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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  B41N
審判 全部申し立て 2項進歩性  B41N
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  B41N
管理番号 1119380
異議申立番号 異議2002-73122  
総通号数 68 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-12-17 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-12-27 
確定日 2005-04-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3297714号「感熱孔版印刷用原版及びその製造方法」の請求項1ないし9に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3297714号の請求項1ないし8に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
本件の出願からの主だった経緯を箇条書きにすると次のとおりである。
・平成7年5月15日 本件出願
・平成14年4月19日 特許第3297714号として設定登録(請求項1〜9)
・平成14年12月27日 異議申立人比嘉道子より全請求項に係る発明について特許異議の申立て
・平成15年2月28日付け 取消し理由の通知
・平成15年5月13日 特許異議意見書及び訂正請求書提出
・平成15年5月20日付け 異議申立人に対する審尋
・平成15年6月26日 異議申立人より回答書の提出
・平成16年8月17日付け 取消し理由の通知
・平成16年10月25日 特許異議意見書の提出
・平成16年12月7日 異議申立人より上申書の提出


第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の記載を、
「【請求項1】 熱可塑性樹脂フィルムの一方の面を床とし壁状に立っている壁状皮膜からなる支持体を有することを特徴とする感熱孔版印刷用原版。」
から、
「【請求項1】 熱可塑性樹脂フィルムの一方の面に、該面を床とし壁状に立っている壁状皮膜からなる支持体を有する感熱孔版印刷用原版であって、該壁状皮膜が該熱可塑性樹脂フィルム面に必らず接する泡沫によって構成されたものであることを特徴とする感熱孔版印刷用原版。」
に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を、削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5の項番を4に改めた上で、その記載を、
「【請求項5】 泡抹によって形成された壁状皮膜を熱可塑性樹脂フィルム上に設けることを特徴とする感熱孔版印刷用原版の製造方法。」
から、
「【請求項4】 泡抹によって形成された壁状皮膜を熱可塑性樹脂フィルム上に設けることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の感熱孔版印刷用原版の製造方法。」
に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6の項番を5に改めた上で、その記載を、
「【請求項6】 泡抹を有する流動性組成物を熱可塑性樹脂フィルム上に塗布し、乾燥することを特徴とする感熱孔版印刷用原版の製造方法。」
から、
「【請求項5】 泡抹を有する流動性組成物を熱可塑性樹脂フィルム上に塗布し、乾燥することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の感熱孔版印刷用原版の製造方法。」
に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7の項番を6に改めた上で、その記載を、
「【請求項7】 泡抹を発生させる物質を含有する流動性組成物を熱可塑性樹脂フィルム上に塗布し、その塗布中又は塗布後に気体を発生させることを特徴とする感熱孔版印刷用原版の製造方法。」
から、
「【請求項6】 泡抹を発生させる物質を含有する流動性組成物を熱可塑性樹脂フィルム上に塗布し、その塗布中又は塗布後に気体を発生させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の感熱孔版印刷用原版の製造方法。」
に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8の項番を7に改めた上で、その記載を、
「【請求項8】 互いに接することにより気体が発生する2種以上に成分のうちの一方の成分を熱可塑性樹脂フィルム上に塗工しておき、この塗工面に他の成分を含む流動性組成物を塗布し、発泡、皮膜化することを特徴とする感熱孔版印刷用原版の製造方法。」
から、
「【請求項7】 互いに接することにより気体が発生する2種以上に成分のうちの一方の成分を熱可塑性樹脂フィルム上に塗工しておき、この塗工面に他の成分を含む流動性組成物を塗布し、発泡、皮膜化することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の感熱孔版印刷用原版の製造方法。」
に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項9の項番を8に改めた上で、その記載を、
「【請求項9】 1気圧より高い気圧下で気体を溶解せしめた流動性組成物を常圧下で熱可塑性樹脂フィルムに塗布し、発泡させることを特徴とする感熱孔版印刷用原版の製造方法。」
から、
「【請求項8】 1気圧より高い気圧下で気体を溶解せしめた流動性組成物を常圧下で熱可塑性樹脂フィルムに塗布し、発泡させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の感熱孔版印刷用原版の製造方法。」
に訂正する。

(8)訂正事項8
明細書の段落【0008】の記載を、
「本発明によれば、
(1)熱可塑性樹脂フィルムの一方の面に、該面を床とし壁状に立っている壁状皮膜からなる支持体を有する感熱孔版印刷用原版であって、該壁状皮膜が該熱可塑性樹脂フィルム面に必らず接する泡沫によって構成されたものであることを特徴とする感熱孔版印刷用原版、
(2)前記(1)において壁状皮膜が相互に結合していることを特徴とする感熱孔版印刷用原版、
(3)前記(1)又は(2)において、壁状皮膜の少なくとも一部分が150℃以下の軟化温度を有することを特徴とする感熱孔版印刷用原版、が提供される。」
と訂正する。

(9)訂正事項9
明細書の段落【0009】の記載を、
「さらに本発明によれば、前記(1)(2)又は(3)の感熱孔版印刷用原版を作成する手段として、
(4)泡抹によって形成された壁状皮膜を熱可塑性樹脂フィルム上に設けることを特徴とする感熱孔版印刷用原版の製造方法、
(5)泡抹を有する流動性組成物を熱可塑性樹脂フィルム上に塗布し、乾燥することを特徴とする感熱孔版印刷用原版の製造方法、
(6)泡抹を発生させる物質を含有する流動性組成物を熱可塑性樹脂フィルム上に塗布し、その塗布中又は塗布後に気体を発生させることを特徴とする感熱孔版印刷用原版の製造方法、
(7)互いに接することにより気体が発生する2種以上に成分のうちの少なくとも1種をフィルム上に塗工しておき、この塗工面に他の成分を含む流動性組成物を塗布し、発泡、皮膜化することを特徴とする感熱孔版印刷用原版の製造方法、
(8)1気圧より高い気圧下で気体を溶解せしめた流動性組成物を常圧下で熱可塑性樹脂フィルムに塗布し、発泡させることを特徴とする感熱孔版印刷用原版の製造方法、
が提供される。」
と訂正する。

(10)訂正事項10
明細書の段落【0013】中の「しかし、感熱孔版印刷用インキは一般にW/O系エマルションであり、壁状皮膜がこれらの成分で製版により実質的に破壊され皮膜状でなくなることによりこの問題は解決できる。」という記載を削除する。

(11)訂正事項11
明細書の段落【0033】の記載を、
「請求項1、2、5、6、7及び8の発明によれば、コシの強い良質の画質が得られる感熱孔版印刷用原版が得られる。
請求項3の発明によれば、上記の効果に加えて、サーマルヘッドによる穿孔が効果的に行なえる感熱孔版印刷用原版が得られる。」
と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項1は、請求項1に記載された「壁状皮膜」が、熱可塑性樹脂フィルム面に必らず接する泡沫によって構成されたものであることを限定するためのものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、本件の願書に添付された明細書の段落【0009】には「泡抹によって形成された壁状皮膜を熱可塑性樹脂フィルム上に設ける」と、段落【0015】には「本発明の感熱孔版印刷用原版を製造するには泡抹によって形成された壁状皮膜を熱可塑性樹脂フィルム上に形成するのがよい。」と、段落【0020】には「泡抹によって構成された壁状皮膜を形成させるには下記のような方法が採用される。」と記載されていることから、壁状皮膜が泡沫によって構成されたものである点については、願書に添付された明細書に記載された事項であり(なお、当該段落【0009】、【0015】及び【0020】の記載については補正あるいは訂正されておらず、出願当初の記載のままである。)、また、願書に添付された図面の【図1】には、壁状皮膜を構成する泡沫が、いずれも熱可塑性樹脂フィルム1の一方の面に接していることが示されていることから、泡沫が熱可塑性樹脂フィルム面に必ず接する点については、願書に添付された図面に記載された事項である(なお、【図1】の記載については補正あるいは訂正されておらず、出願当初の記載のままである。)。したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。また、訂正事項1が、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものでないことは明らかである。
また、上記訂正事項2については、請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、かつ、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものでないことは明らかである。
また、上記訂正事項3〜7は、上記訂正事項2による請求項4の削除に伴って、請求項5〜9の項番をそれぞれ1ずつ繰り上げると共に、各請求項に係る発明として、請求項1〜3のいずれかに係る発明の構成要件の全てを、その構成要件の一部とするものであるから、明りょうでない記載の釈明、及び、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、訂正事項1に関して指摘したように、段落【0020】には「泡抹によって構成された壁状皮膜を形成させるには下記のような方法が採用される。」と記載されており、当該記載に引き続いて、段落【0020】〜【0024】に、訂正後の請求項4〜8に記載された壁状皮膜の形成方法が記載されていることから、上記訂正事項3〜7は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。また、上記訂正事項3〜7が、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものでないことは明らかである。
さらに、上記訂正事項8は上記訂正事項1及び2との整合を図るものであり、上記訂正事項9は上記訂正事項3〜7との整合を図るものであり、上記訂正事項10は上記訂正事項2との整合を図るものであり、上記訂正事項11は上記訂正事項2〜7との整合を図るものであるから、これら訂正事項8〜11は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。また、これら訂正事項8〜11が、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、かつ、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものでないことは明らかである。

3.むすび
したがって、本件訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。


第3 特許異議の申立てについての判断
1.本件発明の認定
上述したように、訂正が認められるから、本件の請求項1〜8に係る発明(以下、各請求項に係る発明をそれぞれ「本件発明1」〜「本件発明8」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜8に記載されたとおりの次のものと認める。
「【請求項1】 熱可塑性樹脂フィルムの一方の面に、該面を床とし壁状に立っている壁状皮膜からなる支持体を有する感熱孔版印刷用原版であって、該壁状皮膜が該熱可塑性樹脂フィルム面に必らず接する泡沫によって構成されたものであることを特徴とする感熱孔版印刷用原版。
【請求項2】 壁状皮膜が相互に結合していることを特徴とする請求項1記載の感熱孔版印刷用原版。
【請求項3】 壁状皮膜の少なくとも一部分が150℃以下の軟化温度を有することを特徴とする請求項1又は2の感熱孔版印刷用原版。
【請求項4】 泡抹によって形成された壁状皮膜を熱可塑性樹脂フィルム上に設けることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の感熱孔版印刷用原版の製造方法。
【請求項5】 泡抹を有する流動性組成物を熱可塑性樹脂フィルム上に塗布し、乾燥することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の感熱孔版印刷用原版の製造方法。
【請求項6】 泡抹を発生させる物質を含有する流動性組成物を熱可塑性樹脂フィルム上に塗布し、その塗布中又は塗布後に気体を発生させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の感熱孔版印刷用原版の製造方法。
【請求項7】 互いに接することにより気体が発生する2種以上に成分のうちの一方の成分を熱可塑性樹脂フィルム上に塗工しておき、この塗工面に他の成分を含む流動性組成物を塗布し、発泡、皮膜化することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の感熱孔版印刷用原版の製造方法。
【請求項8】 1気圧より高い気圧下で気体を溶解せしめた流動性組成物を常圧下で熱可塑性樹脂フィルムに塗布し、発泡させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の感熱孔版印刷用原版の製造方法。」

2.当審が平成16年8月17日付けで通知した取消し理由の概要
当審が平成16年8月17日付けで通知した取消し理由の概要は、次のとおりである。
(1)取消し理由1
本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載された形成方法によっては、本件発明1〜8の「壁状皮膜が該熱可塑性樹脂フィルム面に必らず接する泡沫によって構成されたものである」という構成を実現することはできず、かつ、当該構成を実現する手段が、当業者にとって自明のものであるとは認められないから、本件訂正明細書及び図面の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

(2)取消し理由2
訂正後の請求項1の「熱可塑性樹脂フィルム面に必らず接する泡沫」との記載が、熱可塑性樹脂フィルム面に接しない泡沫がある程度は存在するものを許容する記載であるとすると、訂正後の請求項1の記載、及び、当該請求項1を引用する形式で記載された請求項2〜8の記載では、フィルム面に接しない泡沫の割合としてどのような値までを許容するのかを特定することができないから、請求項1〜8の記載は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項が不明瞭であって、特許法第36条第5項第2号及び第6項に規定する要件を満たしていない。

(3)取消し理由3
本件の請求項1〜6、8に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された次の引用刊行物1〜9に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
引用刊行物1:特開昭63-207694号公報
引用刊行物2:特開昭61-102296号公報(異議申立人が提出した甲第1号証)
引用刊行物3:「化学大事典」第1版第1刷、株式会社東京化学同人、1989年10月20日発行、第2243頁〜第2244頁(異議申立人が提出した参考文献1)
引用刊行物4:「実用プラスチック辞典」初版第2刷、株式会社産業調査会、1993年9月20日、第844頁〜第855頁(異議申立人が提出した参考文献5)
引用刊行物5:特開平5-320402号公報(異議申立人が提出した参考文献6)
引用刊行物6:特開平1-209120号公報(異議申立人が提出した参考文献7)
引用刊行物7:特開平6-238789号公報(異議申立人が提出した参考文献8)
引用刊行物8:特開平4-364908号公報(異議申立人が提出した参考文献9)
引用刊行物9:特開平6-115270号公報(異議申立人が提出した参考文献10)

3.取消し理由1についての当審の判断
訂正後の請求項1には「熱可塑性樹脂フィルムの一方の面に、該面を床とし壁状に立っている壁状皮膜からなる支持体を有する感熱孔版印刷用原版であって、該壁状皮膜が該熱可塑性樹脂フィルム面に必らず接する泡沫によって構成されたものであることを特徴とする感熱孔版印刷用原版。」と記載されている。上記訂正後の請求項1の記載中の「壁状皮膜が該熱可塑性樹脂フィルム面に必らず接する泡沫によって構成された」とは、壁状皮膜を構成する泡沫の全てが熱可塑性樹脂フィルム面に接していること、すなわち、壁状皮膜を構成する泡沫は、熱可塑性樹脂フィルムの厚さ方向には1個しか存在しないこと(本件図面の【図1】のような状態)を意味しているものと解することが自然である。
このことは、訂正請求書と同日(平成15年5月13日)に提出された意見書の「壁状皮膜が、本件発明においては該熱可塑性樹脂フィルム面に必ず接する泡沫によって構成されたもの(換言すれば、該泡沫の全てが熱可塑性樹脂フィルム面上に複数重なることはなく、厚さ方向には1個のみ存在する形態のもの)である」(第5頁第13行〜同頁第16行)及び「本件発明の多孔質層の支持体は、厚さ方向には泡沫(孔)が1個のみ存在する形態の構造となっています。」(第6頁第17行〜同頁第18行)と記載されていることや、平成16年10月25日付け特許異議意見書の「本件特許発明においては、泡沫が該熱可塑性樹脂フィルムの面に必ず接しており、換言すれば、該泡沫の全てが該熱可塑性樹脂フィルム面上において、該熱可塑性樹脂フィルムの厚さ方向には1個のみ存在する形態を有しています。」(第2頁第2行〜同頁第5行)及び「反応の結果として生成する泡沫は、前記界面において成長し、大きくなっていきます。このとき、前記界面において十分に成長しなかった微小な泡沫も若干生成しますが、これらの微小な泡沫は前記界面において成長した大きな泡沫によって吸収され、合一される結果、本件特許発明においては、前記泡沫が、前記界面上にのみ存在し、前記熱可塑性樹脂フィルム面上でその厚み方向に単層に形成されるのであります。」(第2頁第24行〜同頁末行)と記載されていること、さらには、平成16年8月17日付けで通知した上記「取消し理由2」については、実質的な反論がないことからも裏付けられる。

ここで、「熱可塑性樹脂フィルム面に必らず接する泡沫によって構成された」壁状皮膜の形成方法として、訂正明細書の発明の詳細な説明には、以下の形成方法が例示されている。
形成方法1:「水などの液体に、前記の皮膜を形成する物質、界面活性剤、その他を加え、アジテータ、ミキサーなどで撹拌、発泡させ、塗布し、乾燥する。発泡の手段として撹拌以外に化学反応も利用できる。例えば炭酸水素ナトリウムと酒せき酸などの酸の反応、硫酸アルミニウムと炭酸水素ナトリウムの反応などの泡が消えないうちに塗工し、乾燥する。塗工液の処方、撹拌条件などはいくつかの実験により決定される。塗布にはエアドクタ、ブレード、トラスファロール、ロッド、リバースロール、グラビア、ダイ、ノッチバー、ファウンテンなどの各種方式のコーターが用いられる。乾燥条件としては熱可塑性樹脂フィルムに悪影響を与えないことが必要で、乾燥温度も60℃以下が望ましい。」(段落【0020】)
形成方法2:「50℃から60℃位で流動性を示す例えば、ワックス、ポリエチレングリコールなどを発泡させ、塗布後冷却して固める。」(段落【0021】)
形成方法3:「エネルギーにより窒素、炭酸ガス、水蒸気、酸素、水素などの気体を発生する発泡剤を含む組成物流動体を塗工し、熱、光、電磁波、放射線、電気などのエネルギーにより気体を発生させ、泡の部分を固体化する。この場合、壁状皮膜形成後に発泡させてもよい。流動体中に含まれたカプセルが溶解しまたは熱、その他のエネルギーの作用でやぶれ、化学的、物理的作用により気体を発生せしめてもよい。カプセルが熱などにより膨らんだものを泡として利用してもよい。ドライアイスの気化による炭酸ガス、ジアゾ化合物に光を当てることにより発生する窒素なども利用できる。」(段落【0022】)
形成方法4:「互いに接することにより気体が発生する2種以上の成分のうちの、少なくとも1種をフィルムに加工しておき、残りの成分を含む液を塗工し気体を発生せしめてもよい。例えば互いに接することにより気体が発生する2種以上の成分のうちの、少なくとも1種をフィルムに加工しておき、残りの成分を含む液を塗工し気体を発生せしめてもよい。例えば炭酸水素ナトリウムと、少量のCMC、ポリビニルアルコール、ゼラチン、アルギン酸ソーダなどの成膜機能を有する物質を含む水溶液をフィルムに塗布し、乾燥し、その後、酒せき酸、硫酸アルミニウム及び皮膜形成材料などを含む液をその上に塗工して炭酸ガスの泡を発生せしめ、乾燥して目的の皮膜を形成する。」(段落【0023】)
形成方法5:「液中に高圧下で空気などの気体を溶解せしめ、その後常圧下でフィルムに塗工することにより泡を発生せしめ、乾燥して目的の皮膜を形成する。」(段落【0024】)

さらに、訂正明細書の発明の詳細な説明には、実施例1〜5として、次の壁状皮膜の形成方法が記載されている。
「表1に示した処方の液をホモミキサーを用いて泡立て、その泡をエアナイフコーターを用い、該フィルム上に塗工、50℃〜70℃にて乾燥した(実施例1〜4)。実施例5はホモミキサーを用いず、発泡する泡を塗工、乾燥した。乾燥後の付着量は2〜7g/m2であった。」(段落【0027】)

しかしながら、上記いずれの形成方法(「形成方法1」〜「形成方法5」、及び実施例1〜5の形成方法)においても、壁状皮膜の形成過程において、発生させる泡沫の大きさや、発泡層中における泡沫の位置を完璧にコントロールすることが不可能であることは、技術常識からみて明らかであり、泡沫の大きさや位置を完璧にはコントロールできない以上、熱可塑性樹脂フィルムの厚さ方向に泡沫が複数存在する状態を、完全には除去できないことも明らかである。つまり、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された形成方法によっては、請求項1の記載中の「壁状皮膜が該熱可塑性樹脂フィルム面に必ず接する泡沫によって構成されたものである」という構成を実現することはできず、かつ、当該構成を実現する手段が、当業者にとって自明のものであるとは認められない。
以上のとおり、本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、当業者が容易に実施できる程度に、訂正後の請求項1〜8に係る発明の目的、構成、効果が記載されているとすることができないから、本件請求項1〜8に係る特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

なお、特許権者は、平成16年10月25日付け特許異議意見書において、上記記載不備について、「本件特許発明に係る感熱孔版印刷用原版における前記壁状皮膜は、本件明細書の段落【0023】に記載の通り、”互いに接することにより気体が発生する2種以上の成分のうち少なくとも1種をフィルムに加工しておき、残りの成分を含む液を塗工して気体を発生せしめる”ことにより形成されます。前記壁状皮膜は泡沫により形成されていますが、該泡沫は、それを発生させる2種以上の成分の反応によって形成されます。そして、該泡沫を形成する2種以上の成分中の少なくとも1種が前記熱可塑性樹脂フィルム上に添加され、残りが該熱可塑性樹脂フィルム上に塗布される前記塗工液中に添加されているため、前記可塑性樹脂フィルム中に含まれる泡沫形成成分と、前記塗工液中に含まれる泡沫形成成分との反応は、常に、両者の接触面、即ち該熱可塑性樹脂フィルムと前記塗工液との界面において生じます。該反応の結果として生成する泡沫は、前記界面において成長し、大きくなっていきます。このとき、前記界面において十分に成長しなかった微小な泡沫も若干生成しますが、これらの微小な泡沫は前記界面において成長した大きな泡沫によって吸収され、合一される結果、本件特許発明においては、前記泡沫が、前記界面上にのみ存在し、前記熱可塑性樹脂フィルム面上でその厚み方向に単層に形成されるのであります。」(第2頁第14行〜同頁末行)と主張しているが、当該主張は、訂正明細書の段落【0023】に記載された「形成方法4」に関する主張であって、当該記載に対応する請求項は、訂正後の請求項1〜4及び7である。つまり、請求項5、6及び8に記載された形成方法については、特許権者は反論をしていない。
そこで、訂正明細書に記載された「形成方法4」について検討すると、上記特許権者の主張において説明されている形成方法は、本件訂正明細書に記載された形成方法ですらない。特許権者が指摘する段落【0023】の記載は、当該記載に引き続く「例えば炭酸水素ナトリウムと、少量のCMC、ポリビニルアルコール、ゼラチン、アルギン酸ソーダなどの成膜機能を有する物質を含む水溶液をフィルムに塗布し、乾燥し、その後、酒せき酸、硫酸アルミニウム及び皮膜形成材料などを含む液をその上に塗工して炭酸ガスの泡を発生せしめ、乾燥して目的の皮膜を形成する。」(段落【0023】)という形成方法、すなわち、熱可塑性樹脂フィルム上に形成(塗布・乾燥)された第1成分の層上に、第2成分の液を塗工するという「形成方法4」を説明するための記載であるのだから、特許権者が主張するような「熱可塑性樹脂フィルム中に含まれる泡沫形成成分」を用いる形成方法が記載されていると解することは、著しく困難である。このことは、対応する訂正後の請求項7に「一方の成分を熱可塑性樹脂フィルム上に塗工しておき、この塗工面に他の成分を含む流動性組成物を塗布し、発泡、皮膜化する」と記載されていることからも明らかである。そして、訂正明細書に記載された「形成方法4」によれば、泡沫は、熱可塑性樹脂フィルム上に形成された第1成分の層と、当該第1成分の層上に塗工された第2成分の液との界面で発生することは明らかであって、熱可塑性樹脂フィルムと第2成分の液との界面で発生するものではないのだから、第1成分の層と第2成分の液との界面で発生する泡沫の全てが、必ずしも熱可塑性樹脂フィルムと接するわけではないことは、当業者にとって明らかな事項である。しかも、特許権者自身が上記特許異議意見書において自ら認めているように、当該泡沫の発生過程においては、「界面において十分に成長しなかった微小な泡沫も若干生成」するものと考えられ、技術常識からみて、当該発生した微小な泡沫の全てが、必ず、界面において成長した大きな泡沫によって吸収・合一されるものとは到底考えられないから、訂正明細書に記載された「形成方法4」によって、特許権者が主張するように「泡沫が、前記界面上にのみ存在し、前記熱可塑性樹脂フィルム面上でその厚み方向に単層に形成される」とは考えられないし、少なくとも、そのような結果を得るための条件が、当業者が容易に実施ができる程度に訂正明細書及び図面に記載されていると認めることはできない。
また、仮に、特許権者の主張が、訂正明細書に記載された「形成方法4」についての主張ではなく、熱可塑性樹脂フィルムに第1成分を含有させ、第2成分を含有する塗工液を塗布して、第1成分と第2成分とを発泡させるという形成方法により、訂正後の請求項1〜4に係る発明を実施できるという趣旨(当該形成方法は、訂正後の請求項5〜8に記載された形成方法ではないから、当然ながら、このような主張は訂正後の請求項5〜8についての主張とはなり得ない。)であったとしても、上述したように、技術常識からみて、熱可塑性樹脂フィルムと塗工液との界面において発生した微小な泡沫の全てが、必ず、成長した大きな泡沫によって吸収・合一されるものとは到底考えられないから、このような形成方法によっても、特許権者が主張するように「泡沫が、前記界面上にのみ存在し、前記熱可塑性樹脂フィルム面上でその厚み方向に単層に形成される」とは考えられないし、また、このような形成方法が、訂正明細書に記載されたものであるとも、当業者にとって自明な形成方法であるとも認めることはできない。
以上のとおりであるから、特許権者の上記主張を採用することはできない。

4.取消し理由2についての当審の判断
「3.取消し理由1についての判断」で述べたように、訂正後の請求項1の記載中の「壁状皮膜が該熱可塑性樹脂フィルム面に必らず接する泡沫によって構成された」とは、壁状皮膜を構成する泡沫の全てが熱可塑性樹脂フィルム面に接していること、すなわち、壁状皮膜を構成する泡沫は、熱可塑性樹脂フィルムの厚み方向には1個しか存在しないこと(本件図面の【図1】のような状態)を意味しているものと解することが自然であるが、仮に、熱可塑性樹脂フィルム面に接しない泡沫がある程度は存在するものを許容する記載であるとすると、訂正後の請求項1の記載、及び、当該請求項1を引用する形式で記載された請求項2〜8の記載では、フィルム面に接しない泡沫の割合としてどのような値までが許容されるのかを特定することができない。また、訂正明細書の発明の詳細な説明に、フィルム面に接しない泡沫の割合としてどのような値までが許容されるのかが定義されているわけでもない。したがって、請求項1〜8の記載は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項を特定できないから、本件請求項1〜8に係る特許は、特許法第36条第5項第2号及び第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

5.取消し理由3についての当審の判断(その1)
「3.取消し理由1についての判断」で述べたように、訂正後の請求項1の記載中の「壁状皮膜が該熱可塑性樹脂フィルム面に必らず接する泡沫によって構成された」とは、壁状皮膜を構成する泡沫の全てが熱可塑性樹脂フィルム面に接していること、すなわち、壁状皮膜を構成する泡沫は、熱可塑性樹脂フィルムの厚み方向には1個しか存在しないこと(本件図面の【図1】のような状態)を意味しているものと解することが自然であるが、以下では、上記記載が、熱可塑性樹脂フィルム面に接しない泡沫がある程度は存在するものを許容する記載であると仮定して、取消し理由3について判断する。

(1)引用刊行物1の記載事項
当審が平成16年8月17日付けで通知した取消し理由で引用した上記引用刊行物1には、次の事項が記載されている。
記載事項a:「・・・熱可塑性樹脂からなる延伸フイルムと、製版有効部分において、該フイルムと直接又は間接に接触すべき凸部が100〜400メツシュのメツシュ状に形成され、その単位面積当りの凸部面積率が5〜35%であり、その高さが少なくとも15μmである凸部を有する台紙とからなり、両者が製版後の印刷時に画像の実質的損傷を与えることなく剥離可能にラミネートされている事を特徴とする高解像性の高感度、感熱穿孔孔版印刷用原紙」(特許請求の範囲)
記載事項b:「一般に用いられている感熱穿孔孔版印刷用原紙は、熱可塑性樹脂フイルムと多孔性支持体とを貼り合わせたタイプのものである。具体的に記すと、市販されている原紙は、2μポリエチレンテレフタレート(以下PETと略す)と・・・和紙(薄葉紙)とを酢酸ビニル系接着剤、あるいは紫外線硬化型接着剤で貼り合わしたものである。この市販の和紙を貼り合わした原紙では、和紙自体が不均質で繊維の密に集合した部分があったり、また製版し溶融収縮した部分が和紙に融着し、印刷時のインク透過が妨げられ、文字、画像特にベタ印字の場合、鮮明に印刷できないのが現状である。」(第1頁右下欄第15行〜第2頁左上欄第8行)
記載事項c:「製版時に最適な開孔性・解像性を与えうる台紙(製版時での断熱とフイルム保持の役目)を開発することを目標とし、種々検討を加えた結果、本発明に至つた。」(第2頁右下欄第10行〜同欄第13行)
記載事項d:「上述のフイルムと剥離可能にラミネートし、該フイルムの性能を充分に発揮させ相乗効果をもたらす特定の台紙とは、上述のフイルムと直接又は接着剤を介して間接的に接着するメツシュ状の網目構造の凸部を有するものである。その凸部は、メツシュ密度で100〜400メツシュであり、その単位面積当たりの凸部面積率は5〜35%であり、さらにその高さが少なくとも15μmのものである。」(第5頁右上欄第9行〜同欄第16行)
記載事項e:「凸部の基底からの高さは少なくとも15μmある事が必要である。・・・その下限より下では伝熱上の問題、穿孔時押圧による変形により、該凸部以外に相当する部分にあるフイルムが、台紙の基底部分又はその中間部分に接着する問題、又は接着剤により凹部が結果的に埋められてしまう問題等を有し」(第5頁右下欄第11行〜同欄第19行)
記載事項f:「該凸部を保持し、台紙を構成する基材は、該凸部と同一材料でもよく、異なるものでも良い。・・・好ましくは、紙状物(例えば合成紙、紙など)又はフイルム、シート状の基材(例えばポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレンなど)に印刷法、レジスト法等により凸部を形成したもの、又は前記紙状物に熱可塑性樹脂をラミコートし、次にその部分をエンボス処理したもの、熱可塑性樹脂の単層、多層状のシートの表面の必要な部分をエンボス処理したもの、発泡体シートをエンボス処理したもの、発泡法により凸部を形成したもの等が考えられる。」(第6頁左上欄第3行〜同頁右上欄第3行)

(2)引用刊行物1に記載された発明の認定
上記記載事項e等の記載によれば、延伸フイルムと接触する面側から台紙をみると、凸部により囲まれた部分が、凹部となっていることは明らかである。
上記記載事項a〜記載事項fを含む引用刊行物1の全記載及び図示によれば、上記引用刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認めることができる。

「熱可塑性樹脂からなる延伸フイルムと、
100〜400メツシュのメツシュ状の網目構造に形成され、その単位面積当りの凸部面積率が5〜35%であり、その高さが少なくとも15μmである凸部と、当該凸部によって囲まれた凹部とが、基材上に発泡法により形成された台紙とからなり、
上記凸部が延伸フイルムと接触するような位置関係で、延伸フイルムと台紙とが剥離可能に接合されている感熱穿孔孔版印刷用原紙」

(3)本件発明1と引用発明1の一致点及び相違点
引用発明1の「熱可塑性樹脂からなる延伸フイルム」は、本件発明1の「熱可塑性樹脂フィルム」に相当する。
また、引用発明1の「凸部」は、「メツシュ状の網目構造に形成」され、「延伸フイルムと接触するような位置関係」で接合されているのであるから、熱可塑性樹脂フィルムの一方の面に、該面を床とし壁状に立っている壁状皮膜であるということができる。したがって、本件発明1の「熱可塑性樹脂フィルムの一方の面に、該面を床とし壁状に立っている壁状皮膜からなる支持体」と、引用発明1の「台紙」とは、熱可塑性樹脂フィルムの一方の面に、該面を床とし壁状に立っている壁状皮膜を有する部材である点において、共通する。(なお、請求項1の「熱可塑性樹脂フィルムの一方の面に、該面を床とし壁状に立っている壁状皮膜」という記載は、熱可塑性樹脂フィルムの一方の面に壁状被膜が立設されていること、すなわち、熱可塑性樹脂フィルムの一方の面には、壁状被膜と接する部分と、接していない部分とが存在していることを表現しているにすぎないと解することが自然であって、当該記載が、壁状皮膜を熱可塑性樹脂フィルム側から発生させることを意味していると解することは著しく困難である。特許権者は、当該記載及びその後段の「壁状被膜が熱可塑性樹脂フィルム面に必らず接する泡沫によって構成された」という記載とによって、熱可塑性樹脂フィルム上に発泡法により壁状皮膜を形成したことを意味していると主張するかもしれないが、それについては相違点の検討の中で併せて言及する。以下、便宜のため、本件発明1の「支持体」及び引用発明1の「台紙」を「支持部材」と総称する。)
また、引用発明1の「凸部」は、「発泡法により形成された」ものであり、凸部に囲まれた部分は「凹部」となっているのであるから、延伸フイルム面に接する泡沫によって構成されたものであることは明らかである。引用発明1では、発泡法で形成する以上、泡沫の大きさ等を可能な範囲でコントロールして、所望のサイズの「メツシュ上の網目構造」を実現していると考えられるが、泡沫の大きさ等は完璧にはコントロールできないから、延伸フィルム面に接しない泡沫がある程度は存在するものと解することが自然であるが、この点では、本件発明1と異ならない。したがって、引用発明1の「凸部」は、延伸フィルム面に「必ず接する泡沫によって構成された」ものということができる。(なお、仮に、壁状皮膜を構成する泡沫が、熱可塑性樹脂フィルムの厚み方向には1個しか存在しないような状態を形成することが、本件訂正明細書に記載するまでもない程、当業者にとって周知の技術であり、訂正された請求項1の記載が、壁状皮膜を構成する泡沫が熱可塑性樹脂フィルムの厚み方向には1個しか存在しないことを意味するのだとすると、このような構成は、当該周知の技術に基づいて、当業者が容易に想到し得た事項ということになり、結局のところ、本件の進歩性の判断に影響を及ぼすものとはなり得ない。)
さらに、引用発明1の「感熱穿孔孔版印刷用原紙」は、「感熱孔版印刷用原版」ということができる。(なお、「支持部材」を剥離して熱可塑性樹脂フィルムのみを版として用いるのか、「支持部材」を剥離せずに熱可塑性樹脂フィルムと共に版として用いるのかは、相違点として検討する。)
してみると、両者は、
「熱可塑性樹脂フィルムの一方の面に、該面を床とし壁状に立っている壁状皮膜を有する支持部材を有する感熱孔版印刷用版部材であって、該壁状皮膜が該熱可塑性樹脂フィルム面に必ず接する泡沫によって構成されたものであることを特徴とする感熱孔版印刷用原版。」
である点において一致し、以下の点において相違する。

相違点:本件発明1の「支持部材」は、壁状皮膜からなる支持体であり、印刷時には、熱可塑性樹脂フィルムから当該支持体を剥離することなしに、そのまま両者を版として使用することから、当然、支持体の壁状皮膜は、熱可塑性樹脂フィルムの厚さ方向に貫通する孔部を形成するものであって、印刷時に当該孔部がインクを通過させるものであるのに対して、引用発明1の「支持部材」は、基材上に壁状皮膜を形成した台紙であり、印刷時には、延伸フイルムから台紙を剥離して、延伸フイルムのみを版として使用するものであるから、台紙の壁状皮膜は、延伸フイルムの厚さ方向に貫通する孔部を形成してはいない点

(4)相違点についての判断
当審が平成16年8月17日付けで通知した取消し理由で引用した上記引用刊行物2(第1頁右下欄第3行〜同欄第5行、第2頁右上欄第9行〜同欄第13行、第3頁左上欄第3行〜同欄第14行等に、感熱孔版印刷用の「版材」を介してインクを記録紙に付着すること、当該「版材」は2軸延伸フィルムと開口が設けられた薄層とから構成されていることが記載されている。)の他、本件訂正明細書に従来例として挙げられた特開平3-193445号公報(特に第1頁右下欄第15行〜同欄末行)や、特開昭62-198459号公報(特に第2頁右上欄第8行〜同欄第10行)等にみられるように、印刷時に、熱可塑性樹脂フィルムから支持部材を剥離せずに版として用いる感熱孔版印刷用原版は、本願出願前に周知の技術(以下、「第1の周知技術」という。)である。
しかも、上記引用刊行物2に記載された支持部材は、第2頁右上欄第9行〜同欄第18行の「本発明の印刷用版材は、2軸延伸フイルムと、該2軸延伸フイルムの一方の面に形成された薄層とを有し、該薄層は均一な層厚を有し、ほぼ等しい大きさの開口がほぼ等しい密度で形成されていることを特徴とするものである。・・・開口部の形としては格子状、円形状あるいはハチの巣状等が挙げられる。」、第2頁左下欄第18行〜同頁右下欄第6行の「ポリエステルフイルムの表面に、スクリーン印刷によって、樹脂液を規則的な格子状のパターンに印刷した後乾燥させることにより版材を作成した。ここに、樹脂液の組成は次のとうりである。 塩化ビニル樹脂20%(ユニオンカーバイト製VMCC) シクロヘキサン60% キシレン20%」、及び図面の記載から明らかなように、引用発明1のメツシュ状の網目構造に形成された「凸部」ときわめて類似した構造を有しており、また、第2頁左下欄第3行〜同欄第7行に「(発明の効果)本発明によれば、2軸延伸フイルムの表面を覆う薄層には、ほぼ等しい大きさの開口がほぼ等しい密度で形成されているので、加熱によってフイルムに形成される孔の密度はほぼ一定となり、高品位な印刷画像を得ることができる」と記載されていることから明らかなように、引用発明1のメツシュ状の網目構造に形成された「凸部」とほぼ同様の作用効果(製版時の穿孔の制御)を有しているものである。
してみると、引用発明1において、台紙上の凸部を、引用刊行物2に記載された薄層と同様に、印刷時に熱可塑性樹脂フィルムから剥離せずにそのまま版として用いようとの着想に至ることは、当業者にとって自然な発想である。そして、印刷時に支持部材を剥離せずに版として用いるためには、引用発明1の基材や、凸部を形成する泡沫の天井がインク通過の障害となることは、当業者にとって自明の事項であるから、引用発明1において、基材を用いずに、凸部を直接熱可塑性樹脂フィルム上に発泡法により形成し、さらには、当該形成した凸部上面を研磨する等により泡沫の天井に孔を開けて、凸部により形成される凹部がその厚さ方向に貫通するような孔部となるよう構成を変更すること、すなわち、引用発明1において相違点に係る本件発明1の構成を採用することは、上記着想を実現する際に、当業者が容易になし得たことと言わざるを得ない。
なお、直接熱可塑性樹脂フィルム上に発泡法により形成した凸部は、基材を有していないのだから、「熱可塑性樹脂フィルムの一方の面に、該面を床とし壁状に立っている壁状皮膜からなる支持体」であり、仮に、特許権者が、引用発明1の「凸部」と、本件発明1の「熱可塑性樹脂フィルムの一方の面に、該面を床とし壁状に立っている壁状皮膜」とは異なると主張したとしても、上述の、引用刊行物1、2に記載された発明及び上記第1の周知技術から容易に想到し得た発明と、本件発明1との間に相違があると認めることはできない。
また、本件発明1が有する技術的効果は、当業者が容易に予測できる程度のものである。
したがって、本件発明1は、上記引用刊行物1、2に記載された発明、及び上記第1の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)本件発明2〜6、8についての判断
本件発明2は、本件発明1の構成のすべてを、その構成の一部とすると共に、壁状皮膜が相互に結合していることを、その構成の残余の部分としているものである。
しかしながら、上記引用発明1の「凸部」も相互に結合していることは明らかであるから(発泡法により凸部を形成しているのであるから、泡沫の壁たる凸部が相互に分離しているとは、技術常識からみておよそ考えられない。)、本件発明1と同様の理由によって、本件発明2は、上記引用刊行物1、2に記載された発明、及び上記第1の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

本件発明3は、本件発明1または2のいずれかの構成のすべてを、その構成の一部とすると共に、壁状皮膜の少なくとも一部分が150℃以下の軟化温度を有することを、その構成の残余の部分としているものである。
しかしながら、上記引用刊行物1には、基材と凸部とを同一材料にしても良いこと、及び、基材の材質としてポリ塩化ビニルを用いることができること(第6頁左上欄第3行〜同欄第4行、及び第6頁左上欄第14行〜度頁右上欄第3行を参照。)が記載されているし、また、上記引用刊行物2には、開口が設けられた薄層を、塩化ビニル樹脂で形成することが記載されていることから(第2頁右下欄第3行〜第6行を参照。)、引用発明1において、壁状被膜を形成する材質として当該塩化ビニル樹脂を採用することは、単なる設計事項に属する。そして、当該塩化ビニル樹脂は、上記引用刊行物3(第2243頁)からみて、軟化温度が150℃以下である。したがって、本件発明1または2と同様の理由によって、本件発明3は、上記引用刊行物1、2に記載された発明、及び上記第1の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

本件発明4は、本件発明1〜3のいずれかの感熱孔版印刷用原版の製造方法であって、泡抹によって形成された壁状皮膜を熱可塑性樹脂フィルム上に設けることを、その構成としているものである。
しかしながら、泡沫によって壁状被膜を熱可塑性樹脂フィルム上に設ける製造方法は、上記引用刊行物1に記載されている。したがって、本件発明1〜3と同様の理由によって、本件発明4は、上記引用刊行物1、2に記載された発明、及び上記第1の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

本件発明5は、本件発明1〜3のいずれかの感熱孔版印刷用原版の製造方法であって、泡抹を有する流動性組成物を熱可塑性樹脂フィルム上に塗布し、乾燥することを、その構成としているものである。しかしながら、泡抹を有する流動性組成物を塗布し、乾燥する発泡法は、上記引用刊行物7(段落【0003】を参照。)、上記引用刊行物9(段落【0131】を参照。)等にみられるように、本願出願前に周知の技術(以下、「第2の周知技術」という。)であるから、本件発明5は、上記引用刊行物1、2に記載された発明、及び上記第1、第2の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

本件発明6は、本件発明1〜3のいずれかの感熱孔版印刷用原版の製造方法であって、泡抹を発生させる物質を含有する流動性組成物を熱可塑性樹脂フィルム上に塗布し、その塗布中又は塗布後に気体を発生させることを、その構成としているものである。しかしながら、泡抹を発生させる物質を含有する流動性組成物を塗布し、その塗布中又は塗布後に気体を発生させる発泡法は、上記引用刊行物7(段落【0003】を参照。)、上記刊行物8(段落【0024】等を参照。)、上記引用刊行物9(段落【0131】を参照。)等にみられるように、本願出願前に周知の技術(以下、「第3の周知技術」という。)であるから、本件発明6は、上記引用刊行物1、2に記載された発明、及び上記第1、第3の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

本件発明8は、本件発明1〜3のいずれかの感熱孔版印刷用原版の製造方法であって、1気圧より高い気圧下で気体を溶解せしめた流動性組成物を常圧下で熱可塑性樹脂フィルムに塗布し、発泡させることを、その構成としているものである。しかしながら、1気圧より高い気圧下で気体を溶解せしめた流動性組成物を常圧下で塗布し、発泡させる発泡法は、上記引用刊行物5(段落【0031】等を参照。)、上記刊行物6(特許請求の範囲等を参照。)等にみられるように、本願出願前に周知の技術(以下、「第4の周知技術」という。)であるから、本件発明8は、上記引用刊行物1、2に記載された発明、及び上記第1、第4の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.取消し理由3についての当審の判断(その2)
以下に、上記引用刊行物2を出発点とした場合について、判断する。なお、「5.取消し理由3についての当審の判断(その1)」と同様に、訂正後の請求項1の記載中の「壁状皮膜が該熱可塑性樹脂フィルム面に必らず接する泡沫によって構成された」が、熱可塑性樹脂フィルム面に接しない泡沫がある程度は存在するものを許容する記載であると仮定して、判断する。

(1)引用刊行物2の記載事項
当審が平成16年8月17日付けで通知した取消し理由で引用した上記引用刊行物2には、次の事項が記載されている。
記載事項g:「2軸延伸フイルムと、該2軸延伸フイルムの一方の面に形成された薄層とを有し、該薄層は均一な層厚を有し、ほぼ等しい大きさの開口がほぼ等しい密度で形成されていることを特徴とする印刷用版材。」(特許請求の範囲)
記載事項h:「本発明は、複数の微細な孔を形成した版材を介してインクを記録紙に付着して所望の印刷画像を得る謄写版印刷に用いる版材に関するものである。」(第1頁右下欄第3行〜同欄第5行)
記載事項i:「薄層としては、・・・開口部の形としては格子状、円形状あるいはハチの巣状等が挙げられる。かかる構成の版材は、2軸延伸フイルムの表面に、印刷技術を用いて、樹脂と溶剤から成る樹脂液を格子状等の規則正しいパターンに印刷することにより得られる。」(第2頁右上欄第14行〜同頁左下欄第2行)
記載事項j:「(発明の効果)本発明によれば、・・・加熱によってフイルムに形成される孔の密度はほぼ一定となり、高品位な印刷画像を得ることができる。」(第2頁左下欄第3行〜同欄第8行)
記載事項k:「ポリエステルフイルムの表面に、スクリーン印刷によって、樹脂液を規則的な格子状のパターンに印刷した後乾燥させることにより版材を作成した。ここに、樹脂液の組成は次のとうりである。
塩化ビニル樹脂 20%
(ユニオンカーバイト製VMCC)
シクロヘキサン 60%
キシレン 20%」(第2頁左下欄第18行〜同頁右下欄第6行)
記載事項l:「上述のようにして作成した版材を、フラッシュ製版機により製版した。」(第3頁右上欄第13行〜同欄第14行)
記載事項m:図面から、薄層2が、フイルム1の一方の面に、該面を床として壁状に立っている壁状部材から構成されていることを看取できる。

(2)引用刊行物2に記載された発明の認定
上記記載事項g〜記載事項mを含む引用刊行物2の全記載及び図示によれば、上記引用刊行物2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認めることができる。

「製版時に加熱により穿孔がなされる2軸延伸フイルム1と、
該2軸延伸フイルムの一方の面に、該面を床として壁状に立っている壁状部材からなる薄層2とを有し、
該薄層2は均一な層厚を有し、ほぼ等しい大きさの開口がほぼ等しい密度で、印刷技術を用いて形成されている謄写版印刷用版材。」

(3)本件発明2と引用発明1の一致点及び相違点
引用発明2の「2軸延伸フイルム」の材料は、加熱により穿孔される樹脂であるのだから、熱可塑性樹脂である。したがって、引用発明2の「2軸延伸フイルム」を熱可塑性樹脂フィルムということができる。
また、引用発明2の「薄層2」は、2軸延伸フイルムの一方の面に、該面を床として壁状に立っている壁状部材から構成されているから、この限りにおいて、本件発明1の「壁状皮膜からなる支持体」と共通する。(以下、本件発明1の「壁状皮膜」及び引用発明2の「壁状部材」を総称して「壁状部材」という。)
さらに、引用発明2の「謄写版印刷用版材」は、加熱により穿孔されて、製版されるのであるから、感熱孔版印刷用原版ということができる。
してみると、両者は、
「熱可塑性樹脂フィルムの一方の面に、該面を床とし壁状に立っている壁状部材からなる支持体を有する感熱孔版印刷用原版。」
である点において一致し、以下の点において相違する。

相違点:本件発明1の「壁状部材」は、熱可塑性樹脂フィルム面に必らず接する泡沫によって構成された壁状皮膜であるのに対して、引用発明2の「壁状部材」は、熱可塑性樹脂フィルム面に印刷技術を用いて形成されたものである点

(4)相違点についての判断
当審が平成16年8月17日付けで通知した取消し理由で引用した上記引用刊行物1には、「5.取消し理由3についての当審の判断(その1) (1)引用刊行物1の記載事項」で指摘したような事項が記載されており、当該記載中の「凸部」は、本件発明2の「壁状部材」ときわめて類似した構造・形状を有するものである。
してみれば、上記引用刊行物1に「凸部」の形成方法として例示された「発泡法」(記載事項fを参照。)を、引用発明2の「壁状部材」の形成方法として採用し、熱可塑性樹脂フィルム面に必らず接する泡沫によって構成された壁状皮膜により支持部材を構成すること(発泡法で形成する以上、泡沫の大きさ等は完璧にはコントロールできないから、熱可塑性樹脂フィルム面に接しない泡沫がある程度は存在するものと解することが自然であるが、この点では、本件発明1と異ならないし、仮に、壁状皮膜を構成する泡沫が、熱可塑性樹脂フィルムの厚み方向には1個しか存在しないような状態を形成することが、本件訂正明細書に記載するまでもない程、当業者にとって周知の技術であり、訂正された請求項1の記載が、壁状皮膜を構成する泡沫が熱可塑性樹脂フィルムの厚み方向には1個しか存在しないことを意味するのだとすると、このような構成は、当該周知の技術に基づいて、当業者が容易に想到し得た事項ということになり、結局のところ、本件の進歩性の判断に影響を及ぼすものとはなり得ない。)、すなわち、上記相違点に係る本件発明1の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、本件発明1が有する技術的効果は、当業者が容易に予測できる程度のものである。
したがって、本件発明1は、上記引用刊行物1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)本件発明2〜6、8についての判断
本件発明2〜6、8の構成要件のうち、他の請求項を引用する構成以外の部分の構成については、「5.取消し理由3についての当審の判断(その1) (5)本件発明2〜6、8についての判断1」で記載したとおりであるから、本件発明2〜4は、上記引用刊行物1、2に記載された発明に基づいて、本件発明5は、上記引用刊行物1、2に記載された発明、及び上記第2の周知技術に基づいて、本件発明6は、上記引用刊行物1、2に記載された発明、及び上記第3の周知技術に基づいて、本件発明8は、上記引用刊行物1、2に記載された発明、及び上記第4の周知技術に基づいて、それぞれ、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正明細書の発明の詳細な説明は、当業者が容易に実施できる程度に、訂正後の請求項1〜8に係る発明の目的、構成、効果が記載されていないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
また、請求項1〜8の記載は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項を特定できないから、特許法第36条第5項第2号及び第6項に規定する要件を満たしていない。
さらに、本件発明1〜6及び8は、上記引用刊行物1、2に記載された発明、及び、上記各周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、請求項1〜8に係る特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
感熱孔版印刷用原版及びその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 熱可塑性樹脂フィルムの一方の面に、該面を床とし壁状に立っている壁状皮膜からなる支持体を有する感熱孔版印刷用原版であって、該壁状皮膜が該熱可塑性樹脂フィルム面に必らず接する泡抹によって構成されたものであることを特徴とする感熱孔版印刷用原版。
【請求項2】 壁状皮膜が相互に結合していることを特徴とする請求項1記載の感熱孔版印刷用原版。
【請求項3】 壁状皮膜の少なくとも一部分が150℃以下の軟化温度を有することを特徴とする請求項1又は2の感熱孔版印刷用原版。
【請求項4】 泡抹によって形成された壁状皮膜を熱可塑性樹脂フィルム上に設けることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の感熱孔版印刷用原版の製造方法。
【請求項5】 泡抹を有する流動性組成物を熱可塑性樹脂フィルム上に塗布し、乾燥することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の感熱孔版印刷用原版の製造方法。
【請求項6】 泡抹を発生させる物質を含有する流動性組成物を熱可塑性樹脂フィルム上に塗布し、その塗布中又は塗布後に気体を発生させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の感熱孔版印刷用原版の製造方法。
【請求項7】 互いに接することにより気体が発生する2種以上に成分のうちの一方の成分を熱可塑性樹脂フィルム上に塗工しておき、この塗工面に他の成分を含む流動性組成物を塗布し、発泡、皮膜化することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の感熱孔版印刷用原版の製造方法。
【請求項8】 1気圧より高い気圧下で気体を溶解せしめた流動性組成物を常圧下で熱可塑性樹脂フィルムに塗布し、発泡させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の感熱孔版印刷用原版の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は感熱孔版印刷用原版及びその製造方法に係るものであり、詳しくは、熱可塑性樹脂フィルムに接して設けられる支持体の構造、及びその製造法に係るものである。
【0002】
【従来の技術】
熱可塑性樹脂フィルム(以降単に「フィルム」ということがある)にインキ透過性支持体(以降単に「支持体」ということがある)としての多孔性薄葉紙などを接着剤で貼りあわせ、且つフィルム表面にサーマルヘッドとのステック防止のためのステック防止層を設けた感熱孔版印刷用原版が知られている。実際上、多孔性薄葉紙として麻繊維または麻繊維と合成繊維、木材繊維との混抄したものにフィルムを接着剤で貼りあわせ、且つフィルム表面にステック防止層を設けた感熱孔版印刷用原版が広く用いられている。
【0003】
しかし、こうした従来の感熱孔版印刷用原版では、(1)繊維の重なつた部分とフィルムが接する部分に接着剤が大量に鳥の水かき状に集積し、その部分のサーマルヘッドによる穿孔が行われにくくなる、また、その部分がインキの通過を妨げ、印刷むらが発生する、(2)繊維自体がインキの通過を妨げ、印刷むらが発生する、更には、(3)繊維が高価であり、またラミネート加工によるロスも大きく、感熱孔版印刷用原版が高価となる、また繊維の製造、廃棄による環境保全上の問題も見逃せない、等の問題点が残されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
こうした点を配慮して幾つかの感熱孔版印刷用原版が提案されている。例えば、特開平3-193445号には繊度1デニール以下の極細繊維を用いた支持体が開示されている。これによれば前記(1)の問題点は解決されるが、(2)(3)の問題点は残されている。特開昭62-198459号にはフィルム上に実質的に閉じた形状の耐熱性樹脂パターンをグラビア、オフセット、フレキソ等の印刷法を用いて形成する方法が、また、特開平4-7198号には支持体としてピーク孔径が0.06〜10μmの多孔質層を有する感熱孔版印刷用原版が開示されているが、これらの使用においては印刷むらが発生する。
【0005】
もっとも、特開昭54-33117号には支持体を用いない実質的にフィルムのみからなる印刷用原版が開示されており、これによれば前記(1)(2)(3)の問題点は解決されるが、その一方で新たな問題を生じさせている。その一つは、フィルムが10μm以下の厚さの場合、その「コシ」(stiffness)の強さが小さく、搬送が困難になることである。これの解決方法として特公平5-70595号では印刷機の版胴周壁部にフィルムが切断されることなく長尺状のまま巻装され、印刷時には版胴の回転とともにフィルム全体も回転する考えが提案されている。しかし、この方法ではフィルム及び着排版ユニットが印刷時には版胴の回転とともに回転するため、回転モーメントが大きくなり、また重力中心の回転軸からの変位が大きく、これらの解決のために印刷機は重く、大きくしなければならない。
他の一つは、フィルムが5μm以上の厚さの場合、その熱感度が小さくなりサーマルヘツドによる穿孔が行われにくくなることである。
本発明の目的はこれらの問題を解決した感熱孔版印刷用原版及びその製造方法を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、感熱孔版印刷用原版をいろいろな角度から検討してきた結果、(イ)インキの通過を妨げ、且つサーマルヘッドによる穿孔を妨げる支持体はなるべくなら存在しない方が望ましいが、それではフィルムのコシが小さく、その搬送に支障をきたす、(ロ)公知のごとくシート状物体のコシの強さはその厚さの3乗に比例する、(ハ)支持体は望ましくはフィルムとは比較的小さな接点を有しながら、その構成要素はフィルムとは90度近い角度で接している状態である、との考察から、感熱孔版印刷用原版はフィルムの一方の面に壁状皮膜を有したものが望ましいことを確かめた。本発明はそれによりなされたものである。
【0007】
ここにいう「壁状皮膜」とは、フィルム上にそのフィルムを床に例えると多数の天井のあるセルの集合体(図1、図2)又は天井のない蜂の巣状のセルの集合体(図3)などを形成するものを意味している。
【0008】
本発明によれば、
(1)熱可塑性樹脂フィルムの一方の面に、該面を床とし壁状に立っている壁状皮膜からなる支持体を有する感熱孔版印刷用原版であって、該壁状皮膜が該熱可塑性樹脂フィルム面に必らず接する泡抹によって構成されたものであることを特徴とする感熱孔版印刷用原版、
(2)前記(1)において壁状皮膜が相互に結合していることを特徴とする感熱孔版印刷用原版、
(3)前記(1)又は(2)において、壁状皮膜の少なくとも一部分が150℃以下の軟化温度を有することを特徴とする感熱孔版印刷用原版、
が提供される。
【0009】
さらに本発明によれば、前記(1)(2)又は(3)の感熱孔版印刷用原版を作成する手段として、
(4)泡抹によって形成された壁状皮膜を熱可塑性樹脂フィルム上に設けることを特徴とする感熱孔版印刷用原版の製造方法、
(5)泡抹を有する流動性組成物を熱可塑性樹脂フィルム上に塗布し、乾燥することを特徴とする感熱孔版印刷用原版の製造方法、
(6)泡抹を発生させる物質を含有する流動性組成物を熱可塑性樹脂フィルム上に塗布し、その塗布中又は塗布後に気体を発生させることを特徴とする感熱孔版印刷用原版の製造方法、
(7)互いに接することにより気体が発生する2種以上に成分のうちの少なくとも1種をフィルム上に塗工しておき、この塗工面に他の成分を含む流動性組成物を塗布し、発泡、皮膜化することを特徴とする感熱孔版印刷用原版の製造方法、
(8)1気圧より高い気圧下で気体を溶解せしめた流動性組成物を常圧下で熱可塑性樹脂フィルムに塗布し、発泡させることを特徴とする感熱孔版印刷用原版の製造方法、
が提供される。
【0010】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
既述のとおり、本発明における「壁状皮膜」とはフィルム上にフィルムを床に例えると多数の天井のあるセルの集合体又は天井のない蜂の巣状のセルの集合体などを形成したものであるが、この壁状皮膜の一枚の厚さ(図1ではh1、図3ではh3)は一般に0.5〜10μmが適当である。また、一つのセルの大きさは製版後の孔版インキの通過、コシの強さ等を考慮すれば5〜3000μm好ましくは100〜1000μmである。
【0011】
セルは閉じた状態でもよいし、その一部が開口していてもよい。開口は乾燥過程での泡の皮膜の破壊などで達成できる。図1で破線のところ、図2でドーナツ状内側のところは開口を表わしている。図3はすべて開口した状態を表わしている。熱可塑性樹脂フィルムに接する近傍の、フィルムと壁状皮膜のなす角度、即ちフィルムからの壁状皮膜の立上り角度θは20度以上であることが望ましく、さらに望ましくは30度以上であり、上限は90度である。これらの壁状皮膜がセルの集合体などを形成し支持体となる。
【0012】
壁状皮膜はサーマルヘッドによるフィルムの穿孔をより効果的にするため、150℃以下の温度で軟化することが望ましい。
【0013】
また印刷はサーマルヘッドによるフィルムの穿孔部分をインキが通過することにより行われるが、セルが閉じた状態ではインキが通過することができない。こうしたことから、セルは閉じた状態でない方が望ましい。
【0014】
セルの形成は、単独では上記特性を示さなくても混合することにより上記特性を示す物質も使用可能である。形成時又は形成後、機械的あるいは化学的手段により皮膜の一部分を破壊する手段によってもよい。
【0015】
実際には、本発明の感熱孔版印刷用原版を製造するには泡抹によって形成された壁状皮膜を熱可塑性樹脂フィルム上に形成するのがよい。
【0016】
壁状皮膜材料の主成分となるプラスチックとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、スチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸系プラスチック、ジエン系プラスチック、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアセタール、フッ素系樹脂、ポリウレタン系プラスチック、各種天然プラスチック、天然ゴム系プラスチック、各種熱可塑性エラストマー、セルロース系プラスチック、微生物プラスチックなどや、これらのポリマーを含むコポリマーなどがあげられる。
その他、各種脂肪酸、ワックスなど各種炭水化物、各種タンパク質も使用できる。
【0017】
壁状皮膜を形成するには、▲1▼泡抹を含有する流動性組成物、▲2▼互いに接することにより気体が発生する2種以上に成分のうちの一方の成分を含む流動性組成物、あるいは▲3▼1気圧より高い気圧下で気体を溶解せしめた流動性組成物が用いられるが、これには前記壁状皮膜材料の他、下記の成分などが添加される。
【0018】
(i)液の粘度向上剤として、CMC、ポリビニルアルコール、グリセリン、クリコール類、アルギン酸ソーダなど。
(ii)存在の形態として無溶剤系、溶剤系(溶解、分散)、水系(溶解、分散)、エマルション系など。
(iii)泡の安定を良くしたり、皮膜の形成を容易にしたり、強度を大きくしたり、特性を変えるために、粉体、顔料、繊維状物質、揮発性の少ない流動体などを含むこともできる。
粉体、顔料としては各種有機、無機の粉体や顔料、繊維状物質としては動物、植物系の天然繊維、鉱物繊維、ガラス繊維、金属繊維、合成繊維、シリカ繊維などが用いられる。
揮発性の少ない流動体としては油脂、オイル、可塑剤、活性剤などが用いられる。
(iv)起泡性を良くするための界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、両性イオン系、非イオン系が使用される。中でもアニオン系が起泡性の点で好ましい。特に高級アルコール硫酸エステルなどの高級アルコール系が起泡性、泡安定性の点で優れている。水系の場合の水に対する添加量は0.001ないし0.1重量%である。
卵白、サポニン、ゼラチンなども泡安定性を良くするものである。
【0019】
壁状皮膜の支持体としての付着量は0.5〜25g/m2特に1〜7g/m2以下が望ましい。付着量の増大はインキの通過を妨げて画質を悪くし、0.5g/m2以下ではコシを強くする効果が小さく、逆に、25g/m2以上ではインキの通過を妨げて画質を悪くする。
支持体としての皮膜(一枚の皮膜ではなく、セルの集合体が支持体としての皮膜となる)の厚さ(H1,H3)は200μm以下、望ましくは100μm以下である。塗工後の厚さが目標より大きい場合はキャレンダによる圧着などの手段で目標の厚さまで小さくすることができる。厚さの測定は実質的に荷重をかけないで、または極く小さな荷重で行う。
【0020】
泡抹によって構成された壁状皮膜を形成させるには下記のような方法が採用される。
▲1▼水などの液体に、前記の皮膜を形成する物質、界面活性剤、その他を加え、アジテータ、ミキサーなどで撹拌、発泡させ、塗布し、乾燥する。
発泡の手段として撹拌以外に化学反応も利用できる。例えば炭酸水素ナトリウムと酒せき酸などの酸の反応、硫酸アルミニウムと炭酸水素ナトリウムの反応などの泡が消えないうちに塗工し、乾燥する。塗工液の処方、撹拌条件などはいくつかの実験により決定される。
塗布にはエアドクタ、ブレード、トラスファロール、ロッド、リバースロール、グラビア、ダイ、ノッチバー、ファウンテンなどの各種方式のコーターが用いられる。乾燥条件としては熱可塑性樹脂フィルムに悪影響を与えないことが必要で、乾燥温度も60℃以下が望ましい。
【0021】
▲2▼50℃から60℃位で流動性を示す例えば、ワックス、ポリエチレングリコールなどを発泡させ、塗布後冷却して固める。
【0022】
▲3▼エネルギーにより窒素、炭酸ガス、水蒸気、酸素、水素などの気体を発生する発泡剤を含む組成物流動体を塗工し、熱、光、電磁波、放射線、電気などのエネルギーにより気体を発生させ、泡の部分を固体化する。この場合、壁状皮膜形成後に発泡させてもよい。流動体中に含まれたカプセルが溶解しまたは熱、その他のエネルギーの作用でやぶれ、化学的、物理的作用により気体を発生せしめてもよい。カプセルが熱などにより膨らんだものを泡として利用してもよい。ドライアイスの気化による炭酸ガス、ジアゾ化合物に光を当てることにより発生する窒素なども利用できる。
【0023】
▲4▼互いに接することにより気体が発生する2種以上の成分のうちの、少なくとも1種をフィルムに加工しておき、残りの成分を含む液を塗工し気体を発生せしめてもよい。
例えば炭酸水素ナトリウムと、少量のCMC、ポリビニルアルコール、ゼラチン、アルギン酸ソーダなどの成膜機能を有する物質を含む水溶液をフィルムに塗布し、乾燥し、その後、酒せき酸、硫酸アルミニウム及び皮膜形成材料などを含む液をその上に塗工して炭酸ガスの泡を発生せしめ、乾燥して目的の皮膜を形成する。
【0024】
▲5▼液中に高圧下で空気などの気体を溶解せしめ、その後常圧下でフィルムに塗工することにより泡を発生せしめ、乾燥して目的の皮膜を形成する。
【0025】
▲6▼その他、印刷が行われるためにはインキが支持体(壁状皮膜)を通過しなければならないが、泡抹による壁状皮膜が半球形状にフィルムを覆っていてインキの通過するための孔が充分には存在しない場合は、皮膜が形成されている面を擦るなどしてインキの通過するための孔を開ける。この作業は例えば塗工機の巻取り部、スリッター上などで行われる。
【0026】
【実施例】
次に実施例、比較例をあげて本発明を具体的に説明する。ここでの部は重量基準である。
【0027】
実施例1〜5
フィルムとして厚さ2μmの2軸延伸されたポリエステルを用いた。
表1に示した処方の液をホモミキサーを用いて泡立て、その泡をエアナイフコーターを用い、該フィルム上に塗工、50℃〜70℃にて乾燥した(実施例1〜4)。実施例5はホモミキサーを用いず、発泡する泡を塗工、乾燥した。乾燥後の付着量は2〜7g/m2であった。
その反対面に、熱溶融したフィルムがサーマルヘッドにステックするのを防止するため、及び帯電防止を目的として、シリコーン樹脂80部とカチオン系帯電防止剤20部の混合物を、乾燥後の付着量約0.05g/m2になるように塗工した。
コシの強さはローレンツエンステイフネステスターで測定した。また、搬送性及び画像は東北リコー社製VT-1730及びそのインキでテストした。評価結果をまとめて表2に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
比較例1
縦横方向とも1.5倍以上に延伸されかつ厚さが20μm以下の熱可塑性樹脂フィルム(特開昭54-33117号に開示されている延伸されたポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、ポリスチレン、ポリエステル、ナイロンなど)を感熱孔版印刷用原版として用い、実施例1と同様にして製版印刷を供した。
【0030】
比較例2
天然麻(アバカ)繊維と合成繊維とを混抄したものを支持体とし、これに0.5〜5μm厚の延伸させた熱可塑性フィルムを貼り合わせて感熱孔版用原版として用い、実施例1と同様にして製版印刷に供した。
【0031】
これら実施例及び比較例の感熱孔版印刷用原版の評価結果をまとめて表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
【発明の効果】
請求項1、2、5、6、7及び8の発明によれば、コシの強い良質の画質が得られる感熱孔版印刷用原版が得られる。
請求項3の発明によれば、上記の効果に加えて、サーマルヘッドによる穿孔が効果的に行なえる感熱孔版印刷用原版が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の感熱孔版印刷用原版の一例の断面図。
【図2】
本発明の感熱孔版印刷用原版の他の一例のうち支持体の平面図。
【図3】
本発明の感熱孔版印刷用原版の他の一例の斜視図。
【符号の説明】
1 フィルム
2 泡
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-03-07 
出願番号 特願平7-139918
審決分類 P 1 651・ 534- ZA (B41N)
P 1 651・ 121- ZA (B41N)
P 1 651・ 531- ZA (B41N)
最終処分 取消  
前審関与審査官 畑井 順一  
特許庁審判長 小沢 和英
特許庁審判官 清水 康司
藤井 靖子
登録日 2002-04-19 
登録番号 特許第3297714号(P3297714)
権利者 東北リコー株式会社 株式会社リコー
発明の名称 感熱孔版印刷用原版及びその製造方法  
代理人 廣田 浩一  
代理人 廣田 浩一  
代理人 廣田 浩一  

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