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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1117828
異議申立番号 異議2003-73554  
総通号数 67 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-01-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-26 
確定日 2005-03-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3464045号「低アルコール香料組成物」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3464045号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
特許第3464045号の請求項1〜3に係る発明についての出願は、平成6年6月22日に特許出願され、平成15年8月22日にその特許権の設定登録がなされ、その後日本香料工業会より特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成16年11月9日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
ア.訂正事項a
特許請求の範囲の、
「【請求項1】 3-メチル-3-メトキシブタノール及び/又は3-メトキシ-1-ブタノールが10重量%以上、エチルアルコール75重量%以下、水40重量%以下、香料成分が20重量%以下であり、界面活性剤を実質的に含まないことを特徴とする低アルコール香料組成物。
【請求項2】 請求項1記載の組成物において、エチルアルコールは10〜75重量%であり、且つ3-メチル-3-メトキシブタノール及び/又は3-メトキシ-1-ブタノール:水が2:3〜4:1であることを特徴とする低アルコール香料組成物。
【請求項3】 請求項1記載の組成物において、3-メチル-3-メトキシブタノールからなり、3-メチル-3-メトキシブタノールと水の量比は図1に示す相図の溶解域にあることを特徴とする低アルコール香料組成物。」

「【請求項1】 3-メチル-3-メトキシブタノール及び/又は3-メトキシ-1-ブタノールが10重量%以上、エチルアルコール20〜75重量%、水40重量%以下、香料成分が20重量%以下であり、3-メチル-3-メトキシブタノール及び/又は3-メトキシ-1-ブタノール:水が2:3〜4:1であり、界面活性剤を実質的に含まず、肌に塗布して用いることを特徴とする低アルコール香料組成物。
【請求項2】 請求項1記載の組成物において、3-メチル-3-メトキシブタノールからなり、3-メチル-3-メトキシブタノールと水の量比は図1に示す相図の溶解域にあることを特徴とする低アルコール香料組成物。」
と訂正する。

イ.訂正事項b
明細書中、段落【0005】の、
「すなわち、本出願の請求項1記載の低アルコール香料組成物は、3-メチル-メトキシブタノール及び/又は3-メトキシ-1-ブタノールが10重量%以上、エチルアルコール75重量%以下、水40重量%以下、香料成分が20重量%以下であり、界面活性剤を実質的に含まないことを特徴とする。なお、エチルアルコールは10〜75重量%であり、且つ3-メチル-メトキシブタノール及び/又は3-メトキシ-1-ブタノール:水が2:3〜4:1であることが好適である。」

「すなわち、本出願の請求項1記載の低アルコール香料組成物は、3-メチル-3-メトキシブタノール及び/又は3-メトキシ-1-ブタノールが10重量%以上、エチルアルコール20〜75重量%、水40重量%以下、香料成分が20重量%以下であり、3-メチル-3-メトキシブタノール及び/又は3-メトキシ-1-ブタノール:水が2:3〜4:1であり、界面活性剤を実質的に含まず、肌に塗布して用いることを特徴とする。」
と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aの、請求項1の「エチルアルコール75重量%以下」という特定事項を、「エチルアルコール20〜75重量%」にするとともに、「3-メチル-3-メトキシブタノール及び/又は3-メトキシ-1-ブタノール:水が2:3〜4:1であり」及び「肌に塗布して用いること」を新たに加入する訂正及び請求項2の削除は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、訂正前の請求項3の請求項の番号を繰り上げて訂正後の請求項2とする訂正及び訂正事項bは訂正によって生じる不整合を正すものであるから明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、エチルアルコール含有量の下限値である20重量%については願書に添付した明細書の段落【0013】に、3-メチル-3-メトキシブタノール及び/又は3-メトキシ-1-ブタノール:水が2:3〜4:1である点については段落【0014】に、肌に塗布して用いることについては段落【0008】に、それぞれ記載があり、新規事項ではなく、また特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
そうすると、上記訂正事項a及びbはいずれも新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

したがって、上記訂正は特許法第120条の4第2項、及び同条第3項で準用する第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについての判断
(1)申立ての理由の概要
申立人日本香料工業会は、請求項1〜3に係る発明は、甲第1号証(特開平4-231058号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから該請求項に係る発明の特許は取り消されるべきと主張している。

(2)本件の請求項1〜2に係る発明
本件の請求項に係る発明は、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1,2に記載されたとおりのものである。

(以下、本件の請求項1に係る発明を「本件発明1」と、また本件の請求項2に係る発明を「本件発明2」という。)

(3)甲第1号証の記載事項の概要
(a)「水、芳香物質、および蒸発調節および芳香物質可溶化量の3-メチル-3-メトキシブタノールまたはそのエステルからなることを特徴とする芳香物質の蒸発がコントロールされた水性組成物。」(【請求項1】)
(b)「揮発性芳香物質および蒸発調節および芳香物質可溶化量の3-メチル-3-メトキシブタノールまたはそのエステルの水溶液を含有する貯蔵器、前記芳香物質を取り囲む環境の中に小出しするディフューザー表面、および前記水溶液および前記ディフューザー表面に関連する吸上げ手段からなり、これにより、作動のとき、前記水溶液は前記吸上げ手段を経て前記ディフューザー表面に輸送されて、前記芳香物質はそこから蒸発して前記取り囲む環境の中に小出しされることを特徴とする空気芳香物質ディスペンサー。」(【請求項2】)
(c)「式CH3OC(CH3)2CH2CH2OHを有する3-メチル-3-メトキシブタノール・・・(以後、しばしば、それぞれ、MMB・・・と呼ぶ)が、水性芳香物質組成物のための高度に有効な蒸発速度調節剤でありそして、表面活性剤または補助溶媒を必要としないで、水、芳香物質およびMMB・・・の広い範囲の濃度にわたって、透明な均質な水性芳香物質組成物を形成することができるという発見に基づいて、達成された。」(段落【0014】、3頁4欄20〜28行)
(d)「本発明は、・・・、芳香物質の蒸発がコントロールされた水性組成物を提供する。組成物は、必須成分の水、芳香物質、および蒸発調節および芳香物質可溶化量の3-メチル-3-メトキシブタノール・・・を含有する。」(段落【0015】、3頁4欄29〜33行)
(e)「例えば、約5〜30重量%、ことに5〜15重量%のエタノールは芳香物質の蒸発を理想的な30日の期間に加速することができることが発見された。」(段落【0029】、5頁7欄29〜32行)
(f)「他の型の製品、例えば、個人の管理の製品、例えば、化粧品類、香水、オーデコロン、髭剃り後の製品などは、また、本発明の水性芳香物質組成物を使用して配合することができる。」(段落【0036】、6頁10欄44〜47行)

(4)対比・判断
甲第1号証には、水、芳香物質と3-メチル-3-メトキシブタノールからなる組成物(摘示事項(a))、であってエタノールを加えて用いること(摘示事項(e))もできるものが示されている。該組成物中の3-メチル-3-メトキシブタノールは芳香物質の蒸発のコントロールをするために使用されており、「化粧品類、香水、オーデコロン、髭剃り後の製品などは、また、本発明の水性芳香物質組成物を使用して配合することができる」との記載(摘示事項(f))はあるものの、肌に塗布して用いる香料について「3-メチル-3-メトキシブタノール及び/又は3-メトキシ-1-ブタノールが10重量%以上、エチルアルコール20〜75重量%、水40重量%以下、香料成分が20重量%以下であり、3-メチル-3-メトキシブタノール及び/又は3-メトキシ-1-ブタノール:水が2:3〜4:1、界面活性剤を実質的に含まない」という組成とする点は何ら記載も示唆もされていない。
本件発明1は、かかる組成により、エチルアルコール使用量を減らしつつ、香料の溶解性及び香料組成物としての使用性を低下させることのない低アルコール香料組成物を提供するものであるから、甲第1号証に示された蒸発のコントロールという観点からは、このような香料組成物を着想するに足りる動機付けはみあたらず、上記組成を容易に導くことが可能とすることはできない。
そして、本件発明1は、明細書記載のとおりの効果を有するものである。

したがって、本件発明1は甲第1号証に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものということはできない。

また、本件発明2は、本件発明1についてさらに「3-メチル-3-メトキシブタノールからなり、3-メチル-3-メトキシブタノールと水の量比は図1に示す相図の溶解域にあること」と特定するものであるから、本件発明1と同様の理由により上記甲第1号証に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものということはできない。

(5)むすび
以上のとおりであるから、異議申立人が提示する特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1〜2に係る発明の特許を取り消すことができない。
また、他に本件請求項1〜2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
低アルコール香料組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 3-メチル-3-メトキシブタノール及び/又は3-メトキシ-1-ブタノールが10重量%以上、エチルアルコールが20〜75重量%、水40重量%以下、香料成分が20重量%以下であり、3-メチル-3-メトキシブタノール及び/又は3-メトキシ-1-ブタノール:水が2:3〜4:1であり、界面活性剤を実質的に含まず、肌に塗布して用いることを特徴とする低アルコール香料組成物。
【請求項2】 請求項1記載の組成物において、3-メチル-3-メトキシブタノールからなり、3-メチル-3-メトキシブタノールと水の量比は図1に示す相図の溶解域にあることを特徴とする低アルコール香料組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は低アルコール香料組成物、特にその溶媒組成の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に香料は、それ単独で用いられることは稀で、エチルアルコールを主成分とする香料用溶媒に希釈して用いられることが多い。
一方、近年環境問題に対する関心が高まり、米国では揮発性有機化合物に関する規制が予定されている。この揮発性有機化合物の一種として有機溶媒であるエチルアルコールも指摘されており、近く香料20重量%以下のアルコール香料組成物については、エチルアルコールなどの揮発性有機化合物の配合量を75重量%以下まで段階的に逓減させることが要求される。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、例えば香料15重量%以下の製品の場合、エチルアルコールを75重量%以下とすれば、残量10重量%程度以上を他の溶媒により補わなければならない。ところが、該溶媒はエチルアルコール、或は香料などを良好に溶解するとともに、皮膚に塗布する等して用いるため、無毒性、べとつきが少ないことさらには乾きやすいことが要求され、前記揮発性有機化合物に関する規制に適合する低揮発性有機溶媒を採用することは極めて困難であった。また、引火点の存在しない水などを活性剤を用いずに処方中に10重量%以上含有することは、極めて困難であった。
【0004】
本発明は前記従来技術の課題に鑑みなされたものであり、その目的はエチルアルコール使用量を減らしつつ、香料の溶解性及び香料組成物としての使用性を低下させることのない低アルコール香料組成物を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために本発明者らが鋭意検討した結果、香料成分が20重量%以下かつエチルアルコール75重量%以下という低アルコール香料組成物において、他の香料用溶媒成分の主成分を低級アルコール及び水とすることにより、優れた使用性を維持し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本出願の請求項1記載の低アルコール香料組成物は、3-メチル-3-メトキシブタノール及び/又は3-メトキシ-1-ブタノールが10重量%以上、エチルアルコールが20〜75重量%、水40重量%以下、香料成分が20重量%以下であり、3-メチル-3-メトキシブタノール及び/又は3-メトキシ-1-ブタノール:水が2:3〜4:1であり、界面活性剤を実質的に含まず、肌に塗布して用いることを特徴とする。
【0006】
また、3-メチル-3-メトキシブタノールからなり、3-メチル-メトキシブタノールと水の量比は図1に示す相図の溶解域にあることが好適である。
前記揮発性有機化合物規制によると、例えば香料成分が15重量%の場合には溶媒量が85重量%になる。一方、エチルアルコール使用可能量は75重量%以下であるため、溶媒量の10重量%以上を揮発性有機溶媒の規制対象外の溶媒等に置換しなければならない。一方、香料組成物は直接皮膚に塗布する可能性もあるため、安全性が極めて重要な要件となる。
【0007】
そこで、本発明者は、主鎖の炭素数4以上の低級アルコールに着目し、香料20重量%以下、エチルアルコール使用量が75重量%以下で、しかも使用性が極めて良好な低アルコール香料組成物を完成したのである。
従来、これらの低級アルコールは、化粧水、洗浄料、乳液など化粧品にて10重量%以下配合されるのが常であり、従って、本発明のような低アルコール香料組成物に用いられることがないものであった。
【0008】
また、本発明者の実験によると、主鎖の炭素数4以上の低級アルコールには、油分である香料と水の双方を溶解する、両親媒性と呼ばれる性質がある。
図1には、本発明者が香料の一例としてローズ様香料を用い、低級アルコールの一例として3-メチル-3-メトキシブタノール(MMB)を用いて行った、溶解性の実験の結果が示されている。この図からも明らかなとおり、使用性について配慮しなければ、エチルアルコールを用いずとも、水と3-メチル-3-メトキシブタノールを用いて香料を溶解することができる。
本発明者らは、低級アルコール化合物の持つこの両親媒性の性質に着目し本発明を完成させた。
すなわち、本発明の請求項1記載の低アルコール組成物において、水40重量%以下としてあるのはすなわち、低級アルコールの両親媒性によるものである。
また、処方中に水をおよび低級アルコールを含むので肌に塗布した場合使用感がよく、また保湿作用もある。
【0009】
【実施例】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明する。なお、配合量は特に指定のない限り重量%で示す。
【0010】
まず、本発明者らは香料の希釈溶媒として、低級アルコールを検討した。
【表1】

【0011】
以上の結果から、香料以外をエチルアルコールとした場合には、優れた溶解性、速乾性を有し、べたつきも極めて少ない。一方エチルアルコールを35%、イオン交換水を15%とし、他の部分を低級アルコール化合物である3-メチル-3-メトキシブタノール、3-メトキシ-1-ブタノール,1-メトキシ-2-ブタノール,ジアセチン(グリセロールα,α-ジアセテート),2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールのいずれかにした場合、1-メトキシ-2-ブタノール及びジアセチンで溶剤の臭いが感じられるが、その他の主鎖の炭素数4以上の低級アルコール化合物では実用的に全く問題がない。特に、3-メチル-3-メトキシブタノール、3-メトキシ-1-ブタノールの場合については、速乾性、原料臭についても問題がなかった。
【0012】
次に、主鎖が炭素数4以上の低級アルコールの一例として3-メチル-3-メトキシブタノールを用いて、希釈溶媒の配合について検討を行った。
【表2】

【0013】
3-メチル-3-メトキシブタノールとイオン交換水の割合を約2:1に固定し、エチルアルコールの一部を置換した。この結果、エチルアルコールを10%まで減らしても、良好な利用適性を維持することができ、特に好ましくは20重量%まで置換することができる。
【表3】

【0014】
上記表3より明らかなように、3-メチル-3-メトキシブタノールとイオン交換水との比は2:3〜4:1であることが好適である。
以上のように、低級アルコールの配合量とイオン交換水の配合量及びエチルアルコールの配合量を適当にとることによって製品価値、使用性とも十分に維持することができる。
【0015】
以上の結果、低級アルコールおよびイオン交換水の合計量が10重量%以上であるような範囲で、香料組成物を生成することで、使用性を維持しつつ、エチルアルコールの使用量を低下することができる。
なお、同様の傾向は、香料が50重量%程度まで認められている。
【0016】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明にかかる低アルコール香料組成物によれば、3-メチル-メトキシブタノール及び/又は3-メトキシ-1-ブタノールを10重量%以上配合することにより、使用性を低下させることなくエチルアルコールの使用量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
低級アルコール、水及び香料の溶解図である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-02-28 
出願番号 特願平6-163084
審決分類 P 1 651・ 121- YA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 上條 のぶよ  
特許庁審判長 森田 ひとみ
特許庁審判官 弘實 謙二
横尾 俊一
登録日 2003-08-22 
登録番号 特許第3464045号(P3464045)
権利者 株式会社資生堂
発明の名称 低アルコール香料組成物  
代理人 岩橋 祐司  
代理人 岩橋 祐司  

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