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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E02D
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  E02D
管理番号 1118917
審判番号 無効2004-80064  
総通号数 68 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1987-05-09 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-06-03 
確定日 2005-04-22 
事件の表示 上記当事者間の特許第1931676号発明「土圧低減構造を有する壁体構築物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第1931676号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯

昭和61年10月20日 出願(特願昭61-249353)
(特願昭60-186200(昭和60年8月24日出願)の分割)
平成 6年 7月27日 出願公告(特公平6-56001)
平成 7年 5月12日 特許登録(特許第1931676号)
平成16年 6月 3日 本件無効審判請求
平成16年 8月20日 審判事件答弁書
平成16年10月 6日 審判事件弁駁書
平成17年 1月21日 大阪の審判廷で口頭審理
平成17年 2月14日 被請求人より上申書

2.当事者の主張

(1)請求人は、本件の請求項1に記載された発明(本件発明)の特許を無効とする理由として次のように主張し、甲第1号証ないし甲第15号証(甲第9、10号証は欠番)を提出した。
無効理由1:本件発明は、本件特許出願のもととなった出願前(以下、単に「本件特許出願前」という。)に頒布された甲第3号証に記載された発明、または甲第4号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであって、同法第123条第1項第2号により、無効とすべきである。
無効理由2:本件発明は、甲第8号証に記載された発明により、特許出願前に日本国内または外国において公然知られた発明に該当するから、特許法第29条第1項第1号及び第2号の規定により特許を受けることができないものであって、同法第123条第1項第2号により、無効とすべきである。
無効理由3:本件発明は、本件特許出願前に頒布された甲第1号証ないし甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、同法第123条第1項第2号により、無効とすべきである。
甲第1号証:X ICSMFE, STOCKHOLM 1981, Soil Mechanics and Foundation Engineering Tenth International Conference VOLUME2, Polystyrene Foam for Lightweight Road Embankment, 247-252頁、その抄訳
甲第2号証:Veglaboratoriet, Meddelalse nr 53 Februar 1981, Polystyrene foam for lightweight road embankment, 27-34頁、その抄訳
甲第3号証、同の2:Civil Engineering-ASCE February 1974, Polystyrene foam is competitive, lightweight fill, 68-69頁、その抄訳
甲第4号証、同の2:Engineering & contract recoed, Vol.92,No.11, November 1979, lightweight materials beat backfill problems, 60-62、その抄訳
甲第5号証:HOVEDOPPGAVEN 1979 STUD. TECHN. ROALD AABOE,
OPPGAVENS TEKST : BURK AV LETEE FYLLMASSER I VEGBYGGUING, OSLO, 24, DESEMBER 1979 、その抄訳
甲第6号証:STYROFOAM BULLETIN#94, USE OF STYROFOAM HI FOR LIGHTWEIGHT FILL, T.M. LOUIE, July 5, 1979、その抄訳
甲第7号証、同の2:International Construction, November 1980, Norway banks on foam, 36-37頁
甲第8号証:土と基礎33巻8号、「1日国際会議「道路盛土に用いるプラスチック材料-軟弱地盤問題の新しい解決法-」出席報告」、45-46頁、昭和60年8月25日発行
甲第9号証: 欠番
甲第10号証: 欠番
甲第11号証:ファクシミリ通信文書、その訳
甲第12号証:Advanced Learner's ENGLISH DICTIONARY、1154-1155頁
甲第13号証:土木英和辞典、近代図書株式会社、220-221頁
甲第14号証:国際建設技術協会のウェブページ
甲第15号証:Concise Dictionary, 758-759頁

(2)被請求人は、平成16年8月20日付け審判事件答弁書および平成17年1月21日付け口頭審理陳述要領書において、請求人の主張はいずれも理由がない旨主張し、乙第1号証を提出した。
(イ)甲第1号証にはブロック同士を連結する部材等は示されていない。
(ロ)甲第2号証には、「地盤沈下を軽減し安定性を確保する」との記載はない。
(ハ)甲第3号証のコピーは不鮮明である。
(ニ)甲第4号証のコピーは不鮮明である。
(ホ)甲第5号証は個人的な学位論文であり、頒布された刊行物ではない。「not published」と記載されている。また、1979年12月24日は論文が作成された日にすぎず、頒布の証拠にはならない。
(ヘ)甲第6号証の図1のいずれが「地盤面」「舗装」であるか読みとれない。
(ト)甲第7号証に請求人主張のR7Bに係る構成がどこに記載されているか不明であり、右上の写真のどれが「覆土」か認識できない。
(チ)甲第8号証の発行日は昭和60年8月25日であり、本件特許出願前に頒布されたものではない。
(リ)甲第1号証ないし甲第7号証はいずれも「斜面上に構築される土圧低減構造を有する壁体構造物」ではない。

3.本件発明

本件発明は、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「発泡樹脂ブロックにより斜面上に構築される土圧低減構造を有する壁体構築物において、前記発泡樹脂ブロックを壁体構築物の背面方向に上段ほど長く積層した事を特徴とする土圧低減構造を有する壁体構築物。」

4.無効理由について

請求人主張の無効理由について検討する。
4-1 請求人提出の甲第3号証刊行物に記載された事項
本件特許出願前に外国において頒布されたことが明らかな甲第3号証の68頁中欄13行ないし69頁中欄7行には次の記載が認められる。
「新しい橋
そこで、2つの梁を持つ代替橋がデザインされた。134ft(40.8m)長の連続梁の上部構造は橋台に強固に固定され、橋脚上を周回している。
この新しいデザインのためには現在のアプローチ盛土を5ft(1.5m)までかさ上げする必要があった。従来の盛土(125lbs/ft3)によってアプローチをかさ上げすれば、多量の盛土材を使用するため、途方もない重量増をまねき、不安定な状態をさらに不安定にする。そのため、土台部分が100ft(30.5m)の深さに設置され、40t(36,300kg)、直径12in(305mm)のコンクリートの杭が、垂直方向と傾斜した方向で、非常に柔らかい粘土層の下の締固められ砂の層に打ち込まれた。それらはアプローチの盛土からの横方向の圧力に部分的に耐えられるように設計された。
地盤の移動の始まり
新しい橋が建設された後、粒状物による両岸のアプローチ盛土は、不安定な状態を最小限に抑えるため、同時に等階層に設置された。アプローチが完成に近づくにつれ、下層の軟弱な粘土層が、予想よりもかなり速い速度で動き始めた。移動は底の平らな地盤に対して垂直方向と、杭に対して水平方向の両方向で起こった。地盤が川に向かって移動するにつれ、杭が曲げられ、この地盤の移動は次に橋台の方向に及んだ。西側の橋台は0.05ft(15mm)移動した。(写真参照)また、西側のアプローチ盛土は0.1ftから0.9ft(30mmから274mm)沈下した。直ちに地盤の移動を止めるべく、且つ橋台部にかかる過度の圧力を軽減すべく、アプローチ盛土は取り除かれた。問題は、如何にして妥当なコストで安定したアプローチを建設するかということである。3つの選択肢が検討された。
不安定な部分の材料を完全に取り除く;
橋を延長する;
アプローチ盛土の縦方向の重圧-さらに、横方向の推進圧力-の軽減のための軽量素材の使用。
・・・(略)・・・
アプローチ盛土の重量軽減を目指して地盤の移動を容認できる程度まで減少させるためには、橋台部分におけるアプローチ盛土の重量を580lbs/ft3(27,800Pa)まで軽減する必要があった。・・・(略)・・・
最良の解決策:発泡スチロール
最後に、ポリスチレンの長所につき検討がなされた。その重量は砂又は非常に柔らかい粘土よりもずっと軽量であり、120lbs/ft3(1920kg/m3)に対して3lbs/ft3(48kg/m3)である。この驚くべき軽量性は必要な掘削量を最小限におさえた。さらに、ポリスチレンは長期間の耐久性を持ち、それほど吸湿性を持たない。1285yd3(977m3)の発泡スチロールが必要であったが、ダウ・ケミカル社(Midland, Mich)から即座に入手できた。すなわち、高密度ポリスチレンは、その軽量性、最小限の掘削しか必要としない点、耐久性、設置の容易さ、可用性の高さ、割安である点、故に盛土材として選択された。
発泡スチロールブロツクを盛土材として用いる場合であっても、この盛土材の上部を十分な粒状物により埋め戻すことが重要である。(図1参照)理由は、春の間、Munuscong川は大きく水位が上がり、アプローチの盛土が浸水してしまう。ポリスチレンが十分に被覆されてない場合、結果的にその浮揚力がアプローチ盛土と橋台を持ち上げてしまう。そこで、粒状物の裏込め材を橋台付近5ft(1.5m)の深さで敷き、アプローチが道路と接続する部分では2ft(0.61m)の深さになるように傾斜をつけた。(図1、図2参照) 裏込めはポリスチレンの浮揚力を抑える効果の他、ガードレールを打ち込む場所を提供する。
発泡スチロールブロックは長さ8ft(2.4m)、幅2ft(0.61m)、厚み1.5in(38mm)の板状に成形される。8枚の板がテープを使って束として一体化され、8ft(2.4m)×2ft(0.61m)×lft(0.3m)、重量50lbsの棒状に作成される。5層lft厚の発泡スチロールブロックが橋台に設置される。
発泡スチロールの厚みは、図1に示されたとおり、5ft(1.5m)から1.5in(38mm)へと先細りになっていく。
建設
アプローチは、最大5ftの軽量盛土材の充填が可能になるように、階段状に掘削され、0.1ftになるまで傾斜がつけられる。発泡スチロールはlft×2ft×8ft(0.3m×0.61m×2.4m)の厚板の束としてカバー付小型トラックで工事現場に送達され、人の手によって下ろされ設置された。設置は橋台部の道路中心線から開始され、後方へ移って行き、外側の端に達した。束どうしは、千鳥格子状(互い違い)に並ぶパターンで組み合わされる。3人の作業員が30分で30,000枚を積み上げた。
横方向の拘束は、人力によって側面斜面から与えられる。この最初の覆土が終了するまでは、通常の埋め戻し用の機械設備は用いられない。というのは、機械設備を用いると、この束がずれるからである。裏込め材は4mil厚のポリエチレンシートで被覆された。理由は、起こりうる石油類の液体の流出から発泡材を保護することにある。(以下略)」

以上の記載をまとめると、次のようになる。
1.新しい橋の設置に当たり、アプローチ盛り土からの横方向の圧力に部分的に耐えられるように、40t、直径12inの杭が締め固められた砂の層に打ち込まれた。
2.新しい橋が建設された後、粒状物によるアプローチ盛り土は、下層の軟弱な粘土層がかなり速い速度で動き始め、底の平らな地盤に対して垂直方向と、杭に対して水平方向の両方向で起こり、地盤が川に向かって移動するにつれ、杭が曲げられ、次に橋台の方向に及んだ。
3.直ちに地盤の移動を止めるべく、且つ橋台部にかかる過度の圧力を軽減すべく、アプローチ盛土は取り除かれた。
4.アプローチ盛り土の重量軽減を目指して、軽量で耐久性があり吸湿性を持たない高密度ポリスチレンが検討され、選択された。
5.5層1ft厚の発泡スチロールブロックが橋台に設置された。発泡スチロールの厚みは、図1に示されたとおり、5ft(1.5m)から1.5in(38mm)へと先細りになっていく。アプローチは最大5ftの軽量盛土材の充填が可能となるように階段状に掘削され、0.1ftになるまで傾斜がつけられた。
そうすると、甲第3号証には、軽量な発泡スチロールブロックを傾斜斜面上に用いることにより杭や橋台に作用する土圧を軽減させる技術思想や、軽量な発泡スチロールブロックを、図1に示すように橋台の背面方向に上段に行くにつれて長く積層した構造が開示されており、甲第3号証には次の発明が記載されているといえる。
「発泡樹脂ブロックにより斜面上に構築される土圧低減構造を有する橋台において、前記発泡樹脂ブロックを橋台の背面方向に上段ほど長く積層した事を特徴とする土圧低減構造を有する橋台。」

4-2 本件発明と甲第3号証記載発明との対比、判断
(1)本件発明と甲第3号証記載発明とを対比すると、甲第3号証記載発明の「橋台」は壁部を有するものであり、本件発明の「壁体構築物」に相当するものであるから、両者に構成上の差異は存在しない。
したがって、本件発明は甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するので、本件発明の特許は、特許法第123条第1項第2号により、無効とすべきである。

(2)被請求人は、本件発明において「土圧」は、(地山)斜面に壁体構築物を構築する場合に、壁体構築物と(地山)斜面の間に投入された「裏埋め土層」により、壁体構築物に対し加わる圧力であり、また、「斜面」は、おおよそ全ての傾斜が含まれるのではなく、裏込め土層を構築した場合に土圧が生じる程度の傾斜をもったものに限定される旨主張する(答弁書8ないし9頁等)。
しかしながら、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項は明確であり、「土圧」や「斜面」について、被請求人主張のように限定して解釈する理由もないことから、明細書の記載を参酌する必要はなく、被請求人の主張は採用できない。

(3)仮に、本件発明の「土圧」が被請求人主張のように、斜面に壁体構築物を構築する場合に、壁体構築物と地山斜面の間に投入された「裏埋め土層」により壁体構築物に対し加わる圧力であるとし、さらに、甲第3号証に記載された発明の壁体構築物は、斜面上に構築されたものでないと解する余地があるとしても、本件発明は次の理由により無効理由を有するものである。
(ア)本件発明と甲第3号証記載発明との一致点及び相違点
一致点:
「発泡樹脂ブロックにより構築される壁体構築物において、発泡樹脂ブロックを壁体構築物の背面方向に上段ほど長く積層した事を特徴とする壁体構築物。」
相違点1:本件発明の壁体構築物は、(地山)斜面上に構築されるものであるのに対し、甲第3号証記載発明のものは、(地山)斜面上に構築されていない点。
相違点2:本件発明の壁体構築物は、「土圧低減構造を有する」のに対し、甲第3号証記載発明のものは、構造物と(地山)斜面との間に裏込め材がなく、裏込め材が構築物に作用する圧力としての土圧を低減する構造を有するものではない点。
(イ)判断
(相違点1について)
壁体構築物を地山斜面上に構築することは本件特許出願前に周知の技術的事項(例えば、特開昭48-49207号公報、特開昭51-140303号公報参照)にすぎず、この点に技術的意義はない。
(相違点2について)
地山斜面に壁体構築物を構築した場合に、地山斜面と壁体構築物との間に何らかの裏込め材を設けることは当然であり、本件特許出願前に周知の技術的事項にすぎず(例えば、上記した特開昭48-49207号公報、特開昭51-140303号公報参照)、また、壁体構築物の裏込め材を軽量なものとすることによって、壁体構築物に作用する土圧を軽減するという技術思想は、例えば特公昭51-4562号公報に記載されているように周知の事項であった。
つまり、擁壁に加わる(主働)土圧は一般に、
主働土圧P=0.5γH2 K
γ:裏込め材の単位体積重量 H:擁壁の高さ K:係数
としてよく知られており(「土木施行ポケットブック」132〜133頁、オーム社昭和55年7月10日発行、特公昭51-4562号公報参照)、この式において、係数Kは正であることから、擁壁の高さを一定とした場合に、裏込め材の比重を小さくすれば、土圧が小さくなることが直ちに理解できる。
以上のことを考慮すると、上記相違点2に係る構成は当業者が容易に想到できた事項にすぎず、また、本件発明が奏する作用効果は格別顕著とはいえない。
(ウ)したがって、本件発明は甲第3号証記載発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであって、特許法第29条第2項に該当する。

5.むすび

以上のとおり、本件発明の特許は、他の無効理由を検討するまでもなく、特許法第29条第1項第3項、または、同条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号により、無効とすべきである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-02-21 
結審通知日 2005-02-23 
審決日 2005-03-10 
出願番号 特願昭61-249353
審決分類 P 1 113・ 113- Z (E02D)
P 1 113・ 121- Z (E02D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 松島 四郎神崎 潔  
特許庁審判長 田中 弘満
特許庁審判官 佐藤 昭喜
▲高▼橋 祐介
登録日 1995-05-12 
登録番号 特許第1931676号(P1931676)
発明の名称 土圧低減構造を有する壁体構築物  
代理人 村林 隆一  
代理人 工藤 一郎  
代理人 井上 裕史  
代理人 井上 裕史  
代理人 村林 隆一  

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