/メタノール混合溶剤(重量比35/65)を滴下し撹拌しながら活字が判読できなくなるまで滴下する。このときの滴下量(cc)をメラミン樹脂の採取量で割った値(cc/g)で表示する。該メラミン樹脂は、上記溶剤稀釈率及び分子量が満足される限りにおいて、特に限定はなく、種々のエーテル化をしたもの例えばメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、オクチルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、ベンジルアルコール等の1種又は2種以上を用いて変性されたものを用いることができる。・・・また、メラミン樹脂中のエーテル基の量は、特に制限はないが、トリアジン環1核当り5モル以下程度、好ましくは1.5〜3モル程度であるのが適当である。また、アミノ基、イミノ基、メチロール基で示される官能基についても、上記溶剤稀釈率及び分子量が満足されれば、残存官能基の種類及び量について特に限定はないが、好ましくは通常イミノ基(アミノ基も含む)及びメチロール基はそれぞれトリアジン1核当り0.2〜2.0モル、更に好ましくは0.5〜1.5モルの範囲である。」(9頁左上欄17行〜右下欄3行)

刊行物4(特開昭63-193968号公報)
(d1)「(A)水分散性のフィルム形成性アクリル系重合体、
(B)水/メタノール混合溶剤(重量比35/65)での溶剤稀釈率が20以下で重量平均分子量が800〜4000である疎水性メラミン樹脂を水溶性樹脂の存在下で水分散した架橋剤、及び
(C)顔料
を含有することを特徴とする水性被覆組成物。」(特許請求の範囲、請求項1)
(d2)「本発明で用いる水分散性のフィルム形成性アクリル系重合体としては、多段重合法によって得られるものが好ましい。即ち、最初にα,β-エチレン性不飽和酸を全く含まないか或いは少量含んだ単量体を重合し、次いでα,β-エチレン性不飽和酸を多量に含んだ単量体を共重合することによって得られる多段重合エマルジョンは、中和剤を用いて中和することによって増粘するので塗装作業性の面から好ましいものである。」(3頁右上欄2〜10行)
(d3)「本発明で用いる架橋剤における水溶性樹脂は、主として前記疎水性メラミン樹脂を水分散化するために用いるものであり、従来から公知のものが用いられ、原則的には疎水性メラミン樹脂を水溶化するのに充分な親水基・・・を導入した樹脂である。水溶性樹脂として、最も一般的なものはカルボキシル基を導入し、中和してアルカリ塩として水溶性としたものである。・・・具体例としては、例えばアクリル樹脂系、アルキド樹脂系、エポキシ樹脂系等のものを挙げることができる。アクリル樹脂系のものは、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸、水酸基、アミド基、メチロール基等の官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸アミド等、及び非官能性(メタ)アクリル酸エステル、スチレン等を共重合して得られるものである。」(4頁右上欄17行〜右下欄11行)
(d4)「製造例1 A成分のアクリル系重合体の製造
・・・下記の単量体混合物(1)1部・・・を加える。次いで、80℃に温度を上昇せしめた後、下記の単量体混合物(1)79部・・・反応容器に加える。添加終了後1時間熟成を行なう。更に、80℃で下記の単量体混合物(2)20.5部・・・反応容器に並列滴下する。添加終了後1時間熟成し、・・・稀釈し、・・・濾過[審決注.「濾」は刊行物4では別の字体が用いられている。以下の製造例2でも同様。]した。・・・平均粒子径0.1μ、不揮発分20%のアクリル樹脂水分散液を得た。
単量体混合物(1)
メタクリル酸メチル 55部
スチレン 10部
アクリル酸n-ブチル 9部
アクリル酸2-ヒドロキシエチル 5部
メタクリル酸 1部
単量体混合物(2)
メタクリル酸メチル 5部
アクリル酸n-ブチル 7部
アクリル酸2-エチルヘキシル 5部
メタクリル酸 3部
30%「Newcol 707SF」0.5部」(6頁右下欄10行〜7頁右上欄6行)
(d5)「製造例2 水溶性樹脂の製造
・・・アクリル酸n-ブチル26部、メタクリル酸メチル47部、スチレン10部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル10部、アクリル酸6部及びアゾイソブチロニトリル[審決注.「アゾビスイソブチロニトリル」の誤記と認める。]1部・・・加える。添加終了後115℃で30分間熟成し、アゾビスイソブチロニトリル1部とブチルセロソルブ115部の混合物を・・・加え、30分間熟成後・・・濾過する。得られた反応生成物の酸価は48、・・・不揮発分55%であった。このものをジメチルアミノエタノールで当量中和し、さらに脱イオン水を加えることによって50%アクリル樹脂水溶液を得た。」(7頁右上欄7行〜左下欄6行)
(d6)「製造例6 比較の親水性メラミン樹脂Dの製造
・・・フラスコに、メラミン126部、80%パラホルマリン165部、n-ブタノール1110部、脱イオン水57部を入れ、72部の水を5時間かけて還流脱水させる。反応終了後、・・・メラミン樹脂Dを得た。この樹脂を分析したところ、不揮発分が70%、溶剤稀釈率が25.0、重量平均分子量が1000〜1400であった。」(8頁左上欄14行〜右上欄7行)

刊行物5(理化学辞典第4版)
(e1)「分子量分布・・・重合度の高い高分子物質は,一般に同じくり返しの構造単位をもち,分子量(重合度)だけが異なる一連の化合物の混合物であるが,各成分の化学的性質は非常に類似しているので,あたかも純物質のようにみえることが多い.このような場合,各成分の存在割合を分子量分布あるいは重合度分布で表わす.分子量分布は超遠心法やゲル浸透クロマトグラフィーなどによって測定される.分子量分布をもつ物質に対して平均分子量が定義されるが,重量平均分子量<Mw>と数平均分子量<Mn>の比<Mw>/<Mn>は分子量分布のひろがりを示し,均一な分子量をもつ場合にはこの比は1になる.ラジカル重合,カチオン重合では分布がかなり広い(<Mw>/<Mn>=2〜3)が,アニオン重合ではせまくなる.」(1155頁左欄36〜52行)

6 対比・判断
(1)本件発明1について
刊行物1には、グラフトポリマーと水不溶性樹脂を水性媒体中に分散してなり、グラフトポリマーが分子量5,000〜100,000、疎水性鎖と親水性鎖とからなり、側鎖の分子量が1,000〜4,000で、グラフトポリマーと水不溶性樹脂との配合割合が、水不溶性樹脂20重量部に対して、グラフトポリマー13〜980重量部(グラフトポリマー/水不溶性樹脂が98/2〜40/60の比率である(摘示a5)ことから計算。)である水性塗料組成物に係る発明が記載され(摘示a1、請求項2。以下、「引用発明1」という。)、その水性塗料組成物に、さらにアミノ樹脂を含有させた水性塗料組成物に係る発明(摘示a1、請求項3。以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

A 引用発明1に基づく新規性及び容易想到性について
本件発明1と引用発明1を比較すると、後者の「グラフトポリマー」及び「水性塗料組成物」は、前者の「グラフト樹脂」及び「水性分散体」又は「水性樹脂分散体」に相当し、後者の「水不溶性樹脂」は、前者の「疎水性樹脂」に相当するもので、後者はグラフトポリマーの主鎖又は側鎖の一方が疎水性で他方が親水性であるから(摘示a1)、疎水性主鎖と親水性側鎖の場合を含み、後者の「分子量5,000〜100,000」は、発明の詳細な説明の記載によると、数平均分子量によるものと解され(摘示a4)、均一な分子量分布をもつ場合、重量平均分子量は数平均分子量の2〜3倍程度であるから(摘示e1)、それで換算すると、重量平均分子量10,000〜300,000に相当し、製造例1によると、その酸価は30である(摘示a7)から、両者は、「グラフト樹脂(A)と疎水性樹脂(B)を水性媒体中に分散してなる水性分散体であって、該グラフト樹脂(A)は重量平均分子量10,000〜100,000、酸価30であり、疎水性主鎖と親水性側鎖とからなり、グラフト樹脂(A)と疎水性樹脂(B)の配合割合が、疎水性樹脂(B)の固形分20重量部に対して、グラフト樹脂(A)が13〜40重量部であることを特徴とする水性樹脂分散体」に係るものであるという点で共通する(グラフト樹脂(A)自体に相違点はない。)。
しかし、疎水性樹脂について、本件発明1は、水/メタノール混合溶剤(重量比35/65)での溶剤希釈率が20以下の疎水性メラミン樹脂であるのに対し、引用発明1は、単に「水不溶性樹脂」としている点で、まず相違する。
この相違点について検討する。刊行物1には、水不溶性樹脂として、2種類の水不溶性樹脂を混合して用いてもよいという記載はあり、溶解度パラメーター、酸価、平均分子量等の性質について記載はあるが(摘示a5)、具体的にどのような種類(化学構造)のものかについて記載はなく、製造例として例示されているのは1種類のアクリル樹脂のみで(製造例4、摘示a10)、他の具体的な樹脂を全く示しておらず、アクリル樹脂はメラミン樹脂や疎水性メラミン樹脂とは互いに化学構造を異にするグループに属するものであるから、製造例として示されている特定のアクリル樹脂が疎水性メラミン樹脂を想起させるものでなく、さらに、水不溶性樹脂には広範なものが含まれることを考慮すると、「水不溶性樹脂」という表現が疎水性メラミン樹脂を想起させるものでもない。
また、刊行物1では、疎水性メラミン樹脂であるアルコキシ化メラミンホルムアルデヒド樹脂をその例として挙げるアミノ樹脂が水不溶性樹脂とは別の成分として区別されており、水不溶性樹脂の溶剤希釈率についても言及がないことを考慮すると、引用発明1における「水不溶性樹脂」という表現が、前記相違点に係る本件発明1の構成、すなわち、特定の疎水性メラミン樹脂を含んでいるものとすることはできないし、それを示唆しているとすることもできない。
また、刊行物5には、分子量分布について記載されているのみで、疎水性樹脂やメラミン樹脂、その溶剤希釈率について記載はないから、刊行物5の記載を考慮しても、刊行物1の記載が、前記相違点に係る本件発明1の構成を示しているか又は示唆しているとすることはできないので、刊行物5を考慮しても、特定の疎水性メラミン樹脂を含有しているという構成を有する本件発明1が、引用発明1であるとすることはできないし、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。
刊行物2には、グラフトポリマーと硬化剤を含む水性樹脂分散体(摘示b1、請求項1)、グラフトポリマー、硬化剤と水不溶性樹脂を含む水性樹脂分散体(摘示b1、請求項2)、及び、それらにさらにアミノ樹脂を含有する熱硬化性水性塗料組成物に係る発明が記載され(摘示b1、請求項4)、グラフトポリマーに関する記載は、刊行物1と同様であり(摘示a1、a4、b1、b3)、硬化剤は、樹脂分散体中に存在する樹脂成分のグラフトポリマー、水不溶性樹脂、水性樹脂の少なくとも一部分と反応性のものであることとされていて、メラミン樹脂が例示され(摘示b4)、アミノ樹脂の例としてもアルコキシ化メラミンホルムアルデヒド樹脂が例示されている(摘示b7)が、硬化剤として使用するメラミン樹脂がどのような性質のものか(例えば、疎水性のものかどうか、溶剤希釈率がどのような範囲のものか等)について記載はなく、水不溶性樹脂として疎水性メラミン樹脂が使用できるかどうかについてや、アミノ樹脂として列挙されているアルコキシ化メラミンアルデヒド等のメラミン樹脂の溶剤希釈率について、いずれも記載はないから、刊行物2の記載に基づいて、引用発明1の水不溶性樹脂として、本件発明1の特定の疎水性メラミン樹脂を選択することができるものとは認められない。
刊行物3には、(A)水性塗料用樹脂、(B)ウレタン樹脂系エマルジョン及び(C)架橋剤を主成分とする水性塗料の発明が記載され(摘示c1)、水性塗料用樹脂として、アクリル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、フッ素含有樹脂等が挙げられ(摘示c2)、アクリル樹脂として、水中に分散しているアクリル樹脂微粒子が安定剤ポリマーによって安定化されている水分散体であり、これは、該粒子をコア部、安定剤ポリマーをシェル部であるコア/シェルタイプのエマルジョンである「水分散性アクリル樹脂-2」と、重合体粒子(コア部)が架橋しており、これを安定化させるポリマー(シェル部)があり、該コア部とシェル部とが化学的に結合してなるコア/シェルタイプのエマルジョンである「水分散性アクリル樹脂-3」が挙げられ(摘示c3)、水性塗料用樹脂及び/又はウレタン樹脂系エマルジョンを架橋硬化させるための架橋剤として、水/メタノール混合溶剤(重量比35/65)での溶剤希釈率が20以下の疎水性メラミン樹脂が挙げられている(摘示c4)が、「水分散性アクリル樹脂-2」又は「水分散性アクリル樹脂-3」が、引用発明1のように疎水性主鎖と親水性側鎖(あるいは親水性主鎖と疎水性側鎖)からなるグラフト樹脂であるかについては、その製造方法に関する記載をみても明らかではなく、また、引用発明1では、疎水性主鎖と親水性側鎖(あるいは親水性主鎖と疎水性側鎖)からなるグラフト樹脂が水不溶性樹脂を含む水性分散体の分散性を向上させるものであるのに対し、刊行物3の水分散性アクリル樹脂はその化学構造の一部であるシェル部がコア部の粒子の分散性に対する安定剤の役割を果たすもので、架橋剤(疎水性メラミン樹脂)の分散安定性を目的とするものではないから、引用発明1のグラフトポリマーと水不溶性樹脂との関係と刊行物3の水性塗料用樹脂と疎水性メラミン樹脂の関係は異なるものであり、引用発明1の水不溶性樹脂として刊行物3の架橋剤である疎水性メラミン樹脂を採用することは、刊行物1及び刊行物3の記載から容易になしえるものではない。
刊行物4には、(A)水分散性のフィルム形成性アクリル系重合体、(B)水/メタノール混合溶剤(重量比35/65)での溶剤稀釈率が20以下で重量平均分子量が800〜4000である疎水性メラミン樹脂を水溶性樹脂の存在下で水分散した架橋剤、及び(C)顔料を含有する水性被覆組成物の発明が記載され(摘示d1)、本件発明1と同様の疎水性メラミン樹脂が水性樹脂分散体の成分とされているが、疎水性メラミン樹脂は水溶性樹脂の存在下に分散しているものであり、分散体の他の成分であるフィルム形成性アクリル系重合体は、その製造方法に関する記載(摘示d2)からみて、引用発明1のようなグラフトポリマーであるとは認められないので、引用発明1の水不溶性樹脂に代えて刊行物4の疎水性メラミン樹脂を採用することは、刊行物1及び刊行物4の記載から容易になしえるものではない。
また、刊行物2〜5の記載は前記のとおりであるから、それらを併せてみても、引用発明1の水不溶性樹脂に代えて疎水性メラミン樹脂を採用することは容易になしえるものではない。

B 引用発明2に基づく新規性及び容易想到性について
引用発明2は、引用発明1の水性塗料組成物にさらにアミノ樹脂を含有させた水性塗料組成物に係る発明であるから、グラフト樹脂(A)と疎水性樹脂(B)とアミノ樹脂を水性媒体中で分散してなる水性分散体に係る発明であって、樹脂成分として、グラフト樹脂(A)以外に、疎水性樹脂(B)とアミノ樹脂を含むものである。
本件発明1と引用発明2を比較すると、水性分散体が含有するグラフト樹脂以外の樹脂成分について、前者は疎水性樹脂(B)であるのに対し、後者は疎水性樹脂(B)とアミノ樹脂である点で相違し、さらに、後者における疎水性樹脂(B)は、「水/メタノール混合溶剤(重量比35/65)での溶剤希釈率が20以下の疎水性メラミン樹脂」とされてはおらず、アミノ樹脂はメラミン樹脂を含むものであると解することができるものの、刊行物1には、その具体例として、実施例1等で「サイメル303(三井東圧(株)製、メラミン樹脂)」が示されているが、その溶剤希釈率について全く記載はなく、その値はメチロール化の程度により変化するもので、疎水性(あるいは親水性)の程度を規定するものであることを考慮すると、刊行物1のメラミン樹脂あるいはアミノ樹脂が、「水/メタノール混合溶剤(重量比35/65)での溶剤希釈率が20以下の疎水性のメラミン樹脂」を意味するものであるということはできないし、それを示唆しているとできる記載もない。
してみると、引用発明2も本件発明1であるとすることはできないし、引用発明2に基づいて容易に発明をすることができたものとすることもできない。
刊行物2には、前記のとおり、メラミン樹脂の具体的な性質について記載はないから、その記載によって本件発明の特定の疎水性メラミン樹脂に想到するものではないし、引用発明2の疎水性樹脂(水不溶性樹脂)とアミノ樹脂に代えて特定の疎水性メラミン樹脂を想到するものでもない。
また、刊行物3には、本件発明1と同様の疎水性メラミン樹脂が水性樹脂分散体の成分とされているが、疎水性メラミン樹脂と分散している他の樹脂との関係は前記のとおりであり、その記載から、引用発明2の疎水性樹脂(水不溶性樹脂)及びアミノ樹脂の代わりに本件発明の特定の疎水性メラミン樹脂に想到するものではない。
刊行物4にも、本件発明1と同様の疎水性メラミン樹脂が水性樹脂分散体の成分とされているが、樹脂分散体の他の成分が引用発明2のグラフトポリマーと異なるものであることは前示したとおりであり、それを引用発明2と組み合わせる契機となるものはないので、その記載から、引用発明2のアミノ樹脂あるいはアミノ樹脂と疎水性樹脂(水不溶性樹脂)に代えて特定の疎水性メラミン樹脂を想到するものでもない。

C 以上のとおり、本件発明1は、刊行物1に記載された発明であるとすることはできず、そして、本件発明1は、従来の疎水性メラミン樹脂の水性分散体が有する貯蔵安定性や熱的安定性や機械的安定性に係る欠点を改良し、かつ分散安定剤としてのグラフト樹脂の使用量を少なくする目的でなされたものであり、特定の疎水性メラミン樹脂と特定のグラフト樹脂を水性媒体中に分散するという構成を採用することにより、本件明細書の実施例及び比較例を用いて示されたとおり、得られる水性樹脂分散体の貯蔵安定性、熱的安定性、機械的安定性を改良し、分散安定剤の使用量を低減するという効果を奏したものであるところ、刊行物1〜5の記載は前記のとおりであるから、それらを併せてみても、そのような本件発明の効果を予測させる記載はないので、本件発明1が、刊行物1〜5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできない。

(2)本件発明2〜3について
本件発明2〜3は、本件発明1に係る水性樹脂分散体をさらに限定したものであるから、本件発明1の場合と同様の理由により、刊行物1に記載された発明であるとすることはできないし、また、刊行物1〜5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

7 特許異議の申立てについての判断
異議申立人は、訂正前の本件請求項1〜4に係る発明は、(あ)甲第1号証に記載された発明である、(い)甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである、(う)甲第1号証と甲第3号証又は引例2(注.取消理由における刊行物4)に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであると主張して、証拠方法として、前記した刊行物以外に甲第5、6号証を提示しているが、(あ)(い)については、前記6で示したとおり、本件発明が甲第1号証に記載された発明であるとすることはできず、また、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとすることもできないし、(う)についても、甲第5、6号証はいずれも平均分子量について記述するのみであるから、それらの記載を考慮しても、前記6で示したのと同様の理由で、本件発明は、甲第1号証と甲第3号証又は引例2(刊行物4)に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

8 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由によっては、本件発明1〜3についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜3についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明1〜3についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
水性樹脂分散体
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】グラフト樹脂(A)と水/メタノール混合溶剤(重量比35/65)での溶剤希釈率が20以下の疎水性メラミン樹脂(B)とを水性媒体中で分散してなる水性分散体であって、該グラフト樹脂(A)は重量平均分子量10,000〜100,000、酸価5〜80であり、疎水性主鎖と親水性側鎖とからなり、そして該親水性側鎖は重量平均分子量が5,000〜50,000で、酸価が20より大きいこと、且つグラフト樹脂(A)と疎水性メラミン樹脂(B)との配合割合が、疎水性メラミン樹脂(B)の固形分20重量部に対して、グラフト樹脂(A)が4〜40重量部であることを特徴とする水性樹脂分散体。
【請求項2】グラフト樹脂(A)の該主鎖と該側鎖との比率が、該両成分の合計重量に基づいて、主鎖/側鎖=70/30〜30/70(重量比)である請求項1に記載の水性樹脂分散体。
【請求項3】疎水性メラミン樹脂(B)の重量平均分子量が、400〜5,000である請求項1に記載の水性樹脂分散体。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、水性塗料の架橋剤として有用な、貯蔵安定性、熱的安定性、機械的安定性等の優れた疎水性メラミン樹脂の水性分散体に関する。
【0002】
【従来の技術及びその課題】疎水性メラミン樹脂を分散安定剤としての水溶性樹脂の存在下で水中に分散せしめてなる水性分散体は、すでに公知である。そして、この水性分散体を調製するための該水溶性樹脂としては、例えば、カルボキシル基、アミノ基等の親水性基を有せしめたアクリル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂等が使用されているが、これらの樹脂はいずれも直鎖状の構造のものが多い。
【0003】しかしながら、かかる水性分散体には、室温及び加温下で貯蔵中又は機械的負荷を加えたりすると粘度低下が著しく、そのために、これを塗料に使用するとタレやワキ等が発生しやすいという欠点がある。また、疎水性メラミン樹脂を水分散するのに必要な水溶性樹脂量が多いため高粘度化するという欠点があり、そのため、これを用いた塗料を噴霧塗装するときにその微粒化が十分でない傾向にあるので好ましくなかった。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明の目的は、従来の疎水性メラミン樹脂の水性分散体の諸欠点が解消された新規な水性樹脂分散体を提供することにある。
【0005】本発明の他の目的は、貯蔵安定性、熱安定性、機械的安定性等の優れた新規な水性樹脂分散体を提供することにある。
【0006】本発明のこれら及び更に他の目的は、以下の記載から明らかになるであろう。
【0007】本発明は、グラフト樹脂(A)と水/メタノール混合溶剤(重量比35/65)での溶剤希釈率が20以下の疎水性メラミン樹脂(B)とを水性媒体中で分散してなる水性分散体であって、該グラフト樹脂(A)は重量平均分子量10,000〜100,000、酸価5〜80であり、疎水性主鎖と親水性側鎖とからなり、そして該親水性側鎖は重量平均分子量が5,000〜50,000で、酸価が20より大きいこと、且つグラフト樹脂(A)と疎水性メラミン樹脂(B)との配合割合が、疎水性メラミン樹脂(B)の固形分20重量部に対して、グラフト樹脂(A)が4〜40重量部であることを特徴とする水性樹脂分散体を提供するものである。
【0008】本発明者は、従来の疎水性メラミン樹脂の水性分散体の諸欠点を解消すべく鋭意研究した。その結果、疎水性メラミン樹脂の分散安定剤として上記特定のグラフト樹脂を用いることにより、得られる水性樹脂分散体の貯蔵安定性、熱的安定性、機械的安定性等が顕著に改良されること、分散安定剤としての該グラフト樹脂の使用量を低減できること等を見出した。
【0009】本発明は、かかる新たな知見に基づいて、完成されたものである。
【0010】以下に、本発明で使用するグラフト樹脂(A)及び疎水性メラミン樹脂(B)について説明する。
【0011】グラフト樹脂(A)は、疎水性メラミン樹脂(B)を水中に均一に分散せしめるためのものであって、重量平均分子量が10,000〜100,000、酸価5〜80であり、疎水性主鎖と親水性側鎖とからなり、そして該親水性側鎖は重量平均分子量が5,000〜50,000で、酸価が20より大きいものである。
【0012】グラフト樹脂(A)の主鎖及び側鎖を構成する樹脂骨格は、特に制限されず、例えばアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂等から選ばれた1種又は2種以上が使用できる。主鎖及び側鎖部分の樹脂骨格は同一でも異なっていてもよい。
【0013】本発明では、主鎖及び側鎖部分がアクリル樹脂からなるグラフト樹脂(A)を使用することが好ましく、主としてこれについて説明する。
【0014】まず、主鎖を構成するアクリル樹脂は疎水性部分に相当する。該主鎖は、必要に応じてカルボキシル基含有アクリル系モノマーを含むアクリル系モノマーを重合せしめることによって得られる。
【0015】カルボキシル基含有アクリル系モノマー以外のアクリル系モノマーとしては、分子中に1個の重合性不飽和二重結合を有しかつカルボキシル基を有さない化合物であればよく、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等のアクリル酸又はメタクリル酸と炭素数1〜20個の1価アルコールとのモノエステル化物;例えば、(メタ)アクリル酸メトキシブチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシブチル、(メタ)アクリル酸エトキシプロピル等のアクリル酸又はメタクリル酸の炭素数2〜18個のアルコキシアルキルエステル;例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル等のアクリル酸又はメタクリル酸の炭素数2〜8個のヒドロキシアルキルエステル等の水酸基含有アクリル系モノマー;例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル等のグリシジル基含有アクリル系モノマー;例えば、(メタ)アクリル酸アミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のチッ素含有アクリルモノマー等があげられ、これらは単独で又は2種以上併用して用いることができる。
【0016】必要に応じて用いられるカルボキシル基含有アクリル系モノマーは、1分子中に1個以上のカルボキシル基と1個の重合性不飽和二重結合とを有する化合物であって、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等があげられる。該カルボキシル基含有アクリル系モノマーは、主鎖部分の酸価が側鎖部分の酸価より大きくならない範囲内で併用できる。
【0017】また、これらのアクリル系モノマーに、さらにスチレン及びその誘導体、(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、塩化ビニル、エチルビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルトルエン等のその他のビニルモノマーも併用することができる。
【0018】グラフト樹脂(A)の側鎖は、主としてアクリル樹脂で構成され、その重量平均分子量が5,000〜50,000、特に好ましくは15,000〜30,000で、酸価が20より大きく、特に好ましくは30〜110の範囲を有する親水性部分である。
【0019】該側鎖を構成するアクリル樹脂は、カルボキシル基含有アクリル系モノマーとそれ以外のアクリル系モノマーとを共重合せしめることによって得られ、これらのモノマーは上記主鎖の説明で例示したものが使用できる。
【0020】該側鎖の重量平均分子量が5,000〜50,000よりはずれたり、酸価が20より小さくなると、得られる水性樹脂分散体の安定性が低下し、貯蔵中に相分離を起こすことがある。
【0021】主鎖及び側鎖部分にアクリル樹脂を使用してなるグラフト樹脂(A)において、この両部分は化学的に結合しており、その結合方法は特に制限されず、以下に例示する方法があげられる。
【0022】(1)主鎖に含有せしめたカルボキシル基の一部にグリシジル基含有アクリル系モノマーを付加して重合性二重結合を導入し、該重合性二重結合に側鎖部分を形成するモノマー成分を共重合せしめる。
【0023】(2)側鎖に含有せしめたカルボキシル基の一部にグリシジル基含有アクリル系モノマーを付加して重合性二重結合を導入し、該重合性二重結合に主鎖部分を形成するモノマー成分を共重合せしめる。
【0024】(3)主鎖に含有せしめた水酸基の一部又は全部に、ジイソシアネート化合物が有する2個のイソシアネート基のうち1個を付加し、次いで残存しているイソシアネート基に水酸基含有アクリル系モノマーを反応させて重合性二重結合を導入し、その後、該重合性二重結合に側鎖部分を形成するモノマー成分を共重合せしめる。
【0025】(4)側鎖に含有せしめた水酸基の一部又は全部にジイソシアネート化合物をほぼ等モル比で付加し、ついで残存しているイソシアネート基に水酸基含有アクリル系モノマーを反応させて重合性二重結合を導入し、該重合性二重結合に主鎖部分を形成するモノマー成分を共重合せしめる。
【0026】上記(3)及び(4)の方法で用いるジイソシアネート化合物は、1分子中に2個のイソシアネート基を有する化合物であって、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の環状脂肪族ジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート等があげられる。
【0027】グラフト樹脂(A)において、該主鎖と該側鎖との比率は、該両成分の合計重量に基づいて、主鎖/側鎖=70/30〜30/70、特に60/40〜40/60(重量比)が好ましい。
【0028】両成分の比率が、この範囲からばずれると得られる水性樹脂分散体が貯蔵中に相分離を起こすことがあるので好ましくない。そして、該主鎖と該側鎖とからなるグラフト樹脂(A)の重量平均分子量は10,000〜100,000、特に20,000〜80,000の範囲が好ましく、10,000より小さくなると得られる水性分散体を用いた塗料での塗膜性能が低下し、一方100,000より大きくなると得られる水性分散体を用いた塗料の塗膜の外観不良となるので好ましくない。
【0029】また、グラフト樹脂(A)の酸価は、5〜80、好ましくは25〜60である。酸価が5より小さくなると水性分散体の安定性が低下して相分離しやすくなり、一方酸価が80より大きくなると水性分散体を用いた塗膜の耐水性、メタリック感、平滑性等が低下するので、いずれも好ましくない。
【0030】本発明において、グラフト樹脂(A)は、疎水性メラミン樹脂(B)と混合するにあたり、あらかじめ中和剤で中和しておくことが好ましい。かかる中和剤としては、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジブチルアミン、トリプロピルアミン等のアルキルアミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノ(2-ヒドロキシプロピル)アミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール等のアルカノールアミン;エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のアルキレンポリアミン;エチレンイミン、プロピレンイミン等のアルキレンイミン;ピペラジン、モルホリン、ピリジン等のその他のアミン;等があげられる。これらのうちアルカノールアミンが特に好ましい。
【0031】本発明で用いる疎水性メラミン樹脂(B)は、重量平均分子量が400〜5,000、好ましくは700〜3,000の範囲であることが適当で、しかも水/メタノール混合溶剤(重量比35/65)での溶剤希釈率が20以下、特に1〜18であることが好ましい。
【0032】該メラミン樹脂(B)は、上記分子量及び溶剤希釈率が満足される限りにおいて、特に限定はなく、種々のエーテル化をしたもの、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、オクチルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、ベンジルアルコール等の1価アルコールから選ばれた1種又は2種以上でエーテル化したものがあげられる。
【0033】エーテル化は、C4以上、好ましくはC4〜C7の1価アルコールで行ったものが好適である。また、該メラミン樹脂(B)中のエーテル基の量は、特に制限はないが、トリアジン環1核当り5モル以下程度、好ましくは1.5〜3モル程度であるのが適当である。また、アミノ基、イミノ基、メチロール基等についても、上記溶剤希釈率及び分子量が満足されれば適宜存在してもよく、通常イミノ基、アミノ基及びメチロール基の量は夫々トリアジン1核当り0.2〜2.0モル、更に好ましくは0.5〜1.5モルの範囲が好適である。
【0034】疎水性メラミン樹脂(B)の溶剤希釈率は、該メラミン樹脂(B)の親水性溶剤への溶解性を表わす指標であり、これが低いほど疎水性である。その測定方法は、50ccのビーカーにメラミン樹脂(B)2gを採り、五号活字を印刷した紙上に置き、次いで25℃にて水/メタノール混合溶剤(重量比35/65)を滴下し撹拌しながら活字が判読できなくなるまで滴下する。このときの滴下量(cc)をメラミン樹脂の採取量で割った値(cc/g)で表示する。
【0035】疎水性メラミン樹脂(B)の重量平均分子量が400より小さくなると、この疎水性メラミン樹脂の水性分散体を塗料系に用いたとき塗膜性能(耐水性等)が劣る傾向にあり、一方5,000より大きくなると、この疎水性メラミン樹脂の水性分散体を塗料系に用いたときの塗膜の外観不良がおこる傾向にあるので、好ましくない。また、溶剤希釈率が20より大きくなるとこのメラミン樹脂の水性分散体を塗料系に用いたときの塗膜性能が低下し、また高湿度での塗装作業性において、タレ等が生じる傾向にあるので好ましくない。
【0036】本発明の水性樹脂分散体は、前記のグラフト樹脂(A)と疎水性メラミン樹脂(B)とを水分散化することにより調製することができる。即ち、まず前記の両成分を、ディスパー、ホモミキサー、ボールミル、サンドミル等で混合均一化する。この時必要に応じて、着色顔料、メタリック顔料、体質顔料等を配合しても良い。また、少量のアルコール系溶剤、エーテル系溶剤等の親水性溶剤を加えるこもできる。次に、強く撹拌しながら、グラフト樹脂(A)と疎水性メラミン樹脂(B)との合計量に対し0.5〜5重量倍程度の脱イオン水を徐々に加えることにより、乳白色又は着色された水性樹脂分散体が得られる。顔料を含まない場合の水性樹脂分散体の平均粒子径は、0.05〜0.5μm程度の範囲である。脱イオン水を加える際の撹拌の程度は、用いる撹拌機や仕込み量等により適宜調整すればよいが、例えば1,000〜1,500rpm程度のディスパーの場合15〜60分程度撹拌すれば良い。
【0037】水性樹脂分散体に配合できる顔料としては、通常塗料の分野で用いられるメタリック顔料、着色顔料を使用する。より具体的には、メタリック顔料としては、例えばアルミニウムフレーク、銅ブロンズフレーク等を挙げることができ、又着色顔料としては、例えば二酸化チタン、酸化鉄、酸化クロム、クロム酸鉛、カーボンブラック等の如き無機顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、カルバゾールバイオレット、アントラピリミジン イエロー、フラバンスロン イエロー、イソインドリン イエロー、インダンスロン ブルー、キナクリドン バイオレット等の如き有機顔料を挙げることができる。
【0038】グラフト樹脂(A)と疎水性メラミン樹脂(B)との配合割合は、疎水性メラミン樹脂(B)の固形分20重量部に対して、グラフト樹脂(A)を約4〜40重量部、特に好ましくは8〜32重量部の範囲とするのが適当である。グラフト樹脂(A)が4重量部より少ないと疎水性メラミン樹脂(B)の水分散体中での平均粒径が大きくなり、かつ貯蔵安定性が低下する傾向にある。また、グラフト樹脂(A)が40重量部より多くなると疎水性メラミン樹脂(B)の平均粒径は殆ど変わらないが貯蔵安定性が低下する傾向にある。
【0039】本発明の水性樹脂分散体は、上記グラフト樹脂(A)と疎水性メラミン樹脂(B)を水性媒体中で撹拌混合分散してなる組成物であって、その形態は、疎水性メラミン樹脂(B)の粒子の表面にグラフト樹脂(A)の主鎖(疎水性部分)が吸着し、該グラフト樹脂(A)の側鎖(親水性部分)は水相側に位置しているものと思われる。つまり、メラミン樹脂(B)の粒子がグラフト樹脂(A)によって保護された状態にあり、樹脂(A)の親水性部分によって水中に安定に分散している。
【0040】
【発明の効果】本発明によれば、疎水性メラミン樹脂(B)を水分散させるのに、分散安定剤としての従来の水溶性樹脂に代えて、グラフト樹脂(A)を使用することによって、得られる水性分散体の貯蔵安定性、機械的安定性及び熱的安定性が顕著に向上した。また、本発明分散体によれば、樹脂(B)を水分散するのに要するグラフト樹脂(A)の使用量が少なくてすむので、分散体の低粘度化が可能となり、これを用いた塗料の噴霧塗装時の微粒化が容易である。
【0041】
【実施例】以下に製造例、実施例及び比較例を挙げる。各例における部及び%は重量に基づく。
【0042】製造例1 グラフト樹脂(A-1)の製造
反応容器にエチレングリコールモノブチルエーテル60部を加え、窒素気流中で120℃に加温する。120℃に達したらメタクリル酸メチル25部、アクリル酸n-ブチル48部、アクリル酸2-ヒドロキシエチル15部、アクリル酸12部、及びアゾビスイソブチロニトリル2.5部の混合物を3時間かけて加える。添加終了後120℃、30分間熟成し、アゾビスジメチルバレロニトリル0.5部とエチレングリコールモノブチルエーテル10部の混合物を1時間を要して加え、その後1時間熟成する。
【0043】ついで、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.02部とメタクリル酸グリシジル4部を加え、樹脂酸価が15下がるまで反応を続ける。終点を確認してエチレングリコールモノブチルエーテル34部で希釈後40℃まで冷却して200メッシュのナイロンクロスでろ過する。
【0044】得られた反応生成物A(側鎖・親水性部分、重量平均分子量23,000)の酸価は75、粘度はU(ガードナー泡粘度計/25℃)、不揮発分50%であった。
【0045】反応容器にエチレングリコールモノブチルエーテル50部を加え、窒素気流中で120℃に加温する。120℃に達したらスチレン15部、メタクリル酸メチル20部、アクリル酸n-ブチル30部、メタクリル酸2-エチルヘキシル20部、アクリル酸2-ヒドロキシエチル13部、アクリル酸2部(これらのモノマーの重合体は主鎖を構成する)と上記反応生成物A208部及びアゾビスイソブチロニトリル2部の混合物を3時間かけて加える。添加終了後120℃、30分間熟成し、アゾビスジメチルバレロニトリル0.5部とエチレングリコールモノブチルエーテル10部の混合物を1時間に渡って加え、30分間熟成する。その後70℃まで冷却し、ジメチルアミノエタノール14.8部を入れて当量中和する。続いてエチレングリコールモノブチルエーテル23部で希釈し、50℃で200メッシュのナイロンクロスでろ過して、当量中和されたグラフト樹脂(A-1)エマルジョンを得た。該エマルジョンの粘度は、Z4(ガードナー泡粘度計/25℃)で、不揮発分は50%であった。このグラフト樹脂の重量平均分子量は44,000、酸価は45であった。また、主鎖と側鎖の重量比は50/50であった。
【0046】製造例2 グラフト樹脂(A-2)〜(A-4)の製造
表1に示したモノマー成分を使用し、前記製造例1と同様に側鎖部分を製造し、次いでこのものに表2に示したモノマー成分を重合せしめてグラフト樹脂(A-2)〜(A-4)を得た。
【0047】グラフト樹脂(A-1)〜(A-4)の重量平均分子量、その酸価、側鎖の重量平均分子量、側鎖の酸価及び主鎖と側鎖との重量比率を表3に示した。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】製造例3 水溶性アクリル樹脂(A-5)の製造
反応容器にエチレングリコールモノブチルエーテル60部及びイソブチルアルコール15部を加えて窒素気流中で115℃に加温する。115℃に達したらアクリル酸n-ブチル26部、メタクリル酸メチル47部、スチレン10部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル10部、アクリル酸6部及びアゾビスイソブチロニトリル1部の混合物を3時間かけて加える。添加終了後115℃で30分間熟成し、アゾビスイソブチロニトリル1部とエチレングリコールモノブチルエーテル115部の混合物を1時間に渡って加え、30分間熟成後50℃で200メッシュのナイロンクロスでろ過する。
【0052】得られた反応生成物の酸価は48、粘度はZ4(ガードナー泡粘度計)、不揮発分55%であった。このものをジメチルアミノエタノールで当量中和し、さらに脱イオン水を加えることによって不揮発分50%アクリル樹脂水溶液(A-5)を得た。
【0053】製造例4 疎水性メラミン樹脂(B-1)の製造
温度計、撹拌器及び還流冷却器を備えた2リットルの4つ口フラスコに、メラミン126部、80%パラホルマリン225部、n-ブタノール592部を入れ、10%苛性ソーダ水溶液にてpH9.5〜10.0に調整した後、80℃で1時間反応させる(メラミン樹脂b-1)。
【0054】その後n-ブタノールを888部加え、5%硫酸水溶液にてpH5.5〜6.0に調整し、80℃で3時間反応させる。反応終了後、20%苛性ソーダ水溶液でpH7.0〜7.5まで中和し、60〜70℃でn-ブタノールの減圧濃縮を行い、ろ過して、メラミン樹脂(B-1)を得た。
【0055】この樹脂を分析したところ、不揮発分が80%、水/メタノール混合溶剤(重量比35/65)での溶剤希釈率(以下、単に溶剤希釈率という)が3.6、重量平均分子量が800であった。
【0056】製造例5 疎水性メラミン樹脂(B-2)の製造
温度計、撹拌器及び還流冷却器を備えた2リットルの4つ口フラスコに、製造例4のメラミン樹脂(b-1)500部、メタノール320部を入れ、反応系内の酸価を蟻酸にて1.0に調整する。その後、65℃にて6時間反応させて、反応終了後1%苛性ソーダ水溶液で蟻酸を中和し、40〜60℃でメタノールの減圧濃縮を行ない、ろ過して、メラミン樹脂(B-2)を得た。
【0057】この樹脂を分析したところ、メチル・ブチル混合エーテル化メラミン樹脂であり、その不揮発分は70%、溶剤希釈率は17.3、重量平均分子量は1,400〜1,800であった。
【0058】実施例1
製造例4で得た疎水性メラミン樹脂(B-1)を固形分が20部になるように撹拌容器内に採り、製造例1で得たグラフト樹脂(A-1)を固形分として5部加え、回転数1,000〜1,500rpmのディスパーで撹拌しながら脱イオン水70部を徐々に加えた後、更に30分間撹拌を続けて水分散化された平均粒径が0.13μmで粘度200mPa・s(E型粘度計100rpm)の本発明水性樹脂分散体(i)を得た。
【0059】平均粒径は、コールターモデルN4SD(COULTER ELECTRONIC,INC)を用いて測定した。
【0060】実施例2
製造例5で得た疎水性メラミン樹脂(B-2)を固形分が20部になるように撹拌容器内に採り、製造例1で得たグラフト樹脂(A-1)を固形分として5部加え、実施例1と同様の方法で水分散化された平均粒径が0.15μmで粘度238mPa・sの本発明水性樹脂分散体(ii)を得た。
【0061】実施例3
製造例5で得た疎水性メラミン樹脂(B-2)を固形分20部になるように撹拌容器内に採り、製造例2で得たグラフト樹脂(A-2)を固形分として5部加え、実施例1と同様の方法で水分散化された平均粒径が0.16μmで粘度が240mPa・sの本発明水性樹脂分散体(iii)を得た。
【0062】実施例4
製造例5で得た疎水性メラミン樹脂(B-2)を固形分20部になるように撹拌容器内に採り、製造例2で得たグラフト樹脂(A-3)を固形分として5部加え、実施例1と同様の方法で水分散化された平均粒径が0.15μmで粘度が230mpa・sの本発明水性樹脂分散体(iv)を得た。
【0063】比較例1
製造例5で得た疎水性メラミン樹脂(B-2)を固形分20部になるように撹拌容器内に採り、製造例2で得た比較用のグラフト樹脂(A-4)を固形分として5部加え、実施例1と同様の方法で水分散化された平均粒径が0.17μmで粘度が240mPa・sの比較水性樹脂分散体(v)を得た。
【0064】比較例2
製造例5で得た疎水性メラミン樹脂(B-2)を固形分20部になるように撹拌容器内に採り、製造例3で得た比較用の水溶性アクリル樹脂(A-5)を固形分として8部加え、実施例1と同様の方法で水分散化された平均粒径が0.15μmで粘度が438mPa・sの比較水性樹脂分散体(vi)を得た。
【0065】性能試験
上記実施例及び比較例で得た各々の水性樹脂分散体の貯蔵安定性、熱的安定性及び機械的安定性を下記試験方法により調べた。
【0066】貯蔵安定性
水性樹脂分散体を20℃で30日間放置したときの粘度変化と外観を調べた。粘度変化は、作成直後の粘度から試験終了後の粘度を差引いたものである(E型粘度計100rpm、25℃)。
【0067】熱的安定性
水性樹脂分散体を40℃で10日間放置したときの粘度変化と外観を調べた。粘度変化は、上記と同様にして調べた。
【0068】機械的安定性
水性樹脂分散体をサーキュレーション試験(500ターンオーバー)したときの粘度変化と外観を調べた。粘度変化は、上記と同様にして調べた。
【0069】また、サーキュレーション試験条件は、試料量:2リットル、流量:2リットル/分、装置:グラコ社(GRACO、Inc.、米国)製のプランジャーポンプを用い、配管1/4インチ×5m、送り圧30kg/cm2、背圧5kg/cm2とした。試験結果を表4に示す。
【0070】
【表4】

 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-02-16 
出願番号 特願平6-106866
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C09D)
P 1 651・ 113- YA (C09D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤原 浩子  
特許庁審判長 脇村 善一
特許庁審判官 関 美祝
井上 彌一
登録日 2003-01-10 
登録番号 特許第3385391号(P3385391)
権利者 関西ペイント株式会社
発明の名称 水性樹脂分散体  
代理人 関 仁士  
代理人 小原 健志  
代理人 小原 健志  
代理人 齋藤 健治  
代理人 齋藤 健治  
代理人 三枝 英二  
代理人 三枝 英二  
代理人 藤井 淳  
代理人 関 仁士  
代理人 藤井 淳  
代理人 中野 睦子  
代理人 中野 睦子  
代理人 掛樋 悠路  
代理人 掛樋 悠路  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ