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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01L
管理番号 1116755
審判番号 不服2002-24136  
総通号数 67 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-06-18 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-12-13 
確定日 2005-05-09 
事件の表示 平成 6年特許願第321508号「ディーゼルエンジンの可変弁タイミングリフト装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 6月18日出願公開、特開平 8-158830〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成6年11月30日の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成14年8月26日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載される、次のとおりのものと認められる(以下、この発明を単に「本願発明」という。)。
「【請求項1】1気筒あたり1以上設けられた吸気弁又は排気弁に対し、低速カム及び高速カムが並設されたカム軸と、該カム軸と平行する支軸に中央部にて揺動自在に配設され、且つ一腕に備えたローラを前記低速カムと当接し、他腕を前記吸気弁又は排気弁に当接したローラ式低速ロッカアームと、該低速ロッカアームと隣接して前記支軸上に揺動自在に配設され、且つ一腕に備えたローラを前記高速カムと当接し、他腕をロストモーション機構を介して前記低速ロッカアームの他腕と当接したローラ式高速ロッカアームとから成り、前記低速、高速ロッカアームの両ローラ軸を中空とし、低速ロッカアームのローラ軸には該ローラ軸とほぼ同長で他方のローラ軸側へ油圧で押圧する切換えピンを内装するとともに、高速ロッカアームのローラ軸には前記切換えピンと当接して該ピンをばねにより低速ロッカアームのローラ軸側に押圧し、前記切換えピンに油圧がかからぬとき切換えピンとの接触点が前記両ローラ軸の境目にあるようなストッパピンを内装したことを特徴とするデイーゼルエンジンの可変弁タイミングリフト装置。」

2.引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である、実願平5-946号(実開平6-58107号)のCD-ROM 、特開昭62-32206号公報、特開平6-93818号公報には、次の事項が記載されている。

ア.1.実願平5-946号(実開平6-58107号)のCD-ROM (以下、「引用例1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
a.「【0014】図5を併せて参照して、カムシャフト26は、シリンダヘッド9と該シリンダヘッド9に結合されるホルダ28とで、クランク軸6の回転軸線と平行な軸線を有して回転自在に支承される。このカムシャフト26には、吸気弁用高速カム29と、一方の吸気弁16に対応して吸気弁用高速カム29の一側に配置される吸気弁用低速カム30と、吸気弁用高速カム29に関して吸気弁用低速カム30とは反対側で他方の吸気弁16に対応して配置される吸気弁用休止カム31と、吸気弁用低速カム30および吸気弁用休止カム31の両側で両排気弁20,20に個別に対応して配置される排気弁用カム32,32とがそれぞれ固設される。【0015】吸気弁用高速カム29は、機関の高速運転域で両吸気弁16,16を開閉作動せしめるための形状を有するものであり、カムシャフト26の軸線を中心とする円弧状のベース円部29aと、該ベース円部29aから半径方向外方に張出す高位部29bとを有する。吸気弁用低速カム30は、機関の低速運転域で一方の吸気弁16を開閉作動せしめるための形状を有するものであり、カムシャフト26の軸線を中心とする円弧状のベース円部30aと、カムシャフト26の半径方向外方へのベース円部30aからの張出量を吸気弁用高速カム29の高位部29bよりも小とするとともに該高位部29bよりも狭い中心角範囲にわたってベース円部30aから張出した高位部30bとを有する。・・・」(段落【0014】〜【0015】。なお、下線は引用箇所の理解の便のために当審で付した。以下同様。)
b.「・・・第1吸気弁側ロッカアーム33は一方の吸気弁16に連動、連結され、第3吸気弁側ロッカアーム35は他方の吸気弁16に連動、連結され、第2吸気弁側ロッカアーム34は第1および第3吸気弁側ロッカアーム33,35間に配置される。第1〜第3吸気弁側ロッカアーム33〜35は、カムシャフト26の斜め上方位置でホルダ28に固定的に支持された吸気弁側ロッカアームシャフト37で揺動自在に支承される。・・・」(段落【0016】)
c.「第1吸気弁側ロッカアーム33において、その揺動軸線すなわち吸気弁側ロッカアームシャフト37の軸線に関して吸気弁16とは反対側の端部には、吸気弁用低速カム30に摺接する円筒状の回転体45が回転自在に支承され、第2吸気弁側ロッカアーム34において、その揺動軸線に関して両吸気弁16,16とは反対側の端部には吸気弁用高速カム29に摺接する円筒状の回転体46が回転自在に支承され、・・・」(段落【0018】)
d.「第1吸気弁側ロッカアーム33には、第2吸気弁側ロッカアーム34側に開放した有底の嵌合穴49が吸気弁側ロッカアームシャフト37と平行に穿設され、第2吸気弁側ロッカアーム34には、嵌合穴49に対応して両側面に開口する嵌合孔50が穿設され、第3吸気弁側ロッカアーム35には、嵌合孔50に対応して第2吸気弁側ロッカアーム34側に開放した有底の嵌合穴51が吸気弁側ロッカアームシャフト37と平行に穿設される。而して前記嵌合穴49、嵌合孔50および嵌合穴51には、同径である円筒状軸部材52,53,54がそれぞれ嵌合、固定され、円筒状軸部材52〜54と、それらの円筒状軸部材52〜54を同軸に囲繞する回転体45〜47との間には複数のころ55…,56…,57…がそれぞれ介装される。・・・」(段落【0019】)
e.「各吸気弁側ロッカアーム33〜35・・・の上方でホルダ28…上には支持板61が固定されており、この支持板61には、第2吸気弁側ロッカアーム34をその回転体46が吸気弁用高速カム29に摺接する方向に弾発付勢するロストモーション機構62が設けられ、」(段落【0020】)
f.「連動切換機構36は、第3および第2吸気弁側ロッカアーム35,34の連動および連動解除を切換可能な第1切換ピン68と、第2および第1吸気弁側ロッカアーム34,33の連動および連動解除を切換可能な第2切換ピン69と、第1切換ピン68とは反対側で第2切換ピン69に摺接する規制部材70と、規制部材70を第2切換ピン69側に付勢する戻しばね71とを備える。【0022】第1切換ピン68は、第3吸気弁側ロッカアーム35の円筒状軸部材54に摺動可能に嵌合されるものであり、第3吸気弁側ロッカアーム35における嵌合穴51の閉塞端と第1切換ピン68との間には液圧室72が画成される。また第3吸気弁側ロッカアーム35には液圧室72に通じる連通路73が穿設され、吸気弁側ロッカアームシャフト37内には、前記連通路73に常時通じる液圧路74が設けられる。而して該液圧路74は図示しない制御弁を介して液圧源に接続される。【0023】第2切換ピン69は、第2吸気弁側ロッカアーム34の円筒状軸部材53に摺動可能に嵌合され・・・ている。」(段落【0021】〜【0023】)
g.「・・・機関の低速運転域では、連動切換機構36の液圧室72に液圧は作用しておらず、第1および第2切換ピン68,69の摺接面は第3および第2吸気弁側ロッカアーム34,35間に対応する位置に在り、第2切換ピン69および規制部材70の摺接面は第2および第1吸気弁側ロッカアーム34,33間に対応する位置に在る。したがって各吸気弁側ロッカアーム33〜35は相対揺動可能な状態にあり、・・・」(段落【0026】)
h.「機関の高速運転域では、連動切換機構36の液圧室72に高圧の液圧が作用せしめられ、第1切換ピン68は第2切換ピン69を押圧しながら第2吸気弁側ロッカアーム34の円筒状軸部材53に嵌合し、第2切換ピン69は規制部材70を押圧しながら第1吸気弁側ロッカアーム33の円筒状軸部材52に嵌合する。したがって第1〜第3吸気弁側ロッカアーム33〜35は一体的に連結された状態となり、両吸気弁16,16は吸気弁用高速カム29に応じたタイミングおよびリフト量で開閉駆動されることになる。」(段落【0027】)
i.「以上、本考案の実施例を詳述したが、本考案は上記実施例に限定されるものではなく、実用新案登録請求の範囲に記載された本考案を逸脱することなく種々の設計変更を行なうことが可能である。【0036】たとえば一対の機関弁に対応した一対の弁駆動部材を有する動弁装置に本考案を適用することも可能であり、また本考案を排気弁の動弁装置に適用することも可能である。」(段落【0035】〜【0036】)
上記記載事項a〜h及び第1〜5図の記載によれば、引用例1には「1気筒あたり1個設けられた、第1吸気ロッカアーム33側の吸気弁16に対し、吸気弁用低速カム30及び吸気弁用高速カム29が並設されたカムシャフト26と、該カムシャフト26と平行する吸気弁側ロッカアームシャフト37に中央部にて揺動自在に配設され、且つ一腕に備えた円筒状の回転体45を前記吸気弁用低速カム30と当接し、他腕を前記吸気弁16に当接した第1吸気弁側ロッカアーム33と、該第1吸気弁側ロッカアーム33と隣接して前記吸気弁側ロッカアームシャフト37上に揺動自在に配設され、且つ一腕に備えた円筒状の回転体46を前記吸気弁用高速カム29と当接し、ロストモーション機構62と当接した第2吸気弁側ロッカアーム34とから成り、前記第1吸気弁側ロッカアーム33、第2吸気弁側ロッカアーム34の両円筒状軸部材52,53を中空とし、第2吸気弁側ロッカアーム34の円筒状軸部材53には他方のローラ軸側へ油圧で押圧する第2切換ピン69を内装するとともに、第1吸気弁側ロッカアーム33の円筒状軸部材52には前記第2切換ピン69と当接して該第2切換ピン69をばねにより第2吸気弁側ロッカアーム34の円筒状軸部材53側に押圧し、前記第2切換ピン69に油圧による押圧力がかからぬとき第2切換ピン69との接触点が前記両ローラ軸の境目にあるような規制部材70を内装したエンジンの動弁装置。」の発明(以下、「引用例1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。
イ.特開昭62-32206号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
m.「機関の低速運転時には、第4図で示すように連結切換手段21により第1および第2ロッカアーム7,8の連結状態を解除する。すなわち油圧室29の油圧を開放すると、ストッパ24がばね25のばね力により第1ロッカアーム7側に移動し、ピストン23は段部27に当接するまで後退せしめられる。この状態でピストン23およびストッパ24の当接面は第1および第2ロッカアーム7,8の摺接面に対応する位置にあり、したがって第1および第2ロッカーアーム7,8は相互に摺接して相対角変位可能な状態にある。」(第4頁左上欄第12行〜同頁右上欄第3行)
n.「機関の高速運転に際しては、連結切換手段21により、第3図で示すように第1および第2ロッカアーム7,8が連結される。すなわち、油圧室29に油圧が供給されることにより、ピストン23はばね25のばね力に抗してストッパ24を押圧しながら第2ガイド穴35内に嵌入し、ストッパ24が規制段部36に押付けられる。この状態で第1および第2ロッカアーム7,8は相対回動を阻止され、一体的に揺動する。」(第4頁左下欄第1〜9行)
上記記載事項m、n及び第3、4図の記載によれば、引用例2には、「高速用カムと摺接する第2ロッカアーム8と低速用カムと摺接する第1ロッカアーム7とを併設する場合に、第2ロッカアーム8のローラ軸に切換えピンを内装し、第1ロッカアーム7のローラ軸にはストッパピンを内装する」技術(以下、「引用例2記載の技術」という)が記載されているものと認められる。
ウ.特開平6-93818号公報(以下、「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている。
q.「・・・特開昭63-16111号公報においては、図8に示すように、一対の吸気バルブ36、36あるいは排気バルブにそれぞれ対応する一対の低速用カム31a、31bとそれらの間の単一の高速用カム32とをカムシャフト30に形成し、低速用カム31a、31bにより揺動される一対の低速用ロッカアーム33a、33bとそれらの間の高速用カム32により揺動される単一の高速用ロッカアーム34をロッカシャフト35に軸支し、図9(a)、(b)に示すように、各ロッカアーム33a、33b、34が独立して揺動可能な低速時の状態(a)とこれらロッカアーム33a、33b、34を一体的に連結する高速時の状態(b)とに切換可能な連結手段を備えたものが開示されている。・・・【0004】ところが、このような構成では2つの吸気バルブ36を開閉する2つの低速用ロッカアーム33a、33bの間に高速用ロッカアーム34を配設しているので、2つの吸気バルブ36は間隔をあけて配設せざるを得ず、内燃機関のコンパクト化を図れないという問題があり、また低速から高速への切換時に油圧ピストン38、39と隣接するロッカアーム34、33bのシリンダ穴37の周縁との干渉により円滑な切換ができなかったり、摩耗によりガタや異音の発生が避けられないという問題があった。【0005】このような問題を解消する構成として本出願人は先に本発明の対象となる構成の動弁装置を提案した。その構成は低速用カムの係合により揺動してバルブを閉する低速用ロッカアームと、低速用ロッカアームに設けた高速用ロッカアーム収容部に揺動可能に配設されかつ高速用カムの係合により揺動する高速用ロッカアームとを備え、低速用ロッカアームに高速用ロッカアーム収容部を横切るシリンダ穴を設け、このシリンダ穴に低速時の第1の位置と高速時の第2の位置との間で摺動可能でかつ第2の位置のとき高速用ロッカアームが揺動方向に係合する油圧ピストンを挿嵌し、この油圧ピストンに第1の位置のとき高速用ロッカアームが係合しない非係合部を設けたものである」(段落【0002】〜【0005】)
r.「・・・高速用ロッカアーム4は低速用ロッカアーム3に高速用カム12に対応させて切欠形成された高速用ロッカアーム配置部6内に配設されている。この高速用ロッカアーム配置部6の下部には図1に示すようにばね受け7が設けられ、高速用ロッカアーム4とばね受け7の間にばね8が介装されて高速用ロッカアーム4を高速用カム12に向けて揺動付勢している。(詳細については実施例の説明を参照)。」(段落【0013】)
上記記載事項q、及び第8図、第1〜7図(実施例の図)の記載によれば、引用例3には「3個のロッカアームを併設する形式の可変弁装置を、2個のロッカアームを併設する形式の可変弁装置に変更する」技術が記載されている。
また、上記記載事項r、及び第1、7図によれば、「高速ロッカアームをロストモーション機構を介して低速ロッカアームと当接するように配置する」技術が記載されている。

3.対比
本願発明1と引用例1記載の発明とを対比すると、引用例1記載の発明の「1気筒あたり1個設けられた、第1吸気ロッカアーム33側の吸気弁16」は、その機能からみて、本願発明の「1気筒あたり1以上設けられた吸気弁又は排気弁」に相当する。また、上記記載事項hによれば、引用例1記載の発明の「動弁装置」は、その機能からみて、本願発明の「可変弁タイミングリフト装置」に相当する。
同様に、前者の「吸気弁用低速カム30」は後者の「低速カム」に、「吸気弁用高速カム29」は「高速カム」に、「カムシャフト26」は「カム軸」に、「吸気弁側ロッカアームシャフト37」は「支軸」に、「円筒状の回転体45」は「(ローラ式低速ロッカアームの)ローラ」に、「第1吸気弁側ロッカアーム33」は「ローラ式低速ロッカアーム」に、「円筒状の回転体46」は「(ローラ式高速ロッカアームの)ローラ」に、「ロストモーション機構62」は「ロストモーション機構」に、「第2吸気弁側ロッカアーム34」は「ローラ式高速ロッカアーム」に、「円筒状軸部材52」は「(低速ロッカアームの)ローラ軸」に、「円筒状軸部材53」は「(高速ロッカアームの)ローラ軸」に、「第2切換ピン69」は「切換えピン」に、「規制部材70」は「ストッパピン」に、それぞれ相当する。
また、引用例1記載の発明の「ロストモーション機構と当接した」と本願発明の「他腕をロストモーション機構(ロストモーション機構62)を介して前記低速ロッカアーム(第1吸気弁側ロッカアーム33)の他腕と当接した」とは、「ロストモーション機構と当接した」の限りにおいて一致している。さらに、引用例1記載の発明の「高速ロッカアームのローラ軸には他方のローラ軸側へ油圧で押圧する切換えピンを内装するとともに、低速ロッカアームのローラ軸には前記切換えピンと当接して該ピンをばねにより高速ロッカアームのローラ軸側に押圧し、前記切換えピンに油圧による押圧力がかからぬとき切換えピンとの接触点が前記両ローラ軸の境目にあるようなストッパピンを内装した」と本願発明の「低速ロッカアームのローラ軸には該ローラ軸とほぼ同長で他方のローラ軸側へ油圧で押圧する切換えピンを内装するとともに、高速ロッカアームのローラ軸には前記切換えピンと当接して該ピンをばねにより低速ロッカアームのローラ軸側に押圧し、前記切換えピンに油圧がかからぬとき切換えピンとの接触点が前記両ローラ軸の境目にあるようなストッパピンを内装した」とは、「一方のローラ軸には他方のローラ軸側へ油圧で押圧する切換えピンを内装するとともに、他方のローラ軸には前記切換えピンと当接して該ピンをばねにより一方のローラ軸側に押圧し、前記切換えピンに油圧による押圧力がかからぬとき切換えピンとの接触点が前記両ローラ軸の境目にあるようなストッパピンを内装した」の限りにおいて一致している。
したがって、本願発明と引用例1記載の発明とは、「1気筒あたり1以上設けられた吸気弁又は排気弁に対し、低速カム及び高速カムが並設されたカム軸と、該カム軸と平行する支軸に中央部にて揺動自在に配設され、且つ一腕に備えたローラを前記低速カムと当接し、他腕を前記吸気弁又は排気弁に当接したローラ式低速ロッカアームと、該ローラ式低速ロッカアームと隣接して前記支軸上に揺動自在に配設され、且つ一腕に備えたローラを前記高速カムと当接し、ロストモーション機構と当接したローラ式高速ロッカアームとから成り、前記低速、高速ロッカアームの両ローラ軸を中空とし、一方のローラ軸には他方のローラ軸側へ油圧で押圧する切換えピンを内装するとともに、他方のローラ軸には前記切換えピンと当接して該ピンをばねにより一方のローラ軸側に押圧し、前記切換えピンに油圧による押圧力がかからぬとき切換えピンとの接触点が前記両ローラ軸の境目にあるようなストッパピンを内装したエンジンの可変弁タイミングリフト装置。」である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1
「ロストモーション機構と当接した」点に関し、本願発明では、「他腕をロストモーション機構を介して前記低速ロッカアームの他腕と当接した」のに対し、引用例1記載の発明では、低速ロッカアームの他腕と当接していない点。
相違点2
「一方のローラ軸には他方のローラ軸側へ油圧で押圧する切換えピンを内装するとともに、他方のローラ軸には前記切換えピンと当接して該ピンをばねにより一方のローラ軸側に押圧し、前記切換えピンに油圧による押圧力がかからぬとき切換えピンとの接触点が前記両ローラ軸の境目にあるようなストッパピンを内装した」点に関し、本願発明では、「低速ロッカアームのローラ軸には該ローラ軸とほぼ同長で他方のローラ軸側へ油圧で押圧する切換えピンを内装するとともに、高速ロッカアームのローラ軸には前記切換えピンと当接して該ピンをばねにより低速ロッカアームのローラ軸側に押圧し、前記切換えピンに油圧がかからぬとき切換えピンとの接触点が前記両ローラ軸の境目にあるようなストッパピンを内装した」ているのに対し、引用例1記載の発明では、「高速ロッカアームのローラ軸には他方のローラ軸側へ油圧で押圧する切換えピンを内装するとともに、低速ロッカアームのローラ軸には前記切換えピンと当接して該ピンをばねにより高速ロッカアームのローラ軸側に押圧し、前記切換えピンに油圧による押圧力がかからぬとき切換えピンとの接触点が前記両ローラ軸の境目にあるようなストッパピンを内装した」点。
相違点3
本願発明1は、「デイーゼルエンジン」に関するものであるのに対し、引用例1記載の発明は、エンジンの種類は特定されていない点。

4.相違点の検討、及び判断
ア.相違点1に関して
高速ロッカアームをロストモーション機構を介して低速ロッカアームと当接するように配置することは、引用例3、及び拒絶理由通知書に慣用技術として例示されている特開平5-118209号公報、特開平3-43612号公報の記載から理解されるように、慣用技術ともいえることである。してみると、引用例1記載の発明に上記慣用技術を適用することは、当業者が普通に着想することであり、その際に、相違点1に関し本願発明のように構成することは当業者が容易になし得ることである。
イ.相違点2に関して
2個のロッカアーム、すなわち高速ロッカアームと低速ロッカアームとを併設する場合に、高速ロッカアームのローラ軸に切換えピンを内装し、低速ロッカアームのローラ軸にはストッパピンを内装する技術は、引用例2に記載されている。
ところで、3個のロッカアームを併設する形式の可変弁装置を、2個のロッカアームを併設する形式の可変弁装置に変更する技術が引用例3に記載されている。さらに、引用例1記載の発明は、上記記載事項iからも理解されるように、種々の設計変更が可能である。従って、引用例1記載の発明を、2個のロッカアームを併設するようにし、その際に高速ロッカアームのローラ軸に切換えピンを内装し、低速ロッカアームのローラ軸にはストッパピンを内装することは当業者が適宜行うことである。
また、切換えピンの長さに関して考察すると、2個のロッカアームを連結し一体化するためには切換えピンには十分な強度が要求され、そのためには長い方が有利である。一方、長すぎればローラ軸内に収まらなくなりスペース的に大きくなって不利となる。したがって、切換えピンの長さは、強度と収納スペースを考慮して決めるべき設計的事項である。
してみると、上記相違点2に関し本願発明のように構成することは、引用例1記載の発明に引用例2記載の技術を適用して、当業者が容易に想到し得ることである。
ウ.相違点3に関して
エンジンの可変弁タイミングリフト装置はディーゼルエンジンにも適用できることは周知の事項(例えば、実願昭60-60037号(実開昭61-175508号)のマイクロフィルム(明細書第3頁第3〜7行「吸気弁の開閉タイミングを変えることによりディーゼルエンジンの実圧縮比を運転状態に応じて変更できるようにして摩擦損失を低下させ、燃費を低減させることが提案されている。」等参照)である。従って引用例1記載の発明をデイーゼルエンジンの可変弁タイミングリフト装置とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、本願発明によってもたらされる効果も、引用例1記載の発明、及び上記慣用技術、引用例2記載の技術、周知の事項から予測し得る程度のものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1記載の発明、及び上記慣用技術、引用例2記載の技術、周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-02-24 
結審通知日 2005-03-01 
審決日 2005-03-14 
出願番号 特願平6-321508
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷川 一郎  
特許庁審判長 西野 健二
特許庁審判官 飯塚 直樹
平城 俊雅
発明の名称 ディーゼルエンジンの可変弁タイミングリフト装置  
代理人 椎原 英一  
代理人 椎原 英一  

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