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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C03B
審判 全部申し立て 発明同一  C03B
管理番号 1117891
異議申立番号 異議2003-72276  
総通号数 67 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2002-09-06 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-09-09 
確定日 2005-04-04 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3386058号「半導体パッケージ用カバーガラス及びその製造方法」の請求項1〜6に係る発明の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3386058号の請求項1〜5に係る発明の特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3386058号は、平成6年2月23日に出願した特願平6-25282号の一部を平成13年11月30日に新たな特許出願としたものであって、平成15年1月10日に特許の設定登録がなされたものであって、その特許につき、中島和美より特許異議の申立がなされ、その特許異議申立の理由と証拠に基づき、取消理由を通知したところ、権利者より平成16年10月12日付けで訂正請求がなされたものである。

II.訂正の適否
II-1.訂正事項
平成16年10月12日付け訂正請求は、本件明細書につき、訂正請求書に添付された訂正明細書に記載されるとおりの、次の〈イ〉〜〈チ〉の訂正を求めるものである。
以下、訂正前の明細書を「特許明細書」といい、訂正請求書に添付された訂正明細書を「訂正明細書」という。
〈イ〉特許明細書の請求項1における、
「・・・均質化を行うことによりガラスを製造する・・・」を、
「・・・均質化を行うことにより、Uの含有量が5ppb以下であり、Thの含有量が20ppb以下であり、粒子径が2μm以上の白金ブツが10ケ/100ml以下であるガラスを製造する・・・」に訂正する。
〈ロ〉特許明細書の請求項1における、
「・・・主成分とするものであることを特徴とする・・・」を、
「・・・主成分とするものであり、前記脈理除去のための均質化を白金製の容器内で行うことを特徴とする・・・」に訂正する。
〈ハ〉特許明細書の請求項2における、
「・・・均質化を行うことによりガラスを製造する・・・」を、
「・・・均質化を行うことによりUの含有量が5ppb以下であり、Thの含有量が20ppb以下であり、粒子径が2μm以上の白金ブツが10ケ/100ml以下であるガラスを製造する・・・」に訂正する。
〈ニ〉特許明細書の請求項2における、
「・・・ルツボであることを特徴とする・・・」を、
「・・・ルツボであり、前記脈理除去のための均質化を白金製の容器内で行うことを特徴とする・・・」に訂正する。
〈ホ〉特許明細書の請求項3における、
「・・・均質化を行うことによりガラスを製造する・・・」を、
「・・・均質化を行うことによりUの含有量が5ppb以下であり、Thの含有量が20ppb以下であり、粒子径が2μm以上の白金ブツが10ケ/100ml以下であるガラスを製造する・・・」に訂正する。
〈ヘ〉特許明細書の請求項3における、
「・・・主成分とするものであることを特徴とする・・・」を、
「・・・主成分とするものであり、前記脈理除去のための均質化を白金製の容器内で行うことを特徴とする・・・」に訂正する。
〈ト〉特許明細書の請求項6を削除する。
〈チ〉特許明細書の発明の名称における、「半導体パッケージ用カバーガラス及びその製造方法」を、「半導体パッケージ用カバーガラスの製造方法」に訂正する。

II-2.訂正の適否の判断
II-2-1.訂正の目的の適否
上記〈イ〉、〈ハ〉及び〈ホ〉の訂正は、それぞれ、特許明細書の請求項1、2及び3において、製造するガラスを、「Uの含有量が5ppb以下であり、Thの含有量が20ppb以下であり、粒子径が2μm以上の白金ブツが10ケ/100ml以下である」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
上記〈ロ〉、〈ニ〉及び〈ヘ〉の訂正は、それぞれ、特許明細書の請求項1、2及び3において、均質化工程を、「前記脈理除去のための均質化を白金製の容器内で行う」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
上記〈ト〉の訂正は、特許明細書の請求項6を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
上記〈チ〉の訂正は、発明の名称の記載を、特許請求の範囲の記載に整合させるものであり、明りょうでない記載の釈明に該当する。
したがって、上記〈イ〉〜〈チ〉の訂正の目的は、改正前の特許法第126条第1項ただし書きの規定に適合する。
II-2-2.新規事項の有無
上記〈イ〉、〈ハ〉及び〈ホ〉の訂正は、特許明細書の段落0014、0015、0021及び0029の記載に基づくものである。
上記〈ロ〉、〈ニ〉及び〈ヘ〉の訂正は、特許明細書の段落0013の記載に基づくものである。
上記〈ト〉及び〈チ〉の訂正は、特許明細書の記載に基づくことは明白である。
したがって、上記〈イ〉〜〈チ〉の訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内でなされるものであり、新規事項の追加には当たらない。
II-2-3.拡張・変更の存否
上記〈イ〉〜〈チ〉の訂正は、発明の目的の範囲内で請求項に記載される発明を限定し、請求項を削除し、又は、明細書の記載を明瞭化するだけのものであり、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものには該当しない。
II-2-4.訂正の適否の結論
よって、上記訂正請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.本件発明
本件明細書は、前記のとおり、平成16年10月12日付けで訂正請求がなされ、その請求どおり訂正されたものであって、訂正後の本件特許第3386058号の請求項1〜5に係る発明(以下、それぞれ、必要に応じて、「本件発明1」〜「本件発明5」という)は、訂正明細書の特許請求の範囲に記載されるとおりのものであり、その請求項1〜3には次のことが記載されている。
【請求項1】ガラスの原料バッチを溶融ガラス化し、得られたガラスを脱泡・均質化し、さらに脈理除去のための均質化を行うことにより、Uの含有量が5ppb以下であり、Thの含有量が20ppb以下であり、粒子径が2μm以上の白金ブツが10ケ/100ml以下であるガラスを製造する方法であって、少なくとも前記溶融ガラス化をウラン含有量が20ppm以下である耐火物製容器内で行い、かつ前記耐火物が石英(SiO2)を主成分とするものであり、前記脈理除去のための均質化を白金製の容器内で行うことを特徴とする半導体パッケージ用カバーガラスの製造方法。
【請求項2】ガラスの原料バッチを溶融ガラス化し、得られたガラスを脱泡・均質化し、さらに脈理除去のための均質化を行うことによりUの含有量が5ppb以下であり、Thの含有量が20ppb以下であり、粒子径が2μm以上の白金ブツが10ケ/100ml以下であるガラスを製造する方法であって、少なくとも前記溶融ガラス化をウラン含有量が20ppm以下である耐火物製容器内で行い、かつ前記耐火物容器がSiO2製ルツボであり、前記脈理除去のための均質化を白金製の容器内で行うことを特徴とする半導体パッケージ用カバーガラスの製造方法。
【請求項3】ガラスの原料バッチを溶融ガラス化し、得られたガラスを脱泡・均質化し、さらに脈理除去のための均質化を行うことによりUの含有量が5ppb以下であり、Thの含有量が20ppb以下であり、粒子径が2μm以上の白金ブツが10ケ/100ml以下であるガラスを製造する方法であって、少なくとも前記溶融ガラス化をウラン含有量が20ppm以下である耐火物製容器内で行い、かつ前記耐火物がクレー(Al2O3+SiO2)を主成分とするものであり、前記脈理除去のための均質化を白金製の容器内で行うことを特徴とする半導体パッケージ用カバーガラスの製造方法。

IV.特許異議申立及び取消理由の概要
IV-1.特許異議申立
特許異議申立人は、以下の証拠を提示し、次のように主張する。
【理由-1】特許明細書の請求項1〜6に係る発明(訂正後の本件発明1〜5)は、甲第1〜12号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
【理由-2】特許明細書の請求項1、2及び5に係る発明(訂正後の本件発明1、2及び5)は、特願平5-164105号の願書に最初に添付した明細書に替わる甲第13号証に記載の発明と同一であり、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
したがって、特許明細書の請求項1〜6に係る発明の特許は取り消されるべきものである。
甲第1号証:特開平5-279074号公報
甲第2号証:特開平4-219342号公報
甲第3号証:特開昭62-65954号公報
甲第4号証:特開昭64-42343号公報
甲第5号証:特公平2-33656号公報
甲第6号証:特開昭58-99125号公報
甲第7号証:丹生光雄著、「新しい低レベルα線測定技術の材料検査への
応用」、インスペック、1985年春号、No.3、第83
〜88頁
甲第8号証:平野弘道他著、「超低レベルα線測定装置」、電子材料、1
988年8月号別刷、第91〜95頁
甲第9号証:美濃部正夫他著「低レベル・アルファー線測定装置の開発」
住友化学1987-I別冊、第92〜99頁
甲第10号証:山根正之著「セラミックス基礎講座4 はじめてガラスを
作る人のために」、1991年5月20日、株式会社内田老
鶴圃、第113〜117頁
甲第11号証:森谷太郎他編「ガラス工学ハンドブック」、昭和45年8月
10日、株式会社朝倉書店、第361、362及び709頁
甲第12号証:特開平5-343659号公報
甲第13号証:特願平5-164105号の願書に最初に添付した明細書
に替わる特開平6-345480号公報
参考資料1:特開平5-175474号公報
参考資料2:特開平8-306894号公報
参考資料3:特許第3288169号の特許異議意見書
IV-2.取消理由
特許異議申し立てと同じ理由及び証拠により、特許明細書の請求項1〜6に係る発明の特許は取り消されるべきものであるというものである。

V.証拠の記載内容
V-A.甲第1号証(特開平5-279074号公報)には、以下のことが記載される。
(A-1)「【請求項1】ガラス中の放射性同位元素の含有量の合計が100ppb以下であることを特徴とする固体撮像素子パッケージ用窓ガラス。
【請求項2】ガラスからのα線放出量が0.05c/cm2・h以下であることを特徴とする固体撮像素子パッケージ用窓ガラス。」(特許請求の範囲第1及び2項)
(A-2)「【従来の技術】固体撮像素子は、受光素子であるLSIチップをアルミナセラミックパッケージ内に納め、・・・さらにその上にカバーガラスを・・・を用いて封着した構造となっている。ここで用いられるカバーガラスは、アルミナセラミックパッケージとの気密封着によりLSIチップを保護するだけではなく受光面へ効率的に光を導入するため、内部欠陥の少ない光学的に均質な材料特性、高い透過率特性が要求される。」(段落0002の抜粋)
(A-3)「本発明者らは、CCDなど固体撮像素子の窓ガラスがα線放出性元素を大量に含有しα線粒子を放出する場合、固体撮像素子に一過性の誤動作を引き起こしノイズとなることを見出した。α線粒子は、天然に存在するウラン(U),トリウム(Th),ラジウム(Ra)など放射性同位元素がα崩壊する際に放出される荷電粒子である。α線粒子に起因するノイズをなくすためには、ガラス中に不純物として含まれる放射性同位元素を除去すればよい。このためにはできるだけ高純度に精製された原料を使用し、溶融工程における不純物の混入を防止してガラスを製造する必要がある。原料精製には物理的・化学的各種方法があるが、技術的・経済的に限界があり、特に放射性同位元素の分離が容易な原料と困難な原料が存在するため、α線源となる放射性同位元素を含まないガラスを容易に得ることは難しかった。
本発明は、これらの事情を考慮してなされたもので、実質的にガラス、特にガラス中のα線放出性元素に起因する固体撮像素子のノイズ発生がない固体撮像素子パッケージ用窓ガラスを提供することを目的とする。」(段落0005及び0006)
(A-4)「上記ガラスは、その有効組成を形成するため原料を精製することができ、含有されるα放射性元素(U,Th,Raなど)を100ppb以内に抑えることが可能である。また、α放射性元素の濃度が100ppbを越えると、α線放出量が0.05c/cm2・h以上に増大し、固体撮像素子のノイズ発生の原因となる。したがって固体撮像素子パッケージ用窓ガラスからのα線放出率を0.05c/cm2・h以下に抑えることが好ましい。」(段落0012)
(A-5)「また、α放射性元素の精製分離が困難なFe2O3,TiO2,PbO,ZrO2等については、原料や溶融工程からの混入を防止する必要がある。」(段落0013の抜粋)
(A-6)「表1に示した組成に従い、各種高純度に精製された原料を使用し最終ガラス組成として1000gとなるよう調合し混合した後、1480℃の電気炉中で5時間白金ルツボを使用して溶融した。その後炉内より取り出し、鉄板上に成形したブロックを600℃の温度の電気炉に移し室温まで徐冷し、得られたガラスを所定の寸法に光学研磨加工した。これらガラス板より放出されるα線量の測定は、2πガスフロー式比例計数管を用いた超低レベルα線測定装置で行ない、同時に遷移元素とα線放射元素の化学分析をICP-MASSにより測定し、TMA分析装置により平均熱膨張係数を測定した。そして、これらのガラスを実際に有効画素数38万画素のCCDチップを内臓したアルミナパッケージに封着して、固体撮像素子に使用した場合のノイズの有無を調査した。」(段落0016の抜粋)

V-B.甲第2号証(特開平4-219342号公報)には、以下のことが記載される。
(B-1)「【産業上の利用分野】本発明は蛍光測定に使用される試料セルや、固体撮像素子を保護するカバーガラスに使用される低蛍光性ガラスに関する。」(段落0001)
(B-2)「従って、本発明は、蛍光測定用溶液セルや、固体撮像素子のカバーガラス等に好適な、安価で、蛍光の少ない低蛍光性ガラスを提供することを目的とする。」(段落0004)
(B-3)「【実施例】ガラス原料として、遷移金属不純物およびCeO2が1ppm以下の超高純度原料を用い、これらの混合物を白金製ルツボまたはアルミナ製ルツボで1400〜1600℃、2〜5時間熔融し、徐冷して得られたガラスを10×10×30mmの角柱に研磨して、合計15種の本発明の低蛍光性ガラス試料(・・・)を得た。」(段落0014)

V-C.甲第3号証(特開昭62-65954号公報)には、以下のことが記載される。
(C-1)「本発明は、CCD等の固体撮像素子を収納するアルミナパッケージの窓ガラスおよびアルミナ基板上に設置される固体撮像素子ないし薄膜撮像素子のキャップガラスの用途に特に適したアルミナ封着用硼珪酸ガラスに関するものである。」(第1頁右下欄第6〜11行)
(C-2)「また、イメージセンサの窓ガラスあるいはキャップガラスとしては、均質で、泡、ブツ、脈理などの欠陥を含まない耐風化性に優れたガラスが必要である。均質で欠陥のないガラスを得るためには、溶融が容易であること、すなわち、溶融時のガラス粘度が低いことが必要である。粘度が低いと、ガラスからの脱泡が容易で、ガラスの均質化が促進される。さらに、ガラス溶融槽の温度を下げることができ、これにより槽壁耐火物の浸食が抑制され、浸食耐火物によるガラスの汚染を防ぐことができる。」(第2頁左下欄末行〜右下欄第11行)
(C-3)「表に示された組成に調合したガラス原料を白金ルツボに入れ、電気炉で1500℃4時間加熱した後、グラファイト板上に流し出し、板状に成型した。」(第4頁右上欄第3〜6行)

V-D.甲第4号証(特開昭64-42343号公報)には、以下のことが記載される。
(D-1)「本発明は主に光電子増倍管、撮像管その他科学工業的電子装置等の光電変換素子あるいは・・・ファイバープレート用被覆ガラスとして用いられる低屈折率の光素子用硼珪酸ガラスに関するものである。」(第1頁左下欄下から第3行〜右下欄第2行)
(D-2)「本発明の光素子用硼珪酸ガラスは、本質的にK2Oを含有せず、また溶融から管引き製造工程において揮発が小さいためガラス成分の不均質層の生成を抑制し、溶融が容易であるから石英坩堝、高純度シリカ耐火物による製造が可能であり、従って耐火物からのK2O汚染を防止できることから40Kによる雑音の発生を極限まで低減させることができる。」(第5頁右下欄第2〜9行)
(D-3)「なお、本発明のガラスは上記用途に限定されず、熱膨張係数がアルミナと適合しているためアルミナと直接的に封着することができ、またK2Oフリーのためα線の放出量が少なく半導体素子の誤作動に与える影響が小さいため電子部品に用いられる窓材としても使用できる。」(第6頁左上欄第1〜7行)

V-E.甲第5号証(特公平2-33656号公報)には、以下のことが記載される。
(E-1)「[産業上の利用分野]
本発明は光学ガラス溶融装置に関するものである。
[従来の技術とその問題点]
光学ガラスの溶融装置は、一般に溶融槽と清澄槽と作業槽とにそれぞれ分けられ、各槽間をパイプで連結した構造のものがよく知られている。ここで溶融槽は原料をガラス化する働きを有し、清澄槽は脱泡機能を持ち、作業槽は、清澄槽で揮発により生じた脈を攪拌によつて完全に拡散除去すると同時にガラスの流出成形に適切な温度に調節する機能を持つている。・・・。これらの各槽は光学ガラスの場合は白金又は白金合金が使用されているが、最近では溶融槽は非金属製の耐火物を使用する場合が多くなつて来ている。その理由は溶融槽ではバッチ(ガラスの調合原料)のはげしい溶融槽反応があるうえ、原料の投下による機械的衝撃が加わり、溶融槽の破損が著しいためである。又このはげしい溶融反応は、白金をガラス中に溶かし込み、ガラスを着色させる他、この白金は粒子状でもガラス中に混入し、インクルージヨン(異物)として最後までガラス中に残る場合もある。このため溶融槽に非金属製耐火物を使用するようになつたが、この場合、この耐火物から生ずる破片がガラス中に混入し、最後までイシ(stone)として残るという問題点が解決されていない。」(第1欄第14行〜第2欄第16行)
(E-2)「第1図は本発明によるガラス溶融装置の断面図を示す。この装置は非金属耐火物製溶融槽1、白金製清澄槽5、及び白金製作業槽7からなり、溶融槽1の底部には流出管2が設けられ、・・・保持されている。」(第3欄第25〜30行)

V-F.甲第6号証(特開昭58-99125号公報)には、以下のことが記載される。
(F-1)「(1)ノズル付き白金ルツボとその内側に配置された流出孔付き耐火物ルツボとよりなる二重ルツボ粗融解装置に於て、内側のルツボに光学ガラス原料を供給して加熱融解し、融解したガラスを流出孔から一担外側の白金ルツボに導き、該白金ルツボのノズルより流下させることを特徴とする光学ガラス原料の粗溶解方法。(2)耐火物ルツボが、石英、アルミナ質耐火物、又はジルコニア質耐火物よりなる特許請求の範囲第(1)項記載の粗溶解方法」(特許請求の範囲第1及び2項)
(F-2)「流下した粗融解ガラス11は、例えば、水槽中で急冷、破砕後乾燥すると、未融解原料成分を全く含まない均質な細粒状ガラスが得られ、これを用いて白金ルツボで再融解することにより均質な光学ガラスを得ることができる。」(第2頁右下欄第12〜17行)

V-G.甲第7号証(「新しい低レベルα線測定技術の材料検査への応用」)には、以下のことが記載される。
(G-1)「ICやLSIの信頼性にかかわる故障の原因については、種々の発生メカニズムが解明されているが、ICチップ周辺やパッケージ材料から放出されるα線も故障の原因の一つである。」(第83頁左欄第2〜5行)
(G-2)「現在、サーディップ等のパッケージ用として大量に使用されているアルミナは、主としてボーキサイト鉱からバイヤー法(・・・)で製造されている。天然のボーキサイト鉱中には、UおよびThがそれぞれ5〜10ppm、20〜40ppm程度含有されているが、バイヤー法で普通に製精されたアルミナは、UおよびThがそれぞれ0.05〜1ppm、0.01〜0.1ppm程度まで減少している。・・・。低α線アルミナは、さらに・・・α線を0.01c/cm2・h以下に減らしたアルミナである。」(第86頁右欄第2〜15行)
(G-3)「6.その他の分野での応用
ICの高集積化が、ますます進行するにつれて、アルミナに限らず、ICを構成する素材すべてについて、低U(Th)化がのぞまれるようになった。すなわち、セラミック・パッケージを低α化するためには、主原料のアルミナ以外に、焼結体をつくるための鉱化剤(カオリン、タルク等)、有機バインダ、顔料等にいたるまで、低U(Th)の原材料が必要となる。またICチップ近傍で使用される素材、たとえばボンディング・ワイヤや封止用ガラス等についても同様である。
一方、それぞれの材料や製品において、低U(Th)化を実現するためには、それぞれの製造工程での品質管理が重要な課題である。アルミナの場合では、粉末を製造中に粉砕等の工程で汚染を受けることを考慮して、最近ではミルのボールやライナーに至るまで、低α線アルミナが使用されている。またセラミックパッケージ等の製造工程において、焼成時のセッター、敷粉、焼成炉の炉材にいたるまで低α化しようとする動きがあり、一部は実行されている。」(第87頁右欄第18行〜第88頁左欄第7行)

V-H.甲第8号証(「超低レベルα線測定装置」)には、以下のことが記載される。
(H-1)「半導体関連材料のα線量測定例を表4に、U・Th濃度とα線量の関係を表5に示した。」(第95頁左欄下から第8及び下から第7行)
(H-2)「表5 U濃度とα線量の関係
LACSα線量 放射化分析(ppb)
試料 (C/cm2・hr) ウラン値 トリウム値
アルミナA 0.003 <30 <10
B 0.016 190 <30
シリカ A 0.038 100
B 0.002 <0.1
C 0.003 <0.1
D 0.008 <0.1」旨(第95頁上段)

V-J.甲第9号証(「低レベル・アルファー線測定装置の開発」)には、以下のことが記載されている。
(J-1)「 第4表 各種物質のα線量測定結果
U ppm Th ppm
アルミナ <0.03 <0.01
0.19 <0.03
0.4 <0.03
1.0 0.015
シリカ粉末 0.0005
0.1 」旨(第98頁右上欄)
(J-2)「 第5表 各種物質のU・Th濃度
U(ppm) Th(ppm)
土 人形峠鉱区外 5.5 15
〃 鉱区内 2100 19 」旨(第98頁右中欄)

V-K.甲第12号証(特開平5-343659号公報)には、以下のことが記載される。
(K-1)「【請求項2】U及びThの合計の濃度を30ppb以下としたカバーガラスを固体撮像素子に対向させたことを特徴とする固体撮像装置。」(特許請求の範囲第2項)
(K-2)「このカバーガラス4は、放射性元素であるU及びThの合計の濃度が30ppb以下、好ましくは10ppb以下となっている。U及びThの合計の濃度が30ppb付近を越えると画像欠陥(点欠陥、線欠陥)の発生率が急激に増大する。また、カバーガラスの場合、精製できる限度としては1ppb程度である。」(段落0014)

V-L.甲第13号証(特開平6-345480号公報)には、以下のことが記載されている。
(L-1)「【請求項2】重量百分率で、SiO2 50〜75%、B2O3 5〜25%、Al2O3 0〜3.5%、K2O 1〜25%、Na2O 0〜20%、Li2O 0〜5%、ただし、K2O+Na2O+Li2O 7〜25%、As2O3+Sb2O3 0〜1%、MgO、CaO、SrO、BaO、TiO2、PbO、ZnOをそれぞれ0〜5%、および上記各金属元素の1種または2種以上の酸化物の一部または全部と置換した弗化物の弗素(F)として0.5〜10%含有する調合組成物を、1250〜1500℃の温度のガラス溶融装置で溶融後、徐冷してからなり、かつ、該ガラスのα線量が0.02(count/cm2・hr)以下であることを特徴とする低レベルα線ガラスの製造方法。」(特許請求の範囲第2項)
(L-2)「【産業上の利用分野】本発明は、固体撮像素子等の半導体構成素材に用いられるカバーガラスや封止用ガラスフィラーに適したα線放出の少ない低レベルα線ガラスおよびその製造方法に関する。」(段落0001)
(L-3)「従来問題視されていなかったα線によるソフトエラーが大きな問題となってきた。これは、カバーガラスや・・・等を含む半導体構成素材中に、不純物として含まれる極微量(ppm〜ppb程度)のウラン(U)やトリウム(Th)等の天然放射性元素がα崩壊する際に、放出されるα線(α粒子)が原因であることが、T.C.Mayらによって明らかにされている。」(段落0002の抜粋)
(L-4)「適宜選択して混合したガラス原料を石英または白金坩堝に投入し、これを約1250〜1500℃の温度で約2〜10時間溶融し充分な攪拌によって泡切れを行った後、適当な温度に下げて鋳込み成形またはその他の成形方法によって製造することができる。」(段落0011の抜粋)

VI.当審の判断
VI-1.理由-1について
VI-1-1.本件発明1
甲第1号証には、その前記摘示(A-1)、(A-4)及び(A-6)によれば、「高純度に精製された原料を、5時間白金ルツボを使用して溶融し、α放射性元素(U,Th,Raなど)が100ppb以下である固体撮像素子パッケージ用窓ガラスを製造する方法」に関する発明(以下、必要に応じて、「甲第1号証の発明」という)が記載されている。
そこで、本件発明1と甲第1号証の発明とを対比する。
甲第1号証の発明における原料は、最終的にはガラスとなるのであるから、当該原料はガラス原料バッチであるということができる。また、甲第1号証の発明における溶融処理については、その溶融時間は長く、また、その溶融により固体撮像素子パッケージ用窓ガラスのような光学的に均質で高い透明性を有するガラスを得ているのであるから、そこでは、原料を溶融ガラス化するだけでなく、それに続く脱泡、均質化、及び脈理除去のための均質化に相当する処理が、実質上、実施されているものと認められる。
そして、甲第1号証の発明の「固体撮像素子パッケージ用窓ガラス」は、本件発明1の「半導体パッケージ用カバーガラス」に相当する。
よって、両者は、「ガラスの原料バッチを溶融ガラス化し、得られたガラスを脱泡・均質化し、さらに脈理除去のための均質化を行うことによりガラスを製造する、半導体パッケージ用カバーガラスの製造方法」である点で共通し、以下の点で相違する。
【相違点1】該半導体パッケージ用カバーガラスが、本件発明1では、「Uの含有量が5ppb以下であり、Thの含有量が20ppb以下あり、粒子径が2μm以上の白金ブツが10ケ/100ml以下」であるのに対し、甲第1号証の発明では、α放射性元素(U,Th,Raなど)が100ppb以下であるものの、U及びThの含有量の当該数値が示されず、更に、甲第1号証の発明では、白金ブツにつき示されるものはなく、したがって、当該構成を具備しない点
【相違点2】該半導体パッケージ用カバーガラスの製造方法が、本件発明1では、「少なくとも前記溶融ガラス化をウラン含有量が20ppm以下である耐火物製容器内で行い、かつ前記耐火物が石英(SiO2)を主成分とするものであり、前記脈理除去のための均質化を白金製の容器内で行う」とするのに対し、甲第1号証の発明では、白金ルツボという単一の容器内で溶融ガラス化と脈理除去のための均質化とを実施しているだけであり、当該特定事項を具備しない点
以下、上記相違点につき検討する。
まず、相違点2に係る構成が容易に想到できるか否かにつき検討する。
【相違点2について】
本件発明1につき、訂正明細書には、「通常、各種光学系に使用されるレンズ等に代表される光学ガラスは、極めて高い均質度が要求される。ところが、耐火物槽ではガラスの溶融温度が高いため、侵蝕され易く、ガラス中に脈理や泡を生じてしまう。そこで、ガラスの溶融槽には、耐熱性と耐蝕性に優れた白金又は白金合金が多用されている。パッケージ用ガラスを製造する場合にも、比較的高温溶融を必要とすることから、同様に通常、耐熱性が高く、溶融ガラスによって侵蝕されにくい白金製容器を用いる。ところが、・・・意外なことに、白金製容器で溶融ガラス化するとガラス中のU及びThの量も増大することが明らかとなった。それに対して、少なくとも原料バッチの溶融ガラス化を耐火物製の容器中で行うと、・・・U及びThの量の増大も著しく抑制できることを見出して本発明を完成した。」(段落0010)、「本発明では、耐火物としては、好ましくはUの含有量が20ppm以下、・・・のセラミックスを挙げることができる。Uの含有量が20ppmを超えると、パッケージ用ガラスとして望ましいα線放出量が0.004c/cm2・h以下のガラスが得にくくなる。」(段落0011の抜粋)及び「溶融ガラス化に比べて、脱泡・均質化及び脈理除去のための均質化では、容器の侵蝕は起きにくく、白金製の容器でも、放射性同位元素・・・の混入は少ないからである。特に、脈理除去のための均質化は白金製の容器中で行うことが好ましい。均質化を白金製容器中で行うことで、より容易にガラス中の内部欠陥である泡や脈理を除去できる。」(段落0013の抜粋)と記載されており、これとその請求項1の記載からみて明らかなとおり、通常用いられる耐熱性と耐蝕性に優れた白金製容器により半導体パッケージ用カバーガラスを溶融した場合には同ガラス中のU及びThの量が増大する等の問題点が生じたところ、本件発明1は、
半導体パッケージ用カバーガラスの製造方法において、「溶融ガラス化をウラン含有量が20ppm以下である耐火物製容器内で行い、脈理除去のための均質化を白金製の容器内で行うこと」との構成を採択することにより、その余の構成と相俟って、α線放出量が0.004c/cm2・h以下と少なく、かつ、ガラス中に脈理や泡の生じない半導体パッケージ用カバーガラスを容易に製造することができる等の有用な効果を奏したものである。
これに対して、甲第1号証の発明では、前記摘示(A-3)及び(A-4)によれば、固体撮像素子パッケージ用窓ガラスについて、放射性元素であるU及びThが100ppb以下でα線放出量が0.005c/cm2・h以下である固体撮像素子パッケージ用ガラスを得るために、その溶融工程におけるU、Th等の混入を防止することが示されるものの、具体的には、そこで示されるものは、前記(A-5)によれば、α放射性元素の精製分離が困難であるFe2O3等につき、そのFe2O3等の溶融工程における混入を防止するというだけであって、それ以上の詳細な説明はない。そうであれば、甲第1号証の発明においては、ガラス化容器の材質と均質化容器の材質の組み合わせにつき示唆されるものはなく、当然のこととして、「溶融ガラス化をウラン含有量が20ppm以下である耐火物製容器内で行い、脈理除去のための均質化を白金製の容器内で行うこと」につき、示唆ないし教示されるものは何もないものである。
してみれば、甲第1号証に記載の発明において、上記相違点2に関する構成を採択して本件発明1のようにすることが当業者の容易になし得るものではない。
次に、上記相違点2につき、甲第2〜12号証の記載を順次みる。
甲第2号証には、その前記摘示(B-1)及び(B-3)によれば、ガラス原料を白金製ルツボ又はアルミナ製ルツボで溶融して固体撮像素子を保護するカバーガラス(本件発明1の半導体パッケージ用カバーガラスに相当)を製造することが示されるものの、ここでは、本件発明1のようにU含有量が20ppm以下である耐火物製容器と白金製の容器とを用いることについてまで具体的に示されるものでない。そもそも、ここでの発明は、その(B-1)によれば、低蛍光性ガラスを得ることをその発明の目的とするものであって、本件発明1のようにα線の放出量が抑制された、かつ、ガラス中に脈理や泡の生じないガラスを製造することについてまで配慮するものではない。したがって、そこには、甲第2号証に記載の発明を甲第1号証の発明に適用して、本件発明1のようにする動機づけが存在し得ないものである。
甲第3号証には、その前記摘示(C-1)〜(C-3)によれば、硼珪酸ガラス原料を耐火物からなる溶融槽でガラス化して固体撮像素子を収納するアルミナパッケージの窓ガラス(本件発明1の半導体パッケージ用カバーガラスに相当)を製造するとき、そのガラスは溶融時のガラス粘度が低いので浸食耐火物によるガラスの汚染が防止できる旨示される。しかし、甲第3号証に記載の発明ではガラスの汚染がガラスの粘度が低いことにより防止できることが示唆されれるにとどまり、その発明からは、本件発明1のようにU含有量が20ppm以下である耐火物製容器と白金製の容器を用いることにつき具体的に示唆するものはない。そもそも、甲第3号証に記載の発明は、溶融が容易なガラスを得ることをその発明の目的とするものであり、本件発明1のようにα線の放出量が抑制された、かつ、ガラス中に脈理や泡の生じないガラスを製造することについてまで配慮するものではなく、したがって、そこでは、甲第3号証に記載の発明を甲第1号証の発明に適用して本件発明1のようにする動機づけが存在し得ないものである。
甲第4号証には、その前記摘示(D-2)及び(D-3)によれば、そこでの硼珪酸ガラスが電子部品用窓ガラスとして適用できるものであり、また、そのガラスが「溶融が容易であるから石英坩堝、高純度シリカ耐火物による製造が可能であり、従って耐火物からのK2O汚染を防止できることから40Kによる雑音の発生を極限まで低減させることができる」ことが記載される。しかし、甲第4号証に記載の発明で教示されるのは、電子部品用窓ガラスにおける40Kによる雑音の低減が、そこで用いられる硼珪酸ガラスの溶融容易性により実現できることにとどまり、その発明では、α線の放出量が抑制された、かつ、ガラス中に脈理や泡の生じないガラスを得る上で必要な、「溶融ガラス化をウラン含有量が20ppm以下である耐火物製容器内で行い、脈理除去のための均質化を白金製の容器内で行うこと」との構成につき説明するものは何もないものである。したがって、甲第4号証に記載の発明を甲第1号証に記載の発明に組み合わせたとしても、そこから、上記相違点2に関する構成が容易に導き出せない。
甲第5及び6号証に記載の発明では、光学ガラスを製造するに際して、「溶融ガラス化を耐火物製容器内で行い、脈理除去のための均質化を白金製の容器内で行うこと」が、実質上、示されるものである。しかし、甲第5及び6号証に記載の発明では、本件発明1のようにα線の放出量が抑制されたガラスを製造することにつき配慮するものではなく、当然のこととして、α線の放出量が抑制された半導体パッケージ用カバーガラスの製造に際して、当該技術を適用することにつき示唆するものはなく、更に、その場合の効果についても教示するものでもない。したがって、そこでは、甲第5及び6号証に記載の発明を甲第1号証に記載の発明に適用して本件発明1のようにする動機づけが存在しないものである。
甲第7〜9号証には、「ICを構成する素材について、それぞれの材料や製品において、低U(Th)化を実現するためには、それぞれの製造工程での品質管理が重要な課題である」こと及び「セラミックパッケージ等の製造工程において、焼成時のセッター、敷粉、焼成炉の炉材にいたるまで低α化しようとする動きがある」こと等が記載され、また、「各種アルミナ、シリカのU及びTh含有量は、それぞれ、1ppm以下、0.1ppm以下」であること等が記載される。しかし、反面、これら甲第7〜9号証に記載されるのはそれだけであり、本件発明1の如きガラスの製造につき記載されるものは何もなく、当然のこととして、溶融ガラス化のための耐火物製容器に含まれるウラン含有量が20ppm以下であることが示されるものではない。したがって、半導体パッケージ用カバーガラスの脈理除去の均質化のために白金製容器を用いることはもとより、半導体パッケージ用カバーガラスの溶融ガラス化のためにウラン含有量が20ppm以下である耐火物製容器を用いることが、これら甲7〜9号証の記載から容易に導き出すことができない。
更に検討すると、仮に、甲第7〜9号証の上記記載に基づき(耐火物の主要成分だけでなく助剤成分等にも配慮したうえで)耐火物製容器を作製した場合には当該容器のウラン含有量が20ppm以下になるとしても、甲第7〜9号証はもとより、甲第1〜6号証のいずれにおいても、α線の放出量が抑制されたガラスを製造するに際して、その溶融ガラス化をウラン含有量が20ppm以下の耐火物製容器内で実施した場合の利点につき教示されるものが何もないのであるから、甲第7〜9号証に記載の発明に、甲第1〜6号証の記載を併せてみても、そこから、α線の放出量が抑制された半導体パッケージ用カバーガラスを容易に製造するための構成である「溶融ガラス化をウラン含有量が20ppm以下である耐火物製容器内で行うこと」を容易に導き出せるものではない。
甲第10及び11号証に記載される発明では、ガラスないしは光学ガラスのルツボとして、アルミナ磁器からなる又は粘土からなるルツボを用いること等が示されるものの、半導体パッケージ用カバーガラスの溶融ガラス化のためにウラン含有量が20ppm以下である耐火物製容器を用いることにつき教示するものは何もなく、したがって、甲第11及び12号証に記載の発明を甲第1〜9号証に記載の発明に併せてみても、そこから、上記相違点2に関する構成が容易に導き出せるものではない。。
甲第12号証に記載の発明では、固体撮像素子に対向するカバーガラスにつき、α線放射性元素であるU及びThの合計の濃度が10ppb〜1ppb程度にできることが示されるだけで、上記相違点2につき教示するものは何もない。
このように、甲第2〜12号証に記載の発明からは、半導体パッケージ用カバーガラスの製造方法において、「溶融ガラス化をウラン含有量が20ppm以下である耐火物製容器内で行い、脈理除去のための均質化を白金製の容器内で行うこと」との構成が容易に導き出すことができない。
したがって、上記相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は甲第1〜12号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない。

VI-1-2.本件発明2
甲第1号証には、前記VI-1-1.で説示したとおりの事項が記載されている。
そこで、本件発明2と甲第1号証に記載の発明とを対比すると、両者は以下の点で相違する。
【相違点イ】該半導体パッケージ用カバーガラスが、本件発明2では、「Uの含有量が5ppb以下であり、Thの含有量が20ppb以下あり、粒子径が2μm以上の白金ブツが10ケ/100ml以下」であるのに対し、甲第1号証の発明では、α放射性元素(U,Th,Raなど)が100ppb以下であるものの、U及びThの含有量の当該数値が示されず、更に、甲第1号証の発明では、白金ブツにつき示されるものはなく、したがって、当該構成を具備しない点
【相違点ロ】該半導体パッケージ用カバーガラスの製造方法が、本件発明2では、「少なくとも前記溶融ガラス化をウラン含有量が20ppm以下である耐火物製容器内で行い、かつ前記耐火物容器がSiO2製ルツボであり、前記脈理除去のための均質化を白金製の容器内で行う」とするのに対し、甲第1号証の発明では、白金ルツボという単一の容器内で溶融ガラス化と脈理除去のための均質化とを実施しているだけであり、当該特定事項を具備しない点
そして、この相違点ロにおける「溶融ガラス化をウラン含有量が20ppm以下である耐火物製容器内で行い、脈理除去のための均質化を白金製の容器内で行うこと」との構成については、前記VI-1-1.の相違点2の箇所で説示したとおり、甲第2〜12号証に記載の発明からは容易に導き出すことはできない。
したがって、上記相違点イについて検討するまでもなく、本件発明2は甲第1〜12号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない。

VI-1-3.本件発明3
甲第1号証には、前記VI-1-1.で説示したとおりの事項が記載されている。
そこで、本件発明3と甲第1号証に記載の発明とを対比すると、両者は以下の点で相違する。
【相違点a】該半導体パッケージ用カバーガラスが、本件発明3では、「Uの含有量が5ppb以下であり、Thの含有量が20ppb以下あり、粒子径が2μm以上の白金ブツが10ケ/100ml以下」であるのに対し、甲第1号証の発明では、α放射性元素(U,Th,Raなど)が100ppb以下であるものの、U及びThの含有量の当該数値が示されず、更に、甲第1号証の発明では、白金ブツにつき示されるものはなく、したがって、当該構成を具備しない点
【相違点b】該半導体パッケージ用カバーガラスの製造方法が、本件発明3では、「少なくとも前記溶融ガラス化をウラン含有量が20ppm以下である耐火物製容器内で行い、かつ前記耐火物がクレー(Al2O3+SiO2)であり、前記脈理除去のための均質化を白金製の容器内で行う」とするのに対し、甲第1号証の発明では、白金ルツボという単一の容器内で溶融ガラス化と脈理除去のための均質化とを実施しているだけであり、当該特定事項を具備しない点
そして、この相違点bにおける「溶融ガラス化をウラン含有量が20ppm以下である耐火物製容器内で行い、脈理除去のための均質化を白金製の容器内で行うこと」との構成については、前記VI-1-1.の相違点2の箇所で説示したとおり、甲第2〜12号証に記載の発明からは容易に導き出すことはできない。
したがって、上記相違点aについて検討するまでもなく、本件発明3は甲第1〜12号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない。

VI-1-4.本件発明4及び5
本件発明4及び5は、それぞれ、本件請求項1〜3を直接又は間接的に引用し、本件発明1、2又は3の構成を、実質上全て具備するものであり、したがって、上記VI-1-1.〜VI-1-3.で説示した理由と同じ理由により、本件発明4及び5は甲第1〜12号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるすることができない。

VI-2.理由-2について
VI-2-1.本件発明1
甲第13号証には、その前記摘示(L-2)〜(L-4)によれば、「ガラス原料を石英または白金坩堝に投入し、これを約1250〜1500℃の温度で約2〜10時間溶融し充分な攪拌によって泡切れを行った後、適当な温度に下げて成形してなる、半導体構成素材に用いられるカバーガラス」に関する発明(以下、必要に応じ、「先願発明」という)が記載されている。
そこで、本件発明1と先願発明とを対比する。
先願発明におけるガラス原料は最終的にはガラスとなるのであるから、当該原料はガラス原料バッチであるということができる。また、先願発明における溶融処理については、その溶融時間は長く、また、充分な撹拌によって泡切れを行っているのであるから、そこでの溶融処理においては、原料を溶融ガラス化するだけでなく、それに続く脱泡、均質化、及び脈理除去のための均質化に相当する処理が、実質上、実施されているものと認められる。
そして、先願発明の「半導体構成素材に用いられるカバーガラス」は、本件発明1の「半導体パッケージ用カバーガラス」に相当する。
よって、両者は、「ガラスの原料バッチを溶融ガラス化し、得られたガラスを脱泡・均質化し、さらに脈理除去のための均質化を行うことによりガラスを製造する、半導体パッケージ用カバーガラスの製造方法」である点で共通し、以下の点で相違する。
【相違点A】該半導体パッケージ用カバーガラスが、本件発明1では、「Uの含有量が5ppb以下であり、Thの含有量が20ppb以下あり、粒子径が2μm以上の白金ブツが10ケ/100ml以下」であるのに対し、先願発明では、当該構成を具備しない点
【相違点B】該半導体パッケージ用カバーガラスの製造方法が、本件発明1では、「少なくとも前記溶融ガラス化をウラン含有量が20ppm以下である耐火物製容器内で行い、かつ前記耐火物が石英(SiO2)を主成分とするものであり、前記脈理除去のための均質化を白金製の容器内で行う」とするのに対し、先願発明では、石英又は白金坩堝という単一の容器内で溶融ガラス化と脈理除去のための均質化とを実施しているだけであり、当該特定事項を具備しない点
まず、相違点Bにつき検討する。
前記VI-1-1.の相違点2の箇所で説示したとおり、本件発明1は、
半導体パッケージ用カバーガラスの製造方法において、「溶融ガラス化をウラン含有量が20ppm以下である耐火物製容器内で行い、脈理除去のための均質化を白金製の容器内で行うこと」との構成を採択することにより、その余の構成と相俟って、α線放出量が0.004c/cm2・h以下と少なく、かつ、ガラス中に脈理や泡の生じない半導体パッケージ用カバーガラスを容易に製造することができる等の有用な効果を奏したものである。
これに対して、先願発明では、当該相違点Bに関する構成につき示唆するものはない。
そうすると、本件発明1が、「少なくとも前記溶融ガラス化をウラン含有量が20ppm以下である耐火物製容器内で行い、前記脈理除去のための均質化を白金製の容器内で行う」とする点で、先願発明に対して別異の発明を構成するといえる。
したがって、本件発明1は、甲第13号証に記載の発明と同一であるということはできない。
VI-2-2.本件発明2〜5
本件発明2及び3は、半導体パッケージ用カバーガラスの製造方法に関するものであって、上記VI-2-1.の相違点Bに関する「少なくとも前記溶融ガラス化をウラン含有量が20ppm以下である耐火物製容器内で行い、前記脈理除去のための均質化を白金製の容器内で行う」との構成を具備するものである。したがって、上記VI-2-1.で説示した理由と同じ理由により、本件発明1は、甲第13号証に記載の発明と同一であるということはできない。
また、本件発明4及び5は、本件請求項1〜3を直接又は間接的に引用し、本件発明1、2又は3の構成を、実質上全て具備するものであり、したがって、上記VI-2-1.で説示した理由と同じ理由により、本件発明4及び5は、甲第13号証に記載の発明と同一であるということはできない。

VII. まとめ
特許異議申立の理由及び証拠によっては、訂正後の本件請求項1〜5に係る発明の特許を取り消すことができない。
また、他に訂正後の本件請求項1〜5に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
半導体パッケージ用カバーガラスの製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】ガラスの原料バッチを溶融ガラス化し、得られたガラスを脱泡・均質化し、さらに脈理除去のための均質化を行うことにより、Uの含有量が5ppb以下であり、Thの含有量が20ppb以下であり、粒子径が2μm以上の白金ブツが10ケ/100ml以下であるガラスを製造する方法であって、少なくとも前記溶融ガラス化をウラン含有量が20ppm以下である耐火物製容器内で行い、かつ前記耐火物が石英(SiO2)を主成分とするものであり、前記脈理除去のための均質化を白金製の容器内で行うことを特徴とする半導体パッケージ用カバーガラスの製造方法。
【請求項2】ガラスの原料バッチを溶融ガラス化し、得られたガラスを脱泡・均質化し、さらに脈理除去のための均質化を行うことによりUの含有量が5ppb以下であり、Thの含有量が20ppb以下であり、粒子径が2μm以上の白金ブツが10ケ/100ml以下であるガラスを製造する方法であって、少なくとも前記溶融ガラス化をウラン含有量が20ppm以下である耐火物製容器内で行い、かつ前記耐火物容器がSiO2製ルツボであり、前記脈理除去のための均質化を白金製の容器内で行うことを特徴とする半導体パッケージ用カバーガラスの製造方法。
【請求項3】ガラスの原料バッチを溶融ガラス化し、得られたガラスを脱泡・均質化し、さらに脈理除去のための均質化を行うことによりUの含有量が5ppb以下であり、Thの含有量が20ppb以下であり、粒子径が2μm以上の白金ブツが10ケ/100ml以下であるガラスを製造する方法であって、少なくとも前記溶融ガラス化をウラン含有量が20ppm以下である耐火物製容器内で行い、かつ前記耐火物がクレー(Al2O3+SiO2)を主成分とするものであり、前記脈理除去のための均質化を白金製の容器内で行うことを特徴とする半導体パッケージ用カバーガラスの製造方法。
【請求項4】Uの含有量が3ppb以下であり、かつThの含有量が15ppb以下である高純度原料バッチを用いる請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】前記ガラスの原料バッチが、重量パーセントで、
SiO2 50-78%、
B2O3 5-25%、
Al2O3 0-8%、
Li2O 0-5%、
Na2O 0-18%、
K2O 0-20%、
(但し、Li2O+Na2O+K2O=5-20%)を含み、上記成分の含有量が少なくとも80%以上であるホウケイ酸ガラスの原料バッチである請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】(削除)
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、ビデオカメラ等に使用されるCCD(固体撮像素子)等の半導体パッケージ用ガラスに関する。さらに詳しくは、本発明は、放射性同位元素の中でも特にα線放射量の多いU(ウラン)の含有量が少なく、固体撮像素子等のソフトエラーを有効に低減させることが可能であり、かつ半導体パッケージ用として種々の優れた特性を有するガラス及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
CCD等の半導体は、パッケージ用ガラスから放出されるα線によりソフトエラーを生じるため、パッケージ用ガラスに含有されるα線を放出する放射性同位元素の量の低減が行われている。放射性同位元素としては、代表的にはウラン(U)、トリウム(Th)及びラジウム(Ra)が挙げられる。
【0003】
ところで、放射性同位元素なかでも、ウラン(U)はα線放出量が多く、トリウム(Th)に比べて5〜10倍程度多い。従って、半導体の周辺材料におけるα線放出量の低減には、特にウラン(U)の含有量の低減が重要であるという報告がある。近年、固体撮像素子の高密度化に伴って、α線によるノイズやソフトエラーが画質向上の大きな障害になっている。そのため、α線放出量の低減が増々重要になって来ており、α線放出量は0.01c/cm2・h以下が目標とされていた〔インスベック1985春号(No.3)83〜88〕。しかし、α線放出量の低減化の要求はさらに厳しくなっており、最近では、0.004c/cm2・h以下が目標とされている。しかし、この目標を達成するためには、α線放出量が多いUの含有量が10ppbを超えるガラスでは、実質的に不可能であった。
【0004】
これまで、ガラスに含まれる放射性同位元素は、ガラスの原料に起因するものが殆どであると考えられていた。しかるに、本発明者が、ガラスの原料として放射性同位元素の含有量が極めて少ない超高純度のものを用いてガラスを試作したところ、得られたガラスに含まれる放射性同位元素の量は、依然として高いレベルであった。また、超高純度のガラス原料は、実用上コスト的にも問題があった。そこで、ガラスに含まれる放射性同位元素の低減には、ガラスの原料を厳選する以外に、ガラス製造過程からの混入を抑制する必要があることが判明した。そこで、本発明の目的の1つは、放射性同位元素、特にα線放射量の多いU(ウラン)の混入を抑制できるガラスの製造方法の提供にある。
【0005】
ところで、放射性同位元素の含有量の低減以外に、半導体パッケージ用ガラスには、(1)内部欠陥や表面欠陥のない光学的に均質な材料であること、(2)経時変質の少ない信頼性の高い材料であること、及び(3)アルミナセラミックパッケージと封着した時、割れや歪が発生しない材料であることが要求される。(1)に関しては、内部欠陥として泡、異物、脈理等、表面欠陥として研磨キズ、カケ等がある。これに加えて、近年、固体撮像素子等の高密度化に伴って微小な異物、特にガラス溶融容器として使われる白金に起因すると思われる白金製異物(以下白金ブツと称す)が大きな障害になって来ている。(2)に関しては、長期間の使用に際して、湿気によりガラス表面に曇りが発生したり、ソラリゼーション現象による透過率の低下が発生する場合がある。従って、パッケージ用カバーガラスとしては高い耐候性や耐ソラリゼーション性が要求される。(3)に関しては、例えばCCDの場合、その受光面に三色モザイクフィルタを形成したCCDチップをアルミナセラミックパッケージの中にセットし、その上にカバーガラスをエポキシ樹脂等で接着した構造になっている。そのため、カバーガラスとアルミナセラミックパッケージの熱膨張係数を整合させることが必要である。アルミナセラミックの熱膨張係数は通常60〜75×10-7K-1の範囲にあり、ガラスの熱膨張係数は、これと同等か、若干小さな45〜75×10-7K-1の範囲であることが望ましい。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明の第一の目的は、放射性同位元素のうち特にUのガラスへの混入及び白金ブツのガラスへの混入が抑制できる半導体パッケージ用ガラスを製造する方法を提供することにある。
【0007】
さらに本発明の第二の目的は、白金ブツ及び放射性同位元素のうち特にUの含有量が少なく、高い耐候性及び耐ソラリゼーション性とアルミナセラミックパッケージとの封着性も良好な、固体撮像素子等の半導体パッケージ用として有用なガラスを提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、少なくとも原料バッチの溶融ガラス化を耐火物製の容器内で行うことを特徴とするパッケージ用ガラスの製造方法に関する。
【0009】
さらに本発明は、Uの含有量が5ppb以下であり、かつThの含有量が20ppb以下であるホウケイ酸塩ガラスであることを特徴とするパッケージ用ガラスに関する。
【0010】
通常、各種光学系に使用されるレンズ等に代表される光学ガラスは、極めて高い均質度が要求される。ところが、耐火物槽ではガラスの溶融温度が高いため、侵蝕され易く、ガラス中に脈理や泡を生じてしまう。そこで、ガラスの溶融槽には、耐熱性と耐蝕性に優れた白金又は白金合金が多用されている。パッケージ用ガラスを製造する場合にも、比較的高温溶融を必要とすることから、同様に通常、耐熱性が高く、溶融ガラスによって侵蝕されにくい白金製容器を用いる。ところが、本発明者が検討したところ、原料バッチを白金製容器中で溶融ガラス化し、さらに白金製容器で精製すると多量の白金ブツが発生した。さらに、検討した結果、意外なことに、白金製容器で溶融ガラス化するとガラス中のU及びThの量も増大することが明らかとなった。それに対して、少なくとも原料バッチの溶融ガラス化を耐火物製の容器中で行うと、白金ブツの発生を抑制でき、かつU及びThの量の増大も著しく抑制できることを見出して本発明を完成した。
【0011】
本発明において耐火物とは、例えばアルミナ(Al2O3)、石英(SiO2)、クレー(Al2O3+SiO2)、ジルコニア(ZrO2)等を主成分とする耐熱性の高いセラミックスである。これらのセラミックスは、白金に比べて溶融ガラスにより侵蝕され易く、高い均質度が要求される光学系のガラスの製造においては、原料バッチの溶融ガラス化には用いられなかった。本発明者の検討によれば、セラミックス製容器の溶融ガラスへの混入量は、0.03〜0.3%程度であるのに対して、白金製容器の溶融ガラス中への混入量は0.0003〜0.003%程度である。それにもかかわらず、セラミックス製容器を用いた場合のU及びThの溶融ガラスへの混入量は、白金製容器を用いた場合に比べて遙に少なかった。従って、アルミナ、クレー、ジルコニア及び石英等のセラミックス製容器中に含まれるU及びThの量は、白金製容器に比べて桁違いに少ないと推定される。本発明のようにセラミックス製の容器を用いて溶融ガラス化を行った場合、容器自体多少侵蝕されるが、ガラスへの放射性同位元素の混入量は白金に比べて著しく少ない。さらに、これらのセラミックス等はガラスの成分と通常、共通の元素からなることから、混入してもガラスの物性に対して支障が生じることもない。本発明では、耐火物としては、好ましくはUの含有量が20ppm以下、より好ましくは10ppm以下、さらに好ましくは5ppm以下のセラミックスを挙げることができる。Uの含有量が20ppmを超えると、パッケージ用ガラスとして望ましいα線放出量が0.004c/cm・h以下のガラスが得にくくなる。さらに、耐火物としては、アルミニウム、硅素、ジルコニウムの酸化物を主成分とするセラミックスであることが好ましい。
【0012】
本発明の製造方法では、少なくとも原料バッチの溶融ガラス化を耐火物製の容器中で行う。ガラスの製造は、一般に、原料バッチを加熱溶融してガラス化し、脱泡・均質化し、さらにガラス中の脈理を除去するための均質化が行なわれる。原料バッチとしては、硅酸(SiO2)、ZnO、Sb2O3等の酸化物以外に、アルカリ金属やアルカリ土類金属の炭酸塩や硝酸塩(例えば、Li2CO3、LiNO3、Na2CO3、K2CO3、BaCO3)、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、ホウ酸(H3BO3)、NaCl等を用いる。例えば、アルカリ金属の炭酸塩は、加熱すると脱炭酸反応を起こし、かつ同時に生じるアルカリ金属酸化物(例えば、Li2O、Na2O、K2O等)が硅酸(SiO2)等の酸化物を溶融してガラス化する。ところが、この溶融ガラス化反応時に生じるアルカリ金属酸化物等は活性が高く、容器の壁面を激しく侵蝕する。そこで本発明では、原料バッチの溶融ガラス化は、放射性同位元素の含有率が少なく、かつガラス成分になり得る耐火物製の容器中で行ない、容器の壁面が侵蝕されてもガラスへの放射性同位元素と白金の混入を抑制する。
【0013】
本発明の製造方法では、少なくとも原料バッチの溶融ガラス化を耐火物製の容器中で行なうが、さらに脱泡・均質化及び脈理除去のための均質化も耐火物製の容器中で行なうこともできる。あるいは、脱泡・均質化及び脈理除去のための均質化は白金製の容器中で行うこともできる。溶融ガラス化に比べて、脱泡・均質化及び脈理除去のための均質化では、容器の侵蝕は起きにくく、白金製の容器でも、放射性同位元素と白金の混入は少ないからである。特に、脈理除去のための均質化は白金製の容器中で行うことが好ましい。均質化を白金製容器中で行うことで、より容易にガラス中の内部欠陥である泡や脈理を除去できる。
【0014】
本発明の製造方法では、ガラス原料としては、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、硫酸塩等、いずれの形態の化合物も用いることができる。本発明の製造方法では、ガラス製造過程における容器からの放射性同位元素と白金の混入を抑制することができるが、得られるガラスの放射性同位元素の含有量を低減するという観点からは、原料バッチとして高純度原料バッチを用いることが好ましい。特に、高純度原料バッチは、Uの含有量が3ppb以下であり、かつThの含有量が15ppb以下であることが、U及びThの含有量が少ないパッケージ用ガラスを製造するという観点から好ましい。このような原料を調合して原料バッチを作製し、溶融ガラス化することで、最終的にUの含有量が5ppb以下であり、Thの含有量が20ppb以下のガラスを得ることができる。
【0015】
次に本発明のガラスについて説明する。本発明のパッケージ用ガラスは、Uの含有量が5ppb以下であり、かつThの含有量が20ppb以下であるホウケイ酸塩ガラスである。U及びThの含有量が上記数値以下であることにより、パッケージ用ガラスとして望ましい、α線放出量が0.004c/cm2・h以下であり、ソフトエラー率が著しく低いガラスを得ることができる。
【0016】
本発明のホウケイ酸塩ガラスは、好ましくは重量パーセントで
SiO2 50〜78%
B2O3 5〜25%
Al2O3 0〜8%
Li2O 0〜5%
Na2O 0〜18%
K2O 0〜20%
(但し、Li2O+Na2O+K2O 5〜20%)から成り、上記成分の含有量が少なくとも80%以上であり、かつ熱膨張係数が45〜75×10-7K-1であることが適当である。
【0017】
以下に各成分の作用と数値を一定の範囲にする理由を説明する。SiO2とB2O3はホウケイ酸塩ガラスの骨格を作る成分である。SiO2が50%未満となり、B2O3が25%を超えると耐候性が低下する傾向がある。また、SiO2が78%を超え、B2O3が5%未満では溶融性が悪化する傾向がある。従って、SiO2は50〜78%の範囲であり、かつB2O3は5〜25%の範囲であることが適当である。Al2O3はガラスの耐候性を向上させる成分である。しかし、8%を超えるとガラス内に脈理が発生し易くなり製造が困難になる傾向がある。従って、Al2O3の含有量は8%以下とすることが適当である。
【0018】
Li2O、Na2O及びK2Oは融剤として作用し、かつ、耐失透性を良くする成分である。そのためには、これらの成分の1種又は2種以上の合計の含有量は5%以上であることが適当である。しかし、これらの成分の1種又は2種以上の合計の含有量が20%を越えると耐候性が悪くなり、かつ熱膨張係数が大きくなり過ぎる傾向がある。さらにこれらの成分のうち、Li2Oは、多量に添加すると耐失透性が悪化する傾向があり、かつ、耐火物の容器を侵触する作用も強い。そのため、Li2Oの含有量は5%以下にすることが好ましい。Na2O及びK2Oは、それぞれ18%及び20%を超えると耐候性が悪化し、かつ熱膨張係数も大きくなり過ぎる傾向がある。そのため、Na2O及びK2Oの含有量は、それぞれ18%以下及び20%以下とすることが好ましい。
【0019】
以上の成分の外に、耐候性、溶融性、耐失透性等の改善や、熱膨張係数の調整等の目的で20%以内の範囲で、アルカリ土類金属酸化物(MgO、CaO、SrO、BaO等)、ZnO、塩素等のハロゲン等を添加することも可能である。さらに、As2O3やSb2O3等の脱泡剤も必要に応じて適宜添加することができる。また、その他の3価以上の多価金属酸化物も所望の特性を損なわない程度に添加することは可能である。
【0020】
本発明のガラスでは、特に高い耐候性を必要とする場合には、ソラリゼーション防止剤としてPbO、TiO2、Nb2O5等を添加することが有効である。但し、Uの含有量が3ppb以下であり、かつThの含有量が15ppb以下の原料が入手し易く、かつ、紫外部の吸収がシャープなPbOを添加するのが最も好ましい。しかし、PbO添加量を過度に添加する必要は無く、逆に紫外部の吸収が強くなり過ぎるなどの不都合も生じることから3%以下にすることが適当である。すなわち、PbOを0.01〜3重量%含有させることで、長期間の露光に対して信頼性の高いガラスを得ることができる。
【0021】
【実施例】
以下本発明を実施例によりさらに説明する。まず、本発明の製造方法により得られるガラスに含まれる白金ブツとU及びTh含有量を、従来の製造方法により得られるガラスと比較した。
実施例1
表1のNo.4組成になるように、各種高純度原料を使用して原料バッチ(U含有量2ppb、Th含有量14ppb)を作製した(原料バッチ(1)とする)。この原料バッチ300kgを200リットル容量のSiO2製ルツボを用いて1300℃で溶融ガラス化した後、顆粒状のカレットを得た。このカレット35kgを用いて16リットル容量の白金製ルツボで、1460℃の電気炉中で溶解・精製(脱泡及び均質化)した。鉄製金枠に鋳込み、所定のアニールをしてガラスブロックを得た(これをガラスAとする)。次にガラスブロックから良品部分を撰魂して端面を研磨して内部欠陥を検査した。白金ブツ数は、まず、20倍の実体顕微鏡で観察し、さらにカウントに際しては、粒子径が2μm以上の白金ブツを泡等と区別して100倍の光学顕微鏡を用いて行った。ガラス製造条件を表2に示し、分析試験結果を表3に示す。
【0022】
比較例1
実施例1で用いたと同様の原料バッチ35kgを16リットル容量の白金製ルツボに直接投入して1460℃で溶融ガラス化した後、引き続き白金製ルツボで溶融・精製(脱泡及び均質化)し、さらに鋳込み及びアニールをしてガラスブロックを得た(これを比較ガラスAとする)。さらに、このガラスブロックのガラス内部の欠陥を、実施例1と同様の手順で検査した。ガラス製造条件を表2に示し、分析試験結果を表3に示す。
【0023】
実施例2
実施例1で用いたと同様の原料バッチ1800kgを用い、約800リットル容量の粘土(クレー)製ルツボを使って、ガス加熱により1450℃で溶融ガラス化し、引き続き1450℃で溶融・精製(脱泡及び均質化)してガラスブロックを得た。(これをガラスBとする)。さらに、このガラスブロックのガラス内部の欠陥を、実施例1と同様の手順で検査した。ガラス製造条件を表2に示し、分析試験結果を表3に示す。
【0024】
上記実施例1、2及び比較例1の原料バッチ及び3種のガラス中に含まれるU及びThの量をICP(Inductively Coupled Plasma)-MASS分析により定量した。それらの結果を表3に示す。表3に示されるように、溶融精製過程におけるガラスの汚染は、製造工程の全てを耐火物で構成された容器内で行なった実施例2のガラスBが最も少なかった。また、実施例1の結果から、白金製容器を使用する場合は、初めの溶融ガラス化工程を耐火物で構成された容器で行うことにより著しく低減できることが明らかになった。尚、これらの例では間欠溶融方式を用いたが、連続溶融方式においても同様の傾向を示した。
【0025】
実施例3
表1のNo.1組成になるように、更に高度に精製された超高純度原料を使用して原料バッチを調合した(これを原料バッチ(2)とする)。原料バッチ中のU量は1ppb、Th量は5ppbであった。この原料バッチ1800kgを用い、実施例2と同様に約800リットル容量の粘土製ルツボを使って1460℃で溶融ガラス化した後、引き続き粘土製ルツボで1460℃で溶融・精製(脱泡及び均質化)し、ガラスブロックを得た(これをガラスCとする)。このガラスブロックのガラス内部の欠陥を、実施例1と同様の手順で検査した。さらに、ICP-MASS分析も行った。ガラス製造条件を表2に示し、分析試験結果を表3に示す。
【0026】
比較例2
実施例3で用いたと同様の超高純度原料バッチ(2)を白金製ルツボに直接投入して1460℃で溶融ガラス化し、引き続き白金製ルツボで溶融・精製(脱泡及び均質化)し、さらに鋳込み、アニールをしてガラスブロックを得た(これを比較ガラスBとする)。このガラスブロックのガラス内部の欠陥を、実施例1と同様の手順で検査した。さらに、ICP-MASS分析も行った。ガラス製造条件を表2に示し、分析試験結果を表3に示す。
【0027】
実施例4
次に表1のNo.4組成にUの含有量0.02ppb以下、Thの含有量0.02ppb以下のPbOを外割で1%添加し、実施例1と同様に、SiO2ルツボで溶融ガラス化し、得られたカレットを16リットル容量の白金製ルツボで溶融精製してガラスブロックを得た。(これをガラスDとする)。ガラスDは表2のガラスAとほぼ同程度のU及びTh含有量であり、白金ブツも10ケ/100ml以下であった。このガラスDとガラスAから試料を切り出し、10mm厚に対面研磨して島津MP-2000で透過率を測定した。次に日本光学硝子工業会測定規格JOGIS-04に基づき紫外線を照射した後、透過率を測定し、照射前後の透過率変化を比較した。その結果、ガラスAではわずかに透過率が減少したが、ガラスDはまったく変化が認められなかった。即ち、PbO添加が耐ソラリゼーション性の改善に有効であることが確認された。
【0028】
試験例
実施例で得られたガラスA、B及びC並びに比較ガラスA及びBで作製したカバーガラスを有効画素数58万画素のCCDチップを内蔵したアルミナセラミックパッケージに封着して固体撮像素子に使用した場合のソフトエラーの有無を調査した。その結果を表3に示す。本発明によるカバーガラスを使用すれば、ソフトエラーを甚しく低減できることが判明した。
【0029】
実施例5
表1中、No.2、3及びNo.5〜8の組成のガラスについても、各種高純度原料を使用して原料バッチ(U含有量3ppb以下、Th含有量15ppb以下)を作製し、実施例1と同様の方法により、本発明のガラスを作製した。このガラスについてU及びThの含有量を測定した結果、いずれのガラスも実施例1のガラスAとほぼ同様であり、U含有量は5ppb以下であり、Th含有量は20ppb以下であった。さらにいずれのガラスも、白金ブツは10ケ/100ml以下であった。
【0030】
表1に本発明のガラス組成を重量パーセント表示で示す。表中、熱膨張係数はTMA分析装置による測定値であり、耐候性は研磨試料を65℃、相対温度90%の雰囲気中に500時間晒した時の表面状態を示した。いずれも、アルミナセラミックとの封着に適合した熱膨張係数と優れた耐候性を有している。
【0031】
【表1】


【0032】
【表2】

【0033】
【表3】


【0034】
【発明の効果】
本発明によれば、白金ブツの含有量、並びにU及びThの含有量が甚だしく少ない、ソフトエラー率が著しく低い固体撮像素子等の半導体用のパッケージ用ガラスを提供することができる。さらに、特定の組成範囲に限定することによって、耐候性に優れ、アルミナセラミックパッケージと整合性の良い熱膨張係数を持つ、ガラスを提供することもできる。本発明のガラスはU及びThの含有量が著しく低く、ガラスからのα線に起因するソフトエラーの発生を著しく低減できる。又、光学的及び熱的特性や耐候性に優れている為、結像の歪が生じない、信頼性の高い固体撮像素子を作製することができ、固体撮像素子の高解像度化、高密度化に貢献することができる。また、本発明の製造方法によれば、製造工程における放射性同位元素及び白金ブツのガラスへの混入を大幅に抑制して、パッケージ用ガラスに適したガラスを得ることができる。特に、ガラス原料として高純度原料を用いることで、これまで得られているガラスより、U等の放射性同位元素の含有量が少ないガラスを製造することができる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-03-16 
出願番号 特願2001-367392(P2001-367392)
審決分類 P 1 651・ 161- YA (C03B)
P 1 651・ 121- YA (C03B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 深草 祐一武重 竜男  
特許庁審判長 多喜 鉄雄
特許庁審判官 中村 泰三
野田 直人
登録日 2003-01-10 
登録番号 特許第3386058号(P3386058)
権利者 HOYA株式会社
発明の名称 半導体パッケージ用カバーガラスの製造方法  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  

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