• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1116215
異議申立番号 異議2003-73314  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-03-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-24 
確定日 2005-04-21 
異議申立件数
事件の表示 特許第3451739号「ポリオレフィン組成物」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3451739号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。 
理由 [1]手続きの経緯
特許第3451739号の請求項1〜3に係る発明についての出願は、平成6年9月13日に特許出願され、平成15年7月18日に特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について、特許異議申立人 渡辺俊郎より特許異議の申立がなされ、平成16年9月15日付で取消の理由が通知され、その指定期間内である平成16年11月26日に特許異議意見書が提出されたものである。

[2]本件発明
本件特許第3451739号の請求項1〜3に係る発明は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により構成される次のとおりのものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】平均粒子径が600〜1300μで300μ以下の微粒子の割合が10重量%以下のオレフィン重合体粒子(I)100重量部に、平均粒子径が1.0〜4.0μ、見掛比重が0.22〜0.50g/cm3 の二酸化珪素微粉末(II)0.05〜0.60重量部を配合し、溶融混練したことを特徴とするポリオレフィン組成物。
【請求項2】オレフィン重合体粒子(I)がプロピレン重合体粒子であることを特徴とする請求項1記載のポリオレフィン組成物。
【請求項3】二酸化珪素微粉末(II)の平均粒子径が1.5〜4.0μ、見掛比重が0.22〜0.40g/cm3 であり、オレフィン重合体粒子(I)100重量部に対する二酸化珪素微粉末(II)の配合量が0.10〜0.30重量部であることを特徴とする請求項1又は2記載のポリオレフィン組成物。

[3]特許異議申立の理由
特許異議申立人は甲第1〜6号証を提出し、概略次の理由により本件請求項1〜3に係る発明についての特許は取り消されるべきものであると主張する。
1.本件請求項1〜3に係る発明は、本出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3項の規定により特許を受けることができないものである。
2.本件請求項1〜3に係る発明は、本出願前に頒布された甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
3.本件明細書には、「平均粒径600〜1300μで300μ以下の微粒子の割合が10重量%以下」であるオレフィン重合体をどのように製造するのか一切説明がされていない。また、本件明細書の実施例5と比較例5、実施例6と比較例6は見掛比重以外の条件が同一でなく、効果を客観的に評価できない。したがって、本件請求項1〜3に係る発明は、当業者がその発明を容易に実施し得るように明細書に記載されておらず、本件特許は特許法第36条第4項に規定する要件を満足しない出願に対してされたものである。

[4]取消理由の概要
取消理由通知の概要は、本件請求項1〜3に係る特許は次の2つの理由により取り消すべきであるというものである。
1.取消理由1(請求項1〜3について)
刊行物1〜6には特許異議申立書第4頁6行〜9頁1行に指摘されている発明が記載されていると認められ、特許異議申立書12頁4行〜14頁2行に示されている理由により、本件請求項1〜3に係る発明は当業者にとって容易に想到し得るものである。
したがって、本件請求項1〜3に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
刊行物1:特開平4-288353号公報(特許異議申立人の提出した甲第1号証)
刊行物2:特開平6-166775号公報(同、甲第2号証)
刊行物3:特開平5-9349号公報(同、甲第3号証)
刊行物4:特開昭57-3840号公報(同、甲第4号証)
刊行物5:特開昭57-18747号公報(同、甲第5号証)
刊行物6:特開昭56-72034号公報(同、甲第6号証)
2.取消理由2
本件明細書には、特許異議申立書9頁2行〜10頁下から3行に示される理由の記載不備があり、本件請求項1〜3に係る発明の特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。

[5]取消理由1(特許法第29条第2項)についての判断
〈1〉刊行物の記載
以下の刊行物には以下に述べることが記載されている。
刊行物1:特開平4-288353号公報(特許異議申立人:渡辺俊郎の提出した甲第1号証)
(1)【特許請求の範囲】
「【請求項1】走査型電子顕微鏡法による平均一次粒子径(D1)が100乃至270nmで、見掛比重(JISK6220法)が0.24乃至0.55g/cm3 で、BET法比表面積が200乃至500m2 /gであり、BET法比表面積から算出されるシリカ素粒子径(D0)が5乃至15nmで、且つ〔平均一次粒子径(D1)〕÷〔シリカ素粒子径(D0)〕の比で定義されるアグロメレ-ト化度(DA)が10乃至50の範囲にあることを特徴とする非晶質シリカ系充填剤。
【請求項2】コ-ルターカウンター法による平均二次粒子径が1乃至5μmであることを特徴とする請求項1記載の非晶質シリカ系充填剤。
【請求項3】吸油量(JISK5101法)が50乃至120ml/100gであることを特徴とする請求項1記載の非晶質シリカ系充填剤。
【請求項4】請求項1記載の非晶質シリカから成ることを特徴とする樹脂フイルム用アンチブロッキング剤。
【請求項5】請求項4記載のアンチブロッキング剤を熱可塑性樹脂100重量部当たり0.01乃至5重量部を添加して成ることを特徴とする熱可塑性樹脂フイルム。」
(2)【0010】
「従って本発明の目的は、ハンドリング性、加工性、分散性に優れ、しかも装置等の摩耗損傷を低減させる非晶質シリカ系充填剤を提供するものであり、更にまた樹脂フイルムのアンチブロッキング性(AB性)は勿論のこと、分散性、透明性、に優れ、しかも製品フイルム面にフイルム同士の擦り合わせ時に擦りキズを起こさぬ耐擦傷性に優れた樹脂フイルム用の非晶質シリカ系アンチブロッキング剤及びこれを用いた熱可塑性樹脂フイルムを提供するものである。」(第3頁左欄13〜21行)
(3)【0013】
「【作用】本明細書において非晶質シリカについて種々の粒径について言及するが、その測定方法及び意義は次のとうりである。BET法比表面積(m2 /g)をSA、素粒子径(nm)をDとすると、シリカ素粒子径(D0)は、SA=2727÷Dの式から算出される。非晶質シリカ粒子の比表面積はその非晶質シリカ粒子が遊離ケイ酸として析出したときの最小基本粒子径、すなはち素粒子径に依存する。この非晶質シリカ素粒子は本質的に球状であり、単独で存在することなく通常の電子顕微鏡ではその存在は確認できない。平均一次粒子径(D1):非晶質シリカの走査型電子顕微鏡写真から個々の粒子径を実測しその数平均値として求める。素粒子の凝集乃至凝結体からなり、電子顕微鏡的に検出しえる非晶質シリカの最小粒子径である。二次粒子径(D2):非晶質シリカをコールターカウンター法で実測した体積基準のメジアン径である。一次粒子の凝集体からなり非晶質シリカが粉体粒子として実際に挙動する際の粒子径である。」(第3頁左欄38行〜右欄5行)
(4)【0021】
「本発明の非晶質シリカは、一次粒子の凝集の程度が少なくコールターカウンター法による二次粒子径が1乃至5μmの範囲にあり、樹脂中への分散性に優れている。しかも製膜に際してフィシュアイやボイドの発生が少なく、フイルムにしたときの外観特性に特に優れている。」(第4頁左欄12〜17行)
(5)【0030】
「(用途)本発明の非晶質シリカは前述した特性を利用して、種々の熱可塑性樹脂、例えば、結晶性プロピレン共重合体としてプロピレンのホモポリマ、又はエチレン-プロピレン共重合体、低-、中-、高-密度の或いは線状低密度のポリエチレン、イオン架橋オレフィン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体等のオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレ-ト、ポリブチレンテレフタレ-ト等の熱可塑性ポリエステル、6-ナイロン、6、6-ナイロン、6、8-ナイロン等のポリアミド樹脂、塩化ビニル、塩化ビニリデン等の塩素含有樹脂、ポリカ-ボネ-ト、ポリスルホン類等に配合して形成される例えば各種延伸フイルム等の樹脂成形品に、透明性、スリップ性、アンチブロッキング性を与えるために使用することができる。この目的に対して、本発明の非晶質シリカは熱可塑性樹脂100重量部当たり0.01乃至10 重量部、特に1乃至5重量部の量で配合することが出来る。」(第5頁左欄5〜22行)
(6)【0034】
「無延伸ポリプロピレンフィルム(C-PPフイルム)作成
結晶性プロピレン系重合体としてプロピレンの単独重合体(メルトフロレ-トMFR=1.8g/10分、アイソタクチックインデックスI.I.=96.0)とエチレン-プロピレンランダム共重合体(メルトフロレ-トMFR=6.5g/10分、アイソタクチックインデックスI.I.=97.0、エチレン含有量=4.0モル%、ASTM D-3417によるDSC融点=140℃ )の2種類を用いて、それぞれ単独で以下の条件でC-PPフイルムを得た。プロピレン系重合体100部に対してアンチブロッキング剤(以下AB剤という)として非晶質シリカ粉末を0.15部添加した。同時に酸化防止剤として2.6ジタ-シャリ-ブチルパラクレゾ-ル0.15部、ステアリン酸カルシュム0.1部を添加し、ヘンシルミキサ-で1000rpmで分間混合した。次いで65mmφ一軸押出機を用いて230℃で溶融混合してペレット化した。このペレットを用いてT型ダイスを有する35mmφの押出機により230℃で厚さ25μの無延伸フイルム(フイルム試料 F-1)を得た。」(第5頁右欄11〜30行)
(7)【0037】
「(11)フイルムの外観
大きさ20cm×20cmのフイルム表面に見られるフィシュアイまたはボイドを肉眼で観察し、下記の基準で評価した。
◎:フィシュアイまたはボイドが全く見られない。
○:フィシュアイまたはボイドがフイルム全体の約10%以下で認められる。
△:フィシュアイまたはボイドがフイルム全体の約50%に及んでいる。
×:フィシュアイまたはボイドが非常に多く、フイルム全体の約50%以上に及んでいる。
(12)フイルム表面の耐擦傷性
製膜後のロ-ル巻取りフイルム(200m/ロ-ル)を約20m/分の速度で巻戻しを3回行ない、下記の基準で評価した。
○:傷の程度がごく僅かか全く発生していない。
△:傷の発生が明かに認められるが、全体に及んでいない。
×:傷の発生が非常に多く、実用上使用不可能である。
(13)フイルムのヘイズ(%)
ASTM-D 1003-61の方法により、スガ試験機社製の直読式ヘイズメ-タ-を用いて霞み度を測定した。
…………………
(14)耐ブロッキング性(AB性:g/cm)
2枚のフイルムを接触面積が10cm2 となるように重ねて、2枚のガラス板の間に挟み、50g/cm2 の過重を掛けて40℃×24時間放置する。放置後、東洋精機製の摩擦係数測定装置で上層のフイルムと下層のフイルムが剥がれるときの最大過重を測定する。
フイルム試料 F-1:50℃×7日
フイルム試料 F-2:50℃×30日」(第6頁左欄17行〜右欄6行)
(8)【0049】
「 【表1】
各種非晶質シリカの物性
実施例 1 1 1 2 3 4 4
試料 1 2 3 4 5 6 7
pH … … … … … … …
吸油量(…) … … … … … … …
比表面積(…) … … … … … … …
見掛比重
(g/cm3 )0.321 … … … 0.272 … 0.523
平均二次粒子径 1.8 … … … 2.8 … 4.1
(μm)
平均一次粒子径:… … … … … … …
D1(nm)
素粒子径:
D0(nm) … … … … … … …
アグロメレ … … … … … … …
-ト化度:
(D1/D0=DA)
………………………………………………………」(第7〜8頁)
(9)【0050】
「 【表2】
フイルム試料 F-1の評価試験
実施例 1 1 1 2 3 4 4
試料 1 2 3 4 5 6 7
ヘイズ(%) 2.5 … … … 2.7 … 3.2
グロス(%) … … … … … … …
スリップ性※静/ … … … … … … …
動 … … … … … … …
スリップ性※2静/… … … … … … …
動 … … … … … … …
耐ブロッキング 良 … … … 良 … 良
性(g/cm)※3
耐擦傷性 ○ … … … ○ … ○
フイルム外観 ◎ … … … ◎ … ○
………………………………………………………… 」(第8頁)
(10)【0055】
「この充填剤をアンチブロッキング剤として樹脂に添加すると、従来の非晶質シリカ系のアンチブロック剤における種々の欠点を解消して、フィシュアイやボイドを発生させなく、しかも透明性、アンチブロッキング性が著しく向上させることができる。特にデンスでその粒子形状からハンドリング性、加工性がよく、且つフイルム同士の擦り合わせ時にフイルム面に全くキズを付けない耐擦傷性を有する樹脂フイルムが得られる。またこの填剤を用いた熱可塑性樹脂フイルムを提供することができる。」(第10頁左欄21行〜右欄13行)
刊行物5:特開昭57-18747号公報(異議申立人:渡辺俊郎の提出した甲第5号証)
(1)「(1)顆粒状ポリプロピレン100重量部に層状構造を有する無機微粉体0.1〜1.0重量部と2酸化珪素0.01〜0.5重量部とを、無機微粉体/2酸化珪素が1〜50(重量比)の範囲で配合してなるポリプロピレン組成物。
…………………………
(5)2酸化珪素の平均粒子径が0.5〜15μである特許請求の範囲第1項記載の組成物。
(6)組成物が透明性および耐ブロッキング性に優れたフイルム用である特許請求の範囲第1項記載の組成物。」(特許請求の範囲)
(2)「本発明は、ポリプロピレン組成物、特に透視性および耐ブロッキング性に優れたフイルム用のポリプロピレン組成物に関する。」(第1頁右欄19〜第2頁左上欄1行)
(3)「本発明で用いられる顆粒状ポリプロピレンは、100μ以下の粒子体を1重量%以上含まず、好ましくは200μ以下の粒子体を5重量%以下含まないもので、一般には平均粒子径1000μ以下、特に300〜1000μで、見掛比重が0.5g/ml以上のポリプロピレンである。なお、平均粒径はふるい法により測定した重量平均で示した。
本発明の顆粒状ポリプロピレンの製法は種々知られているが、例えば、特開昭………号等に示される如く、高活性触媒例えば粒子径10〜50μで比表面積が60m2 /g以上の三塩化チタンを用いる場合は、粒度分布が比較的シャープなポリプロピレンを得ることができる。」(第2頁左下欄15行〜同頁右下欄10行)
(4)「また、他方のブロッキング防止剤成分である2酸化珪素は、商品名”エアロジル 200”(日本エアロジル(株)社製)で代表される乾式法で製造されるもの、ホワイトカーボン、シリカゲルのように湿式法で製造されるものいずれも使用できるが、特にその平均粒径が0.5〜15μ(コールターカウンター法により測定し重量平均径で表示した。)の範囲にあるのが好ましい。」(第3頁右上欄11〜19行)
(5)「また、実施例で使用した顆粒状ポリプロピレンは次表のものである。
性状 MI 平均 直径 直径 ロージンラムラ
粒子径 100μ 1200μ ーの式
(μ) 以下の 以上の 粒度 均等数
粒子 粒子 特性数 (n)
種類 (wt%) (wt%) (Dl)
ポリプロ 2.0 370 0.05 0.1 400 4.5
ピレン
(A)
ポリプロ 2.0 580 0.02 0.1 620 6
ピレン
(B) 」(第4頁左上欄16行〜右上欄)
(6)「 第1表
組成物 フィルム性状
No. ポリプロ 2酸化珪素 無機微粉体 … 透視性 … かすみ度
ピレンの (%)
種類 平均 配合量
粒径 (部)
… … … … ……… … … … …
実施例
1 A 2 0.03 ……… … 20 … 1.6
… … … … ……… … … … …
4 A 2 0.1 ……… … 16 … 2.1… … … … ……… … … … …
10 A 3 0.05 ……… … 18 … 1.5
」(第5頁)

〈2〉特許法第29条第2項の判断
〈2-1〉本件請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という、請求項2及び3についても同様)について
刊行物1の【特許請求の範囲】には
「【請求項1】走査型電子顕微鏡法による平均一次粒子径(D1)が100乃至270nmで、見掛比重(JISK6220法)が0.24乃至0.55g/cm3 で、BET法比表面積が200乃至500m2 /gであり、BET法比表面積から算出されるシリカ素粒子径(D0)が5乃至15nmで、且つ〔平均一次粒子径(D1)〕÷〔シリカ素粒子径(D0)〕の比で定義されるアグロメレ-ト化度(DA)が10乃至50の範囲にあることを特徴とする非晶質シリカ系充填剤。
【請求項2】コ-ルターカウンター法による平均二次粒子径が1乃至5μmであることを特徴とする請求項1記載の非晶質シリカ系充填剤。
……………………………………
【請求項4】請求項1記載の非晶質シリカから成ることを特徴とする樹脂フイルム用アンチブロッキング剤。
【請求項5】請求項4記載のアンチブロッキング剤を熱可塑性樹脂100重量部当たり0.01乃至5重量部を添加して成ることを特徴とする熱可塑性樹脂フイルム。」と記載されている。
刊行物1の請求項5に係る発明は、アンチブロッキング剤を熱可塑性樹脂100重量部当たり0.01〜5重量部添加したものであるところ、請求項4によれば該アンチブロック剤は非晶質シリカから成るものである。
また、発明の詳細な説明の段落【0030】によれば、熱可塑性樹脂の例示として、プロピレンのホモポリマー、エチレン-プロピレン共重合体、等のオレフィン系樹脂が挙げられている。ここで、シリカとは二酸化珪素のことであるから、刊行物1の請求項には「オレフィン重合体100部に二酸化珪素が0.01〜5重量部配合された組成物」の発明が記載されているといえる。
また、刊行物1の実施例にはプロピレン単独重合体あるいはエチレンプロピレン-ランダム共重合体等のプロピレン系重合体にアンチブロッキング剤として非晶質シリカを0.15部配合したものが記載され(段落【0034】)、段落【0013】には、「平均一次粒子径(D1):………素粒子の凝集体からなり、電子顕微鏡的に検出し得る非晶質シリカの最小粒径である。二次粒子径(D2):非晶質シリカをコールターカウンター法で実測した体積基準のメジアン径である。一次粒子の凝集体からなり非晶質シリカが粉体粒子として実際に挙動する際の粒子径である。」と記載され、実際に粉体粒子として挙動する際の粒径は二次粒子径であるから、この二次粒子径は本件発明1の平均粒子径に相当するものといえる。
さらに、本件発明1の平均粒子径もコールター・カウンターマルチサイザーで測定したもので、両者の粒径の測定方法が同一であることからも、刊行物1の平均二次粒子径が本件発明1の平均粒子径に該当するといえる。
そして、刊行物1の【請求項2】で規定する非晶質シリカの平均二次粒子径は1乃至5μmで(実施例では1.8〜4.1μm、【表1】参照)、本件発明1の二酸化珪素微粉末の平均粒子径1.0〜4.0μと重複一致する。
また、刊行物1の【請求項1】で規定する非晶質シリカの見掛比重は0.24乃至0.55g/cm3 で(実施例では0.272〜0.532g/cm3 、【表1】参照)、本件発明1の二酸化珪素微粉末の見掛け比重0.22〜0.50g/cm3 と重複一致し、さらに、刊行物1の【請求項5】で規定する非晶質シリカの配合量も(オレフィン系樹脂100重量部に対し)0.01乃至5重量部で(実施例では0.15部、【0034】参照)、本件発明1のオレフィン重合体100重量部に対する二酸化珪素微粉末の配合量0.05〜0.6部と重複一致している。
なお、刊行物1の非晶質シリカが微粉末であるとの記載はないものの、その平均二次粒径が1乃至5μであることから判断して、上記非晶質シリカが微粉末であることは自明である。
また、刊行物1に記載された発明は、段落【0010】に「従って本発明の目的は、ハンドリング性、加工性、分散性に優れ、しかも装置等の摩耗損傷を低減させる非晶質シリカ系充填剤を提供するものであり、更にまた樹脂フイルムのアンチブロッキング性(AB性)は勿論のこと、分散性、透明性、に優れ、しかも製品フイルム面にフイルム同士の擦り合わせ時に擦りキズを起こさぬ耐擦傷性に優れた樹脂フイルム用の非晶質シリカ系アンチブロッキング剤及びこれを用いた熱可塑性樹脂フイルムを提供するものである。」と記載されているように、アンチブロッキング性(AB性)、透明性、耐擦傷性に優れたものを提供することを目的とするものである。
そして、段落【0021】に「本発明の非晶質シリカは、一次粒子の凝集の程度が少なくコ-ルタ-カウンタ-法による二次粒子径が1乃至5μmの範囲にあり、樹脂中への分散性に優れている。しかも製膜に際してフィシュアイやボイドの発生が少なく、フイルムにしたときの外観特性に特に優れている。」と記載されているように、フィシュアイやボイドの発生が少なく、フイルムにしたときの外観特性に特に優れているものであることも記載され、実施例においても、透明性に対応するヘイズ(%)、耐ブロッキング性(g/cm)、耐擦傷性、フイルム外観(フィシュアイで判断)等についてのテスト結果(【表2】参照)が示され、それが裏付けられている。
一方、本件発明1も、段落【0001】に記載されているように、フイルムの外観、透明性、耐ブロッキング性、耐傷付き性の良好なポリオレフィン組成物を提供するものであるから、両者の発明の目的とするところに差異はないといえる。
そうしてみると、両者の発明は「オレフィン重合体粒子(I)100重量部に、平均粒子径が1.0〜4.0μ、見掛比重が0.22〜0.50g/cm3 の二酸化珪素微粉末(II)0.05〜0.60重量部を配合し、溶融混練したことを特徴とするポリオレフィン組成物。」である点で一致し(なお、配合に際し溶融混練することは当然且つ自明のことを記載したにすぎない。)、本件発明1が「平均粒子径が600〜1300μで300μ以下の微粒子の割合が10重量%以下のオレフィン重合体粒子」を使用するのに対し、刊行物1に記載された発明では単にプロピレンのホモポリマーなどのオレフィン系樹脂を使用すると記載されている点で相違している。
そこで、上記相違点が当業者にとって容易になしえるものか否かを以下に検討する。
刊行物5の請求項1には「(1)顆粒状ポリプロピレン100重量部に層状構造を有する無機微粉体0.1〜1.0重量部と2酸化珪素0.01〜0.5重量部とを、無機微粉体/2酸化珪素が1〜5.0(重量比)の範囲で配合してなるポリプロピレン組成物。」と記載され、顆粒状ポリプロピレン100重量部に対し2酸化珪素を0.01〜0.5重量部配合したポリプロピレン組成物が記載されており、実施例では(ポリプロピレン100重量部に対して)2酸化珪素を0.03〜0.1部配合した例が記載されている(「第1表」参照)。
また、刊行物5の請求項5には2酸化珪素の平均粒径が0.5〜15μであることが記載され、実施例で具体的に使用されているものは平均粒径が2〜3μであることも示されている(「第1表」参照)。
そして、この刊行物5に記載された2酸化珪素のポリプロピレン100重量部に対する配合量及び平均粒径は、本件発明1や刊行物1に記載された発明の二酸化珪素配合量及び平均粒子径と重複一致するものである。
また、刊行物5の請求項6には、請求項1の組成物が透明性および耐ブロッキング性に優れたフィルム用であることも記載され、このような性質は刊行物1に記載されたフィルムの目的とする性質でもある。
そうしてみると、このような刊行物5記載の組成物の技術的構成や目的、組成物の用途等は、刊行物1に記載された発明とも共通するものである。
してみれば、上記相違点の容易性を判断するに当たり、刊行物5と刊行物1とを結びつけることを否定する技術的な事項の存在は認められない。
そして、刊行物5には「本発明で用いられる顆粒状ポリプロピレンは、100μ以下の粒子体を1重量%以上含まず、好ましくは200μ以下の粒子体を5重量%以下含まないもので、一般には平均粒子径1000μ以下、特に300〜1000μで、見掛比重が0.05g/ml以上のポリプロピレンである。なお、平均粒径はふるい法により測定した重量平均で示した。
本発明の顆粒状ポリプロピレンの製法は種々知られているが、例えば、特開昭………号等に示される如く、高活性触媒例えば粒子径10〜50μで比表面積が60m2 /g以上の三塩化チタンを用いる場合は、粒度分布が比較的シャープなポリプロピレンを得ることができる。」と記載され、刊行物5で使用するポリプロピレンは顆粒状であり、平均粒径も300〜1000μであり、高活性触媒で製造され、粒度分布がシャープで、「200μ以下の粒子体を5%重量以下含まない」ものが対象であることが記載されている。
なお、この記載において、「200μ以下の粒子体を5重量%以下含まない」と記載されているが、「100μ以下の粒子体を1重量%以上含まず」との記載から見て、また、「粒度分布が比較的シャープな」との記載からすれば当然200μ以下は少量であるから、この記載は「200μ以下の粒子を5%以下しか含まない」と解するのが技術常識から見て合理的である。
一方、本件発明1で使用するポリオレフィン重合体粒子も平均粒子径が600〜1300μであり、刊行物5記載の顆粒状ポリプロピレンの平均粒径300〜1000μと粒径において重複一致し、さらに、本件発明1では微粒子の割合を300μ以下が10重量%以下と規定しているが、刊行物5のポリプロピレンも顆粒状粒子であり、100μ以下を1重量%以上含まず、200μ以下の粒子を5重量%以下しか含まないものであるから、微粒子の割合の規定の仕方が若干相違するものの、200μ以下の粒子を5重量%以下しか含まないのであれば、300μ以下の粒子が10重量%以下程度であることが示唆されているともいえる。
そうであれば、刊行物1のオレフィン系樹脂として、刊行物5に記載された平均粒子径を有し且つ刊行物5から示唆される程度の微粒子の割合を有する顆粒状ポリプロピレンを使用すること、即ち、600〜1000μの平均粒径を有し、また300μ以下が10重量%以下の割合で有するポリプロピレンの粒子を使用すること、は当業者が容易に想到し得る程度のことであるといわざるを得ない。
そして、本件発明1のフィルムの外観、透明性、耐ブロッキング性、耐傷付き性等の目的や効果については、刊行物1に記載された発明でも同様なことを目的とし、同様の項目についてテストが行われその効果が確認されているのであるから、刊行物1と刊行物5を組み合わせた組成物についても、これらの項目についてテストをしてみることは当業者が当然行うことであり、その結果がすべての項目である程度満足すべき結果が得られたとしても、それが当業者にとって特に困難で予期しがたいものであるとはいえない。
本件明細書の実施例の表3を見ると、参考例1はヘイズ(透明性)や耐ブロッキング性で本件発明1の実施例1〜3のものに較べて優れた値が示されているが、参考例1はオレフィン重合体粒子として平均粒子径が320μで微粒子含有量が37重量%のものを使用しているが、これは本件発明1の平均粒子径の下限である600μ及び300μ以下の微粒子含有量の上限10%とは大きくかけ離れており、しかも、参考例1では二酸化珪素についても見掛比重が0.13で本件発明の二酸化珪素の見掛比重の下限0.22とも大きく離れており、敢えて本件発明1をその発明とは大きく離れたものと比較して効果に相違が出たとしても、それをもって、本件発明1が平均粒径600μ〜1300μで、300μ以下の微粒子が10重量%以下と限定したことによる臨界的な効果があるということはできない。
以上のとおりであるから、本件発明1は本出願前に頒布された刊行物1及び刊行物5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

〈2-2〉本件発明2について
本件発明2は本件発明1に対し、オレフィン重合体粒子が(I)がポリプロピレン重合体粒子であると限定されているが、刊行物1にはオレフィン系樹脂の例示としてプロピレンのホモポリマーやエチレン-プロピレン共重合体が挙げられ、実施例においてもプロピレン単独重合体やエチレン-プロピレンランダム共重合体を使用することが記載されているのであるから、この限定によって、本件発明1と刊行物1に記載された発明との一致点、相違点は、本件発明1の場合と異なるものではない。
よって、〈2-1〉で述べた理由により、本件発明2も刊行物1及び刊行物5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得るものである。

〈2-3〉本件発明3について
本件発明3は本件発明1に対し、二酸化珪素粉末(II)について、その平均粒径、見掛け比重、配合量等の数値範囲を若干狭め、それぞれ1.5〜4.0μ、0.22〜4.0g/cm3 、0.1〜0.30重量部と限定している。
しかし、刊行物1にはそれらの数値についてそれぞれ、1乃至5μm(二次粒子径、請求項2、実施例では1.8〜4.1μm)、0.24乃至0.55g/cm3 (請求項1、実施例では0.272〜0.523g/cm3 )、0.01乃至5重量部(請求項5、実施例では0.15部)と記載され、両者の数値範囲は重複一致しており、この限定によっても、本件発明1と刊行物1に記載された発明との一致点、相違点は、本件発明1の場合と異なるものではない。
よって、〈2-1〉で述べた理由により、本件発明3も刊行物1及び刊行物5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得るものである。

[5]むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1〜3に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4項第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
異議決定日 2005-03-02 
出願番号 特願平6-219119
審決分類 P 1 651・ 121- Z (C08L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 三谷 祥子  
特許庁審判長 松井 佳章
特許庁審判官 船岡 嘉彦
佐野 整博
登録日 2003-07-18 
登録番号 特許第3451739号(P3451739)
権利者 住友化学株式会社
発明の名称 ポリオレフィン組成物  
代理人 中山 亨  
代理人 久保山 隆  
代理人 榎本 雅之  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ