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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B21C
管理番号 1117889
異議申立番号 異議2003-70274  
総通号数 67 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-06-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-01-28 
確定日 2005-03-17 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3308839号「冷間加工性に優れた軸受鋼鋼線の製造方法並びにベアリングレースおよびボール・コロの加工方法。」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3308839号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3308839号の発明についての出願は、平成8年12月4日に特許出願され、平成14年5月17日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、新日本製鐵株式会社、株式会社神戸製鋼所、住友金属工業株式会社及び日本高周波鋼業株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成15年12月22日に訂正請求がなされたものである。

II.訂正の適否について
1.訂正の内容
(1)訂正事項a
請求項1の「0.6%C以上のCを含有する軸受鋼の最終仕上げ伸線率を10〜40%として伸線することを」を、「0.6%C以上のCを含有し、球状化焼鈍した軸受鋼の最終仕上げ伸線率を17.9〜40%として伸線することを」と訂正する。
(2)訂正事項b
明細書段落【0006】の「0.6%C以上のCを含有する軸受鋼の最終仕上げ伸線率を10〜40%として伸線することを」を、「0.6%C以上のCを含有し、球状化焼鈍した軸受鋼の最終仕上げ伸線率を17.9〜40%として伸線することを」と訂正する。
(3)訂正事項c
明細書段落【0008】の「最終仕上げ伸線率を10〜40%と」の記載2カ所を「最終仕上げ伸線率を17.9〜40%と」と訂正し、「むしろ伸線率を10%以上」を「むしろ伸線率を17.9%以上」と訂正し、「最終仕上げ伸線率は10〜40%とする。」を「最終仕上げ伸線率は17.9〜40%とする。」と訂正する。
なお、訂正請求書の「(3)訂正事項a、b」欄では「最終仕上伸線率」と3カ所記載され、添付された訂正明細書での記載「最終仕上げ伸線率」と異なっているが、上記したとおり添付された訂正明細書どおり「最終仕上げ伸線率」と認定した。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)上記訂正事項aは、請求項1に記載された軸受鋼の「最終仕上げ伸線率を10〜40%として伸線する」ことを、「球状化焼鈍した軸受鋼の最終仕上げ伸線率を17.9〜40%として伸線する」と、球状化焼鈍した軸受鋼であってその最終仕上げ伸線率の下限を17.9に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
そして、球状化焼鈍した軸受鋼の最終仕上げ伸線率を17.9〜40%として伸線することは、特許明細書段落【0009】〜【0017】、図1〜3の発明の実施の形態及び実施例の記載に裏付けられている。
(2)上記訂正事項b、cは、特許請求の範囲の訂正に基づき訂正後の請求項と整合するよう、発明の詳細な説明の記載を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
そして、該訂正は、いずれも願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.特許異議申立てについて
1.特許異議申立ての概要
(1)特許異議申立人新日本製鐵株式会社は、証拠として下記甲第1、2号証を提出し、訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、又訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号、又同条第2項の規定に違反してされたものであって、更に、本件特許明細書には記載不備があり、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、これらを取り消すべき旨主張する。

甲第1号証:特開平8-10825号公報(以下、「刊行物1」という)
甲第2号証:「第3版鉄鋼便覧、第VI巻二次加工・表面処理・熱処理・溶接」、社団法人日本鉄鋼協会編、昭和60年6月30日、丸善株式会社発行、9、71〜75頁(以下、「刊行物2」という)

(2)特許異議申立人株式会社神戸製鋼所は、証拠として下記甲第1〜4号証、及び参考文献1、2を提出し、訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、又甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号、又同条第2項の規定に違反してされたものであって、更に、本件特許明細書には記載不備があり、特許法第36条第4、6項に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、これらを取り消すべき旨主張する。

甲第1号証:特開平8-10825号公報(「刊行物1」に同じ)
甲第2号証:特開平7-108340号公報(以下、「刊行物3」という)
甲第3号証:特公平7-35545号公報(以下、「刊行物4」という)
甲第4号証:日本機械学会誌、第70巻、第584号、昭和42年9月、1287〜1297頁(以下、「刊行物5」という)
参考文献1:雑誌「特殊鋼」、1975年、第24巻、第4号、45〜47頁、社団法人特殊鋼倶楽部発行
参考文献2:「図解 金属材料技術用語辞典-第2版-」、2000年1月30日、日刊工業新聞社発行、349頁右欄「バウシンガー効果」欄

(3)特許異議申立人住友金属工業株式会社は、証拠として下記甲第1〜3号証を提出し、訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、又甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号、又同条第2項の規定に違反してされたものであって、これらを取り消すべき旨主張する。

甲第1号証:特開平8-10825号公報(「刊行物1」に同じ)
甲第2号証:「改訂5版、鋼の熱処理」社団法人日本鉄鋼協会編、昭和60年3月15日、丸善株式会社発行、423〜424頁(以下、「刊行物6」という)
甲第3号証:特殊鋼、39巻2号、1990年2月発行、41〜44頁(以下、「刊行物7」という)

(4)特許異議申立人日本高周波鋼業株式会は、証拠として下記甲第1〜8号証を提出し、訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて、又訂正前の請求項2に係る発明は、甲第1〜8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、これらを取り消すべき旨主張する。

甲第1号証:日本金属学会会報 Vol.30 No.6(以下、「刊行物8」という)
甲第2号証:特公平7-35545号公報(「刊行物4」に同じ)
甲第3号証:特公平5-30884号公報(以下、「刊行物9」という)
甲第4号証:特開平8-283847号公報(以下、「刊行物10」という)
甲第5号証:特開平8-10825号公報(「刊行物1」に同じ)
甲第6号証:特開平7-138650号公報(以下、「刊行物11」という)
甲第7号証:特開平8-132127号公報(以下、「刊行物12」という)
甲第8号証:特開平7-108340号公報(「刊行物3」に同じ)

2.本件発明
本件特許の請求項1、2に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明2」という)は、上記のとおり訂正が認められたから、平成15年12月22日付け訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】冷間鍛造によりベアリングレースおよびボール・コロを製造するための軸受鋼鋼線の製造において、0.6%C以上のCを含有し、球状化焼鈍した軸受鋼の最終仕上げ伸線率を17.9〜40%として伸線することを特徴とする冷間鍛造性に優れた軸受用鋼鋼線の製造方法。
【請求項2】請求項1で製造の軸受用鋼鋼線を用いて伸線方向に圧縮して冷間鍛造することによりベアリングレースおよびボール・コロに加工することを特徴とする軸受用鋼鋼線からの冷鍛加工によるベアリングレースおよびボール・コロの製造方法。」

3.当審が通知した取消理由で引用した刊行物11、3、6、7及びその記載事項
刊行物11:特開平7-138650号公報
刊行物3:特開平7-108340号公報
刊行物6:「改訂5版、鋼の熱処理」社団法人日本鉄鋼協会編、昭和6 0年3月15日、丸善株式会社発行、第423〜424頁
刊行物7:特殊鋼、39巻2号、1990年2月発行、第41〜44頁

(1)刊行物11(特開平7-138650号公報)
(1a)「【請求項1】鋼線材を1次伸線した後、コイル状態で焼鈍し、次いで、2次伸線を行うに際し、1次伸線後、且つ、焼鈍前に単線状態で鋼線材にショットブラストを施すことを特徴とする鋼線材コイル焼鈍時の圧着防止方法。
【請求項2】ショットブラスト後の鋼線材の最高表面粗度(Rmax1)が15μm以上、且つ、下記式を満足することを特徴とする請求項1記載の方法。
Rmax1≦3.857Ared+α
ここで、Rmax1:ショットブラスト後の最高表面粗度(μm)
Ared :2次伸線における減面率(%)
α :2次伸線後の許容最高表面粗度(μm)」
(1b)「【0002】【従来の技術】所定の寸法に熱間圧延された線材(5〜44mmφ)は、全長が一般に数百m〜数千mの長尺となり、・・・コイル状に捲き取る(以下、線材コイルという)。この線材コイルにおいて、表1に成分を示すような炭素鋼、低合金鋼、軸受鋼等を冷間鍛造用に供する場合、前加工として伸線を行い寸法精度の向上、機械的性質の向上を図るのが一般的である。
【0003】冷間鍛造用線材の伸線加工は、酸洗法又は、ショットブラスト法等により脱スケールし、ついで潤滑下地および潤滑処理した後、1次伸線し、該伸線による加工硬化の除去又は、セメンタイトの球状化を行うために焼鈍し、さらに2段階目の酸洗、潤滑下地および潤滑処理を施した後、スキンパスによる2次伸線を行う方法が一般的である。
【0004】焼鈍は、焼鈍炉に線材コイルを平置き(コイル軸心が垂直方向)の姿勢で装入して行うのが一般的である。・・・この雰囲気において、鋼種により焼鈍温度400〜850℃で焼鈍時間5〜23時間の焼鈍パターンで軟化及び球状化焼鈍を行う。この高温、長時間の焼鈍時に、線材コイル自重によって、コイル同士の圧着が発生する場合がある。 ・・・・・
【0006】【発明が解決しようとする課題】本発明は、かかる状況に鑑み、鋼線材の伸線加工の中間処理として実施する焼鈍時において発生する線材コイル同士の圧着を防止する方法と、該方法の最適条件を提供するものである。」
(1c)実施例として、「【0012】線材寸法(φ8、φ16)2種類と、鋼種は表1に示すJIS規格の炭素鋼(S45C)、・・・軸受鋼(SUJ2)の3種類を用いて、2次伸線後の許容最高表面粗度(α)が15μm以下の仕様の1次伸線を行った。ダイス5で1次伸線後、ショットブラスト装置3bを通過させ、表面粗度を変化させた後、該コイルをRXガス雰囲気下で球状化焼鈍800℃×6hr+730℃×4hr(Total:23hr)行い、焼鈍後コイルをポスト等に仮置きして1リング毎にばらしを行い圧着状態を確認した。また、2次伸線後の表面粗度についても調査した。」と記載され、表1には、軸受鋼(SUJ2)がC:1.02wt%含有するものであること、表2には、2次伸線における減面率(Ared:%)が、No3比較法では19%、No8本発明法では23%であることが記載されている。

(2)刊行物3(特開平7-108340号公報)
(2a)「【請求項1】コイル状線材を球状化焼鈍後、酸洗、潤滑処理して伸線し、次いで伸線後の線材を所定長さに切断し、冷間で両端面より圧縮して拡径する予備成形を行った後、インサート材に超硬を用いた二重しまりばめダイスを用いてベアリングレースの外形を形成する据込みおよび、据込み材中央部にパンチを圧入して凹部を成形する穴あけを行い、続いて凹部を貫通孔とするための打抜きを行うことを特徴とするコロ軸受ベアリングレース用粗形材の製造方法。」
(2b)「【0002】【従来の技術】従来の高炭素クロム鋼は炭素およびクロム元素の含有量が多いので、冷間では変形抵抗が高い上、冷間鍛造した場合その変形抵抗からダイスが受ける圧力は極めて大きなものとなる。したがって、冷間で鍛造すると、ダイスに応力割れが発生したり、金型寿命が短いという問題があり、従来はコロ軸受ベアリングレースを冷間鍛造で製造することは困難と考えられていた。
【0003】そのため、高炭素クロム鋼のコロ軸受ベアリングレース用粗形材の鍛造成形には、その変形抵抗を下げるべく温間鍛造法が採用されている。・・・」
(2c)「【0008】【課題を解決するための手段】この発明は、上記従来の問題点を解決し、高炭素クロム鋼のコロ軸受ベアリングレース用粗形材を冷間鍛造で精度よく製造する方法として、素材にコイル材を使用し、伸線処理を施した後冷間鍛造するもので、・・・」
(2d)「【0014】伸線後の線材は、切断工程で所定の長さに切断して次の粗形材製造工程に導入されて粗形材が製造される。粗形材製造工程では図2に示すごとく、所定の長さに切断された素材1を予備成形工程にて冷間で両端面より圧縮して拡径して円筒形ブランク2とする。次いで、この円筒形ブランク2を、据込み工程にて外形を形成し円錐台形粗形材3とする。続いて、インサート材に超硬を用いた二重しまりばめダイスにて上記円錐台形粗形材3の中央部に凹部4-1を形成するための穴あけ加工を施して凹部付き粗形材4とし、この凹部付き粗形材4の凹部4-1をパンチFにて打抜いて粗形材5となす。」
(2e)実施例1には、化学組成C:1.00重量%含有する素材コイルを伸線し、冷間鍛造でコロ軸受ベアリングレース用粗形材を得たこと(【0016】〜【0019】)が記載されている。

(3)刊行物6(「改訂5版、鋼の熱処理」日本鉄鋼協会編)
423頁に「軸受鋼として高C-Cr鋼が用いられること」(左欄)、軸受鋼のJIS規格であるSUJ1〜SUJ3の炭素含有量が0.95〜1.10%であること」(表8・1)、424頁に「球、コロ及び輪が、SUJ1〜SUJ3の冷間引抜鋼材又は棒材から冷間加工又は鍛造によって作られること」(表 8・2)が記載されている。

(4)刊行物7(特殊鋼、39巻2号、1990年2月発行)
42頁右欄に鋼球の製造工程として、「一般的に用いられる軸受鋼(鋼球は主としてSUJ2)についてその製造工程を図1に示す。球体の成形は、材料(線材)を鋼球1個分の長さに切断し、半球状の雌雄金型の間で、圧縮成形される。」、第43頁の図1には、線材の素材先端をカットする工程に次いで、線材の長さ方向に圧縮して球体に成形する工程が記載されている。

4.対比判断
(4-1)本件発明1について
刊行物11には、摘記事項(1c)によれば実施例として、軸受鋼(SUJ2)を用いて、ダイス5で1次伸線後、ショットブラスト装置3bを通過させ、表面粗度を変化させた後、該コイルを球状化焼鈍し、更に2次伸線を減面率が、19%、23%で行ったことが記載され、表1によれば、軸受鋼(SUJ2)がC:1.02wt%含有するものであるから、上記摘記事項(1a)〜(1c)を総合すると、刊行物11には「C:1.02wt%含有する軸受鋼(SUJ2)からなる鋼線材を製造するに、1次伸線した後、コイル状態で球状化焼鈍し、次いで、2次伸線を行うに際し、1次伸線後、且つ、焼鈍前に単線状態で鋼線材にショットブラストを施し、次いで、2次伸線を減面率が、19%、23%で行った、鋼線材コイル焼鈍時の圧着防止方法」の発明(以下、「刊行物11記載発明」という)が記載されていることになる。
そこで、本件発明1と刊行物11記載発明とを対比すると、刊行物11記載発明での2次伸線は、本件発明1での最終仕上げ伸線を意味し、刊行物11記載発明の2次伸線を減面率が、19%、23%で行ったということは、本件発明1での「最終仕上げ伸線率を17.9〜40%として伸線すること」とその伸線率において重複しているから、両者は、「軸受鋼鋼線の製造において、0.6%C以上のCを含有し、球状化焼鈍した軸受鋼の最終仕上げ伸線率を17.9〜40%として伸線する軸受用鋼鋼線の製造方法。」で一致しているが、次の点で相違している。
相違点a:本件発明1では、製造する軸受用鋼鋼線を、冷間鍛造によりベアリングレースおよびボール・コロを製造するための軸受用鋼鋼線とし、かつ冷間鍛造性に優れた軸受用鋼鋼線としているのに対して、刊行物11記載発明では、このような限定がない点。

次に、相違点aについて検討する。
軸受用鋼鋼線から冷間鍛造によりベアリングレースおよびボール・コロを製造することは、例えば刊行物6に、軸受鋼のJIS規格であるSUJ1〜SUJ3の炭素含有量は0.95〜1.10%であり、ベアリングの球、コロ及び輪が、SUJ1〜SUJ3の冷間引抜鋼材から冷間加工又は鍛造によって作られること、刊行物7に、鋼球の製造工程として、一般的に用いられる軸受鋼(鋼球は主としてSUJ2)があり、球体の成形は、材料(線材)を鋼球1個分の長さに切断し、半球状の雌雄金型の間で圧縮成形されることが記載されているように周知のことであって、刊行物11記載発明の軸受鋼(SUJ2)も当然に冷間鍛造によりベアリングレースおよびボール・コロを製造するための軸受用鋼鋼線であるといえる。
更に刊行物3には、従来の高炭素クロム鋼は炭素およびクロム元素の含有量が多いので、冷間では変形抵抗が高い上、冷間鍛造した場合その変形抵抗からダイスが受ける圧力は極めて大きなものとなり、したがって、冷間で鍛造すると、ダイスに応力割れが発生したり、金型寿命が短いという問題があり、従来はコロ軸受ベアリングレースを冷間鍛造で製造することは困難と考えられていたのを、この発明は、上記従来の問題点を解決し、高炭素クロム鋼のコロ軸受ベアリングレース用粗形材を冷間鍛造で精度よく製造する方法として、C:1.00%含有する素材コイル材を使用し、伸線処理を施した後冷間鍛造すること(上記摘記事項(2b)(2c)(2e))が記載され、軸受用鋼鋼線の製造方法として冷間鍛造性に優れたものを得ることも従来から認識されていたことであって、当該材料に要求される当然の技術課題である。
そして、刊行物11に記載された鋼線材コイル焼鈍時の圧着防止方法によって製造した鋼線材が、ベアリングレースおよびボール・コロを製造するのに使用できないとする根拠はいずれにもない。
そうすると、刊行物11記載発明の軸受鋼(SUJ2)からなる鋼線材を、冷間鍛造によりベアリングレースおよびボール・コロを製造するためのものであるとし、かつ冷間鍛造性に優れたとすることは、当業者ならば適宜なしえることである。
そして、本件発明1における効果も上記刊行物の記載、及び上記周知技術から当業者ならば予測し得る程度のことであって、顕著なものとは認められない。
よって、本件発明1は、刊行物11、3に記載された発明、及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4-2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明を引用した、即ち「請求項1で製造の軸受用鋼鋼線を用いて伸線方向に圧縮して冷間鍛造することによりベアリングレースおよびボール・コロに加工することを特徴とする軸受用鋼鋼線からの冷鍛加工によるベアリングレースおよびボール・コロの製造方法」の発明である。
そこで、本件発明2と刊行物11記載発明とを対比すると、両者は、上記相違点aと、更に次の点で相違している。
相違点b:本件発明2が、軸受用鋼鋼線を用いて伸線方向に圧縮して冷間鍛造することによりベアリングレースおよびボール・コロに加工する軸受用鋼鋼線からの冷鍛加工によるベアリングレースおよびボール・コロの製造方法としているのに対して、刊行物11記載発明ではこの点が記載されていない点。
次に、上記相違点bについて検討する。刊行物3には、伸線後の線材を所定長さに切断し、冷間で両端面より圧縮して拡径する予備成形を行った後、インサート材に超硬を用いた二重しまりばめダイスを用いてベアリングレースの外形を形成する据込みおよび、据込み材中央部にパンチを圧入して凹部を成形する穴あけを行い、続いて凹部を貫通孔とするための打抜きを行うコロ軸受ベアリングレース用粗形材の製造方法が記載されている。ここで、伸線後の線材を所定長さに切断し、冷間でその切断両端面より圧縮して拡径、据込み、穴あけ、打抜きすることは、伸線方向に圧縮して冷間鍛造することを意味することは明らかである。
また、刊行物7には、鋼球の製造工程として、軸受鋼(鋼球は主としてSUJ2)から線材を鋼球1個分の長さに切断し、半球状の雌雄金型の間て、圧縮成形すること、即ち、線材の長さ方向に圧縮して球体に鍛造成形する工程が記載されており、このことは周知のことである。
そうすると、軸受用鋼鋼線から冷鍛加工によるベアリングレースおよびボール・コロを製造する際に、伸線方向に圧縮して冷間鍛造することは、当業者ならば容易に想到し得ることである。
そして、本件発明2における効果も上記刊行物の記載、及び上記周知技術から当業者ならば予測し得る程度のことであって、顕著なものとは認められない。
よって、本件発明2は、刊行物11、3に記載された発明、及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

IV.むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1、2に係る発明は、上記刊行物11、3に記載された発明、及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1、2に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件請求項1、2に係る発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
冷間加工性に優れた軸受鋼鋼線の製造方法並びにベアリングレースおよびボール・コロの加工方法。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 冷間鍛造によりベアリングレースおよびボール・コロを製造するための軸受鋼鋼線の製造において、0.6%C以上のCを含有し、球状化焼鈍した軸受鋼の最終仕上げ伸線率を17.9〜40%として伸線することを特徴とする冷間鍛造性に優れた軸受用鋼鋼線の製造方法。
【請求項2】 請求項1で製造の軸受用鋼鋼線を用いて伸線方向に圧縮して冷間鍛造することによりベアリングレースおよびボール・コロに加工することを特徴とする軸受用鋼鋼線からの冷鍛加工によるベアリングレースおよびボール・コロの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、0.6%C以上のCを含有の軸受用鋼鋼線の製造および該鋼線からのベアリングレースおよびボール・コロの製造に関する。
【0002】
【従来の技術】
ベアリングレースは、通常はSUJ2などの軸受鋼素材を切削、温間鍛造あるいは熱間鍛造した後、仕上げ加工して製造される。特に、内径10mm未満で外径9mm以上と規格されている小径ベアリングのレースは、小径鋼管を切断し、切削により加工する方法、または棒材を切削により穴をあけて加工する方法により製造される。また、ボール・コロはヘッダーと呼ばれる鍛造機で冷間鍛造により製造される。
【0003】
しかし、最近はベアリングレースの製造において、さらに製造時間の短縮とコスト低減のため冷間鍛造してニアネット化が求められている。また、ボール・コロの製造においても冷間鍛造時の型寿命向上が求められている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記のとおりベアリングレースの製造において、加工コスト低減のために冷間鍛造が考えられるが軸受用鋼の冷間鍛造における高い変形抵抗が問題になる。そこで本発明が解決しようとする課題は、軸受鋼鋼線の圧縮変形抵抗を低減して冷鍛性を向上させることである。
【0005】
また、ボール・コロは冷間鍛造によって製造されているが、本発明が解決しようとする課題は、鍛造時の圧縮変形抵抗を低減することによって型寿命を向上させることである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記の本発明の目的を達成する手段は、請求項1の発明では、冷間鍛造によりベアリングレースおよびボール・コロを製造するための軸受鋼鋼線の製造において、0.6%C以上のCを含有し、球状化焼鈍した軸受鋼の最終仕上げ伸線率を17.9〜40%として伸線することを特徴とする冷間鍛造性に優れた軸受用鋼鋼線の製造方法である。
【0007】
請求項2の発明では、請求項1の手段により製造の軸受用鋼鋼線を用いて伸線方向に圧縮・冷間鍛造することによりベアリングレースおよびボール・コロに加工することを特徴とする軸受用鋼鋼線からの冷鍛加工によるベアリングレースおよびボール・コロの製造方法である。
【0008】
本発明における最終仕上げ伸線率を17.9〜40%と限定する理由について述べる。鋼線は焼鈍-伸線の工程で製造されるが、伸線で硬化が起こるので硬さが上がる。しかし、鋼線の伸線方向への圧縮変形抵抗は、図4に示すように伸線前材の変形抵抗と同等であり、加工硬化の影響はない。むしろ伸線率を17.9%以上とると伸線前材より変形抵抗は低下する。しかし、40%以上の伸線を行うとこの伸線前材より変形抵抗が低下する作用は飽和する。以上の理由から最終仕上げ伸線率は17.9〜40%とする。さらに、伸線方向に圧縮し冷間鍛造する理由は上記したとおり、最終仕上げ伸線率を17.9〜40%とした軸受鋼鋼線の圧縮変形抵抗が伸線方向に最も低下していることによる。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態における軸受鋼成分は、JISに規定されるSUJ1〜SUJ5、SAEに規定されるSAE52100、DINに規定されるDIN100Cr6等の0.6%以上のCを含む軸受部品用の鋼材である。図1の工程図に示すように、これらの軸受鋼の圧延材をコイル状にし、球状化焼鈍によって焼鈍硬さを十分に下げ皮膜酸洗後、仕上げ伸線工程において、伸線率を10〜40%として伸線する。
【0010】
また、最終寸法、硬さ等の都合により、図2の工程図に示すように伸線を2回以上繰り返す場合においても、最終仕上げ伸線において、伸線率を10〜40%として伸線する。
【0011】
次いで、上記の伸線による鋼線からベアリングレースに冷間加工する。この冷間加工には冷間横型鍛造機を使用する。加工工程は鋼線をレース加工の適宜長さに切断した後、伸線方向のみに圧縮加工する。例えばφ14.5mm径の鋼線から外径22mmのレースに圧縮加工する。
【0012】
また、ボール・コロなどに加工する際は、ヘッダーと呼ばれる機械で鋼線を適宜加工長さに切断した後、伸線方向に圧縮加工する。
【0013】
【実施例】
【0014】
表1に示す化学成分を有する高炭素クロム軸受鋼を直径14.5mmの圧延材を線材圧延によって得た後、図3に示す焼鈍硬さを変化させる2種類の工程のA工程とB工程の工程で処理し焼鈍硬さを変えて鋼種を用意した。これらの工程における処理条件は、球状化焼鈍:805℃×13h、低温焼鈍:720℃×6.8h、ショットブラスト伸線:伸線率26.7%である。これらの線材を伸線率を表2に示すように変えて伸線を行った。
【0015】
【表1】

【0016】
また冷間鍛造試験には、12mmφ×18mmHの試験片を作成して端面完全拘束の条件で圧縮し、圧縮率が50%に至る時の変形抵抗を測定した。結果を表2および図4、図5に示す。
【0017】
【表2】

【0018】
伸線前の硬さが異なっても、伸線率が10%を超えると、硬さが上がるにもかかわらず、圧縮変形抵抗は低下する。この効果はおよそ伸線率40%で飽和することがわかる。
【0019】
比較として、伸線方向に引張試験を行った。なお、径方向には圧縮力が働くとみなした。工程Aで処理したものをJIS Z 2201に規定されている引張試験の9号試験片に加工し試験を行った。この結果を表3および図6に示す。
【0020】
【表3】

【0021】
伸線率が大きくなり硬さが上がるにつれ、0.2%耐力も大きくなることがわかる。
【0022】
【発明の効果】
以上説明したように、軸受鋼からのベアリングレースの製造において、本発明の方法による軸受鋼鋼線は容易に冷間鍛造することができるので、ニアネット化が図られ、切削加工を省略することができる。したがって、ベアリングレースの製造時間および製造コストが大幅に削減できる。また、ボール・コロの製造において冷間鍛造時の型寿命を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明における軸受鋼を圧延、焼鈍、伸線する工程を示す工程図である。
【図2】
本発明における軸受鋼を圧延、焼鈍、伸線する工程において、2度伸線する場合の工程を示す工程図である。
【図3】
焼鈍硬さを変化させる2種類の工程後に伸線率を変化させて伸線する工程を示す工程図である。
【図4】
A工程材による最終仕上げ伸線率と圧縮変形抵抗および硬さの関係を示すグラフである。
【図5】
一般工程材による最終仕上げ伸線率と圧縮変形抵抗および硬さの関係を示すグラフである。
【図6】
A工程材による最終仕上げ伸線率と0.2%耐力および硬さの関係を比較例として示すグラフである。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-01-26 
出願番号 特願平8-340546
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (B21C)
最終処分 取消  
前審関与審査官 國方 康伸  
特許庁審判長 城所 宏
特許庁審判官 瀬良 聡機
影山 秀一
登録日 2002-05-17 
登録番号 特許第3308839号(P3308839)
権利者 山陽特殊製鋼株式会社
発明の名称 冷間加工性に優れた軸受鋼鋼線の製造方法並びにベアリングレースおよびボール・コロの加工方法。  
代理人 横井 健至  
代理人 杉岡 幹二  
代理人 横井 健至  
代理人 田中 久喬  
代理人 植木 久一  
代理人 米屋 武志  
代理人 森 道雄  
代理人 穂上 照忠  
代理人 内藤 俊太  

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