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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1117870
異議申立番号 異議2003-71067  
総通号数 67 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-11-08 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-04-25 
確定日 2005-03-21 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3338123号「半導体製造装置の洗浄方法及び半導体装置の製造方法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3338123号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3338123号の発明についての出願は、平成5年4月30日の出願であって、平成14年8月9日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、鈴木俊孝より特許異議の申立がなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成16年9月21日に訂正請求(後日取下)がなされ、その後、再度取消理由が通知され、その指定期間内である平成17年2月23日に訂正請求がなされたものである。

II.訂正の適否について
1.訂正の内容
(1)訂正事項a
訂正前の請求項2を新たに請求項1として以下のとおり訂正するとともに、訂正前の請求項1を削除する。
「【請求項1】
反応容器内においてハロゲン元素を含むプラズマガスまたはハロゲン元素を含む活性化されたガスまたはハロゲン元素を含むガスの化学反応を用いて被処理基体を処理する半導体製造装置において、処理の終わった被処理基体を大気中に取り出す前に、該被処理基体が収容されている容器に、プラズマにより活性化されたハロゲンガスまたはハロゲン元素を含むプラズマにより活性化されたガスと水またはアルコールのみのガスであって活性化のされていないものとを減圧下でこの順に連続して供給することにより、被処理基体に付着した堆積膜を除去することを特徴とする半導体装置の製造方法。」
(2)訂正事項b
明細書の発明の名称を「半導体装置の製造方法」と訂正するとともに、明細書段落【0001】の「本発明は、半導体製造装置の洗浄方法及び半導体装置の製造方法に関するもので、」を、「本発明は、半導体装置の製造方法に関するもので、」と、また同段落【0001】の「半導体製造装置の洗浄方法及びこの装置を使用する半導体装置の製造方法」を、「半導体装置の製造方法」と訂正する。
(3)訂正事項c
明細書段落【0017】を次のとおり訂正する。
「本発明は、上記問題点に鑑みなされたもので、ハロゲン元素を含むプラズマ等を利用してエッチングや成膜等の処理を行なう半導体製造装置において、被処理基体を処理した後に、該基体に付着する堆積膜を大気にさらす前に、簡便な方法でこの堆積膜を除去できる半導体装置の製造方法を提供することである。」
(4)訂正事項d
明細書段落【0018】の「本発明の半導体製造装置の洗浄方法は、」を、「本発明の関連技術に係る半導体製造装置の洗浄方法は、」と訂正する。
(5)訂正事項e
明細書段落【0020】の「該被処理基体が収容されている容器に活性化されたハロゲンガスまたはハロゲン元素を含む活性化されたガスと水素元素を含む極性をもったガスであってプラズマ処理による活性化のされていないものとを同時に或いはこの順に連続して供給することにより、」を、「該被処理基体が収容されている容器に、プラズマにより活性化されたハロゲンガスまたはハロゲン元素を含むプラズマにより活性化されたガスと水またはアルコールのみのガスであって活性化のされていないものとを減圧下でこの順に連続して供給することにより、」と訂正する。
(6)訂正事項f
明細書段落【0032】及び段落【0037】に記載の「第3実施例」を、「第3参考例」と訂正する。
(7)訂正事項g
明細書段落【0063】に記載の「本発明」を、「本発明の関連技術」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項aは、訂正前の請求項2に記載の「活性化されたハロゲンガスまたはハロゲン元素を含む活性化されたガス」を「プラズマにより活性化されたハロゲンガスまたはハロゲン元素を含むプラズマにより活性化されたガス」と限定し、同請求項2に記載の「水素元素を含む極性をもったガスであってプラズマ処理による活性化されていないもの」を「水またはアルコールのみのガスであって活性化のされていないもの」と限定し、さらに同請求項2に記載の「同時に或いはこの順に」を「減圧下でこの順に」に限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、これらの点は、明細書段落【0021】、【0022】、【0047】〜【0049】の記載によって裏付けられている。
(2)訂正事項b〜gは、上記訂正事項aによる訂正に明細書の記載を整合させたものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
そして、上記訂正事項a〜gは、いずれも願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.特許異議申立について
1.特許異議の申立の概要
特許異議申立人は、証拠として下記の甲第1〜5号証を提出して、訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1、3〜5号証に記載された発明、又は甲第2、3〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同請求項1、2に係る発明の特許は、特許法第29条第1、2項の規定に違反してされたものであり、また同請求項1、2には記載不備があるから、本件特許は特許法第36条第5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、これを取り消すべき旨主張する。

甲第1号証:特開平5-6880号公報(以下、「刊行物1」という。)
甲第2号証:特公平2-1235号公報(以下、「刊行物2」という。)
甲第3号証:特開平4-323389号公報(以下、「刊行物3」という。)
甲第4号証:特開平2-190472号公報(以下、「刊行物4」という。)
甲第5号証:特開平3-94059号公報(以下、「刊行物5」という。)

2.本件発明
本件特許第3338123の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、平成17年2月23日付訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである(上記「II.訂正の適否について 1.訂正の内容 (1)訂正事項a」欄参照)。

3.各刊行物の記載事項
(1)刊行物1(特開平5-6880号公報)の記載事項
(1a)「本発明は、半導体素子の製造技術に係わり、特にハロゲン元素を含むガスを用いた処理工程を経ることにより表面に残留したハロゲンを除去するための表面処理方法に関する。」(段落【0001】)
(1b)「本発明は、・・・その目的とするところは、半導体や金属表面に残留したハロゲンを簡易に除去することのできる表面処理方法を提供することにある。」(段落【0006】)
(1c)「(第6の実施例)本発明の第6の実施例として、Al合金薄膜の異方性ドライエッチング加工とレジスト除去について述べる。・・
図5は、本実施例で用いる表面処理装置の概略構成を示す断面図である。試料50は、反応容器51内に収納された試料台52上に載置される。・・・反応容器51には、ガス導入口53aから放電管54を介してガスが導入され、ガス導出口53cから排気される、また、反応容器51内に、ガス導入口53bから直接ガスを導入することもできる。
・・・
反応容器51の内部には、試料台52に対向して電極58が設けられており、この電極58に13.56MHzの高周波を印加することにより高周波放電が生起される。また、反応容器51の上壁部には石英窓59が設置されており、この窓59を通して試料50に光を照射することが可能となっている。次に、Al合金薄膜の異方性ドライエッチング加工とレジスト除去について、図6の工程断面図を用いて説明する。・・
まず、図6(a)に示すように、Si基板60上に熱酸化により100nmの酸化膜61を形成し、スパッタにより500nmのAl-Si-Cu合金薄膜62を推積する。さらに、レジスト63を塗布した後、フォトリソグラフィーによりレジスト63をパターニングする。・・
次いで、この試料50を図5に示した装置の試料台52上に載置し、反応容器51内を真空排気したのち、ガス導入口53aからBCl3ガス30sccmを導入し、反応容器51の内部を0.03Torrに保つ。さらに、電極58に13.56MHzの高周波を印加し、BCl3ガスのプラズマを発生させてAl合金薄膜62表面の自然酸化膜を除去する。・・
次いで、BCl3に代えてCl2ガス50sccmを導入し、反応容器51の内部を0.01Torrに保って電極58に高周波を印加し、Cl2プラズマを発生させる。10分間処理することにより、図6(b)に示すようにAl合金薄膜62は垂直にエッチングされた。このとき、Al合金薄膜62の側壁には、Clを含む汚染層64が形成された。・・
次いで、CF4ガス50sccm,O2ガス500sccmをガス導入口53aから導入し、反応容器51の内部を0.2Torrに保ったまま、放電管54の内部でガスを放電させた。約15分間の処理により、図6(c)に示すようにレジスト63は除去された。この処理により、Al合金薄膜62の上面にはFを含む層65が形成され、側壁にはClとFを含む層66が形成された。・・
次いで、NH3ガス100sccmをガス導入口53aから導入し、反応容器51の内部を1Torrに保ったまま、石英窓59を介してArFレーザ光(波長193nm)を試料50に照射し、同時に試料50を回転させた。NH3はArFレーザ光により分解し、Hラジカルを生成する。このHラジカルは汚染層65,66のFやClと反応し、これらをHF,HClとして除去するため、図6(d)に示すように汚染層65,66を除去することができた。」(段落【0040】〜段落【0048】)
(1d)「なお、本実施例では、ハロゲンを用いた処理とハロゲンを除去する処理を同一容器で行っている・・・本実施例のように同一容器内で表面を大気に晒さずに連続して処理を行う方が望ましい。」(段落【0050】)
(1e)「なお、本発明は上述した各実施例に限定されるものではない。実施例では、分子内に水素元素を含む化合物ガスとして、ボランガスやSiH4,NH3を用いているが、カルボランガス(BxC2Hx+2)やBxHx+4,BxHx+6,CxH2x-2,CxH2x,CxH2x+2,N2H4,SixH2x+2,PH3,AsH3,GexH2x+2,H2S,HCN,CsH,HI,さらにNHR1R2(R1,R2=CxHy),などのガスを試料表面で分解させてもよい。」(段落【0077】)
(1f)「・・・さらに本発明では、・・・ハロゲンを除去する表面としては、半導体素子を形成する金属や半導体に限定されるものではなく、第10の実施例で述べた、ハロゲンガスを用いた処理を内部で行う反応容器の壁面など、ハロゲンガスに晒される反応容器,真空部品,ガス配管の表面のように、腐食が問題となる金属表面に用いてもよい。」(段落【0078】)

(2)刊行物2(特公平2-1235号公報 )の記載事項
(2a)「本発明は、気相法により被膜形成を行った同一装置に対して、反応炉内壁に付着した被膜または粉体を弗化窒素・・・を利用してプラズマ気相エツチングを行うに際し、反応炉内壁に残存物を完全になくして清浄にするため、この領域をプラズマエツチによりクリーニングの際、水冷をやめて加熱昇温せしめて、反応炉壁面での反応を助長せしめ清浄度をを高めることを特徴としている。」(1頁2欄23行〜2頁3欄7行)
(2b)「反応炉5はその内壁に反応生成物9が被膜または粉体にて被着形成される。
即ち、珪化物気体・・・SiF4・・・を1より導入し、・・・反応炉内で0.01〜10torrに減圧された雰囲気をプラズマ化する。このプラズマ化された気体を・・・加熱した基板10上にアモルファス、セミアモルファス・・・膜を・・・形成する。」(2頁3欄24〜40行)
(2c)「かかる被膜形成法による・・・被膜を1〜3回繰り返すと、・・・被膜9が内壁に形成された、この後、本発明はかかる被膜または粉体9の除去を、弗化窒素・・・を・・・与えてプラズマ化して実施した。・・・この際反応炉内では活性弗素と窒素・・・ができ、・・・反応炉の内壁での反応性気体を容易に内壁の反応生成物と反応せしめエツチング除去させる・・・ことができた。
このプラズマエツチを充分にした後、不活性気体または窒素のみまたはそれに水素を・・・添加した気体中でさらにプラズマ化を・・・行い、内壁に残存する活性エツチングガスである弗素を除去した後再び基板を反応炉内に導入し珪化物気体の被膜の作成を行つた。」(2頁4欄22行〜3頁5欄4行)

(3)刊行物3(特開平4-323389号公報)の記載事項
(3a)「【請求項1】ハロゲン元素を含む成膜用ガス又はエッチング用ガスが導入された反応室に・・・水分を含有する空気又は不活性ガスを通過させて残留ハロゲンを除去することを特徴とする反応室内部の残留ハロゲン除去方法。」(特許請求の範囲)
(3b)「【発明の目的】従って本発明は・・・、その目的は反応室の腐食を防いでそれ自体の長期信頼性を達成した反応室内部の残留ハロゲン除去方法を提供することにある。」(段落【0006】)
(3c)「このグロー放電分解装置を用いてa-Si感光体を製作する場合には、a-Si成膜用のドラム状基板10を基板支持体2に装着し、a-Si生成用ガスをガス導入口6より反応室内部へ導入し、このガスをガス噴出口5を介して基板面へ噴出し、更にヒータ3によって基板を所要の温度に設定すると共に基板支持体2と電極板4の間でグロー放電を発生させ、これにより、基板10の周面にa-Siが成膜した電子写真感光体ができる。・・
〔例1〕 上記のようにa-Si感光体を製作した場合、電極板4や反応室内部には汚染物質が付着している。・・
そこで、基板10と概ね同形状のアルミニウム金属から成る導電性ダミー基板・・・を基板支持体2に装着し、次いで、SF6、NF3、CF4、ClF3等のフッ素系エッチングガスをガス導入口6より反応室内部へ導入し、ガス噴出口5を介してダミー基板へ向けて噴出し、更に基板支持体2と電極板4の間でグロー放電を発生させ、これによってエッチングガスが分解してその分解に伴って前記汚染物質をガス化する。」(段落【0011】〜段落【0013】)
(3d)「次に反応室1の内部を大気圧下に戻すとともに排気用ポンプ9を作動させてガス導入口6より・・・、温度25℃の空気を・・・導入し、反応室1の内部に空気の流路をつくる。・・
かくして、このようなフッ素除去を10分間行い、ダミー基板の吸着フッ素量を測定したところ、0.3ppmとなり、フッ素が顕著に除去されたことが判る。・・・」(段落【0015】〜段落【0016】)
(3e)「また本発明者等は上記残留フッ素の除去を行うに当たって、その処理時間に対する反応室1の内部のHF量を測定したところ、図2に示すような結果が得られた。同図にはエッチングガスとしてCl2ガスを用いて同様な実験を行った場合の結果も示す。・・以上の結果から本発明者等は水分を含む空気や不活性ガスを用いると、・・・残留ハロゲンが除去されるものと考える。」(段落【0018】〜段落【0019】)

(4)刊行物4(特開平2-190472号公報)の記載事項
(4a)「本発明は、例えば、半導体・・・等の製造で使用される薄膜形成用のCVD炉、PVD炉などの稼働に際して、基板などの目的物以外の炉内壁や治具類などに付着したアモルファスSi、BNなどをNF3、CF4などのフッ化物系クリーニングガスでクリーニングした場合に、このフッ化物系ガスが炉内に残留して次回の薄膜形成時に当該薄膜の純度を低下させることを防止する。フッ化物系ガスのクリーニング後の汚染除去方法に関し、迅速且つ強力に汚染物質を除去できるうえ、安価に実施できるものを提供する。」(1頁右下欄10〜末行)
(4b)従来技術として、「一般に、GD法により基板上にアモルファスSiの薄膜を形成した場合、基板以外の反応室の内壁にも当該アモルファスSi膜が付着するので、NF3ガスでプラズマクリーニングしてこの内壁に付着したSi膜を排除しているが、
NF3ガスのプラズマ化で生じる・・・フッ素系物質が今度は反応室内に残留する結果、次回に形成されるアモルファスSi膜に上記フッ素系物質が混入してこれを汚染してしまう。」(2頁左上欄6〜15行)
(4c)「即ち、本発明は、少なくとも一部が金属類物質又はその化合物から成る部材を製造した処理操作系内にフッ化物系クリーニングガスを導入して、その処理操作系内の金属類物質又はその化合物の一部をクリーニング処理した後に、当該クリーニングガスから生じて処理操作系内に残留する汚染物質を除去する、膜形成操作系におけるフッ化物系ガスによるクリーニング後の汚染除去方法において、
上記フッ化物系クリーニングガスがフッ化塩素、フッ化臭素の少なくとも一方を含有するガスであって、
クリーニング後の処理操作系に、全体が分子状態にある水素含有化合物ガスを流して、上記汚染物質をこの水素含有化合物で除去するとともに、
当該水素含有化合物がシラン、ホスフィン、アルシン、ジボラン、アンモニア及び低級パラフィン炭化水素のうち少なくとも一種であることを特徴とするものである。」(2頁右下欄8行〜3頁左上欄6行)
(4d)「上記汚染物質を除去する水素含有化合物は、全体が分子状態にあるガスであって、プラズマ化されてイオンやラジカルに励起されたガスは含まないものであって、」(3頁左下欄2〜5行)
(4e)「〈実験例1〉
ソーダガラス表面にアモルファスSiを薄膜形成して、当該部材を・・・反応室1内から取り出した後、当該反応室1の内壁に付着した汚染アモルファスSi膜を、Arガスで・・・希釈したClF3ガスを・・・流通させてクリーニングを行った。」(4頁10〜17行)

(5)刊行物5(特開平3-94059号公報)の記載事項
(5a)「(1)処理室内に搬入された薄板状基板の表面に、金属酸化薄膜形成用の材料ガスを供給し、前記薄板状基板の表面に金属酸化薄膜を形成する成膜工程の前または後において、
前記処理室内に弗化水素を含む蒸気を供給して前記処理室の内壁に付着した金属酸化薄膜を除去する膜除去工程と、
前記処理室内に純水または水蒸気を供給して前記処理室内に残留した弗化水素成分を洗浄する洗浄工程と、・・・」(特許請求の範囲(1))
(5b)「本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、処理室の内壁への堆積物に起因する品質低下を回避できるようにすることを目的とする。」(2頁右上欄4〜7行)
(5c)「そして、上述成膜工程を経た後に、薄板状基板2を処理室1から排出しておいてから、第2図の工程図に示すように、先ず、膜除去行程により、弗化水素供給管8の制御弁8aを開いて処理室1内に弗化水素を含む蒸気を供給し、処理室1の内壁やホットプレート3の周部などに堆積付着した金属酸化薄膜を除去し(S1)、その後に、洗浄工程に移行し、バルブ13aを開き、ドレインパイプ13を通じて排出しながら純水供給管10から純水を供給し、処理室1内に残留した弗化水素成分を洗浄除去する(S2)。
次いで、水分除去工程に移行して、アルコール類供給管11からアルコール類を供給し、処理室1内に残留した水分を洗浄除去する(S3)。」(3頁右下欄16行〜4頁左上欄9行)

4.対比・判断
(4-1)本件発明と刊行物1に記載の発明との対比
本件発明と刊行物1に記載の発明とを対比する。
刊行物1には、上記摘記事項(1c)によれば、反応容器内を減圧下で、BCl3ガスのプラズマによりAl合金薄膜表面の自然酸化膜を除去し、次いで、Cl2プラズマによりAl合金薄膜をエッチングし、次いで、CF4ガスを導入して、ガスの放電処理によりレジストを除去し、その後、大気に晒さずに連続してNH3ガスを導入し、レーザ光により、薄膜の上面、側面に形成された残留ハロゲン含有汚染物を除去する表面処理方法が記載され、「薄膜の上面、側面に形成された残留ハロゲン含有汚染物を除去する」ことは、本件発明の「被処理基体に付着した堆積膜を除去する」ことに相当しているから、両者は、「反応容器内においてハロゲン元素を含むプラズマガスまたはハロゲン元素を含む活性化されたガスまたはハロゲン元素を含むガスの化学反応を用いて被処理基体を処理する半導体製造装置において、処理の終わった被処理基体を大気中に取り出す前に、該被処理基体が収容されている容器に、活性化されたガスを減圧下で供給することにより、被処理基体に付着した堆積膜を除去する半導体装置の製造方法」の点で一致するものの、次の点で相違する。
本件発明は、被処理基体に付着した堆積膜を除去するのに、「プラズマにより活性化されたハロゲンガスまたはハロゲン元素を含むプラズマにより活性化されたガスと水またはアルコールのみのガスであって活性化のされていないものとを、減圧下でこの順に連続して供給する」のに対し、刊行物1に記載の表面処理方法は、そのようなものではない点。
そして、上記相違点なる構成が自明なこととも認められないから、本件発明は、刊行物1に記載の発明ではない。

次に、上記相違点について検討すると、刊行物2には、反応炉内壁の膜を、弗化窒素をプラズマ化して除去した後、窒素または水素を添加しプラズマ化して、残存する弗素を除去する清浄除去方法が、刊行物3には、NF3等のフッ素系エッチングガスのグロー放電により反応室内部に付着した汚染物を除去し、その後大気圧に戻して水分を含む空気を導入し、残留ハロゲンを除去すること、刊行物4には、反応室内をフッ化物系クリーニングガスによりクリーニング処理した後、残留するフッ素系汚染物質を水素含有化合物、即ちシラン、ホスフィン、アルシン、ジボラン、アンモニア及び低級パラフィン炭化水素のうち少なくとも一種により除去すること、更に刊行物5には、処理室内壁の金属酸化薄膜を弗化水素により洗浄し、その後純水により弗化水素成分を除去し、アルコールを供給して残留水分を除去することが記載されている。
しかしながら、刊行物2〜5の記載はいずれも、反応容器に付着する堆積膜を取り除くものであって、本件発明の被処理基体に付着した堆積膜を除去するものとは処理する対象が異なる。
そして、本件発明の上記相違点のように、「プラズマにより活性化されたハロゲンガスまたはハロゲン元素を含むプラズマにより活性化されたガス」と、「水またはアルコールのみのガスであって活性化のされていないもの」とを、減圧下でこの順に連続して供給することは記載されていないし、更にこの点を示唆する旨の記載もない。そうすると、上記相違点なる構成が何れの刊行物にも記載ないし示唆がない以上、本件発明を当業者が容易に想到し得るものではない。
そして、本件発明は、上記相違点なる構成により、被処理基体を処理した後に、該基体に付着する堆積膜を大気にさらす前に、簡便な方法でこの堆積膜を除去できるという刊行物1〜5の記載からは予測することのできない格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明は、刊行物1〜5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4-2)本件発明と刊行物2に記載の発明との対比
本件発明と刊行物2に記載の発明とを対比する。刊行物2には、珪化物気体(SiF4)を反応炉内に導入し、減圧された雰囲気でこのプラズマ化された気体を基板上に、アモルファス、セミアモルファス膜として形成する際、反応炉内壁に付着した膜または粉体を除去するのに、弗化窒素をプラズマ化して除去した後、窒素または水素を添加しプラズマ化して、残存する弗素を除去する清浄除去方法が記載されているから、両者は、「反応容器内においてハロゲン元素を含むプラズマガスまたはハロゲン元素を含む活性化されたガスまたはハロゲン元素を含むガスの化学反応を用いて被処理基体を処理する半導体製造装置において、該被処理基体が収容されている容器に、活性化されたガスを減圧下で供給することにより、堆積膜を除去する半導体装置の製造方法」の点で一致するものの、次の点で相違する。
本件発明は、「処理の終わった被処理基体を大気中に取り出す前に、該被処理基体が収容されている容器に、プラズマにより活性化されたハロゲンガスまたはハロゲン元素を含むプラズマにより活性化されたガスと水またはアルコールのみのガスであって活性化のされていないものとを減圧下でこの順に連続して供給することにより、被処理気体に付着した堆積膜を除去する」のに対し、刊行物2に記載の清浄除去方法は、そのようなものではない点。
そこで、上記相違点について検討する。上記(4-1)において検討したとおり刊行物1には、本件発明と同じく被処理基体に付着した堆積膜を除去するものが記載されているものの、刊行物1、3〜5には、「プラズマにより活性化されたハロゲンガスまたはハロゲン元素を含むプラズマにより活性化されたガス」と、「水またはアルコールのみのガスであって活性化のされていないもの」とを、減圧下でこの順に連続して供給することは記載されていないし、更にこの点を示唆する旨の記載もないから、本件発明を当業者が容易に想到し得るものではない。
そして、本件発明は、上記したとおりの格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明は、刊行物1〜5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5.特許法第36条違反について
特許異議申立人は、本件特許明細書には、次の記載不備があるがあるから本件特許は特許法第36条第5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである旨主張している。
(1)訂正前の請求項2には「処理の終わった被処理基体を大気中に取り出す前に、該被処理基体が収容されている容器に、活性化されたハロゲンガスまたはハロゲン元素を含む活性化されたガス・・・とを同時に或いはこの順に連続して供給することにより、被処理基体に付着した堆積膜を除去する」と記載されているが、例えばNF3プラズマに晒すと被処理基体自体のSiがエッチングされてしまうため、プロセスとして用いることができないものである。よって、同請求項2はプロセスとして用いることができない構成を含んでいるから、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものとは認められない。
(2)明細書の記載(段落【0019】)によれば、「活性化されたガス」とは、「エネルギーを与えたり構造を変えることにより、化学反応性を高められた分子または分子集合体である」とされているが、このような記載では、本件発明における「活性化されたガス」がどのような範囲のものまで及ぶのか明確でない。よって、訂正前の請求項1、2は特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものとは認められない。

そこで、上記主張について検討する。
(1)について
通常、NF3プラズマに晒したからといって、直ちに被処理基体のSiに致命的なエッチングが生ずるものではなく、Siのエッチング量は、NF3の流量、圧力、プラズマのパワー、処理時間などの各種のパラメータにより総合的に決定されるものであり、また堆積膜は、その膜質が粗であり、エッチング速度が被処理基体のSiよりも大きい場合が多い。
したがって、被処理基体のSiにはほとんど影響を与えずに表面の堆積膜のみを効果的に除去することは、当業者であれば適宜実施できることである。そうすると、請求項2はプロセスとして用いることができない構成を含んでいるとまではいえず、上記特許異議申立人が主張する記載不備はない。
(2)について
「活性化されたガス」は、訂正請求書のとおり、「プラズマにより活性化されたガス」と訂正されたことにより、上記記載不備は解消した。

IV.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件請求項1に係る発明の特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
半導体装置の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器内においてハロゲン元素を含むプラズマガスまたはハロゲン元素を含む活性化されたガスまたはハロゲン元素を含むガスの化学反応を用いて被処理基体を処理する半導体製造装置において、処理の終わった被処理基体を大気中に取り出す前に、該被処理基体が収容されている容器に、プラズマにより活性化されたハロゲンガスまたはハロゲン元素を含むプラズマにより活性化されたガスと水またはアルコールのみのガスであって活性化のされていないものとを減圧下でこの順に連続して供給することにより、被処理基体に付着した堆積膜を除去することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、半導体装置の製造方法に関するもので、特にハロゲン元素を含むプラズマや活性種等を利用する半導体装置の製造方法に係るものである。
【0002】
【従来の技術】
ハロゲン元素を含むプラズマを用いて物質を処理(エッチング、成膜等)する半導体製造装置として、一般的な反応性イオンエッチング装置(reactive ion system.以下RIE装置と略記する)を使用し、金属をエッチングする場合を例にとり、従来技術を説明する。
【0003】
図1は、一般的なRIE装置の基本的な構成を示す模式的断面図である。反応容器1の外囲壁は接地され、陽極でもある。反応容器内は排気系(真空ポンプ等を含む)2により減圧される。反応容器1にはガス導入孔3が設けられ、ハロゲン元素を含むガスが、必要によっては、他のガスと混合して導入される。反応容器1の内部は、このガスの導入と排気系2による排気とにより、一定圧力に保たれる。反応容器1内には試料6の載置台4が設けられ、載置台4は、ブロッキングキャパシタと呼ばれる容量9を介して、接地された高周波電源5に接続される。この状態で反応容器内にプラズマが発生し、載置台4は陰極となり、陰極4上の試料6で、
aM+bX→MaXb↑……(1)
但しM:金属,X:ハロゲン,a,b,:正数
の反応式で表わされる反応によって、金属Mのエッチングが進む。
【0004】
ところで、この時発生する反応生成物(MaXb)や、未反応のガス等は、排気孔2aを経て排気系2によって、大部分は、反応容器1から排出されるが、一部は反応容器内に残留し、例えば図2に示すように、反応生成物の堆積物7が、反応容器1の内壁や、ガス導入孔3や、排気孔2aの管壁に堆積する。また反応生成物は、試料6にも堆積する。図3は、図2に示す円周aで囲まれる試料部分を拡大し、反応生成物が試料6に堆積する状況を概念的に示す断面図で、試料6の端部あるいは試料をエッチングして形成された突出部6aの側壁に、反応生成物の堆積8が発生していることを示している。
【0005】
このような状態で、エッチングを続ければ、堆積物は厚みを増して行き、ストレスにより亀裂が入って、剥がれ落ち、半導体製造では特に嫌われるパーティクル(粉塵)の発生源となってしまう。
【0006】
そこで、堆積物が剥がれ落ちる前に、定期的に堆積物を除去する工程が必要になる。この方法としては、例えばNF3やSF6等のF(弗素)を含むガスのプラズマを用いて、
MaXb+cF*→MaFc↑+Xb↑……(2)
の反応を利用して堆積物を除去する方法がある。しかしながら現実には、堆積物の組成は、(1)式で表わされるような単純な物(MaXb)ではなく、導入されるガスの他の元素や、試料のマスク材などから来る様々な元素が、複雑に絡み合ったものであり、これを完全に取り除くのは極めて困難である。
【0007】
そのため、前述のFを用いた処理を、1回或いは複数回行なった後に、それに続いて反応容器内を大気圧に戻し、内部を薬品で処理したり、堆積物を物理的に取り除いたり、部品の交換をしたりする必要がある。
【0008】
しかしながら、ひとたび反応容器を大気圧に戻し、内部の洗浄を行なうと、洗浄、組み立て、排気及びエッチング特性の再現に、数時間から1日程度の時間を必要とする。また、反応容器内を大気圧に戻している間、内部の錆防止のために、例えば反応容器内部に乾燥ガスを流したり、反応容器や部品を加熱したり等の方策をとらねばならず、生産的見地から見て、装置の稼働率の低下や、経費の負担増を招くという問題が生ずる。
【0009】
また反応容器内に残留する堆積物は、水との反応性が高く、大気に触れると、大気中の水分により加水分解を起こし、有毒のハロゲン化水素が放出され、運営上も危険である。
【0010】
またガス導入孔3に堆積物がたまると、目づまりを起こし、エッチング速度等が変化する。
【0011】
また試料6に付着する堆積物は、RIE装置の場合、異方性エッチングの助けとして、利用される場合もあるが、試料を、この堆積膜を除去するための工程を経ずに大気に取り出すと、反応容器内に付着する堆積物と同様、ハロゲン化水素を出して、装置を腐食させたり、加水分解後の反応物がこの工程に続く工程の装置を汚す原因にもなる。
【0012】
以上従来技術とその問題点を、RIE装置を使用して金属をエッチングする場合を例にとって説明したが、前述の問題点は、ハロゲンガスのプラズマを利用して金属をエッチングするRIE装置に限らず、金属を含む物質、半導体、半導体を含む物質等、その他の物質をエッチングするRIE装置、さらには、処理装置としてエッチングに限らず、スパッタリング装置や化学的気相堆積装置(CVD装置)等、ハロゲン元素を含むプラズマや活性種や化学反応を利用する半導体製造装置すべてに共通するものである。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
これまで詳述したように、ハロゲン元素を含むプラズマやハロゲン元素を含む活性種等の化学反応を利用して、被処理基体を処理する半導体製造装置においては、被処理基体にエッチング等の処理を施すと、ハロゲン元素を含む反応生成物の一部が、反応容器やこれに連結する容器の内壁等に堆積し、残留する。このような状態で処理を続けると、堆積物は成長し、ついには剥がれ落ち、粉塵の発生源となる。
【0014】
このため、弗素を含むクリーニングガス等を用いて、堆積物の除去を行なうが、完全に除去することができないので、さらに反応容器内を大気圧に戻し、内部を薬品で処理したり、部品を分解して、堆積物を物理的に取り除いたりする必要があった。
【0015】
しかし、ひとたび反応容器を大気圧に戻すと、復元するまでに種々の問題があり、装置の稼働率の低下、経費の負担増、運営上の危険性等の問題がある。
【0016】
試料をエッチング等処理する際に発生する反応生成物は、試料自体にも付着するが、この堆積膜を除去しないで大気に取り出すと、有害なハロゲン化水素が放出され、危険であると共に装置の汚染原因となる。
【0017】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたもので、ハロゲン元素を含むプラズマ等を利用してエッチングや成膜等の処理を行なう半導体製造装置において、被処理基体を処理した後に、該基体に付着する堆積膜を大気にさらす前に、簡便な方法でこの堆積膜を除去できる半導体装置の製造方法を提供することである。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明の関連技術に係る半導体製造装置の洗浄方法は、反応容器内において、ハロゲン元素を含むプラズマガス、またはハロゲン元素を含む活性化されたガスまたはハロゲン元素を含むガスの化学反応を用いて被処理基体を処理する半導体製造装置において、被処理基体を処理することによって該反応容器及び該反応容器に連結された容器に付着する堆積膜を、該反応容器及び該反応容器に連結された容器に活性化されたハロゲンガスまたはハロゲン元素を含む活性化されたガスと水素元素を含む極性をもったガスであってプラズマ処理による活性化のされていないものとを同時に或いはこの順に連続して供給することにより、取り除くことを特徴とするものである。
【0019】
なお、上記の処理とは、エッチング及びスパッタリングやCVD法による成膜で、被処理基体とは該処理を受ける物体で、その物質は限定されない。また活性化されたガスを単に活性種と呼ぶことがある。活性種はエネルギーを与えたり構造を変えることにより、化学反応性を高められた分子または分子集合体である。
【0020】
本発明の半導体装置の製造方法は、反応容器内においてハロゲン元素を含むプラズマガスまたはハロゲン元素を含む活性化されたガスまたはハロゲン元素を含むガスの化学反応を用いて被処理基体を処理する半導体製造装置において、処理の終わった被処理基体を大気中に取り出す前に、該被処理基体が収容されている容器に、プラズマにより活性化されたハロゲンガスまたはハロゲン元素を含むプラズマにより活性化されたガスと水またはアルコールのみのガスであって活性化のされていないものとを減圧下でこの順に連続して供給することにより、被処理基体に付着した堆積膜を除去することを特徴とするものである。
【0021】
【作用】
被処理基板をハロゲン元素を含むプラズマガス等により処理することにより、反応容器内及びこれに連結するガス導入孔や排気孔等の内壁にハロゲン元素を含む堆積膜が付着する。この反応容器内に活性化されたハロゲンガスまたはハロゲン元素を含む活性化されたガスを導入すると、従来技術と同様、堆積物は導入ガスと反応し、気化して排気系より容器外に除去されるが、完全に除去することができない。
【0022】
本発明においては、この導入ガスと同時に或いはこれに続けて、H2O、アルコール等の水素元素を含む極性を持ったガス(化学結合で電子分布がどちらかの原子に偏ったり或いは分子全体として双極子モーメントを持つ分子から成るガス)またはそれらの混合物を反応容器内に供給することにより、反応容器内の堆積膜をほぼ完全に除去することができた。試行結果によれば、水素元素を持つ極性を持ったガスにより、従来技術では除去できなかった残留堆積物との反応性が改善されるものと推定される。また同一の手法により被処理基体に付着する堆積膜をほぼ完全に除去することができる。
【0023】
【実施例】
本発明を実施例により詳細に説明する。使用した半導体製造装置は、Si RIE装置で、その基本的構成は、従来技術の説明に用いた図1に示すものと同じである。被処理基体(試料)6は、SiO2膜のマスクでパターニングされたSi基板で、該試料6をHBrとSiF4との混合ガスのプラズマ中で、処理(Siの異方性エッチング)する場合を例に取り上げる。HBrとSiF4との混合ガスを反応ガスとして、ガス導入孔3より反応容器1内に導入し、排気系2を稼働して、反応容器1内を10-2Torr程度の圧力に保つ。2W/cm2程度の電力を高周波電源5より供給して、放電させ、発生したプラズマにより、試料1枚当たり、5分間のSiの異方性エッチングを行なう。被処理基体と処理条件を上記の通り一定とし、処理する回数と、処理後の前記RIE装置内の堆積物除去条件とを変えて実施した試行のうち、4例について述べる。
【0024】
第1実施例
(a)Siの前記エッチングを1回行なった後に試料6を反応容器1内に残したまま、HBrとSiF4とを排気系2のポンプで排気する。
【0025】
(b)これに続いて反応容器1内にガス導入孔3よりNF3を供給して、反応容器1内を10-1Torr程度の圧力に保持し、2W/cm2程度の電力を高周波電源5より供給して放電させ、この状態で15秒間保持する。
【0026】
(c)次に電力及びNF3の供給を止めて、反応容器1内を封じ切った状態で反応容器1内に、ガス導入孔3よりH2Oを供給し、チャンバー1内の圧力を10Torr程度に上げる。この状態で5秒間保持した後、反応容器1内をポンプで排気する。
【0027】
(d)上記工程を終えた試料を反応容器1から取り出し、次の試料を反応容器1内にセットし、上記(a)ないし(d)と同じ操作を繰り返す。
【0028】
第2参考例
(a)Siの前記エッチングを一回行なった後に、試料6を反応容器1内に残したまま、HBrとSiF4との供給を止めて、反応容器1内を排気系2のポンプで排気する。
【0029】
(b)これに続いて反応容器1内に導入孔3よりNF3及びH2Oを同時に供給して、反応容器1内を10-1Torr程度の圧力に保持し、2W/cm2の電力を高周波電源5より供給して放電させ、この状態で15秒間保持する。この後電力、NF3及びH2Oの供給を止め、反応容器1内を排気系2のポンプで排気する。
【0030】
(c)上記工程を終えた試料を反応容器1から取り出し、次の試料を反応容器1内にセットし、同じ操作を繰り返す。
【0031】
前記Siのエッチングを行なうことにより、図2に示すように反応容器1及びこれに連結されたガス導入孔3、排気孔2a或いは計器連結口等の内壁に堆積膜7、また図3に示すように試料6の表面や、加工部6aの側壁、周辺部に堆積膜8が付着するが、前記第1及び第2参考例のように、ハロゲン元素を含むプラズマと極性を持ったH2Oガスとをこの順に(第1実施例)、或いは同時に(第2参考例)、反応容器1及びこれに連結する容器に供給することにより、上記堆積膜はエッチング終了毎にほぼ完全に除去することができた。
【0032】
第3参考例
(a)Siの前記エッチングを、被処理基体を替えて200回行なった後に、反応容器1内にNF3を供給して、反応容器1内を10-1Torr程度の圧力に保持し、2W/cm2の電力を高周波電源5より供給して放電させ、この状態で30分間保持する。
【0033】
(b)この後、電力及びNF3の供給を止めて、反応容器1内を封じ切った状態で反応容器1内にH2Oを供給し、反応容器内の圧力をほぼ大気圧まで上げる。この状態で5秒間保持する。
【0034】
(c)その後、反応容器1内をポンプで排気する。次に上記(a)、(b)の操作を繰り返す。
【0035】
第4参考例
(a)Siの前記エッチングを、被処理基体を替えて200回行なった後に反応容器1内にNF3及びH2Oを同時に供給して、反応容器1内を10-1Torr程度の圧力に保持し、2W/cm2程度の電力を高周波電源5より供給して放電させ、この状態で30分間保持する。
【0036】
(b)この後、電力、NF3及びH2Oの供給を止め、反応容器1内をポンプで排気する。この後、上記(a)と同じ動作を繰り返す。
【0037】
第3参考例及び第4参考例のように、Siのエッチングを200回行なうと、図2に示すように反応容器1等の内壁に堆積膜7が形成されるが、上記のようにハロゲン元素を含む活性化されたガスと水素元素を含む極性を持ったガス(実施例ではH2Oまたはアルコール)をこの順にまたは同時に反応容器内に供給することにより、前記堆積膜7はほぼ完全に除去される。
【0038】
本発明の効果について、そのメカニズムは十分解明されていないが、従来技術の問題点及び本発明の効果等から、以下のように考えられる。
【0039】
本発明のメカニズムを考えるに当たり、実施例に示したSi RIE装置を例にとる。
【0040】
まず実施例に示したエッチング条件で、Siエッチングを200回繰り返し処理する。次に反応容器を、この状態のまま大気にさらす。このときの反応容器内壁の堆積の挙動は次の通りである。
【0041】
(a)大気に晒された瞬間堆積物は黄〜黄白色を呈し、(b)時間と共にハロゲン特有の刺激臭のある基体を放出しながら白みがかって行き、(c)数分から10分後には完全に白色の粉体となる。
【0042】
この粉を分析すると、ほとんどがSiO2であり、ごく微量(約100ppm)のAl、Mg等の反応容器を構成する金属が検出された。分析結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
図4は、上記試行において、反応容器を大気にさらして放置する時間と堆積物中のBr(F)の含有量との関係を示すもので、大気放置時間の増加に伴い、堆積物中のBr(F)の含有量が減少することを示している。また前記(a)ないし(c)のように、堆積物の色は、大気に晒されている時間が増加するに伴い、濃い黄色から黄白色、最後は白色の粉体(SiO2)に、刺激臭を放散しながら変化する。これらより、放出されるものはBr(F)によるものと考えられる。
【0045】
これに対しSiエッチングを200回繰り返した後に、反応容器内をNF3ガスのプラズマに15分間さらした後に、反応容器を大気にさらすと、内壁の堆積物は、前述の場合とほぼ同一の挙動を示すが最終的に残るSiO2量は、前述の場合と比べて大幅に少ない。しかし完全には除去されていない。
【0046】
そして本発明の方法では、ほぼ完全に堆積物は除去される。
【0047】
以上より本発明のメカニズムを考える。Siのエッチングを200回繰り返すと、反応容器内壁等に堆積する堆積物は、多量のSiが、さらに多量でSiに対し不活性なBr(F)に取り囲まれており、これが大気圧でH2Oのみにさらされると、Br(F)が急激にH2Oと反応して、Siが取り残され、前述の(a)ないし(c)の挙動を示す。
【0048】
Siのエッチングを200回繰り返した後、従来のように、NF3のプラズマにさらすと、まずF*やF+にさらされ、F*(F+)が直接にSiと反応或いはSiを取り囲むBr(F)を活性化してSiと反応し、蒸気圧の高い化合物となり、大部分のSiが取り除かれる。この後大気圧にさらされると上述の場合と同様に、残留するBr(F)は急激に大気中のH2Oと反応し、Siが取り残される。
【0049】
これに対し、本発明の方法では、F*(F+)にさらした後に、減圧下でH2Oにさらされるので、残留するBr(F)は、H2Oのみでなく、わずかに残ったSiとも反応すると推定され、反応容器内壁等の堆積物は、ほぼ完全に取り除かれる。
【0050】
活性化されたハロゲンガスとHを含む極性を持ったガス、すなわちF*(F+)とH2Oガスとを同時に反応容器に供給した場合にも、F*(F+)とH2Oガスとの効果は、各々の存在比を適当に調節することにより、同時進行し、反応容器内壁等の堆積物は、ほぼ完全に除去される。
【0051】
以上の実施例では、HBrとSiF4との混合ガスのプラズマを用いてSiをエッチングし、活性化されたハロゲンガスを供給する手段として、NF3プラズマを利用し、極性を持つ物質としてH2Oをガス導入孔より供給するRIE装置について説明した。上記第1ないし第4実施例及び本発明のメカニズムを解明するために行なった実験と考察とからも明らかなように、本発明は上記実施例に限定されない。
【0052】
本発明において、ハロゲン元素(F,Cl,Br,Iのいずれか1種または2種または3種の元素)を含むプラズマまたは前記ハロゲン元素を含む活性化されたガスの化学反応を用いて、被処理基体(基板または基板上に形成されたSiまたはSi化合物)を処理(エッチングまたは成膜)する半導体製造装置において、前記被処理基体を処理することによって反応容器等の内壁に付着する堆積物を、反応容器等に活性化されたNF3またはSF6と水素元素を含む極性を持ったガス(H2Oまたはアルコール)とを同時に或いはこの順に連続して供給することにより、除去することは、本発明の半導体製造装置の洗浄方法の望ましい実施態様である。
【0053】
また本発明において、ハロゲン元素(F,Cl,Br,Iのいずれか1種または2種または3種の元素)を含むプラズマまたは前記ハロゲン元素を含む活性化されたガスの化学反応を用いて、処理(エッチングまたは成膜)の終わった被処理基体(基板または基板上に形成されたSiまたはSi化合物)を大気中に取り出す前に、被処理基体が収容されている容器に、活性化されたNF3またはSF6とH2Oまたはアルコールガスとを同時に或いはこの順に連続して供給することにより、前記被処理基体に付着する堆積膜を除去することは、本発明の半導体装置の製造方法の望ましい実施態様である。
【0054】
本発明は、前記望ましい実施態様に限定されない。例えば、ハロゲン元素を含むガスにハロゲン元素を含まないガスが添加されていてもよい。またクリーニングガスもNF3やSF6に限らず、ハロゲン元素を含むガスならよく、またハロゲン元素を含まない物質が添加されていてもよい。
【0055】
また極性を持つ物質は、H2Oやアルコールに限らず少なくともHを含む極性を持つ物質ならよい。
【0056】
また処理する物質もSiまたはSi化合物に限定されない。そのハロゲン化物が、排気系の能力内で気化するものなら、金属及びその他の半導体、絶縁体等であっても差し支えない。
【0057】
またハロゲン元素を含む活性化されたガスの供給手段として、試料を処理する反応容器とは別の容器で、活性種を生成してそれを反応容器まで運ぶなどしてもよい。
【0058】
また活性化の方法も、高周波放電に限らず、直流放電や、光のエネルギーを利用するものであっても差し支えない。
【0059】
半導体製造装置もRIE装置に限らず、スパッタリング装置や、CVD装置等でハロゲン元素を含むプラズマガスまたはハロゲン元素を含む活性化されたガスまたはハロゲン元素を含むガスの化学反応を利用するものであればよい。
【0060】
また上記実施例では、反応容器等の内壁に付着する堆積膜と、試料に付着する堆積膜とを同時に同一場所で除去する例を示したが、試料に付着する堆積膜は、別の容器で除去しても構わない。
【0061】
上記実施例の半導体製造装置の洗浄方法により、従来のように反応容器を大気にさらすことなく、その内部状態を良好なまま維持することが可能となり、該装置の信頼性及び稼働率の向上、装置のメンテナンス及びそのときの人件費の軽減、また有害ガスを大気に放出させることが防げることから、運営上の安全性も向上し、その波及効果は極めて大きい。
【0062】
また上記実施例の半導体装置の製造方法により、従来技術の問題点で示したように、半導体製造装置の腐蝕や、後工程への悪影響を防げることから、装置の信頼性及び耐久性の向上、工程数の削減、製造環境の向上等その波及効果は極めて大きい。
【0063】
【発明の効果】
本発明の関連技術により、ハロゲン元素を含むプラズマ等を利用してエッチングや成膜等の処理を行なう半導体製造装置において、被処理基体を処理することにより反応容器等の内部に残留する堆積物を、従来のように反応容器を大気中にさらして容器内の部品を分解したりすることなく、簡便な方法で除去できる半導体製造装置の洗浄方法を提供することができた。
【0064】
また本発明により、被処理基体を処理した後に、該基体に付着する堆積膜を大気にさらす前に、簡便な方法でこの堆積膜を除去できる半導体装置の製造方法を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明及び従来例に使用する一般的なRIE装置の基本的構成を示す断面図である
【図2】
被処理基体を処理することにより、反応容器等の内壁に付着した堆積物を示す図1のRIE装置の断面図である。
【図3】
図2の円周aで囲まれた試料部分を拡大し、堆積物の付着状況を概念的に示す断面図である。
【図4】
反応容器等の内壁の堆積物中のBr含有量と大気放置時間との関係を示す特性図である。
【符号の説明】
1 反応容器(陽極)
2 排気系
3 ガス導入孔
4 載置台(陰極)
5 高周波電源
6 被処理基体(試料)
7,8 堆積物
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-03-01 
出願番号 特願平5-128027
審決分類 P 1 651・ 121- YA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 今井 淳一  
特許庁審判長 城所 宏
特許庁審判官 瀬良 聡機
市川 裕司
登録日 2002-08-09 
登録番号 特許第3338123号(P3338123)
権利者 株式会社東芝
発明の名称 半導体装置の製造方法  
代理人 日向寺 雅彦  
代理人 諸田 英二  
代理人 日向寺 雅彦  
代理人 諸田 英二  

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