ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部無効 発明同一 無効としない H04L 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備 無効としない H04L 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 無効としない H04L |
---|---|
管理番号 | 1118812 |
審判番号 | 無効2004-35119 |
総通号数 | 68 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1998-12-08 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2004-03-02 |
確定日 | 2005-06-22 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3436471号「電話通信方法及び電話通信システム」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
【1】手続の経緯 本件特許第3436471号に係る出願は、平成9年5月26日の特許出願(特願平9-135503号)であって、平成15年6月6日に特許の設定登録(請求項の数6)がなされたものである。 これに対して、平成16年3月2日に請求人宮口庄司より、本件特許の請求項1ないし6に係る発明についての特許を無効とする、との審決を求める本件審判の請求がなされ、平成16年5月24日付けで被請求人(特許権者)沖電気工業株式会社より、本件審判の請求は成り立たない、との審決を求める答弁書が提出され、また平成16年7月30日付けで請求人より答弁書に対する弁駁書が提出されたものである。 【2】本件特許発明 本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下、「本件特許発明1ないし6」という。)は、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】 a1. 第1及び第2のチャネルをもつ制御用回線と音声用回線とを有するインターネットと、 a2. 前記インターネットにそれぞれ接続されて、前記インターネットのプロトコルに対応したインターネットプロトコルアドレスがそれぞれ割り付けられており、前記インターネットプロトコルアドレスに基づき、前記インターネットを介して相互に通信を行う複数のゲートウエイ装置と、 a3. 前記複数のゲートウエイ装置に収容されて、電話番号がそれぞれ割り付けられており、前記ゲートウエイ装置を介して前記電話番号に基づき相互に通信を行う複数の電話端末と、 a4. 前記制御用回線の第1のチャネルを介して前記複数のゲートウエイ装置に接続され、前記複数のゲートウエイ装置の名前、前記名前に対応するインターネットプロトコルアドレス、及び前記複数のゲートウエイ装置にそれぞれ割り付けられた前記電話番号中の局番を管理する名前サーバと、 を備えた電話通信システムにおける電話通信方法であって、 a5. 前記複数のゲートウエイ装置の内の第1のゲートウエイ装置に収容されている第1の電話端末と第2のゲートウエイ装置に収容されている第2の電話端末との間において、前記第1の電話端末から前記第2の電話端末に対する接続要求があった時、前記第1の電話端末の発呼に基づき前記第1のゲートウエイ装置が、前記制御用回線の第1のチャネルを介して前記名前サーバへアクセスし、前記第2のゲートウエイ装置の局番に対応した名前を用いて前記第2のゲートウエイ装置のインターネットプロトコルアドレスを問い合わせる相手先問い合わせ処理と、 a6. 前記名前サーバが、前記第2のゲートウエイ装置のインターネットプロトコルアドレスを前記第1のチャネルを介して前記第1のゲートウエイ装置へ応答する問い合わせ応答処理と、 a7. 前記第1のゲートウエイ装置が自装置に接続されている前記音声用回線のインターネットプロトコルアドレスを選択し、且つ前記制御用回線の第2のチャネルを介して前記第2のゲートウエイ装置に対して呼接続要求を行う呼接続要求処理と、 a8. 前記第2のゲートウエイ装置が前記第2の電話端末が使用中か否かを判定し、不使用であれば前記音声用回線のインターネットプロトコルアドレスを選択し、前記選択したインターネットプロトコルアドレスを前記第1のゲートウエイ装置に返送して前記第1の電話端末と前記第2の電話端末とを接続する接続応答処理と、 a9. 前記第1のゲートウエイ装置が前記第1の電話端末から送出された音声信号を前記音声用回線を介して前記第2のゲートウエイ装置へ伝送し、前記第2のゲートウエイ装置が前記伝送された音声信号を前記第2の電話端末へ送出する通話処理と、 を行うことを特徴とする電話通信方法。 【請求項2】 b1. 第1及び第2のチャネルをもつ制御用回線及び音声用回線を有するインターネットと、 b2. 前記インターネットにそれぞれ接続されて、前記インターネットのプロトコルに対応したインターネットプロトコルアドレスと電話番号中の局番とがそれぞれ割り付けられており、前記インターネットプロトコルアドレスに基づき、前記インターネットを介して相互に通信を行う複数のゲートウエイ装置と、 b3. 前記複数のゲートウエイ装置に収容されて、前記電話番号中の局番がそれぞれ割り付けられており、前記ゲートウエイ装置を介して前記局番に基づき相互に通信を行う複数の交換機と、 b4. 前記複数の交換機に収容されて、前記電話番号がそれぞれ割り付けられており、前記交換機及び前記ゲートウエイ装置を介して前記電話番号に基づき相互に通信を行う複数の電話端末と、 b5. 前記制御用回線の第1のチャネルを介して前記複数のゲートウエイ装置に接続され、前記複数の交換機にそれぞれ割り付けられた前記局番、前記複数の交換機の名前、及び前記複数の交換機が接続されている前記複数のゲートウエイ装置のインターネットプロトコルアドレスを管理する名前サーバと、 b6. 前記複数のゲートウエイ装置に内蔵され、収容対象が前記電話端末か又は前記交換機かを示す収容区分データを保持する収容区分フィールドと、前記複数のゲートウエイ装置にそれぞれ割り付けられた前記局番及び前記複数の交換機にそれぞれ割り付けられた前記局番を保持する局番フィールドと、を有する加入者データをそれぞれ管理する複数の加入者データテーブルと、 を備えた電話通信システムにおける電話通信方法であって、 b7. 前記複数のゲートウエイ装置における第1のゲートウエイ装置内の第1の交換機に接続された第1の電話端末と第2のゲートウエイ装置内の第2の交換機に接続された第2の電話端末との間において、前記第1の電話端末から前記第2の電話端末に対する接続要求があった時、前記第1の電話端末及び前記第1の交換機の発呼に基づき前記第1のゲートウエイ装置が、前記制御用回線の第1のチャネルを介して前記名前サーバへアクセスし、前記第2の交換機の局番に対応した名前を用いて前記第2のゲートウエイ装置のインターネットプロトコルアドレスを問い合わせる相手先問い合わせ処理と、 b8. 前記名前サーバが、前記第2のゲートウエイ装置のインターネットプロトコルアドレスを前記第1のチャネルを介して前記第1のゲートウエイ装置へ応答する問い合わせ応答処理と、 b9. 前記第1のゲートウエイ装置が自装置に接続されている前記音声用回線のインターネットプロトコルアドレスを選択し、且つ前記制御用回線の第2のチャネルを介して前記第2のゲートウエイ装置に対して呼接続要求を行う呼接続要求処理と、 b10. 前記第2のゲートウエイ装置が前記加入者データの収容区分フィールドを検索し、前記収容区分フィールドのデータが交換機を示す場合、前記第2の交換機の局番と前記加入者データ中の局番とが一致する交換機の回線を探す探索処理と、 b11. 前記第2のゲートウエイ装置が着信先の交換機の回線を検出した後、前記検出した交換機の回線が使用中か否かを判定し、不使用であれば前記音声用回線のインターネットプロトコルアドレスを選択し、前記選択したインターネットプロトコルアドレスを前記第1のゲートウエイ装置に返送して前記第1の交換機と前記第2の交換機とを接続し、且つ前記第1の電話端末と前記第2の電話端末とを接続する接続応答処理と、 b12. 前記第1のゲートウエイ装置が前記第1の電話端末から前記第1の交換機を経て送出された音声信号を前記音声用回線を介して前記第2のゲートウエイ装置へ伝送し、前記ゲートウエイ装置が前記伝送された音声信号を前記第2の交換機を介して前記第2の電話端末へ送出する通話処理と、 を行うことを特徴とする電話通信方法。 【請求項3】 c1. 前記第1のチャネルは、インターネットのユーザ・データグラム・プロトコルチャネルで構成し、 c2. 前記第2のチャネルは、インターネットのトランスミッション・コントロール・プロトコルチャネルで構成したことを特徴とする請求項1又は2記載の電話通信方法。 【請求項4】 d1. 第1及び第2のチャネルをもつ制御用回線と音声用回線とを有するインターネットと、 d2. 前記インターネットにそれぞれ接続されて、前記インターネットのプロトコルに対応したインターネットプロトコルアドレスがそれぞれ割り付けられており、前記インターネットプロトコルアドレスに基づき、前記インターネットを介して相互に通信を行う複数のゲートウエイ装置と、 d3. 前記複数のゲートウエイ装置に収容されて、電話番号がそれぞれ割り付けられており、前記ゲートウエイ装置を介して前記電話番号に基づき相互に通信を行う複数の電話端末と、 d4. 前記制御用回線の第1のチャネルを介して前記複数のゲートウエイ装置に接続され、前記複数のゲートウエイ装置の名前、前記名前に対応するインターネットプロトコルアドレス、及び前記複数のゲートウエイ装置にそれぞれ割り付けられた前記電話番号中の局番を管理する名前サーバと、 を備えた電話通信システムであって、 d5. 前記第1のゲートウエイ装置は、 d5-1. 前記複数のゲートウエイ装置の内の第1のゲートウエイ装置に収容されている第1の電話端末と第2のゲートウエイ装置に収容されている第2の電話端末との間において、前記第1の電話端末から前記第2の電話端末に対する接続要求があった時、前記第1の電話端末の発呼に基づき、前記制御用回線の第1のチャネルを介して前記名前サーバへアクセスし、前記第2のゲートウエイ装置の局番に対応した名前を用いて前記第2のゲートウエイ装置のインターネットプロトコルアドレスを問い合わせる相手先問い合わせ処理と、 d5-2. 自装置に接続されている前記音声用回線のインターネットプロトコルアドレスを選択し、且つ前記制御用回線の第2のチャネルを介して前記第2のゲートウエイ装置に対して呼接続要求を行う呼接続要求処理と、 d5-3. 前記第1の電話端末から送出された音声信号を前記音声用回線を介して前記第2のゲートウエイ装置へ伝送する通話処理とを行い、 d6. 前記名前サーバは、 前記第2のゲートウエイ装置のインターネットプロトコルアドレスを前記第1のチャネルを介して前記第1のゲートウエイ装置へ応答する問い合わせ応答処理を行い、 d7. 前記第2のゲートウエイ装置は、 d7-1. 前記第2の電話端末が使用中か否かを判定し、不使用であれば前記音声用回線のインターネットプロトコルアドレスを選択し、前記選択したインターネットプロトコルアドレスを前記第1のゲートウエイ装置に返送して前記第1の電話端末と前記第2の電話端末とを接続させる接続応答処理と、 d7-2. 前記伝送された音声信号を前記第2の電話端末へ送出する通話処理とを行う、 構成にしたことを特徴とする電話通信システム。 【請求項5】 e1. 第1及び第2のチャネルをもつ制御用回線及び音声用回線を有するインターネットと、 e2. 前記インターネットにそれぞれ接続されて、前記インターネットのプロトコルに対応したインターネットプロトコルアドレスと電話番号中の局番とがそれぞれ割り付けられており、前記インターネットプロトコルアドレスに基づき、前記インターネットを介して相互に通信を行う複数のゲートウエイ装置と、 e3. 前記複数のゲートウエイ装置に収容されて、前記電話番号中の局番がそれぞれ割り付けられており、前記ゲートウエイ装置を介して前記局番に基づき相互に通信を行う複数の交換機と、 e4. 前記複数の交換機に収容されて、前記電話番号がそれぞれ割り付けられており、前記交換機及び前記ゲートウエイ装置を介して前記電話番号に基づき相互に通信を行う複数の電話端末と、 e5. 前記制御用回線の第1のチャネルを介して前記複数のゲートウエイ装置に接続され、前記複数の交換機にそれぞれ割り付けられた前記局番、前記複数の交換機の名前、及び前記複数の交換機が接続されている前記複数のゲートウエイ装置のインターネットプロトコルアドレスを管理する名前サーバと、 e6. 前記複数のゲートウエイ装置に内蔵され、収容対象が前記電話端末か又は前記交換機かを示す収容区分データを保持する収容区分フィールドと、前記複数のゲートウエイ装置にそれぞれ割り付けられた前記局番及び前記複数の交換機にそれぞれ割り付けられた前記局番を保持する局番フィールドと、を有する加入者データをそれぞれ管理する複数の加入者データテーブルと、 を備えた電話通信システムであって、 e7. 前記第1のゲートウエイ装置は、 e7-1. 前記複数のゲートウエイ装置における第1のゲートウエイ装置内の第1の交換機に接続された第1の電話端末と第2のゲートウエイ装置内の第2の交換機に接続された第2の電話端末との間において、前記第1の電話端末から前記第2の電話端末に対する接続要求があった時、前記第1の電話端末及び前記第1の交換機の発呼に基づき、前記制御用回線の第1のチャネルを介して前記名前サーバへアクセスし、前記第2の交換機の局番に対応した名前を用いて前記第2のゲートウエイ装置のインターネットプロトコルアドレスを問い合わせる相手先問い合わせ処理と、 e7-2. 自装置に接続されている前記音声用回線のインターネットプロトコルアドレスを選択し、且つ前記制御用回線の第2のチャネルを介して前記第2のゲートウエイ装置に対して呼接続要求を行う呼接続要求処理と、 e7-3. 前記第1の電話端末から前記第1の交換機を経て送出された音声信号を前記音声用回線を介して前記第2のゲートウエイ装置へ伝送する通話処理とを行い、 e8. 前記名前サーバは、 前記第2のゲートウエイ装置のインターネットプロトコルアドレスを前記第1のチャネルを介して前記第1のゲートウエイ装置へ応答する問い合わせ応答処理を行い、 e9. 前記第2のゲートウエイ装置は、 e9-1. 前記加入者データの収容区分フィールドを検索し、前記収容区分フィールドのデータが交換機を示す場合、前記第2の交換機の局番と前記加入者データ中の局番とが一致する交換機の回線を探す探索処理と、 e9-2. 着信先の交換機の回線を検出した後、前記検出した交換機の回線が使用中か否かを判定し、不使用であれば前記音声用回線のインターネットプロトコルアドレスを選択し、前記選択したインターネットプロトコルアドレスを前記第1のゲートウエイ装置に返送して前記第1の交換機と前記第2の交換機とを接続させ、且つ前記第1の電話端末と前記第2の電話端末とを接続させる接続応答処理と、 e9-3. 前記伝送された音声信号を前記第2の交換機を介して前記第2の電話端末へ送出する通話処理とを行う、 構成にしたことを特徴とする電話通信システム。 【請求項6】 f1. 前記第1のチャネルは、インターネットのユーザ・データグラム・プロトコルチャネルで構成し、 f2. 前記第2のチャネルは、インターネットのトランスミッション・コントロール・プロトコルチャネルで構成したことを特徴とする請求項4又は5記載の電話通信システム。」 なお、請求人及び被請求人の主張を検討する際の便宜上、各請求項の発明を特定するための事項毎に、符号「a1.〜f2.」を付した。 【3】請求人の主張 (3-1)特許無効理由の要点(審判請求書2頁の「7.(2)特許無効理由の要点」の項参照) 請求人は、以下のような証拠方法を提出するとともに、特許無効理由の要点として、以下のとおり主張している。 本件特許第3436471号(以下、単に「本件特許」とする)は平成9(1997)年5月26日に出願されたものであり、その出願前の平成8年12月6日付け出願の特願平8-326736…をそれぞれ優先権として平成9(1997)年12月5日に出願され、本件特許出願後の平成11年3月30日に出願公開された特開平11-88438号公報(甲第1号証)に記載された発明と同一であると共に、その発明者及び出願人が相違しているので、特許法第41条第3項に基づく同法第29条の2の規定により特許を受けることができない発明であり、また、本件特許の発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載には不備があり、特許法第36条第4項及び第6項に規定された要件を具備していない。更に、本件特許の出願前の平成9年2月13日付け出願の特願平9-28659を優先権として平成10(1998)年2月13日に出願され、本件特許出願後の平成10年10月27日に出願公開された特開平10-290264号公報(甲第3号証)に記載された発明と同一であると共に、その発明者及び出願人が相違しているので、特許法第41条第3項に基づく同法第29条の2の規定により特許を受けることができない発明である。 よって、本件特許は、特許法第123条第1項第2号及び第4号の規定により特許無効とされるべきものである。 <証拠方法> ・甲第1号証…特願平9-350224号(特開平11-88438号公報) ・甲第2号証…特願平8-326736号 ・甲第3号証…特願平10-31535号(特許第3155240号公報) (3-2)具体的理由の概要 (3-2-1)審判請求書における主張の概要 請求人は、審判請求書において、以下のとおり主張している。 (i)本件特許を無効にすべき第1の理由 (i-1)証拠の説明(審判請求書11頁〜12頁の「3-4-1.甲第1号証と甲第2号証の関係」の項参照) 甲第1号証(特開平11-88438号公報)は本件特許出願(平成9年5月26日)後の平成9年12月5日に出願され、平成11年3月30日に出願公開されたものであるが、甲第1号証は、平成8年12月6日付け出願の特願平8-326736(甲第2号証)…を優先権として出願されたものである。 甲第1号証は、甲第2号証を優先権の1つとして出願されており、甲第2号証の出願日は平成8年12月6日であり、本件特許の出願日である平成9年5月26日よりも先になっている。特許法第41条第3項はかかる優先権の出願に関する出願公開の取扱いを規定しており、甲第2号証については平成8年12月6日に出願され、甲第1号証が公開された平成11年3月30日に出願公開されたものとみなされ、これに従って特許法第29条の2の規定が適用される。即ち、甲第2号証については、平成8年12月6日に出願されて平成11年3月30日に出願公開されたものとして特許法第29条の2の規定が適用される。 (i-2)本件特許の目的と甲第2号証との関係(審判請求書15頁〜16頁の「3-5-1.本件特許の目的と甲第2号証との関係」の項参照) 本件特許の目的は、IPアドレスの不足を解消すると共に、サーバに登録されていない相手端末に対しても電話通信できるようにすることにある。 これに対し、甲第2号証も電話、インターネット等の情報通信機器を相互に公衆回線等を介して統合的に接続した統合情報通信システムであり、LANをインターネットに接続する際に、LANユーザのIPアドレスをインターネット用のIPアドレスに自動的に置換することによりIPアドレスの不足を解消しており、相手端末に対し発呼する時に電話番号を入力することで相手端末の指定を行うようにしているので、サーバに登録されていない相手端末に対しても通話が可能である。このように、本件特許と甲第2号証の目的は概念的に共通している。 (i-3)本件特許発明1乃至6と甲第2号証との関係(審判請求書17頁の「3-5-3.本件特許発明1乃至6と甲第2号証との関係」の項参照) 本件特許発明1及び4は、カテゴリーがそれぞれ方法及びシステムで相違しているが内容は実質的に同一であり、本件特許明細書(本件特許公報)に記載の実施例1に対応している。実施例1は甲第2号証の実施例10と構成及び作用効果が同一であり、本件特許発明1及び4の内容は甲第2号証に記載の技術と同一である。 また、本件特許発明2及び5は、カテゴリーがそれぞれ方法及びシステムで相違しているが内容は実質的に同一であり、本件特許公報に記載の実施例2に対応している。実施例2は甲第2号証の実施例10と構成及び作用効果が同一であり、本件特許発明2及び5の内容は甲第2号証に記載の技術と同一である。 更に、本件特許発明3及び6は、カテゴリーがそれぞれ方法及びシステムで相違しているが内容は実質的に同一であり、本件特許発明3は本件特許発明1又は2に従属すると共に、チャネルをインターネットのTCP又はUDPにすることは本件特許の出願当時周知の技術であり、本件特許発明6は本件特許発明4又は5に従属すると共に、チャネルをインターネットのTCP又はUDPにすることは本件特許の出願当時周知の技術であった。よって、本件特許発明3及び6は、甲第2号証に記述されている発明と実質的に同一である。 (ii)本件特許を無効にすべき第2の理由(審判請求書21頁の「(5)-7: 結び」の項参照) 本件特許では、音声伝送用回線としてのUDPチャネルの決め方、即ち2つのIPアドレスと2つのポート番号の決め方が開示されていないので、UDPチャネルを使用して電話音声を伝送することが出来ないことになる。つまり、本件特許の明細書の記述のみでは、発明のポイントであるインターネットを介した電話通信をどのように実施するかが不明であり、特許法第36条第4項及び第6項の要件を具備していない。 (iii)本件特許を無効にすべき第3の理由(審判請求書24頁〜25頁の「(6)-3: 結び」の項参照) 本件特許の請求項1乃至6に係る発明の要旨は全て甲第3号証に開示された技術と同一であり、その電話呼出しの動作も同一であり、発明者及び出願人が異なるので、本件特許は、特許法第41条第3項に基づく同法第29条の2の規定により特許を受けることができない発明である。 (3-2-2)弁駁書における主張の概要 また、請求人は、弁駁書において、答弁書に対する反論として、概要、以下のとおり主張している。(なお、本件特許発明4〜6は、本件特許発明1〜3とカテゴリが異なるのみで、実質的に同一であるから、本件特許発明4〜6のみに関する部分は省略した。) (i)本件特許を無効にすべき第1の理由について (i-1)答弁書の「(C2)本件特許発明1と甲第2号証に記載された発明との比較」に対して(弁駁書11頁〜13頁の「(2-1)発明の比較“(C2)”に対する弁駁」の項参照) (i-1-1)本件特許における「局番」について(弁駁書11頁16行〜33行) 本件特許の図1乃至図9と、第1の実施形態及び第2の実施形態の説明から明らかなように、本件特許の電話通信システムには公衆電話網が接続されておらず、更に本件特許に記載の「局番」と公衆電話網における「局番」とを関連付ける技術的記述が存在しない。従って、本件特許に記載の「局番」は、公衆電話網における「局番」ではないと解される。…また…本件特許において、「発呼する電話端末の接続要求に伴う相手先電話端末が接続されているGWのIPアドレスの問合わせ処理」は全てホスト名で行われており、局番は全く用いられていない。つまり、本件特許における「局番」が、本件特許の特徴であることを示す根拠がない。 (i-1-2)本件特許発明1の構成要件a4について(弁駁書12頁3行〜12行) 構成要件a4のDNSサーバが管理する局番と名前或いはホスト名はいずれも同一の機能であり、電話端末が接続されているGWに付与され、GWを経由して電話端末間で通信に用いられるIPアドレスを識別する識別子である。 甲第2号証のアクセス制御装置1010-1内の変換表1013-1に記載の「受信者電話番号」も実施例10に記載のように、電話機が接続されているアクセス制御装置に付与され、アクセス制御装置を経由して電話端末間で通信に用いられるIPアドレスを識別する識別子である。従って、本件特許発明1の構成要件a4のDNSサーバが管理する局番と、変換表1013-1が管理する受信者電話番号とは同一のものである。 (i-1-3)本件特許発明1の構成要件a5について(弁駁書12頁25行〜13頁6行) 本件特許に記載の「局番」は、公衆電話網における「局番」ではなく…相手先電話端末が接続されているGWに付与されている電話通信を行うためのIPアドレスを識別する識別子である。甲第2号証の…段落[0120]には「…アクセス制御装置1010-2の電話回線変換部1030-2に接続されたユーザ1060-2との間で電話回線のインタフェースで通信を行う…」と記述され、段落[0122]には「ユーザ1060は電話番号“06-5555-9876”を送出する。」(発呼を行う)と記述され、更に段落[0122]には「電話回線変換部1030-1は、受信した電話番号を…電話番号を受け取った処理装置1012-1は、変換表1013-1の…を参照し、…着信電話番号“06-5555-9876”から着信ICSネットワークアドレス“5521”を読み取る」(相手先のGWに相当する相手先のアクセス制御装置に付与された電話通信を行うためのIPアドレスを特定する)と記載されている通り、本件特許発明1の構成要件a5は甲第2号証の実施例10と同一である。 (i-2)答弁書の「(C3)本件特許発明2と甲第2号証に記載された発明との比較」に対して(弁駁書13頁〜15頁の「(2-2)発明の比較“(C3)”に対する弁駁」の項参照) (i-2-1)本件特許発明2の構成要件b5について(弁駁書13頁末行〜14頁24行) 本件特許の第2の実施形態に記載の局番はホスト名と同義である。本件特許の段落[0016]〜[0020]に記載があるように、「ホスト名」は、電話端末間でインターネットに接続するためのゲートウェイ装置(GW)及びインターネットを介して電話通信を行うときに、相手先電話端末が収容されている相手先のゲートウェイ装置(GW)に割り付けられているIPアドレスを識別する識別子である。 甲第2号証の…実施例10の段落[0120]には「アクセス制御装置1010-2の電話回線変換部1030-2に接続されたユーザ1060-2との間で電話回線のインタフェースで通信を行う…」と記述され、段落[0122]には「ユーザ1060は電話番号“06-5555-9876”を送出する。」(発呼を行う)と記述され、更に段落[0122]に「電話回線変換部1030-1は、受信した電話番号を…電話番号の情報を受け取った処理装置1012-1は、変換表1013-1の…を参照し、…着信電話番号“06-5555-9876”から着信ICSネットワークアドレス“5521”を読み取る」(相手先のGWに相当する相手先のアクセス制御装置に付与された電話通信を行うためのIPアドレスを特定する)と記載されているように、甲第2号証の実施例10に記載の着信電話番号は、電話端末間でインターネットに接続するためのゲートウェイ装置(アクセス制御装置)及びインターネットを介して電話通信を行うときに、相手先電話端末が収容されている相手先のゲートウェイ装置(アクセス制御装置)に割り付けられているIPアドレスを識別する識別子である。 従って、本件特許発明2の構成要件b5のDNSサーバは、甲第2号証の実施例10に記載の変換表1013-1と同一の情報を保有しており、同一のものである。 (i-2-2)本件特許発明2の構成要件b7について(弁駁書14頁31行〜15頁17行) 本件特許における「局番」は「ホスト名」と同義である。本件特許の段落[0016]〜[0020]に記載があるように、ホスト名は、電話端末間でインターネットに接続するためのゲートウェイ装置(GW)及びインターネットを介して電話通信を行うときに、相手先電話端末が収容されている相手先のゲートウェイ装置(GW)に割り付けられているIPアドレスを識別する識別子である。 甲第2号証の…実施例10の段落[0120]には「アクセス制御装置1010-2の電話回線変換部1030-2に接続されたユーザ1060-2との間で電話回線のインタフェースで通信を行う…」と記述され、更に段落[0122]には「ユーザ1060は電話番号“06-5555-9876”を送出する。」(発呼を行う)と記述され、段落[0122]に「電話回線変換部1030-1は、受信した電話番号を…電話番号の情報を受け取った処理装置1012-1は、変換表1013-1の…を参照し、…着信電話番号“06-5555-9876”から着信ICSネットワークアドレス“5521”を読み取る」(相手先のGWに相当する相手先のアクセス制御装置に付与された電話通信を行うためのIPアドレスを特定する)と記載されているように、甲第2号証の実施例10に記載の着信電話番号は、電話端末間でインターネットに接続するためのゲートウェイ装置(アクセス制御装置)及びインターネットを介して電話通信を行うときに、相手先電話端末が収容されている相手先のゲートウェイ装置(アクセス制御装置)に割り付けられているIPアドレスを識別する識別子である。 従って、甲第2号証の実施例10に記載の技術は、本件特許発明2の構成要件b7と同一である。 (i-3)答弁書の「(C4)本件特許発明3と甲第2号証に記載された発明との比較」に対して(弁駁書15頁〜16頁の「(2-3)発明の比較“(C4)”に対する弁駁」の項参照) TCP或いはUDP通信において「TCPチャネル」或いは「UDPチャネル」という用語は一般的には使用されず、RFC798或いはRFC768にも記述されていない。そこで、本件特許に記載の「チャネル」を「コネクション」と解釈すれば、本件特許に記載の「チャネル」は、IPヘダーに付与されたIPアドレスと、IPデータグラム内のTCPヘダー乃至UDPヘダー内に存在するポート番号とで構成されることになる。…従って、本件特許発明3の構成要件である「c1、c2の第1、第2チャネルの構成」が甲第2号証の記載に含まれることは自明の理である。従って、本件特許発明3と甲第2号証に記載の技術とは同一である。 (ii)本件特許を無効にすべき第2の理由について (ii-1)答弁書の「(D2)UDP,TCPの決め方は周知技術」に対して(弁駁書21頁の「(3-1)“(D2)UDP,TCPの決め方は周知技術”に対する弁駁」の項参照) UDP及びTCPの技術規定であるRFC768及びRFC763が存することは確かである。 (ii-2)答弁書の「(D3)UDPに関するRFC768の規定」に対して(弁駁書21頁の「(3-2)“(D3)UDPに関するRFC768の規定”に対する弁駁」の項参照) 請求人が主張する「送信元IPアドレス」及び「宛先IPアドレス」は、UDPヘダー及び同擬似ヘダー内には存在せず、UDPヘダーが存在するIPデータグラムを含むIPパケットのIPヘダー内に存在する送信元IPアドレス及び宛先IPアドレスである。 (ii-3)答弁書の「(D4)TCPに関するRFC793の規定」に対して(弁駁書22頁の「(3-3)“(D4)TCPに関するRFC768の規定”に対する弁駁」の項参照) 請求人が主張する「送信元IPアドレス」及び「宛先IPアドレス」は、TCPヘダー及び同擬似ヘダー内には存在せず、TCPヘダーが存在するIPデータグラムを含むIPパケットのIPヘダー内に存在する送信元IPアドレス及び宛先IPアドレスである。 (ii-4)答弁書の「(D5)UDPチャネルの設定」に対して(弁駁書22頁〜24頁の「(3-4)“(D5)UDPチャネルの設定”に対する弁駁」の項参照) (ii-4-1)UDPチャネルのIPアドレスについて(弁駁書22頁30行〜23頁2行) UDPコネクションを形成するためのIPアドレスとUDPポート番号は、互いに物理的に異なった場所に存在する。…即ち、「例えば、UDPコネクションを利用することを示すことにより、本件特許中に記載している「UDPチャネルのIPアドレス」とは、IPアドレス上のUDPポート番号を設定することを意味する」という被請求人の答弁が誤りであることは、RFCの定義を正しく理解する者にとっては自明である。 (ii-4-2)UDPチャネルとポート番号との関係について(弁駁書23頁11行〜14行) 本件特許中には、UDPチャネルとポート番号との関係を定義するものは存在しないと同時に、RFC規定を根拠とする「UDPチャネルとポート番号との関係は自明である」との主張は失当である。つまり、本件特許中のUDPチャネルは、UDPコネクションではない。 (ii-4-3)音声伝送用のUDPポート番号について(弁駁書23頁26行〜28行) 「接続時に電話端末と音声伝送用のUDPチャネルのIPアドレスが対応つけられる」としても、「接続時に音声伝送用のUDPポート番号がアサインされることは明確」ではなく、本件特許に明確な記述は存在しない。 (ii-4-4)一般的にUDP(TCP)を使う際の手法について(弁駁書24頁4行〜8行) 本件特許においては、本件特許発明を実施する上で実施可能性を左右する要素であるUDPチャネル或いはTCPチャネルの内容が何ら開示されていないことになる。また、RFCの規定が存在しない以上、UDPチャネル或いはTCPチャネルは、一般的にUDP(TCP)を使う際の手法として推測可能なものではないと解される。 (iii)本件特許を無効にすべき第3の理由について (iii-1)本件特許発明と甲第3号証との関係(弁駁書2頁〜7頁の「I.本件特許発明と甲第3号証との関係」の項参照) 甲第3号証は、被請求人が提出した乙第4号証を基礎とする国内優先権出願で特許されたものであり、ここでは乙第4号証の内容を甲第3号証の記載として説明する。…本件特許発明の主要な要件である(1)システム構成、(2)「ホスト名」或いは「局番」、(3)DNSサーバ、(4)ゲートウェイ装置、(5)電話通信方法、(6)「チャネル」…について、本件特許の電話通信方法と甲第3号証(乙第4号証)に記載の電話通信の技術方法は全て同一である。 (iii-2)答弁書の項目(C1)乃至(C7)に関連して、本件特許を無効にすべき第3の理由について請求人は次のような主張をしている。 (iii-2-1)甲第3号証(乙第4号証)の目的について(弁駁書10頁27行〜11頁4行) 甲第3号証(乙第4号証)の段落[0012]には、「電話番号的な人間に覚えやすい数字を入力することで…」と記述されており、これが、請求人が主張する「相手端末に対し発呼する時に電話番号を入力することで、相手端末の指定を行うようにしている」ことを意味することは、自明の理である。更に、段落[0012]には、「かつ外部に対して、IPアドレスを隠蔽した状態で、相手端末の指定を可能にする…」と記載があり、これが、請求人が主張する「宛先電話端末の電話番号を基に、宛先電話端末と通信を行うためのIPアドレスを特定する」ことにより、「かつ外部(ユーザ)に対してIPアドレスを隠した状態で相手端末の指定を可能にすることを目的とする」具体的な記述となっている。 (iii-2-2)本件特許発明1の構成要件a4について(弁駁書12頁13行〜19行) 局番或いはホスト名とLAN内電話番号(端末管理番号)は同一のものであり、DNSサーバとサーバ端末は同一のものであり、GWとTA装置は同一のものである。局番は相手先GWのIPアドレスを識別する識別子であり、同様にLAN内電話番号は相手先TA装置のIPアドレスを識別する識別子である。従って、本件特許発明1の構成要件a4のDNSサーバが管理する局番と甲第3号証(乙第4号証)の第3の実施例及び図12に記載のサーバ端末が管理するLAN内電話番号は同一のものである。 (iii-2-3)本件特許発明1の構成要件a5について(弁駁書13頁7行〜10行) 局番或いはホスト名とLAN内電話番号(端末管理番号)は同一のものであり、DNSサーバとサーバ端末は同一のものであり、GWとTA装置は同一であり、甲第3号証(乙第4号証)の第3の実施例及び図12の記載内容は、本件特許発明1の構成要件a5と同一である。 (iii-2-4)本件特許発明3の構成要件c1或いはc2について(弁駁書15頁30行〜16頁5行) 甲第3号証の第3の実施例には、段落[0053]〜[0059]に記載されているように、「インターネットで接続されたLANにサーバー端末、クライアント端末1、クライアント端末2が接続され…該サーバー端末の端末管理テーブルには、端末管理番号、IPアドレスの他に、装置のポート番号も記述され…ポート番号「3」を受け取ると、該IPアドレス「129.60.10.15」に対し、ポート番号「3」を付加情報として付けて…自装置内のポート3に接続された電話機2-3(1406)との通信を確立し、音声データパケットの送受信を行い、クライアント端末1の電話機(1402)と音声による通信を開始する。」と記述されているように、電話通信を行う場合の本件特許発明3の構成要件c1或いはc2におけるチャネルの構成は、甲第3号証(乙第4号証)の第3の実施例において、ポート番号を用いて具体的に記述されている。 (iii-3)本件特許発明の要旨と甲第3号証(乙第4号証)との関係について(弁駁書24頁〜25頁の「答弁書の項目「E」についての弁駁」の項参照) 本件特許ではインターネットにDNSサーバ(ドメイン名サーバ)が接続され、乙証第4号証の図12ではLAN(インターネット)にサーバ端末が接続されている。DNSサーバ及びサーバ端末は共に、電話番号を電話通信のために用いる通信宛先側電話端末を接続する装置のIPアドレスに変換する機能を有し、いずれも電話端末は固有のIPアドレスを有していない。機能的に本件特許のゲートウェイ装置は乙第4号証の端末接続装置に相当しており、本件特許のDNSサーバは乙第4号証のサーバ端末に相当している。また、本件特許のDNSサーバ内の端末管理テーブル(本件特許の図6及び図10)は、乙第4号証のサーバ端末内の端末管理テーブル(図8〜図11、図13)に相当している。更に、本件特許のインターネットは乙第4号証のLANに相当している。なお、本件特許の図9(実施例2)に示される電話通信の経路は、電話端末とGW装置との間にPBX(私設交換機)11B、15Aが設置されているが、GW装置とPBXとを一体化してGW装置と考えることにより、電話通信の経路は図A(審判請求書)及び本件特許の図1に示されるように、電話端末-GW装置-インターネット-GW装置-電話端末と見なすことができる。このケースにおいて、後述する電話の接続制御の流れは変化しない。以上の1:1対応付けから確認できるように、2以上の電話端末の間で電話通信を可能とする本件特許による電話通信方法及び電話通信システムは、乙第4号証の内容と同一である。 一方、本件特許の電話の接続制御の流れを…説明する。電話端末11が発呼し、電話端末11を接続するGW装置12は、接続先の電話端末15の電話番号をインターネット経由でDNSサーバ16に提示し、DNSサーバ16は、電話端末15を接続するTA装置14のIPアドレスをTA装置12に回答する。以降、GW装置12は、GW装置12のIPアドレスと前記取得したGW装置14のIPアドレスを用いて、電話端末11-GW装置12-インターネット-GW装置14-電話端末15なる通信経路により電話通信を行う。これに対し、乙第4号証の第3の実施例及び図12における電話の接続制御の流れは次のようになっている。電話端末1402が発呼し、電話端末1402を接続するTA装置1401は、接続先の電話端末1406の電話番号をLAN(インターネット)経由でサーバ端末に提示し、サーバ端末1407は、電話端末1406を接続するTA装置1403のIPアドレスをTA装置1401に回答する。以降、TA装置1401は、TA装置1401のIPアドレスと前記取得したTA装置1403のIPアドレスを用いて、電話端末1402-TA装置1401-LAN(インターネット)-TA装置1403-電話端末1406なる通信経路により電話通信を行う。 以上の1:1対応付けから確認できるように、2以上の電話端末の間で電話通信を可能とする本件特許による電話通信の接続制御の流れは、乙第4号証の電話通信の接続制御の流れと同一である。 【4】被請求人の主張 被請求人(特許権者)は、答弁書11頁〜12頁において、本件特許発明1乃至6の特徴について、次のように主張している。 本件特許発明1乃至6の特徴は、電話番号中の「局番」を、インターネットプロトコルアドレス(以下、「IPアドレス」という。)が固定的に割り付けられているゲートウエイ装置(以下、「GW」という。)に対応させて、発呼等の処理を行う構成にしたことである。 このような構成を採用したことにより、本件特許に係る明細書の段落0021に記載されているように、 「以上詳細に説明したように、本発明に係る電話通信方法及び電話通信システムによれば、呼接続時に電話端末と音声伝送用の第1のチャネルのIPアドレスが対応付けられるので、従来のように電話端末毎にIPアドレスを割り付ける必要がない。そのため、1つのIPアドレスを複数の電話端末で使用することができ、IPアドレスの不足に対処できる。更に、電話端末を名前サーバに登録しないので、緊急時の通信に用いることができる。 本発明に係る他の電話通信方法及び電話通信システムによれば、交換機に割り付けた局番、交換機の名前、及び交換機が接続されているGWのIPアドレスを管理する名前サーバを設け、且つ収容対象が電話端末か又は交換機かを示す収容区分データを保持する収容区分フィールド、及びGWに割り付けた局番及び交換機に割り付けた局番を保持する局番フィールドを有する加入者データを管理する加入者データテーブルをGWに設けたので、前記発明の効果に加え、電話端末のみならず、電話網配下の交換機間でインターネットを介した音声通信を提供できる。」 といった格別顕著な作用効果を奏するものである。 そして、請求人が主張する本件特許を無効にすべき第1の理由、第2の理由、第3の理由に対して、概要、以下のとおり答弁している。 (i)本件特許を無効にすべき第1の理由に対して 本件特許発明と甲第2号証に記載された発明とは構成が異なるので、請求人の主張する無効理由は失当である。 (ii)本件特許を無効にすべき第2の理由に対して 本件特許に係る明細書及び図面には、当業者が実施できる程度に本件特許発明の内容が記載されているので、請求人の主張する無効理由は失当である。 (iii)本件特許を無効にすべき第3の理由に対して 甲第3号証の図14とこの説明文は、この基礎出願(乙第4号証:特願平9-28659号)の明細書及び図面には全く記載されていないので、請求人の主張する無効理由は失当である。 【5】「本件特許を無効にすべき第2の理由」についての当審の判断 請求人は、「本件特許を無効にすべき第2の理由」について、音声伝送用回線としてのUDPチャネルの決め方、即ち2つのIPアドレスと2つのポート番号の決め方が開示されていない点を主張している。 しかし、本件特許の「チャネル」について、請求人は審判請求書及び弁駁書において、次のようなことは認めている。 「チャネルをインターネットのTCP又UDPにすることは本件特許の出願当時周知の技術」(審判請求書17頁12行〜13行)、 「TCPチャネル及びUDPチャネルは本件特許の図1及び図7から判断できるように、インターネットを通過しているのでOSI参照モデルの通信4層の仮想通信回線であると理解できる。…なお、一般にTCP/IPの技術分野では、TCPチャネルやUDPチャネルという用語は用いず、TCPコネクションやUDPコネクションという用語を用いる。」(審判請求書17頁31行〜18頁4行)、 「UDPチャネルは、UDPセグメントが転送される(IP1、port1)と(IP2、port2)を結ぶ仮想的に考えた通信回線を意味し、また、TCPチャネルも、TCPセグメントが転送される(IP1、port1)と(IP2、port2)を結ぶ仮想的に考えた通信回線を意味する。」(審判請求書19頁16行〜19行)、 「UDP及びTCPの技術規定であるRFC768及びRFC763が存することは確かである。」(弁駁書21頁13行〜14行) このようなTCP又はUDPに関する技術は、請求人が提出した丙第1号証(Douglas Comer著/村井純・楠本博之訳「第3版TCP/IPによるネットワーク構築Vol.I-原理・プロトコルアーキテクチャ-」共立出版株式会社1997年8月10日発行)等によっても確認できるように技術常識であることや、通信分野において、音声や呼制御信号を伝達する回線をチャネルと表現する慣行があることを考慮すると、本件特許において、UDPチャネルとは、UDPコネクションを音声や呼制御信号を伝達する回線として利用することを表現したものであって、UDPセグメントが転送される(IP1、port1)と(IP2、port2)を結ぶ仮想的に考えた通信回線を意味することは、当業者にとって自明の事項である。 また、「音声伝送用回線としてのUDPチャネル」について、本件特許明細書の段落【0013】に、「各GWに接続されたインターネットの制御用回線のIPアドレスを、それぞれ“133.149.30.16 ”及び“133.149.60.16 ”としている。…GW12とGW14との間では…インターネット13中の音声用回線13aのIPアドレスの選択を行うようになっている。そして、この選択された音声用回線13aのIPアドレス上でUDPチャネルを介して音声信号の伝送が行われる。」と説明されており、「音声伝送用回線としてのUDPチャネル」の2つのIPアドレスと2つのポート番号のうちIPアドレスについては、電話端末を収容している両端のゲートウェイが選択することが、本件特許明細書に明記されている。 さらに、丙第1号証の「12 ユーザデータグラムプロトコル(UDP)12.1 はじめに」(151頁)にも説明されているように、UDPチャネルのポート番号でどのアプリケーションプログラムか区別することも本件特許の出願時の技術常識であるから、本件特許において、例えば、ポート番号で電話のアプリケーションであることを区別するように予め決めることができる。 したがって、本件特許明細書の記載、及び本件特許の出願時の技術常識に基づいて、「音声伝送用回線としてのUDPチャネル」の2つのIPアドレスと2つのポート番号を決めて、インターネットを介した電話通信を実施することができると認められるから、本件特許は特許法第36条第4項及び第6項の要件を具備している。 【6】「本件特許を無効にすべき第1の理由」及び「本件特許を無効にすべき第3の理由」についての当審の判断 (i)本件特許を無効にすべき第1の理由について (i-1)証拠方法 甲第1号証(特願平9-350224号(特開平11-88438号公報参照))の出願(以下、「先願1」という。)は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成9年12月5日(優先日、平成8年12月6日、平成9年3月10日、平成9年7月8日)の特許出願であって、先願1の優先権の基礎とされた最初の平成8年12月6日付けの先の出願(甲第2号証:特願平8-326736号)(以下、「先の出願1」という。)が本件特許出願前にされ、本件特許出願後に出願公開されている。 そして、先願1の願書に最初に添付した明細書等には、以下のとおりの記載が認められる。 イ)「【0007】 【課題を解決するための手段】本発明は統合情報通信システムに関し、本発明の上記目的は、外部の複数のコンピュータ通信網ないしは情報通信機器を個々に接続するアクセス制御装置と、前記アクセス制御装置をネットワークする中継装置とを設け、一元的なアドレス体系で情報を転送してルーティングする機能を有し、前記複数のコンピュータ通信網ないしは情報通信機器の間で相互に通信できる構成とすることによって達成される。本発明は、従来例として示す図165に示す企業内部及び企業間の通信で用いられていた専用線の範囲を、破線で示す共通通信網として置き換えたIP技術をベースとするコンピュータ通信網に相当する。 【0008】本発明の上記目的は、固有のICSユーザアドレス体系ADXを持つICSユーザフレームを、アクセス制御装置内の変換表の管理の基にアドレス体系ADSを有するICSネットワークフレームに変換すると共に、内蔵した少なくとも1以上のVANを前記アドレス体系ADSのルールに従って送信し、目的とする他のアクセス制御装置に到達したときに当該変換表の管理の基に、前記ICSユーザアドレス体系ADXに変換して外部の他の情報通信機器に到達するようにすることによって達成される。また、固有のICSユーザアドレス体系ADXを持つICSユーザフレームを、アクセス制御装置の変換表の管理の基に前記ICSユーザフレーム内部のICSユーザアドレスを用いることなく、ユーザ論理通信回線に対応して、変換表に登録済みの着信ICSネットワークアドレスに対応するICSネットワークフレームに変換し、前記ICSネットワークフレームの転送先は1又はNであり、少なくとも1以上のVANを経由してICSアドレス体系ADSのルールに従って前記ICSネットワークフレームを他のアクセス制御装置に転送したとき、当該アクセス制御装置の変換表の管理の基に前記ICSユーザフレームに戻し、外部の他の情報通信機器に到達するようにすることによって達成される。」(公報12欄33行〜13欄18行) ロ)「【0111】実施例-10(X.25、FR、ATM、衛星通信での伝送と電話回線、ISDN回線、CATV回線、衛星回線、IPXフレームの収容): 本発明のICSにおけるユーザからのデータの形式は、RFC791又はRFC1883の規定に従うICSユーザフレームに限定されるものではなく、電話回線、ISDN回線、CATV回線、衛星回線、IPXの収容も可能である。また、ICSネットワーク内におけるICSネットワークフレームの中継網もX.25、FR、ATM、衛星通信等に対応が可能である。本発明においては、ATM交換機はセルリレー交換機を含み、ATM網はセルリレー網を含んでいる。 【0112】図34〜図37は本発明のICS1000におけるインタフェース変換の一例を示すものであり、アクセス制御装置1010-1及び1010-2、ICSフレームインタフェース網1050、X.25網1040、FR網1041、ATM網1042、衛星通信網1043、X.25/ICSネットワークフレーム変換部1031-1及び1031-2、FR/ICSネットワークフレーム変換部1032-1及び1032-2、ATM/ICSネットワークフレーム変換部1033-1及び1033-2、衛星/ICSネットワークフレーム変換部1034-1及び1034-2、電話回線変換部1030-1及び1030-2、ISDN回線変換部1029-1及び1029-2、CATV回線変換部1028-1及び1028-2、衛星回線変換部1027-1及び27-2、IPX変換部1026-1及び1026-2で構成されている。 【0113】ICSフレームインタフェース網1050は、RFC791又はRFC1883の規定に従うICSネットワークフレームをそのままの形式で転送する中継網である。X.25網1040はX.25形式のフレームを転送する中継網であり、ICSネットワークフレームをX.25形式のフレームに変換及び逆変換するためのX.25/ICSネットワークフレーム変換部1031-1及び1031-2を入出力部に持っている。FR網1041はフレームリレー形式のフレームを転送する中継網であり、ICSネットワークフレームをフレームリレー形式のフレームに変換及び逆変換するためのFR/ICSネットワークフレーム変換部1032-1及び1032-2を入出力部に持っている。ATM網1042はATM形式のフレームを転送する中継網であり、ICSネットワークフレームをATM形式のフレームに変換及び逆変換するためのATM/ICSネットワークフレーム変換部1033-1及び1033-2を入出力部に持っている。衛星通信網1043は衛星を利用して情報を転送する中継網であり、ICSネットワークフレームを衛星通信網のインタフェースに変換及び逆変換するための衛星/ICSネットワークフレーム変換部1034-1及び1034-2を入出力部に持っている。電話回線変換部1030-1及び1030-2は、電話回線とアクセス制御装置との間の物理層やデータリンク層(OSI通信プロトコルの第1層及び第2層)に相当する機能の変換及び逆変換する機能を有している。ISDN回線変換部1029-1及び1029-2は、ISDN回線とアクセス制御装置との間の物理層やデータリンク層に相当する機能の変換及び逆変換する機能を有している。CATV回線変換部1028-1及び1028-2は、CATV回線とアクセス制御装置との間の物理層やデータリンク層に相当する機能の変換及び逆変換する機能を有している。衛星回線変換部1027-1及び1027-2は、衛星回線とアクセス制御装置との間の物理層やデータリンク層に相当する機能の変換及び逆変換する機能を有している。IPX変換部1026-1及び1026-2は、IPXとアクセス制御装置との間の物理層やデータリンク層に相当する機能の変換及び逆変換する機能を有している。」(公報45欄34行〜46欄50行) ハ)「【0118】(5)アクセス制御装置1010-1の電話回線変換部1030-1に接続されたユーザ1060-1が発信し、アクセス制御装置1010-2の電話回線変換部1030-2に接続されたユーザ1060-2との間で電話回線のインタフェースで通信を行う場合の動作を説明する。 【0119】ユーザ1060-1はVAN運用者に電話回線接続を申込む。VAN運用者はユーザ1060-1を接続するアクセス制御装置1010-1を特定し、ICS論理端子のICSネットワークアドレス“7721”を決定する。次にVAN運用者は、アクセス制御装置1010-1の変換表1013-1に発信ICSネットワークアドレス“7721”、送信者電話番号“03-5555-1234”、受信者電話番号“06-5555-9876”、着信ICSネットワークアドレス“5521”及び要求種別等の情報の設定を行う。本例では要求種別“5”を電話回線接続とした例を示している。同様に、アクセス制御装置1010-2の変換表1013-2に発信ICSネットワークアドレス“5521”、送信者電話番号“06-5555-9876”、受信者電話番号“03-5555-1234”、着信ICSネットワークアドレス“7721”及び要求種別等の情報の設定を行う。 【0120】ユーザ1060は電話番号“06-5555-9876”を送出する。電話回線変換部1030-1は、受信した電話番号を処理装置1012-1の読取り形式に変換して処理装置1012-1に送出する。ICSネットワークアドレス“7721”の電話回線変換部1030-1から電話番号の情報を受け取った処理装置1012-1は、変換表1013-1の発信ICSネットワークアドレス“7721”の要求種別を参照し、電話回線接続であることを認識し、着信電話番号“06-5555-9876”から着信ICSネットワークアドレス“5521”を読取る。アクセス制御装置1010-1は、着信ICSネットワークアドレスを“5521”、発信ICSネットワークアドレスを“7721”に設定されたネットワーク制御部と、電話の着信があることを伝えるための情報を記述したネットワークデータ部を持つICSネットワークフレームとを作成し、ICS1000のネットワーク内に送出する。アクセス制御装置1010-1から送出されたICSネットワークフレームはICS1000のネットワーク内を転送され、アクセス制御装置1010-2に到達する。着信があることを伝えるための情報を記述したネットワークデータ部を持つICSネットワークフレームを受信したアクセス制御装置1010-2は、ICSネットワークアドレス“5521”の電話回線変換部1030-2からユーザ1060-2に対し、着信を知らせるための信号を送出する。そして、ユーザ1060-2が応答の信号を送出する。 【0121】電話回線変換部1030-2は応答の信号を受信すると、ICS1000のネットワーク内を転送できる形式に変換する。アクセス制御装置1010-2は、着信ICSネットワークアドレスを“7721”、発信ICSネットワークアドレスを“5521”に設定されたネットワーク制御部と、電話の応答があったことを伝えるための情報を記述したネットワークデータ部を持つICSネットワークフレームとを作成し、ICSネットワーク内に送出する。アクセス制御装置1010-2から送出されたICSネットワークフレームはICSネットワーク内を転送され、アクセス制御装置1010-1に到達する。応答があったことを伝えるための情報を記述したネットワークデータ部を持つICSネットワークフレームを受信したアクセス制御装置1010-2は、ICSネットワークアドレス“7721”の電話回線変換部1030-1からユーザ1060-1に対して、応答を知らせるための信号を送出する。これにより、ユーザ1060-1とユーザ1060-2はアナログ信号(音声等)による全二重通信を開始し、ユーザ1060-1はアナログ信号を送出する。アナログ信号を受信した電話回線変換部1030-1は、アナログ信号をICSネットワーク内を転送可能なアナログ情報形式に変換する。 【0122】アクセス制御装置1010-1は、着信ICSネットワークアドレスを“5521”、発信ICSネットワークアドレスを“7721”に設定されたネットワーク制御部と、アナログ情報を記述したネットワークデータ部を持つICSネットワークフレームとを作成し、ICS1000のネットワーク内に送出する。アクセス制御装置1010-1から送出されたICSネットワークフレームは、ICS1000のネットワーク内を転送されてアクセス制御装置1010-2に到達する。アナログ情報を記述したネットワークデータ部を持つICSネットワークフレームを受信したアクセス制御装置1010-2は、ICSネットワークアドレス“5521”の電話回線変換部1030-2において、アナログ情報を電話回線のインタフェースに変換したアナログ信号としてユーザ1060-2に送出する。ユーザ1060-2から送出されたアナログ信号も同様の手順でユーザ1060-1に転送される。」(公報48欄41行〜50欄30行) ニ)図34、図37には、電話回線変換部1030-1に接続されたユーザ1060-1に、「03-5555-1234」という1個の電話番号を付与し、かつ電話回線変換部1030-2に接続されたユーザ1060-2に、「06-5555-9876」という1個の電話番号を付与することが示されている。 また、図34、図37には、ISDN回線変換部1029-1に接続されたユーザ1061-1に、「03-5555-1111」、「03-5555-1112」、「03-5555-1113」という3個の異なるISDN番号を付与し、かつISDN回線変換部1029-2に接続されたユーザ1061-2に、「06-5555-2222」、「06-5555-2223」、「06-5555-2224」という3個の異なるISDN番号を付与することが示されている。 ホ)図36には、発信ICSネットワークアドレス、送信者電話番号、送信者ISDN番号、送信者IPXアドレス、受信者電話番号、受信者ISDN番号、受信者IPXアドレス、着信ICSネットワークアドレス及び要求種別の情報がVAN運用者によって設定されるアクセス制御装置1010-1内の変換表1013-1が示されている。 以上の記載によれば、先願1の願書に最初に添付した明細書等には、実施例10に関する記載に基づく発明(以下、「先願発明1」という。)として、次のような発明が記載されている。 「(1a)企業内部及び企業間の通信で用いられていた専用線の範囲を共通通信網として置き換えたIP技術をベースとするコンピュータ通信網に相当する統合情報通信システムにおいて、 (1b)アクセス制御装置の電話回線変換部やISDN回線変換部に接続されたユーザに電話番号やISDN番号を付与し、 (1c)電話回線接続を申込んだユーザについて発信ICSネットワークアドレス、送信者電話番号、受信者電話番号、着信ICSネットワークアドレス及び要求種別等の情報がVAN運用者によって設定されるアクセス制御装置内の変換表を設け、 (1d)アクセス制御装置1010-1の電話回線変換部1030-1に接続されたユーザ1060-1がアクセス制御装置1010-2の電話回線変換部1030-2に接続されたユーザ1060-2との間で電話回線のインタフェースで通信を行う場合、ユーザ1060-1からユーザ1060-2の電話番号“06-5555-9876”を送信すると、アクセス制御装置1010-1内の処理装置は、アクセス制御装置1010-1内の変換表1013-1を検索し、該電話番号に対応する着信ICSネットワークアドレス“5521”を取得し、 (1e)アクセス制御装置1010-1は、着信ICSネットワークアドレスを“5521”、発信ICSネットワークアドレスを“7721”に設定されたネットワーク制御部と、電話の着信があることを伝えるための情報を記述したネットワークデータ部を持つICSネットワークフレームをICSネットワーク内に送出し、 (1f)アクセス制御装置1010-2は、着信ICSネットワークアドレスを“7721”、発信ICSネットワークアドレスを“5521”に設定されたネットワーク制御部と、電話の応答があったことを伝えるための情報を記述したネットワークデータ部を持つICSネットワークフレームをICSネットワーク内に送出し、 (1g)アクセス制御装置1010-1は、ユーザ1060-1が送出したアナログ信号をICSネットワーク内を転送可能なアナログ情報形式に変換して、着信ICSネットワークアドレスを“5521”、発信ICSネットワークアドレスを“7721”に設定されたネットワーク制御部と、アナログ情報を記述したネットワークデータ部を持つICSネットワークフレームとを作成し、ICS1000のネットワーク内に送出し、アクセス制御装置1010-2の電話回線変換部1030-2は、アナログ情報を電話回線のインタフェースに変換したアナログ信号としてユーザ1060-2に送出することによって、ユーザ1060-1とユーザ1060-2がアナログ信号(音声等)による全二重通信をする方法。」 先願1の願書に最初に添付した明細書等に記載の実施例10(図34〜図37、段落【0111】〜【0137】参照)は、先の出願1の願書に最初に添付した明細書等において、実施例10(図31〜図34、段落【0109】〜【0140】参照)として記載されていたものである。 先の出願1の願書に最初に添付した明細書等の記載をみると、「電話回線変換部やISDN回線変換部に接続されたユーザに電話番号やISDN番号を付与」という構成要件(1b)について、ユーザ1061-1に付与される「03-5555-1111」、「03-5555-1112」、「03-5555-1113」という3個の異なるISDN番号や、ユーザ1061-2に付与される「06-5555-2222」、「06-5555-2223」、「06-5555-2224」という3個の異なるISDN番号(先願1の図34、図37参照)が、それぞれ、「03-5555-1111」という3個の同じISDN番号や、「06-5555-2222」という3個の同じISDN番号(先の出願1の図31、図34参照)になっている点で先願1と先の出願1の願書に最初に添付した明細書等の記載が相違している。 しかし、「電話回線変換部やISDN回線変換部に接続されたユーザに電話番号やISDN番号を付与」という意味では、両者の記載内容は実質的に同一であり、先願1と先の出願1の双方の願書に最初に添付した明細書等に記載されていたと認められるから、先願発明1については、先の出願1を他の出願として特許法第29条の2本文の規定を適用する。 (i-2)対比・判断 (i-2-1)本件特許発明1と先願発明1 先願発明1の「アクセス制御装置1010-1、1010-2」、「ユーザ1060-1、1060-2」、「アクセス制御装置1010-1内の変換表1013-1」、「統合情報通信システム」、「アナログ信号(音声等)による全二重通信をする方法」は、それぞれ本件特許発明1の「第1、第2のゲートウエイ装置」、「第1、第2の電話端末」、「名前サーバ」、「電話通信システム」、「電話通信方法」に相当している。 また、先願発明1の「統合情報通信システム」は、IP技術をベースとするコンピュータ通信網に相当するものであり、着信、応答を伝えるICSネットワークフレームや、ユーザから入力されたアナログ信号をICSネットワーク内を転送可能なアナログ情報形式に変換したICSネットワークフレームを送信しているから、先願発明1の「ICSネットワークアドレス」は、本件特許発明1の「インターネットプロトコルアドレス」に相当し、先願発明1の「統合情報通信システム」が「制御用回線と音声用回線とを有するインターネット」に対応するものを備えることは明らかである。 しかしながら、本件特許発明1と先願発明1とは、少なくとも、以下の2点で相違している。 相違点1: 本件特許発明1は、 a4. 前記制御用回線の第1のチャネルを介して前記複数のゲートウエイ装置に接続され、前記複数のゲートウエイ装置の名前、前記名前に対応するインターネットプロトコルアドレス、及び前記複数のゲートウエイ装置にそれぞれ割り付けられた前記電話番号中の局番を管理する名前サーバを備えた電話通信システムにおける電話通信方法であって、 a5. 前記複数のゲートウエイ装置の内の第1のゲートウエイ装置に収容されている第1の電話端末と第2のゲートウエイ装置に収容されている第2の電話端末との間において、前記第1の電話端末から前記第2の電話端末に対する接続要求があった時、前記第1の電話端末の発呼に基づき前記第1のゲートウエイ装置が、前記制御用回線の第1のチャネルを介して前記名前サーバへアクセスし、前記第2のゲートウエイ装置の局番に対応した名前を用いて前記第2のゲートウエイ装置のインターネットプロトコルアドレスを問い合わせる相手先問い合わせ処理を 行うのに対して、 先願発明1は、 (1c)電話回線接続を申込んだユーザについて発信ICSネットワークアドレス、送信者電話番号、受信者電話番号、着信ICSネットワークアドレス及び要求種別等の情報がVAN運用者によって設定されるアクセス制御装置内の変換表を設け、 (1d)アクセス制御装置1010-1の電話回線変換部1030-1に接続されたユーザ1060-1がアクセス制御装置1010-2の電話回線変換部1030-2に接続されたユーザ1060-2との間で電話回線のインタフェースで通信を行う場合、ユーザ1060-1からユーザ1060-2の電話番号“06-5555-9876”を送信すると、アクセス制御装置1010-1内の処理装置は、アクセス制御装置1010-1内の変換表1013-1を検索し、該電話番号に対応する着信ICSネットワークアドレス“5521”を取得している点。 相違点2: 本件特許発明1では、 a7. 前記第1のゲートウエイ装置が自装置に接続されている前記音声用回線のインターネットプロトコルアドレスを選択し、且つ前記制御用回線の第2のチャネルを介して前記第2のゲートウエイ装置に対して呼接続要求を行う呼接続要求処理と、 a8. 前記第2のゲートウエイ装置が前記第2の電話端末が使用中か否かを判定し、不使用であれば前記音声用回線のインターネットプロトコルアドレスを選択し、前記選択したインターネットプロトコルアドレスを前記第1のゲートウエイ装置に返送して前記第1の電話端末と前記第2の電話端末とを接続する接続応答処理と、 a9. 前記第1のゲートウエイ装置が前記第1の電話端末から送出された音声信号を前記音声用回線を介して前記第2のゲートウエイ装置へ伝送し、前記第2のゲートウエイ装置が前記伝送された音声信号を前記第2の電話端末へ送出する通話処理と、 を行うのに対して、 先願発明1では、 (1e)アクセス制御装置1010-1は、着信ICSネットワークアドレスを“5521”、発信ICSネットワークアドレスを“7721”に設定されたネットワーク制御部と、電話の着信があることを伝えるための情報を記述したネットワークデータ部を持つICSネットワークフレームをICSネットワーク内に送出し、 (1f)アクセス制御装置1010-2は、着信ICSネットワークアドレスを“7721”、発信ICSネットワークアドレスを“5521”に設定されたネットワーク制御部と、電話の応答があったことを伝えるための情報を記述したネットワークデータ部を持つICSネットワークフレームをICSネットワーク内に送出し、 (1g)アクセス制御装置1010-1は、ユーザ1060-1が送出したアナログ信号をICSネットワーク内を転送可能なアナログ情報形式に変換して、着信ICSネットワークアドレスを“5521”、発信ICSネットワークアドレスを“7721”に設定されたネットワーク制御部と、アナログ情報を記述したネットワークデータ部を持つICSネットワークフレームとを作成し、ICS1000のネットワーク内に送出し、アクセス制御装置1010-2の電話回線変換部1030-2は、アナログ情報を電話回線のインタフェースに変換したアナログ信号としてユーザ1060-2に送出している点。 次に、上記相違点について検討する。 相違点1について 本件特許発明1の「名前サーバ」に関する構成要件a4、「相手先問い合わせ処理」に関する構成要件a5についての請求人の主張(上記「(3-2-2)弁駁書における主張の概要」の「(i-1-2)本件特許発明1の構成要件a4について」の項や「(i-1-3)本件特許発明1の構成要件a5について」の項参照)は、要するに、次のようなものである。 イ)先願発明1の変換表1013-1に記載の「受信者電話番号」も電話端末間で通信に用いられるIPアドレスを識別する識別子である。従って、本件特許発明1の構成要件a4のDNSサーバが管理する局番と、変換表1013-1が管理する受信者電話番号とは同一のものである。 ロ)先願1の段落[0122]に「…変換表1013-1の…を参照し、…着信電話番号“06-5555-9876”から着信ICSネットワークアドレス“5521”を読み取る」(相手先のGWに相当する相手先のアクセス制御装置に付与された電話通信を行うためのIPアドレスを特定する)と記載されている通り、本件特許発明1の構成要件a5は先願1の実施例10と同一である。 しかし、先願発明1の構成要件(1c)の変換表1013-1(本件特許発明1の「名前サーバ」に相当)は、先願1の実施例10では、例えば、発信ICSネットワークアドレス、送信者電話番号、送信者ISDN番号、送信者IPXアドレス、受信者電話番号、受信者ISDN番号、受信者IPXアドレス、着信ICSネットワークアドレス及び要求種別の情報を管理しているだけである。 また、先願発明1の構成要件(1d)の「アクセス制御装置1010-1内の処理装置は、アクセス制御装置1010-1内の変換表1013-1を検索し、該電話番号に対応する着信ICSネットワークアドレス“5521”を取得」とは、電話端末の「電話番号」(例えば、“06-5555-9876”)を用いて電話端末のインターネットプロトコルアドレスを問い合わせる相手先問い合わせ処理である。 そうすると、先願発明1が、本件特許発明1の構成要件a4のように、複数のゲートウエイ装置の名前や前記複数のゲートウエイ装置にそれぞれ割り付けられた「局番+内線番号」の形式である電話番号中の局番(例えば、本件特許発明1に対応する第1の実施形態(図1の「本発明の第1の実施形態の電話通信システムの構成図」、図6の「図1中のDNSサーバ16の番号変換情報」参照)においては、GW14のOSAKAという名前やGW14の局番“60”)を管理し、本件特許発明1の構成要件a5のように「第2のゲートウエイ装置の局番に対応した名前」(例えば「OSAKA」)を用いた電話端末を収容するゲートウエイ装置のインターネットプロトコルアドレスを問い合わせる相手先問い合わせ処理をしているとは認められない。 相違点2について 本件特許発明1の「音声用回線のインターネットプロトコルアドレスの選択」に関する構成要件a7〜a9についての請求人の主張(上記「(3-2-1)審判請求書における主張の概要」の「(i-2)本件特許の目的と甲第2号証との関係」の項参照)は、要するに、次のようなものである。 先願発明1もIPアドレスの不足を解消しており、相手端末に対し発呼する時に電話番号を入力することで相手端末の指定を行うようにしているので、サーバに登録されていない相手端末に対しても通話が可能であり、本件特許と先願発明1の目的は概念的に共通している。 しかし、先願発明1の構成要件(1g)におけるアナログ情報を記述したネットワークデータ部を持つICSネットワークフレームのネットワーク制御部に設定された「着信ICSネットワークアドレスや発信ICSネットワークアドレス」(本件特許発明1の「音声用回線のインターネットプロトコルアドレス」に相当)は、先願発明1の構成要件(1e)、(1f)の電話の着信があることや電話の応答があったことを伝える(本件特許発明1の「呼接続要求処理や接続応答処理」に相当)前に、「呼接続要求処理や接続応答処理」のために、変換表1013-1(本件特許発明1の「名前サーバ」に相当)を検索して取得したものと同じものであって、呼接続要求処理と接続応答処理の前に電話番号と1対1に固定的に対応付けられている。 一方、本件特許発明1の構成要件a7〜a9における「音声用回線のインターネットプロトコルアドレス」は、第1、第2のゲートウエイ装置がそれぞれ呼接続要求処理と接続応答処理で選択しており、第1の電話端末から接続要求があったときに呼接続要求処理と接続応答処理のために名前サーバに問い合わせたインターネットプロトコルアドレスとは別に選択されるので、呼接続要求処理と接続応答処理で電話番号と「音声用回線」のインターネットプロトコルアドレスが非固定的に対応付けられることは明らかである。 つまり、本件特許発明1では、呼接続要求処理と接続応答処理で電話番号と「音声用回線」のインターネットプロトコルアドレスが非固定的に対応付けられるのに対して、先願発明1では、呼接続要求処理と接続応答処理の前に電話番号と「音声用回線」のインターネットプロトコルアドレスとが1対1に固定的に対応付けられている点でも、両者は全く異なる。 そして、これらの相違点によって、本件特許発明1は、呼接続要求処理と接続応答処理で電話番号と「音声用回線」のインターネットプロトコルアドレスが非固定的に対応付けられるので、1つのインターネットプロトコルアドレスを電話番号の異なる複数の電話端末で使用することができ、更に、電話端末を名前サーバに登録しないので、緊急時の通信に用いることができるという新たな効果を奏するものであり、技術常識を参酌することにより先願1と先の出願1の双方の願書に最初に添付した明細書等に記載されていた事項から導き出せるものでなく、周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であるという証拠もないから、本件特許発明1と先願発明1とは実質的に同一であるとは認められない。 (i-2-2)本件特許発明2と先願発明1 上記「(i-2-1)本件特許発明1と先願発明1」の項で説明した本件特許発明1と先願発明1との対応関係は、本件特許発明2と先願発明1との間にもあるから、本件特許発明2と先願発明1とは、少なくとも、以下の2点で相違している。 相違点1: 本件特許発明2は、 b5. 前記制御用回線の第1のチャネルを介して前記複数のゲートウエイ装置に接続され、前記複数の交換機にそれぞれ割り付けられた前記局番、前記複数の交換機の名前、及び前記複数の交換機が接続されている前記複数のゲートウエイ装置のインターネットプロトコルアドレスを管理する名前サーバと、 b6. 前記複数のゲートウエイ装置に内蔵され、収容対象が前記電話端末か又は前記交換機かを示す収容区分データを保持する収容区分フィールドと、前記複数のゲートウエイ装置にそれぞれ割り付けられた前記局番及び前記複数の交換機にそれぞれ割り付けられた前記局番を保持する局番フィールドと、を有する加入者データをそれぞれ管理する複数の加入者データテーブルと、 を備えた電話通信システムにおける電話通信方法であって、 b7. 前記複数のゲートウエイ装置における第1のゲートウエイ装置内の第1の交換機に接続された第1の電話端末と第2のゲートウエイ装置内の第2の交換機に接続された第2の電話端末との間において、前記第1の電話端末から前記第2の電話端末に対する接続要求があった時、前記第1の電話端末及び前記第1の交換機の発呼に基づき前記第1のゲートウエイ装置が、前記制御用回線の第1のチャネルを介して前記名前サーバへアクセスし、前記第2の交換機の局番に対応した名前を用いて前記第2のゲートウエイ装置のインターネットプロトコルアドレスを問い合わせる相手先問い合わせ処理 を行うのに対して、 先願発明1では、 (1c)電話回線接続を申込んだユーザについて発信ICSネットワークアドレス、送信者電話番号、受信者電話番号、着信ICSネットワークアドレス及び要求種別等の情報がVAN運用者によって設定されるアクセス制御装置内の変換表を設け、 (1d)アクセス制御装置1010-1の電話回線変換部1030-1に接続されたユーザ1060-1がアクセス制御装置1010-2の電話回線変換部1030-2に接続されたユーザ1060-2との間で電話回線のインタフェースで通信を行う場合、ユーザ1060-1からユーザ1060-2の電話番号“06-5555-9876”を送信すると、アクセス制御装置1010-1内の処理装置は、アクセス制御装置1010-1内の変換表1013-1を検索し、該電話番号に対応する着信ICSネットワークアドレス“5521”を取得している点。 相違点2: 本件特許発明2では、 b9. 前記第1のゲートウエイ装置が自装置に接続されている前記音声用回線のインターネットプロトコルアドレスを選択し、且つ前記制御用回線の第2のチャネルを介して前記第2のゲートウエイ装置に対して呼接続要求を行う呼接続要求処理と、 b10. 前記第2のゲートウエイ装置が前記加入者データの収容区分フィールドを検索し、前記収容区分フィールドのデータが交換機を示す場合、前記第2の交換機の局番と前記加入者データ中の局番とが一致する交換機の回線を探す探索処理と、 b11. 前記第2のゲートウエイ装置が着信先の交換機の回線を検出した後、前記検出した交換機の回線が使用中か否かを判定し、不使用であれば前記音声用回線のインターネットプロトコルアドレスを選択し、前記選択したインターネットプロトコルアドレスを前記第1のゲートウエイ装置に返送して前記第1の交換機と前記第2の交換機とを接続し、且つ前記第1の電話端末と前記第2の電話端末とを接続する接続応答処理と、 b12. 前記第1のゲートウエイ装置が前記第1の電話端末から前記第1の交換機を経て送出された音声信号を前記音声用回線を介して前記第2のゲートウエイ装置へ伝送し、前記ゲートウエイ装置が前記伝送された音声信号を前記第2の交換機を介して前記第2の電話端末へ送出する通話処理と、 を行うのに対して、 先願発明1では、 (1e)アクセス制御装置1010-1は、着信ICSネットワークアドレスを“5521”、発信ICSネットワークアドレスを“7721”に設定されたネットワーク制御部と、電話の着信があることを伝えるための情報を記述したネットワークデータ部を持つICSネットワークフレームをICSネットワーク内に送出し、 (1f)アクセス制御装置1010-2は、着信ICSネットワークアドレスを“7721”、発信ICSネットワークアドレスを“5521”に設定されたネットワーク制御部と、電話の応答があったことを伝えるための情報を記述したネットワークデータ部を持つICSネットワークフレームをICSネットワーク内に送出し、 (1g)アクセス制御装置1010-1は、ユーザ1060-1が送出したアナログ信号をICSネットワーク内を転送可能なアナログ情報形式に変換して、着信ICSネットワークアドレスを“5521”、発信ICSネットワークアドレスを“7721”に設定されたネットワーク制御部と、アナログ情報を記述したネットワークデータ部を持つICSネットワークフレームとを作成し、ICS1000のネットワーク内に送出し、アクセス制御装置1010-2の電話回線変換部1030-2は、アナログ情報を電話回線のインタフェースに変換したアナログ信号としてユーザ1060-2に送出している点。 次に、上記相違点について検討する。 相違点1について 請求人は、本件特許発明2の構成要件b5のDNSサーバは、先願1の実施例10の変換表1013-1と同一の情報を保有しており、同一のものであり、先願1の実施例10の技術は、本件特許発明2の構成要件b7と同一であると主張しているが、その根拠は、要するに、次のようなものである(上記「(3-2-2)弁駁書における主張の概要」の「(i-2-1)本件特許発明2の構成要件b5について」の項や「(i-2-2)本件特許発明2の構成要件b7について」の項参照)。 先願1の段落[0122]に「…変換表1013-1の…を参照し、…着信電話番号“06-5555-9876”から着信ICSネットワークアドレス“5521”を読み取る」(相手先のGWに相当する相手先のアクセス制御装置に付与された電話通信を行うためのIPアドレスを特定する)と記載されているように、先願1の実施例10に記載の着信電話番号は、電話端末間でインターネットに接続するためのゲートウェイ装置(アクセス制御装置)及びインターネットを介して電話通信を行うときに、相手先電話端末が収容されている相手先のゲートウェイ装置(アクセス制御装置)に割り付けられているIPアドレスを識別する識別子である。 しかし、上記「(i-2-1)本件特許発明1と先願発明1」の「相違点1について」の項で説明した理由と同様の理由で、先願発明1が、本件特許発明2の構成要件b5のように、複数の交換機の名前や前記複数の交換機にそれぞれ割り付けられた前記電話番号中の局番(例えば、本件特許発明2に対応する第2の実施形態(図9の「本発明の第2の実施形態の電話通信システムの構成図」、図10の「図9中のDNSサーバ16の番号変換情報」参照)においては、PBXのOSAKAPBXという名前やPBX15Aの局番“60”)を管理し、本件特許発明2の構成要件b7のような「第2の交換機の局番に対応した名前」(例えば、「OSAKAPBX」)を用いて電話端末を接続する交換機のインターネットプロトコルアドレスを問い合わせる相手先問い合わせ処理をしているとは認められない。 相違点2について 本件特許発明2の構成要件b9〜b12は、本件特許発明1の構成要件a7〜a9と同様、「音声用回線のインターネットプロトコルアドレスの選択」に関するものであり、上記「(i-2-1)本件特許発明1と先願発明1」の「相違点2について」の項で説明した理由と同様の理由で、本件特許発明2でも、呼接続要求処理と接続応答処理で電話番号と「音声用回線」のインターネットプロトコルアドレスが非固定的に対応付けられるのに対して、先願発明1では、呼接続要求処理と接続応答処理の前に電話番号と「音声用回線」のインターネットプロトコルアドレスとが1対1に固定的に対応付けられている点で、両者は全く異なる。 そして、これらの相違点によって、本件特許発明2は、呼接続要求処理と接続応答処理を行うときに電話番号と「音声用回線」のインターネットプロトコルアドレスが非固定的に対応付けられるので、1つのインターネットプロトコルアドレスを電話番号の異なる複数の電話端末で使用することができ、更に、電話端末を名前サーバに登録しないので、緊急時の通信に用いることができるという新たな効果を奏するものであり、技術常識を参酌することにより先願1と先の出願1の双方の願書に最初に添付した明細書等に記載されていた事項から導き出せるものでなく、周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であるという証拠もないから、本件特許発明2と先願発明1とは実質的に同一であるとは認められない。 (ii)本件特許を無効にすべき第3の理由について (ii-1)証拠方法 甲第3号証(特願平10-31535号(特許第3155240号公報参照))の出願(以下、「先願2」という。)は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成10年2月13日(優先日、平成9年2月13日)の特許出願であって、先願2の優先権主張の基礎とされた先の出願(乙第4号証:特願平9-28659号)(以下、「先の出願2」という。)が本件特許出願前にされ、本件特許出願後に特許公報が発行されている。 そして、先願2の願書に最初に添付した明細書等には、以下のとおりの記載が認められる。 (なお、先願2の特許第3155240号公報は、平成11年9月10日付けで手続補正されたものを掲載しており、以下の記載とは一部異なっている。) イ)「【請求項3】 複数のクライアント端末がIPアドレスを有してLANに収容され、当該複数のクライアント端末のうちの少なくとも1つにおいて単一のIPアドレスに対応する複数個のアナログ機器が接続されるネットワークにおいて、 LANにIPアドレスを有したサーバー端末を接続するとともに、 クライアント端末および前記アナログ機器に対応して端末の管理番号を、サーバー端末に対応してサーバーの管理番号を付与し、かつ前記複数のアナログ機器に対応して互いに異なるチャネル番号を付与し、 サーバー端末にはLANに収容されたクライアント端末および前記アナログ機器に対応する端末の管理番号とIPアドレスとチャネル番号とを対応づけた端末管理テーブルを設け、 第1のクライアント端末から第2のクライアント端末内の1つのアナログ機器の管理番号をサーバー端末に送信すると、前記サーバー端末は端末管理テーブルを検索して端末の管理番号に対応する第2のクライアント端末のIPアドレスと当該アナログ機器のチャネル番号とを第1のクライアント端末に返答する ことを特徴とするインターネット電話端末識別処理方法。 【請求項4】 請求項3におけるネットワークにおいて、 前記クライアント端末が端末接続装置とアナログ機器とからなり、 端末接続装置が、複数の前記アナログ機器を接続する手段と、接続された複数のアナログ機器を識別するためのチャネル番号を持ち、チャネル番号毎に音声データの処理を行い、チャネル番号毎に異なるデータ通信用ポート番号を設定し、通信開始時に前記サーバー端末に接続先の管理番号を含む問合せパケットを送信し、該サーバー端末からの前記相手端末接続装置接続アナログ機器のIPアドレスとチャネル番号を含んだ返答パケットを受信し、該返答パケット中のIPアドレスとチャネル番号の端末接続装置接続アナログ機器に対して自端末が使用するデータ受信用ポート番号を含む発呼パケットを送信し、該発呼パケット中に含まれるポート番号にて相手からの音声データを受信し、該ポート番号にて受信した音声データをアナログ音声に変換し、該チャネル番号のアナログ機器に流し、該チャネル番号のアナログ機器から入力されたアナログ音声を音声データに変換し、該返答パケット中に含まれた相手端末接続装置接続アナログ機器の受信用ポート番号で相手端末接続装置接続アナログ機器に対し該音声データを送信するようにし、 サーバー端末が、管理番号とこれに対応した端末接続装置のIPアドレスと該端末接続装置に接続された複数のアナログ機器を識別するチャネル番号とを記述し、端末接続装置接続アナログ機器から管理番号を含む問合せパケットを受信し、該問合せパケット中の管理番号のIPアドレスとチャネル番号を検索し、該検索されたIPアドレスとチャネル番号とを含む返答パケットを問合せ元の端末接続装置接続アナログ機器に送信するようにした ことを特徴とするインターネット電話端末識別処理方法。」 ロ)「【0052】 〔実施例3〕 図12は、本発明の第3の実施例を示す。 本実施例は、1台の端末接続装置(TA装置)に複数台の電話機が接続され、それぞれの電話機に端末管理番号が付与された場合の例である。 【0053】 イーサーネットで接続されたLANにサーバー端末、クライアント端末1、クライアント端末2が接続されている。 クライアント端末1を端末接続装置(TA装置)(1401)+電話機(1402)とし、該端末接続装置(TA装置)(1401)の端末管理番号を「2001」、IPアドレスを「129.60.10.10」とする。また、クライアント端末2は、やはり端末接続装置とするが、電話機を接続するチャネルを3つ持ち、それぞれに別の電話機を接続できるものとする。クライアント端末2の端末接続装置(TA装置)(1403)のIPアドレスを「129.60.10.15」とし、該端末接続装置(TA装置)(1403)のチャネル1に接続された電話機2-1(1404)の端末管理番号を「2011」、チャネル2に接続された電話機2-2(1405)の端末管理番号を「2012」、チャネル3に接続された電話機2-3(1406)の端末管理番号を「2013」とする。 また、サーバー端末(1407)のIPアドレスを「129.60.10.1」とし、このサーバー端末(1407)には、前述のクライアント端末の端末管理番号とIPアドレスとを対応させた端末管理テーブル(1408)があるものとする。ただし、本実施例において、クライアント端末2は、1個のIPアドレスに対し、3個の端末管理番号が設定されているので、該サーバー端末の端末管理テーブルには、端末管理番号、IPアドレスの他に、装置のチャネル番号も記述されているものとする。 【0054】 図13は1個のIPアドレスで複数の端末管理番号を持った場合の端末管理テーブル(1408)の例を示す。 また、クライアント端末1,2には、サーバー端末(1407)のIPアドレス「129.60.10.1」が登録されている。 【0055】 クライアント端末1からクライアント端末2に接続された電話機2-3(1406)に対してインターネット電話をかける場合には、クライアント端末1の電話機(1402)から、クライアント端末2に接続された電話機2-3(1406)の端末管理番号「2013」を入力する。 【0056】 クライアント端末1の端末接続装置(TA装置)(1401)は、サーバー端末(1407)(IPアドレス「129.60.10.1」)に対し、該端末管理番号「2013」によるIPアドレスの問い合わせを行う。問い合わせのプロトコルとしては、TCPまたはUDPを用いる。 【0057】 サーバー端末(1407)は、自端末の端末管理テーブル(1408)を検索し、端末管理番号「2013」のIPアドレス「129.60.10.15」とチャネル番号「3」を得、これをクライアント端末1に返す。 【0058】 クライアント端末1の端末接続装置(TA装置)(1401)は、該IPアドレス「129.60.10.15」とチャネル番号「3」とを受け取ると、該IPアドレス「129.60.10.15」に対し、チャネル番号「3」を付加情報として付けて発呼をかける。クライアント端末2の端末接続装置(TA装置)(1403)は、接続後、自装置内のチャネル3に接続された電話機2-3(1406)との通信を確立し、音声データパケットの送受信を行い、クライアント端末1の電話機(1402)と音声による通信を開始する。」 以上の記載によれば、先願2の願書に最初に添付した明細書等には、実施例3に関する記載に基づく発明(以下、「先願発明2」という。)として、次のような発明が記載されている。 「(2a)複数のクライアント端末1、2がIPアドレスを有してLANに収容され、クライアント端末1を端末接続装置(1401)+電話機(1402)とし、クライアント端末2が単一のIPアドレスを持つ端末接続装置(1403)に複数個の電話機(1404〜1406)が接続された機器により構成されるネットワークにおいて、 (2b)LANにIPアドレスを有したサーバ端末(1407)を接続するとともに、 (2c)端末接続装置(1401、1403)に接続された電話機(1402、1404〜1406)に対応して端末管理番号(2001、2011〜2013)を、サーバ端末(1407)に対応してサーバ管理番号(9001)を付与し、 (2d)サーバ端末(1407)には、LANに収容されたクライアント端末1、2の端末接続装置(1401、1403)に接続された電話機(1402、1404〜1406)のIPアドレスとチャネル番号とを端末管理番号に対応づけた端末管理テーブル(1408)を設け、 (2e)第1の端末接続装置(1401)が、第2の端末接続装置(1403)に接続された電話機(1406)の端末管理番号を含んだTCPまたはUDPを用いた問合せパケットをサーバ端末(1407)に送信すると、サーバ端末(1407)は自端末内の端末管理テーブル(1408)を検索し、該問合せパケット中の端末管理番号に対応するIPアドレスとチャネル番号とを取得し、該取得したIPアドレスとチャネル番号を含むTCPまたはUDPを用いた返答パケットを第1の端末接続装置(1401)に返信し、 (2f)クライアント端末1の端末接続装置(1401)は、該IPアドレスに対し、チャネル番号「3」を付加情報として付けて発呼をかけ、 (2g)クライアント端末2の端末接続装置(1403)は、接続後、自装置内のチャネル3に接続された電話機(1406)との通信を確立し、音声データパケットの送受信を行うことによって、 (2h)クライアント端末1の電話機(1402)とクライアント端末2の電話機(1406)とが音声によって通信する方法。」 先願2の願書に最初に添付した明細書等に記載の実施例3(図12、図13、段落【0052】〜【0058】参照)は、先の出願2の願書に最初に添付した明細書等において、実施例3(図12、図13、段落【0052】〜【0059】参照)として記載されていたものである。 先の出願2の願書に最初に添付した明細書等の記載をみると、先願2の「チャネル番号」(図13参照)が、すべて、「ポート番号」になっている点で先願2と先の出願2の願書に最初に添付した明細書等の記載が相違している。 しかし、先願2の「チャネル」も先の出願2の「ポート」も電話機を接続できる端子やコネクタのようなものであり、それを「チャネル」や「ポート」と表現したものにすぎず、両者の記載内容は実質的に同一であり、「チャネル番号」については、先願2と先の出願2の双方の願書に最初に添付した明細書等に実質的に記載されていたと認められるから、先願発明2については、先の出願2を他の出願として特許法第29条の2本文の規定を適用する。 (ii-2)対比・判断 (ii-2-1)本件特許発明1と先願発明2 先願発明2の「端末接続装置(1401、1403)」、「電話機(1402、1406)」、「サーバ端末(1407)」、「ネットワーク」、「クライアント端末1の電話機(1402)とクライアント端末2の電話機2-3(1406)とが音声によって通信する方法」は、それぞれ本件特許発明1の「第1、第2のゲートウエイ装置」、「第1、第2の電話端末」、「名前サーバ」、「電話通信システム」、「電話通信方法」に相当している。 また、先願発明2の「LAN」には、IPアドレスを有したサーバ端末(1407)が接続され、IPアドレスを有した複数のクライアント端末1、2が収容されているから、先願発明2の「LAN」は、本件特許発明1の「インターネット」に相当している。 さらに、先願発明2の「LAN」は、本件特許発明1と同様にTCPまたはUDPを用いて、問合わせ、返答、通信確立や、音声データパケットの送受信を行っているから、先願発明2の「LAN」が「制御用回線と音声用回線とを有するインターネット」に対応するものであることは明らかである。 しかしながら、本件特許発明1と先願発明2とは、少なくとも、以下の2点で相違している。 相違点1: 本件特許発明1では、 a4. 前記制御用回線の第1のチャネルを介して前記複数のゲートウエイ装置に接続され、前記複数のゲートウエイ装置の名前、前記名前に対応するインターネットプロトコルアドレス、及び前記複数のゲートウエイ装置にそれぞれ割り付けられた前記電話番号中の局番を管理する名前サーバを備えた電話通信システムにおける電話通信方法であって、 a5. 前記複数のゲートウエイ装置の内の第1のゲートウエイ装置に収容されている第1の電話端末と第2のゲートウエイ装置に収容されている第2の電話端末との間において、前記第1の電話端末から前記第2の電話端末に対する接続要求があった時、前記第1の電話端末の発呼に基づき前記第1のゲートウエイ装置が、前記制御用回線の第1のチャネルを介して前記名前サーバへアクセスし、前記第2のゲートウエイ装置の局番に対応した名前を用いて前記第2のゲートウエイ装置のインターネットプロトコルアドレスを問い合わせる相手先問い合わせ処理を 行うのに対して、 先願発明2は、 (2d)サーバ端末(1407)には、LANに収容されたクライアント端末1、2の端末接続装置(1401、1403)に接続された電話機(1402、1404〜1406)のIPアドレスとチャネル番号とを端末管理番号に対応づけた端末管理テーブル(1408)を設け、 (2e)第1の端末接続装置(1401)が、第2の端末接続装置(1403)に接続された電話機(1406)の端末管理番号を含んだTCPまたはUDPを用いた問合せパケットをサーバ端末(1407)に送信すると、サーバ端末(1407)は自端末内の端末管理テーブル(1408)を検索し、該問合せパケット中の端末管理番号に対応するIPアドレスとチャネル番号とを取得し、該取得したIPアドレスとチャネル番号を含むTCPまたはUDPを用いた返答パケットを第1の端末接続装置(1401)に返信している点。 相違点2: 本件特許発明1では、 a7. 前記第1のゲートウエイ装置が自装置に接続されている前記音声用回線のインターネットプロトコルアドレスを選択し、且つ前記制御用回線の第2のチャネルを介して前記第2のゲートウエイ装置に対して呼接続要求を行う呼接続要求処理と、 a8. 前記第2のゲートウエイ装置が前記第2の電話端末が使用中か否かを判定し、不使用であれば前記音声用回線のインターネットプロトコルアドレスを選択し、前記選択したインターネットプロトコルアドレスを前記第1のゲートウエイ装置に返送して前記第1の電話端末と前記第2の電話端末とを接続する接続応答処理と、 a9. 前記第1のゲートウエイ装置が前記第1の電話端末から送出された音声信号を前記音声用回線を介して前記第2のゲートウエイ装置へ伝送し、前記第2のゲートウエイ装置が前記伝送された音声信号を前記第2の電話端末へ送出する通話処理と、 を行うのに対して、 先願発明1では、 (2f)クライアント端末1の端末接続装置(1401)は、該IPアドレスに対し、チャネル番号「3」を付加情報として付けて発呼をかけ、 (2g)クライアント端末2の端末接続装置(1403)は、接続後、自装置内のチャネル3に接続された電話機2-3(1406)との通信を確立し、音声データパケットの送受信を行う点。 次に、上記相違点について検討する。 相違点1について 本件特許発明1の「名前サーバ」に関する構成要件a4、「相手先問い合わせ処理」に関する構成要件a5についての請求人の主張(上記「(3-2-2)弁駁書における主張の概要」の「(iii-2-2)本件特許発明1の構成要件a4について」の項や「(iii-2-3)本件特許発明1の構成要件a5について」の項参照)は、要するに、次のようなものである。 イ)局番或いはホスト名とLAN内電話番号(端末管理番号)は同一のものであり、DNSサーバとサーバ端末は同一のものであり、GWとTA装置は同一のものである。 ロ)局番は相手GWのIPアドレスを識別する識別子であり、同様にLAN内電話番号は相手先TA装置のIPアドレスを識別する識別子であるから、本件特許発明1の構成要件a4のDNSサーバが管理する局番と先願2の第3の実施例及び図12に記載のサーバ端末が管理するLAN内電話番号は同一のものである。 ハ)先願2の第3の実施例及び図12の記載内容は、本件特許発明1の構成要件a5と同一である。 しかし、先願発明2の「サーバ端末(1407)」(本件特許発明1の「名前サーバ」に相当)は、先願2の第3の実施例では、例えば、電話機(1402、1404〜1406)に対応して「2001、2011〜2013」のような「LAN内電話番号(端末管理番号)」と、それに対応づけたIPアドレスとチャネル番号とを管理しているだけであり、先願発明2の構成要件(2e)の「第1の端末接続装置(1401)が、第2の端末接続装置(1403)に接続された電話機(1406)の端末管理番号を含んだTCPまたはUDPを用いた問合せパケットをサーバ端末(1407)に送信すると、サーバ端末(1407)は自端末内の端末管理テーブル(1408)を検索し、該問合せパケット中の端末管理番号に対応するIPアドレスとチャネル番号とを取得し、該取得したIPアドレスとチャネル番号を含むTCPまたはUDPを用いた返答パケットを第1の端末接続装置(1401)に返信」とは、「LAN内電話番号(端末管理番号)」(例えば、電話機(1402、1404〜1406)に対応して付与した「2001、2011〜2013」)を用いて電話端末のインターネットプロトコルアドレスを問い合わせる相手先問い合わせ処理である。 そうすると、先願発明2の「サーバ端末(1407)」は、本件特許発明1の構成要件a4のように、複数のゲートウエイ装置の名前や前記複数のゲートウエイ装置にそれぞれ割り付けられた「局番+内線番号」の形式の電話番号中の局番(例えば、本件特許発明1に対応する第1の実施形態(図1の「本発明の第1の実施形態の電話通信システムの構成図」、図6の「図1中のDNSサーバ16の番号変換情報」参照)においては、GW14のOSAKAという名前やGW14の局番“60”)を管理し、本件特許発明1の構成要件a5のように「第2のゲートウエイ装置の局番に対応した名前」(例えば「OSAKA」)を用いて電話端末を収容するゲートウエイ装置のインターネットプロトコルアドレスを問い合わせる相手先問い合わせ処理をしているとは認められない。 相違点2について 本件特許発明1の「音声用回線のインターネットプロトコルアドレスの選択」に関する構成要件a7〜a9についての請求人の主張(上記「(3-2-2)弁駁書における主張の概要」の「(iii-2-1)甲第3号証(乙第4号証)の目的について」の項参照)は、要するに、次のようなものである。 イ)先願2の段落[0012]の「電話番号的な人間に覚えやすい数字を入力することで…」という記載が、「相手端末に対し発呼する時に電話番号を入力することで、相手端末の指定を行うようにしている」ことを意味する。 ロ)先願2の段落[0012]の「かつ外部に対して、IPアドレスを隠蔽した状態で、相手端末の指定を可能にする…」という記載が、「宛先電話端末の電話番号を基に、宛先電話端末と通信を行うためのIPアドレスを特定する」ことにより、「外部(ユーザ)に対してIPアドレスを隠した状態で相手端末の指定を可能にする」ことを意味する。 しかし、先願発明2の構成要件(2g)における音声データパケットの送受信に使うIPアドレス(本件特許発明1の「音声用回線のインターネットプロトコルアドレス」に相当)は、先願発明2の構成要件(2f)の発呼(本件特許発明1の「呼接続要求処理や接続応答処理」に相当)をかける前に、「呼接続要求処理や接続応答処理」のために、先願発明2の「サーバ端末(1407)」(本件特許発明1の「名前サーバ」に相当)を検索して取得したものと同じであって、呼接続要求処理と接続応答処理の前に電話番号と1対1に固定的に対応付けられている。 一方、本件特許発明1の構成要件a7〜a9における「音声用回線のインターネットプロトコルアドレス」は、第1、第2のゲートウエイ装置がそれぞれ呼接続要求処理と接続応答処理で選択しており、第1の電話端末から接続要求があったときに呼接続要求処理と接続応答処理のために名前サーバに問い合わせたインターネットプロトコルアドレスとは別に選択されるので、呼接続要求処理と接続応答処理で電話番号と「音声用回線」のインターネットプロトコルアドレスが非固定的に対応付けられることは明らかである。 つまり、本件特許発明1では、呼接続要求処理と接続応答処理で電話番号と「音声用回線」のインターネットプロトコルアドレスが非固定的に対応付けられるのに対して、先願発明2では、呼接続要求処理と接続応答処理の前に電話番号と「音声用回線」のインターネットプロトコルアドレスとが1対1に固定的に対応付けられている点でも、両者は全く異なる。 そして、これらの相違点によって、本件特許発明1は、呼接続要求処理と接続応答処理で電話番号と「音声用回線」のインターネットプロトコルアドレスが非固定的に対応付けられるので、1つのインターネットプロトコルアドレスを電話番号の異なる複数の電話端末で使用することができ、更に、電話端末を名前サーバに登録しないので、緊急時の通信に用いることができるという新たな効果を奏するものであり、技術常識を参酌することにより先願2と先の出願2の双方の願書に最初に添付した明細書等に記載されていた事項から導き出せるものでなく、周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であるという証拠もないから、本件特許発明1と先願発明2とは実質的に同一であるとは認められない。 (ii-2-2)本件特許発明2と先願発明2 上記「(ii-2-1)本件特許発明1と先願発明2」の項で説明した本件特許発明1と先願発明2との対応関係は、本件特許発明2と先願発明2との間にもあるから、本件特許発明2と先願発明2とは、少なくとも、以下の2点で相違している。 相違点1: 本件特許発明2では、 b5. 前記制御用回線の第1のチャネルを介して前記複数のゲートウエイ装置に接続され、前記複数の交換機にそれぞれ割り付けられた前記局番、前記複数の交換機の名前、及び前記複数の交換機が接続されている前記複数のゲートウエイ装置のインターネットプロトコルアドレスを管理する名前サーバと、 b6. 前記複数のゲートウエイ装置に内蔵され、収容対象が前記電話端末か又は前記交換機かを示す収容区分データを保持する収容区分フィールドと、前記複数のゲートウエイ装置にそれぞれ割り付けられた前記局番及び前記複数の交換機にそれぞれ割り付けられた前記局番を保持する局番フィールドと、を有する加入者データをそれぞれ管理する複数の加入者データテーブルと、 を備える電話通信システムにおける電話通信方法であって、 b7. 前記複数のゲートウエイ装置における第1のゲートウエイ装置内の第1の交換機に接続された第1の電話端末と第2のゲートウエイ装置内の第2の交換機に接続された第2の電話端末との間において、前記第1の電話端末から前記第2の電話端末に対する接続要求があった時、前記第1の電話端末及び前記第1の交換機の発呼に基づき前記第1のゲートウエイ装置が、前記制御用回線の第1のチャネルを介して前記名前サーバへアクセスし、前記第2の交換機の局番に対応した名前を用いて前記第2のゲートウエイ装置のインターネットプロトコルアドレスを問い合わせる相手先問い合わせ処理を行うのに対して、 先願発明2では、 (2d)サーバ端末(1407)には、LANに収容されたクライアント端末1、2の端末接続装置(1401、1403)に接続された電話機(1402、1404〜1406)のIPアドレスとチャネル番号とを端末管理番号に対応づけた端末管理テーブル(1408)を設け、 (2e)第1の端末接続装置(1401)が、第2の端末接続装置(1403)に接続された電話機(1406)の端末管理番号を含んだTCPまたはUDPを用いた問合せパケットをサーバ端末(1407)に送信すると、サーバ端末(1407)は自端末内の端末管理テーブル(1408)を検索し、該問合せパケット中の端末管理番号に対応するIPアドレスとチャネル番号とを取得し、該取得したIPアドレスとチャネル番号を含むTCPまたはUDPを用いた返答パケットを第1の端末接続装置(1401)に返信している点。 相違点2: 本件特許発明2では、 b9. 前記第1のゲートウエイ装置が自装置に接続されている前記音声用回線のインターネットプロトコルアドレスを選択し、且つ前記制御用回線の第2のチャネルを介して前記第2のゲートウエイ装置に対して呼接続要求を行う呼接続要求処理と、 b10. 前記第2のゲートウエイ装置が前記加入者データの収容区分フィールドを検索し、前記収容区分フィールドのデータが交換機を示す場合、前記第2の交換機の局番と前記加入者データ中の局番とが一致する交換機の回線を探す探索処理と、 b11. 前記第2のゲートウエイ装置が着信先の交換機の回線を検出した後、前記検出した交換機の回線が使用中か否かを判定し、不使用であれば前記音声用回線のインターネットプロトコルアドレスを選択し、前記選択したインターネットプロトコルアドレスを前記第1のゲートウエイ装置に返送して前記第1の交換機と前記第2の交換機とを接続し、且つ前記第1の電話端末と前記第2の電話端末とを接続する接続応答処理と、 b12. 前記第1のゲートウエイ装置が前記第1の電話端末から前記第1の交換機を経て送出された音声信号を前記音声用回線を介して前記第2のゲートウエイ装置へ伝送し、前記ゲートウエイ装置が前記伝送された音声信号を前記第2の交換機を介して前記第2の電話端末へ送出する通話処理と、 を行うのに対して、 先願発明2では、 (2f)クライアント端末1の端末接続装置(1401)は、該IPアドレスに対し、チャネル番号「3」を付加情報として付けて発呼をかけ、 (2g)クライアント端末2の端末接続装置(1403)は、接続後、自装置内のチャネル3に接続された電話機2-3(1406)との通信を確立し、音声データパケットの送受信を行う点。 次に、上記相違点について検討する。 相違点1について 本件特許発明2の「名前サーバ」に関する構成要件b5、「相手先問い合わせ処理」に関する構成要件b7についての請求人の主張(上記「(3-2-2)弁駁書における主張の概要」の「(iii-3)本件特許発明の要旨と甲第3号証(乙第4号証)との関係について」の項参照)は、要するに、次のようなものである。 イ)本件特許発明2のDNSサーバ内の端末管理テーブル(本件特許の図6及び図10)は、先願発明2のサーバ端末内の端末管理テーブル(図8〜図11、図13)に相当している。 ロ)本件特許発明2の電話の接続制御の流れは、電話端末11が発呼し、電話端末11を接続するGW装置12は、接続先の電話端末15の電話番号をインターネット経由でDNSサーバ16に提示し、DNSサーバ16は、電話端末15を接続するTA装置14のIPアドレスをTA装置12に回答するものであるのに対し、先願2の第3の実施例及び図12における電話の接続制御の流れによると、電話端末1402が発呼し、電話端末1402を接続するTA装置1401は、接続先の電話端末1406の電話番号をLAN(インターネット)経由でサーバ端末に提示し、サーバ端末1407は、電話端末1406を接続するTA装置1403のIPアドレスをTA装置1401に回答するものであり、両者の接続制御の流れは同一である。 しかし、上記「(ii-2-1)本件特許発明1と先願発明2」の「相違点1について」の項で説明した理由と同様の理由で、先願発明2の「サーバ端末(1407)」は、本件特許発明2の構成要件b5のように、複数の交換機の名前や前記複数の交換機にそれぞれ割り付けられた前記電話番号中の局番(例えば、本件特許発明2に対応する第2の実施形態(図9の「本発明の第2の実施形態の電話通信システムの構成図」、図10の「図9中のDNSサーバ16の番号変換情報」参照)においては、PBXのOSAKAPBXという名前やPBX15Aの局番“60”)を管理し、本件特許発明2の構成要件b7のような「第2の交換機の局番に対応した名前」(例えば、「OSAKAPBX」)を用いて電話端末を接続する交換機のインターネットプロトコルアドレスを問い合わせる相手先問い合わせ処理をしているとは認められない。 相違点2について 本件特許発明2の構成要件b9〜b12は、本件特許発明1の構成要件a7〜a9と同様、「音声用回線のインターネットプロトコルアドレスの選択」に関するものであり、上記「(ii-2-1)本件特許発明1と先願発明2」の「相違点2について」の項で説明した理由と同様の理由で、本件特許発明2でも、呼接続要求処理と接続応答処理で電話番号と「音声用回線」のインターネットプロトコルアドレスが非固定的に対応付けられるのに対して、先願発明2では、呼接続要求処理と接続応答処理の前に電話番号と「音声用回線」のインターネットプロトコルアドレスとが1対1に固定的に対応付けられている点で、両者は全く異なる。 そして、これらの相違点によって、本件特許発明2は、呼接続要求処理と接続応答処理で電話番号と「音声用回線」のインターネットプロトコルアドレスが非固定的に対応付けられるので、1つのIPアドレスを1つのインターネットプロトコルアドレスを電話番号の異なる複数の電話端末で使用することができ、更に、電話端末を名前サーバに登録しないので、緊急時の通信に用いることができるという新たな効果を奏するものであり、技術常識を参酌することにより先願2と先の出願2の双方の願書に最初に添付した明細書等に記載されていた事項から導き出せるものでなく、周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であるという証拠もないから、本件特許発明2と先願発明2とは実質的に同一であるとは認められない。 (ii-2-3)本件特許発明3と先願発明1、2 本件特許発明3は、本件特許発明1、2を特定するために必要な事項を全て含み、さらに「第1のチャネル」、「第2のチャネル」について、発明を特定するために必要な事項を限定したものに相当するから、上記「(i-2-1)本件特許発明1と先願発明1」の項、「(i-2-2)本件特許発明2と先願発明1」の項、「(ii-2-1)本件特許発明1と先願発明2」の項、「(ii-2-2)本件特許発明2と先願発明2」の項で述べた理由により、本件特許発明3と先願発明1、2とは実質的に同一の発明であるとは認められない。 (ii-2-4)本件特許発明4〜6と先願発明1、2 本件特許発明4〜6は、本件特許発明1〜3とカテゴリが異なるのみで、実質的に同一であるから、上記「(i-2-1)本件特許発明1と先願発明1」の項、「(i-2-2)本件特許発明2と先願発明1」の項、「(ii-2-1)本件特許発明1と先願発明2」の項、「(ii-2-2)本件特許発明2と先願発明2」の項、及び「(ii-2-3)本件特許発明3と先願発明1、2」の項で述べた理由により、本件特許発明4〜6も先願発明1、2とは実質的に同一の発明であるとは認められない。 (ii-2-5)まとめ 以上のとおりであって、本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許出願当時の周知・慣用技術及び当業者の技術常識を勘案しても、先願発明1とも、先願発明2とも同一でないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない発明とすることはできない。 【7】まとめ 以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1ないし6に係る発明の特許を無効とすることはできない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2005-04-21 |
結審通知日 | 2005-04-25 |
審決日 | 2005-05-11 |
出願番号 | 特願平9-135503 |
審決分類 |
P
1
112・
537-
Y
(H04L)
P 1 112・ 161- Y (H04L) P 1 112・ 536- Y (H04L) |
最終処分 | 不成立 |
特許庁審判長 |
大日方 和幸 |
特許庁審判官 |
浜野 友茂 野元 久道 |
登録日 | 2003-06-06 |
登録番号 | 特許第3436471号(P3436471) |
発明の名称 | 電話通信方法及び電話通信システム |
代理人 | 五十嵐 貞喜 |
代理人 | 柿本 恭成 |
代理人 | 星 公弘 |