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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B41J
管理番号 1116180
異議申立番号 異議2002-70952  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-04-15 
確定日 2005-04-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第3219241号「インクジェット式プリントヘッド及び該プリントヘッドを用いたインクジェット式プリンタ」の請求項1ないし8に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3219241号の請求項1ないし8に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手付きの経緯
本件特許第3219241号の発明についての出願は、平成8年9月9日に出願され、平成13年8月10日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、東芝テック株式会社、渡辺等より特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成16年8月30日に意見書が提出されたものである。

第2 特許異議の申立の概要
1.東芝テック株式会社の主張
申立人東芝テック株式会社は、本件請求項1〜3、5、7、8に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、平成15年改正前の特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべき旨主張し、証拠として甲第1号証(特開平10-16213号公報)を提出している。

2.渡辺等の主張
申立人渡辺等は、本件請求項1〜8に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、平成15年改正前の特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべき旨主張し、証拠として甲第1号証(特開昭57-160654号公報)、甲第2号証(特開平3-2060号公報)、甲第3号証(特開平6-179268号公報)、甲第4号証(特開平7-60997号公報)を提出している。

第3 平成16年6月21日付けで通知した取消しの理由の概要
当審が平成16年6月21日付けで通知した取消しの理由は、本件の請求項1〜請求項5、請求項7、請求項8に係る発明は、特開昭57-160654号公報、特開平6-179268号公報に記載された発明、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件の請求項1〜請求項8に係る発明は、特開平7-195692号公報、特開昭57-160654号公報、特開平6-179268号公報に記載された発明、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その特許は拒絶をしなければならない出願に対してされたものである、というものである。

第4 異議申立についての当審の判断
1.本件発明の認定
本件の請求項1〜請求項8に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」〜「本件発明8」という。)は、特許明細書の【請求項1】〜【請求項8】に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(なお、【請求項2】及び【請求項8】の「前記各駆動パルスの発生タイミングを検出するタイミング検出信号」との記載は、「信号」がタイミングを検出することはあり得ないことから、「前記各駆動パルスの発生タイミングを検出するためのタイミング検出信号」の意であると解する。)
「【請求項1】
入力された階調データに基づいて複数のノズルのそれぞれに対応して設けられた圧力発生素子を作動させることにより、前記各ノズルからインク滴を吐出させるインクジェット式プリントヘッドであって、
入力された複数の駆動パルスを含んでなる駆動信号を前記圧力発生素子に供給するスイッチ手段と、
入力された前記階調データを記憶する記憶手段と、
前記階調データを、前記各駆動パルスにそれぞれ対応して設けられたパルス選択信号からなる印字データに翻訳する翻訳手段とを備え、
前記印字データに基づいて前記スイッチ手段の作動を制御することにより、前記各駆動パルスのうちいずれか一つまたは複数の駆動パルスを前記圧力発生素子に対して一印刷周期内で選択的に入力させることを特徴とするインクジェット式プリントヘッド。
【請求項2】
前記翻訳手段は、前記各駆動パルスの発生タイミングを検出するタイミング検出信号に基づいて、前記階調データを前記印字データに翻訳することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット式プリントヘッド。
【請求項3】
前記記憶手段は、前記階調データのビット数に応じた記憶回路を有し、該各記憶回路に前記階調データの各ビット毎のデータをそれぞれ分けて記憶することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のインクジェット式プリントヘッド。
【請求項4】
前記各記憶回路には、前記階調データの各ビット毎のデータがそれぞれ独立に入力されることを特徴とする請求項3に記載のインクジェット式プリントヘッド。
【請求項5】
前記記憶回路は、シリアル入力された前記階調データの各ビット毎のデータをパラレル信号に変換するシリアル/パラレル変換手段と、入力されたラッチ信号によって前記パラレル信号をラッチするラッチ手段とから構成したことを特徴とする請求項3または請求項4に記載のインクジェット式プリントヘッド。
【請求項6】
前記駆動信号は、第1のインク滴を吐出させるための第1の駆動パルスと、前記第1のインク滴よりも少量の第2のインク滴を吐出させるための第2の駆動パルスと、前記第1のインク滴と同量の第3のインク滴を吐出させるための第3の駆動パルスとを含んで構成されていることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載のインクジェット式プリントヘッド。
【請求項7】
前記圧力発生素子は、圧電振動子であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載のインクジェット式プリントヘッド。
【請求項8】
複数のノズルのそれぞれに対応して設けられた圧電振動子を作動させることにより前記各ノズルからインク滴を吐出させるインクジェット式プリントヘッドと、該プリントヘッドに必要な信号を与えることにより作動を制御するプリンタ制御手段とを備えたインクジェット式プリンタにおいて、
前記プリンタ制御手段は、複数の駆動パルスからなる駆動信号を発生させる駆動信号発生手段を含んで構成し、
前記プリントヘッドは、
入力された階調データを該階調データの各ビット毎のデータに分けてそれぞれ記憶する記憶手段と、
前記各駆動パルスの発生タイミングを検出するタイミング検出信号に基づいて、前記階調データを前記各駆動パルスにそれぞれ対応して設けられたパルス選択信号からなる印字データに翻訳する翻訳手段と、
前記印字データに基づいて、前記各駆動パルスのうちいずれか一つまたは複数の駆動パルスを前記圧電振動子に対して一印刷周期内で選択的に入力させるスイッチ手段とを含んで構成したことを特徴とするインクジェット式プリンタ。」

2.本件発明の進歩性の判断その1
(1)引用刊行物1の記載事項
当審が通知した取消しの理由に引用した特開昭57-160654号公報(異議申立人渡辺等が提出した甲第1号証。以下、「引用刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。

1-ア.「電圧パルスにより駆動される電気機械変換素子により、圧力室内のインクをノズルからインク粒子として記録媒体上に噴射して記録動作を行なうインクジェット記録装置において、前記変換素子を、複数の電圧パルスからなるパルス列から、適宜なパルスを選択的に用いて駆動し、ノズルから粒子速度及び粒子直径の異なる1個以上のインク粒子を噴射させると共に、それ等インク粒子を飛翔中に1つの粒子に合体させ、合体した粒子で記録媒体上にドットを形成するようにして構成したインクジェット記録装置における記録方法。」(特許請求の範囲)
1-イ.「本発明は、・・・電気機械変換素子を駆動することにより、インク粒子を噴射するドロップオンデイマンド型のインクジェット記録装置における記録方法に関する。」(第1頁左下欄第18行〜同頁右下欄第3行)
1-ウ.「カバー3の図中上方には圧電素子等の電気機械変換素子7が設けられている。」(第1頁右下欄第10行〜同欄第11行)
1-エ.「第2図に変換素子7のパルス電圧Vdと粒子直径Dd及び粒子速度Vdの関係を示す。・・・直径Ddは電圧Vdに比例する形で変化し、その際粒子12の粒子速度Vdも図中実線で示すように電圧Vdに比例する形で変化する。」(第2頁左上欄第9行〜同欄第15行)
1-オ.「本発明は、電気機械変換素子を、複数のパルスからなるパルス列から、適宜なパルスを選択的に用いて駆動し、ノズルから粒子速度及び粒子直径の異なる1個以上のインク粒子を噴射させると共に、それ等インク粒子を飛翔中に1つの粒子に合体させ、合体した粒子で記録媒体上にドットを形成するようにして構成し」(第2頁右上欄第20行〜同頁左下欄第6行)
1-カ.「第5図は電気機械変換素子7を駆動するパルス列DPの一例を示すタイムチャートである。パルス列DPは、パルスDP1、DP2……DPnのn個のパルスから構成され、各パルスDP1、………DPn間の時間間隔はTであり、更に各パルス電圧Vd1、Vd2、……Vdnの値は、Vd1<Vd2<……<Vdnとなっている。」(第2頁左下欄第14行〜右下欄1行)
1-キ.「最初の粒子速度の遅い粒子12が飛翔中に、後に噴射された粒子速度の速い粒子12が前の粒子12に追いついて合体し、媒体10表面には1個の合体したインク粒子12’となって衝突する。この際、i番目の粒子12の粒子速度Vdiが、ノズル6先端と媒体10表面との距離をgとして、・・・の関係を満たすように、各パルスDPiのパルス電圧Vdiを設定すれば、各パルスDPiによって噴射されたn個のインク粒子12は距離g、即ち媒体表面で1個の粒子12’に合体して、1個のドット13が媒体10上に記録される。合体したインク粒子12’の直径DHは、・・・となる、従ってnを変化させることにより、インク粒子12’の直径DH、即ち媒体10上のドット13の直径dも変化させることができ、反射濃度Kの制御が可能となる。」(第2頁右下欄第17行〜第3頁左上欄第16行)
1-ク.「第1レベルから第4レベルの間の細かな濃淡は、4個のパルスDP1、DP2、DP3、DP4を適宜選択組合せることにより、・・・様々な直径DHのインク粒子12’を得ることができる。」(第3頁右下欄第18行〜第4頁左上欄第5行)
1-ケ.「本発明によれば、・・・記録媒体10上にドット13を形成するようにしたので、媒体10上に表現し得る反射濃度範囲を大幅に拡大させることができ、幅広い階調性の表現が可能となる。」(第4頁右上欄第3行〜同欄第12行)

(2)引用刊行物1に記載された発明の認定
上記記載事項1-アの「複数の電圧パルスからなるパルス列から、適宜なパルスを選択的に用いて駆動」、及び、記載事項1-オの「複数のパルスからなるパルス列から、適宜なパルスを選択的に用いて駆動」とは、「複数の電圧パルスからなるパルス列」を発生するパルス発生手段が存在し、そのパルス列のうちから選択したパルスだけが電気機械変換素子に入力されると解するのが相当であり、電気機械変換素子として圧電素子が例示されているから、選択したパルスを電気機械変換素子に入力する手段を「圧電素子駆動手段」ということができる。
したがって、上記記載事項を含む刊行物1の全記載及び図示によれば、刊行物1には、次の発明(以下、「引用例発明1」という。)が記載されていると認めることができる。

「圧電素子を作動させることにより、ノズルからインク粒子を吐出させるインクジェット記録装置であって、複数の電圧パルスからなるパルス列DPを発生する手段と、そのパルス列DPから適宜なパルスを前記圧電素子に対して選択的に入力する圧電素子駆動手段とを備え、吐出するインク粒子の組合せ及び数によって階調を表現するよう構成したインクジェット記録装置。」

(3)本件発明8と引用例発明1の一致点及び相違点
引用例発明1の「圧電素子」及び「ノズル」を含む構成部材を、「インクジェット式プリントヘッド」ということができる。
また、引用例発明1の「圧電素子」、「インク粒子」、「インクジェット記録装置」、「複数の電圧パルスからなるパルス列DP」及び「パルス列DPを発生する手段」は、本件発明8の「圧電振動子」、「インク滴」、「インクジェット式プリンタ」、「複数の駆動パルスからなる駆動信号」及び「駆動信号発生手段」にそれぞれ相当する。
引用例発明1の「パルス列DP」が、一印刷周期毎に発生されるパルス列であることは自明である。
引用例発明1において、「パルス列DPから適宜なパルスを前記電気機械変換素子に対して選択的に入力させる」に当たり、どのパルスを選択するかは、形成するドットの大きさ(階調の値)に対応する印字データに基づくこと、及びその印字データが各パルスに対応して設けられたパルス選択信号を含んでいることは自明である。
さらに、本件発明8の「記憶手段」、「翻訳手段」及び「スイッチ手段」からなる圧電振動子の駆動回路と、引用例発明1の「圧電素子駆動手段」とは、「駆動パルスを前記圧電振動子に対して一印刷周期内で選択的に入力させる駆動手段」である点で共通する。
したがって、本件発明8と引用例発明1とは、
「ノズルに対応して設けられた圧電振動子を作動させることにより前記ノズルからインク滴を吐出させるインクジェット式プリントヘッドを備えたインクジェット式プリンタにおいて、
複数の駆動パルスからなる駆動信号を発生させる駆動信号発生手段と、
前記各駆動パルスにそれぞれ対応して設けられたパルス選択信号からなる印字データに基づいて、前記各駆動パルスを前記圧電振動子に対して一印刷周期内で選択的に入力させる駆動手段とを備えたインクジェット式プリンタ。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-1:本件発明8が、「各駆動パルスのうちいずれか一つまたは複数の駆動パルスを前記圧電振動子に対して一印刷周期内で選択的に入力させる」、すなわち、ドットを形成しない場合であっても少なくとも1つの駆動パルスが圧電振動子に入力されるのに対して、引用例発明1では、ドットを形成しない場合には駆動パルスが圧電素子に入力されない点

相違点1-2:本件発明8のプリントヘッドには、ノズル及び圧電振動子が複数組存在しており、当該プリントヘッドに駆動手段を設置すると共に、プリントヘッドに必要な信号を与えることにより作動を制御するプリンタ制御手段をプリントヘッドとは別部材として設けているのに対して、引用例発明1は、これらの構成を備えているのかどうか不明である点

相違点1-3:本件発明8の駆動手段が、入力された階調データを該階調データの各ビット毎のデータに分けてそれぞれ記憶する記憶手段と、前記各駆動パルスの発生タイミングを検出するタイミング検出信号に基づいて、前記階調データを前記各駆動パルスにそれぞれ対応して設けられたパルス選択信号からなる印字データに翻訳する翻訳手段と、印字データに基づいて駆動パルスを選択し、選択した駆動パルスを圧電振動子に入力させるスイッチ手段とを備えるとともに、駆動信号発生手段はプリントヘッド外部(プリンタ制御手段)に、それ以外はプリントヘッドに設置しているのに対して、引用例発明1では、印字データが、駆動手段に入力された階調データを翻訳することにより作成されるのか、あるいは、駆動手段の外部(より正確にはプリントヘッドの外部)から、印字データそのものが入力されるのか不明であり、したがって、駆動手段の具体的な構成についても明らかではない点

(4)各相違点についての判断
(イ)相違点1-1について
インクジェット式プリントヘッドにおいて、ドットを形成しない場合においても、インク滴を吐出しない程度の駆動パルスを圧電振動子に印加する技術は、当審が通知した取消しの理由に引用した特開平3-164258号公報等にみられるように、本願出願前に周知の技術(以下、「第1の周知技術」という。)であり、当該第1の周知技術を引用例発明1に適用し、駆動信号の複数のパルス列に、インク滴を吐出しない程度の駆動パルスを追加すること、すなわち、相違点1-1に係る本件発明8の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。

(ロ)相違点1-2について
プリントヘッドにノズル及び圧電振動子を複数組設け、圧電振動子に電圧を印加する駆動手段をプリントヘッドに設置すると共に、当該駆動手段に必要な信号を与えることにより作動を制御するプリンタ制御手段をプリントヘッドとは別部材として設ける技術は、特開平7-156375号公報、特開平7-285220号公報、特開平7-304168号公報等にみられるように、本願出願前に周知の技術(以下、「第2の周知技術」という。)であり、当該第2の周知技術を引用例発明1に適用し、相違点1-2に係る本件発明8の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。

(ハ)相違点1-3について
複数の圧電振動子を用いてインク滴を吐出するインクジェット式プリンタにおいて、各圧電振動子に駆動電圧を印加する駆動手段に、共通の駆動パルスが入力されると共に、パルス選択信号からなる印字データに基づいて、入力された駆動パルスを選択し、選択した駆動パルスを出力するスイッチ手段を設ける技術は、特開平8-156248号公報、特開平5-84902号公報等にみられるように、本願出願前に周知の技術(以下、「第3の周知技術」という。)である。
また、当審が通知した取消しの理由に引用した特開平6-179268号公報(異議申立人渡辺等が提出した甲第3号証。以下、「引用刊行物2」という。)には、インクジェット式プリンタにおいて、駆動用基板に一体化されたヘッドドライバ105内に、入力された記録データ信号(本件発明8の「階調データ」に相当する。)を該記録データ信号の各ビット毎のラインデータSI1、SI2に分けてそれぞれ記憶するシフトレジスタ4及びラッチ回路3(本件発明8の「記憶手段」に相当する。)と、電気熱エネルギー変換素子を駆動するタイミングで、前記記録データ信号を通電の有無を示すデータ(本件発明8の「印字データ」に相当する。特に段落【0030】及び図8を参照。)に翻訳するデコーダ23(本件発明8の「翻訳手段」に相当する。)とを有する駆動用IC5を組み込み、当該ヘッドドライバ105により電気熱エネルギー変換素子を駆動するよう構成した点が、記載されている(特に、段落【0018】〜段落【0030】及び図3を参照)。圧力発生素子を、電気熱エネルギー変換素子とするか、圧電振動子とするかによって、階調データを印字データに変換するための構成を、異なるものとする必要はない。
さらに、駆動信号発生手段を、駆動手段と共にプリントヘッド側に設けるのか、プリンタ制御手段に含めてプリンタ本体側に設けるのかは、当業者が適宜選択し得る設計事項にすぎず、かつ、上記引用刊行物2に記載されたデコーダを引用例発明1に採用する際に、当該デコーダがタイミング検出信号により動作するよう構成することは、技術の具体的適用に際して当業者が適宜なし得た設計事項にすぎない。(なお、引用刊行物2に記載された発明においては、ブロック毎に時分割駆動を行うことから、前段のブロックのフリップフロップの出力Qをタイミング検出信号として採用している。)
してみると、引用例発明1の駆動手段の構成として、第3の周知技術である、駆動パルスが入力されると共に、パルス選択信号からなる印字データに基づいて入力された駆動パルスを選択し、選択した駆動パルスを出力するスイッチ手段を採用すると共に、当該スイッチ手段に入力する印字データを作成する為の手段として、上記引用刊行物2に記載されたシフトレジスタ4及びラッチ回路3と、タイミング検出信号により翻訳を行うデコーダ23とを駆動手段の構成として採用し、さらに、駆動信号発生手段をプリンタヘッド外部に配置すること、すなわち、相違点1-3に係る本件発明8の構成を採用することは、上記第3の周知技術に熟知し、上記引用刊行物1及び2に接した当業者であれば、容易に想到し得たことである。

(5)本件発明8の進歩性の判断
相違点1-1〜相違点1-3に係る本件発明の構成を採用することによって得られる作用効果は、当業者が容易に予測し得る程度のものであるから、本件発明8は、引用刊行物1、2に記載された発明、及び第1〜第3の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。

(6)本件発明1〜5、7の進歩性の判断
本件発明1、2、7は、本件発明8のプリントヘッドの部分のみをクレームしたものであり、本件発明1、2、7を特定する事項の全てを本件発明8は備えている。
したがって、本件発明1、2、7は、引用刊行物1、2に記載された発明、及び第1〜第3の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。
また、本件発明3は、本件発明1又は本件発明2の「記憶手段」が、「階調データのビット数に応じた記憶回路を有し、該各記憶回路に前記階調データの各ビット毎のデータをそれぞれ分けて記憶する」点を限定したものであり、本件発明4は、本件発明3の各記憶回路が、「階調データの各ビット毎のデータがそれぞれ独立に入力される」ものである点を限定したものであり、さらに、本件発明5は、本件発明3又は本件発明4の記憶回路が、「シリアル入力された前記階調データの各ビット毎のデータをパラレル信号に変換するシリアル/パラレル変換手段と、入力されたラッチ信号によって前記パラレル信号をラッチするラッチ手段とから構成した」点を限定したものであるが、当該限定事項は、いずれも、上記引用刊行物2に記載された事項あるいは単なる設計事項にすぎないから(引用刊行物2に記載された「シフトレジスタ4」及び「ラッチ回路3」が、それぞれ本件発明5の「シリアル/パラレル変換手段」及び「ラッチ手段」に相当し、「シフトレジスタ4」及び「ラッチ回路3」を併せた部材が、本件発明3、4の「記憶回路」に相当する。また、ラッチ回路3をシフトレジスタ4に対応させて別々に構成する点は、技術の具体的適用に伴う設計事項にすぎない。)、本件発明3〜5は、引用刊行物1、2に記載された発明、及び第1〜第3の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。

3.本件発明の進歩性の判断その2
(1)引用刊行物3の記載事項
当審が通知した取消しの理由に引用した特開平7-195692号公報(以下、「引用刊行物3」という。)には、次の事項が記載されている。

2-ア.「【従来の技術】従来、インクジェット記録装置では階調を出す方法として、・・・複数のインク滴を被記録材上の実質的同一箇所に着弾させて1つのドットを形成し着弾液滴個数の多少によって階調を得る方法(マルチドロップレット方式)があるが、特にマルチドロップレット方式は、小さなインク滴の吐出が可能なインクジェットヘッドを用いることによって高解像かつ高階調な記録が行なえる方式としてすぐれている。・・・まず、図9〜図11により画素形成周波数f0、インク滴の吐出周波数fにより実質的には同一箇所に最大4個のインク滴を着弾させるマルチドロップレット方式でヘッドを駆動し、画素形成する例について説明しておく。・・・ヒータ103に図9に示すようなパルス形状の吐出信号P1が印加されることによりインク吐出口104から図10の(A)に示すようにインク滴D1が吐出される。そして、このあと1/f時間経過後、被記録材(シート)105上にインク滴D1により形成された画素106Aに対し少なくとも一部が重なるように選択的な吐出信号P2が供給されることにより(B)に示すようにインク滴D2が吐出される。同様に、吐出信号P3,P4により図10の(C),(D)に示すようにインク滴D3,D4が吐出され、かくして画素106B,106Cの形成について画素106Dが(E)に示すように完了する。以上の過程による吐出信号P1,P2,P3,P4の印加の有無によりシート105上の画素の大きさを変えることができる。また画素106Dに隣接させて異なる画素を形成する場合には、図9に示すように吐出信号P1の印加から時間1/f0経過時にあらためて吐出信号P1以下の信号を順次に印加しインク滴を吐出させればよい。」(段落【0002】〜段落【0005】)
2-イ.「図1〜図3を参照しつつ本発明の第1実施例について説明する。・・・本実施例は、1画素を最大4個のインク滴によって形成する場合の例を示す。また、本例は、吐出手段103を電気熱変換体(以下、ヒータ)とする熱インクジェットヘッドの例で、図1に示す各種吐出信号により図2に示すようにヒータ103上に形成したバブル107の圧力によりインク滴を吐出する。また、本実施例では基本的に図3に示すような2種類の吐出信号P11またはP12が選択的に用いられるもので、図2にこのような吐出信号P11またはP12により熱インクジェットヘッドから吐出されるインク滴108または109の様子を示す。」(段落【0014】、段落【0015】)
2-ウ.「本実施例によれば、シート上での最小の画素である第1画素を形成する第1インク滴は図1の(A)に示すように図3の(A)と同形の予備信号PR1と吐出信号P11との印加により吐出されるもので、これに対して第2,3,4インク滴の場合は図1の(B)〜(D)に示すように複数の予備信号PR2を伴う吐出信号P2の印加によってそれぞれ吐出される。これにより、第1インク滴の吐出体積を第2,3,4インク滴の吐出体積よりも相対的に小さくすることが可能となり、」(段落【0019】)
2-エ.【図11】から、段落【0002】〜段落【0005】に記載された従来のインクジェット記録装置においては、インクジェット記録ヘッド101が、インク液路102、インク吐出手段103及びインク吐出口104を、複数組有していることが看取できる。
2-オ.【図1】から、段落【0014】〜段落【0020】に記載された「本発明の第1実施例」においては、第1画素を形成する予備信号PR1及び吐出信号P11、及び、第1画素よりも大きな第2〜第4画素を形成するための予備信号PR2及び吐出信号P12は、それぞれ、【図1】(A)〜【図1】(D)のいずれの階調においても、同一のタイミングで印加されていることが、看取できる。

(2)引用刊行物3に記載された発明の認定
上記引用刊行物3には、上記記載事項2-ア及び記載事項2-エにおいて示された「従来のインクジェット記録装置」における、「インクジェット記録ヘッド101が、インク液路102、インク吐出手段103及びインク吐出口104を、複数組有している」点、及び「画素106Dに隣接させて異なる画素を形成する場合には、図9に示すように吐出信号P1の印加から時間1/f0経過時にあらためて吐出信号P1以下の信号を順次に印加しインク滴を吐出させ」る点について、「本発明の第1実施例」において、何らかの変更を加えているとは記載されておらず、また、技術常識からみて、何らかの変更を加える必要も見当たらないことから、「本発明の第1実施例」においても、上記と同様の構成を有しているものと解するのが自然であり、上記時間1/f0を「一印刷周期」ということができる。
また、上記引用刊行物3に記載された「本発明の第1実施例」において、インク吐出手段に予備信号及び吐出信号を印加するための手段が存在することは明らかであって、当該手段を「駆動手段」と呼ぶことができる。
さらに、上記引用刊行物3に記載された「本発明の第1実施例」において、画素を形成しないときには、予備信号や吐出信号を圧力発生素子に入力していないことは、明らかである。
したがって、上記記載事項を含む引用刊行物3の全記載及び図示によれば、引用刊行物3には、次の発明(以下、「引用例発明3」という。)が記載されていると認めることができる。なお、上記引用刊行物3の「第1画素を形成する予備信号PR1及び吐出信号P11」及び「第2〜4画素を形成する予備信号PR2及び吐出信号P12」は、圧力発生素子に入力されることにより、それぞれ1つのインク滴が吐出されるものであるから、そのそれぞれを「第1番目の吐出パルス」〜「第4番目の吐出パルス」と呼ぶこととする。

「複数のインク液路及びインク吐出口のそれぞれに対応して設けられたインク吐出手段を作動させることにより、前記各インク吐出口から吐出させ、1〜4個のインク滴を被記録材上のほぼ同一箇所に着弾させることにより階調を表現するよう構成されたインクジェット記録ヘッド及び駆動手段であって、
1個のインク滴を吐出する場合には第1番目の吐出パルスが、2個のインク滴を吐出する場合には第1及び第2番目の吐出パルスが、3個のインク滴を吐出する場合には第1〜第3番目の吐出パルスが、4個のインク滴を吐出する場合には第1〜第4番目の吐出パルスが、一印刷周期内にインク吐出手段に印加されると共に、
それぞれ第i番目の吐出パルスはいずれの場合においても一印刷周期内の同一のタイミングでインク吐出手段に印加されるように構成されており、
第1番目の吐出パルスは、第2〜4番目の吐出パルスよりも小さなインク滴を吐出させ、第2〜4番目の吐出パルスはそれぞれ同量のインク滴を吐出させるような波形に設定されているインクジェット記録ヘッド及び駆動手段。」

(3)本件発明6と引用例発明3の一致点及び相違点
引用例発明3の「インク液路及びインク吐出口」、「インク吐出手段」、「第2〜第4の吐出パルス」のうち任意の2つ、及び、「第1の吐出パルス」は、本件発明6の「ノズル」、「圧力発生素子」、「第1及び第3の駆動パルス」、及び、「第2の駆動パルス」にそれぞれ相当する。
また、引用例発明3の「駆動手段」と、本件発明6の「記憶手段」、「翻訳手段」及び「スイッチ手段」からなる圧力発生素子の駆動回路とは、「駆動パルスを圧力発生素子に対して一印刷周期内で入力させる駆動手段」である点で共通する。
さらに、引用例発明3の「インクジェット記録ヘッド及び駆動手段」と、本件発明6の「インクジェット式プリントヘッド」とは、ノズル、圧力発生素子、駆動手段を備え、インク滴を吐出するという点で共通するから、「インク滴吐出部」と呼ぶことができる。
したがって、本件発明6(本件発明1を引用するもの)と引用例発明3とは、
「複数のノズルにそれぞれ対応して設けられた圧力発生素子を作動させることにより前記各ノズルからインク滴を吐出させるインク滴吐出部であって、
第1のインク滴を吐出させるための第1の駆動パルスと、前記第1のインク滴よりも少量の第2のインク滴を吐出させるための第2の駆動パルスと、前記第1のインク滴と同量の第3のインク滴を吐出させるための第3の駆動パルスとを含む複数の駆動パルスを、一印刷周期内で選択的に圧力発生素子に入力することが可能なインク滴吐出部。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点2-1:本件発明6が、「各駆動パルスのうちいずれか一つまたは複数の駆動パルスを前記圧電振動子に対して一印刷周期内で選択的に入力させる」、すなわち、ドットを形成しない場合であっても少なくとも1つの駆動パルスが圧電振動子に入力されるのに対して、引用例発明3では、ドットを形成しない場合には駆動パルスが圧力発生素子に入力されない点

相違点2-2:本件発明6が、プリントヘッドに駆動手段を設けているのに対して、引用例発明3の駆動手段は、プリントヘッドに設けられたものであるのかどうか不明である点

相違点2-3:本件発明6の駆動手段が、入力された複数の駆動パルスを含んでなる駆動信号を圧力発生素子に供給するスイッチ手段を有しており、各駆動パルスにそれぞれ対応して設けられたパルス選択信号からなる印字データに基づいて前記スイッチ手段の作動を制御することにより、前記各駆動パルスを前記圧力発生素子に対して一印刷周期内で選択的に入力させると共に、印字データを生成するために、入力された階調データを該階調データの各ビット毎のデータに分けてそれぞれ記憶する記憶手段と、前記各駆動パルスの発生タイミングを検出するタイミング検出信号に基づいて、前記階調データを前記各駆動パルスにそれぞれ対応して設けられたパルス選択信号からなる印字データに翻訳する翻訳手段とを備えているのに対して、引用例発明3では、駆動手段の具体的な構成について明らかではない点

(4)各相違点についての判断
(イ)相違点2-1について
圧力発生素子として圧電振動子を用いるインクジェット式プリントヘッドにおいて、ドットを形成しない場合においても、インク滴を吐出しない程度の駆動パルスを圧電振動子に印加する技術は、「2.(4)(イ)相違点1-1について」で述べたように、本願出願前に周知の技術(第1の周知技術)である。
ここで、当該第1の周知技術は、圧力発生素子として圧電振動子を用いたものであって、他方、上記引用刊行物3には圧力発生素子に電気熱変換体を用いており、圧電振動子を用いる旨の記載はないけれども、圧電振動子を用いたインクジェット式プリントヘッドは例示するまでもなく本願出願前に周知のものであり、引用刊行物3の段落【0015】には「本例は、吐出手段103を電気熱変換体(以下、ヒータ)とする熱インクジェットヘッドの例で」(記載事項2-イ)と記載されており、電気熱変換体を用いることが例示でしかないことが示されていること、引用例発明3において圧電振動子を用いることが困難である理由が見当たらないことを勘案すれば、引用例発明3に、上記第1の周知技術を適用し、圧力発生素子として圧電振動子を用いると共に、4つの吐出パルス(これらパルスの形状は、圧電振動子を用いた際には、1番目の吐出パルスが小ドットとなるように当然変更される。)に加えて、インク滴を吐出しない程度の駆動パルスを選択的に印加できるよう構成すること、すなわち、相違点2-1に係る本件発明6の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。

(ロ)相違点2-2について
圧電振動子に電圧を印加する駆動手段をプリントヘッドに設置する(と共に、当該駆動手段に必要な信号を与えることにより作動を制御するプリンタ制御手段をプリントヘッドとは別部材として設ける)技術は、「2.(4)(ロ)相違点1-2について」で述べたように、本願出願前に周知の技術(第2の周知技術)であり、引用例発明3に当該第2の周知技術を適用し、駆動手段をノズルや圧電素子とともに、インクジェット式プリントヘッドとして構成すること、すなわち、相違点2-2に係る本件発明6の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。

(3)相違点2-3について
複数の圧電振動子を用いてインク滴を吐出するインクジェット式プリンタにおいて、各圧電振動子に駆動電圧を印加する駆動手段に、共通の駆動パルスが入力されると共に、パルス選択信号からなる印字データに基づいて、入力された駆動パルスを選択し、選択した駆動パルスを出力するスイッチ手段を設ける技術は、「2.(4)(ハ)相違点1-3について」で述べたように、周知の技術(第3の周知技術)である。
さらに、引用刊行物1には、「2.(3)本件発明8と引用例発明1の一致点及び相違点」で述べたように、圧電振動子を用いてインク滴を吐出するインクジェット式プリンタの駆動手段において、複数の駆動パルスからなる駆動信号の各駆動パルスを、当該駆動パルスにそれぞれ対応して設けられたパルス選択信号からなる印字データに基づいて、前記圧電振動子に対して一印刷周期内で選択的に入力させるよう構成した点が、開示されている。
してみると、引用例発明3において、圧力発生素子として周知の圧電振動子を用いる際に、各圧電振動子に駆動電圧を印加する駆動手段の構成部材として、複数の駆動パルスからなる共通の駆動信号が入力され、駆動パルスにそれぞれ対応して設けられたパルス選択信号からなる印字データに基づいて、前記各圧電振動子に対して一印刷周期内で選択的に入力させるスイッチ手段を採用することは、上記第3の周知技術に熟知し、上記引用刊行物3及び上記引用刊行物1に接した当業者であれば、容易に想到し得たことである。
また、上記引用刊行物2には、「2.(4)(ハ)相違点1-3について」で述べたように、インクジェット式プリンタにおいて、駆動用基板に1体化されたヘッドドライバ105内に、入力された記録データ信号(本件発明6の「階調データ」に相当する。)を該記録データ信号の各ビット毎のラインデータSI1、SI2に分けてそれぞれ記憶するシフトレジスタ4及びラッチ回路3(本件発明6の「記憶手段」に相当する。)と、電気熱エネルギー変換素子を駆動するタイミングで、前記記録データ信号を通電の有無を示すデータ(本件発明6の「印字データ」に相当する。特に段落【0030】及び図8を参照。)に翻訳するデコーダ23(本件発明6の「翻訳手段」に相当する。)とを有する駆動用IC5を組み込み、当該ヘッドドライバ105により電気熱エネルギー変換素子を駆動するよう構成した点が、記載されているのであるから、上記スイッチ手段に入力するための印字データを生成するために、当該引用刊行物2に記載された構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
したがって、引用例発明3において、相違点3に係る本件発明6の構成を採用することは、引用刊行物1〜3に記載された発明、及び第1〜第3の周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。

(5)本件発明6の進歩性の判断
相違点2-1〜相違点2-3に係る本件発明の構成を採用することによって得られる作用効果は、当業者が容易に予測し得る程度のものであるから、本件発明6は、引用刊行物1〜3に記載された発明、及び第1〜第3の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。

(6)本件発明1〜5、7、8の進歩性の判断
本件発明1を特定する事項の全てを本件発明6は備えているから、本件発明1は、引用刊行物1〜3に記載された発明、及び第1〜第3の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。
また、本件発明2は、本件発明1の「翻訳手段」が、「各駆動パルスの発生タイミングを検出するタイミング検出信号に基づいて、階調データを印字データに翻訳する」ことを限定するものであるが、「2.(4)(ハ)相違点1-3について」で述べたと同様に、引用例発明3がブロック毎に時分割駆動を行わなければならない理由は見当たらないから、上記限定事項は、技術の具体的適用に伴う設計事項にすぎない。したがって、本件発明2は、引用刊行物1〜3に記載された発明、及び第1〜第3の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。
また、本件発明3〜5の限定事項は、「2.(6)本件発明1〜5、7の進歩性の判断」で述べたように、いずれも、上記引用刊行物2に記載された事項あるいは単なる設計事項にすぎないから、本件発明3〜5は、引用刊行物1〜3に記載された発明、及び第1〜第3の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。
また、本件発明7の、圧力発生素子に圧電振動子を採用する点については、「(4)(イ)相違点2-1について」で述べたとおりであるから、本件発明7は、引用刊行物1〜3に記載された発明、及び第1〜第3の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。
さらに、本件発明8の、プリンタ制御手段と駆動手段とが別部材として設けられたプリンタである点については、「3.(4)(ロ)相違点2-2について」で述べたように、周知の技術(第2の周知技術)であるから、本件発明8は、引用刊行物1〜3に記載された発明、及び第1〜第3の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。

4.特許権者の主張について
特許権者は、平成16年8月30日付け特許異議意見書において、通知された取消しの理由で引用された各刊行物には、「プリントヘッド側に記憶手段、翻訳手段、及びスイッチ手段を設ける構成については、開示も示唆もまったくなされていない」(第7頁第2行〜同頁第4行)旨主張しているが、「2.本件発明の進歩性の判断その1」及び「3.本件発明の進歩性の判断その2」で述べたように、圧電振動子に電圧を印加する駆動手段をプリントヘッドに設置すると共に、当該駆動手段に必要な信号を与えることにより作動を制御するプリンタ制御手段をプリントヘッドとは別部材として設ける技術は、周知の技術(第2の周知技術)である。さらに、引用刊行物2では、図3に、シフトレジスタ4、ラッチ回路3、デコーダ23、及び、電気熱エネルギー変換素子1に流す駆動電流のオン・オフを選択するトランジスタ(細部で異なる点はあるものの、本件発明の「スイッチ手段」と同等の機能を有する部材である。)とを含めたものが、鎖線で囲まれて図番5が付されており、これを「駆動用IC5」と称している。「スイッチ手段」がプリントヘッド外にあることは想定し難いから、「駆動用IC5」はプリントヘッドに設けられていると解するべきであり、段落【0018】に記載されたヘッドドライバ105とは、プリントヘッドに設けたドライバの趣旨に解するべきである。
したがって、特許権者の上記主張は採用できない。

第5 むすび
以上のとおり、本件発明1〜8は、引用刊行物1、2に記載された発明、及び第1〜第3の周知技術に基づいて、或いは、引用刊行物1〜3に記載された発明、及び第1〜第3の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、これら発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件請求項1〜8に係る特許は、平成15年改正前の特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2005-02-18 
出願番号 特願平8-237656
審決分類 P 1 651・ 121- Z (B41J)
最終処分 取消  
前審関与審査官 藤本 義仁  
特許庁審判長 小沢 和英
特許庁審判官 清水 康司
津田 俊明
登録日 2001-08-10 
登録番号 特許第3219241号(P3219241)
権利者 セイコーエプソン株式会社
発明の名称 インクジェット式プリントヘッド及び該プリントヘッドを用いたインクジェット式プリンタ  
代理人 吉武 賢次  
代理人 橋本 良郎  
代理人 永井 浩之  
代理人 名塚 聡  
代理人 森 秀行  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 村松 貞男  
代理人 坪井 淳  
代理人 岡田 淳平  

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