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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A41D
管理番号 1118806
審判番号 無効2004-80020  
総通号数 68 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-02-18 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-04-21 
確定日 2005-06-20 
事件の表示 上記当事者間の特許第3283404号発明「競泳水着」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1 手続の経緯
本件特許第3283404号発明についての出願は、平成7年7月6日に特許出願され、平成14年3月1日に特許権の設定の登録がされた。本件特許に対し、平成14年6月25日に特許異議の申立て(異議2002-71614号)がされ、平成15年4月15日に訂正請求がされ、平成15年9月5日付けで「訂正を認める。特許第3283404号の請求項1ないし3に係る特許を維持する」旨の特許異議の決定がされ、この特許異議の決定は確定した。
その後平成16年4月21日に本件特許無効審判が請求され、平成16年5月31日に証拠提出書が提出され、平成16年8月23日に答弁書が提出され、両当事者より口頭審理陳述要領書が提出されるとともに、平成16年12月16日に特許庁審判廷において口頭審理が行われた。

2 本件発明
本件特許第3283404号の請求項1ないし3に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明3」という。)は、平成15年4月15日にした訂正請求により訂正された明細書(以下、「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される次のものと認める。
「【請求項1】 伸縮性を有する生地から成る競泳水着であって、該水着の少くとも一部分に、プリント処方によりストライプ状に撥水部分と非撥水部分とを設けた領域を、該領域の撥水部分を水着の表側にし、且つ撥水部分と非撥水部分からなるストライプを水着着用時に実質的に体長方向に延びるように配置して用いることを特徴とする競泳水着。
【請求項2】 プリント処方によりストライプ状に撥水部分と非撥水部分とを設けた少なくとも一個の領域を、該領域の撥水部分を水着の表側にし、且つ撥水部分と非撥水部分からなるストライプを水着着用時に体長方向に対して所望の角度で延びるように、さらに配置して用いることを特徴とする請求項1記載の競泳水着。
【請求項3】 プリント処方により全表面に撥水部分が設けられている少なくとも一個の領域を、撥水部分を水着の表側にしてさらに配置して用いることを特徴とする請求項1又は2記載の競泳水着。」

3 当事者の主張
3-1 請求人の主張
請求人は、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第9号証(但し、甲第7号証は、平成16年5月31日提出の証拠提出書に添付されたものに差し替える。)を提出し、該略以下のように、無効理由を主張している。
(1)本件発明1について
甲第1号証には、「伸縮性を有する水着として適した編地であって、その片面にプリント処方によりストライプ状に撥水部分と非撥水部分とを設けた水抜け性に優れた編地を、水着に用いること」が記載されている。
本件発明1と甲第1号証記載のものとを対比すると、甲第1号証記載のものは、「撥水部分を表側にし」との構成を有しない点、及び「撥水部分と非撥水部分とからなるストライプを水着着用時に体長方向に延びるように配置して用いる」との構成を有しない点で、本件発明1と相違する。
しかし、甲第2号証には、「撥水部を塗布、接着により形成すること」が記載され、甲第3号証には、「伸縮性を有する生地からなり、水着本体表面に、使用時の流体の移動方向と略平行となるように多数の基部条を離間配置し、基部条に微細突起を突設して微細突起の列を構成したドット列構造整流域を設けた競泳用水着」及び「衣服の表面に沿って流れる水を整流して水着の推進抵抗の軽減を図る、衣服本体の透過通水を可能にして水の停留を阻止するという効果」が記載されている。
即ち、撥水性は非通気通水性と同じであるから、甲第3号証には、「伸縮性を有する生地から成る競泳用水着であって、ストライプ状の撥水部分と非撥水部分とを設け、撥水部分を水着の表側にし、ストライプを水着着用時に体長方向に延びるよう配置して用いる競泳用水着」が記載され、「水の推進抵抗が軽減され、水の停留が阻止されるという効果」が記載されており、水中での水との表面摩擦抵抗を軽減させ、水抜け性を良くするために、甲第1号証に記載の編地を、撥水部分を表側にし、水着として適用することは、当業者が容易に想到し得ることである。
甲第1号証記載の編地の撥水部分を表側にした場合、甲第1号証記載の水抜け性の効果は変わらず、また、甲第1号証記載のものも、撥水剤をプリント加工により付着させているため、撥水部分も伸縮性があり、フィット性、運動機能性に優れ、快適な着用感が得られるという、本件発明1と同一の効果が期待できることは明らかである。
また、撥水部分と非撥水部分とからなるストライプを水着着用時に体長方向に延びるように配置して用いることは、甲第3号証記載のものから当業者が容易になし得ることである。
したがって、本件発明1は、甲第1号証〜甲第3号証記載のものに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明1についての特許は、特許法第123条1項2号に該当し、無効とすべきである。
(2)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、甲第1号証ないし甲第3号証記載のものに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明2及び3についての特許は、特許法123条1項2号に該当し、無効とすべきである。

甲第1号証:実願平5-21079号(実開平6-79786号)のCD
-ROM
甲第2号証:実公平5-38006号公報
甲第3号証:実公平6-34324号公報
甲第4号証:実願昭58-105468号(実開昭60-13913号) のマイクロフィルム
甲第5号証:「化学便覧 応用化学編II材料編 日本化学会編」、丸善 株式会社、昭和61年10月15日、1128頁、1129頁
甲第6号証:「薄膜ハンドブック 日本学術振興会薄膜第131委員会 編」第1版第3刷、株式会社オーム社、昭和63年5月30日
甲第7号証:実験成績証明書
甲第8号証:甲第7号証の実験で用いた試験材Aの生地の一部、及び該生 地を水に浸漬した状態を示す写真
甲第9号証:甲第7号証の実験で用いた試験材Bの水着
なお、請求人は、甲第4号証に関する主張は何らしていない。

3-2 被請求人の主張
被請求人は、概略、次のように主張している。
甲第1号証の編地は、水着として用いるに際し、撥水部分を裏側に配置するものであり、表側への配置を否定しており、着用者の不快感を取り除く速乾性を目的とするものである。甲第2号証の非通気通水性シート部は、シリコン等の樹脂製シートを接着等により配置したものであり、本件発明のプリント処方による撥水部分とは異なり、甲第3号証のドット列構造整流域は、微細突起ドット列を配列した樹脂製シートであり、本件発明のプリント処方による撥水部分とは異なる。
甲第7号証の実験成績証明書は、甲第2号証又は甲第3号証の正確な追試となっていないので、甲第2号証又は甲第3号証記載の水着と本件発明の水着が同等の伸縮性を有するとはいえない。
したがって、本件発明1ないし3は、甲第1号証ないし甲第3号証記載のものから当業者が容易になし得たものとはいえない。

4 当審の判断
4-1 請求人が提出した甲第1号証ないし甲第3号証の記載事項
(1)甲第1号証には、図面とともに、以下の記載がある。
「【実用新案登録請求の範囲】【請求項1】合成繊維マルチフィラメント糸条または合成繊維マルチフィラメントとポリウレタン弾性糸の混繊糸条よりなる編地の片面に面積比で40〜90%の撥水部分を有し、目付が150〜350g/m2 、伸長率がタテ、ヨコとも70%以上であることを特徴とする速乾性編地。」
「【0001】【産業上の利用分野】 本考案は速乾性編地に関し、さらに詳しくは、水着などに好適な編地に関するものである。
【0002】【従来の技術】 水着は、泳ぐ時の動き易さが最も重視されることから、伸びのよい編地を用いて身体にフィットするように縫製される。このため、泳いでプールなどから上がった後、身体と水着の間に水が滞留すると同時に、水着自体が多量の水を含むため冷えによる不快感を感じる。真夏以外の季節には特にこの傾向が顕著である。着用者に冷えによる不快感を与えない試みとして、……ポリウレタン弾性糸を含んだ編物または織物の全面に撥水加工を施した生地からなる水着が提案されている。これは、……着用時に冷えによる不快感を与えない効果を有するものである。
【0003】 しかし、この生地による水着を着用して泳いだ場合、生地が全面に撥水加工されているため、身体と水着の間に侵入した水が、水着の生地を通過して外側に抜けにくく、水が内部に滞留することになる。この結果、泳ぎ難く、かつ、疲労感を増大するという基本的な問題点を有するものである。」
「【0007】【考案が解決しようとする課題】 本考案の課題は、前述のような従来の技術からなる編地による水着の欠点を解消し、プールなどより上がってから後の身体の冷感を軽減して、着用者の不快感を取除くとともに、水着に必要とされる生地のストレッチ性、目付、厚さ、水抜け性、さらには審美性をも満足する編地を低コストで提供することである。」
「【0013】 本考案の編地においては、片面に40〜90%の撥水部分を有するものである。……水着にして着用した場合、この撥水部分を有する面が肌と接触することが好ましい。逆に、この撥水部分を有する面を水着の外側にして使用した場合は狙いとする効果に劣るものとなり好ましくないし、前述のように審美性に劣るものとなる。
【0014】 使用する撥水剤としては、シリコーン系撥水剤、フッ素系撥水剤など通常の撥水剤を用いることができる。
【0015】 編地片面に上記撥水剤を部分的に付着させる方法としては、一般的に工業化されているプリント処方を用いればよく、そのための装置としてはローラー捺染機、オートスクリーン捺染機、ハンドスクリーン捺染機などを用いることができる。撥水剤を付着した後においては後処理を通常の撥水加工処理法に準じて行えばよい。
……
【0017】編地片面の撥水部分の面積が40%に満たない場合は狙いとする速乾性に劣るものとなる。逆に、90%を超えると速乾性には優れるものの、身体と水着の間に侵入した水が抜けにくく……
【0018】 捺染機によるプリント形状はストライプ柄、円状柄、格子状柄など任意の形状とすることができる。」
「【0033】(実施例1) ……シングルトリコット機で2枚筬にて
、フロント筬にテトロン糸、バック筬にオペロン糸を配してハーフ組織を編成した。……これを基布とした。……
【0034】 この基布の片面にハンドスクリーン捺染機によってフッ素系撥水剤を基布片面の面積に対し、タテストライプ柄で40%付着するようにプリントした。……
【0035】 この編地にて水着を試作し、女性7名による着用評価を行った……」
「【0046】【考案の効果】 本考案は、衣料用編地として最適な生地目付、厚さ、ストレッチ性を保持したまま、水着として着用した時、泳いだ後の速乾性という着用快適感を有するとともに、動き易さなどの実用性と審美性にも優れており、特に水着などに適しているものである。…」

以上の記載によれば、甲第1号証には、
「伸縮性を有する編地の片面にプリント処方によりストライプ状に撥水部分を設けた速乾性編地を、該編地の撥水部分を設けた面を肌と接触する側にして使用した水着」
の発明が記載されていると認められる。

(2)甲第2号証には、図面とともに、以下の記載がある。
「〔産業上の利用分野〕本考案はスポーツ衣服の流体抵抗減少技術に係り、……水泳競技等における水との抵抗を小さくした殊に競泳用水着として好適なスポーツ用低流体抵抗衣服に関する。」(3欄18ないし24行)
「〔考案が解決しようとする課題〕…例えば女性用水着などは、襟ぐり、背中及び脇部等に大きい開口部を有しているため、泳中に該開口部から水及び空気が必然的に浸入してしまう。この水又は空気の浸入は該開口部の縁を振動させて乱流を形成する結果となり、従つて水との推進抵抗を増大することになる。また該開口から侵入した水及び空気が水着と人体との間に停溜して、移動質量を増大する欠点も有している。これらの現象が相重なつて、結果として水中での推進抵抗が大きくなり、…競技記録の短縮が非常に困難となつている。更に水の侵入は上記開口部からだけではなく、該開口部に隣接する水着の生地を透しても行われており、該開口部を身体に密着させるだけでは前記問題は解決しないことが判明した。……
本考案は上記問題に鑑みてなされたものであり、(1)スポーツ用低流体抵抗衣服の襟、脇及び背中の開口部から侵入する空気又は水の出入りを阻止する。(2)これらの開口部と隣接するスポーツ用低流体抵抗衣服の生地を透過する空気又は水の出入りを阻止する。(3)流体による衣服縁部の振動を阻止する。(4)スポーツ用低流体抵抗衣服の表面における流体流の乱れを抑制する。(5)……。ことによつて、空気又は水との抵抗を小さくし、特に競泳用として好適なスポーツ用低流体抵抗衣服を提供すること目的とするものである。」(3欄38ないし4欄28行)
「〔課題を解決するための手段〕本考案にかかるスポーツ用低流体抵抗衣服は、各種繊維生地材料又はシート生地材料により縫製した衣服の襟、脇及び背中の開口部に隣接する衣服本体に、少なくとも該開口部の一つに隣接する衣服の面を表面が平滑な非通気通水性シート部により被覆することによつてその目的を達成することができる。そして非通気通水性シート部は、生地の表面に塗布、接着、成形、圧着又は一体成形した塩化ビニル、合成ゴム、ポリウレタン及びシリコン等の伸縮性を有する樹脂シートによつて構成したものである。また、上記非通気通水性シート部は着用時に空気又は水の流れる方向と略平行となる方向に並べて成る非通気通水性シート片群によつて構成することもできる。」(4欄29ないし末行)
「〔作用〕上記構成によれば、(1)襟、脇及び背中のくり部に隣接したスポーツ用低流体抵抗衣服の生地面を非通気通水性シート又はシート片群によつて構成した非通気通水性シート部によつて面方向に覆い、生地を透しての空気又は水の流通を積極的に遮断しているため、スポーツ用低流体抵抗衣服の生地を境界とする内外圧差に伴う空気又は水の吸引又は吐出を解消し、該非通気通水性シート面での空気又は水の攪乱を少なくする。(2)非通水シート部が被着者の体形に沿つた形状を呈し、殊に襟、脇及び背中のくり部の縁で体表に密接すると共に必要に応じて被着者の皮膚との間を剥離可能に一時的に接着する密接構造になるため、開口部からの空気又は水の侵入を解消する。(3)非通気通水性シート部がその上端をスポーツ用低流体抵抗衣服本体の襟、脇及び/又は背中の開口部縁を包む形態で被覆形成されており、流体流による縁部の振動を阻止する。(4)微細な凹凸条又は微細な凹凸列によつて後方に移動する空気又は水を整流して推進抵抗の低減を図る。ようになり、上記作用を総合して泳時の推進抵抗を低減させるものである。また上記構成による付随的な作用としては、(5)非通気通水性シート部が被着者の体表に強く密着し皮膚の弛緩を制御するため、…水に対する抵抗を小さくするようなると共に、流体の移動により波打ちする体表を非通気通水性シート部によつて覆う構造になるため、乱流の形成を抑制して空気又は水との抵抗を軽減する。」(5欄24行ないし6欄13行)
「第1図乃至第3図は女子用水着の第一の実施例を示すものである。水着本体1は伸縮性を有する各種繊維生地材料またはシート生地材料により縫製してあり……上記水着本体1の表面には、……胸部非通気通水性シート部9を設け、……脇部非通気通水性シート部10を設け、……背中部非通気通水性シート部11を設けてなる。」(6欄23ないし41行)
「第4図は前記非通気通水性シート部9,10,11の他の実施例を示すものであり、非通気通水性シート部を流体の流れる方向の分割構造によつて分割した非通気通水性シート片24,24…からなる非通気通水性シート群25によつて構成したものを示す。」(7欄32ないし37行)

(3)甲第3号証には、図面とともに、以下の記載がある。
「【0001】【産業上の利用分野】本考案は水着の抵抗減少技術に係り、水泳競技中の泳中における水との抵抗、スピードスケートや自転車競技等における空気との抵抗を小さくした殊にスピード競技用衣服として好適な流体抵抗減少衣服に関するものである。」
「【0003】【考案が解決しようとする課題】しかし、殊に女性用水着では、襟ぐり,背中及び脇等に大きい開口部を有しているため、泳中に該開口部から水及び空気が侵入する。この水又は空気の侵入は該開口部の縁を振動させて乱流を形成するようになり、水との推進抵抗を増大する。また開口部から侵入した水及び空気が水着と人間との間に停留して、移動質量を増大する欠点を有している。その結果これらの現象が相重なって水中での推進抵抗が大きく……競泳種目においては競技記録の短縮が非常に困難となっている。
【0004】本考案は上記問題に鑑みてなされたものであり、水着の表面における水流の乱れを抑制整流すると共に、開口部と隣接する水着の生地を水が容易に透過し、水の停留を阻止することによって水との抵抗を小さくした、競泳用水着を含むスピード競技用として好適な流体抵抗減少衣服を提供することを目的とするものである。
【0005】【課題を解決するための手段】本考案に係る流体抵抗減少衣服は、各種繊維生地材料またはシート生地材料により縫製した水着等の衣服の襟、脇及び背中の開口部の一つまたは二つ以上に隣接する衣服本体に、使用時の流体の流れ方向と略平行になるような向きに多数の基部条を該生地内に離間配置すると共に該各基部条に対して生地の表面に突出するようになる多数の微細突起を突設して衣服本体の表面に多数の微細突起の列を構成したドット列構造整流域を設けてなることを要旨とするものであり、上記ドット列構造整流域を形成する微細突起を配列した基部条は、生地に一体成形した塩化ビニル、合成ゴム、ポリウレタン及びシリコン等の伸縮性を有する樹脂シートであることが好ましい。」
「【0007】【実施例】……水着本体1は伸縮性を有する各種繊維生地材料またはシート生地材料により縫製してあり……」
「【0009】上記各ドット列構造整流域9,10,11は、図2及び図3に拡大して示すように、塩化ビニル、合成ゴム、ポリウレタン及びシリコン等の伸縮性を有する合成樹脂を水着本体1の生地の表面に多数の基部条12,12…を接着または一体成形によって、該シート部12の表面に水の移動方向と略平行になるような向きに離間配置(列間隔L=10.0mm以下)すると共に、該各基部条12の表面に多数の微細突起13,13…を配列(高さH=0.05mm以上、ピッチP=0.1mm以上)し、基部条12,12間に離間通水部14を構成してなる。」
「【0010】上記構成によれば、着用した状態で泳ぐとき、胸部斜向面(矢印A)と腰椎部斜向面(矢印C)はそれぞれドット列構造整流域9,11が水の流動方向に対して傾斜対向した状態になっており、該部に接した水は基部条12,12…に設けた微細突起13,13…の列に沿って後方へ滑動移動する。また該部(矢印A,C)では、基部条12,12…間が離間通水部14,14…になっているため、水着本体1を透しての水の侵入または排出を積極的にさせることができ、ボトム部からの水の排出もあって水着本体1を泳者の身体表面に密着させるように作用する。また脇部傾斜面(矢印B)に設けた脇部ドット列構造整流域10は、水の流動方向に対して傾斜配光した状態になっているが、基部条12,12…の弾性によって該部水着本体1の伸びを阻止し、縁の煽り振動を抑制するように作動する。」
「【0011】この結果、該部に当たった水は水着本体1の表面を微細突起13,13…の列に沿って後方へ滑り移動し、水着本体1を泳者の身体表面に密着させることができる。そしてこれらのドット列構造整流域9,10,11の流水の透過通水と整流作用とによって、水中における推進抵抗力を減少させることが可能になる。即ち、該ドット列構造整流域9,10,11の構成では、水着本体1の表面に水の移動方向と略平行になる多数の微細突起13,13…からなる突起列を構成しているため、水を該突起列方向に流し、且つ異方向の乱流を消失するため、整流効果を発揮して後方での乱流を抑制することができる。」

4-2 本件発明1について
4-2-1 対比
本件発明1と甲第1号証記載の発明とを対比すると、甲第1号証記載の発明におけるストライプ状に設けられた撥水部分の間の部分は、編地そのものであり、非撥水部分であることは明らかであり、さらに、甲第1号証記載の発明が、水着の少くとも一部分に、プリント処方によりストライプ状に撥水部分と非撥水部分とを設けた領域が配置されていることも明らかであるから、両者は、
「伸縮性を有する生地から成る水着であって、該水着の少くとも一部分に、プリント処方によりストライプ状に撥水部分と非撥水部分とを設けた領域を配置して用いる水着」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1
本件発明1は、競泳水着であるのに対し、甲第1号証記載の発明は、水着の用途が競泳と特定されていない点。
相違点2
プリント処方によりストライプ状に撥水部分と非撥水部分とを設けた領域を、本件発明1は、該領域の撥水部分を水着の表側にし、且つ撥水部分と非撥水部分からなるストライプを水着着用時に実質的に体長方向に延びるように配置するのに対し、甲第1号証記載の発明は、撥水部分を肌と接触する側、すなわち水着の裏側にして配置している点。

4-2-2 相違点の検討
(1)まず、上記相違点2について検討する。
ア 本件明細書段落【0006】の「本発明の課題は、前述のような従来の技術からなる水着の問題点を解消して、競泳水着の水中での表面摩擦抵抗を小さくし、着用感を損なわず、且つ水着と競技者の体の間に水が滞留しにくい水抜け性の改良された競泳水着を提供することにある。」との記載、同段落【0009】の「【発明の実施の形態】本発明に係る競泳水着では、……体長方向に延びるストライプ状に撥水部分及び非撥水部分を設けることにより、撥水剤の有する水に濡れた時に水をはじく水切り性を利用して水着の水中での表面摩擦抵抗の低減に直接寄与せしめると共に、競泳時における生地表面からの水の侵入を減らし、また水着内に侵入した水を水着と人体との間に滞留することなく非撥水部分より水着の外側に排出させるのに役立つ。」との記載、同段落【0055】の「【発明の効果】本発明に係る競泳水着は、撥水部分と非撥水部分とを水着表面に設けたことにより、水との摩擦によって生ずる表面摩擦抵抗の削減とともに、競泳時における生地表面からの水の侵入が減少し、また、侵入した水は、非撥水部分よりも水着の外側へ速やかに抜ける。そのため、水着の全面に撥水加工を施した水着のように膨らんだり、はためいたりすることもなく、抵抗削減効果を生む結果となる。」との記載によれば、本件発明1は、撥水剤の有する水に濡れた時に水をはじく水切り性を利用して水着の水中での表面摩擦抵抗を低減させ、競泳時における生地表面からの水の侵入を減らし、非撥水部分によって、水着内に侵入した水を水着と人体との間に滞留することなく水着の外側に排出させるというものである。
一方、甲第1号証記載の発明は、泳いでプールなどから上がった後、身体と水着の間に水が滞留すると同時に、水着自体が多量の水を含むため冷えによる不快感を感じるという課題を解決するために(段落【0007】)、速乾性編地の撥水部分を肌と接触する側、すなわち水着の裏側に配置し、撥水部分の速乾性により、泳いだ後の身体の冷感を軽減し、着用者の不快適を取り除くものであり、撥水部分は、本件発明1とは異なり、競泳時の水着の表面摩擦抵抗の低減に何ら寄与していないといえる。そもそも、甲第1号証記載の発明は、撥水部分を表側に配置すると、上記課題を解決できないものであり、むしろ排除しているといえる。加えて、甲第1号証には、速乾性編地を水着に使用する場合に、撥水部分を表側にして使用することを示唆する記載は何らない。

イ そこで、甲第2号証について検討すると、甲第2号証には、低流体抵抗競泳用水着に関する発明が記載されており、襟、脇及び背中の開口部の少なくとも一つに隣接する伸縮性生地から成る水着本体の表面を、表面が平滑な非通気通水性シート部により被覆し、該非通気通水性シート部を水の流れる方向と略平行となる方向に並べて成る非通気通水性シート片群によつて構成するとともに、非通気通水性シート部を生地の表面に塗布、接着、成形、圧着又は一体成形した塩化ビニル、合成ゴム、ポリウレタン及びシリコン等の伸縮性を有する樹脂シートによって構成すること、が記載されている。
しかし、甲第2号証記載の発明は、開口部に隣接する水着表面を非通気通水性シート部により面方向に被覆することにより、生地を透かしての水の流通を積極的に遮断して非通気通水性シート面での水の攪乱を少なくし、開口部からの水の出入りを阻止し、開口縁部の振動を阻止し、これらによって泳時の推進抵抗を低減させるものである。つまり、甲第2号証記載の非通気通水性シート部は、生地を透かしての水の流通を積極的に遮断するものであり、一例として、シリコン等の伸縮性を有する樹脂シートによって構成することが示されているとしても、本件発明1の撥水部分のように、水に濡れた時に水をはじく水切り性を利用して水着の水中での表面摩擦抵抗を低減させるというものとは、水中での水に対する作用が異なるものである。しかも、甲第2号証記載の非通気通水性シート部は、非通気通水性シート片間に積極的に隙間を設けることの記載はなく、また、隙間を設けることは、水の流通を遮断することを妨げることになるため、非通気通水性シート片間に隙間が形成されているとは認められない。
したがって、当業者が甲第2号証記載の発明に接したとしても、甲第1号証記載の発明における撥水部分を表側にするという着想は得られないし、また、甲第1号証記載の速乾性編地を、甲第2号証記載の発明に適用するという着想は得られない。

ウ さらに、甲第3号証について検討すると、甲第3号証には、流体抵抗減少競泳用水着に関する発明が記載されており、襟、脇及び背中の開口部の一つまたは二つ以上に隣接する伸縮性を有する生地から成る水着本体に、使用時の流体の流れ方向と略平行になるような向きに多数の基部条を該生地内に離間配置し、基部条間に離間通水部を構成すると共に該各基部条に多数の微細突起を突設して水着本体の表面に多数の微細突起の列を構成したドット列構造整流域を設け、基部条は、生地に接着又は一体成形した塩化ビニル、合成ゴム、ポリウレタン及びシリコン等の伸縮性を有する樹脂シートであることが記載されている。
しかし、甲第3号証記載の発明のドット列構造整流域は、離間通水部により水の侵入または排出を積極的にさせ、水着本体を泳者の身体表面に密着させるように作用するのみならず、水が基部条に設けられた微細突起の列に沿って後方へ滑動移動し、異方向の乱流を消失させることにより、整流効果を発揮し後方での乱流を抑制するというものであり、基部条の一例として、シリコン等の伸縮性を有する樹脂シートによって構成されることが示され、基部条と離間通水部がストライプ状に配置(図1、図2参照。)されているとしても、本件発明1の、プリント処方によりストライプ状に撥水部分と非撥水部分とを設けた領域のように、水に濡れた時に水をはじく水切り性を利用して水着の水中での表面摩擦抵抗を低減させるというものとは、水中での水に対する作用が異なるものである。
なお、 審判請求人は、審判請求書9頁2行ないし10頁13行において、本件発明1のプリント処方により設けた撥水部分の高さは、甲第3号証の撥水部分(基部条に設けられた微細突起の列)の高さと同一であり、本件発明1の撥水部分も甲第3号証の撥水部分(基部条に設けられた微細突起の列)と同様に、水着の表面から突出しており、整流効果に基づく同一の作用効果が期待される旨、主張しているが、本件発明1のプリント処方により設けた撥水部分と甲第3号証の基部条に設けられた微細突起の列は、上記のように、そもそも水中での水に対する作用が異なるものであるので、請求人のこの主張は採用しない。
したがって、当業者が甲第3号証記載の発明に接したとしても、甲第1号証記載の発明における撥水部分を表側にして、本件発明1のようにするという着想は得られないし、また、甲第1号証記載の速乾性編地を、甲第3号証記載の発明に適用して本件発明1のようにするという着想は得られない。

エ 以上のとおり、甲第1号証記載の発明は、そもそも、撥水部分を表側に配置すると、その課題を解決できないものであり、むしろ表側に配置することを排除しているといえる。そして、甲第2号証及び甲第3号証を検討しても、甲第2号証又は甲第3号証記載の発明に接した当業者が、甲第1号証記載の発明における撥水部分を表側にし本件発明1のようにするという着想を得ることができたということはできないし、また、甲第1号証記載の速乾性編地を、甲第2号証又は甲第3号証記載の発明に適用し本件発明1のようにするという着想を得ることができたということもできない。

(2)したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証ないし甲第3号証記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

4-3 本件発明2及3びについて
本件発明2及び3は、本件発明1を引用して、それぞれさらに特定事項を付加したものであるところ、本件発明1が、上記のように、甲第1号証ないし甲第3号証記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないので、本件発明2及び3も、同様の理由により、甲第1号証ないし甲第3号証記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

5 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明1ないし3についての特許を無効とすることはできない。
審判費用は、特許法169条2項の規定において準用する民事訴訟法61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-04-11 
結審通知日 2005-04-14 
審決日 2005-05-09 
出願番号 特願平7-170912
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A41D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 水野 治彦  
特許庁審判長 鈴木 公子
特許庁審判官 山崎 豊
溝渕 良一
登録日 2002-03-01 
登録番号 特許第3283404号(P3283404)
発明の名称 競泳水着  
代理人 西山 雅也  
代理人 吉田 維夫  
代理人 古賀 哲次  
代理人 吉田 維夫  
代理人 石田 敬  
代理人 石田 敬  
代理人 青木 篤  
代理人 古賀 哲次  
代理人 西山 雅也  
代理人 畠山 隆  
代理人 青木 篤  
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