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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C02F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C02F
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C02F
管理番号 1117877
異議申立番号 異議2003-70158  
総通号数 67 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-04-05 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-01-22 
確定日 2005-04-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3304412号「純水製造方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3304412号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3304412の請求項1に係る発明は、平成4年9月11日に特許出願され、平成14年5月10日にその特許権の設定登録がなされ、その後、オルガノ株式会社(以下、「申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成16年7月8日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
2-1訂正の内容
ア.訂正事項a
特許明細書の特許請求の範囲請求項1の記載について、
「半導体製造排水を、カチオン交換することなく、アニオン交換樹脂を充填したアニオン交換塔に導入してアニオン交換した後、工業用水と混合し、混合原水をイオン交換および膜分離処理することを特徴とする純水製造方法」とあるのを、
「フッ素イオンを含む半導体製造排水を、カチオン交換することなく、アニオン交換樹脂を充填したアニオン交換塔に導入してアニオン交換した後、工業用水と混合し、混合原水をイオン交換および膜分離処理して、一次純水とすることを特徴とする純水製造方法」と訂正する。
イ.訂正事項b
特許明細書の段落【0006】の
「【課題を解決するための手段】本発明は、半導体製造排水を、カチオン交換することなく、アニオン交換樹脂を充填したアニオン交換塔に導入してアニオン交換した後、工業用水と混合し、混合原水をイオン交換および膜分離処理することを特徴とする純水製造方法である。」とあるのを、
「【課題を解決するための手段】本発明は、フッ素イオンを含む半導体製造排水を、カチオン交換することなく、アニオン交換樹脂を充填したアニオン交換塔に導入してアニオン交換した後、工業用水と混合し、混合原水をイオン交換および膜分離処理して、一次純水とすることを特徴とする純水製造方法である。」と訂正する。
ウ.訂正事項c
特許明細書の段落【0031】の
「【発明の効果】本発明によれば、半導体製造排水を、カチオン交換することなく、アニオン交換樹脂を充填したアニオン交換塔に導入してアニオン交換した後、工業用水と混合して、イオン交換および膜分離処理を行うようにしたので、フッ化カルシウムコロイドの生成による膜分離装置のスケール化を防止することができ、これにより処理水量および処理水質の低下を防止することができ、簡単な処理装置と操作により、高純度の純水を高処理水量かつ低コストで製造することができる。」とあるのを、
「【発明の効果】本発明によれば、フッ素イオンを含む半導体製造排水を、カチオン交換することなく、アニオン交換樹脂を充填したアニオン交換塔に導入してアニオン交換した後、工業用水と混合して、イオン交換および膜分離処理して、一次純水とするようにしたので、フッ化カルシウムコロイドの生成による膜分離装置のスケール化を防止することができ、これにより処理水量および処理水質の低下を防止することができ、簡単な処理装置と操作により、高純度の純水を高処理水量かつ低コストで製造することができる。」と訂正する。
2-2訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、特許明細書の請求項1に記載される「半導体製造排水」を、「フッ素イオンを含む」ものである「半導体製造排水」に限定するとともに、また、特許明細書の請求項1に記載される「純水製造方法」を「一次純水」を製造する「純水製造方法」に限定するものであるから、上記訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。また、「フッ素イオンを含む半導体製造排水」との事項は、特許明細書の【0007】に記載される事項であり、「一次純水を製造する純水製造方法」であるとの事項は、特許明細書の【0025】に記載される事項であるので、上記訂正事項aは、新規事項の追加に該当しない。加えて、上記訂正事項aは、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
また、上記訂正事項b及びcは、上記訂正事項aによる特許請求の範囲請求項1の訂正に整合させて、発明な詳細な説明の記載を訂正するものであるから、いずれも、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、また、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
2-3訂正の適否についてのまとめ
したがって、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.本件発明
本件明細書は、上記のとおり訂正請求がなされ、その請求どおり訂正が認められたものであるから、訂正後の本件特許第3304412号の請求項1に係る発明(以下、必要に応じて、「本件発明」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲請求項1に記載される次のとおりのものである。
【請求項1】フッ素イオンを含む半導体製造排水を、カチオン交換することなく、アニオン交換樹脂を充填したアニオン交換塔に導入してアニオン交換した後、工業用水と混合し、混合原水をイオン交換および膜分離処理して、一次純水とすることを特徴とする純水製造方法

4.特許異議申立の概要
申立人は、証拠として下記の甲第1号証ないし甲第3号証を提示し、以下のように主張をする。
特許明細書の請求項1に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であるか、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づき容易になし得た発明であるので、特許明細書の請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号又は同法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
また、申立人は、特許明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載に関して、以下のように主張をする。
本特許発明においては、工業用水と混合されるべき「半導体製造排水」としてはその中にフッ素イオンが存在することを必須の要件とすることが明らかであり、フッ素イオンが存在しない排水ではそもそも本発明の排水処理は無意味なものである。しかるに、請求項1の記載及びこの記載を支持する発明の詳細な説明にはこのことについて記載がないので、発明の詳細な説明には本発明の目的、構成及び効果の明瞭な記載がなく、また、請求項1に係る発明は、発明の必須構成要件の記載を欠くものである。それゆえ、特許明細書の請求項1に係る特許は、特許法第36条第4項又は第5項及び第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

以上のとおりであるから、申立人は、特許明細書の請求項1に係る特許は取り消されるべきものであると主張する。

甲第1号証:「電子材料」,第21巻第8号,第33-37頁,1982年
甲第2号証:「造水技術」,第13巻第1号,第18-22頁,1987年
甲第3号証:特公昭61-1192号公報

5.証拠に記載される事項
5-1甲第1号証
甲第1号証には、以下の事項が記載され又は図示される。
(5-1-1)「IC工場における用排水処理」(第33頁1行(論文のタイトル))
(5-1-2)「超純水は・・・当然回収再利用が図られる。排水のうちでも濃度の低い酸性排水は、弱塩基性陰イオン交換樹脂またはモノベッド装置で処理して1次純水貯水槽で原水系列の処理水に加える。」(第37頁右欄12〜19行)
(5-1-3)「図1 1次,2次純水製造装置流路図」(第34頁)が図示され、原水をもとに1次純水製造装置及びサブシステムで純水を製造すること、1次純水製造装置おける最終工程は貯槽であること及び貯槽にはN2ガスが供給されることが読み取れる。
(5-1-4)「(ハ)貯水槽 ・・・1次純水貯槽は空気との接触を避けN2ガスなどによってシールすることが必要である。」(第36頁右欄1〜9行)

5-2甲第2号証
甲第2号証には、以下の事項が記載され又は図示される。
(5-2-1)「半導体製造業における用水使用合理化の実態」(第18頁下欄1行(論文のタイトル))
(5-2-2)「一般的な超純水製造工程を図3に示すが、・・・そこで造水と排水の両者を組合せ計画設計の段階から、造排水システムとして回収利用をするようになっている.
超純水製造システムとしては最近の膜利用技術の進歩に伴い、逆浸透膜(RO膜)、限外ろ過膜(UF膜)を使った装置が主流をなしてきており、工業用水等原水はまず前処理装置の凝集、沈殿、ろ過装置により、まず濁質、コロイド、微粒子、藻類等RO膜閉鎖物質の除去を行い、次に逆浸透装置を通し、その脱塩解力を活かしてイオン交換装置への負荷を軽減させ、高純度水の採取を容易にするとともに前処理にて完全に除去し得ない微粒子や有機物の原水からの異物の混入を防止する。逆浸透装置によって水中の溶存イオン類は約1/10程度となり、さらにイオン交換装置により脱イオンされ,いわゆる純水が製造される.この段階の純粋は1次純水と称され」(第19頁右欄1行〜第20左欄8行)
(5-2-3)「図3 超純水製造システム及び洗浄水回収システム」(第20頁)が図示され、ユースポイントから出る酸系希薄排水は、洗浄水回収装置を経て前処理に還されることが読み取れ、該洗浄水回収装置には、イオン交換装置を具備することが読み取れる。
(5-2-4)「図4 IC工場の排水系統図」(第20頁)が図示され、ユースポイントからの廃水には、ふっ酸系排水があることが読み取れる。

5-3甲第3号証
甲第2号証には、以下の事項が記載される。
(5-3-1)「電子部品の洗浄にはこの超純水が多量に使用され、その洗浄廃水は若干の不純物を含んでいるものの、廃水としての純度は比較的高いためにこれを超純水製造装置で再度処理して再利用することが望まれている。
すなわち、この洗浄廃水は電子部品の製造工程で用いられるフッ素、硝酸、硫酸、カルシウム、マグネシウム、有機溶剤等を含有しており、これらを再処理して再利用するにあたって、この洗浄廃水を直接超純水製造装置で処理すると、超純水までの純化が、困難などの問題があり、特にフッ素は超純水製造装置内でスケールを発生させ装置機能低下という重大な障害発生の要因となるので、洗浄廃水の再利用に際しこのような障害発生防止のためにフッ素をlppm以下程度にする特別の処理が必要である。」(第1頁第2欄4〜19行)

6.当審の判断
6-1本件発明の新規性について
甲第1号証には、上記摘示箇所(5-1-1)ないし(5-1-4)によれば、「半導体製造排水のうちでも濃度の低い酸性排水は、弱塩基性陰イオン交換樹脂またはモノベッド装置で処理した後に、原水をもとに純水を製造する1次純水製造装置の1次純水貯水槽で原水系列の処理水と混合される純水製造方法」である発明(以下、「甲第1号証発明」という。)が記載されるといえる。
そこで、本件発明と甲第1号証発明を対比すると、甲第1号証発明における「原水系列の処理水」及び「原水」は、それぞれ、本件発明の「一次純水」及び「工業用水」に相当するので、両者は、「半導体製造排水を混合する純水製造方法」である点で一致し、本件発明は、「半導体製造排水」を「工業用水」と混合するのに対し、甲第1号証発明は、「半導体製造排水」を「一次純水」と混合する点で少なくとも相違する。
そして、甲第1号証には、他に、上記相違する構成につき示唆する記載もない。
よって、本件発明は、甲第1号証に記載された発明ではない。

甲第2号証には、上記摘示箇所(5-2-1)、(5-2-3)及び(5-2-4)によれば、「ふっ酸系排水である半導体製造排水を、イオン交換装置を経て前処理に還すこと」が記載されるといえ、上記摘示箇所(5-2-2)によれば、「工業用水等原水はまず前処理装置でRO膜閉鎖物質の除去を行い、次に逆浸透膜(RO膜)を使った逆浸透装置を通し、さらにイオン交換装置により脱イオンし、1次純水を製造する方法」が記載されるといえる。ここにおいて、「ふっ酸系排水である半導体製造排水を前処理に還すこと」は、上記摘示箇所(5-2-2)の記載を鑑みれば、該排水を前処理において工業用水と混合することを意味し、また、「ふっ酸系排水である半導体製造排水」、「逆浸透膜(RO膜)を使った逆浸透装置を通す」こと及び「イオン交換装置により脱イオンする」ことは、それぞれ、本件発明の「フッ素イオンを含む半導体排水」、「膜分離処理」及び「イオン交換処理」に相当するので、甲第2号証の記載される事項を本件発明の記載に沿って整理すると、甲第2号証には、以下の発明(以下、「甲第2号証発明」という。)が記載されるといえる。
「フッ素イオンを含む半導体製造排水を、イオン交換装置を経た後、工業用水と混合し、混合原水をイオン交換および膜分離処理して、一次純水とすることを特徴とする純水製造方法」
そこで、本件発明と甲第2号証発明を対比すると、両者は、「フッ素イオンを含む半導体製造排水を、ある処理をした後、工業用水と混合し、混合原水をイオン交換および膜分離処理して、一次純水とする純水製造方法」である点で一致し、本件発明は、ある処理が「カチオン交換することなく、アニオン交換樹脂を充填したアニオン交換塔に導入してアニオン交換した」ものであるのに対し、甲第2号証発明は、単に「イオン交換装置を経る」ものであって、アニオン・カチオンそれぞれのイオンに対しどのようなイオン交換を行うのかに関して特段の記載がない点で相違(以下、「相違点1」という。)する。
よって、本件発明は、甲第2号証に記載された発明ではない。

以上のとおりであるから、本件発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明ではない。

6-2本件発明の進歩性について
上記6-1で記載したように、本件発明と甲第2号証発明について対比すると相違点1において相違するので、斯かる相違点について検討する。
本件発明は、上記の相違点1で挙げたように「カチオン交換することなく、アニオン交換樹脂を充填したアニオン交換塔に導入してアニオン交換した」との構成を具備するものであって、この構成は、訂正明細書に記載(特に、【0008】ないし【0010】を参照)されるように、工業用水中のカルシウムイオンと反応してフッ化カルシウムを生成させてしまう半導体製造排水中のフッ素イオン除去を試みたものである。
当該技術分野の周知技術を鑑みても、上述のある処理(甲第2号証発明のイオン交換装置で行う処理)は、通常、脱塩を行うもの(例えば、特開昭62-87299号公報第2頁左上欄参照)であって、塩を除くべくカチオン・アニオン共にイオン交換するものであるので、「カチオン交換することなく、アニオン交換した」とすることを、当業者が、直ちに、想到できるものとはいえない。
次いで、甲第1号証の記載をみるに、甲第1号証発明は、上述のとおり排水を「一次純水」と混合するものであるから、「カチオン交換することなくアニオン交換する」ことを示唆するものとはなり得ない。また、甲第3号証に記載される発明を鑑みても、上記摘示(5-3-1)に記載されるように、フッ素をlppm以下程度に低減させることは示唆するものの、「カチオン交換することなくアニオン交換する」ことの動機を開示するものではない。
そして、本件発明は、「カチオン交換することなく、アニオン交換樹脂を充填したアニオン交換塔に導入してアニオン交換した」ことにより、他の構成と相まって、訂正明細書に記載されるとおり効果を有する(特に、訂正明細書段落【0031】参照)ものである。
してみれば、「カチオン交換することなく、アニオン交換樹脂を充填したアニオン交換塔に導入してアニオン交換した」との構成を具備する点で、本件発明は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づき容易になし得た発明ではない。

6-3明細書の記載要件について
記載要件の不備は、具体的には、本件発明においては、「半導体製造排水」にはその中にフッ素イオンが存在することが必須であるとの主張によるものであるが、この点は、特許明細書の訂正が認められた結果、解消された。
したがって、本件特許は、特許法第36条第4項又は第5項及び第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。

7.まとめ
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由によっては訂正明細書の請求項1に係る特許は取り消すことはできない。
また、他に訂正明細書の請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、訂正明細書の請求項1に係る特許は拒絶査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
純水製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 フッ素イオンを含む半導体製造排水を、カチオン交換することなく、アニオン交換樹脂を充填したアニオン交換塔に導入してアニオン交換した後、工業用水と混合し、混合原水をイオン交換および膜分離処理して、一次純水とすることを特徴とする純水製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は半導体製造排水と工業用水の混合原水を、イオン交換および膜分離処理して純水を製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
半導体製造工程等に使用される超純水は、一般にイオン交換および膜分離処理からなる一次純水製造工程と、紫外線酸化、混床式イオン交換および限外濾過からなる二次純水製造工程(サブシステムとも呼ばれる)とを経て製造される。このような超純水製造工程に供給される原水としては、工業用水のほか、半導体製造工場等においては、半導体製造工程から排出される半導体製造排水を回収して原水としている。
【0003】
ところが両者は含まれる成分が異なるため、別の処理法により純水を製造している。すなわち半導体製造排水を原水とする場合は活性炭処理、弱塩基性アニオン交換、強酸性カチオン交換、強塩基性アニオン交換、膜分離の各工程を経て一次純水を製造している。これに対して工業用水を原水とする場合は活性炭処理、強酸性カチオン交換、脱気、強塩基性アニオン交換、膜分離の各工程を経て一次純水を製造している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従来の超純水製造工程では、原水ごとに別の処理法により一次純水を製造しているため、処理装置および操作が複雑となり、製造コストが高くなるという問題点がある。
この点を改善するために、両方の原水を混合して処理を行うと、膜分離装置においてスケールが付着して、処理水量が低下するとともに、処理水質が低下するという問題点がある。
【0005】
本発明の目的は、半導体製造排水と工業用水を混合して原水としても、膜分離装置におけるスケールの生成による処理水量および処理水質の低下を防止することができ、これにより簡単な処理装置と操作により、高水質の純水を高処理水量で製造することができる純水製造方法を提案することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、フッ素イオンを含む半導体製造排水を、カチオン交換することなく、アニオン交換樹脂を充填したアニオン交換塔に導入してアニオン交換した後、工業用水と混合し、混合原水をイオン交換および膜分離処理して、一次純水とすることを特徴とする純水製造方法である。
【0007】
本発明において原水として用いる半導体製造排水は、半導体製造工程から排出される洗浄排水その他の排水であって、フッ素イオンを含む排水である。半導体製造排水は予め活性炭処理等の前処理を行うことができる。
他の原水として用いる工業用水は、水道水、地下水、河川水など、一般に純水製造の原水として用いられるものが、そのまま使用できる。この工業用水も、凝集沈殿処理等の前処理を行うことができる。
【0008】
このような半導体製造排水および工業用水を混合してイオン交換および膜分離処理を行うと、膜分離装置においてスケールが生成し、処理水量および処理水質が低下するが、その原因を調べたところ、半導体製造排水中のフッ素イオンと工業用水中のカルシウムイオンが反応してフッ化カルシウムが生成し、〔Ca〕〔F〕2=4×10-11以上でコロイドが生成するためであることがわかった。
【0009】
すなわち、両原水の混合によりフッ化カルシウムのコロイドが生成すると、解離定数が低いため、イオン交換工程において除去されず、そのまま膜分離装置に流入してスケール化する。そしてフッ化カルシウムが分離膜に付着すると、薬品洗浄を行っても容易に性能が回復せず、処理水量が低下するとともに、付着物が少しずつ溶出して、処理水質が低下する。
【0010】
本発明では、このようなフッ化カルシウムの生成を防止するために、予め半導体製造排水をアニオン交換して、フッ素イオンを除去した後、工業用水と混合して混合原水とする。両者の混合割合は任意である。混合は両者を貯槽に導入することにより行うことができる。
【0011】
半導体製造排水のアニオン交換に用いるアニオン交換樹脂としては、弱塩基性アニオン交換樹脂でも、強塩基性アニオン交換樹脂でもよく、またゲル型でもポーラス型でもよい。半導体製造排水中のフッ素イオンは通常フッ酸の形で含まれているため、弱塩基性アニオン交換樹脂を用いる方が再生が容易である。アニオン交換は樹脂を塔内に充填し、半導体製造排水をSV10〜30hr-1で通水して行うことができる。半導体製造排水のアニオン交換処理水は、必要により紫外線酸化等の後処理を行った後、工業用水と混合することができる。
【0012】
混合原水のイオン交換は、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂により脱カチオンおよび脱アニオンする操作である。カチオン交換樹脂としては強酸性カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂としては強塩基性アニオン交換樹脂を使用するが、場合によっては弱酸または弱塩基性の樹脂を組合せて用いることができる。これらの樹脂もゲル型、ポーラス型のいずれでもよい。
【0013】
イオン交換は2塔式、複床式、混床式など任意の方式を採用できるが、この段階で炭酸ガスその他の脱気を行うのが好ましく、脱気塔を組合せた2床3塔式または4床5塔式などの方式が好ましい。脱気塔としては脱炭酸放散式、真空脱気式、N2脱気式のいずれの方式でもよい。これらを用いたイオン交換処理の操作は、通常の純水製造方法と同様である。
【0014】
膜分離処理は、イオン交換工程からリークする比較的高分子量の有機物を主として除去することを目的とするものであるが、低分子の有機物、固形物、無機イオン等も除去するものでもよい。ここで用いる分離膜としては、ポリアミド系、セルロースアセテート系などの逆浸透膜が好ましいが、UF膜、MF膜であってもよい。膜分離の操作圧は10〜20kgf/cm2G、回収率70%以上で操作するのが好ましい。
【0015】
【実施例】
以下、本発明を図面の実施例により説明する。
図1は本発明の純水製造方法の実施例を示すフロー図である。
【0016】
図において、1は半導体製造排水槽、2は活性炭処理槽で、活性炭層2aが形成されている。3はアニオン交換塔で、OH形弱塩基性アニオン交換樹脂層3aが形成されている。4は混合原水槽、5は活性炭処理槽で活性炭層5aが形成されている。6はカチオン交換塔で、H形強酸性カチオン交換樹脂層6aが形成されている。7は脱気塔で、脱炭酸放散式のものが用いられている。8はアニオン交換塔で、OH形強塩基性アニオン交換樹脂8aが用いられている。9は脱塩水槽、10は膜分離装置で、逆浸透膜からなる分離膜10aを内蔵している。
【0017】
純水製造方法は、まず半導体製造排水管11から半導体製造排水槽1に半導体製造排水を導入する。そしてその一部を連絡管12から活性炭処理槽2に導入して活性炭処理を行い、有機物その他の不純物を活性炭層2aに吸着させて除去する。この活性炭処理槽2を省略し、活性炭処理槽5にその作用を行わせてもよい。
【0018】
活性炭処理槽2の処理水は連絡管13からアニオン交換塔3に導入し、アニオン交換樹脂層3aによりフッ素イオンその他のアニオンを除去する。アニオン交換処理は上向流、下向流いずれでもよく、SV10〜30hr-1で通水するのが好ましい。再生は塩酸、硫酸等の酸を用いて行い、並流再生、向流再生のいずれによってもよい。アニオン交換処理水は連絡管14から混合原水槽4に導入する。
【0019】
一方、工業用水管15から工業用水を混合原水槽4に導入してアニオン交換処理水と混合して、混合原水とする。工業用水中にはカルシウムイオンが含まれるが、アニオン交換処理水中にフッ素イオンが含まれないため、フッ化カルシウムのコロイドは生成しない。
【0020】
混合原水は連絡管16から活性炭処理槽5に導入して、活性炭層5aにより活性炭処理を行い、遊離塩素や有機物その他の不純物を吸着除去する。前処理等により、原水中にこれらの不純物が含まれない場合には、この処理を省略することもできる。
【0021】
活性炭処理水は連絡管17からカチオン交換塔6に導入し、カチオン交換樹脂層6aに接触させて脱カチオンを行う。この操作は上向流、下向流のいずれでもよく、SV10〜30hr-1で通水するのが好ましい。再生も並流、向流いずれの再生法でもよい。
【0022】
カチオン交換処理水は連絡管18から脱気塔7に導入して、充填材層7a上にスプレーし、空気管19から空気を送って炭酸ガスその他のガスを放散させて脱気を行う。脱気水中に酸素が含まれていてはならない場合には、真空脱気、N2脱気等を行う。
【0023】
脱気水は連絡管20からアニオン交換塔8に導入し、アニオン交換樹脂層8aに接触させて脱アニオンを行う。この操作も上向流、下向流のいずれでもよく、SV10〜30hr-1で通水するのが好ましい。再生も並流、向流いずれの再生法でもよい。
【0024】
脱塩水は連絡管21から脱塩水槽9に貯留した後、その一部を連絡管22から膜分離装置10に導入し、分離膜10aにより膜分離を行い、有機物、固形物、無機イオン等の残留する不純物を除去する。膜分離は操作圧10〜20kgf/cm2G、回収率70%以上で行う。膜分離装置10に流入する脱塩水中にはフッ化カルシウムが存在しないため、従来のようなフッ化カルシウムコロイドによるスケール化はなく、長期にわたって処理水量の低下は発生しない。
【0025】
膜分離装置10の透過水は純水管23から純水として取出される。この純水はそのまま、または任意の後処理を行って一般の純水の用途に使用できるほか、一次純水として超純水製造工程の二次純水製造工程に送り、超純水の製造に供することができる。膜分離装置10の濃縮液は濃縮液管24から排出される。
【0026】
実施例1
pH4.0、フッ素イオン20mg/l、全カチオン30mg/l(CaCO3として)、全アニオン100mg/l(CaCO3として)の半導体製造排水を、OH形弱塩基性アニオン交換樹脂ダイヤイオンWA-30(三菱化成(株)製、商標)を50liter充填したアニオン交換塔に500liter/hrで通水してアニオン交換した後、pH7.3、カルシウムイオン30mg/l、全カチオン120mg/l(CaCO3として)、全アニオン130mg/l(CaCO3として)の工業用水(水道水)と混合して混合原水とした。
【0027】
この混合原水を、活性炭クラレコール(クラレ(株)製、商標)を100liter充填した活性炭槽、H形強酸性カチオン交換樹脂ダイヤイオンSK1B(三菱化成(株)製、商標)を50liter充填したカチオン交換塔、空気を5Nm3/hrで向流送風する脱気塔およびOH形強塩基性アニオン交換樹脂ダイヤイオンSA10(三菱化成(株)製、商標)を70liter充填したアニオン交換塔にシリーズに通液し、さらにスパイラル形逆浸透膜モジュールSU-710(東レ(株)製)を4本内蔵する膜分離装置に、操作圧15kgf/cm2G、回収率90%で供給して膜分離を行い、純水を製造した。
【0028】
その結果、3時間運転後および70時間運転後の膜分離装置出口の純水の比抵抗は18.02Ω・cm、処理水量は28m3/dであり、処理水の水質低下および処理水量の低下は起こらなかった。
【0029】
比較例1
実施例1において、半導体製造排水のアニオン交換を行わないほかは、同条件で試験したところ、膜分離装置出口の純水の比抵抗は、3時間運転後に18.02Ω・cmであったものが、70時間運転後には17.94Ω・cmに低下し、また処理水量は3時間運転後に28m3/dであったものが、70時間運転後には23m3/dに低下した。
【0030】
以上の結果より、半導体製造排水をアニオン交換した後工業用水と混合することにより、処理水の水質低下および処理水量の低下が防止される。
【0031】
【発明の効果】
本発明によれば、フッ素イオンを含む半導体製造排水を、カチオン交換することなく、アニオン交換樹脂を充填したアニオン交換塔に導入してアニオン交換した後、工業用水と混合して、イオン交換および膜分離処理して、一次純水とするようにしたので、フッ化カルシウムコロイドの生成による膜分離装置のスケール化を防止することができ、これにより処理水量および処理水質の低下を防止することができ、簡単な処理装置と操作により、高純度の純水を高処理水量かつ低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
実施例の純水製造方法を示すフロー図である。
【符号の説明】
1 半導体製造排水槽
2、5 活性炭処理槽
3、8 アニオン交換塔
4 混合原水槽
6 カチオン交換塔
7 脱気塔
9 脱塩水槽
10 膜分離装置
11 半導体製造排水管
15 工業用水管
19 空気管
23 純水管
24 濃縮液管
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-03-23 
出願番号 特願平4-243407
審決分類 P 1 651・ 531- YA (C02F)
P 1 651・ 121- YA (C02F)
P 1 651・ 534- YA (C02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 杉江 渉  
特許庁審判長 多喜 鉄雄
特許庁審判官 鈴木 毅
野田 直人
登録日 2002-05-10 
登録番号 特許第3304412号(P3304412)
権利者 栗田工業株式会社
発明の名称 純水製造方法  
代理人 柳原 成  
代理人 柳原 成  
代理人 西村 公佑  
代理人 高木 千嘉  

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