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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G11C
管理番号 1116902
審判番号 不服2000-17025  
総通号数 67 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-11-05 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-10-26 
確定日 2005-05-12 
事件の表示 平成10年特許願第109291号「磁気型半導体集積記憶装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年11月 5日出願公開、特開平11-306750〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯、本願発明
本願は、平成10年4月20日の出願であって、平成12年9月19日付けで拒絶査定がなされ、それに対して同年10月26日付けで審判請求がなされた。そして、平成13年4月23日付けで拒絶理由(前置審査)が通知され、同年6月29日付けで手続補正書が提出された。

その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成13年6月29日付けの手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。

「磁気型半導体集積記憶装置の制御方法であって、その磁気型半導体集積記憶装置が、
第1の値又は第2の値のデータを記憶する複数の磁気型記憶セルを有する磁気記憶手段と、
前記データが外部から入力されるデータ入力手段と、
このデータ入力手段によって入力されたデータを、電磁誘導によって、単数又は複数の磁気型記憶セルからなる行又は列を語と呼ばれる単位としてそれに付けられた番地に書込みを行うデータ書込み手段と、
前記磁気型記憶セルから、電磁誘導によって単数又は複数の前記データを読み出すデータ読出し手段と、
前記データを読み出すべき磁気型記憶セル及び前記データを書き込むべき磁気型記憶セルを選択する読出し及び書込み選択手段と、
前記データ読出し手段によって読み出したデータを外部に出力するデータ出力手段とを具え、
前記磁気型記憶セルがそれぞれ、磁化の方向又は強さに応じた前記第1の値又は第2の値のデータを保持する強磁性体と、
前記データの読出しの際に電流を所定の方向に流し、前記第1の値のデータの書込みの際に電流を正方向に流し、かつ、前記第2の値のデータの書込みの際に電流を逆方向に流す電流制御手段とを有し、
前記第1の値又は第2の値のうちの一方を、前記強磁性体の磁界が零のときの第1の残留磁束に対応させるとともに、その他方を、前記強磁体の磁界が零のときの第2の残留磁束に対応させ、
前記第1の残留磁束の大きさを前記第2の残留磁束のものとほぼ同一とし、
前記第1の残留磁束の符号を前記第2の残留磁束のものと逆にすることを特徴とする磁気型半導体集積記憶装置の制御方法。」


2.引用例に記載されている発明
これに対し、前置審査の拒絶の理由に引用された、特開平8-171792号公報(以下、「引用例」という。)には、半導体記憶装置に関して、図面と共に以下の記載がなされている。
(ア)図1を参照して、半導体記憶装置1は、メモリアレイ3と、ロウデコーダ5と、コラムデコーダ7と、アドレスバッファ9と、センスアンプ11と、クロック信号発振回路13とを含む。(段落【0019】)

(イ)メモリアレイ3には、ワード線とビット線がそれぞれ縦横に配線されている。そして、ワード線とビット線との交点に後で説明するような1MOSトランジスタと1コイルとからなるメモリセルが配設されている。クロック信号発振回路13は、クロック信号をロウデコーダ5およびコラムデコーダ7に与える。アドレスバッファ9は、アドレス信号をロウデコーダ5およびコラムデコーダ7に与える。ロウデコーダ5は、メモリアレイ3に含まれるワード線を1本選択し、コラムデコーダ7は、メモリアレイ3に含まれるビット線を1本選択する。これにより、メモリアレイ3の1つのメモリセルが選択される。センスアンプ11は、図示していないI/O線を介して選択されたメモリセルにデータを書込み、または、選択されたメモリセルからデータを読出す。(段落【0020】)

(ウ)図2は、図1のメモリアレイのあるメモリセルを中心とした要部拡大図である。(段落【0021】)

(エ)図2を参照して、メモリセル50がワード線WLとビット線BLとの交点に配設されている。メモリセル50は、NチャネルMOSトランジスタ55と、コイル57と、磁性体59とを含む。NチャネルMOSトランジスタ55のソース/ドレインの一方がノードAでビット線BLに接続され、ゲートがワード線WLに接続され、ソース/ドレインの他方がコイル57の一端に接続されている。コイル57は、内部に磁性体59を有し、他端がバイアス回路61に接続されている。磁性体59は、単磁区または多磁区構造の単結晶磁性体である。(段落【0022】)

(オ)ビット線BLは、ノードBを介して、PチャネルMOSトランジスタ51のソース/ドレインの一方に接続され、さらにNチャネルMOSトランジスタ53のソース/ドレインの一方に接続されている。PチャネルMOSトランジスタ51のソース/ドレインの他方には電源電位Vccが与えられ、NチャネルMOSトランジスタ53のソース/ドレインの他方には接地電位GNDが与えられている。PチャネルMOSトランジスタ51およびNチャネルMOSトランジスタ53のゲートにはコラムデコーダ7から出力されたアドレス信号がアドレス信号線を介して与えられる。
(段落【0023】)

(カ)バイアス回路61は、電源電位Vccと接地電位GNDとの間のある基準電位を発生してコイル57の他端にその電位を与えている。ワード線WLは、前述したようにロウデコーダ5によって選択され、ビット線BLはコラムデコーダ7によって選択され、センスアンプSAがビット線BLの電位を増幅する。これにより、単磁区または多磁区構造の単結晶の磁性体59に、後で説明するように、異なる方向の磁化が発生して異なる情報が記憶され、または異なる情報が読出されるような、メモリセル50へのアクセスが可能となる。(段落【0024】)

(キ)図3および図4を参照して、図2に示されるメモリセルの動作原理について説明する。
まず、図3に示されるように、磁性体59に上向きの磁区が発生した場合を“1”の情報が記憶されていると、磁性体59に下向きの磁区が発生した場合を“0”の情報が記憶されているものとする。このような情報の記憶、すなわち書込みは、図4に示されるようにして達成される。
(段落【0026】)

(ク)図4を参照して、コイル57にαからβの向きに電流が流れると、磁性体59には、下向きの磁区が発生する。これにより、磁性体59に“0”の情報が書込まれる。これに対し、βからαの向きに電流がコイル57に流れると、磁性体59に上向きの磁区が発生する。これにより、“1”の情報の書込みが行なわれる。
(段落【0027】)

(ケ)図2に戻って、まず、コラムデコーダ7がHレベルの信号を出力すると、PチャネルMOSトランジスタ51はオフし、NチャネルMOSトランジスタ53はオンする。そして、ワード線WLがHレベルの状態になると、トランスファーゲートの役割を果たすNチャネルMOSトランジスタ55はオン状態となる。これにより、NチャネルMOSトランジスタ53、NチャネルMOSトランジスタ55、コイル57には、接地電位GNDとバイアス回路61の発生する基準電位の電位差が与えられる。したがって、コイル57には、図4(b)に示すような電流が流れ、磁性体59に上向きの磁区が発生する。
(段落【0029】)

(コ)一方、コラムデコーダ7がLレベルの信号を出力すると、PチャネルMOSトランジスタ51はオンし、NチャネルMOSトランジスタ53はオフする。そして、ワード線WLがHレベルの状態になると、NチャネルMOSトランジスタ55はオンする。これにより、PチャネルMOSトランジスタ51、NチャネルMOSトランジスタ55、コイル57には、電源電位Vccとバイアス回路61の発生する基準電位との電位差が与えられる。そのため、電源電位Vccからバイアス回路61に向けて電流が流れ、コイル57には、図4(a)に示すような電流が流れる。したがって、磁性体59には下向きの磁区が発生する。
以上のようにして、メモリセルへのデータの書込みが行なわれる。
(段落【0030】〜段落【0031】第2行)

(サ)図5から図7を参照して、図2に示されるメモリセルからの情報の読出しについて説明する。
まず、図4(a)に示されるように“0”の情報がメモリセルに書込まれているとする。すなわち、磁性体59に下向きの磁区が発生しているものとする。このような磁区を有する磁性体59を内部に有するコイル57に対し、αからβの向きに電流を流す。この電流は図6(a)に示されるような入力の電流である。このようなαからβへの電流の流れにより、磁性体59には下向きの磁場が発生する。この磁場は、磁性体59に生じていた磁区の方向と同一であるため、図7(a)に示されるような波形の電流がβから出力される。
(段落【0032】〜【0033】)

(シ)一方、図4(b)に示されるような“1”の情報がメモリセルに書込まれているものとする。すなわち、磁性体59には上向きの磁区が発生しているものとする。そして、コイル59にαからβの向きに電流が流されると、下向きの磁場が発生する。これにより、図6(b)に示すようなαからの入力の電流に対し、図7(b)に示すような波形の電流がβから出力される。
すなわち、この実施例では、磁性体59に生じた磁区の方向とコイル59に電流が流れることで生じる磁場の方向が逆である場合には、磁区の反転が起こり、図7(b)に示すような読出波形の歪みが生じる。
(段落【0035】〜【0036】)

(ス)以上のようにして、読出しの場合には、同一方向でコイルに電流が流されることで、異なる情報の読出しが行なわれる。
なお、コイル59に印加する電流は、磁区が十分に反転する磁場を印加できるものである。
(段落【0037】〜【0038】)

(セ)このように、情報の記憶が磁区の向きで実現されるため、低温から高温まで安定した不揮発性のメモリセルを有する半導体記憶装置が提供される。さらに、…(略)…次に、そのような工程が簡略化されることを説明するために、構造を示した実施例を説明する。(段落【0040】)

そして、上記摘記事項(キ)〜(ス)に記載されているように、上記引用例に記載されている半導体記憶装置は、NチャネルMOSトランジスタ(55)のオン、オフを制御して、磁性体(59)に対して、“0”又は“1”のデータを書き込んだり、この書き込んだデータを読み出したりしているので、上記引用例には、半導体記憶装置の制御方法に関しての記載がなされているといえる。
また、上記摘記事項(イ)の「センスアンプ11は、図示しないI/O線を介して選択されたメモリセルにデータを書込み、または、選択されたメモリセルからデータを読出す。」の記載から、引用例の図1に記載されている「センスアンプ11」の機能の一部は、外部からのデータを書き込むためのデータ書込み手段といえる。そして、引用例の図2の接続関係の記載から、引用例のワード線WLに接続された複数のメモリセル(50)は、同時に選択されてデータの書き込みが行われることは明らかであるから、上記データ書込み手段は、電磁誘導によって、複数のメモリセル(50)からなる行を単位としてそれに付けられた番地にデータを書込むようにしていることは明らかである。
また、引用例に記載されている半導体記憶装置には、外部からデータを入力するためのデータ入力手段が備えられていることは明らかである。
また、上記摘記事項(イ)の「センスアンプ11は、図示しないI/O線を介して選択されたメモリセルにデータを書込み、または、選択されたメモリセルからデータを読出す。」の記載から、引用例の図1に記載されている「センスアンプ11」機能の一部は、データ読出し手段といえる。
また、引用例に記載されている半導体記憶装置には、前記データ読出し手段によって読み出したデータを、外部へ出力するためのデータ出力手段が備えられていることは明らかである。
また、上記摘記事項(カ)ないし(ス)のメモリセルの動作原理に関する記載、ならびに上記摘記事項(セ)の「不揮発性のメモリセルを有する半導体記憶装置が提供される。」の記載から、引用例に記載されているメモリセル(50)内の磁性体(59)は、磁化の方向に応じて“0”又は“1”のデータを記憶することができる強磁性体であることは明らかである。そして、引用例発明においては、異なる方向の磁化が発生して異なる情報(「“0”の値」及び「“1”の値」)が記憶され、それが不揮発性の記憶となるわけであるから、異なる方向の磁化が磁束の変化を誘起して第1及び第2の残留磁束を生じさせ、前記“0”の値又は“1”の値のうちの一方を、前記強磁性体(59)の磁界が零のときの第1の残留磁束に対応させるとともに、その他方を、前記強磁体(59)の磁界が零のときの第2の残留磁束に対応させていることもまた明らかである。
また、引用例の図1に示されているロウデコーダ(5)とコラムデコーダ(7)は、データを読み出すべきメモリセル及びデータを書き込むべきメモリセルを選択する機能を有しているので、読出し及び書込み選択手段といえる。
また、上記摘記事項(キ)ないし(コ)のメモリセルの動作原理に関する記載、ならびに引用例の図4から、“0”を書き込む場合と、“1”を書き込む場合とでは、コイル(57)に流す電流の向きを逆にしているので、“0”のデータの書き込みで生じた第1の残留磁束の符号と、“1”のデータの書き込みで生じた第2の残留磁束とは逆の関係にあることは明らかである。

したがって、上記引用例には、
「半導体記憶装置の制御方法であって、その半導体記憶装置が、
“0”の値又は“1”の値のデータを記憶する複数のメモリセル(50)を有する記憶手段と、
前記データが外部から入力されるデータ入力手段と、
このデータ入力手段によって入力されたデータを、電磁誘導によって、複数のメモリセル(50)からなる行を単位としてそれに付けられた番地に書込みを行うデータ書込み手段(センスアンプ11の機能の一部)と、
前記メモリセル(50)から、電磁誘導によって前記データを読み出すデータ読出し手段(センスアンプ11の機能の一部)と、
前記データを読み出すべきメモリセル(50)及び前記データを書き込むべきメモリセル(50)を選択する読出し及び書込み選択手段(ロウデコーダ5とコラムデコーダ7)と、
前記データ読出し手段(センスアンプ11の機能の一部)によって読み出したデータを外部に出力するデータ出力手段とを具え、
前記メモリセル(50)がそれぞれ、磁化の方向に応じた前記“0”の値又は“1”の値のデータを保持する強磁性体(59)と、
前記データの読出しの際に電流を所定の方向(図5のα〜β方向)に流し、前記“0”の値のデータの書込みの際に電流を正方向(図4のα〜β方向)に流し、かつ、前記“1”の値のデータの書込みの際に電流を逆方向(図4のβ〜α方向)に流すNチャネルMOSトランジスタ(55)とを有し、
前記“0”の値又は“1”の値のうちの一方を、前記強磁性体(59)の磁界が零のときの第1の残留磁束に対応させるとともに、その他方を、前記強磁体(59)の磁界が零のときの第2の残留磁束に対応させ、
前記第1の残留磁束の符号を前記第2の残留磁束のものと逆にすることを特徴とする半導体記憶装置の制御方法。」に関する発明(以下、引用例記載発明」という)が記載されている。


3.本願発明と引用例記載発明との対比
本願発明と引用例記載発明とを対比すると、引用例記載発明における「メモリセル(50)」は、電磁誘導によってデータの書き込み及び読み出しを行っているので、本願発明の「磁気型記憶セル」に相当していることは明らかであり、かつ、前記「メモリセル」がメモリアレイとして集積化されていることもまた明らかであるから、引用例記載発明の「半導体記憶装置」は、本願発明の「磁気型半導体集積記憶装置」に相当しているといえる。
また、引用例記載発明の「“0”の値」及び「“1”の値」は、本願明細書の発明の詳細な説明に「第1の値として“1”に対応させるとともに、第2の値として“0”に対応させる」(【0054】,【0064】,【0074】他)旨の記載が随所にあることからも明らかなように、それぞれ本願発明のように「第1の値」及び「第2の値」と表現することができる。
また、引用例記載発明の「記憶手段」は、磁気の作用によってデータを記憶しているので、本願発明の「磁気記憶手段」に相当していることは明らかである。
また、引用例記載発明の「NチャネルMOSトランジスタ(55)」は、コイル(57)に流れる電流を制御しているので、本願発明の「電流制御手段」に相当していることは明らかである。

したがって、両者は、
「磁気型半導体集積記憶装置の制御方法であって、その磁気型半導体集積記憶装置が、
第1の値又は第2の値のデータを記憶する複数の磁気型記憶セルを有する磁気記憶手段と、
前記データが外部から入力されるデータ入力手段と、
このデータ入力手段によって入力されたデータを、電磁誘導によって、複数の磁気型記憶セルからなる行を単位としてそれに付けられた番地に書込みを行うデータ書込み手段と、
前記磁気型記憶セルから、電磁誘導によって前記データを読み出すデータ読出し手段と、
前記データを読み出すべき磁気型記憶セル及び前記データを書き込むべき磁気型記憶セルを選択する読出し及び書込み選択手段と、
前記データ読出し手段によって読み出したデータを外部に出力するデータ出力手段とを具え、
前記磁気型記憶セルがそれぞれ、磁化の方向に応じた前記第1の値又は第2の値のデータを保持する強磁性体と、
前記データの読出しの際に電流を所定の方向に流し、前記第1の値のデータの書込みの際に電流を正方向に流し、かつ、前記第2の値のデータの書込みの際に電流を逆方向に流す電流制御手段とを有し、
前記第1の値又は第2の値のうちの一方を、前記強磁性体の磁界が零のときの第1の残留磁束に対応させるとともに、その他方を、前記強磁体の磁界が零のときの第2の残留磁束に対応させ、
前記第1の残留磁束の符号を前記第2の残留磁束のものと逆にすることを特徴とする半導体記憶装置の制御方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
本願発明では、「複数の磁気型記憶セルからなる行」を「語」と呼ばれる単位とし、この「語」単位で書き込みを行っているのに対して、引用例記載発明では、このような「語」と呼ばれる単位を書き込みの単位として取り扱うことに関して記載がなされていない点。

[相違点2]
本願発明では、「第1の残留磁束」の大きさを「第2の残留磁束」のものとほぼ同一としているのに対して、引用例記載発明では、「第1の残留磁束」の大きさと「第2の残留磁束」との大きさの関係についての明確な記載がなされていない点。


4.相違点についての当審の判断
まず、上記相違点1について検討すると、メモリ装置において、データの書き込みを語単位で行うことは、従来周知の技術事項であるから(もし、必要ならば、特開昭60-29788号公報の第2頁右下欄第5行〜7行の記載又は特開平5-88974号公報の段落【0016】の記載を参照)、引用例記載発明において、複数のメモリセル(50)からなる行を単位とした書き込みを、語単位の書き込みとして、本願発明のように構成することは、当業者が容易に想到し得る程度のものと認められる。
したがって、上記相違点1を格別なものとすることはできない。

次に、上記相違点2について検討すると、電磁誘導を利用してデータを記憶する磁気型記憶装置において、論理“1”に対応した残留磁束の大きさ(絶対値)と、論理“0”に対応した残留磁束の大きさ(絶対値)をほぼ同じ値とすることは、従来良く行われている技術事項であるから(もし、必要ならば、特開昭52-52535号公報の第1図又は特開平7-326184号公報の図5を参照)、引用例記載発明の「第1の残留磁束」の大きさ(絶対値)と、「第2の残留磁束」との大きさ(絶対値)をほぼ同じ値として、本願発明のように構成することは、当業者が容易に想到し得る程度のものと認められる。
したがって、上記相違点2を格別なものとすることはできない。

なお、請求人は、平成13年6月29日付けの意見書中で、請求項1の発明に対し、引用例発明は、第1及び第2の残留磁束に応じて第1及び第2の値を決定して1ビットの記憶を行うことについては何ら示唆されていない旨の主張を行っているが、前述したように、引用例発明においては、異なる方向の磁化が発生して異なる情報(「“0”の値」及び「“1”の値」)が記憶され、それが不揮発性の記憶となるわけであるから、異なる方向の磁化が磁束の変化を誘起して第1及び第2の残留磁束を生じさせ、その第1及び第2の残留磁束と第1及び第2の値が対応する形で1ビットの記憶が行われることは明らかである。したがって、請求人の主張は採用できない。

そして、本願発明の奏し得る作用効果は、引用例記載発明及び上記従来周知の技術事項から、当業者が容易に予測し得る程度のものと認められる。


5.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例記載発明及び従来周知の技術事項から当業者が容易に想到し得たものと認められるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-03-08 
結審通知日 2005-03-15 
審決日 2005-03-29 
出願番号 特願平10-109291
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G11C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 和田 財太  
特許庁審判長 佐藤 伸夫
特許庁審判官 須原 宏光
山本 穂積
発明の名称 磁気型半導体集積記憶装置  
代理人 徳永 博  
代理人 杉村 興作  
代理人 大山 健次郎  
代理人 藤谷 史朗  
代理人 冨田 和幸  
代理人 高見 和明  
代理人 来間 清志  

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