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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
審判199835415 審決 特許
判定2007600007 審決 特許
審判199935072 審決 特許
無効200035545 審決 特許
無効200680144 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A01N
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備  A01N
審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  A01N
管理番号 1118565
審判番号 無効2004-35069  
総通号数 68 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1992-08-19 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-02-04 
確定日 2005-04-18 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3354946号発明「アリ防除剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3354946号の請求項1に係る発明は、平成2年12月28日に出願され、平成14年12月9日にその発明について特許権の設定登録がなされた。
その後、請求項1に係る特許に対して、平成15年6月5日付けで大日本除蟲菊株式会社(本件審判請求人)より特許異議の申立てがなされ、平成15年9月10日付けで「特許第3354946号の請求項1に係る特許を維持する。」との決定がなされた。
さらに、平成16年2月4日付けで大日本除蟲菊株式会社より請求項1に係る特許を無効とすることについて審判請求がなされたのが本件である。審判請求の後当審においてなされた手続の経緯は以下のとおりである。

答弁書(被請求人) 平成16年 4月27日
訂正請求書(被請求人) 平成16年 4月27日
上申書(被請求人) 平成16年 6月18日
弁駁書(請求人) 平成16年 7月15日
口頭審理陳述要領書(被請求人)平成16年12月 9日
口頭審理陳述要領書(請求人) 平成16年12月 9日
口頭審理 平成16年12月 9日
上申書(被請求人) 平成17年 1月13日
上申書(請求人) 平成17年 1月14日

2.訂正の可否に対する判断
(1)訂正の内容
被請求人が求めている訂正の内容は、訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正すること、即ち以下の訂正事項1、2のとおりである。
(ア)訂正事項1
特許請求の範囲の【請求項1】に、
「少なくとも害虫防除薬剤及び生物分泌性でないものを包含する警報フェロモン(ただし、テルペン類は除く)からなるアリ防除剤であって、該警報フェロモンの作用によって、アリが害虫防除薬剤と接触する確率を高めたことを特徴とするアリ防除剤。」とあるのを、
「少なくとも害虫防除薬剤及び生物分泌性でないものを包含する警報フェロモン(ただし、テルペン類は除く)からなり、該害虫防除薬剤の使用量が該警報フェロモン1重量部に対し0.5〜30重量部であるアリ防除剤であって、該警報フェロモンの作用によって、アリが害虫防除薬剤と接触する確率を高めたことを特徴とするアリ防除剤。」
と訂正する。
(イ)訂正事項2
明細書段落【0004】に、
「【課題を解決するための手段】本発明は、少なくとも害虫防除薬剤及び生物分泌性でないものを包含する警報フェロモン(ただし、テルペン類は除く)からなるアリ防除剤であって、該警報フェロモンの作用によって、アリが害虫防除薬剤と接触する確率を高めたことを特徴とするアリ防除剤であり、これにより上記課題を解決できる。」とあるのを、
「【課題を解決するための手段】本発明は、少なくとも害虫防除薬剤及び生物分泌性でないものを包含する警報フェロモン(ただし、テルペン類は除く)からなり、該害虫防除薬剤の使用量が該警報フェロモン1重量部に対し0.5〜30重量部であるアリ防除剤であって、該警報フェロモンの作用によって、アリが害虫防除薬剤と接触する確率を高めたことを特徴とするアリ防除剤であり、これにより上記課題を解決できる。」
と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び拡張・変更の存否
(ア)訂正事項1は、訂正前の特許請求の範囲における「少なくとも害虫防除薬剤及び・・・警報フェロモン・・・からなるアリ防除剤」を、「少なくとも害虫防除薬剤及び・・・警報フェロモン・・・からなり、該害虫防除薬剤の使用量が該警報フェロモン1重量部に対し0.5〜30重量部であるアリ防除剤」と、害虫防除薬剤と警報フェロモンの配合比を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1は、本件特許に係る願書に添付した明細書の段落【0009】の「これら害虫防除薬剤の使用量は、目的種に応じて種々選定されるが、一般的には警報フェロモン1重量部に対し、0.5〜30重量部、好ましくは3〜10重量部から選択するとよく、速効性薬剤と遅効性薬剤との配合は適宜設定すればよい。」との記載に基づくものであって、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(イ)訂正事項2は、上記訂正事項1に伴い、訂正後の特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との記載の整合をはかるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、平成6年法律第116号による改正前の特許法第134条第2項ただし書に適合し、特許法第134条の2条第5項の規定により準用する上記平成6年改正前の第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.本件特許発明
本件特許第3354946号の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記2で示したように訂正が認められるから、上記訂正明細書又は図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。なお、以下、訂正後の明細書を単に「本件明細書」という。

「少なくとも害虫防除薬剤及び生物分泌性でないものを包含する警報フェロモン(ただし、テルペン類は除く)からなり、該害虫防除薬剤の使用量が該警報フェロモン1重量部に対し0.5〜30重量部であるアリ防除剤であって、該警報フェロモンの作用によって、アリが害虫防除薬剤と接触する確率を高めたことを特徴とするアリ防除剤。」

4.請求人の主張
(1)無効理由の概要
請求人は、本件発明に係る特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めて、以下の無効理由1及び2を主張している。
(ア)無効理由1
本件発明は、本件出願前に頒布された刊行物である甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し無効とされるべきものである。
(なお、当初主張のあった、本件発明は、甲第1号証に実質的に記載された発明である、との無効理由は撤回された(請求人の提出した口頭審理陳述要領書14頁参照)。)
(イ)無効理由2
本件明細書には不備があるので、本件特許は、特許法第36条第4項、同条第6項第1号、同第2号(注:平成5年法律第26号による改正前の特許法第36条第4項、同条第5項第1号及び第6項、同条第5項第2号及び第6項。以下、単に「特許法第36条第4項」等という。)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し無効とされるべきものである。

(2)証拠方法
請求人は、審判請求書とともに甲第1〜5号証、弁駁書とともに甲第6〜8号証、及び上申書とともに甲第9号証及び参考資料を提出している。甲各号証等は以下のとおりである。

(ア)甲第1号証 特開昭57-42603号公報
(イ)甲第2号証 特開昭61-172804号公報
(ウ)甲第3号証 石井象二郎著、「化学の領域選書1. 昆虫の生理活性物質」、株式会社南江堂、昭和44年11月11日、p.122-127
(エ)甲第4号証 石井象二郎、平野千里、玉木佳男、高橋正三共著、「行動から見た昆虫1. 昆虫行動の化学」、株式会社培風館、初版第3刷、昭和55年9月30日、p.102-104
(オ)甲第5号証 湯嶋健著、「昆虫のフェロモン」、財団法人東京大学出版会、初版、1976年11月15日、p.120、125
(カ)甲第6号証 石井象二郎、平野千里、玉木佳男、高橋正三共著、「行動から見た昆虫1. 昆虫行動の化学」、株式会社培風館、初版第3刷、昭和55年9月30日、p.101
(キ)甲第7号証 神崎務、他3名、「シラフルオフェンのアリ防除剤への適用」、環動昆、1994年、第6巻、第1号、p.21-26
(ク)甲第8号証 「ネオチオゾールの組成分析」と題する平成16年6月9日付け実験成績証明書
(ケ)甲第9号証 「カタログには出てないIP-ソルベントの代表性状」出光石油化学株式会社 化成品二部特殊化成品一課
(コ)参考資料 国際公開第90/11012号パンフレット

また、甲各号証等の内容は以下のとおりである。
(ア)甲第1号証(特開昭57-42603号公報)
記載事項1:「1.炭素数5〜12の脂肪族炭化水素の1種又は2種以上を含有してなることを特徴とする蟻用殺虫剤。
・・・
3.ピレスロイド系殺虫剤を配合してなる特許請求の範囲第1項又は第2項記載の殺虫剤。」(特許請求の範囲、第1及び第3項)
記載事項2:「しかしながら、市販されている合成ピレスロイド系蟻用エアゾール殺虫剤は・・・致死力はあるが速効性がないといった欠点がある。このため、蟻は歩くのが早いので、エアゾールを噴霧したとたん、すぐに四散してしまい、たとえ翌日物陰で死んでいたとしても使用者にはわからず、結果として蟻に効果がないといった不満があった。本発明者は、速効性に優れた蟻用殺虫剤につき鋭意研究を行なった結果、炭素数5〜12の脂肪族炭化水素が蟻に対し特異的に優れた効果を有し、これら炭素数5〜12、より好ましくは5〜8の脂肪族炭化水素を単独で、もしくは2種以上を併用したり、好ましくはピレスロイド系殺虫剤と併用することにより、速効性と致死効果の高い蟻用殺虫剤が得られることを知見し、本発明をなすに至ったものである。」(1頁右欄9行〜2頁左上欄6行)
記載事項3:「具体的にはn-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-ノナン、n-デカン、n-ウンデカン、n-ドデカン等の直鎖飽和炭化水素、2-メチルブタン、2-メチルペンタン、3-メチルペンタン、2,3-ジメチルブタン等の分枝鎖炭化水素、2-メチル-2-ブテン、1-ヘキセン等の不飽和炭化水素、或いは石油ベンジンやリグロイン等の混合炭化水素が用いられる。」(2頁左上欄12〜19行)
記載事項4:「これら脂肪族炭化水素の配合量は原液100ml中100ml〜70mlとすることが望ましい。・・・ピレスロイド系殺虫剤の配合量は原液100ml中0.2〜1g、好ましくは0.4〜0.8gとすることが殺虫効果、コストの点より望ましい。(2頁左上欄最下行〜同頁右上欄15行)
記載事項5:「本発明に係る蟻用殺虫剤は、使用性の点からエアゾール化して用いることが好ましく、・・・エアゾール製剤とする場合、前記炭化水素は沸点が低いため、噴霧高さによっては霧が蟻まで届かないことがあるので、保留剤として原液に対し1〜20容量%程度の灯油を混ぜるのが好ましい。」(2頁右上欄16行〜同頁左下欄3行)
記載事項6:「〔実施例3〕・・・上記各実施例に係るエアゾール製剤を用いて野外にてオオハリアリ、アミメアリ、トビイロケアリ、クロヤマアリ等に対しエアゾールを噴霧したところ、瞬間的に動かなくなり、そのままノックダウンし、致死した。」(4頁右下欄3〜13行)
(イ)甲第2号証(特開昭61-172804号公報)
記載事項7:「(1)0.05〜4.0重量%のアブラムシ用警告フェロモンとアブラムシ殺虫剤を含み、このアブラムシ殺虫剤の使用量はアブラムシ駆除組成物中における上記殺虫剤の最小常用量よりも少なくとも約10%少ないことを特徴とする殺虫組成物。」(特許請求の範囲、第1項)
記載事項8:「本発明の利点は、アブラムシ殺虫剤と組合わせてアブラムシ用警告フェロモンを使用することにより、殺虫剤の使用量をかなり減少させることができ、例えばアブラムシ駆除組成物中における上記殺虫剤の最小常用量より少なくとも約10%少なくてすむ。警告フェロモンの活性は、警告フェロモンによって引き起こされる刺激によりアブラムシが逃げ始めるという事実に基づいており、殺虫剤と接触した場合にはその刺激は更に増大され、多くのアブラムシは木から落下し、その後木にはアブラムシが付つかなくなる。更に警告フェロモンによって引き起こされた刺激はアブラムシを動けなくさせ(転倒させ)、その後アブラムシは死ぬことが多い。一般に、アブラムシ殺虫剤と警告フェロモンとの上記混合物は殺虫剤だけを用いた場合よりもアブラムシを速やかに殺すことができる。」(2頁左上欄18行〜同頁右上欄15行)
記載事項9:「更に、殺虫剤の一部を警告フェロモンに置換えることは、除虫菊とファルネセンとの組合せの場合のように一般的にコストの節約を意味する。」(2頁左下欄1〜3行)
記載事項10:「試験の1グループにおいてはアブラムシに薬剤を直接吹付けた。」(3頁右下欄13〜14行)
記載事項11:「上記の結果から次のことが明らかである。1)アブラムシ殺虫剤とフェロモンとの組合せは殺虫剤のみのものよりもずっと優れた活性を有する(より迅速な殺虫)。2)フェロモンのみを使用した場合においても、一定のアブラムシ殺虫効果を有する。」(4頁右上欄下から9〜4行)
記載事項12:「さらに、アブラムシを有する異なった種類の植物(第5表参照)に対して約30cm離して4つの側面から薬剤を吹付けた。」(4頁左下欄7〜9行)
記載事項13:「第4表、第5表および第6表から明らかなように、アブラムシ殺虫剤およびフェロモンの組合せは殺虫剤のみの場合よりアブラムシを速やかに殺し、またフェロモンのみの使用も一定のアブラムシ殺虫効果が見られる。」(6頁右上欄5〜9行)
(ウ)甲第3号証(「昆虫の生理活性物質」)
アリの警報フェロモンの種類、作用等が記載され、ウンデカン等、炭素数10〜13の物質が例示されている。(125頁)
(エ)甲第4号証(「昆虫行動の化学」)
アリの警報フェロモンについて、その種類、化学構造等が記載され、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン等があることが例示されている。(104頁)
(オ)甲第5号証(「昆虫のフェロモン」)
アリの警報フェロモンに、n-デカン、n-ウンデカンがあることが例示されている。(125頁)
(カ)甲第6号証(「昆虫行動の化学」)
記載事項14:「警報フェロモンに反応する行動は,上に述べたように,まず興奮すること,それに引きつづいて二つの型,すなわち“集まる”かあるいは“逃げる(分散する)”のいずれかである。」(101頁27〜29行)
(キ)甲第7号証(「シラフルオフェンのアリ防除剤への適用」)
記載事項15:「シラフルオフェンを有効成分とする乳剤およびベイト剤のアリ防除剤分野への適用を検討した.・・・クロヤマアリは忌避性を示さず,このベイト剤をアリの巣に持ち帰った.・・・アリに対する防除効果を試験したところ,2〜4週間にわたり巣口周辺でのアリの活動を抑えることができた.」(21頁下から8行〜22頁5行)
(ク)甲第8号証(「ネオチオゾールの組成分析」)
被請求人の提出した乙第1号証及び平成16年6月18日付け上申書において、溶剤として使用されているネオチオゾールの炭素組成を分析した結果、ウンデカンが0.17重量%含まれることが示されている。
(ケ)甲第9号証(「カタログには出てないIP-ソルベントの代表性状」)
各種IP溶剤に含まれる炭素組成が示されている。
(コ)参考資料(国際公開第90/11012号パンフレット)
社会性昆虫(例えばアリ)を死滅させるための殺虫剤系について記載されている。

5.被請求人の主張
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、答弁書とともに乙第1号証、平成16年6月18日付け上申書において追加実験の結果、口頭審理陳述要領書とともに乙第2号証、平成17年1月13日付け上申書とともに宣誓書を提出している。乙各号証等及びその内容は以下のとおりである。

(サ)乙第1号証 アリの巣に対する駆除効果を示す実験成績証明書
アリの巣穴と巣穴付近に本件発明のアリ防除剤を噴霧し、1日後にはアリの活動数がゼロとなり、5日後にも変化がなかったことが示されている。
(シ)上申書 警報フェロモンに関する<追加実験>
酢酸ブチル以外の5種の警報フェロモンを用いたアリ防除剤について、本件発明の効果があることを確認する目的で実験を行い、いずれも4分以内にノックダウンという効果があることが示されている。また、比較例として警報フェロモンを用いなかった場合、本件発明の効果が奏されないことも示されている。
(ス)乙第2号証 日本化粧品技術者会編、「化粧品事典」、丸善株式会社、平成15年12月15日、p.771
保留剤の項に、「揮発性の高い成分の揮散を遅らせることを目的に配合される成分」との記載がある。
(セ)宣誓書 アース製薬株式会社 営業本部 学術課 根岸努による宣誓書
アリの巣穴に対して本件発明のアリ防除剤を施用したその直後のアリの行動に関する宣誓書であり、アリが動揺して入り口付近に集合し、害虫防除薬剤と接触することが述べられている。

6.当審の判断
(1)無効理由2について
まず初めに、本件明細書に不備がある旨の主張について検討する。
本件特許は、特許法第36条第4項、同条第5項第1号、第2号及び第6項に規定する要件を満たしていないとして、請求人が主張する理由の概要は、以下の(ア)〜(ウ)とおりである。
(ア)本件発明の「該警報フェロモンの作用によって、アリが害虫防除薬剤と接触する確率を高めた」という構成は、「接触する確率を高める」ということが、どのようなことを意味し、どの程度高めたことを意味し、また、その程度をどのように測定するのかが不明である。
また「警報フェロモン」という構成は、アリの警報フェロモンに特定されていないため、アリ以外の警報フェロモンを用いても効果が奏されるか不明である。
したがって、本件発明は明確でない。
(審判請求書4頁下から3行〜5頁14行、同9頁4〜13行、弁駁書5頁1行〜6頁12行、同10頁下から8〜4行及び口頭審理陳述要領書11頁19行〜13頁7行参照)
(イ)本件明細書には、数多くの警報フェロモンが記載されているが、その中で効果を確認しているのは酢酸ブチルのみである。また、被請求人が上申書において示した<追加実験>でも5個の警報フェロモンについて実施しただけである。
したがって、本件発明は本件明細書に記載された発明ではない。
(審判請求書11頁下から10行〜12頁9行、弁駁書10頁下から3行〜12頁下から2行、口頭審理陳述要領書11頁4〜18行及び同13頁8〜24行参照)
(ウ)本件発明は、請求項1からみて、明確に「害虫防除薬剤及び警報フェロモンからなるアリ防除剤」という単一の製剤であるのに対し、本件明細書には、害虫防除薬剤と警報フェロモンを別々に施用した実施例しか記載されておらず、当業者が容易に本件発明を実施することができる程度に記載されていない。
また、アリの巣穴などに対する効果が確認されておらず、この点においても、当業者が容易に本件発明を実施することができる程度に記載されていない。
(審判請求書4頁8〜16行、弁駁書4頁5〜最下行、同6頁13行〜8頁1行及び口頭審理陳述要領書8頁6行〜11頁3行参照)

そこで、以下にこれに沿って検討する。
(a)理由(ア)について
本件明細書には、アリの行動について、段落【0012】の【作用】の項に「揮散した警報フェロモンを受容すると行動パターンの破綻をきたし、乱脈な行動を起こし、移動が活発になり害虫防除薬剤と接触する確率が高まり」と記載されており、また、請求人が提示した甲第6号証には、警報フェロモンの作用により、アリは興奮し、集まったり逃げたりすることが示されているよう(記載事項14)に、警報フェロモンの作用により、アリの行動が活発となり、害虫防除薬剤と接触する確率が高まることは、明細書の記載及び技術常識と矛盾することなく、当業者が特許請求の範囲の記載から理解できることであり、何ら不明確なことではない。そして、本件発明は、本件明細書の段落【0003】の【発明が解決しようとする課題】の記載から明らかなように、アリに害虫防除薬剤を直接処理できないような場合であってもアリが害虫防除薬剤と接触する確率を高めることを要件としているのであって、接触する確率の程度を問題とするものではないから、接触の定義、程度、測定方法が記載されていないからといって、不明確なものということはできない。
さらに、請求項1の記載から、警報フェロモンはアリの警報フェロモンと理解するのが自然であって、それ以外の解釈をしなければならない理由は見あたらない。
なお、請求人はさらに、アリの警報フェロモンであるとしてもその作用により逃げ出すアリもおり、そのような場合なぜ接触する確率が高まるのかわからないとも主張している。しかしながら、警報フェロモンによって、アリの行動が活発となって、逃げる行動をとったとしても、動かない場合に比べて接触する確率があがるであろうことは容易に予測できることである。しかも、請求人は、これを否定する根拠を示しているわけでもないから、本件発明は不明確であるとすることはできない。

(b)理由(イ)について
上記のように、本件発明は、警報フェロモンの作用により、アリの行動が活発となり、害虫防除薬剤と接触する確率が高まるものであることは明らかである。一方、本件明細書の発明の詳細な説明には、上記のように警報フェロモンの作用が説明され、かつ、実施例において複数種の警報フェロモンについてその作用によりアリの行動が活発になることを確認し、警報フェロモンの作用によりアリの防除効果が得られたことも確認している。そして、その作用は警報フェロモンの種類によって異なるようなものと理解すべきものでもない。したがって、本件明細書には、本件発明の作用が実施例の裏付けとともに説明されているから、被請求人が提出した上申書の<追加実験>の有無にかかわらず、本件発明が本件明細書に記載された発明ではないとすることはできない。
なお、請求人はさらに、上記<追加実験>の比較例は警報フェロモンを含有するので、警報フェロモンの作用に関する効果は確認されていないとも主張している。請求人の提示した弁駁書及び甲第8号証の記載によれば、被請求人の提示した<追加実験>に比較として示された「対照」に使用されている溶剤ネオチオゾールには、本件発明の警報フェロモンに相当する物質「ウンデカン」が、本件発明の要件を満たす量で含まれている(なお、請求人の提示した甲第8号証には、商品名「デオトミゾール」がネオチオゾールとして分析されており、両者が同一のものであるかどうかは不明であるが、この点について両当事者間に争いはない。)。しかしながら、被請求人の口頭審理陳述要領書及び乙第2号証によれば、ネオチオゾールに含まれるウンデカンは、溶剤の他の成分が保留剤として作用し揮発しにくくなっているため警報フェロモンとして作用しないものと推認でき、そのことは、先の<追加実験>でネオチオゾールを含む「対照」には警報フェロモンの活性が無いことが確認されていることと矛盾しない。したがって、ネオチオゾールを含む「対照」は、警報フェロモンとして作用する物質を含むアリ防除剤ということはできないから、警報フェロモンの作用による効果が確認されていないという請求人の主張は採用できない。

(c)理由(ウ)について
請求人は、本件発明は、本件明細書の特許請求の範囲の記載からみて、単一の製剤であることが明らかである旨主張している。しかしながら、請求人の指摘する特許請求の範囲には、少なくとも害虫防除薬剤及び警報フェロモンからなるアリ防除剤が記載されているのであって、特に単一の製剤であることが明記されているものではなく、請求人の主張を検討しても、他に単一の製剤しか意味しないと理解できるような明確な根拠もない。したがって、請求人の主張は、その前提において誤りがある。
そして、本件明細書には、段落【0007】に本件発明のアリ防除剤の施用方法として、使用時に両成分を混合して用いても、あるいは、両成分を予め混合して用いても良いことが記載されており、実施例には、両成分を別々にしたアリ防除剤と、両成分を混合して得たアリ防除剤の実験例(実験例3、4)がそれぞれ記載されているから、当業者が容易に本件発明を実施することができる程度に記載されていないとすることはできない。
また、本件のアリ防除剤は、本件明細書の段落【0003】及び段落【0012】の記載から、直接処理できないアリに対しても警報フェロモンの作用により、その行動を活発にして防除効果を得ることを目的としたものであり、アリに直接処理しなくても防除効果が得られたことが実施例において確認されている。したがって、本件発明のアリ防除剤が、直接処理できないアリの巣穴に対しても防除効果が得られるであろうことは当業者が容易に理解できるから、この点においても、当業者が容易に本件発明を実施することができる程度に記載されていないとはいえない。そして、アリの巣穴に対しても防除効果を奏することは、被請求人が提示した乙第1号証及び宣誓書によっても、本件明細書の記載と何ら矛盾することなく裏付けられている。
なお、請求人は、甲第7号証を提示して、警報フェロモンを含まないアリ防除剤であっても、アリの巣穴に対する防除効果を奏することは公知であるから、乙第1号証では、警報フェロモンの作用によってアリ防除効果が高まることの証明をしたことにはならない旨主張している。そもそも、上記のように、本件明細書の記載から、本件発明の効果が十分確認できるのであるから、乙第1号証が結論に影響を及ぼすものではないが、念のため、請求人の上記主張についても検討する。甲第7号証は、「シラフルオフェン」を有効成分とするアリ防除剤に関するものであるところ、シラフルオフェンはアリが忌避性を示さないベイト剤であって、アリが巣へ持ち帰って防除効果を発揮するものである(記載事項15)。したがって、甲第7号証に記載されたアリ防除剤がアリの巣穴に対する防除効果を奏することは、本件発明の警報フェロモンを用いたことによる効果を検討するにあたって影響を及ぼすようなものではなく、請求人の主張は採用できない。

よって、本件特許が、特許法第36条第4項、同条第5項第1号、第2号及び第6項に規定する要件を満たしていないとすることはできない。

(2)無効理由1について
次に進歩性がないとする旨の主張について検討する。
請求人は、本件発明は、(ア)甲第1号証に記載された発明に基づいて、(イ)甲第2号証に記載された発明に基づいて、(ウ)甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、及び(エ)甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであると主張するので、以下これに沿って検討する。

(a)主張(ア)について
甲第1号証には、炭素数5〜12の脂肪族炭化水素(以下、「甲1炭化水素」という。)の1種又は2種以上とピレスロイド系殺虫剤を配合した蟻用殺虫剤が記載されており(記載事項1)、上記脂肪族炭化水素の具体例として、n-ノナン、n-デカン、n-ウンデカン、n-ドデカン等の直鎖飽和炭化水素、2-メチルブタン、2-メチルペンタン等の分岐鎖炭化水素、2-メチル-2-ブテン等の不飽和炭化水素、及び石油ベンジン、リグロイン等の混合炭化水素があげられている(記載事項3)。
一方、本件明細書には、本件発明に使用される害虫防除薬剤としては、ピレスロイド系薬剤等があることが記載され(段落【0008】参照)、警報フェロモンについては、その具体的化合物として、酢酸ブチル、2-アセチル-3-メチルシクロペンテン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン等が記載されている(段落【0006】参照)。
以上のことから、甲1炭化水素は、本件発明の警報フェロモンと重複する化合物を含むといえる。
しかしながら、甲第1号証には、従来の合成ピレスロイド系蟻用エアゾール殺虫剤は、致死力はあるが速効性がないという欠点を有するものであったのに対し、甲1炭化水素を用いると、それ単独でも蟻に対する速効性と致死効果の高い蟻用殺虫剤が得られたことが記載されているように(記載事項2)、甲第1号証に記載された発明においては、甲1炭化水素はそれ自体を殺虫剤として使用するものであって、その使用方法も、例えば、エアゾール製剤とする場合には、霧が蟻まで届くようにすることを考慮しており(記載事項5)、実施例3には、アリに対してエアゾールを噴霧したところ、瞬間的に動かなくなり、そのままノックダウンし致死したと記載されているように(記載事項6)、アリに直接施用して即死させるものである。
また、その配合量についてみても、甲第1号証には、甲1炭化水素は、原液100ml中100ml〜70mlとすることが好ましいこと、ピレスロイド系殺虫剤は、原液100ml中0.2〜1gとすることが望ましいことが記載されており(記載事項4)、甲1炭化水素の量を重量に換算してみると、具体例が一致しているノナン、デカン、ウンデカン、ドデカンはその比重がおよそ0.7であるので、甲1炭化水素の配合量は原液100ml中およそ70〜49gとなる。
したがって、甲第1号証に記載された発明においては、本件発明のアリ防除剤の「害虫防除薬剤の使用量が警報フェロモン1重量部に対し0.5〜30重量部」に比べて、甲1炭化水素をはるかに多い量で配合することを意図しているものであり、甲1炭化水素がそれ自体殺虫剤であることと矛盾していない(一般に、警報フェロモンは少量でその役目を果たすものであることは、請求人が提示した甲第3号証の「約5×1013mol/mlである。・・・このような濃度で十分役割を果せるのであろう.」(123頁16〜18行)などの記載からも理解できることであって、この配合量の違いが、両者の作用の違いをより明確にしているともいえる。)。
以上のように、甲第1号証には、本件発明の警報フェロモンと重複する化合物が例示されているものの、それは殺虫剤として使用するものであって、本件発明にあるような量で、警報フェロモンの作用を利用して、アリが害虫防除薬剤と接触する確率を高めるために使用することについては、記載も示唆もされていない。
そして、本件発明は、その特許請求の範囲にあるように、警報フェロモンの作用によって、アリが害虫防除薬剤と接触する確率を高めたものであり、直接施用するのではなく、警報フェロモンの作用を利用して、アリ防除剤の投与処理が困難な所等、今まで防除できなかった環境でも防除できるという、甲第1号証に記載された発明からは予測できない格別の効果を奏するものである。
よって、本件発明は、甲第1号証に記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

なお、請求人は、甲第1号証には、直接施用することに限るとの記載はないから直接施用する以外の対応も当然含んでおり、本件発明も直接施用するものを除外していない旨、数値範囲を限定しても臨界的意義が示されておらず、進歩性の判断に影響を与えるようなものではない旨、及び、本件発明は、甲第1号証に記載された発明に比べて、警報フェロモンに対する殺虫剤を多量に使用するものであり、しかも、甲1炭化水素はそれのみでの殺アリ効果は確認されておらず、むしろ殺虫剤の殺虫作用を高める補助剤のようなものとして記載されていることからすれば、殺虫効果が高いことは当業者が予測し得る程度のことである旨主張している。
しかしながら、甲第1号証には、直接施用する場合の課題を解決すること、直接施用して効果を確認していることが記載されているように(記載事項2、6)、直接施用することを意図したものであることは明らかである。そして、その他の施用方法が甲第1号証に示唆されているとすることはできない。また、上記のように、甲第1号証に記載された甲1炭化水素は殺虫剤自体として用いるものであって、殺虫剤の補助剤とはいえず、請求人の指摘する箇所でも、「本発明においては、前記炭化水素に加えてピレスロイド系殺虫剤を配合することができ、ピレスロイド系殺虫剤の使用により、炭素数5〜12の炭化水素との相乗作用によって優れた速効性、致死効果を有する蟻用殺虫剤が得られる。」と記載されているように、むしろ殺虫剤を併用すると甲1炭化水素のみより殺虫効果が高まる旨が記載されている。さらには、その使用量も本件発明とは全く異なるものである。
したがって、請求人のこの点の主張も採用することはできない。

(b)主張(イ)について
甲第2号証には、アブラムシ用警告フェロモンとアブラムシ殺虫剤を含む殺虫組成物(以下、「甲2殺虫組成物」という。)が記載されている(記載事項7)。
そこで、甲2殺虫組成物における警告フェロモンについて、以下に検討する。
甲第2号証には、甲2殺虫組成物は、殺虫剤と警告フェロモンを併用することにより殺虫剤の使用量をかなり減少させたものであること、甲2殺虫組成物の作用について、警告フェロモンによって引き起こされる刺激によりアブラムシが逃げ始め、殺虫剤と接触した場合にはその刺激はさらに増大され、多くのアブラムシは木から落下し死滅すること、殺虫剤のみを用いた場合より速やかに殺すことができることが記載されている(記載事項8)。
また、甲第2号証には、殺虫剤の一部を警告フェロモンに置き換えることはコストの節減となることも記載されており(記載事項9)、実施例には、警告フェロモンはそれのみでも殺虫効果を奏することが示されている(記載事項11、13)。そして、甲2殺虫組成物の施用方法は、アブラムシ又はそれがいる植物に直接吹き付けるものと解される(記載事項10、12)。
以上のことからすると、甲第2号証には、「アブラムシに直接処理できないような場合」という課題については記載も示唆もされておらず、また、警告フェロモンを殺虫剤と併用することについて、その作用を利用して、殺虫剤に接触する確率を高めるというようなことが窺える記載もない。そして、警報フェロモンは、アブラムシに対しては、それ自体殺虫効果を奏し、木から落下させるという作用を奏するのに対し、アリに対しては、本件明細書にあるように、その行動パターンの破綻をきたし、乱脈な行動を起こさせる、というように、その作用が異なっており、同様な行動をとることが当業者に広く知られたこととも認められない。
したがって、甲第2号証に記載されたアブラムシ用殺虫組成物を、アリ用に転用し、直接処理できないようなところでも、害虫防除薬剤と接触する確率を高めるようにすることが、当業者が容易に想到し得ることとは認められない。そして、本件発明は、甲第2号証に記載された発明からは予測できない格別の効果を奏するものである。
よって、本件発明は、甲第2号証に記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(c)主張(ウ)及び(エ)について
上記のように、甲第1号証及び甲第2号証には、警告フェロモンに相当する物質と、害虫防除薬剤とを併用した殺虫組成物に関する技術は開示されているものの、それらには、アリの防除を目的とし、特に、直接処理できないようなところであっても、警告フェロモンの作用により、アリの行動を活発にし、害虫防除薬剤と接触する確率を高めるという本件発明の目的、構成及び効果については記載も示唆もされていない。また、アブラムシの警告フェロモンをアリの警報フェロモンに転用することを動機付ける記載もない。
さらに、甲第3〜5号証の記載を参酌しても、それらには、アリの警報フェロモンとして公知の物質について、また、その作用によりアリがとる行動等について記載されているものの、警報フェロモンをアリ防除剤に利用すること、警報フェロモンによるアリの行動とアブラムシの行動が類似しており、同様な作用を期待できることが示唆されるような記載も示唆もない。
そして、これまで述べたように、他に、それ自体殺虫剤として用いている炭化水素化合物を警告フェロモンとして害虫防除薬剤と併用して使用することや、アブラムシの警告フェロモンを利用したアブラムシの駆除に関する技術を、アリの駆除に転用することを示す証拠も見あたらない。
そして、本件発明は、上記のように、これら各証拠方法からは予測できない格別な効果を奏するものである。
よって、甲第1号証及び甲第2号証を組み合わせても、また、甲第1〜5号証を組み合わせても、いずれも、本件発明を当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

以上のとおり、本件発明は、甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(3)請求人の主張について
請求人は、平成16年1月14日付けで提出した上申書とともに、参考資料を提出し、その資料に基づき本件発明は無効とされるものである旨主張している。
しかしながら、請求人が提出した上記参考資料は、甲第1〜5号証に基づく無効理由を補足するような資料ではなく、また、明細書の記載不備を裏付けるような資料でもない。
したがって、上記参考資料は、上記無効理由1、2に関連する証拠とはなり得ないので採用することはできない。

よって、請求人の主張は、いずれも妥当なものではない。

7.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明の特許を無効とすることができない。
審判にかかる費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
アリ防除剤
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくとも害虫防除薬剤及び生物分泌性でないものを包含する警報フェロモン(ただし、テルペン類は除く)からなり、該害虫防除薬剤の使用量が該警報フェロモン1重量部に対し0.5〜30重量部であるアリ防除剤であって、該警報フェロモンの作用によって、アリが害虫防除薬剤と接触する確率を高めたことを特徴とするアリ防除剤。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、アリ防除剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より害虫、殊にアリ類等を駆除する目的で用いられる害虫防除剤には、食毒剤とエアゾール剤があり、食毒剤は害虫防除薬剤を主剤として誘引剤、その他増量剤、結合剤等と混合後、粉末、顆粒等の剤型に成型され、駆除しようとする場所あるいはその近くに置いて用いられている。また、エアゾール剤には、殺虫成分を溶剤などに溶解させ噴射剤と共に充填して用いる。本出願人は、先に速効性殺虫薬剤を含有する毒餌と共に上記誘引剤、増量剤、遅効性殺虫薬剤等を含有する凝毒餌を用いて巣穴に存在するアリ全体を死滅させる方法を提案した。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
殺虫剤を液状にしてスプレーすれば巣穴の入口付近にいるアリに直接処理できる確率は高いが、巣穴の形状、群生している場所等によっては尚、薬剤のアリへの到達が不可能あるいは不完全である場合がある。本発明は、防除すべきアリの存在する任意の環境において防除可能な環境を従来に比べ大幅に拡大すると共にアリ防除剤投与が容易でしかもアリ防除効果の高いアリ防除剤を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、少なくとも害虫防除薬剤及び生物分泌性でないものを包含する警報フェロモン(ただし、テルペン類は除く)からなり、該害虫防除薬剤の使用量が該警報フェロモン1重量部に対し0.5〜30重量部であるアリ防除剤であって、該警報フェロモンの作用によって、アリが害虫防除薬剤と接触する確率を高めたことを特徴とするアリ防除剤であり、これにより上記課題を解決できる。
【0005】
本発明に使用できる警報フェロモンとは、アリが分泌する警報フェロモンに限らず、その合成品、あるいは、前記生物が分泌することはないが、それと同等の作用を有する任意の天然化合物または人工合成化合物を包含するものである。本発明に使用できる警報フェロモンは、警報フェロモン自体の活性に加え、アリに対し該警報フェロモンの分泌を誘起させる作用を兼ね備えていてもよい。あるいは、本発明は警報フェロモンの分泌を誘起させる任意の薬剤を含むことができる。この場合、警報フェロモンを分泌する分泌腺の部位、腺種等は特に制限されるものでなく、大あご腺、肛門腺、毒腺、デュフォー腺等が挙げられる。また、本発明では、目的の種に応じて警報フェロモンを1種以上適宜選定でき、また複数の種に有効な警報フェロモンを1種以上選定使用することもできる。
【0006】
該警報フェロモンを例示すれば、低分子有機化合物が挙げられ、例えば、エステル類、ケトン類、アルコール類、アルデヒド類、有機酸類、炭化水素類、ヘテロ環類等が挙げられ、通常、分子量100〜200の範囲から選定される。具体的化合物を例示すれば、該エステル類としては、酢酸ブチル、デシルアセテート、6-メチルサリチル酸メチル等が挙げられ、ケトン類としては、エチルイソブチルケトン、2-ヘプタノン、2-メチル-4-ヘプタノン、3-オクタノン、4-メチル-3-ヘキサノン、4-メチル-2-ヘキサノン、4-メチル-3-ヘプタノン、4,6-ジメチル-4-オクテン-3-オン、3-ノナノン、3-デカノン、3-ウンデカノン、2-トリデカノン、o-アミノアセトフェノン、6-メチル-5-ヘプテン-2-オン、2-メチルシクロペンタノン等が挙げられ、アルコール類としては、3-オクタノール、ヘキサノール、2,6-ジメチル-5-ヘプテン-1-オール等が挙げられ、アルデヒド類としてはヘキサナール、(E)-2-ヘキセナール、2-ブチル-2-オクテナール等が挙げられ、有機酸類としては、蟻酸等が挙げられ、炭化水素類としては、2-アセチル-3-メチルシクロペンテン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン等が挙げられ、ヘテロ環類としては、2,5-ジメチル-3-イソペンチルピラジン、2,5-ジメチル-3-ペンチル,ブチル,プロピルまたはエチルピラジン等が挙げられる。
【0007】
本発明のアリ防除剤は、予め警報フェロモンを害虫防除薬剤と共に混合して使用しても、警報フェロモンを含有するものと害虫防除薬剤を含有するものとを独立に製造してキット化したものでもよく、使用時に両者を混合して処理することができる。警報フェロモンは、そのまま使用しても各種の溶媒で希釈して使用してもよい。本発明アリ防除剤における警報フェロモンの使用量は、目的種に応じて異なるが、害虫防除薬剤総重量に対し0.05〜3重量%、好ましくは、0.1〜0.5重量%の範囲から選定される。本アリ防除剤は任意の形態に製剤化できる。該製剤例としては、液状、固形状(例えば、粒状、粉末状、顆粒状、塊状等)、ゲル状、ゾル状等が挙げられ、処理形態も噴霧、散布等任意である。
【0008】
本発明に使用される害虫防除薬剤としては、従来公知の薬剤が挙げられ、例示すれば、速効性薬剤としてジョチュウギクエキス、アレスリン、d-T-80-アレスリン、フタルスリン、レスメトリン、フラメトリン、d-T-80-フラメトリン、フェノトリン、ペルメトリン等のピレスロイド系薬剤、カルクロホス、ジクロルボス、ナレド、ダイアジノン、シアホス、クロルピリホスメチル、マラソン、トリクロルホン、ピリダフェンチオン、フェンクロホス、フェニトロチオン、ブロモホス等の有機リン系薬剤、プロポクサー等のカーバメイト系薬剤等があり、遅効性薬剤としてはカーバリール、ホウ酸、エクダイソン等の脱皮ホルモン、プリコセン等の抗幼若ホルモン等がある。
【0009】
これら害虫防除薬剤の使用量は、目的種に応じて種々選定されるが、一般的には警報フェロモン1重量部に対し、0.5〜30重量部、好ましくは3〜10重量部から選択するとよく、速効性薬剤と遅効性薬剤との配合は適宜設定すればよい。
【0010】
本発明は警報フェロモンおよび害虫防除薬剤の他に任意の化合物を使用でき、例えば、有機溶媒、界面活性剤、水等の溶剤、増量剤、結合剤、色素乃至着色料などが挙げられる。
【0011】
溶剤としては、ネオチオゾール、IP-2028等のパラフィン系炭化水素溶剤あるいはTween20等の界面活性剤を用いる。その他、本発明に使用できる界面活性剤としては、陰イオン界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸アンモニウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン等が挙げられ、両性界面活性剤として、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ヤシ油アルキルベタイン(ヤシ油アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン)、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等のベタイン骨格を有する界面活性剤等を例示できる。増量剤としては、シリカゲル、珪酸、珪藻土、カオリン、タルク等が例示できる。結合剤としては、アイリッシュモス、トラガントガム、カラヤガム、カルボキシメチルセルロース等が例示される。色素乃至着色料としては、アマランス、エリスロシン、ローズベンガル、アシッドレッド、リソールルビン、レーキレッド、リソールレッド、ローダミン、テトラクロロテトラブロモフルオレセイン、ブリリアントレーキレッド、ディープマルーン、トルイジンレッド、ヘリンドンピンク、ファストアシッドマゲンタ、パーマトンレッド、エオシン、ビオラミン、ブリリアントファストスカーレット、パーマネントレッド、オイルレッド、ファストレッド等が例示される。これら化合物の使用量は、目的、製剤形態等により種々任意に選定されるが、一般的には、害虫防除薬剤1重量部に対し5〜500重量部、好ましくは、50〜200重量部の範囲から選定される。
【0012】
【作用】
本発明は、警報フェロモンを使用しているため、アリ防除剤の近傍に存在するアリは、通常は一ケ所にかたまっているが、揮散した警報フェロモンを受容すると行動パターンの破綻をきたし、乱脈な行動を起こし、移動が活発になり害虫防除薬剤と接触する確率が高まり、ひいてはアリ防除効果を高めるものである。
【0013】
【実施例】
以下、本発明の具体的実施例を説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
実験例1
警報フェロモン原液の各種アリに対する活性を定性的に調べた結果を以下に示す。

【0014】
実験例2
警報フェロモンとして酢酸ブチル水溶液の濃度を変えて上記実験例1と同様に活性を調べた。


【0015】
実施例1
殺虫薬剤としてアレスリン0.435g、ネオピナミンフォルテ0.160g、S-421 1.02gを用い0.1%Tween20 100mlに溶解した混合殺虫剤と警報フェロモンの酢酸ブチルの0.5gを0.1%Tween20に溶解させた警報フェロモン溶液100mlとからなる本発明アリ防除剤を作成した。
【0016】
実験例3
実施例1で作成したアリ防除剤の性能を下記条件にて試験し、評価した。ポリエチレンカップ(直径11.6cm、高さ6cm)の底部に石英砂を薄く敷き、適当に水を滴下した。その中にアミメアリ100頭放飼し、3日後試験に用いた。処理前にポリエチレンカップ蓋に2個穴を開けた。一方では該カップ底部に0.5mlの混合殺虫剤を4cmの長さにスポイトにて滴下した後、別の穴から対照区の水または警報フェロモン溶液0.5mlを滴下してアミメアリの行動を観察した。また、アリの移動によって殺虫薬剤にふれ、その後致死したアリの固体数を数えた(表1参照)。警報フェロモン水溶液を処理した後のアミメアリの行動を処理前、処理後2〜3分目、処理後15分目、処理後30分目以降に観察した結果を図1に示した。処理前のアミメアリ1は群をつくっていたが、警報フェロモン溶液2を処理すると2〜3分後でクモの子を散らすように分散し、多数のアミメアリはポリエチレンカップ3の縁を回り始め混合殺虫剤4で処理した所で薬剤と接触した。その後20分程度でまた群をつくり始め、30分後で一塊となった。
【0017】
それに対して対照区の水処理ではアミメアリの移動は認められなかった。警報フェロモン溶液処理によるアミメアリの移動は、予想以上に大きくその結果として殺虫剤にコンタクトする頻度も高まったとみられ、処理後3時間日で約60%の致死が認められた。それに対して対照区の水ではアミメアリの移動が認められないため、防除効果は認められなかった(表1参照)。以上の結果より、警報フェロモン溶液処理すればアリの移動を容易にさせ、結果的に薬剤に触れやすくして防除効果を高めた。
【表1】

【0018】
実施例2
実施例1の混合殺虫剤と警報フェロモン溶液を混合してアリ防除剤を作成した。
【0019】
実験例4
実験例3において、混合殺虫剤を処理した所にそれと同量、本発明のアリ防除剤または本発明から警報フェロモン溶液を除去した比較品を処理した以外は、実験例3と同条件で各処理薬剤の効能を評価し、その結果を表2に示す。
【表2】

【0020】
【発明の効果】
本発明は、害虫防除薬剤と警報フェロモンを組み合わせることでのみ、初めて防除効果を向上させるだけでなく、アリの巣穴等のアリ防除剤の投与処理が困難な所でも容易に目的種に行動を起こさせることができ、今まで防除できなかった環境でも防除できるなど有効処理環境が大幅に拡大できる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2005-02-14 
結審通知日 2005-02-15 
審決日 2005-03-07 
出願番号 特願平2-418533
審決分類 P 1 113・ 534- YA (A01N)
P 1 113・ 531- YA (A01N)
P 1 113・ 121- YA (A01N)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 関 美祝
後藤 圭次
登録日 2002-09-27 
登録番号 特許第3354946号(P3354946)
発明の名称 アリ防除剤  
代理人 市川 利光  
代理人 添田 全一  
代理人 本多 弘徳  
代理人 添田 全一  
代理人 小栗 昌平  
代理人 高松 猛  
代理人 本多 弘徳  
代理人 加藤 勉  
代理人 濱田 百合子  
代理人 市川 利光  
代理人 高松 猛  
代理人 小栗 昌平  
代理人 萼 経夫  
代理人 濱田 百合子  
代理人 中村 壽夫  

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