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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F16C
管理番号 1116206
異議申立番号 異議2003-71395  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-10-13 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-05-26 
確定日 2005-05-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第3349679号「磁気軸受装置及びこれを備えた真空ポンプ」の請求項1〜4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3349679号の請求項1〜4に係る特許を維持する。 
理由 I.手続きの経緯
本件特許3349679号の請求項1〜4に係る発明についての出願は、平成11年3月31日に出願され、平成14年9月13日に、その発明について特許権の設定登録がなされ、その特許について、平成15年5月26日に特許異議申立人・竹野哲雄(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成15年10月21日に特許異議意見書が提出されたものである。

II.特許異議の申立てについての判断
1.特許異議の申立ての理由の概要
申立人は、本件特許の請求項1〜4に係る発明は、下記甲第1〜5号証刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである、と主張している。
(1)甲第1号証:特開昭52-60492号公報
(2)甲第2号証:特開平11-37087号公報
(3)甲第3号証:特開平10-259793号公報
(4)甲第4号証:特開昭60-45792号公報
(5)甲第5号証:特開平4-164187号公報

2.本件特許発明
本件特許の請求項1〜4に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」〜「本件特許発明4」という。また、それらを総称して、「本件特許発明」という。)は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される下記のとおりのものである。
「【請求項1】
ステータコイルを有するモータで回転駆動されるロータシャフトを能動型磁気軸受を含む磁気軸受で回転自在に支持した磁気軸受装置において、前記能動型磁気軸受の電磁石並びにその変位センサとを環状保持部材に装着し且つ樹脂モールドで被覆成形して構成した電磁石ユニットと、前記ステータコイルをその環状保持部材に装着し且つ樹脂モールドで被覆成形して構成したステータコイルユニットを、円筒状ステータコラム内に順に嵌合して配置したことを特徴とする磁気軸受装置。
【請求項2】
ステータコイルを有するモータで回転駆動されるロータシャフトを能動型スラスト磁気軸受と第1と第2の能動型ラジアル磁気軸受で回転自在に支持した磁気軸受装置において、前記第1の能動型ラジアル磁気軸受の電磁石並びにその半径方向変位センサとを第1の環状保持部材内に装着し且つ樹脂モールドで被覆成形して構成した第1の電磁石ユニットと、前記ステータコイルを環状ヨーク部材内に装着し且つ樹脂モールドで被覆成形して構成したステータコイルユニットと、前記第2の能動型ラジアル磁気軸受の電磁石並びにその半径方向変位センサとを第2の環状保持部材内に装着し且つ樹脂モールドで被覆成形して構成した第2の電磁石ユニットを、円筒状ステータコラム内に順に嵌合して配置したことを特徴とする磁気軸受装置。
【請求項3】
成形された樹脂モールドの軸方向の厚みを前記環状保持部材の軸方向の長さよりもわずかに薄くしたことを特徴とする請求項1又は請求項2の磁気軸受装置。
【請求項4】
軸受に請求項1又は請求項2の磁気軸受装置を備えたことを特徴とする真空ポンプ。」

3.通知した取消しの理由に引用した本件の出願の日前に頒布された刊行物に記載された発明及び記載事項
(1)刊行物1:特開昭52-60492号公報(申立人が甲第1号証として提出)
(2)刊行物2:特開平11-37087号公報(同甲第2号証)
(3)刊行物3:特開平10-259793号公報(同甲第3号証)
(4)刊行物4:特開昭60-45792号公報(同甲第4号証)
(5)刊行物5:特開平4-164187号公報(同甲第5号証)

(刊行物1)
刊行物1には、「研削盤用工具保持スピンドル装置」に関し、下記の技術的事項が記載されている。
(a)「本発明は特に研削盤用工具保持スピンドル装置に関する。」(第1頁右下欄第3〜4行)
(b)「外被13はといし車15側に位置するその前端に環状当接肩部13aが設けられ、これに外被13の内側表面にねじ付けられたリング17によって電磁ラジアル軸受16の環状電機子16aの強磁性部分が当接する。」(第2頁右下欄第16〜20行)
(c)「外被13はその後部に内方当接肩部13bを具え、これに第2電磁ラジアル軸受23の環状電機子の強磁性部分が当てられる。」(第3頁左上欄第16〜18行)
(d)「スラスト軸受28の・・・強磁体28dは一方の側は絶縁リング32を介在させてラジアル軸受23の電機子23aと、また他側は絶縁リング34を介して外被13にスクリュ付されたリング33とに対し軸方向に保持される。」(第3頁左下欄第1〜11行)
(e)「ラジアル軸受16および23の電機子16aおよび23a間の外被の中間部分にはチューブ体35が取付けられている。ラジアル軸受16と組合わされた電磁半径方向検知器36の電機子36a、電気モータ37の誘導子37aおよびラジアル軸受23と組合わされた電磁半径方向検知器の電機子38aはチューブ体35の内側円筒表面に前方から後方へ上記の順序で取付けられる。」(第3頁左下欄第12〜20行)
刊行物1に記載の磁気軸受装置は、電気モータ37の誘導子37aと電磁半径方向検知器36、38の電機子36a、38aとをチューブ体35に組付けてステータコイルユニットとして外被13内に嵌合して配置し、その両側にラジアル軸受16、23の電磁石16a、23aとを外被13の内面に嵌合して、スクリュ付けされたリング17、33などにより位置決めする構成となっている。この際、スクリュウネジ等により位置決めする以上、外被13内に、「焼ばめ」によらず、ステータコイルユニット及び両側の電磁石を嵌合して配置したものであることが明らかである。
したがって、刊行物1には、上記摘記事項(a)〜(e)の記載からみて、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
【引用発明】
電気モータ37により回転駆動される軸11をラジアル磁気軸受16、23とスラスト軸受28により回転自在に支持する磁気軸受装置において、第1のラジアル磁気軸受16の電磁石と、電磁半径方向検出器36、38の電機子36a、38aと電気モータ37の誘導子37aをチューブ体35に装着して構成したステータコイルユニットと、第2のラジアル磁気軸受23の電磁石とを、外被13内に嵌合して配置した磁気軸受装置。

(刊行物2)
刊行物2には、「分子ポンプ」に関し、下記の技術的事項が記載されている。
(f)「本発明は薄膜製造装置等に必要な高真空を発生させる分子ポンプ、特に大きな熱負荷を受ける用途に好適な分子ポンプに関する。
分子ポンプにはターボ分子ポンプ、ねじ溝真空ポンプ及びこれら両者を組合わせた複合分子ポンプが知られている。」(第2頁第1欄第36〜42行、段落【0001】、【0002】参照)
(g)図1(特許異議申立書(以下、「申立書」という。)の末尾に添付された甲第2号証の図1の拡大図を参照)の記載から、ラジアル磁気軸受電磁石5a、モータステータ5b、ハウジング5等が記載され、モータステータ(コイル)5bは環状保持部材(1)(○の中に数字の1、以下同様)に装着されてハウジング5の内面に嵌合されて配置されているとともに、ラジアル磁気軸受の電磁石5aも、モータステータ(コイル)5bの両側に、ハウジングの内面に嵌合されて配置されていることが看取できる。
図2には、ラジアル磁気軸受の電磁石コイル(図中×印で示されている)の周囲にハッチングが施されていることが看取できる。
同様に、図1には、磁気軸受の電磁石コイル(図中×印で示されている)とモータのステータコイル(図中×印で示されている)の周囲(2)(○の中に数字の2、以下同様)にハッチングが施されていることが看取できる。
また、図1から、上側電磁石5aのコイル(図中×印で示されている)を覆うハッチング部分(2)Aとステータ5bのコイル(図中×印で示されている)を覆うハッチング部分(2)Bの間には線が入っていること、及び、同様に、下側電磁石5aのハッチング部分(2)Dと、ステータ5bのハッチング部分(2)Cとの間にも線が入っていることから、それぞれ独立した部材であることが看取できる。
(h)また、図1(申立書の末尾に添付された甲第2号証の図1の拡大図を参照)の記載からみて、ラジアル磁気軸受電磁石5aは、その鉄心をハウジング5の内周面に当接して配置されていることが看取できる。

(刊行物3)
刊行物3には、「分子ポンプ」に関し、下記の技術的事項が記載されている。
(i)「本発明はエッチング装置やCVD装置等において凝縮性を有する気体を排気するのに好適なターボ分子ポンプ又は複合分子ポンプ等の分子ポンプに関する。」(第2頁第1欄第22〜25行、段落【0001】参照)
(j)図1(申立書の末尾に添付された甲第3号証の【図1】の拡大図を参照)の記載から、シャフト5の周囲には上から、上部ラジアル磁気軸受の電磁石(4)(○の中に数字の4、以下略)、モータステータ(5)、下部ラジアル磁気軸受の電磁石(6)がハウジング7の内周面に嵌合して配置されていることが看取できる。
(k)また、図1(申立書の末尾に添付された甲第3号証の図1の拡大図を参照)の記載からみて、上部ラジアル磁気軸受の電磁石(4)は、その鉄心をハウジング7の内周面に当接して配置されていることが看取できる。

(刊行物4)
刊行物4には、「ターボ分子ポンプ」に関し、下記の技術的事項が記載されている。
(l)「本発明は核物理研究用の粒子加速器、核融合研究実験装置、電子顕微鏡、表面分析装置、半導体製造装置としてのイオン注入装置やスパッタリング装置等種々の装置において高真空を得るためのターボ分子ポンプに関する。」(第1頁右下欄第2〜7行)
(m)「6、7はラジアル磁気軸受、8はスラスト磁気軸受を示し、該ラジアル磁気軸受6は前記内部ハウジング2内の上方部に、ラジアル磁気軸受7は該内部ハウジング2内の中間部に、スラスト磁気軸受8は該内部ハウジング2内でこれら磁気軸受6、7の中間にそれぞれ設けられており、又前記ラジアル磁気軸受6及び7にはそれぞれ互いに直角方向の位置のずれを検出するセンサー6a及び7aを一組ずつ備え、前記スラスト磁気軸受8には軸方向の位置ずれを検出するセンサー8aを備えており」と記載されている(部品番号のカッコ書きを省略。第2頁左下欄第5〜18行)。
(n)第2図(申立書の末尾に添付された甲第4号証の図2の拡大図を参照)から、このラジアル磁気軸受の電磁石6および変位センサ6aはそれぞれ環状保持部材(14)(15)(○の中に数字の14、15、以下略)に装着されて内部ハウジング2の上半部ハウジング2aに取り付けられていること、ラジアル磁気軸受の電磁石7および変位センサ7aは環状保持部材(16)(17)に装着されて、内部ハウジング2の下半部ハウジング2bに取り付けられていること、及び、ラジアル磁気軸受の電磁石6は、ラジアル磁気軸受の電磁石7の上部に位置決めされるスラスト磁気軸受8にバネ状部材(18)を介して付勢されることにより、上半部ハウジング2aの端面に押し付けられて位置決めされていることが看取できる。
(o)第2図(申立書の末尾に添付された甲第4号証の図2の拡大図を参照)から、環状保持部材(14)(15)は、電磁石6用の環状の保持部材(14)、及びそれとは別体の変位センサ用の環状の保持部材(15)であることが看取できる。また、環状保持部材(16)(17)は、電磁石7用の環状の保持部材(16)、及びそれとは別体の変位センサ用の環状の保持部材(17)であることが看取できる。

(刊行物5)
刊行物5には、「ターボ分子ポンプ」に関し、下記の技術的事項が記載されている。
(p)「本発明は、ドライエッチングを行う半導体製造装置などに使用されるターボ分子ポンプに係り、特にポンプ本体内に堆積し易い凝縮性ガスを排気する際、あるいは多量のガスを排気する際に好適となる磁気軸受方式のターボ分子ポンプに関するものである。」(第1頁左下欄第14〜19行)
(q)「シャフト5は、上下一対のラジアル磁気軸受6、7および軸端部のスラスト磁気軸受8によって完全非接触に支持されている。6a、7a、8aはこれらの軸受6、7、8を制御するためのギャップセンサである。また、Mはモータである。」(第1頁右下欄第18行〜第2頁左上欄第3行)
(r)第5図の記載からみて、このラジアル磁気軸受6の電磁石およびギャップ(変位)センサ6aはキャップ形状の環状保持部材に装着されて内部ハウジングの上部に取り付けられており、ラジアル磁気軸受7の電磁石およびギャップセンサ7aは円筒形状の環状保持部材に装着されて内部ハウジング内に挿入されてモータMのステータの下部に取り付けられていることが看取できる。
また、ラジアル磁気軸受6は、キャップ形状の環状保持部材に形成されている肩部に電磁石を当接させるとともに、その環状保持部材を内部ハウジングに形成されている肩部に当接させることにより嵌合・位置決めされている。同様に、ラジアル磁気軸受7は、円筒形状の環状保持部材に形成されている肩部に電磁石を当接させるとともに、その円筒形状の環状保持部材を内部ハウジングに形成されている肩部に当接させることにより嵌合・位置決めされていることが看取できる。

4.対比・判断
(1)本件特許発明1について
本件特許発明1と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能に照らして、引用発明の「電気モータ37」は本件特許発明1の「モータ」に相当し、以下同様に、「軸11」は「ロータシャフト」に、「ラジアル磁気軸受16、23とスラスト軸受28」は「能動型磁気軸受」に、「電磁半径方向検出器36、38の電機子36a、38a」は「変位センサ」に、「電気モータ37の誘導子37a」は「電機モータのステータコイル」に、「チューブ体35」は「環状保持部材」に、「外被13」は「円筒状ステータコラム」に、それぞれ相当するので、両者は下記の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
ステータコイルを有するモータで回転駆動されるロータシャフトを能動型磁気軸受を含む磁気軸受で回転自在に支持した磁気軸受装置において、前記能動型磁気軸受の電磁石と、前記ステータコイルをその環状保持部材に装着したステータコイルユニットとを、円筒状ステータコラム内に嵌合して配置した磁気軸受装置。
<相違点>
(相違点1)
電磁石に関し、本件特許発明1は、「能動型磁気軸受の電磁石並びにその変位センサとを環状保持部材に装着し且つ樹脂モールドで被覆成形して構成した電磁石ユニット」であるのに対し、引用発明は、ラジアル磁気軸受16、23の電磁石並びにその電磁半径方向検出器36、38の電機子36a、38aを具備する点。
(相違点2)
ステータコイルユニットに関し、本件特許発明1は、「ステータコイルをその環状保持部材に装着し且つ樹脂モールドで被覆成形して構成したステータコイルユニット」であるのに対し、引用発明は、電気モータ37の誘導子37aをチューブ体35に装着して構成した点。
(相違点3)
本願特許発明1は、「電磁石ユニット」と「ステータコイルユニット」を「円筒状ステータコラム内に順に嵌合して配置し」ているのに対し、引用発明は、電磁石とステータコイルユニットを外被13内に嵌合して配置した点。
そこで、まず、上記相違点1について検討する。
(相違点1について)
申立人は、刊行物2の記載に関し、「これらのハッチングは、当業者の常識からすると、樹脂モールドを意味する。」(申立書第7頁第27、28行)、「このことから、磁気軸受電磁石5aとモータのステータ5bは、個々に樹脂モールドされてユニット化され、ハウジング5内に順に嵌合して配置されていることが推認される。」(申立書第8頁第6〜8行参照)、「甲第2号証には『電磁石ユニット』や『ステータコイル』を分割ユニット毎に樹脂モールドすることが記載されている。このように真空ポンプの磁気軸受装置において、部品を樹脂モールドしてユニット化することは、公知・慣用の技術である。」(申立書第13頁第17〜20行参照)等と主張しているが、刊行物2において、図1の記載からみて、磁気軸受5aの電磁石は、その鉄心をハウジング5の内周面に当接して配置されている(上記摘記事項(h)参照)ことから、磁気軸受5aの電磁石を装着するためのユニット化に不可欠な環状保持部材を具備していない。したがって、刊行物2には能動型磁気軸受の電磁石並びにその変位センサとを環状保持部材に装着し且つ樹脂モールドで被覆成形して構成した電磁石ユニットの構成、すなわち、上記相違点1に係る本件特許発明1に係る構成は記載も示唆もされていない。

申立人は、刊行物3の記載に関し、「電磁石(4)の上には、変位センサと見られる部材(7)が配置されている。また同様に、電磁石(6)の下には、変位センサと見られる部材(10)が配置されている。なお、『変位センサ』はラジアル磁気軸受には必須の部材であり、電磁石の近辺に配置されていることから、この部材(7)(10)は変位センサであると考えざるを得ない。そして、電磁石(4)と変位センサ(7)とは環状保持部材(8)により一体化(ユニット化)されている。同様に、電磁石(6)と変位センサ(10)は環状保持部材(11)により一体化(ユニット化)されている。」(申立書第8頁第16〜23行参照)、「甲第3号証及び甲第5号証には、『ラジアル磁気軸受の電磁石と変位センサとを環状保持部材に装着し、ユニット化した』例が開示されている。」(申立書第13頁第4〜6行参照)等と主張しているが、刊行物3において、図1の記載からみて、部材(7)及び部材(10)は、ハッチングをされた部材であることは理解できるものの、変位センサ(7)(10)かどうかは必ずしも明確であるとはいえないし、また、磁気軸受電磁石(4)は、その鉄心をハウジング7の内周面に当接して配置されている(上記摘記事項(k)参照)ことから、磁気軸受電磁石(4)を装着するためのユニット化に不可欠な環状保持部材を具備していない。したがって、刊行物3には能動型磁気軸受の電磁石並びにその変位センサとを環状保持部材に装着し且つ樹脂モールドで被覆成形して構成した電磁石ユニットの構成、すなわち、上記相違点1に係る本件特許発明1に係る構成は記載も示唆もされていない。

申立人は、刊行物4の記載に関し、「このことから、これらラジアル磁気軸受6の環状保持部材(14)(15)とスラスト磁気軸受8とラジアル磁気軸受の電磁石7の環状保持部材(16)(17)は順に突き当たるまで挿入して、バネ状部材18により軸方向に位置決めする嵌合構造となっていることが推認される。」(申立書第9頁第23〜27行参照)、「甲第3号証及び甲第5号証には、『ラジアル磁気軸受の電磁石と変位センサとを環状保持部材に装着し、ユニット化した』例が開示されている。」(申立書第13頁第4〜6行参照)等と主張しているが、刊行物4において、環状保持部材(14)(15)は、電磁石6用の環状の保持部材(14)、及びそれとは別体の変位センサ用の環状の保持部材(15)であり、電磁石並びにその変位センサを1つのユニットとするための環状保持部材ではない。また、環状保持部材(16)(17)についても同様の理由により電磁石並びにその変位センサを1つのユニットとするための環状保持部材ではない(上記摘記事項(o)参照)。したがって、刊行物4には能動型磁気軸受の電磁石並びにその変位センサとを環状保持部材に装着し且つ樹脂モールドで被覆成形して構成した電磁石ユニットの構成、すなわち、上記相違点1に係る本件特許発明1に係る構成は記載も示唆もされていない。

申立人は、刊行物5の記載に関し、「ラジアル磁気軸受6、7とモータMのステータはユニット化されて、内部ハウジングにキャップ形状の環状保持部材と円筒形状の環状保持部材をオス・メス嵌合することにより軸方向に位置決めする嵌合構造となっていることが推認される。」(申立書第10頁第21〜24行参照)、「甲第3号証及び甲第5号証には、『ラジアル磁気軸受の電磁石と変位センサとを環状保持部材に装着し、ユニット化した』例が開示されている。」(申立書第13頁第4〜6行参照)等と主張しているが、刊行物5には、ラジアル磁気軸受6、7とモータMのステータを樹脂モールドで被覆成形してユニット化したことは記載も示唆もされていない。したがって、刊行物5には能動型磁気軸受の電磁石並びにその変位センサとを環状保持部材に装着し且つ樹脂モールドで被覆成形して構成した電磁石ユニットの構成、すなわち、上記相違点1に係る本件特許発明1に係る構成は記載も示唆もされていない。

上記相違点1に係る本件特許発明1の構成を有することにより、本件特許発明1は特許明細書に記載の格別顕著な作用効果を奏するものであるから、上記相違点2及び3について審究するまでもなく、本件特許発明1は、刊行物1〜5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件特許発明2〜4について
本件特許の請求項2は、実質的に、本件特許発明1の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加して構成を限定したものに相当するものである。
また、本件特許の請求項3及び4は、独立請求項である請求項1又は2の従属請求項であり、本件特許発明3及び4は、本件特許発明1又は2の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加して構成を限定したものに相当するものである。
そして、本件特許発明1は、上記「(1)本件特許発明1について」に示した理由により、刊行物1〜5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件特許発明2〜4に係る発明も、同様の理由により、刊行物1〜5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

5.特許異議の申立てについてのむすび
以上のとおり、本件特許の請求項1〜4に係る発明は、上記刊行物1〜5(申立人が提出した甲第1号証〜甲第5号証刊行物)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

III.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由によっては本件特許の請求項1〜4に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1〜4に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2005-04-19 
出願番号 特願平11-92049
審決分類 P 1 651・ 121- Y (F16C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 森川 元嗣  
特許庁審判長 前田 幸雄
特許庁審判官 杉山豊博
常盤 務
登録日 2002-09-13 
登録番号 特許第3349679号(P3349679)
権利者 BOCエドワーズ株式会社
発明の名称 磁気軸受装置及びこれを備えた真空ポンプ  
代理人 白石 吉之  
代理人 田中 秀佳  
代理人 松下 義治  
代理人 江原 省吾  
代理人 熊野 剛  
代理人 城村 邦彦  
代理人 山根 広昭  

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