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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1116203
異議申立番号 異議2001-70242  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-01-19 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-01-24 
確定日 2005-04-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第3067806号「プロポフォールとエデテートとを含有する水中油滴エマルジョン」の請求項1ないし50に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3067806号の請求項1〜50に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
特許第3067806の請求項1〜50に係る発明についての出願は、平成7年3月17日に特許出願され、平成12年5月19日にその特許権の設定登録がなされ、その後、平成12年7月14日に訂正審判が請求され、平成13年1月5日に請求項38、39、45及び46についての訂正を認容する審決がなされ、そしてレイラス オイより特許異議の申し立てがされたものである。

2.特許異議申立についての判断
(1)申立の理由の概要
特許異議申立人は、本件請求項43及び44に係る発明は甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により、また請求項43及び44を除く請求項1〜50に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、特許を取り消すべきと主張している。

(2)本件発明
本件請求項1〜50に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1〜50(請求項38、39、45及び46は訂正審判の請求認容により、訂正されている。)に記載された事項により特定されるとおりのものである。そのうち請求項43、及び請求項1の記載は以下のとおりである。

【請求項43】プロポフォールを水によって乳化し、界面活性剤を用いて安定化した水中油滴エマルジョンを含み、偶発的な外部からの汚染後の少なくとも24時間、微生物の有意な増殖を防止するために充分なエデテート量をさらに含む、非経口投与用無菌薬剤組成物であって、前記水中油滴エマルジョンが平衡状態にあり、全体として動力学的に安定であるが、熱力学的に不安定である明確な二相系である前記組成物(以下、「請求項43組成物」という。)。

【請求項1】水不混和性溶媒中に溶解したプロポフォールを水によって乳化し、界面活性剤を用いて安定化した水中油滴エマルジョンを含み、偶発的な外部からの汚染後の少なくとも24時間、微生物の有意な増殖を防止するために充分なエデテート量をさらに含む、非経口投与用無菌薬剤組成物であって、前記水中油滴エマルジョンが平衡状態にあり、全体として動力学的に安定であるが、熱力学的に不安定である明確な二相系である前記組成物(以下、「請求項1組成物」という。)。

(3)主な甲号証の記載の概要
【甲第1号証】英国特許第1,472,793号明細書
(原則として、対応する特開昭50-154410号公報を日本語訳文として援用し、該当箇所を括弧内に表示する)

「本発明による組成物は、単独の2,6-ジイソプロピルフェノールか又は水と不混和性の溶剤例えば落花生油のような植物油又はエチルオレエートのような脂肪酸のエステル中に溶解した2,6-ジイソプロピルフェノールが表面活性剤により水で乳化されている水中油型エマルジョンから成っていてもよい。」第1頁第66行〜第74行(第2頁左上欄下から第6行〜右上欄第1行):記載1

「本発明による組成物は、任意に、安定剤、保存剤(preservatives)及び酸化防止剤・・・;金属イオン封鎖剤、例えばエデチック酸ナトリウム・・・から選択される1種以上の付加的成分を含んでいてもよい。」第2頁第73行〜第83行(第3頁右上欄第10行〜下から第2行、「防腐剤」を「保存剤(preservatives)」に訂正等一部訂正):記載2

「例2
蒸留水(90ml)をクレモホル(Cremophor)EL(10g)に溶けた2,6-ジイソプロピルフェノ-ル(2g)の十分に攪拌した溶液に徐々に加える。生じるミクロエマルジョンを細菌濾過器に通す。こうして混血動物に非経口的に投与するのに適した無菌組成物が得られる。上記の方法を繰返すが、混合物に(i)エデチック酸ナトリウム(0.02g)、又は(ii)クエン酸(0.1g)、又は(iii)プロピルp-ヒドロキシベンゾエート・・・、又は(iv)2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノ-ル・・・のいずれかを配合する。それぞれの場合に混血動物に非経口的に投与するのに適した無菌組成物が得られる。」第3ペ-ジ第56行〜第78行(第4ペ-ジ右上欄末行〜左下欄下から第5行、「微乳濁液」を「ミクロエマルジョン」に変更(英文をそのままカタカナ表示)):記載3

「例7
蒸留水(80ml)を、2,6-ジイソプロピルフェノ-ル(2g)、クレモホル(Cremophor)EL(1g)、ツウィーン(Tween)80(1g)及び落花生油(20ml)の攪拌混合物に加える。生じるエマルジョンを繰返しホモジナイザーに通して適当な低粒子サイズにし、次いでオートクレープ中で加熱することによって無菌化する。こうして温血動物に非経口的に投与するのに適した無菌組成物が得られる。」第4頁第28行〜第38行(第5頁右上欄下から第3行〜左下欄第7行、「乳濁液」を「エマルジョン」に変更(英文をそのままカタカナ表示)):記載4

【甲第2号証】Manufacturing Chemist1991年9月号、第22頁〜第23頁(異議申立書の翻訳を援用)

「EDTAは、・・・効果的な金属封鎖剤として医薬品及び化粧品の製剤にも使用されている。グラム陰性菌に対する数多くの化学的保存剤、特に医薬及び化粧品に使用される保存剤の有効性を著しく高める能力がEDTAにあることが示され1950年代後半に、別の有用な特性として脚光を浴びてきた。また、この相乗作用は、至る所に存在するシュ-ドモナス・アエルギノーザや、ある種の酵母及び真菌に対して有効である。EDTAは、単独で使用しても、シュードモナス・アエルギノーザに対して顕著な殺菌活性がある。しかし、この活性は完全でないので、EDTAを単独で使用して完全な殺菌を達成することはできない。」(第22頁左欄第12行〜第29行):記載5

「EDTAには有用な抗菌特性があり、化粧品及び医薬品に使用することができる他の化学的保存剤と相乗作用を示す。」(第22頁右欄下から第23行〜第21行):記載6

【甲第3号証】Jon J.Kabara編,Cosmetic and Drug Preservation,Principles and Practice,第323頁〜第337頁,1984年,Marcel Dekker Inc.発行
(異議申立書の翻訳を援用)

「EDTA単独使用の場合、P.アエルギノーザに対する殺菌活性は顕著であるが、不完全である。・・・従って、EDTA単独から総合的な殺菌作用を期待すべきでない。」(第326頁第26行〜第30行):記載7

「グラム陽性菌は、EDTAに対して有意な感受性を示さない。」(第326頁下から第10行):記載8

(4)対比・判断
(4-1)特許法第29条第1項第3号について
(4-1-1)請求項43
甲第1号証の例2には、蒸留水(90ml)をクレモホルEL(10g)に溶けた2,6-ジイソプロピルフェノ-ル(2g)の十分に攪拌した溶液に徐々に加え、生じるミクロエマルジョンを細菌濾過器に通して得られた、温血動物に非経口的に投与するのに適した無菌組成物であって、エデチック酸ナトリウム(0.02g)が配合されたもの(以下、「例2組成物」という。)(記載3)が記載されている。
請求項43組成物と例2組成物とを対比すると、プロポフォールと2,6-ジイソプロピルフェノ-ルとは同一物質であり、エデチック酸ナトリウムはエデテートの一種であり、クレモフォルELは周知の界面活性剤であるので、両者は、プロポフォールと界面活性剤とエデテートと水とからなる非経口投与用無菌薬剤組成物である点で一致し、請求項43組成物が、1)組成物が水中油滴エマルジョンであって、水中油滴エマルジョンが平衡状態にあり、全体として動力学的に安定であるが、熱力学的に不安定である明確な二相系であり、2)エデテートの量が、偶発的な外部からの汚染後の少なくとも24時間、微生物の有意な増殖を防止するために充分な量であるのに対して、例2組成物については、前記1)及び2)であるとの記載がない点で相違する。

そこで、例2組成物が、前記1)の水中油滴エマルジョンであるのかどうかについて、まず、検討する。
例2組成物について、甲第1号証には、蒸留水(90ml)を、クレモホルEL(10g)に溶けた2,6-ジイソプロピルフェノ-ル(2g)の十分に攪拌した溶液に、徐々に加えることにより生じるミクロエマルジョンを細菌濾過器を通して得る旨記載され、その組成は、水90ml、界面活性剤としてクレモホルEL10g、油として2,6-ジイソプロピルフェノ-ル2gを含有するものである。
例2組成物は「ミクロエマルジョン」として記載されているのに対し、特許異議申立人は、これを、「水中油滴エマルジョン」であると主張している。
そこで検討するところ、甲1号証の例7には、「エマルジョン」として記載さた組成物の例があり、該組成は、水80ml、界面活性剤としてクレモホル(Cremophor)EL1g及びツウィーン(Tween)80を1g、油として2,6-ジイソプロピルフェノ-ル2g及び落花生油20mlを含有するものである。(記載4)
「ミクロエマルジョン」と記載されている例2組成物と、「エマルジョン」と記載されている例7の組成物(以下、「例7組成物」という。)とを比べると、例2組成物は例7組成物よりも油に対する水の割合が多いにもかかわらず、油に対する界面活性剤の割合が50倍程度多く配合されている。
油に対する界面活性剤の割合によって、エマルジョンの系となる場合やミクロエマルジョンの系となる場合があることが当業者に周知の技術的事項であることは、特許権者が提出した、D.Attwood,A.T.Florence「SURFACTANT SYSTEMS」1983,p.520の仮想的な相平衡ダイアグラムの記載からも明らかであるから、例7組成物及び例2組成物が、それぞれ記載のとおり「エマルジョン」及び「ミクロエマルジョン」として区別されることは、合理的であって、特許異議申立人の主張は採用できない。
したがって、例2組成物は、「ミクロエマルジョン」であって、前記1)の水中油滴エマルジョンであるということはできないので、請求項43組成物が例2組成物と同一のものであるとは認められない。
よって、請求項43に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一ではない。
(4-1-2)請求項44
請求項44に記載された組成物も請求項43組成物と同様に、前記1)の水中油滴エマルジョンであり、前記したとおり、請求項44に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一ではない。

また、取消理由通知書において、請求項1、20、43、44、47〜50に係る発明も甲第1号証の例2の組成物とものとして又は実質的に区別することができないとしたが、請求項1、20、43、44、47〜50に係る発明は、前記1)の水中油滴エマルジョンを構成要件とするものであるので、前記したとおり、甲第1号証に記載された発明と同一ではない。

(4-2)特許法第29条第2項について
(4-2-1)請求項1
甲第1号証の例7には、蒸留水(80ml)を、2,6-ジイソプロピルフェノ-ル(2g)、クレモホルEL(1g)、ツウィーン80(1g)及び落花生油(20ml)の攪拌混合物に加え、生じるエマルジョンを繰返しホモジナイザーに通して適当な低粒子サイズにし、次いでオートクレープ中で加熱することによって無菌化された温血動物に非経口的に投与するのに適した無菌組成物(以下、「例7組成物」という。)(記載4)が記載されている。
請求項1組成物と例7組成物とを対比すると、プロポフォールと2,6-ジイソプロピルフェノールとは同一物質であり、クレモホルEL及びツウィーン80は、周知の界面活性剤であり、落花生油は2,6-ジイソプロピルフェノールを溶解するための水不混和性溶媒として使用(記載1)しているものであり、また、例7組成物のエマルジョンも、その組成からみて、「水中油滴エマルジョンであって、水中油滴エマルジョンが平衡状態にあり、全体として動力学的に安定であるが、熱力学的に不安定である明確な二相系である」と認められるので、両者は、水不混和性溶媒中に溶解したプロポフォールを水によって乳化し、界面活性剤を用いて安定化した水中油滴エマルジョンを含む、非経口投与用無菌薬剤組成物であって、前記水中油滴エマルジョンが平衡状態にあり、全体として動力学的に安定であるが、熱力学的に不安定である明確な二相系である前記組成物である点で一致し、後者が、その構成成分として「偶発的な外部からの汚染後の少なくとも24時間、微生物の有意な増殖を防止するために充分なエデテート量」を含んでいない点で、両者は相違する。
以下この相違点について検討する。
特許異議申立人は、エデテートに抗菌活性があるという証拠として、甲第2号証及び甲第3号証を提示しているが、甲第2号証及び甲第3号証には、「EDTA単独で使用して完全な殺菌を達成することはできない」(記載5)、「EDTAには有用な抗菌特性があり、化粧品及び医薬品に使用することができる他の化学的保存剤と相乗作用を示す」(記載6)、「EDTA単独でから総合的な殺菌作用を期待すべきでない」(記載7)、及び 「グラム陽性菌は、EDTAに対して有意な感受性を示さない。」(記載8)と記載されており、甲第2号証及び甲第3号証には、EDTAの抗菌活性を利用するには、他の化学的保存剤と併用して使用する旨記載されているだけであって、エデテート単独で、微生物の有意な増殖を防止するために使用できることは記載も示唆もされていない。
特許異議申立人は、フェノール系化合物であるプロポフォールをEDTAと組み合わせて抗菌活性を高めている旨主張しているが、プロポフォールに抗菌作用があることの根拠はないから、該主張は採用できない。
次に、甲第4号証は、EDTAの使用量を示すために提示された証拠であるが、同号証の記載は、ガラス容器内における血球細胞の大きさの測定に用いられる抗菌剤に関するものであって、EDTAの抗菌活性に関する記載も臨床では問題とならない真菌ペシロミセスに対する抗菌活性しか示されておらず、EDTAを非経口投与用無菌薬剤組成物の微生物の有意な増殖を防止するために使用できることは記載も示唆もされていない。
また、甲第5号証は、グリセロールが等張化剤として使用されることを示すための証拠であり、甲第6号証は、プロポフォール含有水中油滴エマルジョンの構成成分である水不混和性溶媒の含有量を示すための証拠であり、いずれもエデテートを微生物の有意な増殖を防止するために使用することを裏付けるものではない。
甲第1号証において、組成物に金属封鎖剤としてエデチック酸ナトリウムを添加している実施例は、「ミクロエマルジョン」である例2組成物以外にない。例7組成物は前記したとおり「エマルジョン」であるところ、エマルジョンは熱力学的に不安定であるので、例7組成物への添加剤の添加は油滴を凝集させる可能性があることは容易に予測し得ることである。例7組成物は非経口投与用無菌薬剤として使用されるものであって、油滴の凝集は患者に重大な悪影響を及ぼすものであることを考慮すると、熱力学的に安定なミクロエマルジョンである例2組成物においてエデチック酸ナトリウムを添加していることから直ちに、例7組成物にエデテートを添加することが容易であるということはできない。
したがって、例7組成物において、エデテートを、偶発的な外部からの汚染後の少なくとも24時間、微生物の有意な増殖を防止するために使用することは、甲各号証の記載を参照しても当業者が容易になし得ることとは認められない。
したがって、請求項1に係る発明が甲第1号証〜甲第6号証に係る発明から容易に発明をすることができたということはできない。
(4-2-2)請求項2〜50(請求項43及び請求項44は取消理由通知書で特許法第29条第2項の対象)
請求項2〜50に係る発明も、その構成要件として、エデテート、水中油滴エマルジョン、及び非経口投与用無菌薬剤を有しているので、請求項2〜50に係る発明は、前記請求項1について記載したとおり、甲第1号証〜甲第6号証に係る発明から容易に発明をすることができたということはできない。

3.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては本件請求項1〜50に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜50に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2005-03-28 
出願番号 特願平8-528148
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61K)
P 1 651・ 113- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 森井 隆信  
特許庁審判長 竹林 則幸
特許庁審判官 谷口 博
深津 弘
登録日 2000-05-19 
登録番号 特許第3067806号(P3067806)
権利者 アストラゼネカ・ユーケイ・リミテッド
発明の名称 プロポフォールとエデテートとを含有する水中油滴エマルジョン  
代理人 千葉 昭男  
代理人 吉岡 正志  
代理人 富田 博行  
復代理人 渡邉 潤三  
代理人 江尻 ひろ子  
代理人 増井 忠弐  
代理人 小林 泰  
代理人 社本 一夫  

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