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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01M 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 H01M 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 H01M |
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管理番号 | 1119402 |
異議申立番号 | 異議2003-72995 |
総通号数 | 68 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1996-09-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-12-09 |
確定日 | 2005-04-25 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3414039号「電池電極」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3414039号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第3414039号の出願は、平成7年3月7日になされ、平成15年4月4日に、その発明について特許の設定登録がなされ、その後、その特許について特許異議申立てがなされ、取消理由通知(平成16年8月19日付け)がなされ、その指定期間内である平成16年10月26日に訂正請求がなされたものである。 2.訂正請求の訂正の適否についての判断 2-1.訂正の内容 a.特許請求の範囲の請求項1を削除する。 b.特許請求の範囲の請求項2を、「【請求項1】 炭素質材料を電極活物質とする電池電極であって、電極活物質と架橋ポリマー粒子が有機系バインダーで結着され、前記架橋ポリマー粒子は、多孔ポリマー粒子あるいは中空ポリマー粒子であり、前記架橋ポリマー粒子のための架橋性のポリビニルモノマーは、ブタジエンを含まないことを特徴とする電池電極。」に訂正する。 c.明細書の段落【0003】の「10-1Ω-1CM-1」、「10-2〜10-4Ω-1CM-1」を、それぞれ「10-1Ω-1cm-1」、「10-2〜10-4Ω-1cm-1」に訂正する。 d.明細書の段落【0018】の「pH調整材」を、「pH調整剤」に訂正する。 2-2.訂正の目的の適否・新規事項の有無及び拡張・変更の存否 訂正事項aは、訂正前の請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の限縮を目的とした明細書の訂正に該当する。 訂正事項bは、訂正事項aに整合させるために、訂正前の請求項2について、項番号を繰り上げて請求項1とし、引用形式を独立形式に改めるとともに、明細書の段落【0012】の「架橋ポリマー粒子とは、架橋性のポリビニルモノマー(以下架橋性モノマーという)を・・・使用して重合した架橋粒子である。・・・ここで、ブタジエンは架橋性モノマーには含まない。」という記載に基づいて、「架橋ポリマー粒子のための架橋性のポリビニルモノマーは、ブタジエンを含まない」という事項により「架橋ポリマー粒子」を限定するものであるから、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の限縮を目的とした明細書の訂正に該当する。 訂正事項c、dは、誤記の訂正を目的とした明細書の訂正に該当する。 そして、上記いずれの訂正も願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 2-3.むすび したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.特許異議申立てについての判断 3-1.異議申立ての理由の概要 特許異議申立人佐藤恵子は、証拠方法として甲第1〜6号証を提出して、以下のように主張している。 (イ)請求項1に係る発明は、その特許出願の日前の他の特許出願であって、本件特許出願後に出願公開されたものの願書に最初に添付した明細書又は図面(甲第1号証参照)に記載された発明と同一であり、しかも、本件の出願の発明者がその出願前の特許出願に係る前記の発明をした者と同一ではなく、また本件の出願の時にその出願人が前記特許出願の出願人と同一でもないから、請求項1に係る発明の特許は、特許法第29の2の規定に違反してされたものである。 (ロ)請求項1に係る発明は、甲第2号証又は甲第3号証に記載された発明であるから、請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当する発明に対してされたものである。 (ハ)請求項1に係る発明は、甲第2〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (ニ)請求項2に係る発明は、甲第2〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (ホ)本件発明の特許は、特許法第36条に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(理由の詳細は、以下の「3-4.(2)」参照)。 3-2.本件発明 上記2で示したように上記訂正が認められるから、本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】 炭素質材料を電極活物質とする電池電極であって、電極活物質と架橋ポリマー粒子が有機系バインダーで結着され、 前記架橋ポリマー粒子は、多孔ポリマー粒子あるいは中空ポリマー粒子であり、 前記架橋ポリマー粒子のための架橋性のポリビニルモノマーは、ブタジエンを含まないことを特徴とする電池電極。」 3-3.甲第2〜6号証に記載された事項 異議申立人が提出した甲第2〜6号証には、それぞれ次のとおりの事項が記載されている。 (1)甲第2号証:特開平5-74461号公報 (摘示2-1)「【請求項1】 炭素質材料を負極活物質とする二次電池負極であって、該負極が・・・ゲル含量が75%〜100%であるスチレン/ブタジエンラテックスを主成分とするバインダーにより負極活物質が結着されていることを特徴する二次電池負極。」(特許請求の範囲の請求項1) (摘示2-2)「ラテックスポリマーの架橋度合すなわちゲル含量が高温下でのポリマーのフローに影響を与え・・・」(段落【0015】) (摘示2-3)「好ましくは該スチレン/ブタジエンラテックスの粒子径は0.01〜0.5μ・・・である。」(段落【0017】) (2)甲第3号証:特開平5-226004号公報 (摘示3-1)「【請求項1】 ・・・正電極、炭素質材料を負極活物質とする負電極、・・・を基本構成要素とする二次電池・・・。 【請求項2】 少なくとも一方の電極が金属集電体上に活物質塗膜層が設け られてなり、該活物質塗膜層中に・・・バインダーが・・・分布していることを特徴とする請求項1記載の二次電池。 ・・・ 【請求項4】 バインダーが・・・ゲル含量75%〜100%であるスチレン/ブタジエンラテックスを主成分とすることを特徴とする請求項2記載の二次電池。」(特許請求の範囲の請求項1、2、4) (摘示3-2)「ラテックスポリマーの架橋度合すなわちゲル含量が高温下でのポリマーのフローに影響を与え・・・」(段落【0046】) (摘示3-3)「好ましくは該スチレン/ブタジエンラテックスの粒子径は0.01〜0.5μm・・・である」(段落【0048】) (3)甲第4号証:特開昭62-90863号公報 (摘示4-1)「構成要素として少なくとも、正、負電極、セパレーター、非水電解液からなる二次電池であって、下記I及び/又は下記IIを正、負いずれか一方の極の活物質として用いる・・・二次電池。 I:・・・ II:・・・炭素質材料・・・」(特許請求の範囲) (摘示4-2)「好ましい方法として溶媒に溶解及び/又は分散した有機重合体をバインダーとして電極活物質を成形する方法が挙げられる。」(第7頁右上欄第15〜17行) (4)甲第5号証:特開平4-323213号公報 (摘示5-1)「【請求項1】 下記の一般式の繰返し単位(A)又は(A)及び(B)からなるホモ又はコポリマーの主鎖を架橋剤にて架橋してなる平均粒径が10μm以下の微粒子状の架橋型N-ビニルカルボン酸アミド樹脂。 【化1】(A)・・・ 【化2】(B)・・・」(特許請求の範囲の請求項1) (摘示5-2)「使用例6:亜鉛アルカリ電池 常法通りに正極缶内に二酸化マンガンを主体とする正極合剤とセパレーターと亜鉛負極が備えられた亜鉛アルカリ電池を作製した。このなかで亜鉛負極は以下のようにして作製した。・・・水酸化カリウム水溶液 (酸化亜鉛が飽和されている)・・・に、実施例5で得たポリマー・・・を添加し均一分散する。さらに・・・汞化亜鉛合金粉・・・を分散させて亜鉛負極を得た。」(段落【0113】) (5)甲第6号証:特開平1-315454号公報 (摘示6-1)「本発明の多孔性の架橋ポリマー粒子は、クロマトグラフィー用カラム充填剤、マイクロカプセル用粒子、徐放性担体、滑剤、スペーサ、ブロッキング防止剤、プラスチックピグメント、粉体の流動性改良剤、粉体膨潤剤、光沢調整剤、合成繊維添加剤、フィルム添加剤、樹脂添加剤、塗料配合剤、ろ材およびろ過助剤、化粧品用粒子などとして有用である。」(第8頁左上欄第20行〜右上欄第7行) 3-4.対比・判断 上記2の訂正事項aにより訂正前の請求項1が削除されたことで、訂正前の請求項1に係る申立理由(イ)〜(ハ)は対象のないものとなったから、申立理由(ニ)、(ホ)について以下に検討する。 (1)申立理由(ニ)について:特許法第29条第2項 本件発明は、「電極活物質と架橋ポリマー粒子が有機系バインダーで結着され、前記架橋ポリマー粒子は、多孔ポリマー粒子あるいは中空ポリマー粒子である」点を構成要件の一部として含むものであるところ、このような構成要件を備えることの技術的意義として、本件明細書の段落【0013】には、「多孔ポリマー粒子あるいは中空ポリマー粒子ではさらに架橋粒子の内部の空孔に電解液成分を吸収含有することにより電池電極の出力特性向上を達成しているものと考えられる。」との記載がある。 この記載によると、本件発明が対象とする「電池電極」は、上記構成要件を備えることにより、架橋粒子内部の空孔に電解液成分を吸収含有するため出力特性向上が達成された電池電極を提供することができるという優れた効果を奏するものであるといえる。 そこで、この観点で各甲号証を検討すると、甲第2号証には、「ゲル含量が75%〜100%であるスチレン/ブタジエンラテックス」をバインダーの主成分とする炭素質材料を負極活物質とする二次電池負極が記載されており(摘示2-1)、「ラテックスポリマーの架橋度合すなわちゲル含量」(摘示2-2)という記載、及び、「スチレン/ブタジエンラテックスの粒子径」(摘示2-3)という記載によると、「ゲル含量が75%〜100%であるスチレン/ブタジエンラテックス」は、「架橋ポリマー粒子」であるといえるが、これが、「多孔ポリマー粒子あるいは中空ポリマー粒子」であることは記載されていない。 また、甲第3号証にも、炭素質材料を負極活物質とする負極であって、該負極の活物質層中には、「ゲル含量75%〜100%であるスチレン/ブタジエンラテックス」を主成分とするバインダーが分布していることが記載されており(摘示3-1)、「ラテックスポリマーの架橋度合すなわちゲル含量」(摘示3-2)という記載、及び、「スチレン/ブタジエンラテックスの粒子径」(摘示3-3)という記載によると、「ゲル含量75%〜100%であるスチレン/ブタジエンラテックス」は、「架橋ポリマー粒子」であるといえるが、これが、多孔ポリマー粒子あるいは中空ポリマー粒子であることは記載されていない。 さらに、甲第4号証には、有機重合体バインダー、導電補助剤、その他添加剤、例えば増粘剤、分散剤等を添加した炭素質材料を活物質とする二次電池電極が記載されているが(摘示4-1〜4-3)、多孔ポリマー粒子あるいは中空ポリマー粒子に係る記載はなく、また、甲第5号証には、微粒子状の架橋型N-ビニルカルボン酸アミド樹脂を分散させた亜鉛アルカリ電池の亜鉛負極が記載されており(摘示5-1〜5-2)、この微粒子状の架橋型N-ビニルカルボン酸アミド樹脂は、「架橋ポリマー粒子」に相当するものであるが、これが多孔ポリマー粒子あるいは中空ポリマー粒子であることは記載されていない。 次に、甲第6号証を検討すると、甲第6号証には、クロマトグラフィー用カラム充填剤、塗料配合剤等として有用である「多孔性の架橋ポリマー粒子」が記載されているが(摘示6-1)、この多孔性の架橋ポリマー粒子の用途は、電池電極ではないから、出力特性向上を目的として、甲第6号証記載の多孔性の架橋ポリマー粒子を電極活物質とともに有機系バインダーで結着して電池電極に用いることの動機付けは見あたらない。 以上に検討したとおり、甲第2〜6号証には、本件発明の構成要件である「電極活物質と架橋ポリマー粒子が有機系バインダーで結着され、前記架橋ポリマー粒子は、多孔ポリマー粒子あるいは中空ポリマー粒子である」点が記載されておらず、本件発明はこの点により、出力特性向上を達成した電池電極を提供するという優れた効果を奏するものである。 よって、本件発明は、甲第2〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)申立理由(ホ)について:特許法第36条 異議申立人が主張する記載不備は、以下の(イ)、(ロ)のとおりであるから、順次検討する。 (イ)本件特許明細書の段落【0012】には、「ブタジエンは架橋性モノマーには含まない。」と記載されているが、請求項1には、単に「架橋ポリマー粒子」と記載されるのみであるから、架橋性モノマーとしてブタジエンを用いて製造した「架橋ポリマー粒子」を含んでいる。よって、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第5項第1号及び第2号に規定される要件を満たしていない。 そこで検討すると、上記2の訂正事項a、bにより、「架橋ポリマー粒子のための架橋性のポリビニルモノマーは、ブタジエンを含まない」ことが明確となったから、上記(イ)の記載不備は解消した。 (ロ)本件特許明細書の段落【0012】には、「架橋性モノマーとしては、ジビニルベンゼンに代表される多置換ビニル芳香族化合物、あるいはエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートに代表される多価アクリレートあるいは多価メタクリレートなどの二個以上の共重合性二重結合を有する化合物である。なお、ここでブタジエンは架橋性モノマーには含まない。」と記載されているが、架橋性モノマーとしてブタジエンを用いて製造した「架橋ポリマー粒子」と、多置換ビニル芳香族化合物等を用いて製造した「架橋ポリマー粒子」とが効果においてどのような違いを奏するのか、発明の詳細な説明には全く説明されていない。よって、本件発明の詳細な説明は、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されているとはいえないから、特許法第36条第4項の規定を満たしていない。 そこで検討すると、特許権者は、平成16年10月26日付け特許異議意見書において、ブタジエンポリマーのガラス転移温度は、約-100℃前後であるのに対し、その他の架橋性モノマーを用いて製造された架橋ポリマー粒子のガラス転移温度は、常温以上、多くは50℃以上であって、このことから、ブタジエンを用いて製造された架橋ポリマー粒子は、粒子同士の融着が大きくなってしまう結果、活物質間にできる空隙の大きさがその他の架橋性モノマーを用いて製造された架橋ポリマー粒子と比べて明らかに小さいため、活物質の凝集を防ぐ機能が不十分となってしまう旨、釈明している。そして、架橋ポリマー粒子が活物質の凝集を防ぐスペーサの役割をすることにより、サイクル性に優れた電極となることことは、本件明細書の段落【0013】にも記載されるとおりであるから、架橋性モノマーとしてブタジエンを用いて製造した「架橋ポリマー粒子」と、多置換ビニル芳香族化合物等を用いて製造した「架橋ポリマー粒子」とが効果においてどのような違いを奏するのか、発明の詳細な説明には全く説明されていないとすることはできない。 そして、有機バインダーや増粘剤として一般的に用いられているポリマーと、架橋ポリマー粒子とは構造が全く異なるものであり、まして、架橋ポリマー粒子には増粘作用がないから、活物質の凝集を防ぐスペーサの役割をすることにより、サイクル性に優れた電極を提供するという効果は、ブタジエンを含まない架橋性のポリビニルモノマーを用いて製造した架橋ポリマー粒子に特有の効果であると認められるから、上記(ロ)の記載不備に係る異議申立人の主張は、採用できない。 4.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 電池電極 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 炭素質材料を電極活物質とする電池電極であって、電極活物質と架橋ポリマー粒子が有機系バインダーで結着され、 前記架橋ポリマー粒子は、多孔ポリマー粒子あるいは中空ポリマー粒子であり、 前記架橋ポリマー粒子のための架橋性のポリビニルモノマーは、ブタジエンを含まないことを特徴とする電池電極。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明はサイクル性、保存特性、安全性に優れた電池を形成するための電極に関するものである。とりわけ新規な二次電池に適した電極に関するものである。 【0002】 【従来の技術】 近年、電子機器の小型化軽量化はめざましく、それに伴い電源となる電池に対しても小型軽量化の要望が非常に大きい。かかる要求を満足するには従来の一般的な水系電解液を用いた電池では不可能なことから、非水系電池が注目されている。かかる非水系電池は小型、軽量化という点で優れた性能を有しており、リチウム電池に代表される一次電池、さらにはリチウム/二硫化チタン二次電池等が提案されており、その一部については既に実用化されている。 【0003】 しかしながら、かかる非水系電池は高エネルギー密度、小型軽量といった性能面では優れているものの、鉛電池に代表される水系電池に比べ出力特性が要求される二次電池の分野ではこの欠点が実用化を妨げている一つの要因となっている。非水系電池が出力特性に劣る原因は水系電解液の場合イオン電導度が高く、通常10-1Ω-1cm-1オーダーの値を有するのに対し、非水系の場合10-2〜10-4Ω-1cm-1と低いイオン電導度しか有していないことに起因する。 【0004】 かかる問題点を解決する一つの方法として電極面積を大きくすること、即ち薄膜、大面積電極を用いることが考えられる。 【0005】 従来電極の成形方法としては、電極活物質と有機重合体を混合し、圧縮成形する方法が一般的である。かかる方法の場合、絶縁性物質であるバインダーの電極活物質に対する影響が比較的少なく、また用いるバインダーの種類、形状も制限が少ないという利点がある反面、薄膜・大面積の電極を製造することは極めて困難である。 【0006】 一方薄膜・大面積の電極を製造する手法として有機重合体の溶剤溶液に電極活物質を分散した後、塗工乾燥することにより電極を成形する方法が知られている。この方法によれば薄膜・大面積の電極が容易に得られ非常に好都合である反面、絶縁性物質であるバインダーの電極活物質に対する影響が著しく大きく、該電極を電池に組み立てた場合、例えば著しい過電圧の上昇がみられ実用的な方法ではなかった。 【0007】 また、水系のバインダーとして、カルボキシルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩、スターチ等の水溶性ポリマーあるいはブタジエン含量が高く、且つゲル含量も高いスチレン/ブタジエンラテックスが知られている(特開平5-74461)。しかし、水溶性ポリマーは電極活物質の表面に均一に付着するためにバインダー性能に劣り、また、ゲル含量の高いスチレン/ブタジエンラテックスではバインダー性能が十分でないためにバインダー量を多めに使用せざるを得ず、このために電池の性能に問題があった。このように活物質を有機バインダーで結着しただけでは、高性能な電池とくに二次電池用の電極を作ることは困難であった。 【0008】 【発明が解決しようとする課題】 上記の状況をもとに、本発明では炭素質材料を電極活物質とする電池、主に二次電池において、電池特性の優れた電極を提供する。 【0009】 【課題を解決するための手段】 本発明者らは、各種の水系ポリマーラテックスを鋭意検討し、電極活物質とともに架橋ポリマー粒子を有機系バインダーで結着することで、特性が高くとくにサイクル性に優れた電極が得られることを見いだして本発明に到達した。 【0010】 即ち、本発明は、炭素質材料を電極活物質とする電池電極であって、電極活物質と架橋ポリマー粒子が有機系バインダーで結着されていることを特徴とする電池電極である。 【0011】 以下に本発明を詳細に説明する。 【0012】 本発明での架橋ポリマー粒子とは、架橋性のポリビニルモノマー(以下架橋性モノマーという)を2重量%以上、好ましくは5重量%以上使用して重合した架橋粒子である。重合方法には特に制約はなく、乳化重合、懸濁重合、分散重合、ミクロディスパージョン重合等で合成できる。好ましい合成法を例示すると、特開平1-315454が挙げられる。架橋性モノマーとしては、ジビニルベンゼンに代表される多置換ビニル芳香族化合物、あるいはエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートに代表される多価アクリレートあるいは多価メタクリレートなどの二個以上の共重合性二重結合を有する化合物である。なお、ここでブタジエンは架橋性モノマーには含まない。架橋性モノマー以外のモノマーは、これと共重合するモノマーであればよく、具体的にはスチレン、α-メチルスチレン、ブタジエン、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。 【0013】 本発明において、架橋性ポリマー粒子は電池電極形成において、電極活物質同志の間に入り活物質の凝集を防ぐスペーサの役割をし、これによりサイクル性に優れた電極となるものと推察される。また本発明の第二の実施形態である多孔ポリマー粒子あるいは中空ポリマー粒子ではさらに架橋粒子の内部の空孔に電解液成分を吸収含有することにより電池電極の出力特性向上を達成しているものと考えられる。 【0014】 本発明での架橋粒子の粒子径は、0.03μm以上で使用する電極活物質の平均粒子径の1/3より小さいことが好ましく、具体的には0.03〜5μm、さらに好ましくは0.1〜2μmが好適である。また、架橋粒子の形状は球形であることが好ましいが、樹脂を破砕あるいは粉砕して得られる不定形の粒子でも使用可能である。 【0015】 本発明での架橋粒子としては、さらに多孔粒子あるいは中空粒子であるとさらに好ましい。多孔粒子の製法には特に制限はないが、例示すると、架橋性モノマーを含むモノマーと有機溶剤の混合物を懸濁重合あるいはミクロディスパージョン重合することで得られる。多孔粒子のポアサイズは0.01から0.1μmのものが好ましい。中空粒子の製法に特に制限はないが、例示すると特公平4-68324あるいは特開昭63-135409に記載されている方法で合成できる。中空粒子の内孔と外孔の比は0.1〜0.7のものが好ましい。本発明での架橋粒子がさらに多孔粒子あるいは中空粒子であると、サイクル性に優れる電池電極であるほかに、さらに出力特性に優れる電池電極が得られる。 【0016】 本発明では、電極活物質である炭素材料100重量部に対し、架橋粒子は1〜100重量部、好ましくは3〜70重量部、さらに好ましくは5〜50重量部である。100重量部より多ければ活物質の量が相対的に減少して電池性能が低下する。また、1重量部未満であれば、実質的な効果が見られない。 【0017】 本発明では、電極活物質である炭素材料と架橋粒子を結着して電極成分を形成するために、結着剤として有機系バインダーを使用する。有機系バインダーとしてはスチレン/ブタジエンラテックスを代表とするポリマー粒子の水分散体、ポリビニルアルコール、カルボキシルメチルセルロース、メチルセルロース等の水溶性ポリマーの水溶液あるいは低分子量物、さらにはスチレンブタジエンゴム、ニトリルゴム、フッ素ゴム、シリコンゴム等のポリマーの有機溶剤溶液あるいは低分子量物を使用することができる。 【0018】 本発明で用いる炭素質材料の平均粒径は電流効率、塗布混合液の粘度の点で、0.1〜50μm、さらには1〜20μmが好ましい。炭素質材料と架橋粒子と有機系バインダーは、要すればさらに水、溶剤、分散剤、pH調整剤、安定化剤とともに混合、混練りした上で、基材上に塗布、コーティングして電極を形成する。この時、要すれば集電体材料と共に成形しても良いし、あるいは別法としてアルミ箔、銅箔等の集電体を基材として用いることもできる。 【0019】 また、かかる塗布方法としてはリバースロール法、コンマバー法、グラビヤ法、エアーナイフ法等任意のコーターヘッドを用いることができる。 【0020】 本発明の電池電極は水系電池、非水系電池のいずれにも使用しうるが、非水系電池の負極として用いた場合、特に優れた電池性能を得ることができる。 【0021】 本発明の二次電池電極を用いて、非水系電池を組み立てる場合、非水電解液の電解質としては特に限定されないが、一例を示せば、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、CF3SO3Li、LiPF6、LiI、LiAlCl4、NaClO4、NaBF4、NaI、(n-Bu)4NClO4、(n-Bu)4NBF4、KPF6等が挙げられる。また、用いられる電解液の有機溶媒としては、例えばエーテル類、ケトン類、ラクトン類、ニトリル類、アミン類、アミド類、硫黄化合物、塩素化炭化水素類、エステル類、カーボネート類、ニトロ化合物、リン酸エステル系化合物、スルホラン系化合物等を用いることができるが、これらのうちでもエーテル類、ケトン類、ニトリル類、塩素化炭化水素類、カーボネート類、スルホラン系化合物が好ましい。 【0022】 これらの代表例としては、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、アニソール、モノグライム、アセトニトリル、プロピオニトリル、4-メチル-2-ペンタノン、ブチロニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル、1,2-ジクロロエタン、γ-ブチロラクトン、ジメトキシエタン、メチルフオルメイト、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルホルムアミド、スルホラン、3-メチル-スルホラン、リン酸トリメチル、リン酸トリエチルおよびこれらの混合溶媒等をあげることができるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。 【0023】 また、用いる正極材料としては特に限定されるものではないが例示すれば、MnO2、MoO3、V2O5、V6O13、Fe2O3、Fe3O4、Li(1-X)CoO2、Li(1-X)NiO2、LixCoySnzO2、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2、CuF2、NiF2等の無機化合物、フッ化カーボン、グラファイト、気相成長炭素繊維及び/又はその粉砕物、PAN系炭素繊維及び/又はその粉砕物、ピッチ系炭素繊維及び/又はその粉砕物等の炭素材料、ポリアセチレン、ポリ-p-フェニレン等の導電性高分子等が挙げられる。 【0024】 特にLi(1-X)CoO2、Li(1-X)NiO2、LixCoySnzO2、Li(1-X)Co(1-Y)NiyO2等のリチウムイオン含有複合酸化物を用いた場合、正負極共に放電状態で組み立てることが可能となり好ましい組み合わせとなる。 【0025】 さらに、要すればセパレーター、集電体、端子、絶縁板等の部品を用いて電池が構成される。また、電池の構造としては、特に限定されるものではないが、正極、負極、さらに要すればセパレーターを単層または複層としたペーパー型電池、または正極、負極、さらに要すればセパレーターをロール状に巻いた円筒状電池等の形態が一例として挙げられる。 【0026】 【実施例】 以下に実施例にて本発明をさらに詳しく説明する。 【0027】 架橋ポリマー粒子の合成 表1のモノマー組成にて、他の条件は特開平1-315454の実施例1と同様にして、架橋粒子1〜5を得た。なお、架橋粒子1は非架橋のポリマー粒子である。また架橋粒子5は、モノマーとともにn-ヘキサン30部を加えて合成し、ポアサイズ0.05μm、比表面積15m2/gの多孔粒子であった。同じく、表1のNo6のモノマー組成にて、他の条件は特公平4-68324の実施例1と同様にして架橋粒子6を得た。架橋粒子6は外径0.45μm、内孔径0.28μmの単一孔中空粒子であった。なお、表1中、「ST」は「スチレン」を、「DVB」は「ジビニルベンゼン」を、「MMA」は「メチルメタアクリレート」を、「TA」は「イタコン酸」を、「MA」は「メタクリル酸」を意味する。 【0028】 【表1】 【0029】 電極の形成 ニードルコークス粉砕品(平均粒径12μm)100重量部と架橋粒子(1)〜(6)を10重量部、有機系バインダーとしてスチレン/ブタジエンラテックス(日本合成ゴム(株)製#0545)を固形分で6重量部、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース水溶液を固形分で1重量部、0.1Nアンモニア水1重量部を加え、混合、脱泡して電極用塗工液とした。10μmニッケル箔を基材としてこの塗工液をロールコーターで150g/m2で塗布、乾燥して厚さ145μmの負極電極を得た。一方平均粒径2μmのLi1.03Co0.95Sn0.042O2100重量部とグラファイト粉7.5重量部、アセチレンブラック2.5重量部を混合し、フッ素ゴムのメチルイソブチルケトン溶液(濃度4重量%)を50重量部加え混合攪拌し塗工液とした。市販Al箔(厚さ15μm)を基材としてこの塗工液を290g/m2で塗布乾燥し、厚さ110μmの正極電極を得た。 【0030】 この負極、正極電極を0.9×5.5cmに切り出してリチウム二次電池を組み立てた。これをそれぞれ比較例1、実施例1〜5とする。また比較例2は、架橋粒子なしで形成させた電極を用いて組み立てた電池である。この電池を4.2Vまで充電し、10mAで2.5Vになるまで放電させるサイクルを繰り返した。これら電池の充放電サイクルにおける過電圧、電流効率、充放電サイクルでの容量保持率、促進保存条件下での容量変化を表2に示す。 【0031】 【表2】 【0032】 【発明の効果】 本発明の電極を用いた電池は電流効率に優れ、容量保持率(サイクル性)に優れ、さらに過電圧も低く、高温保持性能も優れ、近年社会的ニーズの大きい小型軽量で性能の優れた電池を得るために、極めて有用である。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2005-04-07 |
出願番号 | 特願平7-74542 |
審決分類 |
P
1
651・
531-
YA
(H01M)
P 1 651・ 121- YA (H01M) P 1 651・ 534- YA (H01M) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 吉水 純子、冨士 美香 |
特許庁審判長 |
中村 朝幸 |
特許庁審判官 |
酒井 美知子 原 賢一 |
登録日 | 2003-04-04 |
登録番号 | 特許第3414039号(P3414039) |
権利者 | JSR株式会社 |
発明の名称 | 電池電極 |
代理人 | 布施 行夫 |
代理人 | 井上 一 |
代理人 | 布施 行夫 |
代理人 | 大渕 美千栄 |
代理人 | 井上 一 |
代理人 | 大渕 美千栄 |