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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01J |
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管理番号 | 1118723 |
審判番号 | 不服2002-13058 |
総通号数 | 68 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2001-03-16 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2002-07-11 |
確定日 | 2005-06-17 |
事件の表示 | 平成11年特許願第238960号「n型ダイヤモンド電子放出素子及び電子デバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 3月16日出願公開、特開2001- 68011〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
【1】手続の経緯及び本願発明 本願は、平成11年8月25日の出願であって、その請求項1〜14に係る発明は、平成14年3月18日付けで補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜14に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1には次のとおり記載されている。 「【請求項1】 イオウドープn型ダイヤモンド半導体と、このイオウドープn型ダイヤモンド半導体表面を水素化して負の電子親和力を有する水素化表面と、この水素化表面に対向して設けたアノード電極とを備え、 上記イオウドープn型ダイヤモンド半導体を冷陰極として電子を放出する、n型ダイヤモンド電子放出素子。」(以下、「本願発明」という。)。 【2】引用刊行物に記載された発明 (引用刊行物1に記載された発明) これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前である平成7年4月7日に頒布された特開平7-94077号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。 a.「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、マイクロ真空管、発光素子アレイ等において電子線のエミッタとして機能する冷陰極素子に利用される電子デバイスに関する。」 b.「【0021】このn型ダイヤモンド層を構成するダイヤモンドは、電子親和力がゼロに非常に近い値を有することにより、伝導帯と真空準位との差が微小である。ここで、本件出願の発明者は、ダイヤモンド中で電流を移動させることにより、容易に電子を真空中に取り出せると推測した。」 上記記載b.より、 ・n型ダイヤモンドは、電子親和力がゼロに近く、電子を真空中に取り出しやすいことが読みとれる。 c.「【0022】そこで、当該発明者は、n型ドーパントとして高濃度に窒素をドープすることにより・・・n型ダイヤモンド層を形成し、電界放出により非常に高効率で電子が真空中に放出されることを確認した。」 上記記載c.より、 ・窒素をドープしたn型ダイヤモンド層が高効率で電子を真空中に放出し得ることが読みとれる。 d.「【0023】・・・n型ダイヤモンド層における窒素のドーパント濃度が大きい場合は、基板温度が室温程度であっても、電界放出によりエミッタ部の先端部分から電子が高効率で取り出される。」 上記記載a.も併せ参酌すると、「基板温度が室温程度であっても、電界放出により・・・電子が高効率で取り出される」エミッタ部は、「冷陰極」と言い得るものと解されるから、上記記載d.より、 ・窒素ドープn型ダイヤモンド半導体を冷陰極として電子を放出する点の構成が読みとれる。 e.「【0046】図5は、上記第1実施例に対する実験の説明図である。・・・ 【0047】アノード電極板14とn型層3との間には、電圧源及び電流計が直列に配線されており、アノード電極板14と電子デバイス10との間に電界を発生する。また、電子デバイス10から放出された電子はアノード電極板14に捕獲され、電子デバイス10からの放出電流として電流計により検出される。」 上記記載e.より、 ・n型層3に対向して設けたアノード電極板14とを備えたn型ダイヤモンド電子放出素子、が読みとれる。 これらの記載から、引用刊行物1には次の発明が記載されているものと認められる。 「窒素ドープn型ダイヤモンド半導体と、この窒素ドープn型ダイヤモンド半導体表面に対向して設けたアノード電極14とを備え、 上記窒素ドープn型ダイヤモンド半導体を冷陰極として電子を放出する、n型ダイヤモンド電子放出素子」(以下、「引用刊行物1に記載された発明」という。)。 (引用刊行物2に記載された発明) 同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前である平成10年2月13日に頒布された特開平10-40805号公報(以下、「引用刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。 f.「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、電子線を放出する冷陰極素子に関し、特に粒子状のダイヤモンドを電子放出源として有する冷陰極部分で構成される冷陰極素子及びその製造方法に関する。」 g.「【0065】また前記本発明の構成において、冷陰極部分に配置されたダイヤモンドの最表面の炭素原子が、水素原子との結合によって終端された構造を含んでいるという好ましい例によれば、水素終端されたダイヤモンド表面は負の電子親和力状態であることから、電子放出源として非常に電子放出をしやすい状態にすることが可能となる。・・・」 上記記載から、引用刊行物2には次の発明が記載されているものと認められる。 「ダイヤモンドの最表面の炭素原子に水素原子を結合させることによりダイヤモンド表面を負の電子親和力状態にして電子放出をしやすくしたダイヤモンドを電子放出源とする冷陰極素子」(以下、「引用刊行物2に記載された発明」という。)。 【3】対比 本願発明と引用刊行物1に記載された発明とを対比すると、 引用刊行物1に記載された発明の 「アノード電極14」、「電子放出素子」は、それぞれ、 本願発明における 「アノード電極」、「電子放出素子」に相当する。 そして、本願発明における「イオウドープn型ダイヤモンド半導体」も、引用刊行物1に記載された発明における「窒素ドープn型ダイヤモンド半導体」も共に、n型ダイヤモンド半導体であるから、両者の一致点、相違点は次のとおりである。 (一致点) n型ダイヤモンド半導体と、このn型ダイヤモンド半導体表面に対向して設けたアノード電極とを備え、 上記n型ダイヤモンド半導体を冷陰極として電子を放出する、n型ダイヤモンド電子放出素子。 (相違点) 相違点1:n型ダイヤモンド半導体について、 本願発明では、「イオウドープn型ダイヤモンド半導体」であるのに対し、引用刊行物1に記載された発明では、「窒素ドープn型ダイヤモンド半導体」である点。 相違点2:半導体表面について、 本願発明では、「n型ダイヤモンド半導体表面を水素化して負の電子親和力を有する水素化表面」を有するのに対し、引用刊行物1に記載された発明におけるn型ダイヤモンド半導体は、そのような水素化表面を有しない点 【4】相違点の判断 相違点1について、 ダイヤモンド半導体電子放出素子において、イオウドープn型半導体を電子放出素子として用いたものは周知である(例えば、特開平7-130981号公報(周知例1)、【0050】の記載、特開平6-187902号公報(周知例2)、【0064】の記載参照) そうしてみると、引用刊行物1に記載された発明において、窒素ドープn型ダイヤモンド半導体に代えて周知のイオウドープn型ダイヤモンド半導体で置き換えること自体に、格別の創意を要するものであるとは言えない。 この点について審判請求人は審判請求書に対する平成14年8月12日付け手続補正書の中で、 「イオウドープダイヤモンドがn型導電性を示すことは、例えば、特開昭63-302516号公報で古くから知られている。しかしながら、半導体が電子デバイスとして使用可能になるためには、単にキャリアの導電性がn型、または、p型であるだけでなく、ドーパント原子が正確に格子点に配置され、結晶完全性が高くなければならないことは、ダイヤモンド半導体に限らず、SiやGaAs半導体においても周知である。引用例5,6(注:上記周知例1、2に相当)において、「イオウでもできる」と記載しながら実証例がないのは、イオウドープダイヤモンドがn型導電性を示しても結晶完全性が低いため、十分な特性が得られなかったためと推察される。電子放出素子等の電子デバイスは、単に、導電性が同じだから同様に実現できるとは全く言えないのであり、その半導体を用いてできると判断するためには、結晶完全性も含めて判断する必要がある。あるいは、実証例をもって判断すべきである。」(補正書4頁3行〜14行)と主張しているので、この点について検討する。 本願発明は請求項1の記載から明らかなように、「イオウドープn型ダイヤモンド半導体」を特定事項の一部とするものであって、その「結晶完全性」についてまでも特定事項の一部とするものではない。 また、本願明細書中に、イオウドープn型ダイヤモンド半導体の結晶完全性について言及した箇所は皆無であり、本願発明におけるイオウドープn型ダイヤモンド半導体がどの程度の結晶完全性を備えたものであるのかを、本願明細書の記載から読み取ることはできない。 そうすると、本願発明に言うところの「イオウドープn型ダイヤモンド半導体」には、(その結晶完全性はさておき)通常の方法により製造可能なイオウドープn型ダイヤモンド半導体が含まれると解するのが自然である。 ところで、「イオウドープn型ダイヤモンド半導体」の製造方法は、請求人自身が示した特開昭63-302516号公報にも記載されている如く周知である。 そして、周知例1、2に記載されたイオウドープn型半導体が特に製造可能でないとする何らかの事情、また、製造可能であっても電子放出素子として使用できないとする格別の理由は見あたらない。 そうしてみると、周知例1、2に記載されたイオウドープn型半導体が十分な結晶完全性を有するか否か不明であること、あるいは実証例が記載されていないことをもって電子放出素子として実現できないとする審判請求人の主張は根拠がなく、採用し得ない。 相違点2について、 引用刊行物2には次の発明が記載されている。 ダイヤモンドの最表面の炭素原子に水素原子を結合させる(水素化することに相当)ことによりダイヤモンド表面を負の電子親和力状態にして電子放出をしやすくしたダイヤモンドを電子放出源とする冷陰極素子。 引用刊行物1に記載された発明も引用刊行物2に記載された発明も共に冷陰極に関するものであり、また、引用刊行物1に記載された発明は、n型ダイヤモンドがそもそも電子親和力がゼロに近く電子を真空中に取り出しやすいことに着目して、n型ダイヤモンドを冷陰極素子材料として採用したのであるから(【2】記載b.参照)、更に電子を取り出しやすくするために、ダイヤモンド表面の電子親和力に着目して、ダイヤモンド表面を水素化することにより負の電子親和力状態にすべく引用刊行物2に記載された発明の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得るところと言える。 そして、本願発明の効果も、引用刊行物1、2に記載された発明及び周知事項から当業者が容易に予測できる範囲のものである。 【5】むすび したがって、本願の請求項1に係る発明は、引用刊行物1に記載された発明、引用刊行物2に記載された発明、及び周知事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 上記のとおり、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものであるから、本願のその余の請求項に係る発明について審究するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2005-04-05 |
結審通知日 | 2005-04-12 |
審決日 | 2005-04-25 |
出願番号 | 特願平11-238960 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01J)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 向後 晋一 |
特許庁審判長 |
上田 忠 |
特許庁審判官 |
尾崎 淳史 後藤 時男 |
発明の名称 | n型ダイヤモンド電子放出素子及び電子デバイス |
代理人 | 平山 一幸 |
代理人 | 平山 一幸 |