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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200235248 審決 特許
無効200480273 審決 特許
無効200580231 審決 特許
無効200680157 審決 特許
無効200580136 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A23G
管理番号 1116732
審判番号 無効2004-80096  
総通号数 67 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-01-07 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-07-13 
確定日 2005-03-28 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3512523号発明「餡製品」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3512523号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3512523号の請求項1に係る発明についての出願は、平成7年6月22日に特願平7ー155827号として出願され、平成16年1月16日に特許の設定登録がなされ、これに対して、ホクレン農業協同組合連合会より平成16年7月13日に特許無効審判の請求がなされ、平成16年11月12日付けで被請求人明治製菓株式会社より訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否に対する判断
2-1 訂正の内容
特許請求の範囲の請求項1に記載の「結晶ケストースを、練り上げ重量に対して1〜70重量%含有することを特徴とする餡製品。」を、
「甘味料としてケストースのみを含んでなり、かつ、結晶ケストースの重量としてケストースを、練り上げ重量に対して1〜70重量%含有することを特徴とする餡製品。」と訂正する。

2-2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正における「甘味料としてケストースのみを含んでなり、」は、餡製品に含まれる甘味料がケストースのみからなることに限定しようとするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当する。また、上記訂正における「かつ、結晶ケストースの重量としてケストースを、」は、餡製品に含まれるケストースの含量が餡製品製造の際に使用される結晶ケストース量に基づいて規定されるものであることをより明確にしたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。
そして、上記「甘味料としてケストースのみを含んでなり、」については、本件明細書の段落【0006】に「甘味料として・・・結晶ケストースを用いることにより、・・・」とあり、また、本件明細書の段落【0011】ないし【0013】の実施例1及び2に、甘味料として結晶ケストースのみを使用して練り羊かんを製造することが記載されているから、また、上記「かつ、結晶ケストースの重量としてケストースを、」についても、本件明細書の段落【0009】に「例えば結晶ケストースの場合においては練り上げ重量に対し1〜70重量%とすることが好ましい。」と記載され、上記実施例1及び2にも使用した結晶ケストースの使用量と練り上げ重量が数値でもって記載され、餡製品に含まれるケストースの含量が餡製品製造の際に使用される結晶ケストース量に基づいて規定されることは明らかであるから、上記訂正事項は、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものである。
また、上記訂正事項は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

2-3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求は、特許法第134条の2第5項の規定によって準用する特許法第126条第3項及び4項の規定に適合するので、請求のとおり当該訂正を認める。

3.当事者の主張
3-1 請求人の主張
請求人は、「特許第3512523号は、これを無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として下記甲第1号証ないし甲第7号証を提出して、下記の無効理由1ないし8を挙げている。
(1)無効理由1
本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないものであり、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(2)無効理由2
本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(3)無効理由3
本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載のうち「結晶ケストースを、練り上げ重量に対して1〜70重量%含有する」については、発明の詳細な説明に記載されていないから、特許法第36条第5項第1号及び第6項に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
(4)無効理由4
本件特許の特許請求の範囲の請求項1に記載の「餡製品」では、練り上げてない餡製品も包含され、この練り上げてない餡製品については発明の詳細な説明に記載されていないから、特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第5項第1号及び第6項に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
(5)無効理由5
本件特許の発明の詳細な説明の実施例3の練り上げてなく、練り上げ重量を有しない水羊かんに関する記載と、特許請求の範囲の請求項1の練り上げていて練り上げ重量を有する餡製品(練り羊かんを含む)の記載とは、一致せず矛盾しているから、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
(6)無効理由6
本件特許の発明の詳細な説明の実施例4の並餡に関する記載と、発明の詳細な説明の効果などに関する記載とは、一致せず矛盾しているから、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
(7)無効理由7
本件特許の発明の詳細な説明の目的、効果などに関する記載は不明瞭であるから、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
(8)無効理由8
本件特許の特許請求の範囲の請求項1に記載された「結晶ケストース」について、発明の詳細な説明には当業者が容易にその実施ができる程度に、その発明の構成、効果が記載されておらず、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

甲第1号証:特開昭58-40065号公報
甲第2号証:特開平4-235192号公報
甲第3号証:特開平6-62807号公報
甲第4号証:特開昭61-96942号公報
甲第5号証:講談社編「ホーム・クッキング・第7巻・お菓子」株式会
社講談社、昭和36年11月20日発行、第171頁中段
6〜7行
甲第6号証:石崎利内著「新和菓子大系・上巻」第6巻、株式会社製菓
実験社、昭和62年11月28日発行、第90頁
甲第7号証:特許第3512523号公報(本件特許公報)

3-2 被請求人の主張
一方、被請求人は、下記乙第1号証ないし乙第3号証を提出して、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1に係る発明の特許を無効とすることはできない旨主張している。

乙第1号証:吉藤幸朔著「特許法概説」第12版、有斐閣、1997年
12月20日発行、267〜269頁
乙第2号証:「新・かんてんなんでも百科」、主婦の友出版サービス
センター、1988年12月9日発行、“水羊かんの
作り方”
乙第3号証:「餡ハンドブック」、光琳書院、1975年11月30日
発行、306頁

4.本件発明
訂正後の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、訂正後の明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次ぎのとおりのものである。
「甘味料としてケストースのみを含んでなり、かつ、結晶ケストースの重量としてケストースを、練り上げ重量に対して1〜70重量%含有することを特徴とする餡製品。」

5.甲各号証の記載事項
甲第1号証には、下記(a)〜(g)の事項が記載されている。
(a)「1) 組成物中、シュークロースにフラクトースが1〜4分子結合したオリゴ糖類を含有する低カロリー甘味料。」(特許請求の範囲第1項)
(b)「組成物中、シュークロースにフラクトースが1〜4分子結合したオリゴ糖類を含有する低カロリー甘味料を使用することを特徴とする低カロリー飲食物の製造法。」(特許請求の範囲第2項)
(c)「さらに本組成物は低カロリーであるとともに、良質な甘味、適度なボディー感、保湿性等の甘味料としてのすぐれた特性をも有するものである。以上のように、成分中にシュークロースにフラクトースが1分子〜4分子結合したオリゴ糖を含有する組成物(以下、低カロリー甘味料と称す。)は、低カロリーの甘味組成物であり、この組成物はシュークロースにフラクトシルトランスフェラーゼを作用させることによつて得ることができる。」(2頁右上欄3〜11行)
(d)「このようにして得られた低カロリー甘味料の組成は、たとえばグルコース30%、シュークロース11%、GF2 28%、GF3 25%、GF4 5%、GF51%であるが、それぞれの構成糖の組成は反応条件により種々の値をとり得る。」(3頁右上欄4〜8行)
(e)「・・・シュークロースを100とした場合、・・・、フラクトオリゴ糖類のみから成る低カロリー甘味料の甘味は30〜60である。このような甘味料は単糖類から5糖類の混合物または3糖類から5糖類の混合物であるために、シュークロースに近い粘度を有し、保型性、保湿性等の食品加工上必要な物理化学的諸性質も、従来食品加工上に用いられている糖類、糖アルコール類の示す諸物性の範囲にあるので、これを甘味料として用いることにより飲食物に甘味を付与すると共に食品加工上必要とされる諸物性を飲食物に付与することもできる。」(3頁右下欄4〜15行)
(f)「表-2から明らかなように、1-ケストース、ニストースおよび1F-フラクトフラノシル-ニストースからの血糖の上昇は認められなかった。このことは本発明のフラクトオリゴ糖が体内で吸収させず、したがって実質的にはカロリーとならないことを示している。」(4頁右下欄5〜10行)
(g)「次に、本発明に係る低カロリー甘味料を飲食物の製造に応用した例につき述べる。なお、本実施例において用いた低カロリー甘味料の組成は下記の通りである。
甘味料A:グルコース36%、フラクトース2%、シュークロース10%、1-ケストース23%、ニストース24%、1F-フラクトフラノシル-ニストース6%
甘味料B:1-ケストース45%、ニストース46%、1F-フラクトフラノシル-ニストース9%
実施例2 ねりようかんの製造
寒天12gを3時間水に浸漬した後、水を切り、これを破砕した。次いで水260mlを加え、これを加熱溶解した。これに甘味料A(水分25%w/w)960gを加え、寒天が完全に溶解したのち濾過する。この寒天を火にかけ、生あん500gを加えて混和し糖度70〜71%にまで煮つめた後、流し箱に入れて固めようかんとした。なお、対照として甘味料Aの代りに砂糖720gを用いて同様にしてねりようかんを製造した。甘味料Aを用いたねりようかん100gのカロリーは155calであり、対照区のカロリーは266calであった。」(5頁右上欄3行〜左下欄7行)
甲第2号証には、下記(h)〜(l)の事項が記載されている。
(h)「(1) 純度95%以上の1-ケストースを主体とし、不純物がニストース、およびシュークロースからなる柱状結晶体。」(特許請求の範囲の請求項1)
(i)「(3) 純度80%以上の1-ケストースを主成分として含む水溶液にメタノールを加え、乾固し、さらにメタノールを加えることにより析出する結晶を回収することを特徴とする純度90%以上の1-ケストース結晶の製造方法。」(特許請求の範囲の請求項3)
(j)「1-ケストースはいわゆるフラクトオリゴ糖の一種であり、蔗糖のフラクトシル基の1位の炭素原子にフラクトースがβ‐1、2結合した3糖類のオリゴ糖類である。・・・近年、この1-ケストースを含んだフラクトオリゴ糖が、難う蝕性であること、及び人体に消化されないビヒズス菌活性因子であることにより注目されている。」(1頁右下欄10〜17行)
(k)「しかしながら、上記構成の従来のフラクトオリゴ糖混合品の粉末品は、アモルファス形態の粉末であるがゆえに吸湿性が依然としてあり、湿気を嫌う食品、例えば、粉末甘味料、インスタントスープ、粉末ジュース等の長期保存を前提とする食品にそのままの形で使用することは不都合であった。・・・そこで、本発明は湿気を嫌う食品にもそのままのかたちで使用できる、吸湿性のない高純度の1-ケストース結晶を提供することを目的とする。」(2頁左上欄15行〜右上欄9行)
(l)「上記方法により得られる結晶のうち、純度95〜99%の1-ケストースについては、6カ月間の外気にさらしても吸湿しなかった。また、不純物も主としてニストースと痕跡程度のシュークロースであるので、食品に添加使用可能である。」(3頁右下欄6〜10行)
甲第3号証には、「1-ケストースは、シュークロースやグルコースに比べて甘みが少なく、即ち、シュークロースの甘味度を1.0とした場合、ソルビトールは0.5、グルコースは0.7とされており、これらの値に対して1-ケストースは本件出願人の官能検査結果によれば0.3〜0.4であり、・・・」(2頁2欄37〜42行)と記載されている。
甲第4号証には、「これらフラクトオリゴ糖が有する物性や生理作用が検討され、フラクトオリゴ糖が難消化性の糖であり、腸内でのビフィズス菌増殖促進作用、コレステロールなどの脂質代謝改善効果、難う蝕性等の優れた生理効果を有することが見出され、さらに砂糖に近い甘味を有している・・・」(2頁左上欄4〜10行)と記載されている。

6.当審の判断
先ず、無効理由2について検討する。
本件発明と甲第1号証に記載の発明を対比すると、後者の「ねりようかん」は前者の「餡製品」に該当し、後者の「1-ケストース」と前者の「ケストース」とは同じ物質であることから、両者は、甘味料としてケストースを含有することを特徴とする餡製品の点で一致する。
また、本件発明は結晶ケストースを添加するものであるが、練り上げ時にはケストースの結晶は消失し、ケストースとして存在するものと認められるが、練り上げ時の「練り上げ重量に対するケストースの含有量」は、両者において重複している。
しかしながら、(1)前者は、甘味料としてケストースのみを含むのに対して、後者では、甘味料としてフラクトオリゴ糖類を含有する甘味料A(グルコース36%、フラクトース2%、シュークロース10%、1-ケストース23%、ニストース24%、1F-フラクトフラノシル-ニストース6%)を含む点、及び(2)前者は、添加するケストースとして結晶ケストースを使用するのに対して、後者には、結晶ケストースを使用することについて記載されていない点で、両者は相違する。
上記相違点(1)及び(2)について検討する。
本件発明は、甘味料として結晶ケストースを用いることにより、結晶析出による食感の劣化が少なく、保湿性に優れ且つ低カロリー、低甘味、難う蝕性でしかも砂糖に比べて遜色のない味質を有する餡製品が得られるようにしたものである。
これに対して、シュークロースにフラクトースが1分子結合した1-ケストース、2分子のフラクトースが結合したニストース、3分子のフラクトースが結合した1F-フラクトフラノシルニストース等から成るフラクトオリゴ糖組成物が、低カロリーであるとともに、良質な甘味、適度なボディー感、保湿性等の甘味料として優れた特性を有することが甲第1号証に記載され、かつ上記フラクトオリゴ糖組成物の1成分である1-ケストース自体も低カロリー、低甘味であることが甲第1号証及び甲第3号証に記載され、さらに純度95〜99%の1-ケストースの結晶を甘味料として飲食品に使用できることが甲第2号証に記載されていることからすれば、低カロリー、低甘味、難う蝕性等の性質を有する餡製品を製造する目的で、甘味料として甲第1号証に記載の「1-ケストースを含む甘味料A」に代えて、甲第2号証に記載の「1-ケストース結晶」を用いることは、当業者において容易になし得ることである。
この点について、特許権者は平成16年11月12日付け答弁書において、「『吸湿性がない』ことと、『保湿性を示す』ことは、水分移動・交換の観点から相反する作用である。このため、吸湿性がない物質を加えることにより、製造される製品に保湿性を付与することができたことは、当業者にとっては予想外のことであったといえる。」(答弁書6頁19〜22行)及び「甲第2号証には、結晶ケストースが吸湿性がないことのみが開示されているに過ぎないので、優れた保湿性を有する食品を期待して、甲第2号証を甲第1号証に組み合わせること、すなわち、甲第1号証記載の「ねりようかん」等の餡製品において、フラクトオリゴ等(混合物)に代えて、保湿性とは相反する作用を有することが知られている結晶1-ケストースのみを用いること自体、当業者には困難であったことは明らかである。」(同6頁26行〜7頁3行)と主張している。
特許権者が指摘するとおり、甲第2号証には「吸湿性のない高純度の1-ケストース結晶・・・」(2頁右上欄8〜9行)との記載はあるが、この記載の前の「従来のフラクトオリゴ糖混合品の粉末品は、アモルファス形態の粉末であるがゆえに吸湿性が依然としてあり、湿気を嫌う食品、例えば、粉末甘味料、インスタントスープ、粉末ジュース等の長期保存を前提とする食品にそのままの形で使用することは不都合であった。このような問題を解決するためには、吸湿性の少ない高純度の結晶としなければならない・・・」(2頁左上欄15行〜右上欄2行)との記載を踏まえると、上記「吸湿性のない高純度の1-ケストース結晶」との記載は、1-ケストースは粉末状態では吸湿性があり、これを長期保存を前提とする粉末製品として使用することは不都合であるが、これを結晶化すれば吸湿性のない長期保存が可能な1-ケストース製品になることを示しているに過ぎない。
加えて、1-ケストース結晶を添加して練り羊かんを製造する際、1-ケストース結晶は寒天が完全に溶解した沸騰溶液中に添加される(本件明細書の実施例1及び2参照。)以上、その結晶が溶解して消失するのは必然であり、練り羊かん中に1-ケストースが結晶の形で存在していないことは、当業者において直ちに理解できることである。
そうすると、甲第2号証の1-ケストース結晶に関する「吸湿性のない」との記載は、1-ケストース結晶を甘味料として添加した食品についてのものでないことは明らかであるから、かかる記載が、保湿性が求められる練り羊かんに対して1-ケストース結晶を使用することを阻害する要因になるとはいえず、特許権者の上記主張は採用しない。
また、本件発明の効果について検討しても、1-ケストースが低カロリーで、低甘味であることは、上記したとおり甲第1号証及び甲第3号に記載され、1-ケストースを含むフラクトオリゴ糖類が難う蝕性であり、ビフィズス菌の増殖促進作用を有することが甲第2号証及び甲第4号証に記載され、さらに1-ケストースを含むフラクトオリゴ糖類が良質な甘味或いは砂糖に近い甘味を有していることが甲第1号証及び甲第4号証に記載されていることから、本件明細書の段落【0016】に記載の本件発明の効果のうち「低カロリー、低甘味、難う蝕性でしかも砂糖と比べて遜色のない味質を有する餡製品を提供することができ、さらにビフィズス菌の増殖促進を図ることができる」という効果は、これらの刊行物に基づいて当業者が容易に予測できる程度のものである。
また、本件発明に係る「結晶析出による食感の劣化が少なく、保湿性に優れる」という効果についても、本件明細書の実施例1及び表1の記載によれば、結晶ケストースを使用したときの練り羊かんの結晶析出の有無及び保湿性は、メイオリゴP(フラクトオリゴ糖)を使用した場合のそれとほとんど変わらない(保湿性については、むしろ結晶ケストースを用いた方が劣っている)以上、「結晶析出による食感の劣化が少なく、保湿性に優れる」という点で、本件発明に係る餡製品が1-ケストースを含むフラクトオリゴ糖類組成物を使用した甲第1号証に記載のねりようかんに比べて格別優れているとはいえない。
したがって、本件発明は、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

7.むすび
以上のとおりであるから、無効審判請求の他の無効理由1及び無効理由3ないし8を検討するまでもなく、本件請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
餡製品
(57)【特許請求の範囲】
甘味料としてケストースのみを含んでなり、かつ、結晶ケストースの重量としてケストースを、練り上げ重量に対して1〜70重量%含有することを特徴とする餡製品。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、フラクトオリゴ糖を含有する餡製品あるいはフラクトオリゴ糖の1成分である結晶ケストースを含有する餡製品に関する。特に結晶析出による食感の低下が無くしかも保湿性に優れ、且つフラクトオリゴ糖の機能性をも有する餡製品に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
餡は羊かん、饅頭などの和菓子、菓子パン等に広く利用されている代表的な原料である。従来の餡は甘味・おいしさの付与、保存性の向上等のために多量の砂糖を使用している。
【0003】
しかし多量の砂糖を使用していることにより、保存中に砂糖の結晶が析出し、餡のつやが消失して見た目が悪くなり、ざらつくために食感が劣化する等の問題があり、また水分の低下によりぱさぱさした食感になるなど保湿性の面でも問題があった。これらの対処法として例えば餡に大豆蛋白抽出残渣を添加する方法がある(特開昭59-88046号公報)が、味質、色調等の点から本来の餡とは異なったものとなり必ずしも満足のいくものではない。
【0004】
一方、近年のダイエット志向に基づく摂取カロリーの低減、あるいは嗜好の多様化に伴う甘さ離れ、さらにはう蝕性等の見地から、餡製品の分野においても砂糖の使用量をどのように減らすか、あるいは砂糖に替わる他の甘味料をいかに使用するかが課題となってきている。例えばマルチトール及びグリチルリチンを使用した羊かんの例かあるが(特公昭51-34470号公報)、味質等の点で問題があった。
【0005】
そこで結晶析出による食感の劣化が少なく、保湿性に優れ且つ低カロリー、低甘味、難う蝕性でしかも砂糖と比べて遜色のない味質を有する餡製品の開発が望まれていた。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意研究を重ねた結果、甘味料としてフラクトオリゴ糖またはフラクトオリゴ糖の1成分である結晶ケストースを用いることにより、結晶析出による食感の劣化が少なく、保湿性に優れ且つ低カロリー、低甘味、難う蝕性でしかも砂糖と比べて遜色のない味質を有する餡製品が得られることを見出し本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、フラクトオリゴ糖を含有する餡製品あるいはフラクトオリゴ糖の1成分である結晶ケストースを含有する餡製品に関する。フラクトオリゴ糖はショ糖のフラクトース残基に1〜3分子のフラクトースが結合した糖の混合物である。ケストースはこの中で1分子のフラクトースが結合した3糖類であり、いわゆる1-ケストースのことをいう。2分子のフラクトースが結合したニストース、3分子のフラクトースが結合した1F-フラクトフラノシルニストースと共に、ケストースはビフィズス菌増殖促進作用、整腸作用、難う蝕性等の優れた生理効果を有し、且つ低カロリー、低甘味であることが知られている。
【0008】
本発明者らは、フラクトオリゴ糖の新たな用途、中でも結晶ケストースの新たな用途についてかねてより研究してきたが、これらを用いた餡製品に関する報告は今までにはなく、しかも結晶析出による食感の劣化、保湿性、低カロリー、低甘味、難う蝕性、味質等の諸課題を解決したことにおいては、本発明を最初とする。結晶ケストースの製法については、例えば以下のような報告がある。Methods in Carbohydrate Chemistry,p363-364,Academic Press,Inc.
【0009】
本発明の餡製品においては、甘味料としてフラクトオリゴ糖または結晶ケストースのいずれを用いてもよい。特に結晶ケストースはショ糖よりも溶解度が高く温度による溶解度差が小さいため、結晶析出の観点から好適であり、また保存時の吸湿の問題もないため、作業工程の上からも好ましい。フラクトオリゴ糖または結晶ケストースの含有量は、餡製品の種類、物性、甘味度等を考慮して適宜選択し得るが、例えば結晶ケストースの場合においては練り上げ重量に対し1〜70重量%とすることが好ましい。1重量%未満であると、本発明としての効果が得られにくくなる。なお本発明の目的から逸脱しない範囲であれば、低甘味、低カロリー、難う蝕性等の性質を有するその他の甘味料の1種又は2種以上を併用してもよい。
【0010】
【実施例】
以下、実施例をあげて具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0011】
実施例1 練り羊かんの結晶析出及び保湿性試験
粉末寒天3部を冷水250部に約1時間漬け、火にかける。沸騰して寒天が溶解したら糖類250部を加えさらに加熱する。105℃まで煮詰め、これに小豆生餡250部を加え、加熱する。練り上げ重量500部になったら、容器に流し練り羊かんの評価試料とした。なお糖類は結晶ケストース、フラクトオリゴ糖(メイオリゴP(純度95%以上)、明治製菓製)、ショ糖の3種類についてそれぞれ試料を作成した。保存条件は裸品を25℃、相対湿度50%で保存し、経時的に結晶析出及び保湿性を比較した。表1に示す通り、結晶ケストース並びにフラクトオリゴ糖を使用した場合は結晶析出が見られず、また保湿性においてもショ糖に比べ良好な結果を示した。
【0012】
【表1】

【0013】
実施例2
寒天フレーク5部を冷水230部に約1時間漬け、火にかける。沸騰して寒天が完全に溶解したら、結晶ケストース390部を入れさらに沸騰させ105℃まで煮詰め、これに小豆生餡225部を加え加熱する。練り上げ重量560部になったら、容器に流し入れ練り羊かんを調製した(ケストース 69.6%)。
【0014】
実施例3
寒天フレーク12部を冷水1200部に約1時間漬け、火にかける。沸騰して寒天が完全に溶解したら、結晶ケストース150部、ショ糖150部を入れさらに沸騰させ、糖が溶解したら、小豆生餡1400部を入れ、さらに食塩5部を加え全体の重量が2700部になったら、容器に流し入れ水羊かんを調製した(ケストース 5.6%)。
【0015】
実施例4
冷水500部に結晶ケストース20部、ショ糖680部と小豆生餡400部を入れ火にかける。充分に沸騰したら小豆生餡600部を加え、さらに沸騰させる。全体の重量が1700部になったら火を止め、小豆並餡を調製した(ケストース 1.2%)。
【0016】
【発明の効果】
本発明に従えば、甘味料としてフラクトオリゴ糖またはフラクトオリゴ糖の1成分である結晶ケストースを用いることにより、結晶析出による食感の劣化が少なく、保湿性に優れ且つ低カロリー、低甘味、難う蝕性でしかも砂糖と比べて遜色のない味質を有する餡製品を提供することができる。さらにビフィズス菌の増殖促進、便通の改善等をもはかることができ、肥満の解消や防止あるいは健康促進に大いに貢献するものである。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2005-01-26 
結審通知日 2005-01-28 
審決日 2005-02-15 
出願番号 特願平7-155827
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (A23G)
最終処分 成立  
特許庁審判長 田中 久直
特許庁審判官 河野 直樹
鵜飼 健
登録日 2004-01-16 
登録番号 特許第3512523号(P3512523)
発明の名称 餡製品  
代理人 宮嶋 学  
代理人 横田 修孝  
代理人 吉武 賢次  
代理人 宮嶋 学  
代理人 伊藤 武泰  
代理人 吉武 賢次  
代理人 紺野 昭男  
代理人 岩瀬 真治  
代理人 紺野 昭男  
代理人 横田 修孝  
代理人 伊藤 武泰  

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