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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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無効2007800196 | 審決 | 特許 |
無効200335505 | 審決 | 特許 |
無効200480218 | 審決 | 特許 |
無効2009800076 | 審決 | 特許 |
無効200680021 | 審決 | 特許 |
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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 A61K |
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管理番号 | 1119295 |
審判番号 | 無効2004-80075 |
総通号数 | 68 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1994-07-19 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2004-06-11 |
確定日 | 2005-07-08 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2636713号発明「改善された耐うつり性化粧料組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第2636713号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯 (1)本件特許第2636713号の請求項1〜23に係る発明についての出願は、平成5年12月8日(パリ条約に基づく優先権主張 1992年12月15日、米国)に出願され、平成9年4月25日に特許権の設定登録がされた。 (2)これに対し、ロレアルから特許異議の申立があり、平成10年異議第70469号として審理され、同年12月17日付けで、「訂正を認める。特許第2636713号の請求項1ないし23に係る特許を維持する」との決定がされ、確定している。 2.本件発明 本件発明は、上記異議事件における平成10年12月3日付け手続補正書により補正された同年10月19日付け訂正請求書に添付された訂正明細書の請求項1〜23に記載された下記のとおりのものである。 「【請求項1】 全組成の重量を基準に a)1〜70%の、25℃において0.5〜20センチポアズの粘度を有する揮発性溶媒であって、当該揮発性溶媒が、式:(CH3)3Si-O[Si(CH3)2-O-]n-Si(CH3)3(式中、n=0〜7である)を有する線状シリコーン、一般式: (式中、n=3〜7である)を有する環状シリコーン、C8-20のイソパラフイン、又はこれらの混合物である、 b)0.1〜15%のシリコーンエステルワックスであって、下記の式の部分を有するもの: Ra | SiO4-(a+b)/2 | R1b (式中、Rは水素又は有機基であり、R1は12若しくはそれ以上の炭素原子を含有し且つ脂肪族アルコール部分によりエステル化されたカルボン酸部分を含むカルボン酸エステルであり、aは0〜3の整数であり、bは0〜3の整数であり、そしてa+bの総計が約1.0から3.0までの平均値を有する。但し、少なくとも1個のR1が存在する。) c)10〜45%のワックスであって、(b)のシリコーンエステルワックスに更に加えられたもの d)5〜50%の粉末、及び e)1〜30%の油 を含む、耐うつり性が改良されている無水スティク状化粧料組成物。 【請求項2】 揮発性溶媒が前記シリコーン及びC8-20のイソパラフインの比が10:1〜1:10から構成されている請求項1に記載の組成物。 【請求項3】 R基がメチルである請求項1又は2に記載の組成物。 【請求項4】 前記カルボン酸が脂肪酸である請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。 【請求項5】 前記脂肪酸がイソステアリン酸である請求項4記載の組成物。 【請求項6】 前記脂肪酸がラウリン酸である請求項4記載の組成物。 【請求項7】 シリコーンエステルワックスがシロキシシリケートである請求項1〜6のいずれかに記載の組成物。 【請求項8】 前記脂肪酸部分が脂肪酸アルコール部分によりケイ素原子から分離されている請求項4記載の組成物。 【請求項9】 前記脂肪酸部分が12〜18個の炭素原子を有する請求項4記載の組成物。 【請求項10】 前記(c)のワックスが35〜120℃の融点を有する請求項1〜9のいずれかに記載の組成物。 【請求項11】 前記(c)のワックスが合成ワックス、セレシン、パラフィンロウ、オゾケライト、イリッペ脂、ビーズワックス、カルナウバロウ、マイクロクリスタリンワックス、ラノリン、ラノリン誘導体、カンデリラワックス、ココア脂、セラックワックス、鯨ロウ、ステアリルアルコール、ブランワックス(bran wax)、カポクワックス(capok wax)、サトウキビロウ、モンタンワックス、ベーベリワックス、又はこれらの混合物である請求項1〜10のいずれかに記載の組成物。 【請求項12】 前記粉末が0.02〜50μmの粒径を有する微粒子状乾燥物質を含む請求項1〜11のいずれかに記載の組成物。 【請求項13】 前記粉末が、顔料対粉末の比が1:20〜20:1である顔料及び粉末の混合物である請求項1〜12のいずれかに記載の組成物。 【請求項14】 前記油が低粘度油及び高粘度油の混合物を含む請求項1〜13のいずれかに記載の組成物。 【請求項15】 低粘度油が25℃で5〜100センチポアズの範囲の粘度を有し、高粘度油が25℃で200〜1,000,000センチポアズの範囲の粘度を有する請求項16記載の組成物。 【請求項16】 前記シリコーンエステルワックスが室温で液状である請求項1〜15のいずれかに記載の組成物。 【請求項17】 前記シリコーンエステルワックスが室温で固体状である請求項1〜15のいずれかに記載の組成物。 【請求項18】 前記シリコーンエステルワックスがジイソステアロイルトリメチロールプロパンシロキシシリケートである請求項1〜17のいずれかに記載の組成物。 【請求項19】 前記シリコーンエステルワックスがラウロイルトリメチロールプロパンシロキシシリケートである請求項1〜17のいずれかに記載の組成物。 【請求項20】 リップステイックの形態であり、唇に塗った場合、当該リップステイックを用いて塗った唇が手の甲に接触するときでも実質的に唇からうつらない請求項1〜19に記載の組成物。 【請求項21】 適当な容器に関連づけられている請求項1〜20のいずれかに記載の組成物を含むコンシーラー、頬紅、アイシヤドウ、フアンデーション又はリップステイックのような化粧料。 【請求項22】 請求項1〜21のいずれかに記載の組成物又は化粧料を局所適用することを含む、肌又は唇をメークアップする方法。 【請求項23】a)1〜70%の、25℃において0.5〜20センチポアズの粘度を有する揮発性溶媒であって、当該揮発性溶媒が、式:(CH3)3Si-O[Si(CH3)2-O-]n-Si(CH3)3(式中、n=0〜7である)を有する線状シリコーン、一般式: (式中、n=3〜7である)を有する環状シリコーン、C8-20のイソパラフイン、又はこれらの混合物である、 b)0.1〜15%のシリコーンエステルワックスであって、下記の式の部分を有するもの: Ra | SiO4-(a+b)/2 | R1b (式中、Rは水素又は有機基であり、R1は12若しくはそれ以上の炭素原子を含有し且つ脂肪族アルコール部分によりエステル化されたカルボン酸部分を含むカルボン酸エステルであり、aは0〜3の整数であり、bは0〜3の整数であり、そしてa+bの総計が約1.5から3.0までの平均値を有する。但し、少なくとも1個のR1が存在する。) c)10〜45%のワックスであって、(b)のシリコーンエステルワックスに更に加えられたもの d)5〜50%の粉末、及び e)1〜30%の油 を緊密に物理的に混合し、必要に応じて、得られた混合物を型の中で固めることを含む、化粧料組成物の製造方法。 3.請求人の主張 請求人は、下記(1)〜(4)の理由を挙げて本件請求項1〜23に係る発明の特許は無効とすべきである旨主張し、甲第1号証〜甲第18号証及び参考資料1〜24を提出している。 (1)本件の審査において平成9年1月9日付け手付補正書による補正は明細書の要旨を変更するものであるから、平成5年改正前の特許法第40条の規定により本件出願は手続補正書提出の日とみなされ、本件請求項1〜23に係る発明は特開平6-199630号(甲第1号証)に記載された発明であるか、同公報に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1〜23に係る発明の特許は特許法第29条第1項又は同条第2項の規定に違反してされたものである。 (2)本件請求項1〜23に係る発明は、その出願前に頒布された甲第8号証〜甲第18号証の刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1〜23に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 。 (3)本件明細書の記載に不備があるから、本件請求項1〜23に係る発明の特許は、特許法第36条第4項又は第5項に規定にする要件を満たしていない特許出願に対して違反してされたものである。 。 (4)本件請求項に係る発明は、未完成の部分を含むから、本件請求項1〜23に係る発明の特許は特許法第29条柱書きの規定に違反してされたものである。 4.被請求人の主張 これに対し、被請求人は何ら答弁していない。 5.当審の判断 5-1 無効理由(2)について 5-2 甲第4、8、9、17号証の記載事項の概要 (1)甲第4号証(「フレグランスジャーナル」No.80、1986年、フレグランスジャーナル社、71〜74頁) 1.1「また最近とれない口紅等と銘打っているものもあるが、これらは揮発性油(イソパラフィン、環状シリコーン等)を多く配合している...。」(73頁左欄) 1.2「4.1転色しにくい口紅 口紅をつけ、2,3分後には服に付かなくなってしまうタイプであるが、これは主に揮発性油の蒸散により、ワックス等の固形蝋の膜が残り転色しにくくなると考えられる。」(73頁左欄〜右欄) 1.3「表3 転色しない口紅の処方 原料名 重量% __________________ 環状シリコン5、6量体 35.0 メチルフェニルシリコン 10.0 カルナウバロウ 6.0 マイクロクリスタリンワックス 6.0 CIO 3.0 ラノリン 5.0 スクワラン 5.8 マイカ 25.0 顔料(R-202、R-204) 4.0 酸化鉄 0.1 香料 0.1 __________________ 合計 100.0 __________________」(73頁左欄) (2)甲第8号証(特開昭63-189438号公報) 2.1「シリコーンエステルワックスが一般式: Ra | (SiO)[4-(a+b)]/2 | R1b [式中、Rは水素または有機基であり、R1は少なくとも12個の炭素原子をもつエステル含有基であり、aは0〜3の整数であり、bは0〜3の整数であり、そしてa+bの和は平均値が約1.5〜約3.0である。ただし、R1基が存在する。]...の組成物」(請求項2) 2.2トリメチロールプロパンモノアリルエーテル、ステアリン酸、ポリジオルガノシロキサンからワックスを製造する実施例(実施例1) 2.3「上述のシリコーン-エステルワックスは、従来の系においても、完全なシリコーン系においても口紅、ブロンズ、頬紅及びアイシャドーのようなスティック状の調剤化粧品に使用することができる。」(7頁左上欄) (3) 甲第9号証(“happi”1992年9月44頁及び113頁) 3.1「化粧品用の新規シリコーンエステル」(表題) 3.2「化学面 エステル官能化されたシリコーンはエステル官能物とポリジメチルシロキサン骨格又は樹脂状のシロキサン構造との結合に由来するものである。...第1の段階は有機酸と有機アルコールとのエステル化であり、両者のいずれかはα-オレフィン基を含んでいなければならない。...第2の段階では、ハイドロシリエーションによって前記エステルをシリコーンに付加させる。...使用される典型的な酸はステアリン酸、ラウリン酸、イソステアリン酸等の長鎖脂肪酸である。典型的なアルコールはステアリルアルコール、並びに、アリルアルコール及びトリメチロールプロパンモノアリルエーテル(TMPMAE)等の不飽和アルコールといった脂肪族アルコールを含む。」(44頁左欄下3行〜中欄下2行、訳文2頁) 3.3「エステルの特性 ...TMPMAEに基づくエステルは最も有望で、良好な安定性と共にいくつかのユニークな特性を示した。TMPMAEを用いた合成物に更に焦点を当てた研究では、ラウリン酸とイソステアリン酸が最高の特性を有するエステルを生み出した。その特性は以下のとおりである。」(44頁右欄6行〜13行、訳文2頁下7〜末行) 3.4「 酸 融点/凝固点(C) 物理的形態」 ステアリン酸(C18) +35 硬いワックス パルミチン酸(C16) +20 液体 ミリスチン酸(C14) + 5 液体 ラウリン酸 (C12) -25 液体 イソステアリン酸 -40 液体 表1」(44頁右欄、訳文3頁) (4)甲第17号証(特開昭62-12710号公報) 4.1「本発明は耐水性、耐油性、さらに摩擦に対して耐性のある油性固形化粧料に関し、詳しくは色移り及び色落ち防止剤として、油溶性高分子物質、沸点280℃以下の揮発性油剤及び固形油脂を配合することによって得られる、口紅、アイライナーなどのスティック型、ペンシル型等の油性固形化粧料に関する」(2頁左上欄) 4.2「本発明に用いられる揮発性油剤としては、沸点280℃以下のもので、例えば、粘度0.5〜10cSt(25℃)の直鎖ジメチルポリシロキサン、3〜6員環の環状のジメチルポリシロキサン、鎖長が3〜16の直鎖あるいは分岐鎖(飽和であっても不飽和であっても構わない)の炭化水素が挙げられる。これらは一種又は二種以上混合して用いても良い。」(2頁右下欄) 4.3「揮発性油剤として低沸点イソパラフィン(IPソルベント1620、出光石油(株)製)及び環状ジメチルポリシロキサン(SH-244東レシリコーン(株)製)を使用し、表1に示す処方(A)で、下記に示す製造法により口紅を製造し、色移り防止効果を評価した。」(4頁左下欄〜同右下欄) 4.4「 処方 A 各種油溶性高分物質 10重量部 IPソルベント1620 16 〃 SH-244 40 〃 キャンデリラロウ 7 〃 セレシン 13 〃 雲母チタン 12 〃 酸化チタン 0.5 〃 赤色202号 1.5 〃 流動パラフィン 0 〃」(5頁表1) 5-3 請求項1に係る発明(以下、本件発明1という)について 甲第4号証には、転色しにくい口紅(とれない口紅)には揮発性油(イソパラフィン、環状シリコン等)を配合すること、及び環状シリコン5、6量体 35%を配合した処方例(表3)が記載されている。 当該処方における「環状シリコン5、6量体」は、本件発明における25℃において0.5〜20センチポアズの粘度を有する揮発性溶媒として例示されているn=5、6の環状シリコーンであるから、本件発明1のa)の「1〜70%の、25℃において0.5〜20センチポアズの粘度を有する揮発性溶媒」に相当し、「カルナウバロウ及びマイクロクリスタリンワックス」は本件発明1の「ワックス」に相当し、これらのワックス類の配合量は12%であるから、本件発明1のc)の「10〜45%のワックス」を含むものである。 そして、マイカ、顔料、酸化鉄は本件発明1の「粉末」に、ラノリン及びスクワランは本件発明の油にそれぞれ相当する。 また、甲第4号証における「転色しにくい口紅」が本件発明1における「耐うつり性が改良されている無水スティク状化粧料組成物」に相当するものであることは明らかであるから、本件発明1と甲第4号証の表3の処方による口紅とを比較すると、 両者は、a)及びc)〜e)の各成分を含む耐移り性が改良されている無水スティク状化粧料である点で一致し、 前者がb)の0.1〜15%の「シリコーンエステルワックス」を含むのに対し、後者はこれを含まない点で相違するものと認めることができる。 そこで、この相違点について検討する。 本件発明1におけるb)の成分である「シリコーンエステルワックス」を表す式は、必ずしも明確であるとは認め難いが、本件明細書の記載事項及び当該技術分野における技術常識からみて、「分子中に炭素原子を12以上含むカルボン酸のエステル部分を含むシリコーン系化合物であってワックス状の物質」を意味するものと理解することができる。 この点について、甲第8号証に記載されたシリコーンエステルワックスは、式の表現が本件発明と異なるが、実施例1に記載されたトリメチロールプロパンモノアリルエーテル、ステアリン酸、ポリジオルガノシロキサンから製造されたものにおいて、ステアリン酸に代えてイソステアリン酸又はラウリン酸を用いたものが、本件明細書段落【0008】におけるジイソステアロイルトリメチロールプロパンシロキシシロケート又はジラルロイルトリメチロールプロパンシロキシシロケートに相当するものである。 また、甲第9号証には、トリメチロールプロパンモノアリルエーテルとイソステアリン酸やラウリン酸とのエステルを含むシリコーンエステルが記載されている(摘示事項3.1〜3.4)。 したがって、本件発明1におけるb)成分の「シリコーンエステルワックス」は甲第8号証及び9号証に記載されているといえる。 ところで、甲第4号証には、転色しない口紅について、その理由として「これは主に揮発性油の蒸散によってワックス等の固形蝋の膜が残り転色しにくくなると考えられる」と記載されており(摘示事項1.2)、甲第8号証には、シリコーンエステルワックスが「従来の系においても、完全なシリコーン系においても口紅、ブロンズ、頬紅及びアイシャドーのようなスティック状の調剤化粧品に使用することができる。」と記載されていること(摘示事項2.3)、通常、口紅等のスティック状化粧料の製造において、各種のワックス類を適宜選択することは慣用手段であることを考慮すれば、甲第4号証に記載された転色のない口紅において、ワックス類として甲第8号証及び3に記載されているシリコーンエステルワックスを適宜配合することは当業者が容易に推考できた事項であると認められ、かかる構成を採用することにより格別顕著な効果が奏されるものと認められない。 したがって、本件請求項1に係る発明は、その出願前に頒布された刊行物である甲第4号証、第8号証及び第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 5-4 請求項2に係る発明について 同請求項に係る発明は、請求項1の発明について、a)成分の揮発性溶媒がシリコーンとイソパラフィンの1:10〜10:1の混合比であることを限定するものであるところ、甲第4号証には揮発性溶媒として、シリコーンやイソパラフィンを用いることが記載されており(摘示事項1.1)、甲第17号証には揮発性溶媒としてシリコーンとイソパラフィンを重量部の比で16:40すなわち2:5の比で用いた色移りしにくい口紅の例(摘示事項4.1〜4.4)が記載されている。 揮発性溶剤として、特定の炭素数のイソパラフィンを用い、シリコーンとの配合比を適宜調整することは当業者が通常行う事項と認められるから本件請求項2に係る発明は、甲第4号証、8号証、9号証及び17号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 5-5 請求項3に係る発明について 同請求項に係る発明は、請求項1又は2に係る発明についてシリコーンエステルワックスのRがメチルであるものに限定する発明であるが、甲第8号証及び9号証におけるシリコーンはRがメチルであるから、請求項1と同様の理由で、当業者が容易に発明をすることができたものである。 5-6 請求項4に係る発明について 同請求項に係る発明は、請求項1〜3における発明について、カルボン酸が脂肪酸であることを限定するものであるが、甲第8号証及び9号証に記載されたものはステアリン酸等の脂肪酸のエステルであるから、請求項1と同様の理由で当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。 5-7 請求項5、6に係る発明について 該請求項に係る発明は、請求項4における脂肪酸がイソステアリン酸(請求項5)又はラウリン酸(請求項6)であることを限定するものであるが、甲第9号証には、シリコーンエステルの脂肪酸として、ラウリン酸とイソステアリン酸の両者をベースとエステルしたエステルが他のワックス等と優れた相溶性を示したことが記載されているから、脂肪酸としてラウリン酸及びイソステアリン酸を選ぶことは当業者にとって容易である。 したがって、請求項5、6に係る発明は、甲第4号証、8号証及び9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 5-8 請求項7に係る発明について 同項の発明は、請求項1〜6に係る発明について、シリコーンエステルワックスがシロキシシロケートであることを限定するものであるが、甲第8号証及び9号証のものがシロキシシロケートであることは明らかであるから、上記と同様の理由で当業者が容易に発明をすることができたものである。 5-9 請求項8に係る発明について 同項に係る発明は請求項4に係る発明について、脂肪酸部分が「脂肪酸アルコール部分」によってケイ素原子から分離されているものであることを限定するものであるが、前記「脂肪酸アルコール」とは、「脂肪族アルコール」の誤記と解される。 そして、甲第8号証の実施例1や実施例4に記載されたものは、脂肪酸部分が脂肪族アルコール部分であるトリメチロールプロパンの部分によってケイ素原子と分離されているものであるから、請求項4について述べた理由と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。 5-10 請求項9に係る発明について 同項に係る発明は、請求項4に係る発明について、脂肪酸の炭素数が12〜18であることを限定するものであるが、炭素数12のラウリン酸及び炭素数18のステアリン酸及びイソステアリン酸のものは甲第9号証に記載されているから、請求項9に係る発明は、請求項4と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。 5-11 請求項10及び11に係る発明について 同請求項に係る発明は、請求項1〜9についてワックス成分の融点(請求項10)により、1〜10に係る発明についてワックスの種類について限定する(請求項11)ものであるが、甲第4号証の発明で使用されているカルナウバロウやマイクロクリスタリンワックスは本件明細書において段落【0009】において35〜120℃の融点であるものとして例示されているものであるから、請求項1と同様の理由で当業者が容易に発明をすることができたものである。 5-12 請求項12、13に係る発明について 同請求項は、請求項1〜11の発明について「粉末」の粒径や粉末と顔料との配合比について限定するものであるが、粉末の粒径として0.02〜50μmは通常の値であり、粉末と顔料との比は適宜選定できるものであるから、請求項1と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。 5-13 請求項14、15に係る発明について 同請求項は、請求項1〜13に係る発明について、使用する油について、低粘度及び高粘度の油の混合物であること、低粘度は25℃で5〜100センチポアズ、高粘度は同じく200〜1,000,000ポアズであることを規定するものであるが、通常口紅等のスティック状化粧料において、異なる種類の油を用いることは普通に行われており、特定の粘度によって高粘度と低粘度に区別し、粘度の異なる油を併用することは当業者が適宜選択しうる事項と認められ、この点に技術的意義があるものとは認められないから、請求項1と同様に当業者が容易に発明をすることができたものである。 5-14 請求項16、17に係る発明について 同請求項に係る発明は、請求項1〜15に係る発明について、シリコーンエステルワックスが室温で液状または固体であることを限定するものであるが、シリコーンエステルワックスとして固体のものと液体のものがあることは甲第9号証(摘示事項3.4)に記載されているとおりであるから、請求項1と同様の理由で、当業者が容易に発明をすることができたものである。 5-15 請求項18、19に係る発明について 同請求項に係る発明は、請求項1〜17に係る発明について、シリコーンエステルワックスがジステアリルトリメチロールプロパンシロキシシロケート又はラウロイルトリメチロールプロパンシロキシシロケートに限定するものであるが、上記の限定事項はシリコーンエステルワックスとしていずれも甲第9号証に記載されているものであるから、請求項1と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。 5-16 請求項20に係る発明について 同項に係る発明は、請求項1〜19に係る発明について、形態がリップスティクであって、唇に塗った場合、当該リップステイックを用いて塗った唇が手の甲に接触するときでも実質的に唇からうつらないという効果を有するものであることを特定するものであるが、上記限定によって請求項1の発明と何ら異なるものではないから、請求項1と同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。 5-17 請求項21に係る発明について 化粧料を適当な容器に収容することは自明の事項であるから請求項1と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。 5-18 請求項22に係る発明について 同請求項に係る発明は、請求項1〜21に係る発明の組成物又は化粧料を局所適用することを含む肌又は唇をメークアップする方法であるが、上記のとおり請求項1の組成物に係る発明が甲第4号証、8号証、9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、そのような組成物を用いメークアップする方法も同様の理由で当業者にとって容易である。 5-19 請求項23に係る発明について 同請求項に係る発明は、a)〜e)の成分を含む、耐うつり性が改良されている無水スティク状化粧料組成物すなわち請求項1に記載された組成物の製造方法に係る発明であるが、「原料を緊密に物理的に混合し、必要に応じて、得られた混合物を型の中で固めること」はスティク状化粧料の製法として極めて普通の方法であって、その組成は請求項1に係る組成物に他ならないから、請求項1に係る発明と同様の理由で、甲第4号証、8号証、9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 6.むすび 以上のとおり、本件請求項1〜23に係る発明はその出願日(優先日)前に頒布された刊行物である甲第4号証、8号証、9号証、17号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない発明である。 したがって、他の無効理由について検討するまでもなく、本件請求項1〜23に係る発明の特許は特許法第123条第1項の規定により無効とすべきものである。 よって結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2005-02-07 |
結審通知日 | 2005-02-09 |
審決日 | 2005-02-28 |
出願番号 | 特願平5-308055 |
審決分類 |
P
1
113・
121-
Z
(A61K)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 池田 正人 |
特許庁審判長 |
森田 ひとみ |
特許庁審判官 |
深津 弘 横尾 俊一 |
登録日 | 1997-04-25 |
登録番号 | 特許第2636713号(P2636713) |
発明の名称 | 改善された耐うつり性化粧料組成物 |
代理人 | 栗田 忠彦 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 狩野 剛志 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 渡邊 隆 |
代理人 | 高橋 詔男 |
代理人 | 小林 泰 |
代理人 | 増井 忠弐 |
代理人 | 村山 靖彦 |
代理人 | 今井 庄亮 |
代理人 | 社本 一夫 |