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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1119373
審判番号 不服2003-14127  
総通号数 68 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-07-24 
確定日 2005-07-07 
事件の表示 平成 7年特許願第229972号「電池用電極」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 3月28日出願公開、特開平 9- 82310〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 [1]本願発明
本願は、平成7年9月7日の出願であって、その請求項1〜3に係る発明は、平成15年6月2日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定されるとおりのものであると認めるところ、請求項1,2に係る発明は次のとおりのものである。
「【請求項1】 電解液に有機溶剤を用いるリチウム二次電池に使用される、導電性高分子にアニオン性膜が被覆された電池用電極において、該導電性高分子に含有せしめるドーパントアニオンとして、該電解液に用いられている有機溶媒に対する溶解性を示さないアニオンを使用したことを特徴とする電池用電極。
【請求項2】 請求項1に記載の電池用電極において、ドーパントアニオンとしてClアニオンを用いたことを特徴とする電池用電極。」
(以下、請求項1,2に係る発明を、それぞれ「本願発明1,2」という。)

[2]引用刊行物とその記載事項
(1)これに対して、原査定の拒絶理由に引用例1として引用した、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平6-283155号公報には、下記の事項が記載されている。
(1-ア)「電極基体に担持した導電性高分子を備えた電池用電極において、該導電性高分子が、アニオン性高分子電解質膜で被覆して構成されたことを特徴とする電池用電極。」(請求項1)

(1-イ)「本発明者らは・・・電極基体に担持した導電性高分子にアニオン性高分子電解質膜を被覆した構造を特徴とする電池用電極が、比表面積が大きく電池性能に優れた微細構造を維持したまま、カチオン移動性を示す電池用電極となることを見い出した。」(【0009】)

(1-ウ)「本発明において導電性高分子とは、その主鎖がπ共役系からなる電子導電性を発現する高分子である。・・・この中でも特に、優れた電池性能を示すことが知られているポリアニリン、ポリピロールおよびそれらの誘導体が好ましい。該導電性高分子の重合方法としては、一般に電解重合と化学重合とに大別されるが、本発明にかかる電池用電極は導電性高分子の重合方法を限定するものではなく、何れの重合方法において製造された導電性高分子とも使用可能である。」(【0010】)

(1-エ)「〈比較例1〉・・・図3に示すように、該電池用電極を正極5とし、SUSネット(・・・)上に金属リチウム箔(・・・)を圧着したものを負極6とし、1M-LiClO4プロピレンカーボネート溶液を電解液7としてアルゴンガス雰囲気下で電池を組み立て、充放電電源9を接続した。」(【0015】〜【0016】)

(1-オ)「〈実施例1〉・・・1Mアニリンおよび2M-HClO4の混合水溶液を重合液3として用い、4mAの一定電流で17分間電解し、ポリアニリンを該電極基体上に1mg担持した。その後、該ポリアニリンを5Wt%ポリスチレンスルホン酸水溶液に浸漬して50℃で60分間加熱乾燥する操作を3回繰り返し、該ポリアニリン上に1mgのアニオン性高分子電解質膜を被覆した。最後に100℃で180分間真空乾燥させて電池用電極とした。・・・比較例1と同様に、第3図に示す電池を構成して充放電を繰り返したところ、・・・」【0018】

(1-カ)「本発明による電池用電極では、・・・該導電性高分子に被覆したアニオン性高分子電解質膜の作用により、該電池用電極の酸化・還元に応じてカチオンの放出・取り込みを行なう機能を有するため、容量密度の大きな電池用電極を得ることができる。」(【0022】)

(2)同じく引用例2として引用した、本願の出願前に頒布された特開平4-36967号公報(以下「刊行物2」という)には、下記の事項が記載されている。
(2-ア)「ポリアニリン・・・等の高分子材料は、ドーピングにより導電性となり・・・二次電池・・・等の各種電極に応用されている。」(第1頁右欄第3〜7行)

(2-イ)「HCl、H2SO4、HNO3で電解重合したポリアニリンはドーパントが非水溶媒に不溶なために放電容量が小さいことが報告され、HClO4、HBF4等の電解液に可溶なアニオンを含む酸中で電解重合したポリアニリンが放電容量が大きいとしている。」(第1頁右欄第18行〜第2頁左上欄第3行)

[3]当審の判断
(1)刊行物1発明
刊行物1には、記載(1-ア)によると「電極基体に担持した導電性高分子を備えた電池用電極において、該導電性高分子が、アニオン性高分子電解質膜で被覆して構成されたことを特徴とする電池用電極」が記載されている。そして、この電極は、記載(1-イ)、(1-カ)によると「電極の酸化・還元に応じてカチオンの放出・取り込みを行なう機能を有する」(1-カ)、「カチオン移動性」(1-イ)のものであり、この導電性高分子は、記載(1-ウ)によると「重合方法を限定するものではなく、何れの重合方法において製造された導電性高分子とも使用可能である」ものであって、記載(1-オ)によると、具体的には「1Mアニリンおよび2M-HC1O4の混合水溶液を重合液として用い、・・・電解し、ポリアニリン」に重合したものであるから、「ClO4アニオンでドープされたポリアニリン」であるといえる。また、記載(1-エ)、(1-オ)によると、この電池用電極は、「該電池用電極を正極とし、・・・金属リチウム箔・・・を負極とし、1M-LiClO4プロピレンカーボネート溶液を電解液7として」組み立てられた電池に用いられるものであるから、「電解液の有機溶剤にプロピレンカーボネートを用いるリチウム二次電池」に使用される電極であるといえる。
以上の記載をまとめると、刊行物1には、「電解液に有機溶剤のプロピレンカーボネートを用いるリチウム二次電池に使用される、導電性高分子にアニオン性膜が被覆された電池用電極において、該導電性高分子であるポリアニリンに含有せしめるドーパントアニオンとして、C1O4アニオンを使用した電池用電極。」の発明が記載されているといえる(以下この発明を「刊行物1発明」という。)。

(2)対比
本願発明1(前者)と、刊行物1発明(後者)とを対比すると、両者は、「電解液に有機溶剤を用いるリチウム二次電池に使用される、導電性高分子にアニオン性膜が被覆された電池用電極において、該導電性高分子にドーパントアニオンを含有せしめる電池用電極。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点:導電性高分子に含有せしめるドーパントアニオンとして、前者は電解液に用いられている有機溶媒に対する溶解性を示さないアニオンを使用するのに対して、後者はClO4アニオンを使用する点。

(3)判断
刊行物1発明における導電性高分子は、記載(1-オ)によるとHClO4を含む重合液を用いて電解重合することにより、ClO4アニオンをドーパントとしたものであって、記載(1-イ)、(1-カ)によると「電極の酸化・還元に応じてカチオンの放出・取り込みを行なう機能を有する」「カチオン移動性」の電極となるものであり、記載(1-ウ)によると、「重合方法を限定するものではなく、何れの重合方法において製造された導電性高分子とも使用可能」なものである。
上記記載によれば、刊行物1発明における電極は、導電性高分子の充放電(酸化・還元)に応じて移動するカチオンが電極容量に寄与するカチオン移動性のものであって、カチオンは電解液を介して移動するから、移動性を担保するためにカチオンは電解液溶解性である必要があるといえるが、導電性高分子のドーパントアニオンは、高分子に導電性を付与すればよいものであって、充放電に寄与するために移動する必要がない、すなわち電解液の有機溶媒に対して溶解性である必要がないものであることは明らかである。
一方、刊行物2の「ポリアニリン・・・等の高分子材料は、ドーピングにより導電性となり・・・二次電池・・・の各種電極に応用されている」(2-ア)、及び「HCl、H2SO4、HNO3で電解重合したポリアニリンはドーパントが非水溶媒に不溶」(2-イ)という記載によれば、HClを含む重合液で電解重合したポリアニリンはClアニオンがドーパントアニオンとなって導電性となること、そのドーパントアニオン(Clアニオン)は二次電池の電解液に用いられる非水溶媒に溶解性を示さないことが、本願出願時公知であったといえる。
そうすると、刊行物1発明における導電性高分子のドーパントアニオンは、上記のとおり、電解液の有機溶媒に対して溶解性である必要がなく、単に高分子に導電性を付与すればよいものであるから、「ClO4アニオン」に代えて、電解液の有機溶媒に対する溶解性はないが高分子に導電性を付与することが公知である「Clアニオン」を採用し、上記相違点における本願発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことといえる。
また、本願発明2は、本願発明1のドーパントアニオンをClアニオンに限定するものであるから、上記と同様の理由により、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものといえる。

なお、審判請求人は、審判請求書及び回答書において、刊行物2記載のドーパントである「Clアニオン」は導電性高分子の充放電に関与しないから、ドープ量が増えると電極の放電容量が小さくなってしまうので、刊行物2は「Clアニオン」の採用を否定するものであり、刊行物1と刊行物2の記載を組み合わせて本願発明をすることはできない旨、主張している。
しかしながら、刊行物2においては、記載(2-イ)によると、ドーピングアニオンが電解液に可溶であると放電容量が大きく、不溶であると放電容量が小さい、すなわち「アニオン移動性」の電極を前提としているから、電解液に不溶で充放電に寄与しない「Clアニオン」の使用量を制限しているのであって、刊行物1発明の電極は「ドーピングアニオン」が充放電に寄与する必要のない「カチオン移動性」のものであることは、前示のとおりであるから、この刊行物1発明に、充放電に寄与しない(電解液に用いられている有機溶媒に対する溶解性を示さない)「Clアニオン」を適用することは、何ら差し支えがないというべきであって、上記審判請求人の主張は当を得たものではない。

[4]むすび
以上のとおりであるから、本願発明1,2は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-04-26 
結審通知日 2005-05-10 
審決日 2005-05-24 
出願番号 特願平7-229972
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 植前 充司  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 吉水 純子
原 賢一
発明の名称 電池用電極  
代理人 石川 新  
代理人 石川 新  

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